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事件 平成 20年 (行ケ) 10415号 審決取消請求事件
原告株 式会社フィルモア
同訴訟代理人弁理士牛木理一
被告株 式会社黒雲製作所
同訴訟代理人弁護士吉澤敬夫 牧野知彦
同弁理士岡崎信 太郎新井全 近藤実 野口和孝
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/08/27
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2007-890119号事件について平成20年9月30日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1の手続において,原告の本件商標に係る商標登録を無効にすることを求める被告の本件審判請求を認めた特許庁の別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3のとおりの取消事由があると主張して,その取消を求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本件商標(甲1の1,2)商標登録番号:第4715753号商 標 の 構 成:別紙本件商標のとおり指 定 商 品:第15類「米国カリフォルニア州製のギター」出願日:平成10年4月28日(商願平10-35356号)査定日:平成15年6月13日設 定 登 録 日:平成15年10月10日(2)本件審判請求審判請求日:平成19年7月18日(無効2007-890119号)本件審決日:平成20年9月30日本件審決の結論:登録第4715753号の登録を無効とする。
原告への審決謄本送達日:平成20年10月10日2本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,要するに,本件商標は,本件商標の登録出願時はもとより,その査定時から現在においても継続して,モズライト・ギターを表示するためのものとして我が国の音楽関連の専門家,愛好者の間に広く認識されている別紙引用商標記載の引用商標1及び引用商標2(以下,引用商標1及び2を併せて「引用商標」という。)と同一又は類似の商標であり,また,その指定商品は引用商標が使用される商品と同一又は類似であると認められるから,本件商標の登録は,商標法(以下「法」という。)4条1項10号に違反してされたものであって,法46条1項の規定により無効である,というものである。
3取消事由(1)被告が正当な利害関係を有しないこと(取消事由1)(2)法4条1項10号の解釈の誤り(取消事由2)(3)法4条1項10号に係る周知事実の認定の誤り(取消事由3)なお,取消事由に関連して以下の判決等が存在する。
ア東京高裁平成14年(行ケ)第283号同年11月28日判決(乙5。以下「別件判決1」という。)原告が,被告を被請求人として,被告が登録を有する別紙被告商標記載の商標(以下「被告商標」という。)の登録を無効とすることを求めた商標登録無効審判(無効2000-35661号事件)の請求(以下「別件審判請求1」という。)について特許庁がした法4条1項10号に該当することを理由として被告商標につき指定商品中「楽器,演奏補助品,蓄音機,レコード」についての登録を無効とした審決(甲62。以下「別件審決1」という。)に対し,被告を原告,原告を被告として,その取消しを求める審決取消請求事件(以下「別件訴訟1」という。)に係るものであって,被告の請求が棄却された。
イ東京高裁平成14年(行ケ)第497号平成15年3月3日判決(甲64。
以下「別件判決2」という。)原告代表者であるAが,被告を被請求人として,法51条1項に基づき被告商標を取り消すことを求めた商標登録取消審判(平成10年審判第30446号)の請求について特許庁がした同項を適用して被告商標の登録を取り消すとした審決(甲63。以下「別件審決2」という。)に対し,原告を被告,被告をAとして,その取消しを求める審決取消請求事件(以下「別件訴訟2」という。)に係るものであって,被告の請求が棄却された。なお,別件判決2は,最高裁平成13年(行ヒ)第7号平成14年9月17日第三小法廷判決・裁判集民事第207号155頁によって差し戻されたことによる差戻審における判決である。
ウ東京地裁平成19年(ワ)第5022号同年10月25日判決,知財高裁平成19年(ネ)第10094号平成20年8月28日判決,最高裁平成20年(オ)第1580号・同年(受)第1908号同年12月16日決定(乙1〜3)原告が,被告ほか1名に対し,本件商標に基づき被告商標等の使用差止め等を求めた商標権侵害差止等請求事件(以下「別件侵害訴訟」という。)に係るものであって,原告の請求が棄却された。
第3当事者の主張1取消事由1(被告が正当な利害関係を有しないこと)について〔原告の主張〕(1)被告が本件審判の請求をした理由は,セミー・モズレー又は同人の関係会社がかつて製造・販売して周知になっていた「モズライト・ギター」という当該他人の周知商標を盾にして本件商標を無効にすれば,この周知商標と同一の被告商標を付したギターを製造・販売してきた被告が安心してその製造・販売を継続できるとして,それが被告の利益となると考えたからであった。
被告は,セミー・モズレーが生存し,かつ,同人の関係会社が存続していた当時,被告商標の登録(登録第1419427号)を有し,これを使用して劣悪な品質のモズライト・ギターを製造していたが,セミー・モズレーからも忌み嫌われていた。
さらに,被告は,セミー・モズレーとは全く無関係の有限会社日本モズライトという会社を設立して,その登録商標を付したギターの製造・販売をしていた。そのような被告が以上のような理由からした本件審判の請求は,登録商標について法的妥当性のある利害関係人からの審判請求ということができるものではなく,無効審判の請求をすることができる者の範囲を特に制限していない制度の悪用ということができる。
