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関連審決 不服2011-10066
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事件 平成 24年 (行ケ) 10125号 審決取消請求事件

原告 大和建工材株式会社
訴訟代理人弁護士 村林驤
同 井上裕史
同復代理人弁護士 佐合俊彦
被告特許庁長官
指定代理人 山田和彦
同 関根文昭
同 芦葉松美
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/10/30
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が不服2011−10066号について平成24年2月28日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文と同旨。
前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成21年7月16日,別紙記載1のとおりの構成からなり,第6類 1 「建築用又は構築用の金属製専用材料,金属製建具,金属製建造物組立てセット」,第19類「セメント及びその製品,木材,石材,建築用ガラス」及び第21類「清掃用具及び洗濯用具」を指定商品とする商標(以下「本願商標」という。)を登録出願したが,平成23年4月11日,拒絶査定を受け,同年5月13日,これに対する不服の審判(不服2011-10066号事件)の請求をした。
特許庁は,平成24年2月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」とする審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年3月19日,原告に送達された。
2 審決の理由別紙審決書写しのとおりである。
要するに,審決は,本願商標は,著名な宮崎県日南市(以下「日南市」という。)の市章(別紙記載2のとおりの構成からなる。以下「日南市章」という。)と類似の商標であるから,商標法4条1項6号に該当すると判断した。
当事者の主張
1 原告の主張する取消事由審決には,以下のとおり,商標法4条1項6号該当性について判断の誤りがある。
(1) 日南市章の著名性について審決は,日南市章は,平成21年11月2日に告示されたものであり,告示は広く一般に知らしめるものであることから,「著名なもの」として扱うのが相当であると判断した。しかしながら,一般国民がこれを知ることになったかは事実の問題であり,告示の性質,目的と著名になったかどうかは同じではない。審決の上記判断は,商標法4条1項6号の解釈を誤ったものである。
被告は,本件訴訟において,日南市章が著名であると主張し,書証を提出するが,審査・審判において原告に通知されたものではない。拒絶理由通知書(乙27)においては,日南市章が「著名」であるとの通知はしていないし,審決において,突 2 然,制定時に告示をしたので「著名なもの」として扱うと認定したものである。このような認定は,商標法15条の2に違反する。
(2) 本願商標と日南市章との類否について 本願商標は,図形と文字とを一体とした標章であって,これを2つに分離して認識することはあり得ない。けだし,このような標章は,図形又は文字を「読む」のではなく,正に一目にして截然と判断するものであるからである。
本願商標の図形部分は,太陽から光が差した状態を示す図形として一般的なものであり,文字部分が無視されるほど,需要者に強く支配的な印象を与えるものではない。すなわち,「日」という漢字は,太陽を示す象形文字(古代書体)がもとになっていることは,漢和辞典にも広く記載されており,周知であるし(太陽の惑星記号にもなっている。),灯台を示す地図記号が光源(太陽)から光が放出されていることを意味する記号であることも周知である(甲26,27)。また,日本銀行の行章は,日南市章と同一であるが,同行のホームページには,同行章について,「「日」という漢字の古代書体の一種です」(甲28)との説明がある。以上のとおり,本願商標の図形部分は,古代書体の一種であり,太陽から光が差した状態を示す図形として一般的なもので,需要者に強く支配的な印象を与えるものではない(光が上下左右に4本伸びたものは,日立製作所の社章などでも知られるものである。)。
