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関連審決 取消2008-300690
関連ワード 包装 /  指定商品 /  不使用 /  国内 /  差止 /  不使用取消審判 /  外国 /  継続 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10217号 審決取消請求事件
原告アルコン,インコーポレイテッド
同訴訟代理人弁理士中島淳 加藤和詳 西元勝一 山田昌子 樋熊美智子
被告参 天製薬株式会社
同訴訟代理人弁理士北村修一郎 太田誠治 宮崎浩充
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/10/22
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が取消2008-300690号事件について平成21年4月7日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告の本件商標の不使用を理由とする登録の取消しを求める原告の審判請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本件商標商標登録番号:第4821348号商標の構成:「Taflotan」を表示して成る。
指定商品:第5類「薬剤」設定登録日:平成16年11月26日(2)本件審判手続及び本件審決審判請求日:平成20年5月30日審判請求登録日:平成20年6月17日審決日:平成21年4月7日審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない。
審決謄本送達日:平成21年4月17日(原告に対する送達日)2本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,要するに,本件商標と社会通念上同一と認められる商標が本件商標の指定商品中の「緑内障・高眼圧症治療剤」について,商標権者,すなわち,被告によって使用されていたものと認めることができるので,本件商標の登録は商標法(以下「法」という。)50条の規定により取り消すことはできない,というものである。
3取消事由(1)法50条1項の使用の事実を認定した誤り(取消事由1)(2)法50条の「使用」に「輸出」を含むとした判断の誤り(取消事由2)第3当事者の主張1取消事由1(法50条1項の使用の事実を認定した誤り)について〔原告の主張〕被告が提出した証拠から本件商標の使用の事実を認めることはできない。
乙1の1及び2は,2本のボトルと包装箱の写真であるが,いずれにも使用時期及び製造者の表示がないばかりか,包装箱は使用済みの状態でフィンランドに輸送されていなければならず,乙1の2を証拠として提出できること自体に矛盾がある。乙3の1ないし7は,取引経過を示す書類であるが,重量について食い違いがあるほか,被告作成に係るもの以外については,作成日付も明らかではない。また,送金日について,インボイスの記載内容と整合しない。乙4の1ないし6は,「DE-085」という記号によって表示される商品の取引関係書類であるが,「DE-085」と本件商標との関連性は示されていない。さらに,乙1の1及び2において表示される「TAFLOTAN」及び乙3の1及び2に記載された「Taflotan」の欧文字は,本件商標と社会通念上同一であるとはいえない。
したがって,これらの証拠に基づいて被告の本件商標の使用の事実を認定した本件審決の判断は誤りである。
〔被告の主張〕被告は,「緑内障・高眼圧症治療剤」を製造し,これを「TAFLOTAN」を上段に,一般名である「Tafluprost」を下段に印刷したラベルを付したボトルに詰め,「Taflotan」と印刷された50本入りの箱の梱包した上,平成20年4月22日にフィンランドのタンペレ所在のサンテン・オイ社に向けて発送し,同日付けで輸出許可を受け,フィンランドに空輸された。そして,同月24日にはフィンランド税関により輸入許可され,同日付けで上記サンテン・オイ社によって受領された。なお,乙1の2はフィンランド輸送用の箱のストックであり,被告が実際にフィンランドに送った輸送用の箱を所持していないのは当然のことである。
以上のとおり,被告は,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を付して指定商品に係る「緑内障・高眼圧症治療剤」を輸出したものであり,被告の本件商標の使用の事実を認定した本件審決に誤りはない。
したがって,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(法50条の「使用」に「輸出」を含むとした判断の誤り)について〔原告の主張〕標章の「使用」に当たる行為について規定する法2条3項2号に法改正によって「輸出」が追加されたのは,経済のグローバル化の進展により,模倣品問題が国際化・深刻化してきたことにかんがみ,国内の製造や譲渡の段階で差し止めることができない場合でも,輸出者が判明した場合には,権利者が輸出の段階で差止めなどの措置を講ずることを可能とするためであり,主として商標権の侵害の場面が想定されている。