本件審決は,本件商標が法4条1項10号に該当することを理由に登録を無効としたが,これは,アンクリーンハンド(汚い手)を持った被告に漁夫の利を与えるものであって,法的正義に反する判断である。
(2)なお,別件判決1は,法4条1項10号を適用して被告が登録を受けていた被告商標を無効としたものであったが,同項の適用をめぐる当事者相互の利害関係は,本件訴訟と別件訴訟1とでは全く異なる。別件判決1は,モズライト・ギターの創業者であるセミー・モズレーが,存命中,米国においてモズライト・ギターの製造を行って我が国へも輸出していた当時に,被告が被告商標の商標権者として,別件審決1の取消しを求めて提訴したものであったが,その当時のAの立場は,かつてセミー・モズレーからモズライト・ギターのビンテージモデルの品質を維持して製造する技術を有する者はAしかいないと太鼓判を押され,平成4年(1992年)5月に再興されたモズライト・ギターの製造工場であるアーカンソー州ブーンビル所在のユニファイド・サウンド・アソシエーション社(以下「ユニファイド社」という。)との間でモズライト40周年記念モデルの製造に係る契約を締結し,同年8月のセミー・モズレーの死後は,同工場に入り製造に協力していたものであって,セミー・モズレーとの関係では,被告とAとでは雲泥の差があったからである。原告が被告商標についてした別件審判請求1は,セミー・モズレーの遺志を守り,同人が創設したモズライト・ギターの品質を維持・承継することによって需要者の利益を保護する手段として必要であったのに対し,被告が本件商標についてした本件審判請求は,「ベンチャーズ・モデル」の品質ないし音質にあこがれる我が国の需要者の利益を保護するという立場からではなく,専ら被告が被告商標の登録を有していた時期から続いている被告自身の私益を守る必要からされたものである。
(3)以上のとおり,本件において,被告は,本件商標に対して法的正義に反し,かつ,衡平の原則に反して専ら自己利益の保護のために本件無効審判を請求したものであって,これは権利の濫用であり,原告との間で,本件商標登録を無効にすることに関し,正当な利害関係を有しないと解されるべきものである。
〔被告の主張〕(1)被告は,原告から別件侵害訴訟を提起された者であるから,権利関係の存否の確定について,原告と相対立し,法律上,正当な利害関係を有する者である。
なお,原告は,被告がセミー・モズレー又は同人の関係会社がかつて製造・販売していた「モズライト・ギター」という他人の商標(以下,引用商標を含む,セミー・モズレー又は同人の関係会社が製造・販売していたモズライト・ギター等に付されていた各商標を総称して「モズレー商標」ということがある。)を付してギターを販売するという私益を図るために本件審判請求をしていると主張するが,被告は,自社商品を被告製であることを明らかにして販売しているのに対し,原告は,原告の商品をモズライト・ギターの復刻品ないしリイシュー品と位置付け,「真のモズライト」「本物のモズライト」等と呼び,あたかもセミー・モズレーが設立したモズライト社が製造した物であるかのように印象付けて需要者に出所の誤認を意図的に生じさせて商品販売をしている。また,ギターの品質についても,被告製品は原告製品に勝るものである。
また,原告は,Aがセミー・モズレーと親しかったかのような主張をし,被告に審判請求人としての利害関係を認めないことが法的正義にかなうなどと主張するが,Aとセミー・モズレーとは,かつて1年間だけ代理店とメーカとしての関係があったというだけで,両者にそれ以上の密接な関係が存在したことを示す客観的な証拠は存在しない。そればかりか,Aは,その後,ユニファイド社の一代理店としての地位さえも喪失し,さらにその後,A及び原告は,引用商標の正当な承継者でもないのに,引用商標の持つ顧客吸引力を勝手に利用し,あたかも真正なモズライト・ギターを販売しているかのような振る舞いによって需要者を欺いているものである。
(2)そもそも,法4条1項10号に基づく登録の無効を主張することができる者として,被告の主張するような立場の者を除く趣旨が法に規定されているわけではない上に,モズレー商標の顧客吸引力を勝手に利用している原告が,その非を免れることも許されるものではなく,原告の主張には理由がない。
2取消事由2(法4条1項10号の解釈の誤り)について〔原告の主張〕(1)法4条1項10号の立法趣旨は,未登録の商標であっても,その使用によって商品又は役務のグッドウィル(信用)が形成されているときは,このような使用の事実にかんがみ,その後に出願された商標を排除することを目的としている。
つまり,信用を獲得した商標の現実の使用者が,先願に基づいて登録した者の権利行使によりその使用の中止を余儀なくされるなどの事態を防止し,商標の登録主義の弊害を是正することを目的としている。
(2)しかるところ,原告と被告とでは,モズライト・ギターに対するその背景事情が全く異なる。
被告商標の出願がされた昭和47年6月22日の時点では,我が国において米国法人のベンチャーズモズライト・インクによる昭和42年3月20日設定登録に係る商標登録第736316号の「MOSRITE」商標が有効に存続していて,また,セミー・モズレーも生存中で,米国においてモズライト・ギターを製造していた。当時は,モズレー商標の周知性がまだ存在していた結果,別件訴訟1において,法4条1項10号が適用されて被告商標の登録が無効となったのは当然であった。
これに対し,本件商標の出願時には,セミー・モズレーは死去し,同人の関係会社も存在しておらず,新規ギターの製造・販売は不可能であったのであるから,モズレー商標は現実に使用されておらず,我が国の楽器市場に供給されていなかったので,モズレー商標の周知性は過去のものとして既に消滅している。過去にセミー・モズレーが手作りしたモズライト・ギターは,骨とう品としての価値を有しても,一般市場に流通しているものではなく,現実の演奏で使用されて能力を発揮することは期待できないものであるから,これに付されたモズレー商標は,法4条1項10号における保護の対象外となっている。
