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関連審決 取消2014-300852
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成29行ケ10017 審決取消請求事件 判例 商標
平成30行ケ10059 審決取消請求事件 判例 商標
平成27行ケ10032 審決取消請求事件 判例 商標
平成29行ケ10145 審決取消請求事件 判例 商標
平成27行ケ10096 審決取消請求事件 判例 商標
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事件 平成 28年 (行ケ) 10048号 審決取消請求事件

原告 グローバル,アソシエイション,オブ,リ スク,プロフェッショナルズ,インコーポ レーテッド
訴訟代理人弁護士 山口健司
訴訟代理人弁理士 宮城和浩
同 中川拓
同 新井悟
同 和田阿佐子
同 宮田佳代子
被告 株式会社日本アルマック
訴訟代理人弁護士 名越秀夫
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/08/25
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が取消2014−300852号事件について平成27年10月14日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文第1項と同旨
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 被告は,以下の商標(登録第4860695号。以下「本件商標」とい う。)の商標権者である。
(本件商標) 出願日:平成16年6月8日 設定登録日:平成17年4月28日 指定役務:第35類「広告,トレーディングスタンプの発行,経営の診断 及び指導,市場調査,商品の販売に関する情報の提供,ホテ ルの事業の管理,財務書類の作成,職業のあっせん,競売の 運営,輸出入に関する事務の代理又は代行,新聞の予約購読 の取次ぎ,書類の複製,速記,筆耕,電子計算機・タイプラ イター・テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作, 文書又は磁気テープのファイリング,建築物における来訪者 の受付及び案内,広告用具の貸与,タイプライター・複写機 及びワードプロセッサの貸与」 第41類「当せん金付証票の発売,技芸・スポーツ又は知識の 教授,献体に関する情報の提供,献体の手配,セミナーの企 画・運営又は開催,動物の調教,植物の供覧,動物の供覧, 電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,美術品の展示,庭 園の供覧,洞窟の供覧,書籍の制作,映画・演芸・演劇又は 音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配 給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番 組の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映 画・放送番組・広告用のものを除く。),放送番組の制作に おける演出,映像機器・音声機器等の機器であって放送番組 の制作のために使用されるものの操作,スポーツの興行の企 画・運営又は開催,興行の企画・運営又は開催(映画・演 芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競 艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),競馬の 企画・運営又は開催,競輪の企画・運営又は開催,競艇の企 画・運営又は開催,小型自動車競走の企画・運営又は開催, 音響用又は映像用のスタジオの提供,運動施設の提供,娯楽 施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための 施設の提供,興行場の座席の手配,映画機械器具の貸与,映 写フィルムの貸与,楽器の貸与,運動用具の貸与,テレビジ ョン受信機の貸与,ラジオ受信機の貸与,図書の貸与,レコ ード又は録音済み磁気テープの貸与,録画済み磁気テープの 貸与,ネガフィルムの貸与,ポジフィルムの貸与,おもちゃ の貸与,遊園地用機械器具の貸与,遊戯用器具の貸与,書画 の貸与,写真の撮影,通訳,翻訳,カメラの貸与,光学機械 器具の貸与」 原告は,平成26年10月21日,特許庁に対し,本件商標は,その指定役務中,第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」(以下「本件取消請求役務」という。)について,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないから,商標法50条1項の規定によりその商標登録は取り消されるべきであるとして,商標登録取消審判を請求し(以下,この請 求を「本件審判請求」という。),同年11月12日,本件審判請求の登録 がされた。
特許庁は,本件審判請求につき,取消2014-300852号事件とし て審理し,平成27年10月14日,「本件審判の請求は,成り立たない。」 との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月22日,原 告に送達された。なお,本件審決については,出訴期間として90日が付加 された。
