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事件 平成 21年 (ワ) 2400号 商標権移転登録手続請求事件
東京都千代田区<以下略>
原告一般財団法人日本中国語検定協会
同訴訟代理人弁護士近藤早利
同 西尾優子
同 久保陽奈
同 野村麻衣子
同 西田弥代
同訴訟復代理人弁護士牧尚人
同 補佐人弁理 士小谷武東京都練馬区<以下略>
被告A
同訴訟代理人弁護士中西義徳
同 森本奈津子
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2010/12/16
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告は,原告に対し,別紙商標権目録記載1及び2の各商標権の移転登録手続をせよ。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文同旨第2事案の概要別紙商標権目録記載1及び2の各商標権(以下,これらを総称して「本件商標権」といい,各登録商標を総称して「本件商標」という )は,Bにより商。
標登録出願がされ(以下「本件出願」という,同人を商標権者として商標 。)登録されたものである。Bの死亡した後,本件商標権につき,一般承継を理由として,Bの相続人である被告に対して移転登録がされた。
原告は,日本中国語検定協会(以下「旧協会」という )を設立者とする一。
般財団法人であり,原告の実施する中国語検定試験の呼称として本件商標を使用している。
本件は,原告が,本件出願は当時旧協会の代表者であったBが権利能力なき財団であった旧協会のために行ったものであり,本件商標権の実質的な権利者は旧協会との間に人格の同一性が認められる原告であると主張して,商標権に基づき,又は,Bと旧協会との間の委任契約に基づき,被告に対し,本件商標権の移転登録手続を求めた事案である。
1争いのない事実等(末尾に証拠を掲記した事実以外は,当事者間に争いがない事実である )。
( )当事者等1原告は,旧協会を設立者として平成21年1月5日に成立した,中国語検定試験の実施及びこれに関連する事業等を行うことを目的とする一般財団法人である。
被告は,本件商標権の登録名義人である。
Bは,被告の父であり,本件商標権の前登録名義人である。Bは,旧協会の理事長であり,平成15年7月22日に死亡した。被告は,Bの相続人である。
( )本件商標の登録2,, () Bは 平成9年1月27日 本件商標について商標登録の出願 本件出願をし,別紙商標権目録記載1の商標については平成10年9月25日に,同目録記載2の商標については同年8月14日に,それぞれ,Bを商標権者として商標登録がされた。
被告は,本件商標権について,平成18年6月15日付けで,一般承継による本権の移転を理由として,移転登録を受けた。
( )旧協会及び原告による本件商標の使用3旧協会は,昭和56年から平成20年までの間,毎年,中国語検定試験を実施した(なお,旧協会の実体がBの個人的な事業であったのか,それとも権利能力なき財団であったのか,という点については,後記のとおり当事者間に争いがある。旧協会は,上記検定試験を表す呼称として,本件商標を 。)使用した(甲5,乙46,47 。)原告は,原告が一般財団法人として成立した平成21年以後,中国語検定試験を実施しており,同試験の呼称として本件商標を使用している(甲93 。)2争点本件出願は,Bが,出願当時権利能力なき財団であった旧協会の代表者として,旧協会のために行ったものか。
[原告の主張]( )本件出願は,出願当時旧協会が権利能力なき財団であったため法人格を1有しておらず,旧協会名義で商標登録の出願をすることができなかったことから,Bが,旧協会の代表者として,旧協会のために行ったものである。
したがって,本件商標権の実質的な権利者は,本件商標が登録された当時は旧協会であり,原告の成立後は,旧協会との間に人格の同一性が認められる原告であるから,原告は,本件商標権の登録名義人である被告に対し,商標権に基づき本件商標権の移転登録手続を求める。
本件出願当時に旧協会が権利能力なき財団の実体を有していたこと,Bが旧協会のために本件出願をしたこと,及び,旧協会と原告との間に人格の同一性が認められることは,以下の事情から明らかである。
