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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21ネ10058商標権侵害差止等,商標権侵害不存在確認等請求控訴事件 判例 商標
平成20ワ22305損害賠償等請求事件 判例 商標
平成13ネ5605商標権侵害差止等請求控訴事件 平成14ネ5060同附帯控訴事件 判例 商標
平成19ワ28855販売差止等請求事件 判例 商標
平成21ワ123損害賠償請求事件 判例 商標
関連ワード 包装 /  出所表示機能 /  品質保証機能 /  質保証機能 /  指定商品 /  周知性 /  4条1項10号 /  著名商標 /  顧客吸引力(グッドウィル) /  希釈化(ダイリュージョン) /  汚染(ポリューション) /  類似性(類否判断) /  損害額 /  逸失利益 /  使用料相当額 /  権利濫用(権利の濫用) /  通常使用権 /  国内 /  判定 /  差止 /  損害額の推定 /  共有 /  並行輸入 /  使用許諾 /  同一の商品 /  外国 /  継続 /  商号 /  差別的 /  利益額 / 
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事件 平成 18年 (ワ) 26725号 商標権侵害差止等請求事件
平成 19年 (ワ) 15580号 商標権侵害不存在確認等請求事件
大阪市中央区<以下略> 第1事件原告・第2事件被告(以下「原告」という。) 伊藤忠商事株式会社東京都千代田区<以下略> 第1事件原告・第2事件被告(以下「原告」という。) コンバースフットウェア株式会社 東京都千代田区<以下略> 第1事件原告・第2事件被告(以下「原告」という。) ビーエムアイ・ホールディングス株式会社 (旧商号コンバースジャパン株式会社) 大阪市中央区<以下略>
原告ビーエムアイ・ホールディングス株式会社訴訟引受人 (以下「原告訴訟引受人」という。) コンバースジャパン株式会社
上記4名訴訟代理人弁護士永井紀昭
同 山口健司
同 岩井泉
同 中澤構
同 山岸正和
同 西山宏昭
同 寺田明日香 2
同 白木裕一
同 訴訟復代理人弁護 士鶴由貴
同 石神恒太郎
原告伊藤忠商事株式会社,原告コンバースフットウェア株式会社,原告 ビーエムアイ・ホールディングス株式会社訴訟代理人弁護士 松井良憲 名古屋市中区<以下略> 第1事件被告・第2事件原告(以下「被告」という。) 株式会社ロイヤル
同 訴訟代理人弁護 士浅井正
同 久保田皓
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2009/07/23
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告は,別紙被告標章目録記載1ないし10の標章を付した靴及び包装を輸入し,販売し,又は販売のために展示してはならない。
2被告は,その輸入販売する靴及びその包装に別紙被告標章目録記載1ないし10の標章を付してはならない。
3被告は,靴の商品広告に別紙被告標章目録記載1ないし10の標章を付して展示し,頒布し,又はこれを内容とする情報に別紙被告標章目録記載1ないし10の標章を付して電磁的方法による提供をしてはならない。
4被告は,その占有する別紙被告標章目録記載1ないし10の標章を付した靴及びその包装並びにその商品広告を廃棄せよ。
5被告は,インターネット上の別紙ウェブサイト目録記載1ないし3の各ウェブサイトの表示画面から別紙被告標章目録記載1ないし10の標章を抹消せよ。
6被告は,原告コンバースフットウェア株式会社に対し,5億66003万円及び内金4億5521万0878円に対する平成18年12月8日から,内金1億1078万9122円に対する平成19年9月30日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7被告は,原告訴訟引受人コンバースジャパン株式会社に対し,2億2500万円及び内金1億9991万8646円に対する平成18年12月8日から,内金2508万1354円に対する平成19年9月30日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8原告コンバースフットウェア株式会社及び原告訴訟引受人コンバースジャパン株式会社のその余の請求,並びに,原告ビーエムアイ・ホールディングス株式会社及び被告の請求をいずれも棄却する。
9訴訟費用は,第1事件及び第2事件を通じ,被告の負担とする。
10この判決は,第6項,第7項及び第9項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1請求1第1事件(1)主文第1項ないし第5項と同旨(2)被告は,原告コンバースフットウェア株式会社に対し,5億6600万円及びこれに対する平成18年12月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被告は,原告訴訟引受人コンバースジャパン株式会社に対し,2億2500万円及びこれに対する平成18年12月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)被告は,原告ビーエムアイ・ホールディングス株式会社に対し,2億2500万円及びこれに対する平成18年12月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
42第2事件(1)原告ら及び原告訴訟引受人は,別紙原告商標目録記載1ないし10の商標を付した靴(ただし,米国コンバース社製造に係る靴を除く。)の販売,販売のための展示,又は宣伝広告をしてはならない。
(2)原告ら及び原告訴訟引受人は,被告が米国コンバース社標章を付した靴及び包装を輸入,販売,販売のための展示,宣伝広告をする権利を有していない旨の虚偽の宣伝流布をしてはならない。
(3)原告ら及び原告訴訟引受人は,被告に対し,各自1億円及びこれに対する平成20年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)原告ら及び原告訴訟引受人は,被告が米国コンバース社製の真正商品であるコンバースシューズを輸入販売することを,輸出元(被告への供給元)に圧力を加える等の方法により妨害してはならない。
(5)原告ら及び原告訴訟引受人は,原告ら及び原告訴訟引受人のコンバースシューズ取扱販売店(小売店)並びに被告の米国コンバース社製コンバースシューズ(真正並行輸入商品)取扱販売店(小売店)に対し,下記アからエの行為をしてはならない。
ア米国コンバース社の真正並行輸入商品(コンバースシューズ)を取扱販売しないよう指示,要請することイ米国コンバース社の真正並行輸入商品(コンバースシューズ)を取扱販売する場合は,同一モデルの原告ら及び原告訴訟引受人のコンバースシューズと同一の販売価格で販売するよう指示,要請することウ原告ら及び原告訴訟引受人のコンバースシューズについて一定の再販売価格で販売する(シーズン商品について,シーズン終了後の値引率に関し,限度価格以上で販売する)よう指示,要請することエ上記アないしウの指示,要請に対する取扱販売店(小売店)の対応内容に基づき,取扱販売店に対し不平等な取扱い(スターショップ店の選定及5び選定の取消し,仕入価額の値上げ,値下げ,限定商品の納入,不納入等)をすること第2事案の概要1 第1事件別紙被告標章目録記載1ないし10の各標章(以下,同目録被告標章欄の番号に合わせて「被告標章1」等という。また,これらをまとめて「被告標章」ということもある。)が付された商品を輸入し,販売し,展示し,同商品の広告をしたなどの被告の行為について,(1)原告伊藤忠商事株式会社(以下「原告伊藤忠」という。)が被告に対し,被告の上記行為は,原告伊藤忠の有する別紙原告商標目録記載1ないし10の各商標(以下,同目録原告商標権欄の番号に合わせて「原告商標1」等という。また,これらをまとめて「原告商標」ということもある。)の商標権(以下「原告商標権1」等といい,これらをまとめて「原告商標権」ということがある。)を侵害するものであるとして,同商標権に基づき,被告の上記行為の差止め,被告標章が付された商品及び広告物等の廃棄,被告標章のウェブサイトからの削除を求め,(2)原告コンバースフットウェア株式会社(以下「原告コンバースフットウェア」という。)が被告に対し,被告の上記輸入販売行為は,原告伊藤忠から原告商標の独占的通常実施権の付与を受けていた原告ビーエムアイ・ホールディングス株式会社(以下「原告ビーエムアイ」という。)によって更に原告コンバースフットウェアに付与された独占的通常実施権を侵害するものであるとして,不法行為に基づき,損害賠償として10億0072万円の内金5億6600万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成18年12月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,(3)原告ビーエムアイ及び同原告から権利の承継を受けた原告訴訟引受人コ6ンバースジャパン株式会社(以下「原告訴訟引受人コンバースジャパン」という。)が被告に対し,被告の上記輸入販売行為は,原告伊藤忠から付与された原告商標に係る独占的通常実施権を侵害するものであるとして,不法行為に基づき,損害賠償として3億7618万円の内金2億2500万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成18年12月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
2第2事件(1)原告ら及び原告訴訟引受人コンバースジャパン(以下「原告ら」という。)が後記新米国コンバース社の商品に付された標章と同一の原告商標を付した商品を販売している行為は,原告らが製造する商品を周知性のある後記新米国コンバース社の商品と誤認混同させる行為であり,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に当たるとして,被告が原告らに対し,原告商標を付した商品の販売等の差止めを求め,(2)原告らが被告の顧客に対して被告が後記新米国コンバース社の商品を輸入販売するなどの権利を有していないなどと宣伝流布した行為は,不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に当たるとして,被告が原告らに対し,同行為の差止めを求め,(3)原告らが被告の輸入元に圧力を加えて輸入販売を妨害した行為及び被告の供給先の小売店に対して後記新米国コンバース社の商品を販売しないよう指示したなどの行為は,不公正な取引方法の禁止(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)19条)に違反する行為であるとして,独占禁止法24条に基づき,被告が原告らに対し,同行為の差止めを求め,(4)(1)及び(2)記載の原告らの行為については不正競争防止法4条及び不法行為に基づき,(3)記載の行為については不法行為に基づき,さらに,原告らが被告の後記新米国コンバース社の商品を輸入する行為について税関に対7して輸入差止申立てを行って私的独占の禁止(独占禁止法3条)に違反したと主張し,また,原告伊藤忠が後記新米国コンバース社とカルテルを形成して独占禁止法6条及び同法3条に違反したと主張して,これらの独占禁止法違反行為については不法行為に基づき,被告が原告らに対し,損害賠償として各自2億6620万5900円の内金1億円及びこれに対する不法行為の日の後である平成20年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
3争いのない事実等(1)当事者ア原告伊藤忠は,商標権,特許権,著作権等の知的財産権,ノウハウ,システム・エンジニアリング及びソフトウェア等の取得,貸与及び販売並びに繊維製品等に関する貿易,売買,仲立,代理等を業とする株式会社である。
原告ビーエムアイ(旧商号コンバースジャパン株式会社)は,平成14年4月10日に設立された原告伊藤忠の子会社であり,特許権,実用新案権,意匠権,商標権,著作権及びノウハウの使用・実施権の取得並びに使用・実施権の許諾等を業とし,コンバースブランドの管理等を行っていた。
原告ビーエムアイは,平成20年7月1日,商号を現在の商号に変更するとともに,新設分割を行って設立した原告訴訟引受人コンバースジャパンに本件に関する権利義務を承継させた(弁論の全趣旨)。
原告コンバースフットウェアは,平成17年1月18日に設立された原告伊藤忠の子会社であり,靴の製造,販売及び輸出入等を業とする株式会社である。原告コンバースフットウェアは,原告商標を付したカジュアルシューズ等の製造を行い,全国の小売店に販売している(弁論の全趣旨)。
イ被告は,カジュアルシューズ,カジュアルウェア等の輸入,販売等を業とする株式会社である。
8(2)原告伊藤忠による原告商標権の取得の経緯米国法人であるコンバース社(Converse, Inc.以下「旧米国コンバース社」という。)は,コンバースブランドの靴の製造販売等を業とし,昭和39年,茶谷産業株式会社を通じて日本におけるコンバース商標を付したシューズの販売を開始し,原告商標権1ないし3,6,9及び10を有していた。
同社は,平成13年1月,米国破産法のチャプター11に基づく申立てを行い,倒産手続が開始された。同年4月30日,フットウェアアクイジション社(Footwear Acquisition, Inc.後にConverse, Inc,に商号変更。以下「新米国コンバース社」という。)が原告商標権1ないし3,6,9及び10を含む旧米国コンバース社の重要資産を譲り受けた。
原告伊藤忠は,同日,新米国コンバース社から,原告商標権1ないし3,6,9及び10を譲り受け,同年5月29日,移転登録手続を完了した。
その後,原告伊藤忠は,原告商標4,5,7及び8について,独自に出願をして商標登録を受けた。
(3)原告らの権利関係原告伊藤忠は,平成14年4月10日,原告ビーエムアイに対し,原告伊藤忠が商標権を現に保有し,又は将来的に商標権を保有することになるコンバースブランドに関連するすべての商標について,その使用を独占的に許諾し,また,原告ビーエムアイは,平成17年6月30日,原告コンバースフットウェアに対し,上記商標を付したフットウェア全般の製造及び販売を独占的に許諾した。
(4)被告の行為被告は,遅くとも平成15年4月から現在に至るまで,別紙被告標章目録記載1ないし10の標章(被告標章)が付された靴及びその包装(以下,まとめて「被告商品」という。)を輸入し,日本国内において,自らの店舗で被告商品を直接消費者に販売するとともに,小売量販店に対して卸売販売し9ている。また,被告は,被告商品の広告に被告標章を付して,これを展示,頒布している。さらに,被告は,別紙ウェブサイト目録記載1ないし3の各ウェブサイトにおいて,被告商品を消費者に直接販売するとともに,その販売促進のために,被告商品の広告を内容とする情報に被告標章を付して上記各ウェブサイトにおいて提供している。
被告商品は,いずれも原告商標権の指定商品に含まれている。