また,Aとセミー・モズレーとの緊密良好な信頼関係及び平成4年(1992年)5月におけるAとユニファイド社との間のモズライト40周年記念モデル製造契約締結の事実にかんがみれば,原告の立場は,セミー・モズレーのグッドウィルを生かすために,それを承継することに努めるとともに,自らのグッドウィルを構築してきており,被告とは同列に扱われるべきではない。原告は,セミー・モズレーの死亡とユニファイド社の倒産後,本件商標の出願日及び査定日までに引用商標のとおりの態様の商標を我が国において周知著名にする主体であった者である。
なお,セミー・モズレー又はその関係会社が製造・販売した真正な製品(以下「セミー・モズレー製品」という。)であれば,たとえ中古品であったとしてもシリアルナンバーが印刷された保証書が必ず存在し,原告製品にもシリアルナンバー入りの保証書があるから,需要者は,製品と保証書を見れば,セミー・モズレー製品と原告製品との違いを判別できるものである。
(3)以上によると,被告は,本件訴訟において,引用商標がいずれもセミー・モズレーという他人の業務に係るエレキギターを表示するものとして我が国のエレキギターファン間に周知であったという過去の事実を引用し,被告が確定した別件審決1において登録無効とされた理由を忘却することによって漁夫の利を得ようとしているということができ,そのような利益を被告に得させることは,法的正義にかなうものではない。
本件において,本件商標と同一又はこれに類似する標章について信用を獲得した現実の使用者は,本件商標のグッドウィルを維持,形成し,モズライト・ギターの信用獲得に多大な貢献をしてきた原告であるから,原告以外の第三者が先願で登録したときは,それに対して原告が法4条1項10号によって先願登録の排除を主張することができるというべきものであって,本件商標と同一又はこれに類似する標章について信用を獲得した現実の使用者でない被告は,同号の適用を主張することができない。
被告は,モズライト・ギターへのグッドウィルの形成に何の貢献もしていないどころか,かえって,このグッドウィルにつき,品質の劣悪なギターを製造することによって毀損している者であるから,そのような被告の法4条1項10号に基づく主張が許されるべきではない。
一方,原告は,モズライト・ギターへのグッドウィルの形成に大きく寄与・貢献し,かつ,品質の維持にも努めてきた者であって,原告の有する本件商標が同号の「他人の業務に係る商品」の要件に抵触することはあり得ない。セミー・モズレーは,平成4年(1992年)に死去し,ユニファイド社が平成6年(1994年)に倒産している以上,同号の適用を認めることによって保護すべき主体自体は存在しないものであるから,本件商標に対し同号は適用されるべきではなく,これを適用することは,結果として被告に漁夫の利をもたらすことになるから,本件審決の判断は相当ではない。
(4)法4条1項10号に該当する他人の周知商標の保護は私益規定であるところ,本件審決の判断によると,セミー・モズレーや同人の関係会社の利益保護のためではなく,結果的に,被告の利益を保護することになる。セミー・モズレーや同人の関係会社が,被告の隠れみのに使われているのであり,真の権利者の保護に資さない理不尽な結果を招来することになる。
(5)また,現代の商標権制度においては,単に出所表示機能だけではなく,その商標が発揮する商品の品質保証機能こそが最重要の要素である。商品についての品質という中味が劣悪であれば,その商標は使用商品の品質の悪さを象徴する目印となり,品質という中味が優秀であれば,その商標は使用商品の品質の良さを象徴する目印となるのであり,中味が良質であり優秀であるからこそ,商標が周知になり著名になるのである。この事実は,特に楽器のような音質がモノをいう商品にあっては致命的な問題である。
本件審決の判断によると,低劣な品質しか備えていない「モズライト・ギター」を製造・販売する被告に利益を得させることになり,結果として,かつてセミー・モズレーが製造し,「ベンチャーズ・モデル」といわれた西暦1963ないし1965年モデルの音質にあこがれを抱いている多くのモズライトファン(需要者)は,経済的・精神的な損害を被ることになるから,法が目的の1つとする商品の品質保証機能も損なわれることになる。
(6)したがって,本件審決の法4条1項10号の適用範囲に関する解釈は,誤っている。
〔被告の主張〕(1)法4条1項10号は,周知商標の主体である者の承諾があってもこれと抵触する商標の登録を認めないものであって,出所の混同を防止するための公益的な規定でもある。
原告は,被告が本件商標の登録を無効にすることによって漁夫の利を得ようとしており,それは法的正義にかなうということができないから,本件商標登録は法4条1項10号に該当しないと主張するが,同号の要件を当てはめるべきなのは,本件商標の方であって,被告の立場は関係ない。しかも,強い顧客吸引力を有する引用商標を承継したものでもなく,ユニファイド社が倒産したのを奇貨として商標登録出願をし,独占的排他権である商標登録を得て漁夫の利を得ようとしているのはまさしく原告であり,原告のこのような非は決して許されるものではない。本件商標登録を無効にすることが結果的に被告の利益を保護することになったとしても,引用商標を使用することについて事実上も何の権限がない原告が商標権の独占的排他権によって保護されてよいはずはない。