したがって,本願商標に接した需要者は,かかる一般的な図形部分よりも,むしろ社名を示す「DAIWA」との文字部分に注目し,全体として「DAIWA」という観念を抱くのであり,また「ダイワ」の称呼を認識するのである。
これに対して,日南市章は,図形のみであり,外観は明らかであるが,称呼,観念を生じない。
よって,本願商標と日南市章が類似するとの審決の判断は,誤りである。
2 被告の反論 以下のとおり,本願商標が商標法4条1項6号に該当するとした審決の認定,判 3 断に誤りはない。
(1) 日南市章の著名性についてア 日南市章の制定旧日南市は,昭和25年1月1日に,飫肥町,油津町,吾田町,東郷村の合併による市制施行により誕生し,同年12月20日に(現在の日南市章と同一といえる)最初の市章が制定された。その後,旧日南市は,平成21年3月30日に北郷町及び南郷町と合併し,新たな日南市が誕生した。日南市章は,日南市により,同年11月2日告示第182号により告示されたものである。
イ 日南市章の告示告示とは,「国家・地方公共団体などが広く一般に向けて行う通知。また,その一形式。」をいう。日南市章の制定については,旧日南市が昭和25年12月20日に,新日南市が平成21年11月2日に,それぞれ告示を行っており,各告示の日から効力が生じている。
ウ 日南市章の周知性について日南市章は,旧日南市の前記告示により,昭和25年12月20日に一般に知らしめたとみなすことができる。そして,日南市章は,同市を表示するものとして,同市の公共施設,ホームページなどに使用され,また,これに接する需要者においても,同市を表示するものとして親しまれてきたものである。
また,日南市は,平成21年11月2日に,告示第183号により市章を中央に表示した市旗も併せて制定しており,市庁舎など公共的な施設に市旗を掲揚するとともに,大きなイベントの際には,日南市の関与を知らしめるように,メインとなる舞台や調印式などの背景に市旗が掲げられている。
そして,日南市の母体に新旧の変遷があったとしても,日南市章は,昭和25年の制定以降現在に至る約60年の間使用された結果,日南市はもとより宮崎県内外において周知著名なものとなっているということができる。
エ 本願商標の指定商品分野の使用 4 商品「マンホール」は,本願商標の指定商品中「建築用又は構築用の金属製専用材料」の範疇に含まれるものである。そして,日南市がマンホールの蓋に市章を刻印しているのと同様に,マンホールの蓋には各自治体の章が刻印されることが少なくない。そして,公共工事に用いられる建材を提供している事業者がユーザーへのサービスの一環として,自身のホームページより県章・市章等のPDFデータを提供している。
以上の事実から,本願商標の指定商品など公共工事に用いられる建材を提供する事業者は,一般の者よりも地方公共団体の県章や市章等に相当程度注意を払っているという取引の実情が存在するといえる。
以上のとおり,日南市章の使用及び本願商標の指定商品分野における取引の オ実情を考慮すれば,日南市章は,日南市はもとより宮崎県内外において一般に広く知られているものということができるから,日南市章は,地方公共団体を表示する標章であって著名なものということができる。
被告は,平成21年10月26日付け拒絶理由通知書(乙27)の理由1に カおいて,日南市章が広く知られている標章,すなわち,著名な標章であって,本願商標はそれと類似するものである旨の拒絶理由を通知しているから,商標法15条の2に違反するとの原告の主張は,失当である。
また,原告は,審査・審判において,日南市章の著名性について争点としておらず,本件訴訟において初めて争ってきたものであるから,被告がその点について具体的な主張・立証を行うことに何ら問題はない。