(5)原告商標と被告標章の類似性被告標章1ないし4は原告商標1ないし4と,被告標章5及び6は原告商標5及び6と,被告標章7及び8は原告商標7及び8と,被告標章9は原告商標9と,被告標章10は原告商標10と,それぞれ同一であるか又は類似している(以下,これらの同一又は類似する原告商標及び被告標章の全部又は一部をまとめて「コンバース商標」ということがある。)。
(6)原告伊藤忠は,被告に対し,平成15年9月17日,被告商品の販売行為が原告商標権を侵害するものであるとして,販売の中止等を求める内容証明郵便(甲11)を送付し,平成18年9月14日にも,販売中止等を求める内容証明郵便(乙1)を送付した。
4争点第1事件に関し(1)被告商品の輸入販売は,真正商品の並行輸入として違法性が阻却されるか(並行輸入の抗弁)(2)原告らの被告に対する商標権等の行使は,権利の濫用であるか(権利濫用の抗弁)(3)原告商標権の無効原因の有無(商標権無効の抗弁)(4)原告らの損害額第2事件に関し(5)被告の不正競争防止法2条1項1号に関する請求の当否10(6)被告の不正競争防止法2条1項14号に関する請求の当否(7)被告の独占禁止法に基づく請求の当否(8)被告の損害額第3争点に関する当事者の主張1争点(1)(並行輸入の抗弁)〔被告の主張〕下記(1)ないし(3)記載のとおり,被告は,新米国コンバース社製の真正商品を輸入販売していたものであり,被告の行為は,真正商品の並行輸入として違法性が阻却される。
(1)被告商品の標章が適法に付されたものであることア被告が輸入している被告商品は,本来は米国内で流通すべき商品及び米国以外の国(日本を除く。)で流通すべき商品である。新米国コンバース社は,これらの商品を中国,インドネシア及びベトナム等の指定工場において製造し,被告標章を付している。被告は,このように新米国コンバース社が製造し,被告標章を付した商品のみを輸入している。
イ被告は,平成15年9月から平成19年8月までの間,海外の供給元9社より,被告商品113万4245足を直接輸入し,また,海外の供給元2社から,日本国内の輸入代行業者2社を通じて,被告商品16万0030足を輸入した。
被告が上記期間に輸入した被告商品の個々の取引ルートの概要は,別紙輸入ルートに関する主張対比表の被告の主張欄記載のとおりである。
ウ被告は,被告商品を輸入する際,以下の方法により,すべての商品について,新米国コンバース社が製造した真正商品であることを確認している。
(ア)被告は,被告商品の供給元である取引業者の有しているインボイス,パッキングリスト,船荷証券及び信用状等を閲覧し,被告の輸入する被告商品が新米国コンバース社によって製造された真正商品であることを11確認している。また,発注の勧誘のあった商品がまだ製造されていないものである場合には,被告は,その供給元に対し,新米国コンバース社の製造許諾の有無及び供給元に至る取引ルートの確認を事前に行った上で,正式に発注を行っている。
(イ)被告は,輸入した被告商品が税関を経て自社倉庫に到着した後,直ちに専門の担当官に確認をさせている。
梱包の外装に付されている商品の詳細情報を記すシールに記載されている製造工場名,工場所在地,船積地,仕向地,商品番号,新米国コンバース社の発注番号から,梱包内の商品が新米国コンバース社により注文され,指定工場において製造された商品であることを確認し,同時に,商品に付されている情報が,上記シールに記載された詳細情報と合致することを確認している。
梱包されたままの商品については,外装検査により真正商品であることの確認を行っている。
エ被告は,30年以上にわたる被告商品の並行輸入において,自らに調査義務を課し,輸入商品の真贋識別等を徹底して行ってきており,これまで一度も税関によって被告商品の輸入を差し止められたことがない。また,原告伊藤忠は,原告商標権の取得後である平成16年の初めころ,税関に対し,コンバース商標を付したキャンバスオールスター・オックスという名称の商品を対象とする輸入差止申立てを行い,同申立てが受理されたものの,税関は,一度も被告商品が偽造品等の輸入禁制品に該当するとの判断をしたことがない。これらの事情によっても,被告の輸入した被告商品が真正商品であることは明らかである。
(2)内外権利者の実質的同一性についてア最高裁判所は,並行輸入の商標権侵害としての違法性が阻却されるための要件の一つとして,外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一12人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより,並行輸入品に付された商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであることを要求している(最高裁判所平成15年2月27日第一小法廷判決・民集57巻2号125頁。以下「フレッドペリー事件最高裁判決」という。)。
フレッドペリー事件最高裁判決が,並行輸入の商標権侵害としての違法性が阻却されるために上記の要件を要求した根拠は,出所表示機能品質保証機能が害されるかどうかの観点からである。
イそして,出所表示機能が害されるかどうかの観点からすれば,登録商標権者が商標権を取得する以前より,それと同一又は類似の外国拡布者の商標が世界的に著名であり,登録商標権者が使用する商標により需要者が識別している出所が登録商標権者でなく外国拡布者である場合,登録商標が示す出所は,登録商標権者ではなく外国拡布者であると認定すべきであり,商標権侵害を否定するための要件として「法律的又は経済的に同一人と同視し得るような関係」を要求すべきでない。
本件においては,原告伊藤忠が原告商標権を取得する以前より,コンバース商標が世界的に著名であり,後記エのとおり,原告伊藤忠が原告商標権を取得した後も独自のグッドウィルが構築されておらず,コンバース商標から需要者が識別する出所は原告伊藤忠ではなく新米国コンバース社であるから,原告商標の示す出所は,原告伊藤忠ではなく,新米国コンバース社であると認められるので,原告伊藤忠と新米国コンバース社との間に「法律的又は経済的に同一人と同視し得るような関係」がなくとも,商標権侵害を否定すべきである。
ウまた,品質保証機能が害されるかどうかの観点からすれば「法律的又は経済的に同一人と同視し得るような関係」は,資本的なつながりがある場合のほか,内外商標権者の間に品質の同一性を維持するための品質管理契13約があるために品質上区別がない場合をも含むと解すべきである。
後記(3)のとおり,原告伊藤忠と新米国コンバース社との間では,共同マーケティング契約があり,原告らの商品(以下「原告商品」という。)の品質管理が新米国コンバース社の子会社に委託され,原告商品と新米国コンバース社製品が同じ工場で製造されており,かつ,両者に品質の区別がないのであるから,新米国コンバース社の真正商品を輸入販売する行為は,原告商標の品質保証機能を害せず,商標権侵害に当たらない。
エ独自のグッドウィルが構築されていないこと原告らは,既に原告商標につき独自のグッドウィルを獲得していると主張する。
しかし,原告らが主張する諸事情は,いずれも,月星化成株式会社(現在の商号は株式会社ムーンスター),新・旧米国コンバース社及び同社のライセンシーが各国のマーケット事情に合わせて実施した,又は現在も実施している手法や諸策の範囲を出るものではない。原告らは,100年の歴史により構築された新・旧米国コンバース社のグッドウィルをそのまま享受し,日本市場のニーズに合わせて利用するものにすぎず,新・旧米国コンバース社のグッドウィルとは別個の独自のグッドウィルを構築するものではない。原告らにおいて,新・旧米国コンバース社とは異なる独自のグッドウィルを確立すべき経済的合理性は存在しないから,原告らが,新・旧米国コンバース社のグッドウィルを否定してまで,独自のグッドウィルを構築する意思を有し,その意思を現実に実施することはあり得ない。
また,独自のグッドウィルが確立したか否かは,需要者が原告商品の出所をどのように認識するに至ったかに純化して考えるべきであるところ,原告らが主張する諸事情の存在を前提にしても,原告らが,需要者をして,その製造,販売する原告商品の出所が新・旧米国コンバース社であることを認識させようとしている以上,原告商標に独自のグッドウィルが確立さ14れていないことは明らかである。
(3)原告らが被告商品の品質管理を行い得る立場にあり,品質に実質的に差異がないことアフレッドペリー事件最高裁判決では,並行輸入の違法性が阻却される要件として,国内商標権者が輸入された商品の品質管理を直接又は間接的に行い得る立場にあることから,当該商品と国内商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価されることを要求している。
そして,下記イの事実からすれば,原告伊藤忠は,実質的には新米国コンバース社の商品を自己の品質管理下に置いているものと評価すべきであり,かつ,品質においても実質的に差異はない。
イ原告伊藤忠と新米国コンバース社は,商標権の譲渡契約とともに共同マーケティング契約を締結している。この共同マーケティング契約は,コンバース商標の統一ブランドの構築及び維持を目的として,プレスリリース,広告,ケーススタディ,顧客調査,マーケティングイベントへの協賛,産業会議及びリーダーシップ戦略について相互に協力する義務を負うこと,商品と情報を共有すること,相手方の商品に精通する目的で相互に施設を訪問して検査する権利を有すること,共同のマーケティング会議において諸情報に基づき相互にコンサルティングを行うこと,同一の工場で商品を製造すること,相手方から得た商品情報を無償で使用する権利を授与することを定めたものである。
そして,原告らと新米国コンバース社とは,上記共同マーケティング契約に基づき,ともに新米国コンバース社の子会社である香港法人ツインドラゴンズグローバル社(Twin Dragons Global, Ltd.以下「TD社」という。)と製造管理委託契約を締結した上,同一の製造工場で一緒に商品を製造している。
15その結果,原告伊藤忠の商品と新米国コンバース社の商品は,専門家ですら判別が困難であるほど似通ったものとなっており,新米国コンバース社の商品を輸入する行為は,原告商標の品質保証機能を害することはないのであるから,被告の並行輸入は,フレッドペリー事件最高裁判決が示した要件を充たしている。
ウ原告らは,共同マーケティング契約が既に終了したと主張する。しかし,共同マーケティング契約が形式的に終了していたとしても,原告伊藤忠と新米国コンバース社は,コンバースブランドの基本イメージを維持するため,商品のデザイン開発,製造,品質管理及び販売促進に関する双務協力関係を継続することについての合意を黙示的に行っており,両社の間で共同マーケティング契約と同趣旨の契約が継続している。このことは,原告コンバースフットウェアの副社長が,「ご存知の通り,コンバース社はナイキ傘下に入りましたが,これまでと変わらず友好的な関係にあります。
平成18年(2006年)2月にはハワイでコンバース社主催による製造工場関係者のミーティングがあり,当社も発注者であり生産管理などを指導してきた立場から継続して参加しています。」と発言したこと(乙13),原告らが,共同マーケティング契約の終了後の平成19年1月及び同年7月において,一般人には入手できないコンバースビジネスの最新情報を日本の業界紙に公表していること(乙36)からも明らかである。
エまた,原告らは,新米国コンバース社の品質管理基準と関係なく,独自の品質管理基準に基づいて原告商品の品質を管理しているので,両商品の品質は異なると主張する。しかし,前記イの事情からすれば,原告商品と新米国コンバース社の商品との差異は,コンバースブランドの基本イメージの維持を困難にさせるような大幅なものではあり得ず,品質において実質的に差異はない。
〔原告らの主張〕16(1)被告商品の商標は適法に付されたものではないことア被告が提出した証拠によっても,被告商品は,新米国コンバース社によって適法に商標が付された商品,あるいは同社の許諾の下で国外で販売された商品であると認定することはできない。被告が提出する証拠には信憑性に疑問があるものが多く,また,被告が輸入した商品は,外国の業者を介在させてはいるものの,外国での販売を予定して流通に置かれた商品ではなく,当初から日本に直接輸入することを企図して取引された商品であり,新米国コンバース社の承認を得ずに日本向けに出荷された横流し品である。具体的には,別紙輸入ルートに関する主張対比表の原告ら主張欄記載のとおりである。
イ被告は,これまで一度も税関によって被告商品の輸入を差し止められたことがないことを被告商品が真正商品であることの根拠として主張する。
しかし,税関における検査は抜き取り検査であり,限られた資料で行われるものであるから,仮に税関が被告商品を疑義商品であると判断したことがなかったとしても,そのことから被告商品に付された商標が適法に付されたものであると推認することはできない。
(2)内外権利者に実質的同一性がないことア真正商品の並行輸入として実質的違法性が否定されるためには,「商標が外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があること」との要件を充たす必要がある(フレッドペリー事件最高裁判決)。そして,この要件のうち,「法律的に同一人と同視し得る関係がある」とは,外国の商標権者と日本の商標権者とが親子会社の関係や総代理店の関係にある場合等をいい,「経済的に同一人と同視し得るような関係がある」とは,外国の商標権者と日本の商標権者とが同一の企業グループを構成しているなどの密接な関係がある場合等をいうのであり,これらの関係がなければ上記の17要件は否定され,並行輸入の違法性は阻却されないというべきである。
本件においては,旧米国コンバース社は,日本における商標権については原告伊藤忠に,その他の国における商標権については新米国コンバース社に,それぞれ譲渡している。そして,原告伊藤忠と新米国コンバース社とは,別個の法主体である上,実質的にも全く別の会社であって,商標権を譲り受けた両者が別個独立に発展し,人的・資金的関係を有していないから,両者の間に,当該外国における商標権者と日本の商標権者とが法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係はないというべきである。したがって,被告の並行輸入の違法性は阻却されない。
イ独自のグッドウィルの構築が並行輸入を違法とする要件とはならないこと被告は,我が国の商標権者の商標に外国の商標権者の商標と異なる独自のグッドウィルが構築されておらず,原告商標について需要者が識別している出所と被告標章について需要者が識別している出所とが同一であれば,商標権侵害を否定すべきであり,それ以上に我が国の商標権者と外国の商標権者との法律的,経済的な同一性を要求する必要はないと主張する。
我が国の商標権者と外国の商標権者との間に法律的,経済的な同一性が認められなければ,並行輸入の違法性が阻却されないことは,前記アで述べたとおりである。商標の出所表示機能にいう出所は,需要者が認識する出所ではなく,商標権者であるというべきであるから,特定の商標の出所として識別されている者から商標権の譲渡を受けた場合,出所として表示されているのは商標権の譲渡を受けた商標権者であって,需要者が出所として認識する譲渡人ではない。商標により識別される出所と商標に独自のグッドウィルが化体されていることとは,別個の問題であるというべきである。本件においても,原告伊藤忠が,コンバース商標に係る日本における商標権を適法に譲り受けている以上,コンバース商標の出所として表示18されているのは,旧米国コンバース社ではなく,原告伊藤忠である。旧米国コンバース社が原告伊藤忠に商標権を譲渡した以上,日本国内において,旧米国コンバース社又は新米国コンバース社がコンバース商標を使用することができないことは当然であり,これは,商標権の譲渡により,コンバース商標により識別される出所が,旧米国コンバース社又は新米国コンバース社ではなく,原告伊藤忠となったからにほかならない。
