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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ワ6214商標権侵害差止請求事件 判例 商標
平成18ワ5272損害賠償請求事件 平成18ワ8460損害賠償請求事件 判例 商標
平成15ワ11661商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
平成15ワ1521商標権侵害差止請求事件 判例 商標
平成13ワ9153商標権侵害差止請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  識別機能 /  指定商品 /  商品の同一性 /  類似性(類否判断) /  先使用(32条) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  出所の混同 /  警告 /  差止 /  立証責任 /  継続 / 
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事件 平成 20年 (ワ) 2149号 商標権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件
大阪市
原告株式会社エコリカ
訴訟代理人弁護士溝上哲也 岩原義則 江村一宏 京都府宇治市
被告有 限会社人と地球社
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2008/06/10
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告による別紙原告標章目録記載の標章を付したリサイクルボックスを使用した使用済みプリンター用インクカートリッジの再生及び当該再生を呼びかける別紙広告目録記載の広告につき,被告が,商標第4730609号及び第4520130号の商標権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の,その余を被告の各負担とする。
事実及び理由
全容
第1当事者の求めた裁判1請求の趣旨(1)主文第1項と同旨(2)被告は原告に対し,10万円及びこれに対する平成20年2月26日(訴状送達の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2(3)訴訟費用は被告の負担とする。
(4)(2)につき仮執行宣言2請求の趣旨に対する答弁(1)原告の請求をいずれも棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。
第2当事者の主張1請求原因(1)当事者原告は,インクカートリッジのリサイクル事業を行っている株式会社であり,被告は,書籍の出版及びその販売等を目的とする有限会社である。
(2)差止請求権不存在確認についてア被告の有する商標権被告は,下記(ア),(イ)の商標権(以下,併せて「被告商標権」といい,その登録商標を「被告商標」という。また,被告商標を各別に指称するときは,それぞれ「被告商標(ア) 「被告商標(イ)」という )を有してい 」 。
る。
(ア)登録番号第4730609号人と地球HITOTOCHIKYU出願日平成13年10月2日登録日平成15年12月5日指定商品区分第16類指定商品印刷物(書籍を除く)(イ)登録番号第4520130号人と地球(SP)HITO(SP)TO(SP)CHIKYU出願日平成12年12月5日登録日平成13年11月9日3指定商品区分第16類指定商品雑誌,書籍,絵はがき,カレンダーイ原告の行為原告は,従来から 「人と地球に貢献します」という文言を含む別紙原 ,告標章目録記載の標章(以下「原告標章」という )を付したリサイクル 。
ボックスを使用して,使用済みプリンター用インクカートリッジの再生を行っており(甲3,4 ,平成19年9月3日,原告標章を用いて,上記 )再生を一般消費者に呼びかける目的の別紙広告目録記載の一面広告(以下「本件一面広告」という )を朝日新聞に掲載した(甲5 。 。 )ウ被告の警告と原告の回答等(ア)被告は,平成17年5月2日,原告に対し,ファックス文書により,), 被告商標権を侵害することのないように求める通知を行った上(甲6同年11月23日,ファックス文書により 「人と地球」の文字を含む ,インクカートリッジ等のリサイクルボックス(以下「本件リサイクルボックス」という )を見たとして,被告商標権を侵害する旨の警告を行 。