原告は,平成28年2月17日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提 起した。
2 本件商標の使用に係る前提事実(甲2,4,18,34及び被告代表者本人 によって認められる。) 被告は,ビジネスマンや経営コンサルタント向けに,リスクマネジメント の実務家を養成することを目的とした講座を開講し,知識の教授等の業務を 行う株式会社であり,平成16年ころから,上記講座の一つとして「FRM ファイナンシャル・リスクマネジャー養成講座」という名称の講座(以下 「FRM養成講座」という。)を開講していた。
他方,NPO法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会(以下「コ ンサルタント協会」という。)は,平成5年ころに任意団体として設立され た後,平成17年にNPO法人となり,被告が開講する講座に対応する資格 の認定・管理等を行ってきた団体であり,平成16年ころから,上記FRM 養成講座の修了者に与えられる「FRMファイナンシャル・リスクマネジャ ー」(以下「FRM」という。)の資格の認定・管理を行っていた。
ところが,平成22年12月,被告代表者がそれまで務めていたコンサル タント協会の専務理事を退任したことを契機に,被告代表者が中心となって, 日本リスクマネジメント・プロフェッショナル協会(以下「プロフェッショ ナル協会」という。)が設立され,以後,同協会が,コンサルタント協会に 代わって,被告が開講する講座に対応する資格の認定・管理等を行うことと なった。
これを受けて,被告は,平成22年12月28日付け書面(甲2)をもっ て,関係者らに対し,従前コンサルタント協会が認定・管理していたFRM の資格は,その名称を「FRC(ファイナンシャル・リスクコンサルタン ト) (以下「FRC」という。
」 )に変更した上で,プロフェッショナル協会 において認定・管理していくことなどを通知した(以下,上記書面を「甲2 書面」という。。
) 他方,コンサルタント協会は,平成22年12月21日付け書面(甲4) をもって,関係者らに対し,被告が同協会の認定教育機関でなくなったこと を受けて,同協会が認定・管理してきたFRMの資格の名称を「RMCA- J認定ファイナンシャルリスクマネジャー」と変更することなどを通知した (以下,上記書面を「甲4書面」という。。
)3 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりであるが,要するに,本件 商標の商標権者である被告が,平成24年4月11日,平成25年1月19日 又は同年8月24日に,「FRMファイナンシャル・リスクマネジャー養成講 座」等の記載がある「リスクマネジメント研修のご案内」と題する案内書(甲 19。以下「本件案内書」という。)を講座の受講希望者らに配布した行為 (以下「本件配布行為」という。)を認定した上で,本件配布行為は,商標法 2条3項8号の「役務に関する広告に標章を付して頒布する行為」に該当する から,被告は,本件審判請求の登録前3年以内(平成23年11月13日から 平成26年11月12日まで。以下「要証期間」という。)に日本国内におい て,商標権者が,本件取消請求役務のうち,「知識の教授」に含まれる「リス クマネジメント研修」について,本件商標と社会通念上同一と認められる商標 を使用していたことを証明したものと認められ,したがって,本件商標の登録 は商標法50条の規定により取り消すことはできない,というものである。
4 取消事由 審決の理由不備(取消事由1) 商標法50条所定の登録商標の使用を認めた判断の誤り(取消事由2)
当事者の主張
1 取消事由1(審決の理由不備)について (原告の主張) 商標法は,審決は「審決の結論及び理由」を記載した文書をもって行わな ければならない旨を定めているが(商標法56条1項,特許法157条2項 4号),その趣旨は,審判官の判断の慎重,合理性を担保しその恣意を抑制し て審決の公正を保障すること,当事者が審決に対する取消訴訟を提起するか どうかを判断するのに便宜を与えること及び審決の適否に関する裁判所の審 査の対象を明確にすることにあるというべきであるから,審決書に記載すべ き理由としては,特段の事情のない限り,審判における最終的な判断として, その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示することを要す るものと解するのが相当である。
そして,商標登録の不使用取消審判においては,審判請求の登録前3年以 内に日本国内において商標権者等がその請求に係る指定商品・役務のいずれ かについての登録商標の使用をしていることを証明しない限り,商標権者は その指定商品・役務に係る商標登録の取消しを免れないとされ(商標法50 条2項),使用についての立証責任は被請求人が負うものとされている。した がって,商標登録の不使用取消審判における審理の中心となるのは,被請求 人が主張する具体的な登録商標の使用の事実の存否であり,審判体が商標登 録の取消し又は維持の「結論」を導き出すための「理由」としては,被請求 人が主張する具体的な登録商標の使用の事実を特定した上で,同主張に係る 使用の事実が認められるか否かについての判断(同主張に係る使用が商標法 50条2項の「使用」に該当するかについての法的判断を含む。)及びその根拠を,証拠に基づいて具体的に明示することを要するものと解するのが相当であり,被請求人の登録商標の使用という主張・立証に対する請求人による具体的な反論・立証がある場合には,それを排斥する判断及びその根拠も,証拠に基づいて具体的に明示することを要するものと解すべきである。