(2)本件の事実関係として,引用商標に顧客吸引力を化体させたのは,セミー・モズレー及び同人の関係会社であり,また,その顧客吸引力の強大なものにしたのはモズライト・ギターを使用し,日本国内で絶大なる人気を得たベンチャーズである。また,ユニファイド社が平成6年(1994年)に倒産した後も引用商標が付されたモズライト・ギターの人気が絶大であった事実,モズライト・ギターを愛用したミュージシャンが今でも活躍している事実,途切れることなく雑誌にモズライト・ギターの記事が掲載されている事実,中古品が市場に流通している事実,ベンチャーズ等のファンが経済的に裕福になって高価なギターが購入できるようになった事実,セミー・モズレーの妻であったBがユニファイド社を引き継ぎ平成14年(2002年)までモズライト・ギターを販売していた事実などから,現実に,引用商標に強い顧客吸引力が存在しており,本件商標の出願時及び査定時に,引用商標が他人(原告以外の者)のものとして周知であった。
なお,市場で多数の真正なモズライト・ギター(ビンテージ品及びそのリイシュー品)が流通し,その価格も通常のギター(10万円前後)に比べて格段に高い(約20万円〜150万円)ことから,顧客吸引力の高さが容易に理解でき,また,真正モズライト・ギターが,セミー・モズレー,モズライト社,ユニファイド社及びBによって約40年もの長期間にわたって販売され続けてきたことからすれば,これが市場に数多く流通していることは容易に認定できる。
それにもかかわらず,本件商標の登録が無効でないとすると,原告が本件商標を付して販売したギターが同じ市場に流通することになり,同じ市場において原告の製造に係る偽物の「モズライト・ギター」と,真正なモズライト・ギターとが出所の混同を起こすようになるものである。
原告は,セミー・モズレーとの信頼関係において,被告とは格別異なるように主張するが,Aは,モズライト・ギター(40周年記念モデルのみ)の販売店としての地位を失い,少なくともセミー・モズレーの関係者との信頼関係は破壊されていたのであって,本件商標は,そのような信頼関係がない状態で出願されたものである。
(3)本件商標と引用商標とは,その独特なデザインも酷似した同一商標であり,出所の混同が生じるおそれが極めて高い。
しかも,例えば,「USAモズライト製品総輸入・発売元/国産モズライト製品総発売元/株式会社フィルモア」という原告の広告(例えば乙37の6)を見た上,引用商標と同一の本件商標が付されたギターを見た需要者であれば,原告が販売するギターをセミー・モズレー及び同人の関係会社が製造した真正のモズライト・ギターであると誤認混同をして購入するのは必然である。また,原告が販売するリイシュー品(復刻品)とは,商標を含めてビンテージ品をそっくりそのまま復刻したものであるところ,ビンテージ品は製造していた者及びその正当な承継者又は使用許諾を受けた者のみが製造できるものであるはずである。何の権限もない原告がリイシュー品として販売をすれば,需要者は,当然にセミー・モズレー及び同人の関係会社が製造した真正のモズライト・ギターであると認識してしまい,出所について誤認混同が生ずる。
(4)原告は,被告がモズライト・ギターへのグッドウィルの形成に何の貢献もしておらず,かえって品質の劣悪なギターを製造することによって当該グッドウィルを毀損しているとし,法4条1項10号の主張を許されるべきではないと主張するが,引用商標が周知著名であるかということに加えて,上記のグッドウィルの形成の有無という点を検討する必要がない上に,そもそも被告製品が粗悪品であるということは原告による根拠を欠いた中傷にすぎず,被告製品は高い品質を備えるものである。
また,原告は,商標の品質表示機能に着目し,製品につき良い品質を有する者が引用商標の承継人になり得るという主張をしているが,品質によって承継人が決まるはずもなく,また,そもそも原告にはそのような製造技術がない。
3取消事由3(法4条1項10号に係る周知事実の認定の誤り)について〔原告の主張〕(1)本件審決は,原告が主張し,かつ,多くの証拠によりその事実を裏付けているにもかかわらず,専ら被告提出の証拠から事実認定を行っており違法がある。
すなわち,本件審決は,セミー・モズレーがその生前に少なくとも2回Aを訪問し,2回目の訪問の際には米国でのモズライト・ギターの製造に協力してもらいたいと申し入れていたことなどのAによる経過の説明等(甲2),原告の製造・販売するモズライト・ギターがかつてセミー・モズレーが創作した西暦1963ないし1965年モデル(ビンテージモデル)と同質又はそれ以上の品質を有しているとの事実,平成8年以降において,我が国ではA及び原告の製造・販売しているモズライト・ギターが周知になってきており,だからこそ被告の製造・販売するギターに対する非難の声が需要者から上っていた事実等の認定をしていない。
(2)本件審決は,原告が引用商標に蓄積された顧客吸引力を利用していると認定するが,これを利用しているのは正に被告であって,原告ではない。A及びAを代表者とする原告こそが,セミー・モズレーの遺志を引き継いで同人のギターの品質を維持かつ高めている者であり,だからこそ,セミー・モズレーはAに対して渡米してギター製造に協力してくれることを懇願し,Aは,セミー・モズレーの死後,アーカンソー州ブーンビルのユニファイド社の工場において,集められた素人工員らに技術指導をしながら,モズライト40周年記念モデルの製造に従事し,ユニファイド社の倒産後,モズライト・ギターの製造技術を継続するため,平成8年(1996年)10月にカリフォルニア州所在の Sugai Musical Instrument,Inc.(以下「スガイ社」という。)においてモズライト用の生産ラインを構築してその製造をし,米国において「mosrite」の文字を含む商標の出願をし,また,その後,Aは,被告商標に対してセミー・モズレーに代わって別件審判請求1をした上で,無効確定後に本件商標の登録をすることで,需要者の期待を裏切らない中味のある本物の高品質のモズライト・ギターを提供し続けているのであって,本件審決には事実誤認の違法がある。