った(甲7 。)(イ)原告は,平成17年11月30日,被告に対し,内容証明郵便により,被告商標と原告標章では文言も指定区分も異なるため,原告標章は被告商標権を何ら侵害しておらず,被告の主張に根拠がないことを明確に伝えたが(甲8 ,以降も,被告による根拠のない警告が繰り返され )ていた(甲9ないし14 。)(ウ)被告は,平成19年9月4日,原告に対し,ファックス文書により,本件一面広告について,原告標章に「人と地球」の文字が含まれており,それが被告商標権を侵害すると主張して,6か月以内に原告標章を修正するように請求した(甲15 。)(エ)原告は,被告に対し,平成19年10月1日付けの内容証明郵便に4より,原告標章は被告商標権を何ら侵害しておらず,かかる被告の要求には根拠がないという原告の見解を伝えた上で,同月15日までに,被告の主張を具体的根拠を示すか,さもなくば主張を撤回するように申し)。 伝え,同内容証明郵便は同月2日に被告に到達した(甲16の1・2しかし,被告は,原告に対し,何ら回答を示さなかった。
(3)損害賠償請求についてア被告の執拗な警告の繰返し(ア)被告は,平成17年5月2日,原告に対し,原告が被告商標権を侵害しないように求めるファックス文書を送信してきた(甲6 。)被告は,同年11月23日にも,原告に対し,ファックス文書により,原告標章が表示された本件リサイクルボックスを見たとし,原告の商品が粗悪品であると侮辱した上で,被告が粗悪品販売会社と提携があるよ)。 うに思われると困るとして,再度,商標権侵害を主張してきた(甲7これに対し,原告は,同月30日,被告に対し,前記(2)ウ(イ)のとおり,被告商標と原告標章とでは文言も指定区分も異なるため,被告の商標権侵害の主張は根拠のないものであることを内容証明郵便により明確に伝え,以降,原告に対して違法な侵害警告や信用毀損行為等をしないように警告した(甲8 。)(イ)原告の警告にもかかわらず,被告は,平成17年11月30日,原告に対し,ファックス文書により,商標権侵害の具体的根拠を示さないまま,今度は,原告の上記警告自体が不法行為であると主張してきた(甲9 。)これに対し,原告は,同年12月6日,被告に対し,被告の主張の具体的根拠を明らかにするように改めて伝え,被告の抽象的な主張の繰返しが原告に対する営業妨害に当たる旨,再度,警告した(甲10 。)(ウ)しかし,被告は,平成17年12月6日,ファックス文書により,5前回同様の抽象的主張を繰り返した(甲11の1・2 。それだけでな )く,原告が文書は代理人事務所宛に送付するように伝えてあるにもかかわらず,被告からのファックスは,直接原告本人に対し送付されている。
この点についての被告の言い分というのは,被告自身が作成し送付してきた同年11月30日付けファックス文書の宛先表示が「株式会社エコリカ」ではなく「エコリカ株式会社」と誤っていたところ(甲9 ,同)年12月6日にこれに対して原告代理人が回答したため,被告としては原告代理人が「株式会社エコリカ」の代理人か 「エコリカ株式会社」 ,の代理人か不明である,というものであった(甲11の2 。)これに対し,原告は,平成17年12月13日,被告に対し,被告の主張の具体的根拠を明らかにするか,主張を撤回するように催告した(甲12 。)(エ)しかし,被告は,原告に対し,平成17年12月23日付け及び平成18年12月6日付けファックス文書により,何ら具体的根拠を示さないまま,抽象的な商標権侵害の主張を繰り返した(甲13,14 。)(オ)さらに,被告は,平成19年9月4日,原告に対し,ファックス文書により,前記(2)ウ(ウ)のとおり,商標権侵害の警告をした(甲15 。)これに対し,原告は,被告に対し,平成19年10月1日付けの内容証明郵便(同月2日に到達)により,前記(2)ウ(エ)のとおり,同月15日までに被告の主張の具体的根拠を示すか,さもなくば主張を撤回するように警告したが(甲16の1・2 ,被告は何ら回答を示さなかっ )た。
イ原告の損害以上のとおり,原告は,被告のためにも訴訟を回避すべく,再三,被告に対する猶予を与え続けたにもかかわらず,被告の原告に対する度重なる6警告文書の送付により,原告は訴訟提起を余儀なくされた。このような被告の行為は,原告に対する不法行為を構成する。
原告代表者,同取締役らは,知的財産訴訟に不慣れで必要な法律知識に乏しく,被告の上記妨害行為をやめさせるには弁護士に委任せざるを得ないことは明白であり,その弁護士費用の合計は,10万円を下らない。これは,被告の上記不法行為によって生じた損害に当たる。