ところが,本件審決は,本件商標の使用の事実を認定するに当たって,被請求人(被告)の提出した証拠しか摘示せず,それらの証拠のみを根拠に,要証期間内における本件商標の使用の事実を認定している(審決書15頁17行目〜16頁28行目)。この点に関し,請求人(原告)は,被請求人(被告)の主張及び提出された証拠の矛盾点及び不自然な点を具体的に指摘した上で,証拠の信憑性が疑わしいことを反論・立証したにも関わらず,本件審決は,これらの請求人(原告)の具体的な反論・立証を排斥する判断及びその根拠を示すことなく,上記のとおりの認定をしている。
そうすると,本件審決が,法の要求する「理由」を記載したものと解することは到底できないから,本件審決には理由不備の違法があり,取り消しを免れない。
(被告の主張) 原告は,「審判体が商標登録の取消し又は維持の「結論」を導き出すための「理由」としては,被請求人が主張する具体的な登録商標の使用の事実を特定した上で,同主張に係る使用の事実が認められるか否かについての判断及びその根拠を,証拠に基づいて具体的に明示することを要するものと解するのが相当である」との主張に加え,「請求人による具体的な反論・立証がある場合には,それを排斥する判断及びその根拠も,証拠に基づいて具体的に明示することを要する」旨を主張する。
しかし,商標登録の不使用取消審判における審理の中心となるのは,被請求人が主張する具体的な登録商標の使用の事実の存否であり,請求人による具体 的な反論・立証は,単なる信用力に関する反証でしかないのであるから,原告の上記主張のうち後段の部分は誤りである。
そして,本件審決の「第4 当審の判断」には,「1 被請求人が提出した証拠について」の記載があり,「2 上記1によれば,以下のとおり判断できる」として判断が示され,「3 むすび」の結論となっているのであるから,何ら理由の不備はない。
しかも,本件審決の「第4 当審の判断」の「2 求人提出の証拠の信用力が, 商標の同一性が, 指定役務の同一性が認定・判断されており,いずれも請求人(原告)が審判において争点としていた事項についての判断が示されているから,「請求人による具体的な反論・立証」についても,これを排斥する判断がされているものである。
したがって,本件審決に理由不備の違法があるとする原告の主張は理由がない。
2 取消事由2(商標法50条所定の登録商標の使用を認めた判断の誤り)に ついて (原告の主張) 本件配布行為を認定したことの誤り 本件審決は,被告(被請求人)が提出した本件案内書(甲19,36, 37),被告から本件案内書を受け取ったとされる者6名が作成した受取証 明書(甲26ないし31。以下「本件受取証明書」という。)及び上記6名 のうち,被告が開講するFRM養成講座を受講したとされる者4名が作成 した陳述書(甲43ないし46。以下「本件受講者陳述書」という。)から 本件配布行為の事実を認定したが,以下に述べる事情からすれば,上記各 証拠には矛盾点及び不自然な点が多々存在し,これらによって本件配布行 為の事実を認定することはできないから,本件審決の認定は誤りである。
ア 被告代表者の陳述書に信用性がないこと 被告代表者は,平成27年6月3日付け陳述書(甲32・審判乙15) において,被告が,要証期間内に,「FRM養成講座」を開講し,同講座 名を記載した案内書として本件案内書を頒布した旨を陳述する。
しかし,被告代表者は,本件審判手続で最初に提出された同人の平成 26年12月22日付け陳述書(甲18・審判乙1)の中では,「FRM 養成講座」の講座名は,コンサルタント協会が,「平成16年から使用を 開始し,現在まで継続的に使用しています。」と述べていた。ところが, 被告代表者は,原告(請求人)が提出した証拠(甲4)から,同協会が FRMの資格の名称の使用を中止したことを知り,その後に提出された 陳述書(甲32・審判乙15)では,一転して,上記名称の使用主体は 被告であると主張内容を変更したものである。
登録商標の使用主体が誰であるかは,商標権者である被告が最もよく 知る事実であるから,被告代表者が陳述書においてこれを間違えること は通常あり得ず,上記二つの陳述書は明らかに内容が矛盾するものであ って,信用性が疑わしい。
イ 本件受取証明書及び本件受講者陳述書に信用性がないこと 本件受取証明書及び本件受講者陳述書において,陳述者らは,数年 前に開講された講座の内容や配布された案内書の記載内容を事細かに 述べているが,そのようなことを覚えていることは通常では考え難い から,これらの信憑性には疑問がある。
また,本件受講者陳述書において,陳述者らは,実際にFRM養成講 座を申し込み,受講した旨述べているが,同陳述書添付の講座申込書写 しには,FRM養成講座に関する記載がどこにもない。しかも,FRM 養成講座の名称が明示された講座開講の案内,講座のテキスト,研修修 了証など,当該講座の開講の事実を示す他の証拠の提出が一切ないこと からしても,上記陳述内容の信用性は疑わしい。
さらに,これらの陳述者らのほとんどの者は,被告ないし被告代表者 と利害関係ないし密接な関係を有する者であることが推察されるから, この点からも,本件受取証明書及び本件受講者陳述書は信用できない。