(2) 本願商標と日南市章との類否について ア 本願商標は,上下左右に三角形の突起を有する黒塗りの肉太円輪郭とその輪郭内部の中心に内包される黒塗りの正円からなる図形を大きく書き出し,その下方に上記図形と比して1/6程の大きさで「DAIWA」の文字を配した構成からなるものである。しかして,上部図形部分と下部文字部分とは視覚上分離して把握されるものであるばかりでなく,該図形部分の占める面積は該文字部分に比べ相当程度大 5 きいものであるから,看者の目に付きやすい部分ということができ,該図形部分は,取引者,需要者をして,強く支配的な印象を与える部分ということができる。そして,本願商標は,その構成中の図形部分が下段の欧文字部分を図案化したものでもなく,また,該図形部分及び該欧文字部分は,何らの関連を有するものでもないから,該図形部分及び該欧文字部分のそれぞれが独立して商品の出所の識別標識としての機能を有するものということができる。
そうとすると,本願商標は,強く支配的な印象を与える図形部分を要部抽出し,この部分をもって他人の商標(標章)と比較して商標(標章)そのものの類否を判断することが許されるべきものである。
日南市章は,上下左右に三角形の突起を有する黒塗りの肉太円輪郭とその輪イ郭内部の中心に内包される黒塗りの正円からなる図形である。
本願商標は,その構成中,上段の図形部分が,自他商品識別標識として独立ウして認識,把握されるというべきであるから,該図形部分と日南市章と比較することが許されるところ,両者は,共に,上下左右に三角形の突起を有する黒塗りの肉太円輪郭とその輪郭内部の中心に内包される黒塗りの正円からなるものであるから,互いに類似するものというべきである。
(3) 以上のとおり,日南市章は,日南市の市章として,日南市はもとより宮崎県内外において,一般に広く知られ,周知著名なものとなっているということができるものである。そして,本願商標は,その日南市章に類似する商標である。
したがって,本願商標は,商標法4条1項6号に該当するというべきであるから,審決の認定,判断に誤りはない。
当裁判所の判断
当裁判所は,原告主張の取消事由には理由があり,審決は,違法として取り消されるべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 日南市章の著名性について(1) 日南市章の制定・告示 6 ア 昭和25年1月1日,飫肥町,油津町,吾田町及び東郷村が合併し,新たに「日南市」(以下「旧日南市」という。)となり,同年12月20日,現日南市章と同一と認められる最初の市章を制定した(乙5)。その後,旧日南市は,平成21年3月30日に北郷町及び南郷町と合併して新たな現日南市となり,同市は,同年10月30日に日南市章を市章と定め(乙6),同年11月2日告示第182号により告示した(乙2)。
イ 審決は,「公的な機関である地方自治体を表彰するために用いられる都道府県、市町村の章は、制定時に告示が行われるものであり、そして、告示は、広く一般に知らしめるものであることから、商標法第4条第1項第6号にいう「著名なもの」として扱うのが相当である」(2頁17行〜20行)として,日南市章の実際の著名性について認定することなく,「著名なもの」と認めた。しかしながら,商標法4条1項6号は,「国若しくは地方公共団体……を表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標」と 規 定しているから,同号の 適 用を受ける標章は「著名なもの」に限られると解すべきであり(告示された国又は地方公共団体を表示する標章が当然に著名なものとなるわけではない。),著名であるか否かは事実の問題であるから,告示されたことのみを理由として「著名なもの」とした審決の判断手法は,是認することができない。そして,同号は,同号に掲げる団体等の公共性に鑑み,その信用を尊重するとともに,出所の混同を防いで取引者,需要者の利益を保護しようとの趣旨に出たものと解されるから,ここに「著名」とは,指定商品・役務に係る一商圏以上の範囲の取引者,需要者に広く認識されていることを要すると解するのが相当である。
原告は,拒絶理由通知書(乙27)は日南市章が「著名」であるとの通知はしていないのに,審決において制定時に告示をしたので「著名なもの」として扱うと認定したことは,商標法15条の2に違反するものであると主張する。しかし,上記拒絶理由通知書には,拒絶理由として,「この商標登録出願に係る商標(判決注:本願商標)は,宮崎県日南市の市章として広く知られている標章と類似するものと 7 認めます。したがって,この商標登録出願に係る商標は,商標法第4条第1項第6号に該当します。」と記載されているから,日南市章が商標法4条1項6号の「著名なもの」であることを通知していると認められる。したがって,審決の認定が,商標法15条の2に違反するということはできない。