実際にも,我が国の登録商標制度の下では,我が国の商標権者の商標に外国の商標権者の商標とは異なる独自のグッドウィルが化体されていない場合においても,外国の商標権者が拡布した商品の輸入,販売を,我が国の商標権に対する侵害行為として禁止する必要がある。なぜなら,我が国の商標法上,登録商標は,登録商標権者独自のグッドウィルが実際に化体しているか否かに関わらず,登録商標権者を出所として表示するものとして取り扱われるからである。このことは,商標が現に使用されていることが登録要件とされていないこと,登録商標権者は,商標を付した商品を製造,販売していなくても,無権限で商標を使用する者に対し,商標権の侵害を理由とする差止等の請求をすることができることからも明らかである。
したがって,我が国の商標権者と外国の商標権者との間に同一人又はそれと同視し得る関係が認められない限り,外国の商標権者の商標が付された商品の輸入,販売は,我が国の商標の出所表示機能を害するというべきである。以上のことは,商標が世界的に著名な商標であっても同様に当てはまる。
したがって,被告の上記主張は失当である。
ウ原告らに独自のグッドウィルが構築されていること仮に,我が国の商標権者の商標に外国における商標権者の商標とは別個の独自のグッドウィルが化体していることが並行輸入を違法とするための要件として要求されるとの前提に立ったとしても,原告らは,以下のとお19り,既に原告商標につき独自のグッドウィルを獲得しているから,被告による並行輸入の違法性は阻却されない。
原告らは,原告商品に関し,独自に新商品を開発し,独自の品質管理体制を構築するとともに,独自のブランド・スローガンの下で,莫大な費用をかけて多岐にわたる独創的な広告宣伝を行っている。また,商品販売後も,原告商品全体についてのインフォメーションセンターを設置して顧客に対するサポートを行なっている。さらに,原告らは,靴製品のほかにも,新・旧米国コンバース両社が積極的に行ってこなかったアパレル及びアクセサリー製品の製造,販売を展開し,アパレル及びアクセサリー製品と靴製品とを合わせたトータル・コーディネートという独自の経営戦略をとっている。
このような原告ら独自の経営戦略に基づく企業努力の結果,原告らの靴製品は,日本国内の需要者から,旧米国コンバース社に由来する靴製品とは異なる新たな信用を得るに至っており,このことは,原告商標権の譲受時において低迷していたコンバースブランドの靴製品の売上が着実に回復してきたことや,被告自身,原告らが構築した独自のグッドウィルに便乗するような宣伝広告活動を行っていることなどからしても明らかである。
品質保証機能を害しないとの被告の主張について被告は,原告伊藤忠と新米国コンバース社との間には,品質の同一性を維持するための品質管理契約である共同マーケティング契約があるために品質上区別がなく,被告標章が付された商品を輸入しても原告商標の品質保証機能を害することはなく,違法性は阻却されるべきと主張する。
しかし,後記(3)のとおり,原告伊藤忠と新米国コンバース社との間には品質管理に関する契約はなく,実際に商品の品質も異なっており,被告の主張は理由がない。
(3)原告らは新米国コンバース社の商品の品質管理を行い得る立場にはなく,20品質も異なることア被告は,原告伊藤忠が新米国コンバース社との間で共同マーケティング契約を締結し,新米国コンバース社の商品の基本イメージを損なわない限度で原告商品を製造しているにすぎないから,品質管理性の要件を充たすと主張する。
しかし,共同マーケティング契約において,原告伊藤忠は,新米国コンバース社に対し,アパレルに関する情報を提供し,新米国コンバース社は,原告伊藤忠に対し,靴に関する情報を提供するとされているにすぎず,いずれも提供された情報を採用する義務はなく,原告伊藤忠が新米国コンバース社の商品の品質管理に関与することは予定されていなかった。共同マーケティング契約に基づいて実際に行われたのは,新米国コンバース社からの靴に関する製品情報の提供や,原告伊藤忠からのアパレルに関する製品情報の提供にすぎず,製品の品質管理に関する情報交換は一切行われず,共同マーケティング契約は,実質的にはほとんど機能していなかったのであって,原告伊藤忠は新米国コンバース社の製品の品質管理を行い得る立場にはなかった。
また,平成15年7月に新米国コンバース社が米国ナイキ社の100パーセント子会社となったことから,平成15年12月18日に共同マーケティング契約の有効期限が平成18年6月30日までと変更され,同契約は同日をもって既に終了したことからすれば,被告の上記主張に理由がないことは明らかである。
イ被告は,原告らが,新米国コンバース社の子会社である製造管理会社(TD社)に製造管理を委託し,新米国コンバース社と同一の工場において原告商品を製造させていることなどを根拠に,新米国コンバース社の商品を自己の品質管理下に置いていると主張する。
しかし,原告コンバースフットウェアが,TD社に対し,製造工場の紹21介業務や,製造工場に対して商品の納入先,納期,納入方法を指示する業務を委託することはあるものの,原告商品の品質管理に関する業務を委託した事実はない。原告コンバースフットウェアがTD社に委託しているのは,製造工場の紹介業務などにすぎない。原告コンバースフットウェアは,独自の品質管理基準を有しており,従業員自らが現地の製造工場に赴き,商品の品質管理を行っており,買付代理業者に品質管理の具体的作業を行わせることはあるものの,そのような場合でも,独自の品質管理基準に基づき,原告コンバースフットウェアの指揮監督の下で具体的作業が行われている。
また,買付代理業者が複数のメーカーから業務を受託することは少なくないため,複数のメーカーの商品が同一の工場で製造されることが起こり得る。特に,中国を含むアジア地域は,世界的にも靴の製造が集中している地域であり,複数のメーカーの商品が同一の工場で製造されることは珍しいことではない。TD社についてもその例外ではなく,TD社が,原告コンバースフットウェア及び新米国コンバース社の両社から業務を受託した場合には,結果的に両社の商品が同一の製造工場で製造されることもある。しかし,そのような場合でも,原告コンバースフットウェアの商品と新米国コンバース社の商品とは,製造ラインを峻別し,それぞれ独立して製造されている。また,原告商品については,原告コンバースフットウェアの従業員が現地の製造工場に赴き,独自の品質管理基準に基づいて品質管理を行っているものの,原告コンバースフットウェアの従業員が新米国コンバース社の商品に関して品質管理を行うことはない。現に,原告コンバースフットウェアの品質管理基準は,新米国コンバース社の品質管理基準と異なっている。
以上によれば,被告の上記主張は理由がない。
ウ原告らは,原告商品の品質を管理するための基準として,靴に使用され22る素材の品質を定める「物性基準」,完成品が保有すべき品質を定める「完成品品質基準」及び「製造段階における品質管理基準」等の独自の基準を定めている。このような品質管理は,新米国コンバース社の商品には及んでおらず,現に両商品の品質は異なっており,例えば,新米国コンバース社の商品には,有害物質であるホルムアルデヒドの溶出量等において原告らの基準を充たしていないものがある。
したがって,品質管理性の要件を充足しないことは明らかである。
2争点(2)(権利濫用の抗弁)〔被告の主張〕原告らの商標権等の行使は,以下の事実からすれば,権利濫用に当たり許されるものではない。
(1)原告らは,商標権の譲受けを契機に,従前の国内商標権者である旧米国コンバース社が化体していたものとは別個独立の信用を原告商標に化体しようと努力するのではなく,むしろ旧米国コンバース社が日本国内はもとより世界的に長きにわたって培ってきた原告商標に化体したグッドウィルを積極的に便乗利用しようと企画している。同一の信用(旧米国コンバース社のグッドウィル)についてかたやこれを積極的に利用し,かたや同一の信用の化体した被告標章を付した商品に対し原告商標権を行使し,これを否定する矛盾行動をとることは商標法が保護しようとする排他権の行使とは認められず,権利の濫用に該当すると解すべきである。
(2)原告らは,原告商標につき独自のグッドウィルの構築をするふりをするのみで,原告商標に化体した旧米国コンバース社のグッドウィルを便乗利用し,需要者に出所,品質の誤認,混同を生じさせている。その上,原告らは,同一のグッドウィルの化体した被告標章を付した新米国コンバース社の真正商品の並行輸入販売行為を阻止する目的で,原告商標権の行使として独占禁止法違反行為,不正競争防止法違反行為を行っている。
23(3)被告が並行輸入している商品に付された標章は,世界的に著名性・周知性を有するコンバース商標である。被告は,約30年間にわたって,新・旧米国コンバース社製の真正商品の並行輸入販売実績により,日本におけるコンバース商標のグッドウィルの構築に多大な貢献をし,さらに,予定ルート品との自由競争の実現により適切な価格の形成にも多大な貢献をしてきたものである。
(4)被告商品と原告商品とは,その品質が実質的には同一であるため,日本国内で両者が流通しても,需要者の出所,品質に関する信頼に反する結果は生じない。仮に,両商品に実質的な差異があると認定された場合であっても,被告商品には,原告商品とは区別するラベルが付されており,出所,品質に関する需要者の誤認,混同は生じないから,需要者の信頼に反する結果とならない。
また,原告商標について,新・旧米国コンバース社のグッドウィルとは別個の原告独自のグッドウィルが構築されていない状況下において,原告らが被告商品と実質的に品質に差異がある商品を製造販売しているとしたら,原告商品の出所を新米国コンバース社であると識別している需要者の信頼を裏切る結果となるものの,それは原告ら自らの行為による結果であり,被告が原告商標権を実質的に侵害したことにはならない。
(5)原告伊藤忠は,既にコンバース商標の買収資金を上回る利益を得ているから,被告の並行輸入を排除することができないとしても,原告商標権は実質的に侵害されていないというべきである。
〔原告らの主張〕(1)商標権の行使が権利濫用となるのは,ブローカーが外国著名商標を先に我が国で商標登録した場合や,総代理店契約が解消された後にかつての代理店が我が国の商標権を保有している場合等,我が国の商標権の取得や維持に不当性が認められ,かつ,当該商標を自己の製造,販売する商品に使用す24ることなく,専ら外国商標権者の拡布した商品に対する権利行使,又は外国商品の独占的な取扱いを目的とするような場合に限られる。
本件では,原告らによる商標権の取得や維持に不当性が認められず,かつ原告らが原告商標を自己の製造,販売する商品に使用しているのであるから,原告らの被告に対する商標権等の行使が権利濫用とされる余地はない。
(2)被告の主張についてア被告は,原告らは原告商標につき独自のグッドウィルの構築をするふりのみで,旧米国コンバースのグッドウィルに便乗し,需要者に誤認,混同を生じさせていると主張する。しかしながら,原告らが原告商標につき独自のグッドウィルを構築していると認められることは前記のとおりである。
イ被告は,コンバース商標の著名性,周知性は,被告の約30年にわたる新・旧コンバース社製の真正商品の輸入,販売により構築されたものであると主張する。
しかし,被告のビジネスモデルは,既に市場で認知されているブランドを取り扱うことにより,宣伝広告費や販促費等を負担せずに利益を得るというものである。また,被告の販売方法は,殊更に低価格を強調するものであり,むしろブランドイメージを毀損している。このような被告のビジネスにより,コンバース商標の著名性,周知性が構築されたということはない。
ウ被告は,被告商品と原告商品とは,その品質が実質的には同一であるため,需要者の出所,品質に関する信頼に反する結果は生じないと主張するものの,両者の品質が異なることは前記のとおりである。
また,被告は,原告商品とは区別するラベルが付されており,誤認,混同のおそれがないと主張するものの,被告がラベル表示を行っていた事実はない。また,被告の主張は「真正商品と品質が異なるおそれがある」と表示さえすれば,たとえ偽造品であっても輸入が可能ということになり,25不当である。
さらに,被告は,品質に差異があり,需要者を誤認混同させたとしても,原告ら独自のグッドウィルが構築されていない状況下においては,原告らは商標権等の侵害を主張できないと主張する。しかし,前記のとおり原告らは,独自のグッドウィルを構築しているのであるから,被告の上記主張は,前提に誤りがあり失当である。
エ被告は,原告伊藤忠がコンバース商標の買収資金を上回る利益を受けていることから,被告の並行輸入を排除できない場合でも原告商標権は実質的に侵害されていないと主張する。しかし,原告らは,日本におけるコンバースブランドのイメージを回復するとともに,独自のグッドウィルを獲得するために多額の資金を投下しているのであって,このような現実を無視する被告の主張は誤りである。また,被告による輸入販売行為により,原告らが正当に得られるべきであった利益が得られないことは紛れもない事実であり,実質的な商標権侵害がないなどとする被告の主張は誤っている。
3争点(3)(商標権無効の抗弁)〔被告の主張〕原告商標4,5,7及び8に係る商標権は,出願時に需要者の間においてコンバース商標として広く認識されていた被告標章4,5,7及び8と同一又は類似している。そして,原告伊藤忠は,これらの原告商標を靴の販売のために使用して営業活動を展開している。
したがって,原告商標4,5,7及び8に係る商標権は,他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって,その商品に類似する商品について使用するもの(商標法4条1項10号)であり,無効とされるべきものであるから,商標法39条が準用する特許法104条の3第1項により,商標権の行使は許さ26れない。
〔原告らの主張〕被告が無効を主張する各商標のうち原告商標5及び8は,原告伊藤忠がアパレル及びアクセサリーを指定商品とする商標権を譲り受ける際に,旧米国コンバース社が履物のみを指定商品とする商標権を分離して保有したため,同一ロゴであるのに登録商標が2つ存在することになり,その後原告伊藤忠がこの分離された履物を指定商品とする商標権も譲り受けたため,管理の簡素化のために再度まとめ,更に他のアパレル及びアクセサリーに関する商標の指定商品もまとめて登録し直したものである。原告商標4及び7は,原告らによる商標の実際の使用形態にあわせて原告伊藤忠が適法に譲り受けた商標と類似するものを登録したものである。これらの商標は,いずれも現在に至るまで原告らが使用している。そして,譲渡人は,当該商標を,日本国内で使用することはできず,かつ,原告伊藤忠が適法に譲り受けた商標と類似するため登録することもできないのであって,当該商標を日本国内において使用できるのは原告らだけである。
このような事実関係からすれば,原告商標が「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するもの」(商標法4条1項10号)に該当しないことは明らかである。