ア旧協会が権利能力なき財団の実体を有していたこといわゆる権利能力なき財団と認められるためには,目的財産が分離独立して管理運用され,運営のための組織を有し,社会生活において独立した実体を有していることを要する。旧協会は,本件出願当時,次のとおり上記要件を充たしていた。
(ア)Bや,原告の現代表者であるCらは,昭和44年ころから,大阪において 「愚公会」という名称で中国語勉強会を実施していた。愚公会 ,の関係者は,昭和56年に,中国語の学力を計る検定試験を実施する団体として,日本中国語検定協会(旧協会)を設立した。
(イ)旧協会は,遅くとも昭和62年以後,B固有の財産とは別に 「日,本中国語検定協会「日本中国語検定協会B」又は「日本中国語検定 」,協会理事長(代表者)B」の名義で,複数の銀行に預金口座を保有し,その財産を管理していた。上記預金口座に入金された金員の大半は,旧協会が行う中国語検定試験の受験料であった。
,,, , また 旧協会は 遅くとも平成5年以後 旧協会名義で税務申告をし固定資産税等の税金を納めていた。
(ウ)旧協会は,昭和62年ころ,公益法人化を目指して 「財団法人日,本中国語検定協会」設立発起人会を開催し,寄附行為(甲9。以下「本件寄附行為」という )を制定した。また,旧協会は,中国語検定試験 。
の運営に関する諸規則のほか,協会の運営に関する諸規則を制定した。
旧協会は,その後,本件寄附行為及び上記諸規則に従って協会を運営し,定期的に理事会を開催して,理事会において,定足数を満たしていることを確認した上で,協会の収支・会計,理事の辞任及び選任,毎年の検定試験の結果,その他協会の運営に関する事項について,理事長や各理事から報告がされ,理事会の承認を得ていた。なお,Bは,遅くとも昭和62年に,旧協会の理事らによって旧協会の理事長に選任され,平成12年3月31日まで理事長をつとめた。
イBが旧協会のために本件出願をしたこと(ア)旧協会は,その設立以後,毎年2回(平成9年以後は毎年3回 ,)中国語検定試験を実施し,平成6年ころから,旧協会自体及び上記検定試験を表す呼称として,別紙標章目録記載の標章(以下「本件標章」という )を使用した。。
(イ)その結果,本件標章は,旧協会が実施する中国語検定試験を表すものとして周知されてきたことから,旧協会は,本件標章について商標登録を出願することとした。しかしながら,旧協会は,当時,法人格を有しておらず,旧協会名義で商標登録をすることができなかったため,旧協会の代表者理事長であったBを出願人として,本件商標の登録を出願(本件出願)した。また,本件出願及び本件商標の登録に係る手続は,旧協会が弁理士に依頼し,上記手続に係る費用は,旧協会が負担した。
(ウ)Bは,本件出願当時,大東文化大学の教授をつとめており,自己の業務のために本件標章を使用したことはなく,本件商標の登録後も,旧協会が本件商標を使用することに異議を述べたことはない。また,被告も,旧協会及び原告が本件標章を使用していることについて異議を述べたことはない。
Bは,平成10年秋ころから体調を崩し,理事長としての役務を遂行することが困難となったため,平成12年3月31日,旧協会の理事長を退任し,Cが後任の理事長に就任した。旧協会は,上記のとおりBの体調が良くなく,話し合いをするのも困難な状況であったことから,Bの体調を慮って,本件商標権を後任理事長の名義に直ちに移転登録するようBに求めることはせず,本件商標権が存続期間の満了によって消滅するのを待ち,その後に後任理事長の名義で商標登録を出願する方針を。,, , とった その後 旧協会は 平成15年7月22日にBが死亡したためBの相続人である被告に対し,本件商標権の移転登録手続をするよう求めた。ところが,被告からは,後日連絡するとの返事が来ただけで,そ。,,, の後は音沙汰がなかった そのため 旧協会は 平成19年6月28日Cを出願人として,本件商標について登録出願手続をした。
ウ旧協会と原告との間に同一性が認められること,, ,, 原告の設立者は 旧協会であり 原告の設立時における代表理事 理事評議員及び監事は,当時の旧協会における代表理事,理事,評議員及び監事と同一である。また,原告が成立する前の旧協会の寄附行為と原告の定款とは,構成,内容に若干の変更はあるものの,目的,事業等は同一であって,本質的な変更はなく,原告の事務所の所在地も,旧協会の事務所の所在地と同じである。そして,原告は,原告の成立する以前に旧協会が行ってきた中国語検定試験を,そのまま引き継いで実施している。
