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関連審決 審判1999-9069
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成15行ケ224審決取消請求事件 判例 商標
平成12行ケ212審決取消請求事件 判例 商標
平成17行ケ10402審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  出所表示機能 /  識別機能 /  指定商品 /  指定役務 /  普通名称(3条1項1号) /  3条1項6号 /  品質誤認(4条1項16号) /  結合商標 /  取引の実情 /  補正 /  警告 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 68号 審決取消請求事件
原告 ドイッチェテレコム アクチェンゲ ゼルシャフト
訴訟代理人弁護士 上谷清
同 宇井正一
同 笹本摂
訴訟代理人弁理士 青木篤
同 勝部哲雄
同 田島壽
同 菊地桂子
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 小林由美子
同 大橋良三
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/09/18
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判9069号事件について平成12年10月5日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文第1,2項と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,1996年8月31日にドイツ連邦共和国においてした商標登録出願に基づく優先権を主張して,平成9年2月28日,「T-Mobile」の文字から成る商標(以下「本願商標」という。)を,第9類「理化学機械器具,測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,眼鏡,加工ガラス(建築用のものを除く。),救命用具,電気通信機械器具,レコード,電子応用機械器具及びその部品,オゾン発生器,電解槽,ロケット,遊園地用機械器具,回転変流機,調相機,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気ブザー,鉄道用信号機,乗物の故障の警告用の三角標識,発光式又は機械式の道路標識,火災報知器,事故防護用手袋,消火器,消火栓,消火ホース用ノズル,消防車,消防艇,盗難警報器,保安用ヘルメット,防火被服,防じんマスク,防毒マスク,磁心,自動車用シガーライター,抵抗線,電極,溶接マスク,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,ガソリンステーション用装置,自動販売機,駐車場用硬貨作動式ゲート,金銭登録機,計算尺,硬貨の計数用又は選別用の機械,作業記録機,写真複写機,手動計算機,製図用又は図案用の機械器具,タイムスタンプ,タイムレコーダー,電気計算機,パンチカードシステム機械,票数計算機,ビリングマシン,郵便切手のはり付けチェック装置,ウェイトベルト,ウェットスーツ,浮き袋,エアタンク,水泳用浮き板,潜水用機械器具,レギュレーター,アーク溶接機,犬笛,家庭用テレビゲームおもちゃ,金属溶断機,検卵器,電気溶接装置,電動式扉自動開閉装置,メトロノーム」その他を指定商品として商標登録出願(商願平9-20511号)をしたが(指定商品は,平成10年11月6日付け手続補正書により,上に括弧内に挙げたものに減縮された。),平成11年2月22日に拒絶査定を受けたので,同年6月3日,これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は,これを平成11年審判第9069号事件として審理したうえ,平成12年10月5日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月25日,その謄本を原告に送達した。なお,出訴期間として90日が付加された。