4争点(4)(原告らの損害額)〔原告らの主張〕(1)原告コンバースフットウェアの損害ア商標法38条1項に基づく主張(ア)原告コンバースフットウェアは,平成17年7月1日,原告ビーエムアイより原告商標についての独占的通常使用権の許諾を受け,現在に至るまで原告商標を付した靴の製造,販売を行っている。
(イ)被告が輸入,販売している被告商品と,原告コンバースフットウェ27アが製造,販売している原告商品は,いずれも,著名なコンバース商標を付した靴製品であり,原告商品が被告商品と市場において代替性のある商品であることは明白である。
(ウ)被告商品の譲渡数量96万2769足被告は,昭和52年ころから,継続的に新・旧米国コンバース社の靴製品の輸入,販売を行っており,平成17年度の販売数量は27万1000足,平成18年度の販売数量は41万3000足であった。そうすると,被告が販売した被告商品の数量は,平成17年7月から同年9月までは6万7750足(27万1000足÷4),平成17年10月から平成18年9月までは41万3000足である。
また,原告伊藤忠が原告商標権1ないし3,6,9及び10を譲り受けた平成13年4月当時,コンバースブランドの信用力は極めて低下した状態にあったものであり,その後,原告らの努力により日本におけるコンバースブランドの信用力は回復し,これに伴って,被告商品の販売数量も増加していった。したがって,被告は,平成18年10月から平成19年9月までの間に,少なくとも平成18年度と同数(41万3000足)の被告商品を販売したことは明らかである。さらに,平成20年度についても同様であって,平成19年10月から平成20年9月までに被告が販売した被告商品の数量は41万3000足を下らない。
以上を整理すると,平成17年7月から平成20年9月までの被告商品の譲渡数量は,次のとおりであり,合計130万6750足となるが,商標法38条1項による損害額の算定においては,被告が開示した販売数量である96万2769足(乙89)を主張する。
a平成17年7月から同年9月まで6万7750足b平成17年10月から平成18年9月まで2841万3000足c平成18年10月から平成19年9月まで41万3000足d平成19年10月から平成20年9月まで41万3000足(エ)1足当たりの原告コンバースフットウェアの利益●(省略)●円平成17年7月から平成20年9月までの各年度における原告コンバースフットウェアの売上高及び売上原価は,以下のとおりであり,売上高の合計は●(省略)●円,売上原価の合計は●(省略)●円である。
売上原価には,製造原価の他,船賃,梱包料,保険料,輸入チャージ,原告ビーエムアイに対して支払われたロイヤリティの額及び買付代理人への業務委託料が含まれている。
a平成17年7月から同年9月まで売上高●(省略)●円売上原価●(省略)●円b平成17年10月から平成18年9月まで売上高●(省略)●円売上原価●(省略)●円c平成18年10月から平成19年9月まで売上高●(省略)●円売上原価●(省略)●円d平成19年10月から平成20年9月まで売上高●(省略)●円売上原価●(省略)●円原告コンバースフットウェアは,国内外の複数の工場において原告商29品を製造しており,平成17年7月から平成20年9月までの間,毎年445万足ないし466万足の原告商品を製造,販売してきたという実績がある。また,原告らが,原告商品の販売のために巨額の宣伝広告費を費やしてきた。これらの事情に照らせば,上記(ウ)の譲渡数量を販売するため新たに要する費用としては,国内運送費のみが考えられる。各年の国内運送費は,以下のとおりであり,合計●(省略)●円である(甲66及び67)。
a平成17年7月から同年9月まで●(省略)●円b平成17年10月から平成18年9月まで●(省略)●円c平成18年10月から平成19年9月まで●(省略)●円d平成19年10月から平成20年9月まで●(省略)●円また,各年度における原告コンバースフットウェアの販売数量は,以下のとおりであり,合計●(省略)●足である。
a平成17年7月から同年9月まで●(省略)●足b平成17年10月から平成18年9月まで●(省略)●足c平成18年10月から平成19年9月まで●(省略)●足d平成19年10月から平成20年9月まで●(省略)●足したがって,売上高合計から売上原価合計及び運送費合計を控除した30金額を販売数量合計で除した金額が,侵害行為がなければ原告コンバースフットウェアの販売することができた商品の単位数量当たりの利益の額となる。
以上を前提に,侵害行為がなければ原告コンバースフットウェアの販売することができた商品の単位数量当たりの利益の額を計算すると,その額は,●(省略)●円となる。
(計算式)(●(省略)●-●(省略)●-●(省略)●)÷●(省略)●=●(省略)●(売上高合計-売上原価合計-運送費合計)÷販売数量合計(オ)以上によれば,商標法38条1項に基づいて算定される原告コンバースフットウェアが被った損害額は,上記(エ)の1足当たりの利益の額●(省略)●円に,被告商品の販売数合計96万2769足を乗じて得た金額である●(省略)●円(千円以下切捨て)となる。
イ商標法38条2項に基づく主張(ア)被告の売上高被告は,被告商品を,被告自身が営む4つの店舗及びインターネット等において,エンドユーザーに対して販売するとともに,複数の小売店に対しても販売している(甲5ないし10)。
被告は,昭和52年ころから継続的に新・旧米国コンバース社の靴製品の輸入,販売を行っており,平成17年の売上高は●(省略)●万円,平成18年の売上高は●(省略)●万円であった。そうすると,被告が販売した被告商品の売上高は,平成17年7月から同年9月までは●(省略)●,平成17年10月から平成18年9月までは●(省略)●万円である。
また,原告伊藤忠が原告商標権1ないし3,6,9及び10を譲り受けた平成13年4月当時,コンバースブランドの信用力は極めて低下し31た状態にあり,その後,原告らの努力により日本におけるコンバースブランドの信用力が回復し,これに伴って,被告商品の売上高も増加していった。したがって,平成18年10月から平成19年9月までの間の被告商品の売上高は,少なくとも平成18年度と同額(●(省略)●万円)であったことは明らかであり,平成20年についても同様であって,平成19年10月から平成20年9月までの被告商品の売上高は●(省略)●万円を下らない。
以上を整理すると,平成17年7月から平成20年9月までの被告商品の売上高は,次のとおり,合計金●(省略)●万円を下らない。
a平成17年7月から同年9月まで売上高●(省略)●万円b平成17年10月から平成18年9月まで売上高●(省略)●万円c平成18年10月から平成19年9月まで売上高●(省略)●万円d平成19年10月から平成20年9月まで売上高●(省略)●万円(イ)被告が受けた利益被告が輸入した被告商品のうち123万1094足分の仕入原価は,約●(省略)●円である(乙60ないし68,甲67)。したがって,被告による一足当たりの平均仕入原価は,●(省略)●足)となる。
一方,被告は,平成17年7月から平成20年9月までの間,上記ア(ウ)で述べたとおり,130万6750足の被告商品を販売しており,その売上高は,上記(ア)のとおり,●(省略)●万円を下らない。すなわち,被告において,1足当たり平均●(省略)●足)の売上高があった。
32したがって,平成17年7月から平成20年9月までの間に被告が被告商品を販売して得た利益の総額は,●(省略)●万円(千円以下切捨て)である。なお,被告は,並行輸入業者であり,被告自身,宣伝広告,販促活動を実施する必要がないことを認めており,また,コンバースに関する商品は被告が販売する商品の一部にすぎないなどの事情を考慮すると,上記金額が商標権侵害行為により被告が受けた利益となる。
(ウ)後に述べるとおり,原告コンバースフットウェアは,原告ビーエムアイに対し,純売上高の●(省略)●パーセント相当額をロイヤリティとして支払っている。この点を考慮すれば,上記11億4629万円から,ロイヤリティ相当額●(省略)●円(被告の売上高32億7425万円の●(省略)●パーセント相当額)を控除した金額である●(省略)●円(千円以下切捨て)が,商標法38条2項により推定される原告コンバースフットウェアの被った損害額である。
ウ弁護士費用原告コンバースフットウェアは,被告の商標権侵害行為によって本件訴訟の提起を余儀なくされ,原告訴訟代理人らに弁護士費用の支払を約し,本件訴訟の提起を依頼せざるを得なかった。原告コンバースフットウェアは,これにより,少なくとも1億円の損害を被った。
エ小括原告コンバースフットウェアは,上記のとおり,被告の商標権侵害行為により●(省略)●円(上記アより額の大きい上記イの●(省略)●円に上記ウの1億円を加えた金額)の損害を被ったものであり,本件訴訟においては,その内金5億6600万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成18年12月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する。
(2)原告訴訟引受人コンバースジャパンの損害33ア独占的通常使用権原告ビーエムアイは,原告伊藤忠より,平成14年4月10日,原告商標権について独占的通常使用権の許諾を受け,原告訴訟引受人コンバースジャパンは,平成20年7月1日,その地位を譲り受けた。
イ原告商標の使用に対して受けるべき金銭の額(ア)被告は,昭和52年ころから継続的に新・旧米国コンバース社の靴製品の輸入,販売を行っており,平成15年の売上高は●(省略)●万円,平成16年の売上高は●(省略)●万円,平成17年の売上高は●(省略)●万円,平成18年の売上高は●(省略)●万円であった。そうすると,被告が販売した被告商品の売上高は,平成15年4月から同年9月までは●(省略)●,平成15年10月から平成16年9月までは●(省略)●万円,平成16年10月から平成17年9月までは●(省略)●万円,平成17年10月から平成18年9月までは●(省略)●万円である。
また,原告伊藤忠が原告商標1ないし3,6,9及び10を譲り受けた平成13年4月当時,コンバースブランドの信用力は極めて低下した状態にあり,その後,原告らの努力により日本におけるコンバースブランドの信用力は回復し,これに伴って,被告商品の売上高も増加していった。したがって,平成18年10月から平成19年9月までの間の被告商品の売上高は,少なくとも平成18年と同額(●(省略)●万円)であったことは明らかであり,平成20年についても同様であって,平成19年10月から平成20年9月までの間の被告商品の売上高は●(省略)●万円を下らない。
以上を整理すると,商標権侵害行為による被告の売上高は,次のとおりであり,合計●(省略)●万円を下らない。
a平成15年4月から同年9月まで34売上高●(省略)●万円b平成15年10月から平成16年9月まで売上高●(省略)●万円c平成16年10月から平成17年9月まで売上高●(省略)●万円d平成17年10月から平成18年9月まで売上高●(省略)●万円e平成18年10月から平成19年9月まで売上高●(省略)●万円f平成19年10月から平成20年9月まで売上高●(省略)●万円(イ)コンバースブランドは著名なブランドであり,原告商標を付した商品は,原告らの商品だけでも,上記(1)ア(エ)で述べたとおりの販売実績がある。また,原告コンバースフットウェアと原告ビーエムアイとの間のライセンス契約では,ミニマムロイヤリティの他に,売上高の●(省略)●パーセント相当額を支払うことが合意されている(甲63)。
これらの事情に照らせば,原告商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額は,被告がその商品を販売したことによる売上高の●(省略)●パーセントを下らないというべきである(商標法38条3項)。
(ウ)以上によれば,被告による原告商標の使用について,平成15年4月から平成20年6月までの間については原告ビーエムアイが,同年7月から9月までの間については原告訴訟引受人コンバースジャパンが受けるべき金銭の額は,上記(ア)の売上高合計金●(省略)●万円に上記(イ)の●(省略)●パーセントを乗じて得た金額の●(省略)●円である。
ウ弁護士費用35原告ビーエムアイは,被告の商標権侵害行為によって本件訴訟の提起を余儀なくされ,原告訴訟代理人らに弁護士費用の支払を約し,本件訴訟の提起を依頼せざるを得なかった。原告ビーエムアイは,これにより,少なくとも3400万円の損害を被った。
エ小括原告ビーエムアイは,被告に対する本件の損害賠償債権を原告訴訟引受人コンバースジャパンに譲渡しているため,原告訴訟引受人コンバースジャパンは,被告に対し,平成15年4月から平成20年9月までの期間に係る商標使用料相当損害金●(省略)●万円及び弁護士費用相当損害金3400万円の合計●(省略)●万円の損害賠償請求権を有しており,本件訴訟においては,その内金2億2500万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成18年12月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を請求する。
(3)被告の主張についてア被告は,被告が輸入・販売している商品は,原告ら及び新米国コンバース社の両者が取り扱っているモデルの商品(以下「A商品」という。)と原告らが取り扱っていない新米国コンバース社のみのモデルの商品(以下「B商品」という。)があると主張し,原告らがB商品を扱わない理由として,原告らがB商品を扱えば扱うほど,新米国コンバース社の商品と重複する商品が多くなり,その結果,原告らは新米国コンバース社と異なる独自のグッドウィルを構築している姿勢を主張できなくなること,B商品は,原告らが取り扱わないデザインやカラーを採用しているため,原告らがB商品を取り扱う場合には,別途,開発費用や最低製造数量といった経済原則に反する過大なコストを伴うことを挙げる。
しかし,原告らは,独自の品質基準に基づいて日本の需要者向けにきめ細かな商品の品質管理を行っている。したがって,仮に,原告らが,新米36国コンバース社の商品とデザインが類似する商品を製造,販売したとしても,そのこと自体は,原告らが独自のグッドウィルを構築することと何ら矛盾するものではない。また,新製品を開発する際の開発費用や最低製造数量についても,B商品であろうと他の商品であろうと,商品開発の際には同様に発生するものであるから,原告らがB商品を取り扱うことができないことの理由にはならない。さらに,コンバース商標が付されたシューズは,いわゆるブランド品であり,需要者は,コンバース商標が付されていることに魅力を感じて商品を購入するのであって,必ずしもB商品であるから購入するというわけではない。したがって,原告らが取り扱っていない商品があるとの事情は,譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を原告コンバースフットウェアが販売することができないとする事情には該当しないというべきであり,被告の上記主張は理由がない。
イ被告は,被告商品を扱うが原告らとは取引を行わない小売店(非競合店)があり,このような非競合店との取引から被告が得た利益額は,損害額の推定から控除すべきであると主張する。