以上の事実によれば,旧協会と原告との間に人格の同一性が認められ,原告が旧協会の権利義務を承継していることは,明らかである。
( )仮に,商標法が登録主義をとっていることから,本件商標権の登録名義2人でない原告を商標権者と認めることができないとしても,Bは,旧協会の理事会において旧協会の代表者理事長に選任されたものであり,Bと旧協会とは,委任関係にあった。そして,Bは,上記のとおり委任者である旧協会, , のために本件出願をしたものであるから 旧協会の理事長を退任した時点で, (, 上記委任契約に基づき 本件商標権の登録名義をBの後任の理事長 ただし旧協会が法人化していれば,当該法人 )に移転登録する義務(民法646 。
条2項)を負っていた。
また,Bは,上記委任契約上,旧協会のために,善良な管理者の注意をもって代表者としての事務を処理し,旧協会の重要な財産の管理,処分について旧協会内部の適正な手続を経る義務(民法644条)を負っており,同義務には,Bが旧協会の代表者の地位を退く際に本件商標権を次の理事長(旧協会が法人化していれば,当該法人 )に移転登録すべき義務も含まれる。 。
よって,旧協会との間に同一性が認められ,旧協会の権利義務を承継した者である原告は,Bの死亡によりBから上記移転登録義務を相続した被告に対し,本件商標権の移転登録手続を求める。
[被告の主張]本件出願は,次のとおり,Bが,本件商標権をB個人に帰属させる意思で行ったものであり,また,本件出願当時,旧協会は権利能力なき財団の実体を備えていなかった。
( ) 旧協会が権利能力なき財団の実体を備えていなかったこと1アBが旧協会を設立した経緯及びBが理事長であった当時の旧協会の運営状況は,次のとおりである。
(ア)Bは,大阪市立大学及び大東文化大学の教授,北京大学の客員教授等をつとめた,日本における中国語研究の第一人者であり,中国語教育を通じて中国との友好交流の促進を図り,中国語の普及及び発展に尽力した者である。
,,「」,, Bは昭和43年ころ愚公会を立ち上げ昭和56年ころから「」 , 中国語学力認定協会 の名称で中国語の語学能力の検定試験を実施し昭和60年ころ,上記協会の名称を「日本中国語検定協会 (旧協会)」と改めた。
(イ)Bは,旧協会の東京での事務所を,当初,株式会社国書刊行会(以下「国書刊行会」という)に置いたものの,旧協会の実体はB1人であったため,B本人が旧協会の事務を行うことはできなかった。そこで,Bは,国書刊行会との間で,Bが旧協会名義の書籍を出版することを条件に,旧協会が行う中国語検定試験に関する事務を国書刊行会が無料で行う旨を合意した。
(ウ)Bは,昭和62年,旧協会の事務所を株式会社光生館(以下「光生」。)。,,, 館というに移したその際Bと光生館との間で?旧協会は光生館のビルの一部を事務所として無償で使用する,?光生館は,旧協会の実施する中国語検定試験に係るすべての事務を行う,?Bが編集し,光生館から出版していた「現代中国語辞典」の印税を光生館が取得する,旨を合意した。
(エ)Bは,昭和62年ころ,上記のとおりBの個人事業であった旧協会を財団法人化しようと考え,文部省(現文部科学省)に対して認可申請を行った。
,, , しかしながら 文部省は 旧協会をBの個人事業にすぎないと判断し財団法人の認可をしなかった。Bは,上記認可申請の際,財団法人設立の認可を受け得るだけの資金を集める予定であったが,上記認可を受けることができなかったため,結局,旧協会に対して財団の核となるべき財産の出捐は行われなかった。
(オ)Bは,同人と北京外国語大学との緊密な関係を活かし,同大学に日本人留学生を送るため,平成3年,株式会社国際交流事業団(以下「国際交流事業団」という)を設立し,同社の代表取締役に就任した。国際交流事業団の株主は,名義上は旧協会であったが,旧協会の財産は,著書の印税も含めたBの個人的な財産であり,実際の株主はBであった。
, , , また B以外の国際交流事業団の役員は Bの親族やBの知人らであり国際交流事業団も,旧協会と同様,実質的にはBの個人事業であった。