2 審決の理由の要点 審決の理由は,別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに,欧文字の1文字ないし2文字は,一般に,商品の規格,品番等を表す記号又は符号として商取引上類型的に採択使用されており,また,「Mobile」の文字は,外出先でもオフィスや自宅にいるのと同じようにメールやデータのやり取りを行うための機器又はその機能特性を端的に表すものとして普通一般に通用し,取引上普通に使用される状況が生まれていることからすれば,本願商標をその指定商品中に含まれる上記機器(モバイル機器)について使用した場合には,これに接する取引者・需要者は,その商品の機能特性又はその種別,型式等を表示したものと理解するにとどまり,それをもって何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものというべきであるから,商標法3条1項6号に該当し,これをモバイル機器以外の指定商品について使用した場合には,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるから,同法4条1項16号に該当する,というものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本願商標の一体性を看過し,ハイフンを介して結合された「T」の文字と「Mobile」の文字とが別個のものとして認識されると誤認し(取消事由1),「T」の文字は,常に商品の規格や品番を示すものであると誤認し(取消事由2),「Mobile」の文字は,常に,携帯性を特性とする「移動体通信」に関連した機械器具に関して使用されるものであると誤認し(取消事由3),これらもあずかって,本願商標は出所表示機能を有しないものと,又は,本願商標を見た需要者が指定商品の品質を誤認するものと,誤って判断し(取消事由4),その結果,同商標を,商標法3条1項6号,同法4条1項16号に該当するとしたものであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願商標の一体性の看過) 審決は,本願商標の「T」と「Mobile」との間には,両者を常に一体と目すべき意味上の関連性はないとして,「T-Mobile」を一体として把握せず,「T」と「Mobile」とに二分して検討したうえで,二分したうえでの検討に基づき,本願商標につき,識別力を欠く,あるいは,品質誤認を生じさせる,としている。
しかしながら,自己の商品についていかなる商標を採択するかは,他人の利益や公益に反しない限り,当該商標を自他商品の識別標識として使用しようとする者の意図に委ねられるべきであり,結合商標についても,出願人が商標として,ある結合語を一体のものとして出願した以上,出願人の意図を最大限に尊重して,これを分離する必要性や合理性がない限り,一体のものとして取り扱うべきである。
原告は,その名称中の「テレコム」をイメージする「T」をカンパニーロゴの一つとして世界中で使用しており,原告の有する商標は,その多くに「T」の文字が付加され,各地で「ティーモバイル」というように一語として取り扱われている。原告にとって,「T」と「Mobile」とが分離して取り扱われることは,予想もしていなかったことである。
ハイフンは,二つの語が一語相当であることを示すために使用される記号であるから,ハイフンで結合された「T」と「Mobile]とが一つの単語を形成していることは,文法上明らかである。
実質的に観察しても,以下に述べるとおり,「T-Mobile」は,一体のものとして扱われるべきである。
欧文字が日常的に使用されている現代では,よほど冗長でない限り,一般人は,ハイフンで結ばれた結合語を一つの単語として認識し,日常的に使用している。現実に,欧文字1文字と他の単語で構成する語が一つの単語として使用されている例として,サッカーの「J-League」,インターネットを介した通信販売を指称する「E-Commerce],「E-Business]等があり,「T-Mobile」は,これらと比べても決して冗長ではない。被告は,上記の例は,いずれも経済用語等として特定の意味合いをもって認識される語であるから,本願商標と同一には論じられないと主張する。しかし,一般に既成の意味を持たない造語商標は識別力が強いといわれていることからみて,特定の意味を有しなくとも,冗長でない結合語は,一語として一体的にとらえられるものと解すべきである。
原告の「T」を含む商標は,我が国に数多く存在している。「T」は,原告の名称であるドイッチェ テレコム アクチェンゲゼルシャフトのテレコムをイメージするものであり,原告を表すロゴとして,また,「T」シリーズ商標の必須の構成要素として世界中で使用されている。このような「T」の使用や「T」シリーズ商標の我が国での集中的な出願,登録により,「T」シリーズの商標は,我が国の多くの取引者・需要者に,原告に関する各種標識として知られるようになっており,多くの者は,「T」シリーズの商標に接した場合,出所である原告と結びつけて認識するに至っていると理解するのが合理的である。
本願商標の指定商品は,第9類の電子応用機械器具(コンピュータ等)や電気通信機械器具であり,この種商品の需要者層は一般にインターネットの利用者層と共通する。「T-Mobile」をインターネット上で検索した結果によれば,79件中3割近くの情報が原告の会社又は商標に関するものであり,この結果からも,本願商標は,すでに我が国の相当多くの取引者・需要者の目に留まり,原告の商品や役務の出所表示標識であると知られるに至っていて,多くの取引者・需要者が,本願商標を一体のものとして認識しているということができる。