しかし,原告コンバースフットウェアは,日本全国において原告商品を販売しており,その店舗数は,末端の小売店を含めると約●(省略)●店舗にのぼり,平成17年7月から平成20年9月までの販売実績は,●(省略)●足にのぼる。また,被告の主張によれば,原告商品と被告商品を同時に販売する店舗が約●(省略)●店舗存在するのであり,非競合店の約●(省略)●店舗と比較して格段に多い。これらの事情に照らせば,原告コンバースフットウェアが,非競合店で販売された数量に相当する数量の商品を販売することは十分に可能である。したがって,非競合店の存在は,譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を原告コンバースフットウェアが販売することができないとする事情には該当しないというべきであり,被告の上記主張も理由がない。
37ウ被告は,使用料相当額の算定につき,原告伊藤忠の100パーセント子会社である原告ビーエムアイと原告伊藤忠が80パーセントの株式を保有する子会社である原告コンバースフットウェアとの間で取り決められた料率(●(省略)●パーセント)を基準としており,明らかに公正さに欠けると主張する。
しかし,コンバースは著名なブランドであり,原告商標を付した商品は,原告らの商品だけでも,平成17年7月から平成20年9月までの間に●(省略)●円もの売上を生み出している。また,被告の主張を前提とすれば,被告も,平成15年9月から平成20年9月までの間に●(省略)●円の売上を生み出している(乙89)。このような原告商標の価値に照らせば,●(省略)●パーセントという料率はむしろ控えめな数字であり,被告の上記主張には理由がない。
〔被告の主張〕(1)被告商品の販売数量,売上高及び粗利益について被告商品の販売数量に関する原告らの主張は否認する。
平成17年7月から平成20年9月までの期間(原告コンバースフットウェアの請求に係る期間)における被告商品の販売数量は●(省略)●足,売上高は●(省略)●円,粗利益は●(省略)●円であり,平成15年4月から平成20年9月までの期間(原告訴訟引受人コンバースジャパンの請求に係る期間)については,販売数量は●(省略)●足,売上高は●(省略)●円,粗利益は●(省略)●円である(乙89)。
(2)原告コンバースフットウェアの損害についてア被告が輸入し,販売している商品は,原告ら及び新米国コンバース社の両者が取り扱っているモデルの商品(A商品)と原告らが取り扱っていない新米国コンバース社のみのモデルの商品(B商品)がある。原告らは,原告らの日本モデルの商品のほか,被告の輸入品と実質的に同一であるA38商品を取り扱っているが,B商品は取り扱うことができない。
それは,原告らがB商品を扱えば扱うほど,新米国コンバース社の商品と重複する商品が多くなり,新米国コンバース社と異なる独自のグッドウィルを構築しているという姿勢を主張できなくなること,B商品は,原告らが取り扱っていないデザインやカラーを採用しているため,原告らがB商品を取り扱う場合には,別途,開発費用や最低製造数量といった経済原則に反する過大なコストを伴うことによるものである。
したがって,B商品に関する利益額は,原告らの損害額であると推定することはできないというべきであり,商標法38条1項又は2項を適用するに当たっては,B商品に関する利益額(●(省略)●円)を控除すべきである。
イ原告商品は,国内の約●(省略)●店舗で販売されている。これに対し,被告商品は,約1496店舗で販売されており,このうち,原告商品と被告商品を同時に販売している店舗は約●(省略)●店舗あり,その余の約●(省略)●店舗は,原告らが意図的に取引を行わない非競合店である。
原告らが非競合店と取引を行わないのは,これらの店舗の業態がホームセンター又はディスカウントストアーであり,メーカー希望小売価格を守らない傾向が強く,原告商品を販売している他の小売店からクレームが入る可能性があること,販売力と仕入力に不安があるため,与信管理上,取引できない店舗があることによるものである。
したがって,非競合店との取引により被告が得た利益額は,原告らの損害額であると推定することはできないというべきであり,商標法38条1項又は2項を適用するに当たっては,非競合店との取引により被告が得た利益額(約●(省略)●万円)を控除すべきである。
(3)原告訴訟引受人コンバースジャパンの損害の主張について原告訴訟引受人コンバースジャパンが被告に対して請求するロイヤリティ39の算定基準に関する主張は,原告伊藤忠の100パーセント子会社である原告ビーエムアイと原告伊藤忠が80パーセントの株式を保有する子会社である原告コンバースフットウェアとの間で取り決められた料率(●(省略)●パーセント)を基準としており,明らかに公正さに欠けるものである。この事情を考慮すれば,被告が支払うべき損害額の前提となる料率は2パーセントを超えることはないというべきである。
5(被告の不正競争防止法2条1項1号に関する請求の当否)争点(5)〔被告の主張〕(1)被告は,昭和52年ころから現在に至るまで,約30年間にわたり,新・旧米国コンバース社製の真正商品を約338万足も並行輸入し,日本国内で売上総額約90億円を販売してきた輸入業者であるから,被告標章の使用につき,固有かつ正当な利益を有する商業活動上の立場にあり,独自に不正競争防止法に基づく差止請求権及び損害賠償請求権を行使し得るものである。
(2)そして,原告らは,新米国コンバース社の製造に係る商品ではなく,独自に製造した商品に原告商標を付して販売することにより,需要者の間に広く認識されている被告標章を使用してあたかも原告商品が新米国コンバース社の製造に係る商品であるかのように需要者を誤認混同させている。この原告らの行為は,不正競争防止法第2条1項1号の不正競争行為に当たる。
〔原告らの主張〕(1)被告商品が新米国コンバース社の商品であるとの被告の主張を前提としても,被告は,新米国コンバース社製の商品を海外で購入し,それを日本に輸入している者にすぎず,同社商品の独占的輸入業者でもなければ,新米国コンバース社より商標使用のライセンスを受けている代理店でもないから,不正競争防止法2条1項1号の不正競争を根拠とする差止請求及び損害賠償請求の請求主体とはなり得ない。
40(2)また,前記のとおり,原告らの独自の経営戦略に基づく企業努力の結果,原告商品は,日本国内の需要者から旧米国コンバース社に由来する商品とは異なる新たな信用を得るに至っており,原告商標は,原告らの商品表示として需要者の間に認識されているものであるから,他人の商品と混同を生じさせるものではない。
6争点(6)(被告の不正競争防止法2条1項14号に関する請求の当否)〔被告の主張〕(1)前記のとおり,被告が新米国コンバース社の商標を付した商品を輸入,販売する行為は,真正商品の並行輸入として違法性が阻却される。そうでないとしても,原告らの商標権等の行使は,権利濫用として許されない。
そうすると,原告らの下記(2)及び(3)の行為は,靴の販売に関して競争関係にある被告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布するものであるから,不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に当たる。
(2)原告伊藤忠による並行輸入阻止行為原告伊藤忠は,平成16年,キャンバスオールスター・オックスを対象に輸入差止申立てを税関に行い,その後も引き続き輸入差止申立てを平成20年12月25日まで延長している。この行為は,商標権保護を名目とした並行輸入阻止行為であり,商標権の不正行使である。
(3)原告らによる販売阻害行為原告らは,平成18年11月の本件訴訟提起後,被告にとって重要な事業者に対して,口頭で,「商標権侵害による差止請求」の提訴と,「伊藤忠の短期勝訴」をアピールすることで被告の早期敗訴を示唆し,被告の並行輸入の阻止を図ってきた。
〔原告らの主張〕被告商品は原告商標権の侵害品であるから,侵害品であると表明しても,不正競争防止法2条1項14号に該当しない。
41原告伊藤忠の税関に対する輸入差止申立ては,侵害品の輸入を差し止めるために行っているものであって,何ら商標権の不正行使ではない。また,そもそも,税関に対する輸入差止申立行為は「虚偽の事実を告知し,又は流布する行為」に該当しない。
原告らが,原告らの取引先の一部に対し,本件訴訟を提起した事実を説明したことはあるものの,「伊藤忠の短期勝訴」をアピールした事実はない。
7争点(7)(被告の独占禁止法に基づく請求の当否)〔被告の主張〕(1)私的独占の禁止(独占禁止法3条)違反行為原告伊藤忠は,被告の新米国コンバース社の商品の日本国内への並行輸入販売業務という事業活動を排除する目的で,税関に対する輸入差止申立てをすることにより,世界的に著名なコンバース商標を付した新米国コンバース社の真正商品の日本国内における円滑な流通という公共の利益に反して競争を実質的に制限しており,被告は,原告らに対して,不法行為に基づく損害賠償を求める。
(2)特定の国際的協定又は契約の禁止(独占禁止法6条)及び不当な取引制限(同法3条)違反行為原告伊藤忠は,コンバース商標を付したシューズにつき,平成13年2月24日ころ,新米国コンバース社との間で商標権譲渡契約と共同マーケティング契約を締結し,その中で,?@原告伊藤忠は,その製造するコンバース商標を付したシューズを日本以外の地域で販売してはならない,?A新米国コンバース社は,その製造するコンバース商標を付したシューズを日本国内で販売してはならない,との約定をしている。
このような商標権者による市場の独占的支配を目的とする市場分割の合意は,ハードコアカルテルであって輸入品が国内市場に入ってこないことになり,競争を実質的に制限することになるため独占禁止法6条違反であるとと42もに,不当な取引制限に該当し同法3条に違反するものであるから,被告は,原告らに対して,不法行為に基づく損害賠償を求める。
なお,公正取引委員会勧告審決昭和47年12月27日は,日本のレーヨン糸の製造業者三者が,国外において,西欧事業者らとの間で輸出地域,輸出限度量,最低販売価格を決定することは,当該地域向け輸出取引の分野における競争を実質的に制限するものであり,不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定であると判断している。
(3)被告の並行輸入行為に対する妨害行為(独占禁止法19条)原告らは,被告の海外の流通ルートから,新米国コンバース社の商品の輸入を下記の方法により妨害し,原告らによる市場独占,価格維持を図ろうとしている。
すなわち,原告らは,被告が並行輸入販売する新米国コンバース社の商品を小売店又は被告のインターネットショップで購入し,商品のシールの商品識別コードによりその入手経路を察知し,これを新米国コンバース社に通知するなどの方法により,被告への供給元を割り出し,並行輸入業者への販売を中止させている。この行為は,不公正な取引方法(昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号。以下「一般指定」という。)の競争者に対する取引妨害(15項)に該当する。
したがって,被告は,原告らに対して,独占禁止法19条及び24条に基づき,新米国コンバース社の真正商品の輸入販売を妨害する行為の差止めを求めるとともに,不法行為に基づく損害賠償を求める。
(4)小売店に対する違法行為(独占禁止法19条)ア原告らは,原告商品を販売する小売店及び新米国コンバース社の商品を販売する小売店に対して,新米国コンバース社の商品を販売しないよう指示,要請しており,これは,競争者に対する取引妨害(一般指定15項)に該当する。
43イ原告らは,新米国コンバース社の商品を販売する小売店に対して,同商品を同モデルの原告商品と同一価格で販売するよう指示,要請しており,これは,再販売価格の拘束(一般指定12項)に該当する。
ウ原告らは,原告商品を販売する小売店に対して,同商品を一定の販売価格で販売する(シーズン商品については,シーズン終了後の値引率に関し,限度価格以上で販売する)よう指示,要請しており,これは,再販売価格の拘束(一般指定12項)に該当する。
エ原告らは,上記アないしウの指示,要請に対する小売店の対応内容に基づき,同店に対してその優越的地位を利用して不平等な取扱い(優遇されるスターショップの選定・その取消し,仕入価格の値上げ・値下げ,限定商品の納入・不納入等)をしており,これは取引条件等の差別的取扱い(一般指定4項),排他条件付取引(同11項),拘束条件付取引(同13項)及び優越的地位の濫用(同14項)に該当する。
オ上記アないしエに記載の行為は,いずれも独占禁止法19条に違反する行為であるから,同法24条に基づき,これらの行為の差止めを求めるとともに,不法行為に基づく損害賠償を求める。
〔原告らの主張〕(1)私的独占の禁止違反行為の主張について被告の主張は否認する。
(2)特定の国際的協定又は契約の禁止及び不当な取引制限違反行為の主張について被告の主張は,被告による新米国コンバース社の商品の輸入販売が真正商品の並行輸入に該当することが認められて初めて成り立ちうる主張である。
被告による新米国コンバース社の商品の輸入販売が真正商品の並行輸入に当たらないことは前記のとおりである。
また,被告が引用する公正取引委員会勧告審決昭和47年12月27日は,44レーヨン糸という単一の商品市場について,当該市場の競争を制限するに足りる数の競合企業同士が協定を行ったという事案であり,ナイキ,アディダス,プーマなど,多数の競合者がひしめく運動靴という商品市場において,コンバースの商標が付された靴製品についての事案である本件とは,事案を異にする。
(3)被告の並行輸入行為に対する妨害行為の主張について原告らが,被告商品の輸入販売について,被告の供給元に圧力を加えるなどの方法により妨害した事実はない。
また,被告商品が原告商標権を侵害するものである以上,その旨を海外の商標権者に報告し,調査・対応を求めることは,何ら独占禁止法に違反する行為ではないし,原告らが商標権侵害と判断したことには相応の根拠があり,原告らの行為は,正当な権利行使の一環として行われたものである。
(4)小売店に対する違法行為の主張についてア原告らが,小売店に対して,偽造品を販売しないよう要請したことはあるものの,新米国コンバース社の商品を販売しないよう指示,要請したことはない。また,被告商品の輸入販売行為が原告商標権を侵害するものである以上,原告らがその侵害行為を予防し,差し止める目的で行動することは独占禁止法に違反するものではないし,原告らが商標権侵害と判断したことには相応の根拠があり,原告らの行為は,正当な権利行使の一環として行われたものである。
イ原告らが小売店に対して新米国コンバース社の商品を同モデルの原告商品と同一価格で販売するよう指示,要請したとの被告の主張は否認する。
また,被告は,この指示,要請が,再販売価格の拘束に当たると主張するが,再販売価格の拘束(一般指定12項)は,自己の供給する商品を購入する相手方に対し,自己の商品の販売価格の自由な決定を拘束することなどを禁止するものであるから,被告の主張は失当である。
45ウ原告らは,小売店に対して希望小売価格を提示したことはあるものの,原告商品の再販売価格の拘束を行ったことはない。
また,独占禁止法24条に基づく差止請求は,独占禁止法違反行為によりその利益を侵害され,又は侵害されるおそれのある者が著しい損害を生じ,又は生じるおそれがあるときに限り認められるものであり,被告の主張を前提としても,被告の利益が侵害されるおそれはないから,この点においても,被告の請求は理由がない。