これに対し,被告は,品質優秀な中味のあるモズライト・ギターを最初に作ったセミー・モズレーの承継者ではないのみならず,そのグッドウィルを毀損し続けている者であって,需要者の期待を裏切る品質不良の偽装品を製造し続けている者である。
本件商標の出願時においても,登録時においても,既に原告が高品質の中味を伴ったモズライト・ギターの提供者として我が国の需要者間には広く認識されていたのに対し,その両時期において,我が国の需要者間において,セミー・モズレーや同人の関係会社がかつて有していたモズライト・ギターの周知性は,セミー・モズレーの死去,同人の関係会社の倒産整理,未亡人Bの自己破産(甲25)などによって,新製品の提供は皆無の状況で既に消滅していたのであって,モズライト・ギターの高品質の中味は,事実上原告に承継され,現に原告によって我が国市場に広く提供されている。セミー・モズレー又は同人の関係会社による中古のモズライト・ギターがその歴史のためにセミー・モズレーの死後も業界誌に紹介されていることは,過去の作品として紹介されているだけのことであって,そこに付されている商標が有する周知性は,その製造者又は提供者が変わるならば,過去の遺物として消滅すると解すべきである。
以上のとおりであるから,「モズライト」の商標を有するエレキギターの品質保証機能を遵守することによって需要者の利益を保護するために,被告の製品は市場から排除されなければならない。
〔被告の主張〕引用商標が周知になったのは,日本の音楽愛好者の間で高い人気を有していたベンチャーズが,昭和40年に来日し,セミー・モズレーが作ったモズライト・ギターを使用してモズライト・ギターが音楽愛好者などに強い刺激を与え,また,寺内タケシや加山雄三などの日本のミュージシャンもこのモズライト・ギターを使用したからである。そして,現在もこれらミュージシャンが活動をし続け,その様子を雑誌などが取り上げながら,モズライト・ギターは記事にされている。セミー・モズレーの死亡後も,ユニファイド社が製造したモズライト・ギターは,高谷企画やロッコーマン社が中心となって販売をし続け,ユニファイド社の代表であったBは,その倒産後も少なくとも平成14年(2002年)まで日本に輸出し続けた。そして,ベンチャーズが絶頂期であったころの若者が今,定年を迎えて資金的なゆとりを有する需要者となり,中古市場においても,真正モズライト・ギターは高値で流通し,その人気は現在まで脈々と続いている。
一方,Aは,ユニファイド社との間の40周年記念ギターのみの販売店としての地位を失くした後,当時,なぜかカリフォルニア州でモズライトの商標登録を得ていたスガイ社に着目し,引用商標を付した偽物の「モズライト・ギター」を作らせ,これをUSAモズライト専門店などと広告しながら販売し始めた。その後も,A及び原告は,「リイシュー(復刻版)」「USAモズライト製品総輸入元」「真のモズライト」「本物のモズライト」等と,需要者に錯誤を生じさせることを意図しながら,引用商標の顧客吸引力を利用して,偽物モズライト・ギターを販売してきたもので,このように偽物モズライト・ギターを販売してきた原告が引用商標の周知主であるはずがなく,原告は引用商標について「他人」である。
以上のとおりであって,本件審決における事実認定に誤りはない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(被告が正当な利害関係を有しないこと)について(1)原告は,被告には本件審判の請求をする正当な利害関係が存在しないと主張する。
しかしながら,仮に,商標登録の無効審判請求につき,当該商標に係る権利関係の存否についての一定の利害関係を要するとしても,被告は,原告から別件侵害訴訟を提起された者であるところ,被告が別件侵害訴訟に対して争うことが許されないと解さなければならないような事情はうかがわれないから,被告が本件商標に係る原告の権利関係の存否について少なくとも利害関係を有することは明らかといわなければならない。
原告は,そのような被告の利害関係を前提にしてもなお,被告がモズレー商標と同一又は類似する登録無効となった被告商標の登録権者であったこと,被告が引用商標と同一又は類似する標章を付したギターの製造・販売を続けるという専ら被告自身の私益を守るために本件審判の請求を行った者であることなどから,被告の利害関係が正当なものではないとして,被告による本件審判請求が法的正義に反し,かつ,衡平の原則に反する権利濫用のものであるなどというのであるが,法4条1項10号は,「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれと類似する商標であって,その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」については,その商標登録を受けることができないとし,もって,同号の規定する需要者の間に広く認識されている商標との関係で商品又は役務の出所の混同の防止を図ろうとするものであるから,同号に該当する商標であるとして,その登録の無効審判請求がされた商標については,当該商標が周知商標との関係で登録できないものであるか否かが判断されるべきものであって,その登録が無効とされるべき場合において,当該審判の請求人が結果的に利益を受けることがあるとしても,そのことをもって,翻って,当該商標についての当該請求の無効審判請求が権利の濫用に当たるなどとして制限されるべきものではない。そして,このことは,同号に該当することを理由とする商標登録の無効の審判請求をすることができる者が周知商標の権利者に限られていないこと,その権利者以外の者が周知商標と登録商標との類似を理由にあえて登録商標の無効審判請求をしようとする場合には,当該登録が無効となることによって何らかの利益を得る結果となるのが通常であると解されることからしても,法が当然に予定しているものということができるし,また,本件においては,後記認定のとおり,原告がセミー・モズレー又は同人の関係会社から同号の周知商標に当たる引用商標に係る何らかの権利を法的にも事実上も承継したものでもないにもかかわらず,引用商標1と同一の本件商標を使用している等の事実に照らすと,被告商標の登録権者であって原告から当該登録の無効審判請求を受けた被告が,当該原告からの別件審判請求1が許されていたことと対比して,原告の登録している本件商標について無効審判請求をすることが権利の濫用となるとの原告の主張は,一方的に過ぎ,周知商標を保護しようとする同号の趣旨に反することも明らかであるから,これを採用することはできない。
