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関連審決 無効2003-35035
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成16行ケ33審決取消請求事件 判例 商標
平成16行ケ168審決取消請求事件 判例 商標
平成19行ケ10383商標登録取消決定取消請求事件 判例 商標
平成16行ケ335商標登録取消決定取消請求事件 判例 商標
平成17行ケ10270商標登録取消決定取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  出所表示機能 /  識別機能 /  指定商品 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  広義の混同 /  4条1項11号 /  4条1項15号 /  著名商標 /  ただ乗り(フリーライド) /  類似性(類否判断) /  結合商標 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  出所の混同 /  差止 /  無効審判 /  継続 /  非類似 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 85号 審決取消請求事件
原告 株式会社エドウイン
訴訟代理人弁護士 田中克郎,宮川美津子,中村勝彦,弁理士 佐藤俊司
被告 リーバイストラウス アンド カンパニー
訴訟代理人弁護士 関根秀太,武藤佳昭,達野大輔,高田昭英,弁理士 日野真美, 谷口登
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/10/20
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2003-35035号事件について平成16年1月27日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,後記本件登録商標の商標権者である原告が,被告請求に係る無効審判において,本件商標登録を無効とするとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本件登録商標 商標権者:株式会社エドウイン(原告) 本件商標:別紙1の@「本件商標」として記載された構成からなるもの。
指定商品:第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」 登録出願日:平成12年9月22日(商願2000-103513号) 登録査定日:平成13年6月6日 設定登録日:平成13年7月13日 登録番号:第4490954号 (2) 本件手続 無効審判請求日:平成15年2月3日(無効2003-35035号) 審決日:平成16年1月27日 審決の結論:「登録第4490954号の登録を無効とする。」 審決謄本送達日:平成16年2月6日(原告に対し) 2 審決の理由の要旨 (1) 被告は,審判において,本件商標登録の無効理由として,本件商標が商標法4条1項11号及び15号に違反して登録されたものであると主張した。
審決は,いずれも被告を商標権者とする登録第1592525号商標(以下「引用商標1」という。別紙1のA「引用商標1」として記載された構成からなるもの。昭和46年2月24日に登録出願され,第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として,昭和58年5月26日に設定登録されたもの。)及び登録第2205094号商標(以下「引用商標2」という。別紙1のB「引用商標2」として記載された構成からなるもの。昭和55年9月30日に登録出願され,第17類「被服(運動用特殊被服を除く)その他本類に属する商品」を指定商品として,平成2年1月30日に設定登録されたもの。)を引用商標として,検討した。
(2) 審決は,商標法4条1項11号違反の点について検討し,本件商標と引用商標1及び引用商標2とは,互いに類似するとはいえないとして,同条項に違反するとはいえないと判断した。
(3) 審決は,商標法4条1項15号違反の点について検討し,概ね以下のとおり説示して,本件商標は,商標法4条1項15号に違反して登録されたものというべきであると判断した。
(a) 審決は,証拠(業界紙,書籍及び雑誌等)により,次のとおり認定した。
「証拠には,引用商標1の形状と酷似したバックポケットの形状(判決注:以下,審決を引用する場合を含め,『被告バックポケットの形状』という。)が掲載されていることが認められる。…被告バックポケットの形状は,商品『ジーンズパンツ』を含む本件商標の指定商品の取引者・需要者の間で,広く認識され,これが現在においても継続しているものと推認し得るものである。なお,本件証拠によっては,被告バックポケットの形状が著名となっているとまでは認定し得ない。」 (b) 審決は,最高裁平成12年7月11日第3小法廷判決の判示を引用した上,出所混同のおそれについて,概ね次のとおり認定判断した(なお,審決中の「請求人」,「被請求人」の表示は,本訴における「被告」,「原告」に読み替えて引用する。)。
「本件商標の指定商品は,…『被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴』であり,一方,被告の使用に係る被告バックポケットの形状は,…ジーンズパンツに係るものであることから,これら商品は,同一あるいは互いに極めて関連性の深い商品といえるものである。