エ原告らが小売店に対して優越的地位を利用して不平等な取扱いをしたとの被告の主張を否認する。また,被告の主張を前提としても,被告の利益が侵害されるおそれはないから,被告の請求は理由がない。
8争点(8)(被告の損害額)〔被告の主張〕(1)原告らによる不正競争行為及び独占禁止法違反行為により,被告は,以下に述べる損害を受けたので,原告らは,不正競争防止法4条,民法709条,同719条に基づき,その損害を賠償する義務を負う。
(2)原告らの上記不法行為は,おおむね平成18年及び平成19年に集中しており,被告は,不法行為全体の影響により,平成20年度の粗利益額が,直前の5年間の年間平均粗利益額に比して,1億3220万5900円減少した(乙89の3頁)。原告らの不法行為により,被告商品について,仕入先,販売先,消費者等の間に商標権を侵害している商品ではないかとの不安感が生じ,被告商品の仕入れ,販売が大幅に減少したことが,粗利益額の減少の原因である。被告の粗利益額が減少した原因が原告らの不法行為のみに起因するものであり,その他の要因によるものでないことは,原告コンバースフットウェアの平成20年度の販売数量と売上高が,過去2年間の平均年間販売実績を上回っていることからも明らかである。したがって,上記1億3220万5900円の全額が被告の逸失利益である。
46(3)本件訴訟は,名古屋地方裁判所に提訴された事件と,東京地方裁判所に提訴された事件の二つの事件の併合事件であるところ,最終的に管轄を東京地方裁判所として審理されたことから,被告にとっては,遠隔地での法廷活動を強いられることになった。加えて,争点も多岐にわたり,立証活動に相当な労力を必要としたことから,被告にとって複数の代理人の選任が必須となった。本件訴訟追行上の上記の事情等を斟酌すると,原告らの主張する弁護士費用と同額の1億3400万円が,原告らが被告に賠償すべき弁護士費用として相当である。
(4)以上によれば,原告らの不法行為と相当因果関係のある被告の損害は,上記(2)と(3)の合計2億6620万5900円となり,本件訴訟において,被告は,その内金として1億円を請求する。
〔原告らの主張〕被告の上記主張は争う。
被告は,平成20年の9月末の最終粗利益額が,直前の5年間の平均粗利益額と比較して,1億3220万5900円減少したことから,この金額が被告の逸失利益であると主張する。
しかし,平成3年から平成18までの被告の売上高を参照すると,被告の売上高は,平成15年以前においても,年によって大幅な増減があり,被告が主張する原告らの不法行為と被告の売上高の減少及び粗利益額の減少との間に因果関係がないことは明らかである。
また,被告は,原告コンバースフットウェアの平成20年度の販売実績が前2年度の販売実績より増加していると主張する。
しかし,原告コンバースフットウェアの販売実績が増加したのは,原告らの品質管理,宣伝広告,販売促進等といった努力の結果である。むしろ,被告の粗利益額の減少は,このような原告らの正当な事業活動の結果,消費者が被告商品よりも原告商品を選択したことによるものである。
47以上によれば,被告の上記主張は失当である。
第4当裁判所の判断1前記争いのない事実等に後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
(1)原告伊藤忠による原告商標権の取得の経緯等ア旧米国コンバース社は,コンバース商標を付した靴を製造販売していた米国法人であり,昭和39年,茶谷産業株式会社を通じて日本における旧米国コンバース社の製造に係る靴の販売を開始し,日本において,履物等を指定商品とする原告商標権1ないし3,6,9及び10を有していた(甲2の1ないし3,6,9及び10)。
昭和48年から昭和56年までは,井上商事株式会社が旧米国コンバース社から同社製の靴を輸入して日本国内で販売していた。昭和56年に,月星化成株式会社(現在の商号株式会社ムーンスター)が,旧米国コンバース社からライセンスを受け,日本国内において靴の製造販売を開始した。
原告伊藤忠の子会社は,平成5年,旧米国コンバース社からカジュアルウェア,タオル,手袋,眼鏡,時計等の商品についての商標権についてライセンスを受け,同商標を付した上記商品を日本国内において製造販売していた。
原告伊藤忠は,平成11年11月,旧米国コンバース社から靴以外の商品に関する商標権を譲り受けた。
イ旧米国コンバース社は,平成13年1月に米国破産法のチャプター11に基づく申立てを行い,倒産手続が開始された。
旧米国コンバース社を買収するために新米国コンバース社(設立時の商号はFootwear Acquisition,Inc.であり,旧米国コンバース社の買収後,Converse,Inc.に商号変更された。)が設立された。原告伊藤忠は,平成13年2月24日,新米国コンバース社と株式取得・商標権契約(Stock Pu48rchase and Trademark Agreement)及び共同マーケティング契約(Cooperative Marketing Agreement)(甲46)を締結した。原告伊藤忠は,同年4月,株式取得・商標権契約に基づき,新米国コンバース社に出資を行い,その5パーセントの株式を取得した。
新米国コンバース社は,同年4月30日,旧米国コンバース社から,日本における靴に関する原告商標権1ないし3,6,9及び10を含む重要資産を譲り受け,同日,原告伊藤忠は,株式取得・商標権契約に基づき,新米国コンバース社から原告商標権1ないし3,6,9及び10を譲り受け,同年5月29日までに,これらの移転登録を完了した。
ウ新米国コンバース社は,平成15年7月,米国ナイキ社により買収された。原告伊藤忠は,同年9月5日,保有していた新米国コンバース社の株式をすべて米国ナイキ社に譲渡し,その後においては,原告らと新米国コンバース社との間に資本関係はない。
(2)共同マーケティング契約についてア上記(1)イの原告伊藤忠と新米国コンバース社との間で平成13年2月24日に締結された共同マーケティング契約の契約書(甲46)には,以下の記載がある。なお,同契約書上,新米国コンバース社は「NEWCO」と表記されている。
「前文伊藤忠は,以前コンバース社より,靴以外の商品に関する日本におけるコンバース商標権を取得し,日本において当該商標権の商標登録を保有している。Closing Dateにおいて,NEWCOは米国及びその他地域におけるコンバース商標権を管理できる立場になる。
伊藤忠及びNEWCOは,Cre-8-Net Ventures LLCとともに,本契約と同日に締結された株式取得・商標権契約の当事者であり,当該契約に基づきコンバースシューズの日本商標権を伊藤忠に譲渡することを意49図している。
NEWCO及び伊藤忠は,コンバース商標として統一ブランドを構築するため,コンバースブランド商品のマーケティング,デザイン,製造及び開発の分野において,互いのアイディアを調整し,共有することを希望している。
上記事項及び下記契約を考慮の上,両当事者は以下のとおり合意する。
●(省略)●イ平成15年7月に新米国コンバース社が米国ナイキ社により買収された後,原告伊藤忠と新米国コンバース社は,同年12月18日付けで共同マーケティング契約の有効期限を平成18年6月30日までと変更する合意をした(甲48)。
(3)原告コンバースフットウェアは,TD社(Twin Dragons Global, Ltd.)と業務委託契約を締結しており,平成20年2月21日付けの業務委託契約書(甲56)には,以下の記載がある。なお,同契約書上,原告コンバースフットウェアは「買主」と,TD社は「買付代理人」と表記されている。
「1●(省略)●(4)平成18年5月8日時点において,TD社の持ち株比率は,新米国コンバース社が99パーセント,ナイキホールディング社(Nike Holding,Inc.)が1パーセントであった(乙37)。
(5)原告コンバースフットウェアとTD社との間の業務委託契約に基づき製造工場が決定された結果,原告コンバースフットウェアの商品と新米国コンバース社の商品とが同一の工場で製造されることがあった。
(6)原告コンバースフットウェアは,靴に使用される素材の品質を定める「物性基準」及び靴の完成品が有すべき品質を定める「完成品品質基準」等を定め,これらに基づき,少なくとも以下の検査を行って靴製品の品質管理50を行っている(甲50の1,51の1,55)。そして,以下のとおり,これらの検査に関する原告コンバースフットウェアの品質管理基準は,新米国コンバース社の品質管理基準と異なっている。なお,以下に記載する等級は,5段階に区分し,変色なしを5級,大きな変色を1級としている。
ア物性基準に基づく検査(甲50の1〜3,55)(ア)破裂試験製造時及び着用時に靴の布部分が容易に破れないかを評価するための試験である。
原告コンバースフットウェアにおいては,JIS規格L1096に従い,ミューレン形破裂試験機によって行われている。基準値は●(省略)●の強度とされている。
新米国コンバース社においては,破裂試験は行われていない。
(イ)フェード変色試験着用時や店頭での販売時などに光にさらされて容易に変色しないかを評価するための試験である。
原告コンバースフットウェアにおいては,JIS規格L0842に従い,カーボンアーク式フェード試験機により●(省略)●時間かけて行われている。基準値は,●(省略)●とされている。等級判定は,日本規格協会染色堅ろう度委員会が監修するJIS染色堅ろう度試験用変退色用グレースケール(甲54の1)を用いて行われる。
新米国コンバース社は,フェード変色試験をUV試験機により●(省略)●時間かけて行い,基準値は●(省略)●とされている。原告コンバースフットウェアが採用しているカーボンアーク式フェード試験機は,UV試験機に比べ紫外線強度が強く,新米国コンバース社と同様の試験方法で変色しなかった素材でも,原告コンバースフットウェアの試験方法では変色しており(甲50の3,55),基準値も合わせ考えると原51告コンバースフットウェアの基準の方が新米国コンバース社の基準より厳しいものといえる。
(ウ)洗濯堅牢度試験洗濯時に色落ちしないかを評価するための試験である。
原告コンバースフットウェアにおいては,JIS規格L0844に従い,●(省略)●℃の恒温槽に石けん水を入れて●(省略)●間洗濯して行われている。基準値は●(省略)●とされている。等級判定は,日本規格協会染色堅ろう度委員会が監修するJIS染色堅ろう度試験用汚染用グレースケール(甲54の1)を用いて行われる。
新米国コンバース社においては,洗濯堅牢度試験は行われていない。
(エ)水浸堅牢度試験雨等に濡れた場合に靴下等に色移りしないかを評価するための試験である。
原告コンバースフットウェアにおいては,対象素材を白布で挟み,水に漬けた後,乾燥させて行われている。基準値は織布が●(省略)●,革が●(省略)●とされている。等級判定は,日本規格協会染色堅ろう度委員会が監修するJIS染色堅ろう度試験用汚染用グレースケール(甲54の1)を用いて行われる。
新米国コンバース社は,水浸堅牢度試験を米国繊維化学者・色彩技術者協会の試験方法で行い,基準値は織布が●(省略)●,革が●(省略)●とされている。
(オ)湿摩擦堅牢度試験着用時の摩擦により靴下やズボン等に色移りしないかを評価するための試験である。
原告コンバースフットウェアにおいては,JIS規格L0849に従い,学振形摩擦試験機によって,●(省略)●グラムの重りをかけて●52(省略)●,白い布に擦りつけて色移りの程度を確認する方法で行われている。基準値は表が●(省略)●,裏が●(省略)●とされている。
等級判定は,日本規格協会染色堅ろう度委員会が監修するJIS染色堅ろう度試験用汚染用グレースケール(甲54の1)を用いて行われる。
新米国コンバース社は,湿摩擦堅牢度試験を●(省略)●グラムの重りをかけて手動式で●(省略)●回,白い布に擦りつける方法で行っている。基準値は●(省略)●とされている。新米国コンバース社の試験方法による結果に比べ原告コンバースフットウェアの試験による結果の方が色移りの程度が強くなっており(甲50の3),基準値も合わせ考えると原告コンバースフットウェアの基準の方が新米国コンバース社の基準より厳しいものといえる。
(カ)摩耗試験着用時に中底が破れないかを評価するための試験である。
原告コンバースフットウェアにおいては,JIS規格L1096に従い,ユニバーサル摩耗試験機により,●(省略)●の研磨紙で●(省略)●回擦って破れないかを試験している。
新米国コンバース社が行っている摩耗試験では,同じタイプの摩耗試験機が用いられるが,●(省略)●の研磨紙で●(省略)●回擦って破れないかを検査しており,原告コンバースフットウェアの基準の方が厳しい基準といえる。
(キ)ホルムアルデヒド試験皮膚のかぶれの原因となり得るホルムアルデヒドが発生しないか確認するための試験である。
原告コンバースフットウェアにおいては,JIS規格L1041に従って,遊離ホルムアルデヒド定量試験を行っている。基準値は,●(省略)●とされている。
53新米国コンバース社においては,ホルムアルデヒド試験は行われていない。
イ完成品品質基準に基づく検査(甲51の1・2,55)(ア)製品屈曲試験着用時にテープが剥がれないか確認するための試験である。
原告コンバースフットウェアにおいては,常温で●(省略)●度の屈曲を●(省略)●回行って結果を測定している。基準値は,テープ剥離が幅●(省略)●で深さ●(省略)●とされている。
新米国コンバース社が行っている製品屈曲試験では,常温で●(省略)●度の屈曲を●(省略)●回行うこととされているが,明確な基準値の設定はない。
(イ)アッパー/テープ接着強度試験着用時にテープや底が剥がれないよう,アッパーとテープの接着強度を確認するための試験である。
原告コンバースフットウェアにおいては,乾燥した状態と水に濡れた状態で,アッパーとテープの境目から●(省略)●幅で一定の速度で剥離して強度を測定している。基準値は,布靴については乾燥した状態で●(省略)●で剥離して●(省略)●,水に濡れた状態で●(省略)●で剥離して●(省略)●であり,革靴については乾燥した状態で●(省略)●で剥離して●(省略)●,水に濡れた状態で●(省略)●とされている。
新米国コンバース社においても,アッパー/テープ接着強度試験を行っているものの,基準値は,布靴,革靴の区別なく,乾燥した状態で●(省略)●で剥離して●(省略)●,水に濡れた状態で●(省略)●で剥離して●(省略)●とされており,原告コンバースフットウェアの基準の方が厳しいものといえる。
542争点(1)(並行輸入の抗弁)について(1)商標権者以外の者が我が国における商標権の指定商品同一の商品につき,その登録商標と同一又は類似の商標を付したものを輸入する行為は,商標権者の許諾を受けない限り,商標権を侵害する(商標法2条3項,25条,37条)。しかし,そのような商品の輸入であっても,?@当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり,?A当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより,当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって(以下「同一人性の要件」という。),?B我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合(以下「品質管理性の要件」という。)には,いわゆる真正商品の並行輸入として,商標権侵害としての実質的違法性を欠くものと解するのが相当である(最高裁判所平成15年2月27日第一小法廷判決・民集57巻2号125頁参照)。商標法は,「商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もつて産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」ものであり(同法1条),上記各要件を充たすいわゆる真正商品の並行輸入は,商標の機能である出所表示機能及び品質保証機能を害することがなく,商標の使用をする者の業務上の信用及び需要者の利益を損なわず,実質的に違法性がないということができるからである。