(2)したがって,原告の主張に係る取消事由1は理由がない。
2取消事由2(法4条1項10号の解釈の誤り)について(1)モズライト・ギターについて証拠(以下に掲げるもののほか,甲13,65,66,乙7)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
アセミー・モズレーは,昭和27年(1952年)ころ,米国カリフォルニア州ベーカーズフィールドにおいてモズライト社を設立し,エレキギター製造を行うようになり,製造したギターに「モズライト」という名(以下,セミー・モズレー又は同人の関係会社が製造したギターを「モズライト・ギター」という。なお,モズライト・ギターを模したギターであって,セミー・モズレー又は同人の関係会社から引用商標につき正式な使用許諾を受けていないが,当事者等が「モズライト・ギター」と呼んでいるものについては,場合により括弧を付けて「モズライト・ギター」と記載することがある。)を付け,また,これに本件商標と同一の引用商標1を付けるようになった。
昭和37年(1962年)ころから昭和40年(1965年)ころまで,米国の人気ロックバンドのベンチャーズはその演奏に際してモズライト・ギターを使用し,その結果,モズライト・ギターの名は米国において一躍有名となり,ベンチャーズが使用した「ベンチャーズ・モデル63年」,「ベンチャーズ・モデル65年」は爆発的な売上げを示した。
モズライト社は,昭和44年(1969年)に倒産し,その後,セミー・モズレーは,幾つかの州において会社を設立し,モズライト・ギターを製造するなどし,中断こそあったものの継続的にモズライト・ギターの製造を続け,それらは,モズライト・ギターの人気が高かった我が国にも輸出されていたところ,平成4年(1992年)4月ころには,アーカンソー州ブーンビルにおいて,地元の援助を受け,モズライト・ギターを製造・販売するユニファイド社を設立し,その製造・販売を開始した。
セミー・モズレーは,同年8月7日に死亡し,その後,同人の妻であったBがユニファイド社の社長に就任してモズライト・ギターの製造・販売が続けられたが,平成6年(1994年)4月にユニファイド社は倒産した。Bは,その後破産したが(甲25),その後も形状等においてモズライト・ギターの特徴を有するギターの製造・販売を続けており,少なくとも平成14年(2002年)ころまでそのようなギターを製造して日本へ輸出しており,ユニファイド社及びBは,我が国への輸出分については,後記(2)のとおり,ユニファイド社がAとの契約に基づきモズライト・ギター40周年記念モデルを製作して同人に納入したほかは,主としてロッコーマン社やCが経営する高谷企画へ販売していた(甲22の1〜4,甲108,109,乙10)。
イベンチャーズは,昭和40年に来日して公演を行ったが,その際に使用していたモズライト・ギターの音が我が国のファンに衝撃を与え,ベンチャーズの人気に伴い,ベンチャーズ・サウンドを作ったモズライト・ギターへのあこがれも高まった。また,人気ミュージシャンである寺内タケシがモズライト・ギターを演奏に使用したことや,人気ミュージシャン及び映画俳優である加山雄三がモズライト・ギターを出演の映画やヒット曲で使用したことなどから,遅くとも昭和40年代後半には,引用商標1は,モズライト・ギターの商標として,エレキギターを取り扱う業者やエレキギターの愛好者の間ではよく知られるようになっていた(甲67,68,71,77〜80,乙8,13,乙41の2,乙43〜45)。
ウ昭和40年以降,ベンチャーズは毎年のように来日して公演し,寺内タケシや加山雄三もモズライト・ギターを使用する演奏活動を続け,その後,ベンチャーズはモズライト・ギターを使用しなくなったものの,モズライト・ギターは,ベンチャーズ・サウンドを作り,寺内タケシや加山雄三などが愛用するエレキギターとして最近に至るまでエレキギターを取り扱う業者やエレキギターの愛好者の間でよく知られており,モズライト・ギターの中古品は,最近においても,愛好者の間であこがれの対象となっており,コレクションとして収集されるなどもし,市場において高い価格で取引されている(甲69〜82,149,乙12〜14,39の1〜5,乙40の1〜5,乙41の1,2,乙45)。
(2)A及び原告によるギターの販売等について証拠(甲2,101,152のほか,以下に掲げるもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
アAは,高校生であったときの昭和40年のベンチャーズの来日公演においてモズライト・ギターの放つ音量,音圧等に魅せられてモズライト・ギターのとりことなり(甲15),昭和51年,東京都三鷹市内に原告の前身である個人商店の「フィルモア楽器店」を開店し,その後,国内の他の店舗から米国から輸入されたモズライト・ギターを仕入れてその販売を行うようになったが,昭和53年には仕入先の店舗が倒産したことから新品のモズライト・ギターの仕入れができなくなったことなどを契機として,このころから西暦1960年代に製造された中古のモズライト・ギターを仕入れるようになった。
Aは,楽器店経営の傍ら,愛好者としてモズライト・ギターの収集も行い,他のモズライト・ギターの愛好者とモズライト・ギターを持ち寄って演奏を楽しむようになるとともに,店舗内に,収集したモズライト・ギターのコレクションを展示するスペースを設け,次第に,全国のモズライト・ギターの愛好者からモズライト・ギターの収集家として知られるようになった。