しかして,…バックポケットのステッチの形状についてみるに,左右対象の二つのアーチ形状を採択しているのは,被告,原告,帝人ワオ(…)であり,他社のステッチは,これらとは顕著な差異を有することが認められる。 そこで,本件商標と引用商標1の形状について対比するに,本件商標と引用商標1の形状は,…互いに類似するものではないものの,これらの両ステッチは,ともに二重の破線をもって,五角形の外周部左右両辺からバックポケットの中央部に向かって形成され,これが中央部で下向きに形成されており,両ステッチ部分の形状をおおまかに観察すれば,互いに近似する形状であり,この点において,両者は構成の軌を一にするといえるものである。 一方,両者におけるアーチ形状のステッチ中央部の相違は,前記した両者の近似性を凌駕するほどの顕著なものとは認められない。 そして,被告バックポケットの形状は,…商品被服,とりわけジーンズパンツの取引者・需要者の間で広く認識され,周知となっており,他方,原告の本件商標,あるいは,そのステッチ部分が周知・著名となっているとの証左はない。 また,本件商標の指定商品は,引用商標1あるいは被告バックポケットの形状が商品「ジーンズパンツ」に使用された結果,それが獲得している周知性の範囲内の商品といえるものである。 そうとすれば,本件商標を,その指定商品に使用するときには,これに接する需要者は,引用商標1あるいは被告バックポケットの形状を連想・想起し,当該商品が被告の取り扱う商品であると誤信するか,又は,被告との間に密接な関係を有する者の業務に係る商品であると誤信することで,その商品の出所について広義の混同を生ずるおそれがあるというべきである。」 (c) 審決は,次のように説示して,原告の主張を排斥した。
「原告は,ジーンズ業界においては,バックポケットはブランド名等が大きく表記された革ラベルや紙ラベルと共に使用されており,需要者は,当該ラベルに大きく表記されたブランド名で商品の出所を識別することが一般的であり,原告のジーンズも例外ではなく,かかる取引実情や,ジーンズを消費者が実際に購入する際には試着を行い店員の説明を聞き慎重に購入するのが一般的であること等からしても,商品の出所混同のおそれはないことは明らかであると主張している。
確かに,本件商標には,「SOMETHING」の文字が,引用商標1には,「LEVI'S」の文字が含まれており,両文字が,原告及び被告の商標として知られているものとしても,本件については,アーチ形状のステッチにおいて,本件商標が,他人の業務に係る商品と広義の混同を生ずるおそれがある商標と認められるものであり,上記した各文字部分の存在をもって,両商標間の広義の混同のおそれを否定することはできない。」
原告の主張(審決取消事由)の要点
1 取消事由1(商標法4条1項15号の適用範囲に関する解釈の誤り) 当該商標と引用商標が同一商品に使用されるとしても,両者の間に類似性が認められないような場合について商標法4条1項15号の適用を認めるためには,単に引用商標が周知なものでは足りず,著名な商標であることが必要である。
審決は,たとえジーンズパンツという同じ商品に使用されるとしても,著名性が否定された単なる周知な引用商標1との関係において非類似と明確に判断された商標について15号の該当性を認めたもので,同号の適用範囲に関する解釈を誤ったものである。
2 取消事由2(商標法4条1項15号における出所混同の認定判断の誤り) 審決は,以下に記載するとおり,(1)近似性の認定,(2)周知性の認定,(3)取引の実情の認定を誤って,出所混同のおそれがあるとし,本件商標が商標法4条1項15号に該当すると誤って認定したものであり,違法として取り消されるべきである。
(1) 近似性の認定の誤りについて 商標法4条1項15号の「混同を生ずるおそれ」の有無の判断にあたっては,当該商標と他人の表示との類似性の程度その他取引の実情を考慮して,総合的に判断されるべきものであるという点については,原告も認める。
しかし,本件商標と引用商標1が互いに近似する形状であるとした審決の認定は,誤りである。本件商標と引用商標1あるいは被告バックポケットの形状は,互いに類似でも近似でもないから,この事情は,「混同を生ずるおそれ」の有無の判断にあたっても,大きく考慮されるべきで,商品の出所の混同を生ずるおそれはないことは明らかである。
両者が類似でも近似でもないことは,以下のとおりである。
(1-1) 本件商標の構成について 本件商標は,図形商標と文字商標「SOMETHING」からなる結合商標であり,実線とその内側の実線に沿って二重の破線を配した左右対称のホームベース状の五角形の外形を,上下に二分するように左右の両端部から中央部に向かって伸びる二重破線を配してなる。この二重破線(原告内部破線)は中央で結合することはなく,その代わりに,その中央部には原告の著名ブランドである「SOMETHING」(甲114)の頭文字である「S」が表記され,また「SOMETHING」のブランド名が入った横長の長方形の図形を右上部分の内側に有してなるものである。原告の著名ブランド「SOMETHING」が入った横長の長方形部分の横幅は,全体の幅の約5分の1の大きさであり,黒地に白抜きの文字であることから,白い五角形の図形からなる本件商標においては,特に目立つ部分となっている。
以上の構成からなる本件商標は,その構成中に上述したとおり「S」の文字と「SOMETHING」の文字を含んでおり,そこから「エス」の称呼及び「サムシング」の称呼が生ずる商標である。
(1-2) 引用商標1の構成について 引用商標1は,本件商標と同様,図形商標と文字商標「LEVI'S」からなる結合商標であるが,引用商標1における,中央に向かって伸びる二重破線は,中央で結合して菱形(中央部に横線が入っている)を構成しており,かかる菱形の図形を有する点が引用商標1の大きな特徴となっている。
被告は,宣伝広告等において,この菱形図形部分を特に「ダイヤモンドポイント」と称しており,雑誌等においてもその言い回しが使用されていることから,被告のステッチ(被告内部破線)の大きな特徴として定着している。
さらに,引用商標1の図形商標の左上部分の外側には,「LEVI'S」のブランド名が入った縦長の長方形の図形があり,引用商標1はそこから「リーバイス」の称呼が生ずる。
(1-3) 本件商標と引用商標1の近似性について 審決においては,「バックポケットの外周部の該五角形の形状は,ありふれて使用されているといえるものであって,自他商品の識別機能が極めて弱い部分であり,この部分によっては,自他商品を識別することはできない」と認定しているが,原告も異論はない。そうすると,類否判断においては,五角形の外形以外の部分である,中央を横断する二重破線の形状(五角形内部の破線)部分や,文字商標部分が重要となる。