(4)結語よって,原告は,原告による原告標章を付した本件リサイクルボックスを使用した使用済みプリンター用インクカートリッジの再生及び当該再生を呼びかける本件一面広告につき,被告が,被告商標権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求めるとともに,被告に対し,民法709条の不法行為に基づく損害賠償金10万円及びこれに対する遅滞となった後であることが明らかな訴状送達の日である平成20年2月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2請求原因に対する認否及び被告の主張(1)原告の上記主張は争う。ただし,甲第6,第7,第9,第11号証の1・2,第13号ないし第15号証が,被告が原告に対しファックス送信した文書であることは認める。
(2)被告が上記文書をファックス送信したのは,原告標章の中に,被告の社名である「人と地球社」の「人と地球」という文字が含まれていて紛らわしいので,原告が原告標章を使用することは好ましくないと考えたためである。
被告は,リサイクルに関して原告と全く反対の考えをもっており,安易にリサイクル運動をしないことを社是としている。原告が「人と地球」という文字を含む原告標章を使用すると,原告を被告と誤認されてトラブルが発生する可能性があるので,上記文書を送付したのである。
ただし,原告標章が被告商標権を侵害するかどうか法的なことは被告には7わからないので,裁判所に判断してもらうべきだと考えている。
(3)その他の主張は,別紙答弁書記載のとおりである。
第3当裁判所の判断1当事者について請求原因(1)(当事者)の事実は,証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によって認められる。
2差止請求権不存在確認請求について(1)請求原因(2)ア(被告の有する商標権)の事実は,証拠(甲1及び2の各1・2)により,同イ(原告の行為)の事実は,証拠(甲3ないし5)及び弁論の全趣旨により,それぞれ認められる。
(2)同ウ(被告の警告と原告の回答等)については,甲第6,第7,第9,第11号証の1・2,第13ないし第15号証のファックス文書を被告が原告に対し送付した事実は当事者間に争いがなく,この事実に,証拠(甲6ないし16〔枝番を含む )及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認 〕められる。
ア被告は,平成17年5月2日,原告に対し 「当社(被告)は,貴社 ,(原告)が当社商標を侵害することのないように求めます」と記載したファックス文書(甲6)を原告に送信し,次いで,同年11月23日,再度,以下のとおり記載したファックス文書(甲7)を原告に送信した。すなわち 「当社(被告)は,2005年5月2日に,エコリカ株式会社へ貴社 ,(原告)が当社の商標権を侵害することのないように伝達しました。本日,ミドリ店にて 『人と地球』の文字を含むインクカートリッジ等の貴社リ ,サイクルBOXを見ました 『当社への商標権侵害』とは,当社が商標を 。
使用するに妨害になる行為を含み,また,当社が粗悪品のリサイクル商品を販売している業者と提携があるかのような誤解を生じせしめる表示であります。当社は貴社の不法行為意思があるものと考えており,貴社の『人8と地球』なる文字を使用した印刷物等によっては,トラブルが起こるものと考えており,懸念しており 」と。,イ原告は,被告に対し,平成17年11月30日到達の「警告書」と題する内容証明郵便(甲8の1)により,原告標章は被告商標とは類似せず,指定商品も異ることから,原告標章の使用は被告商標権を侵害していないから,被告の商標権侵害の主張は,明確な法的根拠がないにもかかわらずされているもので,これ自体不法行為による損害賠償等の法的責任が生ずるものであって,今後このような違法な侵害警告や信用毀損行為等をしないよう警告する旨回答した。
これに対し,被告は,以下のとおりファックス文書を送信し続けた。
(ア)平成17年11月30日付けファックス文書(甲9)上記ファックス文書(甲9)には,原告の上記内容証明郵便(甲8の1)の「内容を検討しましたが,貴社(原告)は当社(被告)がFAXにて言及していない内容にまで踏み込んでおり,…まったく当を得ていない内容であると当社は考えており ,被告が上記ファックス文書(甲 」6,7)で「伝達したことは当然のことでありますので,当社としては一切,貴社への不法行為責任が成立するとは考えていません。なお,当社は貴社により,当社商標が使用できなくなった場合には,貴社の当社への不法行為によるものであるとみなします 」旨が記載されている。 。