, ,, Bは 国際交流事業団が順調に利益を上げたため 平成4年ころから旧協会の事務を国際交流事業団に行わせるようになり,旧協会の事務所も,光生館から,国際交流事業団の事務所のあるビルに移した。当時,旧協会には専従の職員はおらず,国際交流事業団の職員が旧協会の事務局長や常務理事を兼任し,旧協会の仕事をこなしていた。また,旧協会の職員の給与は,主に国際交流事業団から支払われ,職員の社会保険料も,すべて国際交流事業団が負担していた。
(カ)旧協会の理事は,いずれも,大阪市立大学や大東文化大学等の,Bの個人的な人脈に連なる学校関係者であり,Bの指名に基づくものであって,基本的にBに反対する理事はいなかった。
, , また 理事会と呼ばれる形式的な会合が年に2回程度開かれていたが討議といっても,理事がBの意見を聞くだけであり,最終決定はすべてBが行っていた。また,理事代行者の選任のような,本来理事会で決められるべき事項も,すべてBが独断で決定していた。
イ以上のとおり,旧協会は,B個人の資金及びBの個人事業である国際交流事業団からの多額の寄与によって運営されていたものであり,財団法人設立に必要な基本財産は出捐されておらず,旧協会が実施する検定試験に係る事務は,他の事業者が担っていた。また,旧協会には,財産管理の組織は存在せず,理事会も機能していなかった。
したがって,旧協会は,権利能力なき財団の実体を備えていなかったというべきである。
( )Bは,本件商標権を自己に帰属させる意思で本件出願をしたこと2アBが本件出願をした経緯及び本件出願後の状況は,次のとおりである。
(ア)国際交流事業団が行う留学事業は,当初は順調であったが,平成9年1月ころになると,少子化の進行によって応募してくる留学生の数が減少したほか,中国の通貨である元の円に対する価値が上昇したこともあって,留学事業による収入に陰りが見え始めた。
そこで,Bは,国際交流事業団が,それまで旧協会の実施する中国語検定試験の実務を実質的に行ってきた経験を活かし,旧協会から上記検定事業の実施を請け負い,その委託料金によって留学事業の赤字を補てんすればよいと考え,同月,国際交流事業団の定款を変更し,会社の目的に「外国語技能検定試験の実施」を加えた。このように,Bは,旧協会と国際交流事業団を車の両輪として中国語検定事業を進めようと考えていた。
(イ)Bは,平成9年1月27日,本件出願をした。Bが本件出願をしたのは,旧協会と国際交流事業団が共同で上記検定事業を行うに際し,他の事業者に本件商標に係る権利を取得されることによって,旧協会が本件商標を使用することができなくなることを回避するためであった。
Bは,旧協会又は国際交流事業団が本件商標を独占的に使用するために本件出願をしたものではなかったことから,本件商標権の帰属先についてはB個人とした。
なお,旧協会の理事会において,本件出願の是非が議論されたことはなく,本件出願前に本件出願がされたことを知っていた理事は,Bの側近である理事に限られていた。また,Bは,本件出願及び本件商標権の登録手続に要した費用を自己資金から支払った。
(ウ)Bは,平成12年3月31日,旧協会の理事長を退任し,平成15年7月22日,死亡した。しかしながら,旧協会は,Bの生前,Bに対して本件商標権を旧協会の後任の理事長の名義に移転登録するよう求めたことはなかった。
また,Bは,本件商標のほかに,旧協会の名称である「日本中国語検定協会」の商標についても,Bの名義で商標登録を出願し,平成5年3月31日,同人名義で商標登録がされ,平成15年3月31日,同商標権について存続期間の更新手続をとっている。
イ以上のとおり,Bは,旧協会と国際交流事業団とで共同で中国語検定事業を進めようとしていたものであり,本件出願をしたのは,旧協会又は国際交流事業団が本件商標を独占的に使用するためではなく,他の事業者が本件商標に係る権利を取得することによって本件商標を上記検定事業に使用することができなくなることを防ぐためであった。
また,Bが,旧協会の理事長を退任した後であるにもかかわらず 「日,」 ,, 本中国語検定協会 に係る商標権の更新手続をとったという事実は Bが上記商標権は旧協会ではなくB個人に帰属すると認識していたことを意味する。Bは,本件商標権についても同様に,B個人に帰属するものと認識していた。