(a) 中央を横断する二重破線の形状(五角形内部の破線)の類否については,@結合部分の有無,A中央部の「S」と「ダイヤモンドポイント」との相違,B破線の曲がり度合いの相違等の顕著な相違点が多数存在し,これらの点だけでも,互いに近似する形状ともいえない。
特に,@結合部分の有無については,一見して明らかなとおり,本件商標における原告内部破線は,中央部で全く結合せず,かなり離れているのに対し,被告内部破線は二本共に結合している。結合部分の差異が商標全体に与える影響は大きく,本件商標と引用商標1との形状の近似性を否定する重要な要素となる。仮に,審決の指摘する程度の共通点をもってして両者が近似であるとしたら,他のバックポケットの商標(甲38)の大半も引用商標1と近似なものとなり,出所混同のおそれがあることとなり,被告に不当な独占を許す結果となる。
また,A中央部の「S」と「ダイヤモンドポイント」との相違については,本件商標は,その中央部に原告の著名ブランドたる「SOMETHING」の頭文字である「S」の文字が非常に目立つ態様で記載されているが,引用商標1には,かかる「S」の存在はない。引用商標1の形状は,破線が中央部において結合し,被告自身が「ダイヤモンドポイント」と称し,その部分が被告内部破線の大きな特徴として定着しているのであるから,かかるダイヤモンドポイントが原告の本件商標において存在しないことは,それ自体大きな相違点であるだけでなく,本件商標には「S」の文字が非常に目立つ態様で記載されているのであるから,近似性がより否定される。 審決は,「両者のアーチ形状のステッチ中央部の相違は,両者の近似性を凌駕するほどの顕著なものとは認められない」と認定し,「S」の文字部分の存在を過小評価している。しかしながら,アーチ形状のステッチ中央部において,結合部分がなく,その代わりとなって存在する大きな「S」の文字は,本件商標にも文字が含まれる「SOMETHING」ブランドの卓越した著名性と相まって,本件商標に接する需要者に強烈な印象を与えることは明らかであり,両者の近似性を凌駕するほどの顕著な点というべきである。そもそも,本件商標のようにその中央部に何らかの文字を付すること自体が,この種の五角形の図形商標においては極めて新しい点であり,ジーンズ業界の取引の実態からしても,バックポケットの中央に何らかの一個の文字を象徴的に付することは斬新で画期的なことであった(ミシンで刺繍されるバックポケットの二重破線(ステッチ)とは別に文字を刺繍しようとすると,別工程にならざるを得ず,費用がかさむ。)。
さらに,B破線の曲がり度合いの相違については,引用商標1においては,V字型と表現できるほど高低差が大きく中部の結合部が尖った形状をしており,実際,エド・クレイ著「リーバイス ブルージーンズの伝説」(甲56)によれば「二重のV字のデザイン」と表現されている。また,引用商標1の内部破線部分は,左右の両端から上方に向かってある程度進み,それから角度を大きく変えて下向きに進み,中央部で結合していることから,内部ステッチは左右の両端から中央部に向かって二つのアーチが結合したような形状といえ,全体から受ける印象もボールがワンバウンドして跳ねていく軌跡のような印象を与えるものである。
しかし,本件商標の内部破線部分は,両端部分から中央部に向かってほぼ水平に進み,中央付近での下がり方も非常になだらかであるため,左右の両端部分と中央付近での末端部分の高低差は非常に小さいものとなっており,アーチ形状と形容するのは困難な形状になっているのみならず,内部破線が中央で結合せず,かなり離れているため,「V」字型となっている引用商標1の内部破線部分とは明らかに異なるものである。また,全体から受ける印象も前記引用商標1とは異なり,ほぼフラットな印象を与えるものである。
他社のバックポケットのステッチの現状やステッチに関する登録商標の併存状況からすれば,そもそも両端部分から中央部分に向かって進む二重破線が中央で交差していないこと自体,本件商標の非常に特異な点であり,顕著な特徴となっている。
また,特許庁においてこの種の五角形の図形商標が多数併存して登録されていることからも,一般にこの種の図形商標においては,類似の範囲が極めて狭い。
さらに,審決は,「左右対称の二つのアーチ形状を採択しているのは,被告,原告,帝人ワオであり,他社のステッチは,これらとは顕著な差異を有することが認められる。」と認定したが,誤りであって,証拠(甲7〜9,11,13,15〜17,20〜23,25,32〜37,65,98,102,117)によれば,左右対称の二つのアーチ形状のステッチは,多くのジーンズメーカーのバックポケットで使用されている。これら多数の左右対称の二つのアーチ形状のステッチの存在は,引用商標1における内部破線部分(ステッチ)の識別力を相当程度減殺するものであり,近似性,ひいては混同のおそれを否定する重要な要素となる。
なお,特に女性用のジーンズにおいては,原告のように高低差の小さい左右対称のステッチが多く利用されている(甲20,33,112,113)。
以上のようなマーケットの状況等からしても,審決が「二重の破線をもって,五角形の外周部左右両辺からバックポケットの中央部に向かって形成され,これが中央部で下向きに形成されている」という共通点だけをもってして,二つの商標が近似なもので,混同のおそれの認定の重要な要素になるということは,誤りである。
上記の点を考慮するならば,原告内部破線と被告内部破線との間には顕著な差異があり,むしろ混同のおそれを否定すべき重要な要素と考えるべきである。
(b) 文字商標部分の比較 審決は,「確かに,本件商標には,『SOMETHING』の文字,引用商標1には,『LEVI'S』の文字が含まれており,両文字が,原告及び被告の商標として知られているものとしても,…本件商標における『SOMETHING』の文字部分,引用商標1における『LEVI'S』の文字部分につき,両文字部分の存在をもって,両商標間の広義の混同のおそれを否定することはできない」と認定した。
しかしながら,両商標に含まれるこれらの文字部分「SOMETHING」及び「LEVI'S」は,互いに外観称呼観念のいずれにおいても類似・近似でないことは明らかであるだけでなく,それぞれ原告及び被告の周知・著名商標として需要者,取引者に両者の出所を極めて強く認識させる部分となっているのであるから,出所混同のおそれの認定に際しても,これらの部分を無視することはできず,出所混同のおそれを否定する重要な要素となるというべきである。