これを商標のいわゆる「不使用取消し」が問題となる場面に直接的に適用されるとすれば,例えば親子会社間での脱法行為を容易にさせ,業務上の信用及び需要者の利益を保護するという法の目的に反する。
したがって,「輸出」は不使用取消しの場面における商標の「使用」には該当しないというべきであり,仮に,本件において被告主張の輸出の事実が認められるとしても,当該事実から本件商標について法50条にいう使用を認めた本件審決の判断は誤りというべきである。
〔被告の主張〕法2条3項2号は「輸出」が標章の「使用」に含まれるものと規定しているのであり,原告の主張は誤りである。
また,そもそも被告は,上記1の〔被告の主張〕のとおり,被告工場において被告の商品である「緑内障・高眼圧症治療剤」に本件商標と社会通念上同一の商標を付しているのであり,「輸出」が法2条3項2号にいう「使用」に含まれるかどうかに関わらず,法2項3項1号にいう「使用」に当たる行為を行っているのであるから,本件審決の結論に誤りはないというべきである。
したがって,取消事由2は理由がない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(法50条1項の使用の事実を認定した誤り)について(1)被告の治療剤の開発及び承認とサンプルの送付乙4の1ないし6,乙11の1及び2によると,以下の事実が認められる。
被告は,「DE-085」の開発コードでプロスタグランジン系緑内障・高眼圧症治療剤(一般名:タフルプロスト。以下「本件治療剤」という。)を開発し,平成18年7月31日に我が国において薬事法上の承認申請をし,フィンランド共和国タンペレ所在の被告の子会社であるサンテン・オイ社は,平成19年4月2日に欧州主要13か国において,本件治療剤の承認申請を行った。
被告は,本件治療剤に「タフロタン」の名称を付していたところ,本件治療剤の欧州における承認申請については,平成20年3月19日に審査が終了し,同年4月30日にデンマーク王国の当局から最初の承認が得られた。そして,この事実は,同年5月8日付けの日経産業新聞に掲載され,今後1年間で残る欧州各国から順次承認を得られる見通しであることが報じられた。
そこで,被告は,サンテン・オイ社に対し,平成20年3月14日,「0.0015%DE-085点眼液」と特定された本件治療剤のサンプル5000本を発送し,同サンプルは同月17日に同国において輸入を許可され,サンテン・オイ社に配達された。
(2)被告のラベル及び包装箱の作成と商標の使用また,乙1の1及び2,乙5の1及び2,乙6の1及び2によると,以下の事実が認められる。
被告は,株式会社岩田レーベルに対し,本件治療剤のボトルに貼付するラベル(製剤見本用5万枚を含む14万枚。以下「本件ラベル」という。)を発注し,同ラベルは,平成20年3月21日,被告に納入された。本件ラベルには,「TAFLOTAN 」と大きく表示され,その直下に「15 Mikrogramm/ml」,「Augentrop□fen」及び「Tafluprost」の文字が小さく3行に表示されている。
被告は,富士包装紙器株式会社に対し,本件治療剤の包装箱(製剤見本用1000箱を含む3000箱であり,いずれも1箱50本入り。以下「本件包装箱」という。)を発注し,同包装箱は,平成20年3月21日,被告に納入された。本件包装箱の上面と各側面には「Taflotan15μg/mL」と大きく表示され,その右下に小さく「50283」の文字が表示されている。また,底面には小さく「タフロタン(ドイツ)2.5mL×50凾」と表示されている。
この点について,原告は,前記ボトル及び本件包装箱に使用時期及び製造者の表示がないとして,乙1の1及び2による事実認定に疑問を呈するが,乙5の1及び2,乙6の1及び2によると,製造時期及び製造者を含め,上記認定は容易であって,その認定を左右する証拠はなく,原告の主張は採用し得ない。
(3)被告の本件治療剤の輸出乙3の1ないし7によると,以下の事実が認められる。
被告は,サンテン・オイ社に対し,平成20年4月22日,「Taflotan 15マイクログラム/ミリリットル 点眼薬」と特定される本件治療剤7万0750本及び「Taflotan サンプル 15マイクログラム/ミリリットル点眼薬」と特定される本件治療剤のサンプル2万5650本を計7個口で発送し,これらは同日関西空港税関支署長により輸出を許可された上で空輸され(以下「本件輸出」又は「本件輸出行為」という。),同月24日にはフィンランド共和国において輸入を許可され,サンテン・オイ社に配達された。
この点について,原告は,乙3の1,3及び4において表示される本件輸出に係る輸出品の重量に食い違いがあることを指摘するところ,確かに,乙3の1において「正味重量」として1051.0キロ,「総重量」として1101.0キロとされているのに対し,乙3の3においては「チャージャブルウェイト(課金の基準となる重量)」として1102.5キロとされ,乙3の4においては「数量(1)」として「543.0KG」とされている。