そこで,日南市章が「著名なもの」と認められるか否かについて検討する。
(2) 日南市章の使用状況 平成20年8月12日付け西日本新聞(乙11の2上),平成20年8月9 ア日付け読売新聞西部朝刊宮崎県版(同下)及び平成20年8月10日付け宮崎日日新聞(乙11の3)には,旧日南市,北郷町及び南郷町の合併に向けたカウントダウンボードが設置されたことを報じる記事が写真とともに掲載され,同写真に撮影されたカウントダウンボードには,「日南市」の表示と日南市章が記載されているが,日南市章は極めて小さく写り込んでいるにすぎない。
イ 日南市は,平成21年11月2日に,告示第183号により白地に赤色の日南市章を 中央 に 表 示した市 旗 (以下「日南市 旗 」という。)も 併せて制定し(乙9),平成21年12月15日付け「広報にちなん」5頁(乙7)において,赤色で表示された日南市章を掲載して,その旨が説明されている。
日南市のホームページの1頁(乙10の1)左上には,「日南市」の表示の ウ左に赤色で表示された日南市章が記載され,2頁には,赤色で表示された日南市章について,「市章/日南市の「日」の字と輝く太陽も意味し,4つの突起は,東西南北・四方に限りなく発展する市をイメージしています。」(「/」は改行を示す。
以下同じ。)と説明されている。
平 成21年11月22日に 開催 された 新 日南市 誕生 記 念 式 典の写 真 (乙1 エ2)には,式場の舞台奥に日南市旗が掲示されている様子が撮影されている。
平成24年6月13日18時よりNHK宮崎放送局から放送された「ニュー オスウェーブ宮崎」の「ふるさと情報局」のコーナーにおいて,赤色で表示された日南市章が記載された広報用パネルが使用された(乙13の1,2)。
8 日南市立中部病院のホームページの1頁(乙14)左上には,「日南市立中 カ部病院」の表示の左に赤色で表示された日南市章が記載され,また,日南市のマンホールの蓋中央には日南市章が表示され(乙15の1,2),日南市が風水害避難所 として認定した 公共施設等 148か 所には,「風水害避難 所/ 日南市章 / 日南市」の表示がされている(乙18の1〜4)。
キ 株式会社人文社昭和47年2月15日再版発行の「〈県別シリーズ45〉宮崎県・観光と旅 郷土資料辞典」38頁(乙19)及び株式会社角川書店平成3年6月30日再版発行の「角川日本地名大辞典 45 宮崎県」867頁(乙20)には,日南市を紹介する記事に日南市章が記載されている。また,株式会社地頭鶏ランド日南のホームページ(乙21)には,日南市のホームページとリンクするための日南市章と日南市の文字などからなるバナーボタンが用意されている。
ク 広島東洋カープが使用する天福球場には,同球団が使用する際,球団旗,社団法人日本野球機構(NPB)旗とともに,日南市旗が掲揚されている(乙22)。
また,平成24年2月18日付け宮崎日日新聞(乙23)には,記事「広島東洋カープ日南キャンプ50周年記念祝賀会」が開催された旨を報じる記事が写真とともに掲載され,同写真の背景には日南市章が小さく写り込んでいる。日南商工会議所ブログのホームページ「広島東洋カープ2012日南キャンプ情報サイト2012年02月17日」(乙24の1,2)には,「広島東洋カープ日南キャンプ50周年記念祝賀会」の写真が掲載され,会場の背に球団旗とともに日南市旗が掲示されている様子が撮影されている。
(3) 判断 以上によれば,日南市章は昭和25年12月20日に旧日南市の市章として制定され,日南市もこれを継承していること,日南市章は,日南市を表示するものとして同市の公共施設,ホームページ,広報用パネル,マンホールの蓋などに使用され,大きなイベントの際には,メインとなる舞台や調印式などの背景に日南市章が赤色で表示された日南市旗が掲げられていること,これらのイベント等を報じる新聞記 9 事やテレビ放送には,背景等に日南市章が写ることも多く,また,日南市の観光や物産を紹介する書籍,ホームページにも,日南市の名称とともに日南市章が掲載されることがあること,が認められる。