特に,引用商標1に含まれる「LEVI'S」というブランド名が主に男性用ジーンズに使用されるものとして周知・著名性を有するのに対し,原告の本件商標に含まれる「SOMETHING」というブランド名は,こと女性用ジーンズに関しては,20年近くの長期間にわたってNO.1の売上げ実績のブランドであり(甲86),かつ,莫大な広告宣伝費も投じた大規模な宣伝広告を長期間にわたって行ってきている(甲81)こと等から,従前から原告の出所表示として卓越した著名性を有している(甲58,乙96)。仮に,両者がそのアーチ形状のステッチにおいて近似しているとしても,商品の出所表示機能が強い周知・著名な文字部分の存在が,両者の出所混同のおそれを互いに減殺する阻害要素となるというべきである。
本件商標の「SOMETHING」の文字部分については,黒地に白抜きで記載されていることから,本件商標の構成においては非常に目立つ部分となっているだけでなく,バックポケットの外周部の該五角形の形状自体は,自他商品の識別機能が極めて弱い部分であるから,「SOMETHING」の文字部分は,本件商標の他の部分に比べて,看者の注意をひく程度が著しく強く,より商品の出所表示機能が強い部分となり,「被告以外の商品の出所を強く連想させるとき」に該当する。また,商標全体で観察した場合に,本件商標と引用商標1の文字部分は,強い自他商品識別機能を有し,称呼上も「サムシング」と「リーバイス」で明らかに異なるものであるから,互いの出所混同のおそれを減殺する方向に働くものというべきであり,当該商標の構成中に「被告との関連性を打ち消す表示が含まれているとき」にも該当する。したがって,最高裁平成13年7月6日第2小法廷判決における福田博裁判官の補足意見にいう商標法4条1項15号該当性が否定され,商標登録を受けられる場合に当たるというべきである。
なお,審決においては,「バックポケットの形状は,その内部にあらわされたステッチの形状が自他商品を識別する際の重要な要素になるというのが相当である。
そして,ジーンズパンツの購買者層である需要者においても,これと同様の認識を有していると推認できるものである」との説示がある。しかしながら,少なくとも,実際の取引においては,需要者は,ポケットに付属するタブや紙ラベル等に表示されているブランド名などによって商品を識別するのであって,ステッチの形状自体が自他商品の識別の重要な要素になるということは通常の取引場面では考えられない。
さらに,審決においては,「本件商標と引用商標1とは,互いに紛れるおそれのない非類似の商標とみるのが相当」と認定しているが,「互いに紛れるおそれのない」のであれば,当然「出所混同のおそれもない」というべきである。
(2) 周知性の認定の誤りについて 以下に述べることからすれば,被告バックポケットの形状が,出所表示として著名でないことはもちろん周知でもないことは明らかである。
(a) 被告バックポケット中央のステッチに近い形状のステッチは,数多くの他社メーカーの様々なブランドのジーンズにおいて使用されている。したがって,被告の当該ステッチの形状は,特異性がなく,需要者に強い印象を与えるようなものではない。
(b) ジーンズのバックポケットのステッチは,主としてデザイン上の理由から使用されているものであり(甲118),被告も,ステッチの形状を時代によって様々に変化させたり,各国の嗜好に合わせてステッチのデザインを大きく変更したり,バックポケットにステッチがない商品を展開したりしている(甲115)。そして,バックポケット上のステッチがデザインとして使用されていることは,一般にも認識されている(甲16)。ジーンズにおいては,ステッチを含むバックポケットが何ら識別標章としての機能を有しておらず,革ラベル等によってブランド等の出所識別は行われるものとの基本的認識がある。
(c) 被告バックポケットには,通常,LEVI'Sのブランド名が記載された赤いタブが付されており,LEVI'Sの著名性からいって,需要者の注目は,このブランド名に集まり,ステッチの形状には着目しないと経験則上考えられる。また,ステッチは,ジーンズのバックポケットの一部に縫われた針目であるところ,ステッチを構成している糸とジーンズを縫製した糸は同色の糸が使用され,ステッチが強調されているわけではなく,需要者は,一般に,バックポケットに付されたステッチを意識することはない。さらに,ジーンズが店舗に陳列される場合,通常,右側バックポケットが表向きとされるが,その上には大きな紙ラベルが縫い付けられていることが多く,バックポケットのステッチは,紙ラベルに隠れて極めて見えにくい。ジーンズの陳列時に目立つのは,商品の標章を表記した上記紙ラベル及びパッチである(甲97)。
以上を総合的に考慮するなら,審決が被告バックポケットの形状の商品表示としての周知性を認定したことは,事実誤認である(なお,審決において周知性認定の根拠として挙げた証拠に掲載されているバックポケットのステッチの中には,決して引用商標1の当該部分と酷似しているとはいえないものが多数含まれている。)。
なお,審決の上記周知性の認定は,東京高裁平成12年(ネ)第3882号・平成13年12月26日判決(以下「別件東京高裁判決」という。)が背景にあると考えられる。確かに,別件東京高裁判決は,被告バックポケットの形状の周知性を認めているが,不正競争防止法2条1項1号上要求される「周知性」の認定を行っただけであり,不正競争防止法において要求される周知性の程度は特に高い必要はないが,商標法4条1項15号の場合は,相当に高度のものと解釈する必要があるのであって,被告バックポケットの形状に「周知性」が認められるとしても,商標法4条1項15号において必要とされるレベルには到底達していない。
(3) 取引の実情の認定の誤りについて 審決は,重要視すべき取引の実情について不当に軽視している。