2 取消事由2(「T」の文字の取扱いに関する誤認) 欧文字1文字ないし2文字が商品の規格,品番を表すための記号又は符号として商取引上使用される場合があることは認める。しかし,欧文字1文字又は2文字の使用は,常に品番や規格を示すために行われているというわけではなく,他の目的のために行われることもある(「J.League」,「J-Phone」等)。ある欧文字が商品の規格を示す記号として働いているか否かは,機械的に決すべきものではなく,これが使用されている態様等を個別具体的に観察して判断すべきものである。
審決が欧文字1文字ないし2文字が商品の規格,品番を表すための記号又は符号として使用されている例として挙げたもの(「MC-01」,「AM-15」,「NV-P6」等)からも明らかなように,規格や品番を表示する場合には,文字と数字とを組み合わせて表現しているのが取引の実情である。このような取引の実情によれば,欧文字1文字ないし2文字を含む商標が規格や品番を表示するものとされるのは,このような場合に限定されるものというべきである。本願商標は,このような場合には当たらず,したがって,出所表示機能を有している。
審決は,「T」の文字が商品の規格や品番を表示する記号の一部として使用される場合があることから,機械的,画一的に,これを含む本願商標全体は商品の規格や品番と認識され出所表示機能を有しない,としたものであって,誤りである。
3 取消事由3(「Mobile」の文字の取扱いに関する誤認) 「Mobile」,「モバイル」の文字は,一般に,ある機器(多くは移動体通信やコンピュータ関連機器であろう)の,「動きやすい,可動性の,移動性の」等の特性を示す形容詞として使用されている(「Mobile Computing」,「モバイル機器」,「モバイル通信機器」,「モバイルネットワーク機器」等)。したがって,このような機器名と「Mobile」の文字とが結合して構成された語については,当該機器が一般にモバイル性を有する機器であると認識されることは容易に推定される。しかし,本願商標は「T-Mobile」であって,そこでの「Mobile」は,機器名と結合されたものではないから,上記形容詞としての意味を有し得ず,原告のシリーズ商標であることを示す以外には何の機能も発揮し得ないのである。
このように,「Mobile」という文字に上記の意味があるとしても,機器名としてではなく「T」と結合した本願商標中の「Mobile」からは,そのような意味が生じない以上,本願商標に接した取引者・需要者は,本願商標を単に出所表示の標識と認識するのであって,これを品質表示と理解するおそれはない。,同様に,指定商品の品質を誤認することも考えられない。この点では,我が国の消費者が,消費者として極めて成熟しており,賢明であることも,忘れてはならない点である。
被告は,その構成上,「Mobile」が含まれていることが取引者・需要者に直ちに理解されるような商標について,指定商品を「外出先でもオフィスや自宅にいるのと同じようにメールやデータのやり取りを行うための機器又はその機能特性のある」商品に限定することなく,その登録を認めており(「Mobile Data Exchange」,「Mobile Multimedia」),このことからすれば,被告自身も,「Mobile」が審決の認定しているような商品あるいはそのような商品の品質のみを表示するものとは判断していないことが明らかである。
4 取消事由4(出所表示機能及び品質誤認を生じさせる性質の有無の判断の誤り) (1) 本願商標と同じく,欧文字1文字と欧文字の単語で構成される語が,商標として登録されている(「J-PHONE」,「E-CALL」,「e-Communication/e-コミュニケーション」等)。
また,原告が平成9年2月28日に38類「移動体電話による通信等」を指定役務として出願した本願と全く同一構成の商標「T-Mobile」が,平成12年10月20日に登録されている。
本願商標を,これらの登録例と区別する合理的な理由はないから,その出所識別機能及び品質誤認を生じさせる性質についての審決の判断は誤りである。
(2) 審決は,本願商標の登録が許されない理由として商標法3条1項6号と同法4条1項16号を挙げている。しかし,同法3条1項6号4条1項16号は排他的関係にあるから,審決には理由の食い違いがある。
被告の反論の要点
審決の認定判断は,いずれも正当であり,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(本願商標の一体性の看過)について 審決は,「T」の文字と「Mobile」の文字のそれぞれが,指定商品との間で自他商品識別機能を果たし得ないとしたうえで,これらの結合から成る本願商標も自他商品識別機能を果たし得ないと認定,判断したものである。