ウ 被告のホームページ上に「FRM養成講座」の紹介がないこと 被告は,そのホームページ上において,平成18年ころには,FRM の資格やFRM養成講座を紹介していたが(甲5及び甲6),その後,平 成20年ころには,これらの紹介が同ホームページ上から姿を消し(甲 7),その後,要証期間内においては,FRMの資格やFRM養成講座を 紹介する記載は全く見当たらなくなった(甲8ないし13)。
インターネット環境が普及した現在では,紙媒体による宣伝広告活動 よりも,自社のホームページ又は電子媒体を利用した宣伝報告活動が主 流となっていることからすれば,被告が,本件案内書に記載されたとお りにFRM養成講座を実際に開講していたとすれば,自社のホームペー ジ上にもその事実が反映されるのが自然であり,そのような事実が全く 見受けられないのは不自然である。
エ 案内書においてFRMの資格の名称の使用中止に対応する修正がない こと 被告代表者の陳述書(甲32及び33)によれば,被告は,いったん はFRMの資格の名称の使用中止を決め,その後,当該名称の使用を再 開するまでに 1 年程度の期間があるにもかかわらず,本件案内書(平成 23年10月12日に改訂したとされるもの。甲36)において,上記 使用中止に対応する修正が全くなされていない。
通常,資格の名称の使用中止という重要事項についての変更があった 場合には,それが決定した段階で,過去の資格取得者や受講希望者等に 対し周知徹底を図るため,企業の責務として案内書においても対応する 修正等がされるはずであるが,その形跡がないのは不自然である。
オ FRMの資格の名称の使用再開の告知がないこと 被告代表者の陳述書(甲32及び33)によれば,被告は,いったん 使用中止を決めたFRMの資格の名称の使用を再開しているが,そのこ とが,被告から関係者らに告知された形跡がない。
通常,資格の名称の使用中止や使用再開という重要事項についての変 更があった場合には,過去の資格取得者や受講希望者等に対し周知徹底 を図るため,企業の責務としてその事実の告知を必ず行うはずである。
現に,被告は,FRMの資格の名称の使用中止については告知を行って いるのに(甲2),使用再開について告知を行った形跡がないのは,極め て不自然である。
本件配布行為をもって商標法50条所定の登録商標の「使用」に当たると判断したことの誤りア 商標的使用ではないこと 本件審決は,要証期間内に,「FRMファイナンシャル・リスクマネジャー養成講座」等の記載がある本件案内書が受講希望者らに配布されたことをもって,本件商標と社会通念上同一の商標の使用である旨認定する。
しかし,「知識の教授」という役務との関係においては,「FRMファイナンシャル・リスクマネジャー養成講座」の記載中,「FRMファイナンシャル・リスクマネジャー」の部分は単に資格の名称を表示するものと認識され,また,「養成講座」の部分は「○○の資格者を養成するための講座」を意味するものと認識されるから,上記記載は,全体として見ても,「FRMファイナンシャル・リスクマネジャーという資格者を養成するための講座」という,提供する役務の内容を記述的に表示したにすぎないものといえる。
したがって,「FRMファイナンシャル・リスクマネジャー養成講座」の上記のような使用は,商標としての使用,すなわち,自他役務の出所を 識別するための標識としての使用に該当するものではないから,本件配布 行為をもって商標法50条所定の登録商標の「使用」に当たるとした本件 審決の判断は誤りである。
イ 「知識の教授」の役務についての使用ではないこと 仮に,「FRMファイナンシャル・リスクマネジャー養成講座」の記載 がある本件案内書が要証期間内に配布された事実(本件配布行為)があっ たとしても,その当時,被告において,FRM養成講座を実際に開講して おらず,開講する準備も整っていない状況であったならば,本件配布行為 は,単に不使用による本件商標の登録取消を免れる目的で行われた,いわ ば名目的な使用にすぎないことから,到底正当な使用行為に該当するもの ではない。
に,被告がFRM養成講座を実際に開講し,又は,開講の準備を整えてい たとの事実を認めることはできないから,仮に本件配布行為が認められた としても,本件案内書中の「FRMファイナンシャル・リスクマネジャー 養成講座」の記載は,そのような講座があることを単に紹介する記載にす ぎず,これだけでは,本件商標と社会通念上同一の商標を,「知識の教授」 という役務について使用したものとは認められない。
ウ 以上によれば,本件配布行為をもって,商標法50条所定の「使用」に 当たるとした本件審決の判断は誤りである。
(被告の主張) 「本件配布行為を認定したことの誤り」に対し 以下に述べるとおり,原告の主張には理由がない。
ア 被告代表者の陳述書について 原告は,被告代表者の二つの陳述書(甲18と甲32)は内容が矛盾す る旨主張する。
しかし,甲18は,平成22年12月末までのコンサルタント協会によ る使用内容を説明したものであるのに対し,甲32は,その後のプロフェ ッショナル協会での使用を説明したものであるから,内容に矛盾はない。
そして,これらの陳述書の内容は,本件受取証明書の内容とも整合して おり,何ら不自然なものではない。
イ 本件受取証明書及び本件受講者陳述書について 原告は,本件受取証明書及び本件受講者陳述書について,その陳述者ら のほとんどの者が,被告ないし被告代表者と利害関係ないし密接な関係を 有する者であることが推察されることから,信用できない旨主張する。