(2)同一人性の要件についてア同一人性の要件における「法律的に同一人と同視し得るような関係がある」とは,外国における商標権者と我が国の商標権者とが,親子会社の関係にある場合や,総販売代理店の関係にある場合等を指し,「経済的に同55一人と同視し得るような関係がある」とは,外国における商標権者と我が国の商標権者が同一の企業グループを構成している等の密接な関係が存在することをいうものと解するのが相当である。
イそこで,まず,原告伊藤忠と新米国コンバース社との間に,「法律的に同一人と同視し得るような関係がある」といえるかどうかについてみると,前記認定事実のとおり,原告伊藤忠は,新米国コンバース社に出資していたことがあるものの,その取得した株式の持分割合は5パーセントにすぎず,それも平成15年9月5日にはすべての株式を米国ナイキ社に譲渡し,その後においては原告伊藤忠と新米国コンバース社との間に資本関係はない。また,原告伊藤忠は,その子会社である原告ビーエムアイ(現在は,原告訴訟引受人コンバースジャパン)及び原告コンバースフットウェアを通じて,原告商標を付した靴製品を製造販売しているのであって,新米国コンバース社の商品の輸入販売を行っている者ではない。
したがって,新米国コンバース社と原告伊藤忠とは,親子会社の関係にあるとも,総販売代理店の関係にあるとも認められず,他にそれらに類する関係にあると認めるに足る事情もないから,両者の間に,「法律的に同一人と同視し得るような関係がある」ということはできない。
ウ次に,新米国コンバース社と原告伊藤忠とは「経済的に同一人と同視し得るような関係がある」といえるかどうか,すなわち,新米国コンバース社と原告伊藤忠との間に,同一の企業グループを構成している等の密接な関係が存在するかどうかについてみる。
被告は,原告伊藤忠と新米国コンバース社との間に品質の同一性を維持するための品質管理契約である共同マーケティング契約が締結されていること,原告商品の品質管理を新米国コンバース社の子会社に委託し,原告商品と新米国コンバース社の商品とが同一の工場で製造されていることを挙げて,新米国コンバース社と原告伊藤忠との間に「経済的に同一人と同56視し得るような関係がある」と主張する。
(ア)被告は,その主張の根拠の一つとして共同マーケティング契約を挙げる。しかしながら,前記認定事実によれば同契約の内容は次のとおりである。
すなわち,共同マーケティング契約の第1項は,相互にマーケティングの努力(marketing effort)に協力する義務を定めているにすぎず,そこで例示されている協力分野もプレスリリースや広告など,販売を促進するための活動(いわゆるマーケティング)に関するものにとどまっている。
同契約第2項第1文によれば,新米国コンバース社からは原告伊藤忠に対して靴に関する情報を提供することとされているものの,原告伊藤忠が新米国コンバース社に対して提供すべき情報はアパレルに関するものであって,靴に関する情報の提供義務は定められていない。さらに同契約第2項第5文では,両当事者は提供された商品情報を使用する義務を負わないとしているのであるから,第2項は,靴の品質について相互を拘束するものとは認められない。
同契約第3項は,相互に施設の訪問・視察を行うことができると定めているものの,その目的は,相手方のオペレーションや商品を認識する(familiarizing)ため,又は技術援助や情報を得るためとされており,互いの品質管理を行うことを目的としたものとはされていない(なお,被告は,"inspect"を「検査」と翻訳すべきと主張するが,文脈から「視察」と解するのが相当と認められる。)。
同契約第4項は,シューズ及びアパレルを同一施設で製造することを将来的に合意することができるとしているにすぎず,現実にこのような合意がされた形跡はない。同契約第5項の定めるマーケティング会議も,マーケティング戦略,新規製造技術,商品デザイン,商品開発,他社と57の競争,コンバースマーク又は類似マークのついた偽物に関する情報及びこれに関連する問題等,互いの利益になる事項について協議するものとされているにとどまり,品質管理について相互又は一方を拘束するものとは認められない。同契約第7項及び第8項によれば,両当事者が使用を許諾されているのは商品情報であって,知的財産権の使用については許諾されていない。
以上のとおり,共同マーケティング契約が定める内容を検討するならば,同契約は,販売促進のための協力義務等を定めているにとどまり,品質管理などについて当事者を互いに拘束する内容のものではなく,むしろ原告伊藤忠と新米国コンバース社が別個の経済主体であることを前提とした上で,互いに有益な情報の提供を行うなどの協力を行うことを内容として締結されたものであると解するのが相当である。共同マーケティング契約の存在は,原告伊藤忠と新米国コンバース社とが経済的に同一人と同視し得るような関係にあるとみるべき事情に当たるとは認められない。
(イ)被告は,原告コンバースフットウェアが原告商品の品質管理を新米国コンバース社の子会社に委託し,原告商品と新米国コンバース社の商品とが同一の工場で製造されていることをその主張の根拠の一つとして挙げる。
前記認定事実によれば,原告コンバースフットウェアがTD社に海外での一部業務の委託を行っていたこと,TD社が新米国コンバース社の子会社であったこと,原告商品と新米国コンバース社の商品とが同一工場で製造されたことがあったことが認められる。
しかしながら,前記認定事実のとおり,原告コンバースフットウェアは,独自の品質管理基準を設定して試験を行っていることなどからすれば,原告商品と新米国コンバース社の商品とが同一の製造工場で製造さ58れたことがあったとしても,そのことから直ちに両商品が同工場の同一のラインで製造されていたものと認めることはできず,他に両商品が同一のラインで製造されたことを認めるに足る証拠はないから,原告商品と新米国コンバース社の商品とが同一の品質管理の下に置かれていると認めることはできず,上記被告が主張する事実は,原告伊藤忠と新米国コンバース社とが経済的に同一人と同視し得るような関係にあるとみるべき事情に当たるとは認められない。
(ウ)上記のとおり,原告伊藤忠と新米国コンバース社との間の共同マーケティング契約は,販売促進のための活動の協力を定めたものにすぎないこと,また,原告コンバースフットウェアの商品と新米国コンバース社の商品とが同一の品質管理下に置かれているということもできないことからすれば,原告伊藤忠と新米国コンバース社との間に,同一の企業グループを構成している等の密接な関係があるとはいえず,両者が経済的に同一人と同視し得るような関係にあるとは認めることはできない。
エ以上のとおりであるから,外国における商標権者である新米国コンバース社と我が国の商標権者である原告伊藤忠とは,法律的にも経済的にも同一人と同視し得るような関係にあったと認めることはできず,同一人性の要件を充たすとは認められない。
オ被告は,コンバース商標は世界的に著名であり,原告伊藤忠が原告商標権を取得した後も,同商標権につき原告伊藤忠に独自のグッドウィルが構築されておらず,原告商標によって需要者が識別する出所は新米国コンバース社であるから,同一人性の要件を充たさなくても,新米国コンバース社の商品を輸入販売する行為は,原告商標の出所表示機能を害することはないので違法性はない,と主張する。
しかしながら,商標の出所表示機能とは,同一の商標が付された商品や役務は同一の出所に由来することを示す機能であり,商標法が保護する出59所は登録商標権者というべきである。本件において,原告商標が示す出所は登録商標権者である原告伊藤忠であるから,前記のとおり,原告伊藤忠と新米国コンバース社との間で「同一人性の要件」を充たしていると認めることができない以上,原告商標と同一又は類似する標章を付した新米国コンバース社の靴を輸入,販売する行為は原告商標が示す出所とは異なる出所の商品を流通させることによって原告商標の出所表示機能を害する違法なものであるといえる。
仮に,被告の主張するようにコンバース商標が世界的に著名であり,原告伊藤忠が原告商標権を取得した後も,同商標権につき原告伊藤忠に独自のグッドウィルが構築されていないため原告商標によって需要者が識別する出所が新米国コンバース社であったとしても,商標法上,原告商標の示す出所として保護の対象とされているのは,譲受け後の登録商標権者である原告伊藤忠であることは変わりはないというべきである。なぜなら,商標法においては,当該商標を使用していることは商標登録の要件とされておらず(登録主義),商標権者は,商標を使用していなくとも,当該商標を権限なく使用する者に対して商標権に基づき侵害行為の差止め等を請求することができることに鑑みると,登録商標権者が当該商標につき,独自のグッドウィルを構築しておらず,需要者の識別する出所が登録商標権者とは異なっていたとしても,登録商標権者を商標法の保護する出所として取り扱うのが相当だからである。実質的に見ても,独自のグッドウィルの構築の有無や需要者の認識内容といった必ずしも明確とはいえない基準で,出所としての保護の有無が左右されるような解釈を採るのは相当とはいえない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(3)品質管理性の要件について前記のとおり,共同マーケティング契約は,商品の品質に関する取決めで60はなく,原告らと新米国コンバース社との間において,品質管理に関する契約があったと認めることはできないこと,原告コンバースフットウェアは新米国コンバース社の設定する品質管理基準とは異なる独自の品質管理基準を設定し,これに基づいて試験を実施して品質管理を行っていることからすれば,原告伊藤忠は直接的にも間接的にも,新米国コンバース社の商品の品質管理を行い得る立場にあるとは認められず,また,新米国コンバース社の商品と原告商品とが実質的に差異がないと認めることもできないから,品質管理性の要件を充たすとは認められない。
(4)以上のとおり,本件においては,少なくとも同一人性の要件及び品質管理性の要件を充たすとは認めることはできないから,被告の並行輸入の抗弁は採用することができない。
3争点(2)(権利濫用の抗弁)について(1)被告は,原告らは,原告商標権の譲受けを契機に,従前の国内商標権者である旧米国コンバース社が化体していたものとは別個独立の信用を原告商標権に化体しようと努力するのではなく,むしろ,従前の商標権者が培ってきた原告商標に化体したグッドウィルを積極的に便乗利用しつつ,かたや同一の信用の化体した被告標章を付した商品に対し原告商標権を行使し,これを否定するという矛盾行動を行っており,このような原告らの請求は権利濫用に該当すると主張する。
しかしながら,原告らは,原告商標権を譲り受けた後,自ら原告商標を付した商品を製造し,新商品を独自に開発し,独自の品質管理を行い,雑誌,テレビ等において多額の費用をかけて宣伝広告を行うなどしており(甲19ないし26,43),原告らが独自の信用の形成に努力していないとはいえない。原告らは,その宣伝広告の中において,コンバースが旧米国コンバース社に由来するものである旨の説明をしていることが認められる(乙9)ものの,商標権の譲受人が当該商標に付着している信用を利用することはむし61ろ自然なことであって何ら不当であるとはいえない。前記のとおり原告伊藤忠と新米国コンバース社との間に,同一人と同視し得る密接な関係がない以上,原告らにおいて自らの商品ではないにもかかわらず原告商標権と同一又は類似の商標が付されている商品の輸入販売行為の差止めを求めることは正当な権利行使であり,被告の主張は採用することができない。
(2)被告は,原告らは独自のグッドウィルの構築をするふりをするのみで,旧米国コンバース社のグッドウィルを便乗利用し,需要者に出所,品質の誤認,混同を生じさせていると主張する。しかしながら,既に述べたとおり,新米国コンバース社から正当に商標権を譲り受けた原告伊藤忠が原告商標に化体された信用を利用して営業を行うことに何ら不当な点はない。
また,被告は,原告らが不正競争防止法違反行為及び独占禁止法違反行為を行っていると主張するものの,これらの主張に理由がないことは後記6ないし8のとおりである。
(3)被告は,自らが30年間にわたって新・旧米国コンバース社の商品を日本に輸入してきたために日本におけるコンバース商標権のグッドウィルが構築されたと主張する。しかしながら,被告の主張する事情は,原告らによる権利の行使を権利濫用とするに足りるものではない。
(4)被告は,被告商品と原告商品とは品質が実質的に同一であって需要者の出所,品質に関する信頼に反する結果は生じない,被告商品には原告商品と区別するラベルを付しているために需要者の信頼に反する結果にならない,品質が異なるとしてもそれは原告ら自らの行為による結果であるなどと主張する。
しかしながら,前記のとおり,被告商品と原告商品とは品質管理基準を異にし,相互に品質管理を行い得る関係にあるとも認められないから,両者の品質が実質的に同一であるとはいえない。また,ラベルを付したとしても誤認混同のおそれは解消されるものではなく,被告商品の輸入販売は,商標の62出所表示機能を害するものであるから,商標権の行使を否定すべき理由とはならない。
(5)被告は,原告伊藤忠がコンバース商標の買収資金を上回る利益を得ていることを主張するものの,このような事情が直ちに原告らの請求を権利濫用とすべき事情となるものではないことは明らかである。
(6)以上のとおり,被告の主張はいずれも採用することができず,被告の権利濫用の抗弁は理由がない。
4争点(3)(商標権無効の抗弁)について被告は,原告商標権4,5,7及び8に係る商標は,出願時に需要者の間においてコンバース商標として広く認識されていた被告標章4,5,7及び8と同一又は類似しているから,原告商標権4,5,7及び8は商標法4条1項10号により無効とされるべきものと主張する。
しかしながら,弁論の全趣旨によれば,原告商標5及び8は,原告伊藤忠が旧米国コンバース社から指定商品をアパレル及びアクセサリーとする同一ロゴの国内商標権を譲り受けた際,旧米国コンバース社が履物のみを指定商品とする同一ロゴの商標権を分離して保有していたのを,その後,原告伊藤忠が同商標権を譲り受けたため,管理の簡素化のため,平成17年に両者をまとめて登録し直したものであること,原告商標権4及び7は,原告伊藤忠が平成13年に新米国コンバース社から譲り受けた原告商標の一部と類似する商標を平成16年(原告商標権7)及び平成17年(原告商標権4)にそれぞれ登録したものであることが認められる。そうすると,原告商標4,5,7及び8の登録時において,これらと類似する被告標章4,5,7及び8は,我が国において登録することができず,原告伊藤忠の許諾なく使用することもできないものであったということができるのであり,このような事実関係の下では,原告商標4,5,7及び8は,「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するもの」に該当するということはできないと解するのが相当である。