イAは,昭和56年ころから,モズライト・ギターを買い付けるために渡米するようになり,昭和56年にテキサス州で開催されたビンテージ・ギターショーでセミー・モズレーと初めて出会った。
セミー・モズレーは,昭和58年に来日したが,既に愛好者の間でモズライト・ギターの収集家として有名であったAが経営する楽器店に来店し,また,昭和60年4月にも妻のBとともに同楽器店を再訪した。
ウAは,平成4年5月,渡米し,アーカンソー州ブーンビルのセミー・モズレーが経営するユニファイド社を訪れ,ユニファイド社との間で,ユニファイド社がモズライト・ギター40周年記念モデルを製造してAに納入するとの契約を締結し,これに基づき,ユニファイド社において同40周年記念モデルが製造され,Aは,これを輸入して販売した(甲110)。
セミー・モズレーは,上記(1)のとおり同年(1992年)8月7日に死亡し,その後,Bがユニファイド社の社長に就任し,ユニファイド社によってモズライト・ギター40周年記念モデルやその他のモデルが製造され続け,Aは,これを輸入して販売していた(甲28〜30,112,122の1,2)が,平成6年(1994年)4月にユニファイド社が倒産し,Aはユニファイド社からのモズライト・ギター40周年記念モデルやその他のモズライト・ギターの輸入をすることができなくなった。
エこのようにして,モズライト・ギターの仕入れができなくなってしまったAは,セミー・モズレーや同人の関係会社からモズレー商標についての譲渡や使用許諾を受けたことはなかったが,モズライト・ギターを愛好する我が国のファン及びA自身のためにモズライト・ギターを再びよみがえらせたいなどと考え,セミー・モズレーやその関係者とは関係なく米国カリフォルニア州において「mosrite ofCalifornia」との商標を有していたスガイ社と共同で,平成8年ころ,MOSRITEINC.を立ち上げ,その後,同社にセミー・モズレーや同人の関係会社製造のモズライト・ギターの特徴を取り入れたギターを製造させて輸入し,「モズライト・ギター」として販売するようになり,平成12年の原告設立後,Aの営業を引き継いだ原告は,同輸入販売を継続するとともに,国内の楽器製造会社にもモズライト・ギターの特徴を取り入れたギターを製造させて販売している(甲15)。
このようにして,A及び原告は,青少年のころ,モズライト・ギターにあこがれ,その後,経済的に余裕があるようになった中高年世代を主な顧客として,現在に至るまで,セミー・モズレー又は同人の関係会社が製造したモズライト・ギターの往年のモデルの特徴を模したギターを復刻品(リイシュー品)として製造・販売するなど,モズライト・ギターのボディデザイン,ヘッドデザイン,ビブラート・ユニット機構などの特徴を取り入れたギターを「モズライト・ギター」として製造・販売している(甲14〜21,31,99〜102,125,138,143,145,148〜152)。
(3)被告によるギターの製造等についてまた,証拠(甲62,63のほか,以下に掲げるもの)及び弁論の全趣旨によれば,我が国においては,昭和40年ころからモズライト・ギターが輸入販売されるようになっていたが,これとは別に,ファーストマン楽器製造株式会社(以下「ファーストマン社」という。)は,昭和42年ころから,モズライト社の許諾を得て,日本国内で「アドベンジャーモデル」との引用商標2を付したエレキギターの製造・販売をするようになった(甲72,92,乙21,49)こと,被告は,ファーストマン社の孫請け又は下請として上記エレキギターの木部の製作を請け負っていた(乙21)が,昭和44年にファーストマン社が倒産した後,被告商標を付し,モズライト・ギターのボディデザイン等の特徴を取り入れたエレキギターを製造・販売するようになり,昭和52年には,黒澤商事株式会社から同社が出願中の同一商標の買取りを依頼され,これを買い取ってその権利者(昭和47年6月22日出願,昭和55年5月30日設定登録,登録第1419427号)となり,上記のエレキギターの製造・販売を継続してきている(乙38の1,2)ことが認められる。
(4)以上,(1)ないし(3)の事実によると,本件商標と同一の引用商標1は,本件商標の出願時である平成10年4月28日及び登録査定時である平成15年6月13日のいずれの時点においても,セミー・モズレー又は同人の関係会社が製造するエレキギターであるモズライト・ギターを表示するものとして,需要者の間に広く認識されていたものと認めることができる。
なお,別件判決1においても,引用商標1が被告商標の出願時にはセミー・モズレー又は同人が設立した会社が製造するエレキギター(モズライト・ギター)を表示するものとして需要者の間に広く認識されており,そのことは被告商標の登録査定時においても変わらなかったなどと認定され,別件審決1に取り消すべき瑕疵はないとして,被告の請求が棄却され,また,別件判決2においても,引用商標1がモズライト社製造のギターの表示として昭和40年ころから平成15年1月20日の口頭弁論終結時点に至るまで我が国においてエレキギターの取引者・需要者の間で広く認識されていたなどと認定され,別件審決2の判断には誤りがないとして,被告の請求が棄却され,さらに,別件侵害訴訟においても,引用商標1が本件商標の登録出願時,登録査定時及び平成20年7月10日の控訴審の口頭弁論終結時点に至るまでモズレー商標として取引者・需要者間に周知著名であり,本件商標は法4条1項10号に該当するものとしてその登録が無効とされるべきものであるなどとして,原告の請求が棄却されている。