本願商標は,「T」と「Mobile」とをハイフンを介して結合して成るものと容易に看取させるものであり,しかも,これらを一体のもの,すなわち一連一体の熟語として把握しなければならないような特別の事情は認められない。ハイフンは,結合語が2つの語からなることを示すためにも用いられるのであって,ハイフンで結合されたものが常に一語として認識されることになるわけではない。
したがって,本願商標がその指定商品に使用された場合,これに接する取引者・需要者は,その語頭部分の「T」は,「Mobile」の一類型を示したものであるかのように考え,ありふれた商品の記号,符号の一つとして認識するとみるのが自然である。
原告が一般人に一体のものとして理解されている結合語の例として挙げるものは,いずれも,本願商標の指定商品の分野について登録された商標ではなく,また,それらは,当該業務又は業務主体を表彰するもの,あるいは,経済用語として,社会一般に使用されるに至っているものであって,当該所定の意味合いを持って一般に認識されている言葉であるから,これらと本願商標とを同列に論ずることは適切でなく,これらの例の存在は,本願商標の自他商品識別性を理由付ける根拠となるものではない。
また,ある商標が自他商品識別標識として機能するか否かは,取引の実情に基づく取引者・需要者の認識の程度を基準にして判断されるものであって,採択者の意図にはかかわりがないことである。
2 取消事由2(「T」の文字の取扱いに関する誤認)について 審決は,「T」の文字が商品の規格などを示す語である等の点について,本願商標の構成態様,指定商品を取り扱う業界における取引の実情等に基づいて個別的,具体的に判断したものである。
@ 本願商標を構成する「T-Mobile」は,特段図形化されたような事情もなく,ゴシック体により普通に用いられる態様で表されている。
A 本願商標の指定商品を取り扱う業界において,欧文字1字ないし欧文字2字が,商品の規格,品番を表すための記号又は符号として商取引上類型的に使用されている(PHS端末について,「MC-01」,携帯電話機について,「HD-50T」など。欧文字1文字と欧文字若しくは数字とをハイフンをもって結合した例として,デジタルカメラについて,「C-2500L」,プリンタについて,「P-330N」など。「T」と他の語とが結合した例として,ターミナルについて,「T-1」,「T-2」,通信アダプタについて,「T-100HS」など。
欧文字1字と普通名称又は商品の品質表示語などをハイフンをもって結合した例として,通信用ケーブルについて,「U-Cable typeP1」,PCカードについて,「I-Card typeP1」,ボックス型通信アダプタについて,「D-Box type1」,ドアホンについて,「E-ドアホンS」,「E-ドアホンD」など。)。
以上のとおりであるから,本願商標を構成する「T」の文字は,その構成・態様及び当該指定商品を取り扱う業界における取引の実情に基づき,個別的・具体的にみれば,商品の規格,品番等を表すための記号,符号表示の一類型を表したものと認識されるというべきである。
3 取消事由3(「Mobile」の文字の取扱いに関する誤認)について 「Mobile」の文字は,一般に「モバイル」又は「モービル」と読まれ,本来,「動きやすい,可動性の,移動性の」等の意味合いで親しまれている平易な英語である。しかし,この文字は,本願商標の指定商品との関係についてみれば,情報関連機器類のうち上記の性質を持ったもの,すなわち,「小型で持ち運べる情報関連機器類」を指すものとしても用いられており(乙第5号証の1,2参照),電気通信関連の商品を取り扱うメーカーや販売店は,この「小型で持ち運べる情報関連機器類」を「モバイル機器」と称し,当該商品を販売するとともに,雑誌,新聞等において広告・宣伝等を行っている。
「Mobile」,「モバイル」及び「モバイル機器」のそれぞれの語は,上記の意味合いを有する語として,広く一般に認識され,使用されている(乙第5号証の5ないし11,第6号証の1ないし6)。
以上のとおりであるから,本願商標中の「Mobile」の文字は,当該商品を取り扱う業界又はこの種商品の取引界においては,小型で持ち運べる情報関連機器(モバイル機器)そのもの又はそれら商品の機能,用途を表示するものとして,取引上普通に使用されている旨の審決の認定,判断は正当である。
4 取消事由4(出所表示機能及び品質誤認を生じさせる性質の有無の判断の誤り)について (1) 前記1ないし3で述べた実情にある「T」及び「Mobile」の文字をハイフンで結合したにすぎない本願商標については,これをその指定商品中のモバイル機器について使用した場合には,自他商品識別力を有せず,これをモバイル機器以外の指定商品に使用した場合には,品質誤認のおそれがあることは,当然である。このように認定,判断した審決に誤りはない。
(2) 原告は,欧文字1字と欧文字の単語で構成された登録例をあげている。