しかし,陳述書の内容の信用性は,依頼者である被告との関係の有無で はなく,偽りの内容を陳述するような重大な違法を侵す特殊な関係がある か否かによって判断されるべきところ,上記陳述者らと被告ないし被告代 表者との間に,そのような特殊な関係は認められないから,原告の上記主 張には理由がない。
ウ その他の主張について 原告は,被告のホームページ上に「FRM養成講座」の紹介がないこと, 案内書においてFRMの資格の名称の使用中止に対応する修正がないこと 及びFRMの資格の名称の使用再開の告知がないことについて,不自然で ある旨主張する。
しかし,原告が主張する上記の各事柄は,いずれも,あることもあるし, ないこともある程度のことにすぎない。そもそもホームページの構成を変 えるには相当な費用がかかるから,よりコストがかからない社内印刷にし たり,告知自体を省略したりすることは,被告のような中小企業にはよく あることであって,何の不自然性もない。
「本件配布行為をもって商標法50条所定の登録商標の「使用」に当たると判断したことの誤り」に対し ア 「商標的使用ではない」との主張に対し 本件案内書には,@4頁に「FRMファイナンシャル・リスクマネジャ ー養成講座」,A10頁に「FRM(ファイナンシャル・リスクマネジャ ー)養成講座」の記載があるところ,それぞれの記載を「自他役務識別機 能」と「出所表示機能」の面から考えれば,@,Aともに,「FRMファ イナンシャル・リスクマネジャー」の表示によって,これがその他の講座 から識別されていること(自他役務識別機能),その講座が被告によって 主催されていること(出所表示機能)が容易に分かる表示となっている。
他方,「養成講座」という記載が加わることによって,全体が「説明的, 記述的表示」になって,役務そのものではなく,その属性・内容・由来・ 用途を表すことになるか否かを検討すると,「養成講座」とは,本件商標 の指定役務である「知識の教授」であるから,「FRMファイナンシャ ル・リスクマネジャー養成講座」という表示が,役務そのものの表示であ ることに変化はない。「説明的,記述的表示」とは,文言の付加によって, 役務そのものの表示でなくなり,その結果,当該商品・役務としての「自 他商品・役務識別機能」と「出所表示機能」が失われるものであるから, 本件はこれに該当しない。
したがって,本件案内書中の「FRMファイナンシャル・リスクマネジ ャー養成講座」の使用が商標としての使用に該当しないとする原告の主張 は理由がない。
イ 「「知識の教授」の役務についての使用ではない」との主張について 要証期間内に,被告がFRM養成講座を実際に開講していたことは,本 件受講者陳述書等の証拠上明らかであるから,当該講座の開講実態がない ことを根拠とする原告の上記主張は理由がない。
当裁判所の判断
当裁判所は,本件配布行為をもって,本件審判請求の登録前3年以内に日本 国内において,商標権者が,本件取消請求役務のうち,「知識の教授」に含ま れる「リスクマネジメント研修」について,本件商標と社会通念上同一と認め られる商標を使用していたことを証明したものと認められるとした本件審決の 判断は誤りであり,原告主張の取消事由2には理由があるから,その余の点に つき判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきものと判断する。その 理由は,以下のとおりである。
1 本件案内書について 証拠(甲18,19,32ないし42,被告代表者)によれば,本件案 内書に関して,次の事実が認められる。
ア 被告では,自社が開講するリスクマネジメントの実務家を養成するこ とを目的とした講座について,受講希望者向けに講座の概要等を説明す る案内書を作成している。
イ 上記案内書について,被告に残る文書データの記録をみると,平成1 9年8月に,ワード文書として,「リスクマネジメント研修 養成講座の ご案内と社員研修のご提案」と題する案内書(甲34。以下「平成19 年案内書」という。)が作成されている。
同案内書には,被告が開講する講座のラインナップとして,「リスクコ ンサルタント養成講座基礎課程」 「リスクコンサルタント養成講座上級 , 課程」 「CRO(最高リスク管理責任者)養成講座」 「FRMファイナ , , ンシャル・リスクマネジャー養成講座」の4講座があることが記載され (3頁),また,「2-1-4 FRM(ファイナンシャル・リスクマネ ジャー)養成講座」の表題の下,その講座の概要等を説明する記載があ る(9頁)。
ウ 次に,平成20年6月には,ワード文書として,「リスクマネジメント 研修のご案内」と題する案内書(甲35。以下「平成20年案内書」と いう。)が作成されているが,その内容は,表紙記載の表題を除き平成1 9年案内書をそのまま踏襲するものである。
エ さらに,平成23年10月には,ワード文書として,「リスクマネジメ ント研修のご案内」と題する案内書が作成されており,当該案内書が本 件案内書(甲19)に相当するものである。
同案内書の内容は,平成20年案内書をおおむね踏襲するものである が,被告が開講する講座のラインナップについては,「現在,2011年 12月に設立いたしました日本リスクマネジメント・プロフェッショナ ル協会の認定を受け,以下のラインナップでご提供しております。」との 説明の下,「リスクマネジメント・プロ養成講座基礎課程」「リスクマネ , ジメント・プロ養成講座上級課程」 「CRO(最高リスク管理責任者) , 養成講座」 「FRMファイナンシャル・リスクマネージャー養成講座」 , の4講座があることが記載されている(4頁)。また,「FRM(ファイ ナンシャル・リスクマネージャー)養成講座」の概要等を説明する記載 (10頁)は,平成19年案内書及び平成20年案内書と同様である。