一般に,販売店におけるジーンズの売場は,各メーカー,ブランド別に明確に分けられ,それぞれのブランドの看板等により,商品の出所を明らかにして販売されている(甲81,97,100)。そして,需要者,すなわち購入者は,ジーンズに付されたパッチや紙ラベル又は革ラベルによって,商品の種類や出所等を確認し,試着をし,店員の説明を聞くなどして慎重にブランドやシルエット等を確認した上で購入するものであるから(甲100,101,110),購入時において,その商品の出所を混同することはあり得ない。仮にバックポケットの形状やステッチが近似していると判断した場合であっても,ジーンズに付される他の出所標識,すなわち「SOMETHING」などのブランド文字商標や,パッチ,紙ラベル及び価格やサイズ表示とともにブランド名が表示されているカードの各記載,さらには,ブランドごとに分けられてジーンズが陳列されている売場の場所等の全体から,ジーンズのブランド(出所)を判断する。
また,ジーンズという商品は,一般に,食料品や日用品など恒常的に消費される性質の商品に比して,その単価は比較的高いものと言えることに加えて,購入の際には,試着をしてサイズの確認等を行うのが通常であるから,その意味で需要者の購入時における注意力は,ドラッグストアやスーパーでの商品購入時の注意力と比して高い。
上記事情に照らせば,本件商標に接する需要者,取引者が直ちに引用商標1や被告のバックポケットの形状を連想,想起するとみるのは困難である。
上記のジーンズ購買時の具体的な事情に加えて,「SOMETHING」の著名性,原告と被告とが現在の日本における二大ジーンズメーカーとして競争関係にあることが取引者,需要者間で著名な事実であること等を考慮するならば,なおさら広義の混同のおそれがないことは明らかであるし,現実の取引においても需要者が商品の出所について混同を生じたという事実もない(甲111)。
(4) なお,商標法4条1項15号は,著名商標へのただ乗り(いわゆるフリーライド)の防止を,その目的の一つとするが,通常,ただ乗り(フリーライド)とは,自己の商標などより有名な商標の顧客誘引力を不当に利用しようとして行われるものである。しかし,本件商標に付されているSOMETHINGブランド(女性用ジーンズのブランド)による原告のジーンズは,女性用のジーンズとしては長期間にわたってNo.1の売り上げ実績である(なお,日本におけるジーンズ全体の売り上げを比較しても,原告は第1位である。甲103〜107)。
そのようなNo.1ブランドのジーンズが,売上下位のブランドのジーンズで使用されているステッチのデザインをまねて,フリーライドしようとするなどということは,もってのほかのことである。
被告の主張の骨子
1 取消事由1(商標法4条1項15号の適用範囲に関する解釈の誤り)に対して 周知著名性は,「混同を生ずるおそれ」の有無を判断するための要素の一つにすぎず,著名性は同号適用の要件ではない。原告の主張は,独自の見解であり,理由がない。
2 取消事由2(商標法4条1項15号における出所混同の認定判断の誤り)に対して 本件商標と引用商標1及び2とは互いに極めて類似し,又は少なくとも近似し,引用商標1及び2はいずれも独創的な商標であり,本件商標出願時及び登録時において既に需要者において広く認識され,その周知著名性の程度は高く,本件商標の指定商品は引用商標1及び2を付された被告の商品と同一又は極めて関連性が強く,両商品の需要者はほぼ共通である。また,本件商標並びに引用商標1及び2の指定商品の一つであり,原告及び被告の主力商品であるジーンズパンツの需要者である通常の一般人による購入時の商品の選択方法のほか,本件商標が周知著名でないこと,その他の取引の実情においても,本件商標と引用商標1及び2との混同のおそれを強めこそすれ,弱める事情はない。
そこで,本件商標の指定商品の需要者である通常の一般人において普通に払われる注意力があまり高いものでないことからすれば,かかる需要者が本件商標の付された指定商品に接した場合に,引用商標1及び2を連想,想起し,当該商品が被告の商品であると誤信するおそれがあるというべきである。
仮に,需要者が本件商標の付された指定商品を,被告の商品であると誤信せず,あるいは,「SOMETHING」ブランドの商品であることを認識し得たとしても,本件商標と引用商標1及び2とが類似又は近似すること,引用商標1及び2の周知著名性の程度が高く,独創的であること,本件商標が周知著名でないことからすれば,原告との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信し,その出所について広義の混同を生ずるおそれがあるというべきである。
3 商標法4条1項11号への該当性 本件商標登録は,商標法4条1項11号に反してなされた無効なものである。仮に,商標法4条1項15号に基づき本件商標を無効と判断した点につき,審決に誤りがあったとしても,本件商標登録はやはり無効であるから,審決は取り消されるべきではない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法4条1項15号の適用範囲に関する解釈の誤り)について 商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきであって(最高裁平成12年7月11日第3小法廷判決・民集54巻6号1848頁),上記に掲げた個々の事情ごとに峻別して悉無律的にその存否を判断するのではなく,個々の事情ごとにその程度を検討した上,最終的にこれらを総合して「混同のおそれ」の有無を決すべきものである。すなわち,「混同を生ずるおそれ」の要件の判断においては,当該商標(本件商標)と他人の表示(引用商標1)との類似性の程度が商標法4条1項11号の要件を満たすものでないにしても,その程度がいかなるものであるのかについて検討した上,他人の表示(引用商標1)の周知著名性の程度や,上記諸事情に照らして総合的に判断されるべきものである。また,周知著名性については,「混同を生ずるおそれ」の有無を判断する上で,周知性と著名性とを峻別して検討する必要性は通常考えられないから,特段の事情がない限り,周知著名性を一体としてその程度を検討すれば足りるものというべきである。
そうすると,審決が,本件商標と引用商標1とを非類似とし,引用商標1の形状と酷似した被告バックポケットの形状が著名であるとはいえないとしながら,周知著名性の程度やその他の諸事情を検討し,結論として,同条項への該当性を認めたとしても,そのこともって直ちに違法というべきものではない。また,同条項の該当の要件として,周知では足りず,著名であることを要すると解することもできない。