しかし,これらの登録例のうち,例えば「J-PHONE]は,商標自体の構成並びにそれより想起される意味合い等において本願商標とは事情を異にし,他の登録例も,本願商標とは,事案を異にし,あるいはハイフンに続く各文字が,いずれも当該商品の品質等を具体的に表示するものとはいえない事例であるから,これらの事例をもって,本願商標の自他商品識別力の有無の認定判断の基準とするのは適切でない。
原告は,本願商標と同一の商標が,第38類「移動体電話による通信等」を指定商品として登録されていると主張する。しかし,当該登録商標が,当該役務の取引分野において,具体的に自他役務識別標識として機能しているとする証拠は何ら見いだせない。
(3) 商標法3条1項6号と商標法4条1項16号とが排他的関係にある旨の原告の主張は争う。
当裁判所の判断
1 本願商標の構成とその指定商品 (1) 本願商標が,「T-Mobile」との文字を横書きして成り,第9類「理化学機械器具,測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,眼鏡,加工ガラス(建築用のものを除く。),救命用具,電気通信機械器具,レコード,電子応用機械器具及びその部品,オゾン発生器,電解槽,ロケット,遊園地用機械器具,回転変流機,調相機,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気ブザー,鉄道用信号機,乗物の故障の警告用の三角標識,発光式又は機械式の道路標識,火災報知器,事故防護用手袋,消火器,消火栓,消火ホース用ノズル,消防車,消防艇,盗難警報器,保安用ヘルメット,防火被服,防じんマスク,防毒マスク,磁心,自動車用シガーライター,抵抗線,電極,溶接マスク,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,ガソリンステーション用装置,自動販売機,駐車場用硬貨作動式ゲート,金銭登録機,計算尺,硬貨の計数用又は選別用の機械,作業記録機,写真複写機,手動計算機,製図用又は図案用の機械器具,タイムスタンプ,タイムレコーダー,電気計算機,パンチカードシステム機械,票数計算機,ビリングマシン,郵便切手のはり付けチェック装置,ウェイトベルト,ウェットスーツ,浮き袋,エアタンク,水泳用浮き板,潜水用機械器具,レギュレーター,アーク溶接機,犬笛,家庭用テレビゲームおもちゃ,金属溶断機,検卵器,電気溶接装置,電動式扉自動開閉装置,メトロノーム」を指定商品とする商標であることは,当事者間に争いがない。
(2) 本願商標の「T-Mobile」の文字が,「T」及び「Mobile」という二つの文字をハイフンで結合した商標であることは明らかである。
2 取消事由1(本願商標の一体性の看過)について 原告は,審決が,本願商標を一体として把握せず,「T」の文字と「Mobile」の文字とに二分して観察した結果,本願商標の自他識別性を否定し,かつ品質誤認を生じさせるとの判断を導いたのは,本願商標の一体性を看過した点で誤っている旨主張する。
原告が「本願商標の一体性」という場合の「一体性」がいかなる意味であるかが,まず問題である。
この点につき,原告は,「T」と「Mobile」とがハイフンで結合されることによって一つの単語を形成していると主張する。原告のいう「一体性」あるいは,「一つの単語を形成している」ということが,本願商標は,最終的には,全体として一つのまとまった意味を有するものとして理解されるという意味にとどまるものであるならば,審決も,本願商標の一体性を否定してはいない。このことは,審決において,「本願商標は,・・・「T-Mobile」と表してなるところ,該構成は「T」及び「Mobile」の欧文字をハイフンを介して結合してなるものと容易に看取させる」(審決書2頁36行〜3頁1行),「本願商標をその指定商品中の前記モバイル機器について使用した場合,これに接する取引者,需要者は,前記事情よりして,該商品の機能特性又はその種別,型式等を表示したものと理解するに止まり,それをもって何人かの業務に係る商品であるのかを認識することができないものというべきであり,かつ,これを前記モバイル機器以外の商品について使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものといわなければならない。」(同4頁9行〜15行)と記載されており,審決が,最終的に,本願商標全体について論じていることから明らかである。
原告のいう「本願商標の一体性」あるいは「本願商標が一つの単語を形成している」ことが,本願商標を構成する「T」と「Mobile」の二つの要素が完全に融合して,それぞれの要素がそれ自体の意味を有するものと認識されることはない状態に至っているという意味であるならば,採用できない。