なお,平成24年4月には,本件案内書に係る上記ワード文書をその ままPDF化したデータが作成されている。
以上のとおり,被告は,遅くとも平成19年8月には,自社が開講する講座について,受講希望者向けに講座の概要等を説明するための資料として,FRM養成講座についての記載がある案内書を作成し,その後,平成20年6月及び平成23年10月に同案内書を改訂したが,これらの改訂後の案内書においても,FRM養成講座についての記載はそのまま残されていることが認められる。そして,このような事実からすれば,被告は,要証期間である平成23年11月13日以降においても,FRM養成講座についての記載がある本件案内書を,受講希望者らへの案内資料として保有し,これを受講希望者らに配布するなどして使用していたことが推認されるものといえる。
2 「知識の教授」の役務についての使用の有無について 原告は,仮に本件配布行為が認められるとしても,要証期間内に,被告が FRM養成講座を実際に開講し,又は,開講の準備を整えていたとの事実が 認められないことからすれば,本件商標と社会通念上同一の商標を,「知識の 教授」という役務について使用したものとは認められない旨主張するので, 以下検討する。
要証期間内に,被告がFRM養成講座の名称を使用した講座を開講して いた事実が認められるか否かについて ア 証拠上認められる客観的事実について 前記第2の2のとおり,平成22年12月にプロフェッショナル協 会が設立され,同協会が,コンサルタント協会に代わって,被告が開 講する講座に対応する資格の認定・管理等を行うこととなった際,被 告は,関係者らに対し,甲2書面をもって,従前コンサルタント協会 が認定・管理していたFRMの資格について,その名称をFRCに変 更した上で,プロフェッショナル協会において認定・管理していく旨 を通知している事実が認められる。他方,その後,被告が,関係者ら に対し,上記通知に係る事項を訂正したり,変更したりする旨の通知 をした事実をうかがわせる証拠はない。
しかるところ,甲2書面の上記内容は,被告がそれまで開講してき たFRM養成講座についても,上記資格名の変更に対応した名称に変 更することを意味するものといえるから,被告が甲2書面による通知 を行い,その後これを訂正・変更する通知も行っていないということ は,特段の事情がない限り,被告が,平成23年以降は,FRM養成 講座の名称を使用した講座を開講していないことを示す事情というこ とができる。
また,次のような事情も,被告が平成23年以降FRM養成講座の 名称を使用した講座を開講していないことをうかがわせる事情ということができる。
すなわち,被告が開設するホームページの記載をみると,平成18年の時点では,被告が開講する講座名として,@リスクコンサルタント(マネジャー)養成講座・基礎課程,Aリスクコンサルタント(マネジャー)養成講座・上級課程,BCRO養成講座に加え,CFRMファイナンシャル・リスクマネジャー養成講座の記載がある(甲6)のに対し,平成23年及び平成24年の時点では,上記@ないしBの記載はあるものの,「FRMファイナンシャル・リスクマネジャー養成講座」の記載はない(甲8,9)。また,平成25年,平成26年及び平成28年の時点においても,「リスクマネジメント・プロ養成講座・基礎課程」 「リスクマネジメント・プロ養成講座・上級課程」等の記 ,載はあるものの,FRM養成講座の記載はない(甲10ないし13,72)。
このように,被告が開設するホームページをみる限り,平成23年以降,被告がFRM養成講座の名称を使用した講座を開講している形跡は何らみられず,かえって,被告のホームページでは,被告が開講する他の講座については継続して紹介されているのに対し,FRM養成講座については,被告が当該講座を開講していたことが明らかな平成18年当時には紹介されていたのに,平成23年以降には全く紹介されていないことからすれば,平成23年以降は,被告において,FRM養成講座の名称を使用した講座を開講していないことがうかがわれるものといえる。
以上のとおり,証拠上認められる客観的・外形的な事実をみる限り,本件案内書中にFRM養成講座の記載があること以外には,被告が平成23年以降にFRM養成講座の名称を使用した講座を開講している 形跡は見当たらず,むしろ,そのような講座を開講していないことが 積極的にうかがわれるものといえる。
イ 被告代表者の供述について 被告代表者は,その本人尋問において,被告は平成24年からFR M養成講座の名称を使用した講座を開講している旨を供述し,その経 緯及び講座の内容等について,次のとおり説明する(被告代表者本人)。
a 被告は,平成22年12月にプロフェッショナル協会が設立され, 被告とコンサルタント協会との提携関係が解消された際,FRMの 資格の名称をFRCに変更することとし,甲2書面による通知を行 ったが,実際にFRCの名称を使用した講座を開講することはなか った。
b その後,被告代表者は,平成23年秋ころに,元受講生からの情 報で,コンサルタント協会がその認定・管理に係る資格の名称とし てFRMを使用していない事実を知った。そこで,被告においてF RMの名称の使用を再開することとし,平成24年からFRM養成 講座の名称を使用した講座を開講するようになった。