しかしながら,日南市章が,日南市の公共施設やホームページ等に表示されたからといって,本願商標の指定商品の取引者,需要者が一般に目にするとは認められない。また,イベント等を報じる新聞記事の写真,テレビ放送等に写る日南市章は,背景として小さく写り込んでいるにすぎず,目立つものとは認められない。そして,日南市の観光や物産を紹介する書籍,ホームページも,本願商標の指定商品の取引者,需要者が一般に目にするとは認められない。
被告は,本願商標の指定商品に含まれる商品「マンホール」の蓋は自治体の章が刻印されることが少なくなく,公共工事に用いられる建材を提供する事業者は県章や市章等に相当程度注意を払っているという取引の実情が存在すると主張する。しかしながら,マンホールの蓋を扱う取引者,需要者の数は明らかではなく,本願商標の指定商品の取引者,需要者のうちのどの程度を占めるのかは不明というほかない。
したがって,被告の主張する上記取引の実情を考慮しても,上記認定の事実から,審決時に,日南市章が本願商標の指定商品「建築用又は構築用の金属製専用材料,金属製建具,金属製建造物組立てセット」,「セメント及びその製品,木材,石材,建築用ガラス」及び「清掃用具及び洗濯用具」に係る一商圏以上の範囲の取引者,需要者に広く認識されていたと認めることは,困難である。
2 本願商標と日南市章との類否について(1) 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して 10 商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁)。
(2) そこで,これを本件についてみると,日南市章は,別紙記載2のとおりの構成,すなわち,上下左右に三角形の突起を有する黒塗りの肉太円輪郭とその輪郭内部の中心に内包される黒塗りの正円からなる図形からなるものである。
他方,本願商標は,別紙記載1のとおりの構成,すなわち,上下左右に三角形の突起を有する黒塗りの肉太円輪郭とその輪郭内部の中心に内包される黒塗りの正円からなる図形部分と,その下方に上記図形と 比して1/5程の大きさで「DAIWA」の文字を配した構成を組み合わせた結合商標である。
そして,本願商標の図形部分は,日南市章とほぼ同一といってよいほど類似していると認められるが,同図形部分は,日本銀行の行章(甲28)とも類似しているところ,同行章は「日」という漢字の古代書体に由来していることが認められる(甲28)。また,光が上下左右に4本伸びた構成(「上下左右に三角形の突起を有する黒塗りの肉太円輪郭」の構成)は,日立製作所の社章でもよく知られたものである(弁論の全趣旨)。
そうすると,本願商標の図形部分は,本願商標の大きな部分を占めるものではあるが,「日」という漢字の古代書体に由来するありふれた図形であって,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとまでは認められない。
他方,本願商標の「DAIWA」の文字部分は,図形部分と比して1/5程の大きさにすぎないが,同部分から「ダイワ」の称呼が生じることは明らかである。また,我が国には,「ダイワ」,「大和」を冠した企業名が多数存在する(裁判所に顕著な事実)から,取引者,需要者は,「DAIWA」の文字部分を企業名に関する表示と 11 して認識し,同部分からそのような企業名としての観念を生じるものと認められる。
したがって,本願商標の「DAIWA」の文字部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認めることはできない。
以上によれば,前掲最高裁判決の判断基準に照らして,本願商標の構成から図形部分を抽出し,この部分だけを日南市章と比較して商標そのものの類否を判断することは,許されないというべきである。
そして,本願商標と日南市章を全体として対比すると,外観において本願商標の図形部分と日南市章は類似するものの,本願商標が「ダイワ」の称呼を生じ,「ダイワ」ないし「大和」の企業名としての観念を生じるのに対し,日南市章は,特定の称呼,観念を生じるものとは認められないから,全体として類似するとはいえない。
3 結論 以上のとおり,本願商標は,著名な日南市章と類似の商標であり,商標法4条1項6号に該当するとした審決の判断は誤りである。原告主張の取消事由には理由があるから,審決は違法として取り消されるべきである。
よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田俊文