すなわち,本願商標のうち,それを構成する「T」が我が国において良く知られた文字であることは明らかであり,「Mobile」も,それ自体として,我が国においてよく知られた文字あるいは語であることも後述のとおりであるうえ,これら両者は,ハイフンによって明確に分離されているものである以上,本願商標に接した一般の取引者・需要者に,「T」と「Mobile」のそれぞれに着目した観察と認識が生ずるのは,何か特別な事情がない限り,むしろ当然というべきであり,このような観察と認識が生じないとするためには,それを根拠付ける特別の事情が認められなければならないというべきである。しかし,本件全証拠によってもそのような事情を認めることはできない。
原告は,商標登録出願人がある結合語を一体のものとして出願した以上,出願人の意図を最大限に尊重して,当該商標は,これを構成する各語を分離する必要性や合理性がない限り,一体のものとして取り扱われるべきであると主張する。原告のいわんとするところが,出願商標が結合語である場合には,その結合語そのものを出願商標として扱わなければならず,それを構成する各語を出願商標として扱うことは許されないということであるならば,それは余りに当然のことである。その限度では,出願人の意図は最大限尊重されなければならない。しかし,審決がこの意味で「T-Mobile」を一体として取り扱っていることは,審決の記載自体で極めて明らかである。原告のいわんとするところが,商標の自他識別性や品質を誤認させる性質の有無は,取引者・需要者の認識いかんにかかわらず,商標登録出願人の意図に従って判断されるべきであるということであるならば,採用できないことが明らかである。商標が上記各性質を有するか否かは,これに接する取引者・需要者の認識を基準として判断されるべきであり,出願人の意図によって左右されるべきものでないことは,事柄の性質上明らかであるからである。
原告は,ハイフンは,二つの語が一語相当であることを示すために使用される記号である旨主張する。しかしながら,ハイフンは,それによって,その前後の語を明確に区別していることは,視覚的に明らかであるから,二つの語がハイフンによって結合されることによって,前記のとおり,最終的に全体として一つのまとまった意味を有するものとして理解されるということはいえても,それによって二つの語のそれぞれに対する観察と認識が生じなくなるとは,到底いうことができない。
原告は,本願商標に用いられている「T」の文字は,原告の名称の一部である「テレコム」をイメージさせるものであり,冒頭部分に「T」の文字を用いた原告の「T」シリーズの商標は,我が国で多数,出願,登録されることによって,原告の商標であることが一般の取引者・需要者に知られ,多くの者は,「T」シリーズの商標に接した場合に,出所である原告と結びつけて認識するに至っていると主張する。しかしながら,甲第7号証の1ないし13によれば,我が国において,原告を商標権者とする,「T」を冒頭部分に用いた商標が複数登録されていることは認められるものの,これらの登録商標が,原告ないしその商品を表すものとして,一般の取引者・需要者に知られていることは,本件全証拠によってもこれを認めることができない。また,甲第9号証の1ないし25と弁論の全趣旨とによれば,原告において「T-Mobile」の語をインターネットで検索した結果,79件が検索され,そのうち3割近くが原告ないしその子会社が「T-Mobile」という名称を用いて携帯電話に関するサービスを行っていること,「T-Mobile」がドイツの企業であること,又は携帯電話等の移動体通信に関するサービスを行っている会社であること等原告に関する記事であったことが認められる。しかしながら,原告が現に「T-Mobile」の語を用いて活動している事実がある以上,「T-Mobile」の語の検索によって原告に関する記事が検索されるのは,むしろ当然であること,検索に係る件数も検索された総数の3割程度にすぎないことを併せ考慮すると,上記の検索結果をもって,直ちに,「T-Mobile」の語が,原告ないしその商品を表すものとして,一般の取引者・需要者に知られていると認めることはできないものというべきである。そして,他に,我が国において,本願商標を含む「T」を冒頭部分に用いた商標が,出所である原告と結びつけられて認識されていることを認めるに足りる証拠はない。したがって,この点においても,「T」と「Mobile」とを分離して観察することを妨げる特別の事情があるとは認められない。
他にも,前記特別の事情を認めさせる資料はない。
したがって,審決が,本願商標につき,「T」と「Mobile」とを前記の意味で分離して観察したことに誤りはなく,この点についての原告の主張は失当である。
3 取消事由2(「T」の文字の取扱いに関する誤認)について 原告は,「T」のような欧文字1文字を含む商標が規格や品番を表示するものとされるのは,これを数字と組み合わせた場合に限られると解すべきである旨主張する。