しかしながら,乙9によると,乙3の3を作成したDHLグローバルフォワーディングジャパン株式会社の担当者は,乙3の3を作成するに当たっては,本件輸出に係る輸出品の重量は,実重量の代わりに国際航空運送協会の規則に基づいた容積重量の計算によっていることが認められる。そして,乙10によると,乙3の4の作成に当たっては,同社の担当者間の連絡ミスにより誤った重量が記載された可能性があると認められるところ,乙3の1ないし7は品名,貨物の個数,輸出者,荷受人において互いに一部又は全部を共通にし,輸送の経過と整合的に理解することができるものであり,乙3の1,2及び4に表示されるインボイスの番号が同一であることから,乙3の4の重量記載が他と整合しないことをもって,被告による本件輸出行為が認定できなくなるものではない。
また,原告は,乙3の7の送金日が,インボイスに記載された期限からわずかに遅れていることを指摘するが,このことは被告による本件輸出行為の認定に影響を与えるものではない。
(4)本件輸出の際の本件ラベル及び本件包装箱の使用上記(1)ないし(3)において認定した被告の本件治療剤の開発及び承認とサンプルの送付,ラベル及び包装箱の作成と商標の使用,本件治療剤の輸出という一連の経過を踏まえ,本件輸出に係る本件治療剤とそのサンプルの本数(それぞれ7万0750本と2万5650本)が,納入された本件ラベルの数(本件治療剤用9万本分,サンプル用50000本分)及び本件包装箱の数(本件治療剤用10万本分,サンプル用5万本分)とも見合うものであることと弁論の全趣旨とを総合考慮すると,被告は,本件輸出に係る本件治療剤に本件ラベルを付した上,本件包装箱に梱包したものと認定することができ,この認定を妨げる証拠はない。
(5)被告による本件商標の使用以上によると,被告は,自らの商品である本件治療剤に本件ラベルをもって「Taflotan」及び「TAFLOTAN」の商標を付し,「Taflotan」及び「タフロタン」との商標が付された本件包装箱に包装した上,これらを輸出しており,被告は,本件ラベル及び本件包装箱が納入された平成20年3月21日から,本件輸出が行われた同年4月22日までの間に,本件商標の指定商品である「薬剤」に含まれる被告の本件治療剤及びその包装に本件商標と社会通念上同一と認められる商標を付し,同商標を付した本件治療剤を輸出したものと認められるのであるから,被告は,本件審判請求の登録(平成20年6月17日)前3年以内に日本国内において本件商標を使用したものと認められる。
(6)小括したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
2取消事由2(法50条の「使用」に「輸出」を含むとした判断の誤り)について(1)不使用取消審判における「使用」の意義法50条1項は,継続して3年以上日本国内において指定商品についての登録商標の使用がされていないときに,当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる旨を規定し,同条2項は,不使用取消審判においては,商標権者等が使用の事実を証明しない限り商標登録の取消しを免れない旨を規定しているが,法は,標章の「使用」に当たる行為についても法2条3項各号をもって定義しているところ,同項2号によると,「商品又は商品の包装の標章を付したものを譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,又は電気通信回線を通じて提供する行為」は標章の「使用」に当たると規定されている。
50条に規定されている不使用取消審判の制度は,本来商標の使用によって蓄積された信用に対して与えられる商標法上の保護を長期間にわたって使用されていない商標に与えたままにしておくことは,国民一般の利益を不当に侵害し,かつ,その存在により権利者以外の商標使用希望者の商標の選択の余地を狭めることとなるため,そのような商標登録を取り消すための制度であると解される。
そして,この制度の適切な運用により,長期間使用されていない登録商標が取り消され,登録商標に対する信頼が相対的に確保されるのであり,これは商標を保護して商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図るという法の目的に合致するものであり,不使用取消審判の場面における「使用」の概念を法2条3項各号において定義されているものと別異に理解すべき理由はない。
この点について,原告は,法2条3項2号に規定する標章の使用に当たる行為に「輸出」が加えられたのが法改正(判決注:平成18年法律第55号による改正をいう。)によるものであることから,法改正前には使用に当たらなかった輸出については,法改正後も使用に当たらないと解すべきであるとの趣旨の主張をするが,少なくとも法改正後の現在においては上記のとおりに解されるべきものであるから,原告の主張を採用することはできない。
また,原告は,本件輸出行為が被告とその外国の子会社であるサンテン・オイ社との間で行われたものであることから,輸出に当たらないというべきであり,そうでなければ,脱法行為を助長するとの趣旨の主張もするが,各別の法人格である親子会社間の取引について,他の取引と別異に取り扱う理由はなく,その理は当該取引が親子会社間の輸出であっても異なるものではないところ,本件においては,本件輸出行為を認定し得るのであるから,この点の原告の主張も採用することはできない。
(2)小括したがって,原告主張の取消事由2も理由がない。
3結論以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 高部眞規子
裁判官 杜下弘記