c 上記FRM養成講座の内容は,被告が開講する「リスクマネジメ ント・プロ養成講座・基礎課程」及び「リスクマネジメント・プロ 養成講座・上級課程」の受講に加え,6時間分の授業が収録された DVDを購入しこれを視聴するというものである。
d FRM養成講座の受講者は,上記「リスクマネジメント・プロ養 成講座・基礎課程」及び「リスクマネジメント・プロ養成講座・上 級課程」を受講し,レポートを提出して審査に合格すると,「シニア リスクコンサルタント」の資格を取得し,その旨の修了証の発行を 受けることになる。その後,受講生は,上記6時間のDVDを視聴 することにより,FRMの資格を名乗ることが可能となるが,FR Mの資格の取得に当たって,レポートの提出・審査が行われることはなく,修了証が発行されることもない。
そこで,上記供述の信用性について検討する。
a講座をFRM養成講座の名称で開講しているという事実については,本件案内書中にFRM養成講座の記載があること以外には,これを客観的に裏付ける証拠はなく(本件受講者陳述書については,後に述べる。 ,むしろ,証拠上認められる客観的・外形的事実からは, )被告が平成23年以降FRM養成講座の名称を使用した講座を開講していないことがうかがわれることは,前記アのとおりである。
この点,上記事実を客観的に裏付ける証拠としては,例えば,当該講座名が記載されたテキスト,受講や資格取得を証明する文書,受講に当たっての契約書や申込書など,種々の文書が当然想定されるところであるのに,上記FRM養成講座に関して,これらの文書は何ら証拠として提出されていない。なお,当該講座の受講者らが受講の申込みに当たって提出したとされる申込書(甲43ないし46添付の「リスクマネジメント・プロ養成講座《基礎・上級課程セット》」と題する書面)が証拠として提出されているが,この中には,FRM養成講座の記載はない。
b 被告代表者が供述するFRM養成講座の内容は,被告が別に開講する「リスクマネジメント・プロ養成講座」の基礎課程及び上級課程を受講するほかには,6時間分の授業が収録されたDVDを購入しこれを視聴するというだけのものであり,そもそも「リスクマネジメント・プロ養成講座」から独立した講座として開講するだけの実質を備えているとはいい難いものである。しかも,被告代表者の供述によれば,当該講座に対応するFRMの資格については,受講 者が6時間のDVDを視聴しさえすれば,何らの審査もなく名乗ることが可能となり,修了証の発行もされないというのであるから,およそ資格としての認定・管理の実体がないものであり,このような資格のために独立した講座を開講するというのも,不自然なことといわざるを得ない。
以上のとおり,被告代表者の 供述には,その内容に不自然な点があるものというべきである。
c さらに,被告代表者の供述(同人作成の陳述書を含む。)には,次のような変遷が認められる。
すなわち,被告代表者は,本件審判手続において最初に提出した平成26年12月22日付け陳述書(甲18)では,「FRMファイナンシャル・リスクマネジャー」の講座名について,「上記講座名は,当社の許諾の下,NPO法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会が,平成16年から使用を開始し,現在まで継続的に使用しています。 , 」 「平成22年12月28日,日本リスクマネジメント・プロフェッショナルが設立され,「FRC ファイナンシャル・リスクコンサルタント」の講座名は,同協会が使用することとなりました。 , 」 「他方,登録第4860695号「FRM ファイナンシャル・リスクマネジャー」の商標は,NPO法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会が,引き続き使用しています。」と述べる一方,平成24年以降,被告がFRMの名称を使用して講座を開講している事実については,何ら触れていない。
ところが,被告代表者は,本件審判手続においてその後に提出した平成27年6月3日付け陳述書(甲32)では被告が甲2書面による通知の後にFRM養成講座の名称の使用を再開した旨を述べ,当審における本人尋問でも同様の供述を繰り返し ている。
しかるところ,甲18の陳述書における被告代表者の上記供述の 内容は,上記陳述書の作成時(平成26年12月)ころまでのFR Mの名称の使用主体が被告ではなく,コンサルタント協会であると の認識を述べるものであるから,被告が平成24年以降,自社が開 講する講座においてFRMの名称を使用しているという事実とは, 矛盾する内容になっているものといえる。
この点,被告代表者は,本人尋問において,甲18の陳述書にお ける上記供述は,コンサルタント協会が平成22年12月以降もF RMの名称を使用している旨を述べたものではなく,平成22年1 2月以前に被告の下でFRM養成講座を受講した会員らが平成22 年12月以降もFRMの名称を使用している旨を述べたものである などと説明する。しかし,このような説明は,コンサルタント協会 が,「FRMファイナンシャル・リスクマネジャー」の講座名を現在 まで継続的に使用している旨を明確に述べる甲18の陳述書の供述 内容とは明らかに整合しない説明であり,このような説明によって, 上記矛盾が解消されるものではない。
したがって,被告代表者の 供述には,不合理な変遷がみ られるものというべきである。