第3当裁判所の判断1認定事実,(,,, ( )前記争いのない事実等に加え証拠甲3〜57〜1120〜301,,,,,,,,,, 32〜6568697192〜97乙6910121317,20〜24,28,30,41,45,52,被告本人。なお,枝番号の付いている書証については,枝番号の付いているものをすべて含む )。
及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア旧協会の設立までの経緯() , , B 大正4年6月7日生 は 大阪市立大学及び大東文化大学の教授や北京大学の客員教授等をつとめた,高名な中国語の研究者である。
Bは,大阪市立大学の教授をつとめていた昭和44年ころ,同大学の中国語・中国文学研究室関係者,大阪における中国語民間研究者,大阪在住の中国人らとともに,Bが責任者となって 「愚公会」という名称で,勤 ,労者,学生等を受講者とする中国語講習会の開催等の活動を行った。上記講習会の講師は,Bのほか,Bの教え子である大阪市立大学の大学院生,他大学の中国語の研究者,中国人らがつとめた。
Bら愚公会の関係者は,中国語学習者の学習意欲を高め,その学習成果に対し社会的評価を与えるためには,英語検定のように,中国語にも,その学力程度を認定する制度が必要であると考え,昭和56年ころ,Bを代,「」(,, 表者として中国語学力認定協会という名称の団体なお同名称は昭和60年ころ 「日本中国語検定協会」と改称された )を設立し,昭和 , 。
56年11月,第1回の中国語能力検定試験(その後,名称を「中国語検定試験」と改めた。以下「本件検定試験」という )を実施した。。
イ旧協会による中国語検定試験の実施その後,上記協会(旧協会)は,昭和57年から平成20年までの間,毎年2回(平成9年以後は毎年3回 ,本件検定試験を実施した。本件検 )定試験は,中国語の能力の程度に応じて,1級ないし4級,準2級及び準4級の6段階に分けられ(なお,準4級は昭和63年から実施され,準2級は平成元年から実施された,受験料は,受験する級に応じて300 。)0円ないし1万円程度であった。
本件検定試験の年間の受験者数は,昭和59年度までは100人程度であったのが,昭和61年度に1000人を超え,平成元年度には1万人,平成9年度には3万人,平成18年度には5万人を,それぞれ超えるなど急増し,平成20年度までの累積受験者数は,約60万人に上った。
旧協会の主な収入は,本件検定試験の受験者が支払う受験料であり,その金額は 受験者数の増加に伴い増大し 本件出願のされた平成8年度 平 , , (成8年4月1日〜平成9年3月31日)の受験料収入は,1億円以上に上った。また,旧協会は,遅くとも昭和62年以後,本件検定試験の受験料を管理するための口座として 「日本中国語検定協会「日本中国語検定 ,」,協会B「日本中国語検定協会代表B」又は「日本中国語検定協会代 」,表者(理事長)B」の名義で,複数の銀行に預金口座を保有し,その財産を管理した。これらの預金口座の通帳及び銀行届出印は,旧協会の事務局において管理され,同口座における預金残高の合計額は,平成8年3月31日の時点で約1億円,平成10年3月31日の時点で約2億4000万円に上った。
ウ本件寄附行為の制定及び財団法人認可の申請旧協会の関係者は,本件検定試験の受験者が急増し,従来の組織によって対応するのが困難となってきたことから,旧協会の財団法人化(公益法)。, , 人化 を目指すこととした そこで B及びCら合計8名が発起人となり昭和62年5月9日,財団法人日本中国語検定協会の設立発起人会を開催, ,, し 同財団法人の設立趣意書の採択及び本件寄附行為の制定を行い 翌年文部省(現文部科学省)に対し,財団法人設立の認可を申請した。
これに対し,文部省は,当初は,財団法人の認可をする見込みである旨を非公式に旧協会に伝えていたものの,その後,中国語関係学会,団体等の合意が得られていないため,旧協会を唯一の検定団体として財団法人の認可を出すことはできないとの意向を旧協会に伝えるようになり,結局,上記申請について認可をしなかった。
エ旧協会の組織及び運営(ア)旧協会は,本件寄附行為を定めた時期と同じころ 「日本中国語検,定協会規則 (甲10の1。以下「旧協会規則」という )及び「日本中 」 。
国語検定協会諸規則 (甲10の2。以下「旧協会諸規則」という )を 」 。
制定した。