以上のとおりであるから,この点に関する原告の主張は,採用の限りではない。
2 取消事由2(商標法4条1項15号における出所混同の認定判断の誤り)について (1) 原告は,審決の誤りは別件東京高裁判決の不当な影響があるといい,被告も本件審決に至る経緯として,別件の紛争について述べる。そこで,本件に関係する限度で,この点をみておくと,前記事案の概要として記載した事実のほか,証拠(乙3,4)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(a) 本件被告は,本件原告に対し,平成8年に,不正競争防止法に基づき,本件原告の使用する標章(東京地裁平成12年6月28日判決(乙3)添付の別紙2「被告(注:本件原告)標章目録(一)」及び「同(二)」に記載の標章。本判決添付の別紙2「別件の原告標章目録(一)」及び「同(二)」に同じ。以下「別件の原告標章」という。)の使用差止め等を求める訴訟を提起した。
上記訴訟では,別件の原告標章が,上記地裁判決添付の別紙2「原告(注:本件被告)標章目録(一)」及び「同(二)」に記載の標章(本件の引用商標1にほぼ同じ。以下「別件の被告標章」という。)との関係で,不正競争防止法違反に当たるかどうかが争点となった。
(b) 東京地裁は,平成12年6月28日に上記請求を認容する判決を言い渡した。同判決は,別件の被告標章は,周知となっているとした上,別件の被告標章と別件の原告標章とは,類似すると認定した。その理由として,@ジーンズのバックポケットに付されたステッチであること,A左右二つのアーチからなること,B左右二つのアーチは線対称であること,Cそれぞれのアーチは,ほぼ平行な二本の曲線からなること,D二本の曲線は,両端部分から中央部分に向かって,円弧を描くようにして次第に下降し,中心部で交差していることなどの共通点が挙げられた。
そして,別件の被告標章は,別件の原告標章と比べて,両端部分と中央部分との高低差が大きいこと,別件の被告標章は,二本の曲線が中央部で互いに交差し,中央部にひし形の図形を形成しているのに対し,別件の原告標章は,そのような図形がないなどの点で相違するとの本件原告の主張は,わずかな点にすぎず,多くの共通点に照らして,類似との結論を左右するものとはいえないとして,排斥された。そして,同判決は,両標章による誤認混同のおそれを肯認して,本件被告の請求を認容した。
(c) 本件原告は,同判決に対して控訴を提起するとともに,平成12年9月22日本件商標の出願をした。
そして,控訴審係属中である平成13年6月6日に上記出願につき登録査定を受け,同年7月13日に設定登録がされた。
(d) 東京高裁は,上記控訴事件につき,平成13年12月26日に上記地裁の差止認容判決を維持するとの判決(乙4)を言い渡し,同判決は確定した。
同判決は,両標章の類似性について,次のように判示した。
「両者は,ジーンズのバックポケットに付されたステッチであって,バックポケットの外周近くで概ねその形状に沿って五角形を形成する2本の線の部分と,バックポケット左右の各辺からその内部に形成された2本の曲線の部分とからなるものであって,バックポケット内部に形成された部分は,バックポケットの左右各辺からバックポケット横方向中央にかけての部分に,それぞれがほぼ平行な2本の曲線からなるアーチが左右一つずつ,計二つ形成され,それが横方向中央において結合する形状からなり,上記左右の各アーチは,バックポケット横方向中央に想定される縦軸について線対称であるという基本的な構成態様において共通である。また,両標章は,細部の形状において,バックポケット内部の左右のアーチが,いずれもバックポケット左右の各端部から横方向中央部分に向かって,最初はわずかに上昇するものの,すぐに下降し,バックポケット横方向中央部において結合する位置が,左右の各端部の位置よりも低くなっている点,バックポケット外周に沿う2本の線が,上辺及び下方の2辺に沿う部分においてはほぼ平行であるものの,左右各辺に沿う部分においては,2本の線の間隔が上方で下方よりも広がっているという点でも共通性を有するものである。」 そして,同判決は,バックポケット内部の二つのアーチの曲率の差異,バックポケット横方向中央部において結合する位置と左右の各端部の位置の高低差の差異,二つのアーチがバックポケット横方向中央部において結合する位置における形状の差異,バックポケット外周のうち左右各辺に沿う2本の線の上方の間隔の広がり具合の差異をも考慮し,両標章は類似するものと認めた。そして,判決は,誤認混同のおそれを肯認した。
(e) 被告は,平成15年2月3日,本件商標登録の無効を主張して,本件審判を請求した。
(2) 本件商標と引用商標1(被告バックポケットの形状)との類似性の程度(原告主張の近似性)について (a) 本件商標は,別紙1の@本件商標として掲げたとおりのものであり,引用商標1は,別紙1のA引用商標1として掲げたとおりのものである。
審決は,これらの商標の構成につき,次のとおり認定した。
「本件商標の構成は,…左右対称の野球のホームベース状の五角形を実線で描き,その各辺の内側に沿って二重の破線を配し,この五角形図形の中央部分に欧文字の「S」字状の図形を描き,その左右に該五角形図形を上下に二分するように二重の破線をもって,アーチ形状の図形を描き,この五角形図形の上辺の右内側部分に,黒塗り四角形を配し,この図形内に「SOMETHING」の文字を書してなるものである。これに対して,引用商標1の構成は,…左右対称の野球のホームベース状の五角形を実線で描き,その各辺の内側に沿って二重の破線を配し,この五角形図形を上下に二分するように二重の破線をもって,左右二つのアーチ形状の図形を描いてなり,この五角形図形の左辺の左外側部分に,縦長の四角形を配し,該図形内に縦書きで「LEVI'S」の欧文字を書してなるものである。」 証拠(甲1,乙1,2)によれば,上記認定は是認し得るものである。そして,両者を対比すれば,本件商標と引用商標1の形状は,ステッチがともに二重の破線をもって,五角形の外周部左右両辺からバックポケットの中央部に向かって形成され,これが中央部で下向きに形成されており,両ステッチ部分の形状をおおまかに観察すれば,互いに近似する形状であって,この点において,両者は構成の軌を一にするといえるとした審決の認定も,是認し得るものである。