d 以上によれば, 当然想定されるは ずの文書等の客観的な裏付けを欠くものである上に,その内容にお いて不自然な点があり,しかも不合理な変遷もみられるものである から,その信用性には疑義があるといわざるを得ない。
ウ 本件受講者陳述書について 本件受講者陳述書(甲43ないし46)において,陳述者らは,いず れも,@要証期間内である平成25年8月24日から同年12月21日 までの間に,講師による講習である「シニアリスクコンサルタント」の講座に加えて,DVD講義を受講したこと,Aその講座名が「FRM(ファイナンシャル・リスクマネジャー)養成講座」であったことを述べており,その内容は,被告代表者の上記イている。
しかしながら,上記陳述者らが講座の受講申込みに当たって被告に提出したものとして本件受講者陳述書に添付された申込書をみると,その表題は,「リスクマネジメント・プロ養成講座《基礎・上級課程セット》」とされ,上記陳述者らが「○」を付して申込みをしたコースの名称は,「【基礎課程(スクーリング)+上級座学(スクーリング)+上級実務(DVD)】コース」とされている。このように,当該申込書からは,上記陳述者らが受講申込みをした講座が,「リスクマネジメント・プロ養成講座」の基礎課程及び上級課程であることが確認されるのみであり,FRM養成講座の名称を使用した講座であることは確認できない。また,そのほかにも,上記陳述者らが受講した講座の名称が「FRM(ファイナンシャル・リスクマネジャー)養成講座」であったことを示す文書等の証拠は提出されておらず,上記陳述者らの供述のうち,上記Aの点については,客観的な裏付けがない。
また,上記陳述者らの上記Aの供述内容は,単に,同人らが受講した講座について,「その時の講座名は,「FRM(ファイナンシャル・リスクマネジャー)養成講座」でした。」との結論を述べるのみで,同人らがそのように認識した理由の説明もなく,具体性に乏しいものといわざるを得ない。
加えて,本件受講者陳述書の記載内容をみると,4名の各陳述書が全て同一の文面となっており,また,被告のもとにあるはずの上記申込書の写しが添付されていることからすると,これらの陳述書は,被告にお いて画一的に作成した文面を各陳述者らに示して確認をとる方法で作成されたものであることが推察される。しかるところ,このようにして作成された陳述書においては,作成を依頼した者からの誘導に沿う方向で確認が行われ,その記載の細部についてまで逐一吟味が行われないこともあり得ることであるから,この点からも,本件受講者陳述書中の上記Aの供述部分に過大な証拠価値を認めることはできないというべきである。
以上によれば,本件受講者陳述書は,被告が,平成24年以降,FRM養成講座の名称を使用した講座を開講しているとする被告代表者の供述に沿う証拠ではあるものの,その証拠価値には限界があり,少なくとも客観的な裏付けもなく,これを主たる証拠として上記事実を認定することができるようなものとはいえない。
エ 以上の検討を総合すれば,要証期間内に,被告がFRM養成講座の名称を使用した講座を開講していた事実については,これに沿う証拠として,@被告代表者の供述及びA本件受講者陳述書があるものの,前記イのとおり@の信用性には疑義があり,また,前記ウのとおりAの証拠価値には限界があることからすると,これらの証拠をもって当該事実を認定することはできず,かえって,前記アのような客観的・外形的事実からすれば,被告は,甲2書面による通知どおり,平成23年以降はFRMの名称の使用を止め,FRM養成講座の名称を使用した講座を開講していないことが推認されるものといえる。
本件配布行為の評価について 甲2書面による通知どおり,平成23年以降はFRMの名称の使用を止め,FRM養成講座の名称を使用した講座を開講していないことを前提とすれば,平成23年10月の改訂後に本件案内書中にあるFRM養成講座についての記載( の「FRMファイ ナンシャル・リスクマネージャー養成講座」及び「FRM(ファイナンシ ャル・リスクマネージャー)養成講座」の各記載)は,被告が顧客である 受講者らに対し,現に提供し,又は,提供を予定する「リスクマネジメン ト研修」の役務についての紹介や説明として記載されているものではなく, 過去に提供していた「リスクマネジメント研修」の役務についての記載が, 上記改訂時に削除されないまま,形式上残存しているというにすぎないも のとみることができる。
そうすると,本件案内書自体は,被告の提供に係る「リスクマネジメン ト研修」の役務に関する広告に当たるとしても,本件案内書中の上記FR M養成講座の記載は,当該役務に関して付されているものとはいえないと いうべきであるから,仮に,要証期間内に,上記FRM養成講座の記載が ある本件案内書が受講希望者らに配布された事実(本件配布行為の事実) が認められるとしても,これをもって,被告の上記役務に関する広告に上 記FRM養成講座の記載に係る標章を付して頒布する行為(商標法2条3 項8号)に該当するとはいえない。
してみると,本件配布行為をもって,本件審判請求の登録前3年以内に 日本国内において,商標権者が,本件取消請求役務のうち,「知識の教授」 に含まれる「リスクマネジメント研修」について,本件商標と社会通念上 同一と認められる商標を使用していたことを証明したものと認められると した本件審決の判断は誤りというべきである。
3 結論 以上の次第であるから,原告主張の取消事由2には理由があり,その余の 点につき判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきものである。
よって,主文のとおり判決する。