旧協会規則では,旧協会は財団法人日本中国語検定協会ができるまでの暫定的なものであるとされ(なお,本件寄附行為では,従来旧協会に帰属した権利義務の一切は,財団法人日本中国語検定協会が継承するものとされた,旧協会の目的及び事業,事務所の所在地,資産,理事 。)の任免等について,次のとおり規定した(この内容は,本件寄附行為に規定されたものとほぼ同様である。また,旧協会諸規則では,本件 。)検定試験に関する基本的な事項及び業務や,旧協会の組織(事務組織,試験実施組織)及び人員配置等について定められた。
[旧協会規則]第2条(事務所)この団体は,事務所を東京都文京区<以下略>におく。
第4条(目的)この団体は,中国語に関する技能検定試験を行い,あわせて中国語の普及を図り,もって我が国の文化の発展に資することを目的とする。
第5条(事業)この団体は,前条の目的を達成するために次の事業を行う。
( )中国語技能検定試験の実施及びこれに必要な調査・研究1( )検定した中国語の技能度の登録及びその証明書の発行 2( )その他目的を達成するために必要な事業 3第6条(資産の構成)この団体の資産は次のとおりとする。
( )設立当初の財産目録に記載された財産1( )資産から生ずる収入2( )事業に伴う収入(以下省略)3第7条(資産の種別)この団体の資産を分けて基本財産及び運用財産の2種類とする。
(以下省略)第8条(資産の管理)この団体の資産は,理事長が管理し,基本財産のうち現金は,理事会の議決を経て定期預金とするなど確実な方法により,理事長が保管する。
第11条(事業計画及び収支予算),, この団体の事業計画及びこれに伴う収支予算は 理事長が編成し理事会の議決を経なければならない。事業計画及び収支予算を変更しようとする場合にも同様とする。
第12条(収支決算),,,, この団体の収支決算は 理事長が作成し 財産目録 貸借対照表事業報告書及び財産増減事由書とともに監事の意見を付け,理事会の承認を受ける。
第16条(役員)この団体には,次の役員を置く。
(,) ( )理事10名以上20名以内 うち理事長1名 常務理事2名1を定める。
( )監事1名ないし2名2第17条(役員の選任)当初の理事及び監事は,発起人会でこれを選任し,理事は互選で, 。 理事長を定め 常務理事は理事長が理事の中から指名により定める新たな役員の選任は理事会で行う。
第20条(役員の任期)この団体の役員の任期は,2年とし,重任を妨げない (以下省。
略)第21条(役員の解任)役員が次の各号の一に該当するときは,理事現在数のそれぞれ3分の2以上の議決により理事長がこれを解任することができる以。(下省略)第26条(理事会の召集等)理事会は,毎年2回理事長が召集する (以下省略)。
第27条(理事会の定数等)理事会は,理事現在数の3分の2以上の者が出席しなければ,その議事を開き議決することができない (以下省略)。
(イ)旧協会は,旧協会規則にのっとり,昭和62年以後,少なくとも毎年2回,理事会を開催した。理事会は,定足数を満たしたことを確認した上で開会され,旧協会の次年度の収支予算及び当年度の収支決算に対する承認,理事の辞任,選任に対する承認のほか,本件検定試験の結果報告,旧協会の運営に関する意見交換等が行われた。
旧協会の理事長には,遅くとも昭和62年に,旧協会の理事らによっ,, 。 てBが選任され 同人は 平成12年3月31日まで理事長をつとめた(ウ)旧協会には,遅くとも昭和62年以後,理事会の下に事務局が置か,, 。, れ 職員を雇用し 本件検定試験の実施等に関する事務を行った また本件検定試験の試験問題の作成等については,事務局とは別に各種委員会(試験問題作成委員会,採点委員会,合否判定委員会等)が置かれ,理事や学識者が委員となるなどして事務を行った。
(エ)旧協会は,受験料収入が増加したことなどから,平成5年,小石川税務署に対し,旧協会を納税者ないし事業者とする消費税課税事業者届出書及び事業開始等申告書を提出し,文京都税事務所に対し,書籍の販売を収益事業とする収益事業開始届出書を提出した。
旧協会は,同年以後,平成21年に原告が成立するまでの間,旧協会の名前で税務申告をし,国税,都税等の税を納めた。
オ本件出願及び本件商標権の登録旧協会は,平成6年ころから,旧協会自体及び本件検定試験を表す呼称として本件標章の使用を始め,本件標章を旧協会の名称の上に表示した業務用封筒を使用したり,本件検定試験の受験案内に同試験の略称として本件標章を表示したり 「中検報告」という名称の機関誌を発行したりする ,などした。