なお,原告は,本件商標及び引用商標1の各文字部分に対応する称呼が生ずると主張するが,本件商標及び引用商標1の構成に照らせば,特段の称呼が生じるものとは認め難く,この点が類似性の程度の認定に直ちに影響するものとはいえない。
(b) 原告は,ステッチ中央部における結合の有無の点で相違することを主張する。
確かに,別紙1の@本件商標とA引用商標1とを対比すれば,後者が結合しているのに対し,前者のアーチ形状のステッチ(内部破線)は,結合していない。しかし,本件商標のアーチ形状のステッチを仔細に見分すれば両者が結合していないとわかるのであるが,アーチ形状のステッチの中央部に前記のように欧文字の「S」字状の図形が描かれていることから,看者に対し,左右に分かれたアーチ形状のステッチの間を欧文字の「S」字状の図形が結んでいるかのような印象を与えるものである。なお,「S」が「SOMETHING」の頭文字であるとの原告の説明を聞けば,そのように首肯し得るが,両者の「S」の字体が異なっており,しかも,「S」がアーチ形状のステッチに挟まれる形で存在することから,図形(模様)のようにも見えてしまうのであって,仔細にみれば,左右のアーチ形状のステッチと「S」との表示は,結合はしていないが,看者に対して,上記のように一連の繋がりのあるものとの認識を与えることは否定できない。その結果,引用商標1のアーチ形状のステッチと似たものと受け止められる可能性が大きいと認められる。
(c) 原告は,上記中央部の「S」と「ダイヤモンドポイント」との相違をも主張する。
確かに,本件商標の中央部には欧文字の「S」字状の図形があり,引用商標1の中央部には,「ダイヤモンドポイント」と呼ばれている別紙1のA引用商標1のような形状の構成となっていることが認められる。
原告は,「S」について,「SOMETHING」の頭文字であり,「SOMETHING」ブランドの卓越した著名性と相まって,需要者に強烈な印象を与えると主張する。そして,バックポケットの中央に何らかの1個の文字を象徴的に付することは斬新で画期的であるとも主張する。
しかし,前判示のとおり,「S」が「SOMETHING」の頭文字であるとの原告の説明を聞けば,そのように首肯し得るが,ジーンズパンツの需要者及び取引者が単に本件商標に接した場合に,「S」が「SOMETHING」の頭文字であると理解するのは必ずしも容易ではないこと(「S」の一文字が「SOMETHING」ブランドの略称ないしマークであるとして広く知れ渡っていることを認めるに足りる証拠もない。),また,「SOMETHING」の「S」と中央にある「S」とは,字体が異なっていること,さらに,図形というべき左右のアーチ形状のステッチに挟まれて,単独で存在する「S」の表示は,看者にとって,文字であると必ずしも判然とわかるものではなく,図形(模様)のようにも見えてしまうことなどに照らせば,原告の主張するように,「S」の部分が需要者に強烈な印象を与えるものとは認められない。
一方,引用商標1の「ダイヤモンドポイント」は,被告の使用するバックポケットのステッチにおける特徴的な形状の一部ではあるが,その部分は決して大きくはないことも考えれば,上記「S」との差異は,看者に与える印象としてもそれほど強くはないと認められる。
なお,原告は,「S」を付すことの斬新性をいうが,通常は,工程上ないしコストの上から文字を付することがないというものであって,この点は,商標の類似性の程度に関する認定に格別影響を与えるものではない。
(d) 原告は,アーチ形状のステッチ(破線)の曲がりの度合いの相違も主張する。
確かに,本件商標と引用商標1とでは,曲がりの度合いに差異が認められる。しかし,両者のアーチ形状のステッチ(破線)は,2重の平行の破線により,五角形の外周部左右両辺からバックポケットの中央部に向かって形成され,これが中央部で下向きに形成されており,中央部を垂直に通る直線を基準としてほぼ左右対称となっているものである点では,共通しており,やや曲がりの角度に差異が認められるにすぎない。
なお,原告は,左右対称の2つのアーチ状のステッチは,他社のバックポケットでも使用されていると主張するが,後記のとおり,引用商標1のステッチの形状は,被告の商品を連想させるものとして周知著名性の高いものであり,本件商標の登録出願及び登録査定の当時において,被告を示す識別表示としての機能が失われていたことを認め得る証拠はないのであるから,原告主張の事実をもって,直ちに,本件商標と引用商標1との類似性を否定すべきことにはならない。
(e) 原告は,本件商標には「SOMETHING」の文字が,引用商標1には「LEVI'S」の文字が含まれることを主張する。
確かに,両商標には,上記の文字が含まれている。そして,「LEVI'S」の名称の周知著名性が極めて高く,「SOMETHING」もその売上実績(甲86)などに照らせば,女性用ジーンズのブランドとして相当程度の周知著名性を有しているものと認められる。そして,両者の文字部分(タブ)は,それ自体に特徴があるともいい得る。しかし,これらの点を考慮しても,商標全体の構成の中でみれば,文字部分は,面積的にも,看者に与える印象の点でも,それほど大きい部分を占めるものではなく,ステッチを含むバックポケット全体の構成の類似性の判断に占める要素としては強力なものであるとは認められない。
なお,本件商標における「SOMETHING」の表示は,黒地に白抜きで比較的目につきやすいとはいえるが,上記認定を左右するに足りるものとはいえない。また,原告は,実際の商品においては,「SOMETHING」の文字を付さないで使用している場合がある(乙5)。原告は,準備書面(二)において,デザイン上の観点から「SOMETHING」の横タブが含まれないバックポケットを使用したジーンズも併せて販売するようになった旨の説明をしているが,そうであれば,原告自身,バックポケットの構成要素として「SOMETHING」の文字部分を重視していないものともいえる。