(イ)平成17年12月6日付けファックス文書(甲11の1・2)上記(ア)のファックス文書(甲9)を受けて,原告訴訟代理人は,原告代理人名義の「警告書」と題する平成17年12月6日付け書面に,被告の主張は「法的根拠を欠く抽象的な主張の繰り返し」であり 「そ,れ自体,当社(原告)の営業妨害に該当しますので,その旨警告します 」と記載し,これを被告に送付したところ,被告がその返信として 。
送信した上記ファックス文書(甲11の1・2)には 「貴社(原告) ,9代理人の主張が当を得ているかどうかは裁判所が判断することであると思います「当社(被告)は貴社代理人が当社に対して,同文書の内 。」容を伝達してくること自体が当社への不法行為ではないのか,と考えており,公正なる裁判所の判断をあおぐ必要があります 」と記載されて 。
いる。
(ウ)平成17年12月23日付けファックス文書(甲13)上記(イ)のファックス文書(甲11の1・2)に対し,原告訴訟代理人は 「貴社(被告)からは,未だに当社(原告)の行為が商標権侵害 ,に該当することについて具体的な根拠を明示していただいていませんので,これを明示されるか,商標権侵害の主張を撤回されるか,回答されるよう催告します 」と記載した「通知書」と題する平成17年12月 。
13日付け書面(甲12)を被告に送付したところ,被告は,上記甲第11号証の1・2で伝達したような見解を有している旨記載したファックス文書(甲13)を送付した。
(エ)平成18年12月6日付けファックス文書(甲14)その後しばらく原告・被告間の連絡は途絶えたが,上記(ウ)のやり取りから約1年を経過した上記ファックス文書(甲14)で,被告は,「当社(被告)は貴社(原告)に対して,2005年12月6日にも,当社商標を侵害しないように求める連絡をしました。当社商標の一般化をさせる方法で,当社商標を使用できなくすることは当社への詐害行為です 」と記載して,原告に送信した。 。
(オ)平成19年9月4日付けファックス文書(甲15)さらに,上記(エ)のファックス文書(甲14)の送信をした後約9か月を経過した上記ファックス文書(甲15)で,被告は 「2007年 ,9月3日朝日新聞掲載の御社(原告)広告(判決注・本件一面広告)を見ました。人と地球なる文字を含む同広告に,A社のような広告を打つ10ことによる当社(被告)商標と混同を生じる可能性のあるA社みたいな広告の文言中の人と地球を除去するか,出所の混同を生じた場合によるトラブルの除去をするための行為をすることによる当社のトラブルの経費をA社みたいに御社に請求することになるので,6ヶ月以内に当社へ自分のための商標であることを示し,出所の混同を除去するための商標を検討の上,修正してください 」と記載して,原告に送信した。 。
これに対し,原告は,原告訴訟代理人名義の平成19年10月2日到達の内容証明郵便(甲16の1)で,被告に対し,同月15日までに代理人事務所宛に,今後同様の警告をしない旨を文書で回答するよう催告し,上記期限までに回答をしないか,これまでと同様の対応を継続する場合には,被告の主張が根拠がないことの確認と損害賠償を求めて訴訟提起に及ばざるを得ない旨を記載して,被告に送付した。
これに対する被告の回答はなかった。
(3)上記(1),(2)の事実によれば,原告が,インクカートリッジ回収ボックスに原告標章を表示し,また,本件一面広告に原告標章を表示したことについて,被告が,原告標章の上記態様での使用は被告商標権を侵害する旨を含む主張を原告に対して行い,これを否定する原告との間で何回かファックス文書等のやり取りがなされたものの,この点について原告・被告間で決着するには至らず,依然として被告の上記主張は維持されていることが認められ,現に本件訴訟においても,商標権侵害の有無は裁判所によって判断されるべきである旨主張している。以上によれば,原告との間で原告標章の上記使用が被告商標権を侵害するか否かについて原告と被告との間で争いがあるものと認められる。したがって,被告が原告に対し,被告商標権に基づく原告標章の上記態様による使用の差止請求権を有するかを確定する法律上の利益(確認の利益)がある。
(4)そこで,被告が原告に対し被告商標権に基づき,原告標章の上記態様で11の使用の差止請求権を有するか否かについて検討する。
被告が原告に対し上記差止請求権を有するというためには,被告商標の指定商品と同一又は類似の商品に被告商標と同一又は類似の商標を付し,あるいは,指定商品に関する広告に被告商品と同一の標章を付して展示するなどしたこと(商標法25条,2条3項,37条)について,被告に主張立証責任があるところ,被告は,法的なことはよくわからないので裁判所の判断に任せるとして,具体的な主張立証をしない。しかし,被告が被告商標権を有すること,原告が原告標章を上記使用態様で使用しているという事実関係は,本件口頭弁論に顕れているので,被告がこれを援用していないとしても,上記事実を証拠に基づいて認定することは何ら妨げられないというべきである。