旧協会は,本件標章が旧協会及び本件検定試験を表すものとして周知されてきたことから,平成9年1月,本件標章について商標登録を出願することとした。しかしながら,旧協会は,当時法人格を有しておらず,旧協会名義で商標登録をすることができなかったため,旧協会の代表者理事長であったBを出願人として,本件商標の登録を出願(本件出願)した。ま, , , た 本件出願及び本件商標の登録に係る手続は 旧協会が弁理士に依頼し上記手続に係る費用は,旧協会が負担した。
カ国際交流事業団の経営をめぐる紛争及びBの理事長退任(ア)国際交流事業団は,邦人留学生に対する国外での短期及び長期留学, 。, の紹介等を目的として 平成4年に設立された株式会社である 同社は旧協会がすべての株式を所有し,Bが初代の代表取締役に就任した。
国際交流事業団は,北京外国語大学に毎年数十名の日本人留学生を送るなど,当初は順調に利益を上げ,旧協会からも,本件検定試験の実施に係る事務の一部を委託されていた。また,同社の事務所は,旧協会と同じ場所に置かれ,同社の役員及び従業員の中には,旧協会の理事を兼任している者(B,C)や,旧協会の従業員を兼任している者もいた。
(イ)ところが,国際交流事業団の募集に応募してくる留学生の数は,平成10年ころから減少し,平成11年度には留学事業が赤字となる見通しとなり,同社の経営は,悪化した。
そのため,国際交流事業団は,株主である旧協会に対して経済的な支援を求めたものの,上記留学事業の赤字を補うほどの支援は受けられなかった。なお,Bは,上記のとおり国際交流事業団の代表取締役と旧協会の理事長を兼任していたが,平成10年秋ころから体調を崩し,療養のため理事会に出席することができないなど,理事長としての役務を遂行することが困難となり,平成12年3月31日,旧協会の理事長を退任した。Bの後任の理事長には,Cが就任した。
(ウ)その後,国際交流事業団の株主総会において,北京外国語大学国際交流学部教育後援会(以下「後援会」という )の会長であった者が, 。
新たに同社の取締役に指名され,平成12年8月9日,同社の取締役に就任した。これに対し,後援会は,上記元会長は後援会の会長時代に多額の使途不明金を含む不当な経理処理を行い,後援会に多大な損害を与えた者であり,国際交流事業団の取締役にはふさわしくない人物であると主張して,同社の株主である旧協会の対応を非難した。また,上記元会長を国際交流事業団の取締役に選任することについては,同社の代表取締役であるBや,代表取締役代行者の了解を事前に得ていたものでもなかった。
B及び上記代表取締役代行者は,旧協会が上記人事を撤回しなかったことなどから,平成12年秋に,国際交流事業団の取締役を辞任した。
その後,B,上記代表取締役代行者及び後援会の役員らは,新たに北京外国語大学への日本人留学生の留学を支援することなどを目的とする法人として特定非営利活動法人国際交流教育後援会を設立し,Bらが理事に就任した。同法人は,設立後,北京外国語大学への留学生派遣事業等を行っている。
(エ)Bは,平成15年7月22日,死亡した。旧協会は,Bの生前,同人に対し,本件商標権を旧協会の後任の理事長であるCの名義に移転登録をするよう求めたことはなかった。
旧協会は,Bが死亡した後,Bの相続人である被告に対し,本件商標権を旧協会の現理事長の名義に移転登録をするよう求めたが,被告は,これに応じなかった。
キ原告の成立旧協会は,平成21年1月5日,中国語検定試験の実施等を行うことを目的とする一般財団法人である原告を設立し 旧協会の有していた資産 現 ,(金預金2億8000万円など)を原告に拠出した。
原告の設立時における代表理事,理事,評議員及び監事は,原告設立当時の旧協会における代表理事,理事,評議員及び監事と同一であり,原告の事務所の所在地は,旧協会の事務所の所在地と同じである。また,旧協会は,平成13年4月ころ,新たに寄附行為(甲96)を制定し,同寄附行為に基づき旧協会を運営しており,同寄附行為と原告の定款とは,法人の目的及び事業,資産,理事の任免等に関する規定についてはほぼ同一である。
原告は,平成21年以後,原告の成立する以前に旧協会が行ってきた本件検定試験を引き継いで実施している。