しかしながら,証拠(乙第1号証の1ないし6,第2号証の1ないし5,第3,第4号証の各1,2)によれば,「T」を含む欧文字1文字ないし2文字がハイフンで文字や数字と結合された語が,商品の規格や品番を表示するものとされている例が多数存在すること,このような場合に欧文字1文字ないし2文字と組み合わされるのは数字である例が多いものの,それに限られず,一般的な語と組み合わされる例もあること(「U-Cable」,「i-Card」,「D-Box」,「E-ドアホン」等)が認められる。
上記認定によれば,欧文字1文字を含む商標が規格や品番を表示するものとされるのは,数字と組み合わせた場合に限られるとはいえず,このような場合でなければ,商品の規格や品番を表示するものであるとの理解が生じないとすることはできない。
原告の主張は採用することができない。
4 取消事由3(「Mobile」の文字の取扱いに関する誤認)について 原告は,「Mobile」の文字は,一般に機器の特色を示す形容詞として用いられており,機器名と結合されない限り,上記形容詞としての意味を有し得ない旨主張する。
甲第2号証によれば,「Mobile」の英語としての一般的な用法は,@動きやすい。可動性の,移動性の,A表情の変わりやすい。融通のきく,変通自在の,B移住性の,放浪性の,C流れやすい,流動性の,といった意味を有する形容詞,又は,@可動物,可動装置,A動く彫刻,モビール,B自動車(AUTOMOBILE)の略語を意味する名詞としてのものであることが認められる。
しかしながら,証拠(乙第5号証の1ないし11,第6号証の1ないし6)によれば,「Mobile」の語は,我が国においては,一般に,「モバイル」と読まれ,「PDA(電子手帳),コンピュータ,携帯電話など,小型で持ち運べる情報機器の利用形態,または機器そのもの」を意味する用語として用いられていること,本願商標の指定商品に含まれる商品である情報機器を取り扱う業界においては,このような携帯可能な小型の情報関連機器類を「モバイル機器」等と称して宣伝広告を行っていること,「Mobile」,「モバイル」の語は,多数のインターネットホームページや日刊新聞紙記事に,上記の意味合いを有する語として掲載されていることが認められる。
上記認定事実によれば,「Mobile」又は「モバイル」の文字は,一般の取引者・需要者においては,小型で持ち運べる情報機器又はその利用形態を意味する語として認識されているものというべきである。したがって,本願商標中の「Mobile」の語につき,これを「移動体通信」を指称するものとして容易に理解されるとした審決の認定判断に誤りはない。
原告は,「Mobile」の語は,機器名と結合した場合にのみ上記の意味を生ずるとして,「T-Mobile」は,機器名と結合したものではないため,上記の意味を生じない旨主張する。しかしながら,本願商標中の「T」と「Mobile」とを分離して観察することが許されること,「Mobile」の語が単独で機器そのものを意味する語としても理解されていることは前記のとおりであるから,原告の主張は失当である。
5 取消事由4(出所表示機能及び品質誤認を生じさせる性質の有無の判断の誤り)について (1) 前記1ないし3で述べたところによれば,商品の規格又は品番を表示するものとして用いられることのある「T」と,携帯可能な小型の情報関連機器類を意味すると一般に理解される語である「Mobile」の文字とをハイフンで結合したにすぎない本願商標については,これが指定商品中のモバイル機器に用いられたときには,これに接する一般の取引者・需要者は,特段の事情がない限り,本願商標につき,性能や構成する機器の異なる他の商品と区別するために用いられている標識であると認識するにすぎず,本願商標が何人かの一定の業務に係るものであるとは認識し得ないというべきであり,これをモバイル機器以外の指定商品に使用した場合には,品質誤認のおそれがあるものというべきである。
(2) 原告は,本願商標と同様に欧文字1文字と欧文字の単語で構成される語が商標登録されている旨主張する。しかしながら,他の登録例については,その登録の際に考慮の対象となった事情が本願商標の場合と同一であることを認めるに足りる証拠はなく,また,これらの登録商標が,すべて,商品あるいは役務の出所を示すものとして,一般の取引者・需要者に認識されていると認めるに足りる証拠もないから,これらの登録商標の存在は,本願商標の自他識別性ないし品質誤認性の有無についての判断を左右するものではない。
(3) 原告は,商標法3条1項6号と商標法4条1項16号とが排他的関係にあるのに,審決は,両者を競合的に適用していると主張する。しかし,審決は,本願商標が使用されるべき商品によって,上記両条文の適用を区別しており,両者を競合的に適用しているわけではない。したがって,上記両条文が互いに排他的関係にあるか否かにかかわらず,原告の主張はその前提を欠くものであって採用できない。
結論
以上のとおり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他審決には,これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 宍戸充
裁判官 阿部正幸