(f) 以上によれば,「両者におけるアーチ形状のステッチ中央部の相違は,前記した両者の近似性を凌駕するほどの顕著なものとは認められない。」とした審決の判断は是認し得るものであり,また,後記検討結果をも考慮すれば,審決が「各文字部分の存在をもって,両商標間の広義の混同のおそれを否定することはできない。」とした判断も是認し得るものである。
そして,本件において,最高裁平成13年7月6日第2小法廷判決における福田博裁判官の補足意見にいう商標法4条1項15号該当性が否定され,商標登録を受けられるとすべき事情が存在するということはできない。
原告は,類似性の程度に関して種々主張するが,いずれも採用することができない。
(3) 引用商標1(被告バックポケットの形状)の周知著名性について (a) 証拠(乙6〜101〔枝番号を含む〕)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,1853年に設立されたジーンズパンツの草分けとなったメーカーであり,100年以上もの間にわたって,多少のデザインの変化はあるが,基本的に引用商標1に示された構成又はこれに酷似したバックポケットを使用してきていること,被告は,我が国においても,昭和40年代から長年にわたって,男性誌,女性誌を問わず,各種雑誌に広告を掲載し,テレビコマーシャルも放送し,過去10年間において毎年約15億円から29億円をかけて宣伝広告をしていること,各種雑誌記事等においては,被告の商標である「LEVI'S」と並んで,引用商標1の外周五角形形状とその内部の二つのアーチ形状が掲載されていること,被告のジーンズパンツの日本における売上げは,平成7年(前年12月1日から同年11月30日までを会計年度とする売上高,以下同じ。)から平成11年は,250億円を超え,平成12年から平成15年までも,平成13年を除き年間売上高が200億円を超えており,平成13年の年間売上高も200億円近くあること,平成7年から平成15年までの期間における被告のジーンズパンツの売上総数は5千万本を超えていること,これらのジーンズパンツ売上げのうち,大半のジーンズパンツには,引用商標1が使用されていること,被告は,平成11年7月から平成12年5月までの間,全国3箇所において,「リーバイス ヒストリー展」を開催し,当該展覧会のポスター,チラシ及び入場券では,「LEVI'S」との欧文字と,引用商標1が使用された被告のジーンズパンツのバックポケットを16個並べた写真が用いられており,展覧会の延べ入場者数は約3万6千名であったこと,その他,宣伝広告としてではなく,雑誌等の特集によって,引用商標1が用いられた被告の商品が掲載されることもあったことが認められる。
(b) 以上の事実によれば,引用商標1及びこれに酷似した被告バックポケットの形状は,ジーンズパンツの需要者・取引者の間に広く認識されており,著名といえるまでに至っているかどうかはともかく,その周知著名性の程度は,極めて高いものであると認められる。
(c) 原告は,「LEVI'S」の表示が著名であることによって,需要者は,ステッチの形状には着目ないし意識しないこと,ジーンズの店舗での陳列方式からステッチは見えにくいことなどを種々主張するが,上記認定のとおり,引用商標1及びこれに酷似した被告バックポケットの形状は,需要者に広く知られており,高度の周知著名性を有するのであって,原告主張は,採用の限りではない。
(4) 原告は,審決が取引の実情について不当に軽視していると主張する。
検討するに,原告は取引の実情として種々主張するが,ジーンズパンツについて原告主張のような販売形態及び購入形態がいかなる店舗でも例外なくとられているといった特殊な事情があるとは証拠上全く認められず,取引の実情からしても,一般需要者の混同を生ずるおそれを否定することはできない。
また,原告及び被告が現在の日本における二大ジーンズメーカーとして著名であるとしても,上記認定を覆すに足りるものではない。
(5) 以上のとおりであり,本件商標と引用商標1は,前判示の程度の類似性を有するのであり,引用商標1及びこれに酷似した被告バックポケットの形状の周知著名性の程度が極めて高いものである。そして,引用商標1がデザインとして創作されたものか,自他識別のために創作されたものかは,当事者間に争いがあるものの,いずれにしても,ステッチの形状を含め,機能等の観点から,引用商標1のような形状にならざるを得ないというものではないことでは,争いがない。そうであれば,数々とり得るバックポケットの構成から,引用商標1のような構成を採用したという点では,一定の創作性が認められる。また,本件商標の指定商品が「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」であることは前記のとおりであり,一方,被告の使用に係る被告バックポケットの形状も既に認定したとおり,ジーンズパンツに係るものであるから,両者の商品は,同一あるいは互いに極めて関連性の深い商品といえる。そして,商品等の取引者及び需要者が共通性を有することも明らかである。これらに加え,既に検討した取引の実情などに照らし,取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に本件商標の登録出願時及び登録査定時における混同を生ずるおそれを判断するならば,本件商標をその指定商品について使用したときには,引用商標1又は被告バックポケットの形状が強く連想され,被告ないし被告と関係のある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれがあると認められる。よって,本件商標は,商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」であるというべきである。
なお,原告は,原告が被告の商標へのフリーライドをしようとすることはあり得ないとの趣旨を主張するが,上記条項は,フリーライドのみならず,ダイリューションなどをも防止する趣旨であると解されるのであるから,仮にフリーライドでないとしても,直ちに,上記条項への該当性が否定されることにはならない。よって,原告の主張は,採用の限りではない。
3 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文