2( )上記認定のとおり,?旧協会は,本件出願がされた当時,既に20年1以上にわたって本件検定試験を実施し,同試験の受験料を主な原資とする,総額1億円以上の銀行預金を旧協会の基本財産として有していたこと,?,「」,「 」 上記預金の名義は日本中国語検定協会日本中国語検定協会代表Bなどとされ,預金通帳や銀行届出印は旧協会の事務局において管理されていたこと,?旧協会は,旧協会規則及び旧協会諸規則を定め,これらの規則にのっとり,理事や理事長を選出し,本件検定試験の実施等の事務を行うための事務局及び各種委員会を設け,理事会において収支予算及び収支決算の承認等がされていたこと,?旧協会は,昭和63年ころに民法(平成18年法律第50号による改正前のもの)39条,37条所定の各項を含む寄附行為(本件寄附行為)を作成し,財団法人設立認可を申請したものであり,本件出願当時も同申請手続を推進していたこと,が認められる。
したがって,本件出願当時,旧協会は,個人財産から分離独立した基本財産を有し,かつ,その運営のための組織を有していたものといえ,いわゆる権利能力なき財団として,社会生活上の実体を有していたものと認められる(最高裁判所第三小法廷昭和44年11月4日判決・民集23巻11号1951頁参照 。。)また,上記認定事実に照らすと,本件出願及び本件商標権の登録に係る費用を負担したのは旧協会であり,本件出願前に「中検」という標章(本件標章)を使用していたのも,本件商標権の登録後に本件商標を使用していたのも旧協会であって,Bが個人として本件標章ないし本件商標を使用したことはなく,本件商標権がBを商標権者として登録されたのは,本件出願当時,旧協会が財団法人の設立認可を申請中で法人格を取得していなかったため,旧協会を出願人とすることができなかったことから,商標登録出願手続を進めるに当たっての便宜上,Bを出願人としたことの結果にすぎないものと認められる。
( )そうすると,Bは,本件出願に当たり,旧協会が財団法人として設立後2は本件商標権を同法人に帰属させる趣旨で本件出願をすることを了解していたといえるから,旧協会が財団法人として設立したとき,又は,Bが旧協会の代表者の地位を失ってこれに代わる新代表者が選任されたときは,財団法人ないし新代表者に対して本件商標権を移転登録する義務を負っていたものと認められる。したがって,Bは,同人が旧協会の理事長を退任し,Cが新理事長に選任された時点で,本件商標権をCの名義に移転登録する義務を負っていたものであり,この義務は,Bの相続人である被告に承継されたものと認められる。また,上記認定事実に照らすと,原告は,旧協会によって設立されたものであり,旧協会の権利義務を承継したものと認められるから,被告は,現在,原告に対して本件商標権の移転登録義務を負っているものと認められる。
( )これに対し,被告は,本件出願は,Bが,本件商標権をB個人に帰属さ3せる意思で行ったものであり,本件出願当時,旧協会は権利能力なき財団の実体を備えていなかったものであると主張し,被告本人の供述(乙52の陳述書を含む。以下同じ )中には,これに沿う部分がある。 。
しかしながら,被告本人の上記供述は,これを裏付けるに足りる客観的証拠がなく,上記( )及び( )で判示したところに照らし,これを採用すること12はできない。
( )以上のとおり,被告に対して本件商標権の移転登録手続を求める原告の4請求は理由がある。
3よって,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)商標権目録1登録番号第4192061号出願年月日平成9年1月27日登録年月日平成10年9月25日登録商標商品及び役務の区分第16類指定商品印刷物,書画,文房具類2登録番号第4178070号出願年月日平成9年1月27日登録年月日平成10年8月14日登録商標商品及び役務の区分第41類,,指定商品語学検定試験の企画・実施語学に関する能力の認定知識の教授,図書の貸与,磁気ディスク・コンパクトディスクその他の光学式記憶媒体に記憶させた文字教材・映像教材又は音楽教材の貸与,レコード又は録音済み磁気テープの貸与,録画済み磁気テープの貸与以上(別紙)標章目録中検以上
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 山門優
裁判官 小川卓逸