そこで,まず,指定商品の同一性又は類似性について検討する。被告商標(ア)は第16類「印刷物(書籍を除く 」を指定商品とし,被告商標(イ)は )第16類「雑誌,書籍,絵はがき,カレンダー」を指定商品とするものである。他方,原告標章は,本件リサイクルボックス及び本件一面広告に表示されているものである。本件リサイクルボックスは,第16類「印刷物(書籍を除く 」や「雑誌,書籍,絵はがき,カレンダー」に当たらず,これに類 )似する商品でもないというべきである。また,証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば,本件一面広告は,リサイクルボックスを使用した使用済みプリンター用インクカートリッジの再生を一般消費者に呼びかけることを目的として新聞に掲載されたものであって,原告の特定の商品に原告標章が付されて広告宣伝がなされたものではない。したがって,上記いずれの使用態様においても,原告標章が第16類「印刷物(書籍を除く「雑誌,書籍,絵 )」はがき,カレンダー」と同一又は類似の商品に付されたものとはいえない。
もっとも,本件リサイクルボックスを「印刷物」又はこれに類似する商品と見得る余地が全くないわけではない。そこで,以下,原告標章と被告商標との類否についても判断する。
12被告商標(ア)は,標準文字で「人と地球HITOTOCHIKYU」と書してなるものであり,被告商標(イ)は 「人と地球(SP)HITO(S ,P)TO(SP)CHIKYU」と書してなるものであって,いずれも「ひととちきゅう」との称呼を生じ 「人と地球」すなわち,人間と地球との共生関係 ,というような観念を生じさせるものである。
他方,原告標章は,木の幹を模した正方形状の略四角形の右上部に木の幹から右上に伸びるように木の枝と葉を模した絵柄が描かれ,木の幹部分に横書き手書き状の白抜き文字で2行にわたり「eco 「rica」が縦に並 」列して記載され,その上部に「人と地球に貢献します 」と丸ゴシック体で 。
小さく横書きで書されていることが認められる。原告標章の上記使用態様によれば,被告標章の文字列を含む「人と地球に貢献します 」なる部分は, 。
原告標章の中でも比較的小さく表示され,しかも,環境保護のためにリサイクルを推進する原告の立場を表現する記述的表示というべきものであって,それ自体は商品主体の識別力が高いものとはいえない。これに対し,原告の社名でもある「eco 「rica」と2行にわたり白抜きで比較的大きく 」表示された木の幹の部分の商品主体の識別力が相対的に高いと認められ,むしろこの部分が原告標章の要部であると認められる。したがって,原告標章は,その要部である「えこりか」との称呼を生じるものであり,被告商標とは,外観,称呼,観念とも異なり,被告商標と類似するということはできない。
(5)そうすると,原告標章を上記使用態様で使用することは,被告商標権を侵害するものではないというべきである。したがって,被告は原告に対し,被告商標権に基づく原告標章の上記使用を差し止める権利を有しないことが明らかである。被告のその余の主張を検討しても,上記判断を左右するものではない。
3損害賠償請求について13(1)原告は,被告のためにも訴訟を回避すべく,再三,被告に対する猶予を与え続けたにもかかわらず,被告の原告に対する度重なる警告文書の送付により訴訟提起を余儀なくされたのであって,被告のこのような行為は,原告に対する不法行為を構成すると主張する。しかし,被告は,被告商標に関する商標権者なのであるから,被告商標権を侵害する者に対し,その差止めを求める権利を有することは当然であり,被告による上記警告文書の送付自体は,少なくとも外形上は被告商標権に基づく権利行使というべきものであって,それ自体が直ちに権利行使を受けた者に対する不法行為を構成するということはできない。すなわち,権利行使の究極の形態ともいうべき訴えの提起は,裁判を受ける権利(憲法32条)の保障の見地から,原則として正当な権利行使として適法な行為とみるべきであって,提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,同人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限り,相手方に対する違法な行為となるものというべきである(最高裁昭和60年(オ)第122号同昭和63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁 。