原告は,本件商標の出願時には,セミー・モズレーは死去し,同人の関係会社も存在しておらず,新規ギターの製造・販売は不可能であったもので,モズレー商標は現実に使用されておらず,我が国の楽器市場に供給されなかったことから,モズレー商標の周知性は過去のものとして既に消滅していると主張する。しかしながら,上記(1)のとおり,セミー・モズレー又は同人の関係会社が製造・販売したモズライト・ギターの周知性は最近に至るまで存続し続けていると認められるところであって,仮にセミー・モズレーの死亡及びユニファイド社の倒産によってセミー・モズレーに関係するものとしての引用商標1を付したエレキギターの製造・販売がされることがなくなったとしても,法4条1項10号の趣旨に含まれる周知商標との関係で商品又は役務の出所の混同の防止を図り,その結果,需要者の利益を保護するという目的を図る必要がなくなるとまではいうことができないばかりでなく,周知商標の権利者等が死亡するなどして,当該商標を付した製品が製造・販売されることがなくなったからといって,その権利者等から正当に周知商標に係る権利を譲り受けた者ではないのに,その者が周知商標と同一又は類似の商標を付した製品を製造・販売することが容認されるべき理由もないから,原告の主張を採用する余地はないというべきである。なお,セミー・モズレー又は同人の関係会社が製造・販売したモズライト・ギターの周知性が最近に至るまで存続しており,これに付された引用商標1の持つ顧客吸引力希釈化するなどして消滅していないことは,A自身が,平成10年から平成11年にかけて発行の各音楽雑誌掲載のフィルモア楽器店の広告において,「semiemoseley」の文字が含まれる標章やTM「MOSELEY 」との標章を付記し(なお,TM の付記がないもの,マークTMが付記されているものもある。甲125〜134,136,137,140),USAモズライトベンチャーズモデル誕生35周年記念モデルとのギターを発売し(甲138),また,原告自身が,平成17年ころ,モズライト日本初上陸40周年記念モデルを企画して発売し(甲100),音楽雑誌における広告において,「モズライトギターは1960年代栄光の時を駆け抜け,その後様々な事情により紆余曲折,混乱の時代を経て現在に至りました。株式会社フィルモアは,当時多くのエレキ少年たちが憧れたモズライトギターを最高の品質と共に継承し,皆様にご提供していきたいという一途な思いから,これまで最大の努力をし続けてまいりました。」(甲99),「モズライト日本上陸40周年記念モデル大集合」(甲100)などと掲載し,平成18年,音楽雑誌における広告において,「衝撃のモズライト1965今再び蘇える」と掲載する(甲151)などし,上記(2)のとおり,セミー・モズレー又は同人の関係会社が製造したモズライト・ギターの往年のモデルの特徴を模したギターを復刻品として製造・販売しているなど,セミー・モズレー又は同人が設立した会社が製造するモズライト・ギターが周知性を有することを前提として,このモズライト・ギターが有する周知性を営業的に利用していると解されること,原告が本件商標のグッドウィルを構築してきたという場合の本件商標も,その実体はモズレー商標にほかならず,モズレー商標の周知性を前提にした主張と解されることなどからしても明らかであるということができる。
この点に関し,原告は,商標の品質保証機能が最重要の要素であるとし,品質が低劣なギターを製造・販売する被告の請求によって品質が優れたA及び原告が製造・販売するギターに付される本件商標を無効とすることは法が目的とする商品の品質保証機能を損なうことになるなどと主張するが,商標は,品質保証機能だけでなく,自他識別機能を有するものであるところ,本件商標は,引用商標1との関係で同機能を果たさず,かえって,商品の誤認混同を招くものであるからこそ,引用商標1と同一の本件商標を付すことが制限されるべきものであって,それは,A及び原告が製造・販売するギターの品質とも,また,被告が製造・販売するギターの品質とも関係がなく,モズライト・ギターの周知性を理由とするものであるから,原告の主張は,その前提を欠き,採用できない。
(5)したがって,原告の主張に係る取消事由2は理由がない。
3取消事由3(法4条1項10号に係る周知事実の認定の誤り)について(1)上記2で認定のとおり,本件商標と同一の引用商標1は,本件商標の出願時である平成10年4月28日及び登録査定時である平成15年6月13日のいずれの時点においても,セミー・モズレー又は同人の関係会社が製造するエレキギターであるモズライト・ギターを表示するものとして,需要者の間に広く認識されて周知性を有しており,また,原告は,引用商標1が有する顧客吸引力を利用しているものと認められ,本件商標につき法4条1項10号の該当性がないとする原告の主張は理由がない。
原告は,A及び原告こそがセミー・モズレーの遺志を引き継いで同人のギターの品質を維持かつ高めている者であると主張するが,上記2で認定のとおり,Aは,セミー・モズレーの死亡及びユニファイド社の倒産によってモズライト・ギターを入手することができなくなった後,セミー・モズレーや同人の関係会社からモズライト・ギターに係る商標についての譲渡や使用許諾を受けることがないまま,モズライト・ギターを愛好する我が国のファン及びA自身のためにモズライト・ギターを再びよみがえらせたいと考えたものであることが認められるが,そのような動機によるものであったとしても,本件商標が,引用商標1との関係で自他識別機能を果たさず,商品の誤認混同を招くおそれがあるものである以上,その登録を受けることはできないというべきである。そして,Aが,他の関係者と比べ,セミー・モズレーとの間で,実質的に引用商標に係る権利の承継者ということができるほどに格別に親交が深かったなどと認めるに足りる客観的証拠はなく,法的にはもちろん,実質的にみても,セミー・モズレーやその関係会社から引用商標を承継する関係にあったものということはできない。
(2)したがって,原告の主張に係る取消事由3は理由がない。
4結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