63したがって,被告の商標権無効の抗弁は理由がない。
5争点(4)(原告らの損害)について(1)原告コンバースフットウェアの損害ア以上に説示したところによれば,被告による被告商品の輸入販売行為は,原告コンバースフットウェアの有する原告商標の独占的通常実施権を侵害する不法行為に当たるものと認められるから,被告は,これにより原告コンバースフットウェアの被った損害を賠償する責任がある。
イ証拠(甲64ないし68)及び弁論の全趣旨によれば,平成17年7月から平成20年9月までの期間における原告コンバースフットウェアの原告商標を付した靴の販売数量は●(省略)●足,売上高は●(省略)●円,売上原価(製造原価,船賃,梱包料,保険料,輸入チャージ,原告ビーエムアイに支払われたロイヤリティの額及び買付代理人への業務委託料を合計した額を指す。)は●(省略)●円,国内運送費は●(省略)●円であることが認められ,これらによれば,原告コンバースソフトウェアの1足当たりの利益の額は,原告コンバースフットウェアの売上高から売上原価及び国内運送費を差し引いた額を販売数量で除した額である●(省略)●円(小数第2位以下切り捨て)と認められる(下記計算式のとおり。)。
(計算式)(●(省略)●-●(省略)●-●(省略)●)÷●(省略)●=●(省略)●(売上高)(売上原価)(国内運送料)(販売数量)ウ平成17年7月から平成18年9月までの期間に係る損害証拠(乙89)及び弁論の全趣旨によれば,平成17年7月から平成18年9月までの期間における被告商品の販売数量は,52万4518足であり,これにより被告が得た粗利益は3億8952万9938円であることが認められる。
以上によれば,商標法38条1項により算出される損害額は,原告コン64バースフットウェアの1足当たりの利益の額である●(省略)●円に被告商品の販売数量である52万4518足を乗じた●(省略)●円と認められ,商標法38条2項により算出される損害額は,被告が得た粗利益である3億8952万9938円から後記のとおり原告コンバースフットウェアが原告ビーエムアイ及び原告訴訟引受人コンバースジャパンに対し売上高の●(省略)●パーセント相当額をロイヤリティとして支払っていると認められることを考慮して,上記商標使用料相当額としてその●(省略)●パーセントを控除した●(省略)●円となるから,より金額の大きい●(省略)●円が原告コンバースフットウェアの被った損害額であると認められる。
そして,本件訴訟の内容等の諸般の事情を考慮すれば,弁護士費用としては1000万円が相当と認められるので,損害額は合計●(省略)●円となる。
エ平成18年10月から平成19年9月までの期間に係る損害証拠(乙89)及び弁論の全趣旨によれば,平成18年10月から平成19年9月までの期間における被告商品の販売数量は,●(省略)●足であり,これにより被告が得た粗利益は●(省略)●円であることが認められる。
以上によれば,商標法38条1項により算出される損害額は,原告コンバースフットウェアの1足当たりの利益の額である●(省略)●円に被告商品の販売数量である●(省略)●足を乗じた●(省略)●円と認められ,商標法38条2項により算出される損害額は,被告が得た粗利益である●(省略)●円から上記商標使用料相当額としてその●(省略)●パーセントを控除した●(省略)●円となるから,より金額の大きい●(省略)●円が原告コンバースフットウェアの被った損害額であると認められる。
オ上記ウ及びエの合計損害額は,●(省略)●円となり,原告コンバース65フットウェアが請求する5億6600万円を超えるため,その余の損害については判断を要しない。そして,上記ウの損害に係る請求については,原告コンバースフットウェアが請求する訴状送達の日の翌日である平成18年12月8日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金が認められるが,上記エの損害に係る請求については,損害が被告決算期ごとにしか判明しないため,決算期の最終日である平成19年9月30日を起算日として遅延損害金が発生するものと認める。
カ被告は,被告が輸入販売している新米国コンバース社の商品のうち,原告らが同一のモデルを製造販売していない商品(B商品)については,原告らは取り扱うことができないので,B商品に関する利益額(●(省略)●円)を損害額から控除すべきであり,また,被告商品のみを扱い原告商品を扱わない非競合店における売上げによる利益額(●(省略)●万円)も控除すべきであると主張する。
しかしながら,弁論の全趣旨によれば,被告商品と原告商品はいずれも著名なコンバース商標が付されたスニーカー等のカジュアル靴であり,消費者は,著名なコンバース商標に着目して商品を購入するものであること,原告コンバースフットウェアは全国において原告商品を販売しており,末端の小売店を含めた店舗数は●(省略)●店舗にのぼり,平成17年7月から平成20年9月までの販売実績が●(省略)●足にのぼること,原告商品を取り扱わない店舗の数は約●(省略)●店舗にすぎないことが認められ,これらの事情に照らすと,被告商品中に原告の取り扱わない商品があること,被告商品のみを扱い原告商品を扱わない店舗が存在することは,いずれもB商品の譲渡数量及び非競合店における被告商品の譲渡数量を原告コンバースフットウェアが販売することができないとする事情には該当しないというべきである。
被告の主張は採用できない。
66キよって,原告コンバースフットウェアの請求は,同原告が内金として請求する5億6600万円の全額について理由があるが,遅延損害金については,内金4億5521万0878円につき平成18年12月8日から,内金1億1078万9122円につき平成19年9月30日からそれぞれ年5分の割合の限度で理由がある。
(2)原告訴訟引受人コンバースジャパンの損害ア既に説示したところによれば,被告による被告商品の輸入販売行為は,原告ビーエムアイ及び原告訴訟引受人コンバースジャパンの有する原告商標の独占的通常実施権を侵害する不法行為に当たるものと認められるから,被告はこれにより原告ビーエムアイ及び原告訴訟引受人コンバースジャパンが被った損害を賠償する責任がある。
イ平成15年4月から平成18年9月までの期間に係る損害証拠(甲63,乙89)及び弁論の全趣旨によれば,平成15年4月から平成18年9月までの期間における被告商品の売上高は●(省略)●円であること,原告ビーエムアイ(会社分割後は,原告訴訟引受人コンバースジャパン)が原告コンバースフットウェアに対して原告商標の使用許諾するに当たって定められた商標使用料は,純売上高●(省略)●円に満つるまでの部分についてはその●(省略)●パーセントと合意されていることが認められる。
これらによれば,被告商品の販売行為に対して受けるべき金銭の額に相当する額は,被告商品の売上高●(省略)●円の●(省略)●パーセントである●(省略)●円であり,これが原告ビーエムアイが被った損害と認められる(商標法38条3項)。
そして,本件訴訟の内容等の諸般の事情を考慮すれば,弁護士費用としては400万円が相当と認められるので,損害額は合計●(省略)●円となる。
67ウ平成18年10月から平成19年9月までの期間に係る損害証拠(甲63,乙89)及び弁論の全趣旨によれば,平成18年10月から平成19年9月までの期間における被告商品の売上高は●(省略)●円であることが認められ,この●(省略)●パーセントである●(省略)●円が原告ビーエムアイが被った損害と認められる。
エ原告訴訟引受人コンバースジャパンは,原告ビーエムアイから上記損害に係る損害賠償請求権を承継していることが認められるところ,上記イ及びウの合計損害額は,●(省略)●円となり,原告訴訟引受人コンバースジャパンが請求する2億2500万円を超えるため,その余の損害については判断を要しない。そして,上記アの損害に係る請求については,原告訴訟引受人コンバースジャパンが請求する訴状送達の日の翌日である平成18年12月8日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金が認められるが,上記イの損害に係る請求については,損害が被告決算期ごとにしか判明しないため,決算期の最終日である平成19年9月30日を起算日として遅延損害金が発生するものと認める。
オこの点,被告は,原告伊藤忠の100パーセント子会社である原告ビーエムアイと原告伊藤忠が80パーセントの株式を保有する子会社である原告コンバースフットウェアとの間で取り決められた使用料率●(省略)●パーセントは公正さに欠け,正当な使用料率は2パーセントを超えないと主張する。
しかしながら,原告商標は国内においても著名であること,原告らが広告宣伝に多額の費用をかけていること(甲40によれば,平成14年4月から平成19年8月までの間における広告宣伝費は30億円以上であることが認められる。),被告も平成15年4月から平成20年9月までの間において被告商品の販売により●(省略)●円の粗利益を上げていること(乙89)からすれば,使用料率を●(省略)●パーセントとすることが68不合理とはいえない。
カよって,原告訴訟引受人コンバースジャパンの請求は,内金として請求する2億2500万円の全額について理由があるが,遅延損害金については,内金1億9991万8646円につき平成18年12月8日から,内金2508万1354円につき平成19年9月30日からそれぞれ年5分の割合の限度で理由がある。
6争点(5)(被告の不正競争防止法2条1項1号に関する請求の当否)について被告は,約30年間にわたり新・旧米国コンバース社の真正商品を輸入販売してきた者であるから,新米国コンバース社の標章の使用につき,固有かつ正当な利益を有し,独自に不正競争防止法に基づく差止請求権を有すると主張する。
しかしながら,不正競争防止法2条1項1号,3条又は4条に基づく差止請求又は損害賠償請求を求めることができる者は,周知の「商品等表示」が冒用され,当該「商品等表示」に化体された信用,名声が希釈化されることにより,自らの営業上の利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者,すなわち,当該「商品等表示」により取引者,需要者から当該製品の製造者若しくは販売者,あるいは当該営業の主宰者として認識される者であると解すべきであり,単に輸入業者として商品等表示を使用した商品を輸入販売していたにすぎない者はこれに含まれないと解するのが相当である。
被告は,新・旧米国コンバース社の商品を並行輸入していたと主張する者であるにすぎないから,不正競争防止法2条1項1号に基づく損害賠償請求権者又は差止請求権者とはなり得ないのであって,同号に関する被告の請求はいずれも理由がない。
7争点(6)(被告の不正競争防止法2条1項14号に関する請求の当否)について69被告は,被告による新米国コンバース社製の靴を輸入販売する行為は違法性が阻却され,あるいは,原告らの商標権等の行使は権利濫用に当たるので,原告が被告商品が侵害品であると告知又は流布する行為は不正競争防止法2条1項14号に該当すると主張する。
しかしながら,被告の並行輸入の抗弁,権利濫用の抗弁及び商標権無効の抗弁はいずれも採用することができず,被告の輸入販売行為につき商標権侵害の違法性が阻却されると認めることができないことは既に説示したとおりであるから,被告の上記主張はその前提を欠くものである。
不正競争防止法2条1項14号に関する被告の請求はいずれも理由がない。
8争点(7)(被告の独占禁止法に基づく請求の当否)について(1)被告は,原告伊藤忠が税関に対し,被告商品の一部について輸入差止申立てをしたことが,私的独占の禁止(独占禁止法3条)に違反すると主張する。しかしながら,既に説示したとおり,被告の抗弁はいずれも採用できないから,原告伊藤忠による輸入差止申立ては,商標権の正当な行使であると認められ,独占禁止法3条の私的独占の禁止にも不当な取引制限にも該当しない(独占禁止法21条)。
(2)被告は,原告伊藤忠は日本国外でコンバース商標を付した靴を販売せず,新米国コンバース社は日本国内でコンバース商標を付した靴を販売しないことを,原告伊藤忠と新米国コンバース社との間で合意したものであり,これにより輸入品が国内市場に入ってこないことになり,競争を実質的に制限することになるから,独占禁止法3条及び6条に違反すると主張する。
しかしながら,被告による新米国コンバース社製の靴の輸入販売行為につき並行輸入の抗弁が認められず,商標権侵害の違法性が阻却されないことは既に説示したところであるから,被告の主張はその前提を欠くものである。
(3)被告は,原告らが被告の供給元に対して並行輸入業者へ販売しないよう働きかけたり,新米国コンバース社の商品を販売しないよう小売店に要請し70たりしており,これらの行為は,競争者に対する取引妨害(一般指定15項)に該当すると主張する。しかしながら,被告の並行輸入の抗弁が認められず,被告による新米国コンバース社製の靴の輸入販売行為につき商標権侵害の違法性が阻却されないことは既に説示したとおりであるから,仮に被告が主張するような原告伊藤忠の行為があったとしても,これらの行為は正当な商標権行使であると認められ,独占禁止法違反に当たるものとは認められない(同法21条)。
(4)被告は,原告らは小売店に対して新米国コンバース社の商品を原告商品と同一価格で販売するよう要請しており,この行為は再販売価格の拘束(一般指定12項)に該当すると主張する。しかしながら,再販売価格の拘束の行為主体は商品の供給者であって,原告らは新米国コンバース社の商品の供給者ではないから,上記の行為の有無について判断するまでもなく,被告の主張は理由がない。
(5)被告は,原告らが小売店に対して原告商品を一定以上の価格で販売するよう要請している行為は再販売価格の拘束(一般指定12項)に該当すると主張する。
しかしながら,そもそも,仮に上記行為があったとしても,それにより被告の何らかの利益が害されたと認めることはできないから,上記の行為の有無について判断するまでもなく,被告の独占禁止法24条に基づく差止請求及び不法行為に基づく損害賠償請求は,いずれも理由がない。
(6)被告は,原告らによる小売店に対する要請(新米国コンバース社の商品を販売しないこと,新米国コンバース社の商品を原告商品と同一価格で販売すること,原告商品を一定価格以上で販売すること)への対応内容によって不平等な取扱いを行っており,これが取引条件等の差別的取扱い(一般指定4項),排他条件付取引(同11項),拘束条件付取引(同13項)及び優越的地位の濫用(同14項)に該当するとも主張する。
71しかしながら,被告の上記主張に理由がないことは,(3)ないし(5)で説示したところから明らかである。
9結論以上によれば,原告伊藤忠の請求はいずれも理由があるから認容し,原告コンバースフットウェアの請求は主文第6項の限度で,原告訴訟引受人コンバースジャパンの請求は主文第7項の限度で,いずれも理由があるから認容し,原告コンバースフットウェア及び原告訴訟引受人コンバースジャパンのその余の請求については理由がないので棄却し,原告ビーエムアイ及び被告の請求は,いずれも理由がないので棄却することとし,主文第1項ないし第5項(販売等の差止め,被告商品の廃棄及びウェブサイト上の被告標章の削除)については仮執行宣言は相当でないのでこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 山門優
裁判官 舟橋伸行