訴訟提起に至らない段階での権利主張においても,上記 )趣旨は十分尊重されなければならず,不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為(競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布する行為)にわたるものでない限り,上記判断基準に即してその違法性の有無を判断すべきである(本件においては,被告が上記不正競争行為を行ったものではなく,原告もその旨の主張はしていない。。)(2)そこで,本件における被告の行為の違法性の有無について検討する。上記のとおり,被告は,被告商標に関する商標権者なのであるから,被告商標権を侵害する者に対し,その差止めを求める権利を有するところ,一般に,他人が,登録商標の一部を構成要素とする標章(結合標章)を商品又は役務14に使用等する場合,それが当該登録商標と同一又は類似するものであって,その使用等が当該登録商標に係る商標権を侵害するものとして他人にその差止めを求め得るか否かの判断は,上記2(4)で説示したとおり登録商標の一部を主に商品主体識別機能を果たす要部と見得るか否かなど比較的高度な法律知識を要するものといえる。本件における法的評価としては,上記2(4)の説示のとおり,原告標章の使用等が被告商標権を侵害しないのであるが,原告標章は 「人と地球」の文言を含むものであって,商標法に関する知識 ,に乏しい通常人がその部分だけをみれば,原告標章が被告商標を使用するものである,すなわち原告標章の上記態様での使用が被告商標権を侵害するとみることも無理からぬところがあるというべきである。また,上記権利主張(商標権侵害警告)を受けた原告も,原告標章の使用が被告商標権を侵害することの主張立証責任が被告にあるとはいえ 「原告標章は被告商標とは類 ,似せず,指定商品も異なることから,原告標章の使用は被告商標権を侵害していない」と,結論のみに等しいとも見える回答に終始しているところ,原告は,法律専門家である弁護士を代理人として被告との交渉に当たらせていたのであるから,商標権侵害の意味を誤解している疑いが強い被告に対し,原告標章の上記態様での使用が被告商標権を侵害するものではないことの具体的な根拠を本判決が上記に説示した程度に具体的に説明しておくことも可能であったと考えられる。そして,そのような対応をとっておれば,被告の応答も異なっていた可能性があったことも否定できないというべきである。
また,被告は,原告標章の使用が被告商標権を侵害するとの主張のほかに,被告の社名も「有限会社人と地球社」というものであり 「人と地球」とい ,う文字列を含む原告標章が使用されると,原告が被告と混同されるおそれがあるとの主張もしている。これは,必ずしも法律上確たる根拠を伴う主張とはいい難いところもあるが,その趣旨自体は理解し得るものであり,それ自体権利行使に藉口した不当な営業妨害行為と評価できるものではない。
15その他,原告は,被告の警告行為は執拗である旨主張するが,上記認定のとおり,被告の原告に対する警告行為は,平成17年中は4回に及んだものの,これは原告(訴訟代理人)との文書のやり取りの一環として行われたものであるし,その後はしばらく止み,同年中の最後の警告行為から1年近く経過した平成18年12月6日に1回行われ,その次は,それからさらに約9か月経過した平成19年9月に1回なされたのみである。その回数等からすれば,被告の原告に対する警告行為が社会的相当性を逸脱するような執拗さで行われたとはいえない。また,被告の上記警告の内容,態様も特に威迫的なものではなく,比較的穏当というべきものである。その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,被告の上記警告行為は,権利行使に藉口した社会的相当性を逸脱する違法なものということはできず,原告にある程度の煩わしさを感じさせるものであったとしても,企業としての受忍限度の範囲内のものというべきであって,これをもって原告に対する民法709条の不法行為を構成するということはできない。
(3)以上のとおり,被告に対し,弁護士費用相当の損害賠償を求める原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。
4結論よって,原告の本件請求のうち,商標権に基づく差止請求権不存在確認を求める請求は理由があるから認容し,不法行為に基づく損害賠償を求める請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中俊次