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関連審決 審判1998-35270
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成12行ケ387審決取消請求事件 判例 商標
平成14行ケ596審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 指定商品 /  指定役務 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  広義の混同 /  公序良俗(4条1項7号) /  4条1項10号 /  4条1項15号 /  4条1項19号 /  不正目的(不正の目的) /  ただ乗り(フリーライド) /  権利濫用(権利の濫用) /  観念(観念類似) /  国内 /  信義則 /  無効審判 /  更新登録 /  継続 /  卑猥(卑わい) / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 386号 審決取消請求事件
原告A
訴訟代理人弁護士 山本隆司
同 足立佳丈
被告 キューピー株式会社
訴訟代理人弁護士 升永英俊
同 大島崇志
同 弁理士 小泉勝義
訴訟復代理人弁護士 戸田泉
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/05/30
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第35270号事件について平成12年8月29日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、別添審決謄本別掲本件商標の人形の図形からなり、指定商品を商標法施行令別表(平成3年政令第299号による改正前のもの)による第31類「調味料、香辛料、食用油脂、乳製品」とする商標(登録第595694号、昭和35年5月31日登録出願、昭和37年8月24日設定登録、その後更新、以下「本件商標」という。)の商標権者である。原告は、本件商標登録の無効審判の請求をし、特許庁は、同請求を平成10年審判第35270号事件として審理した結果、
平成12年8月29日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年9月27日、原告に送達された。
2 審決の理由 審決は、別添審決謄本記載のとおり、本件商標が公の秩序又は善良の風俗(以下「公序良俗」という。)を害するおそれがある商標に当たるから商標法4条1項7号に規定する商標に該当するとの原告の主張について、@その使用が他人の著作権と抵触する商標であっても、同号に規定する商標に当たらない、Aその使用が不正競争防止法2条1項2号に該当する商標であっても、商標法4条1項7号に規定する商標に当たらないし、また、別紙著作物目録記載の著作物(以下「本件著作物」という。)の形態は不正競争防止法2条1項2号に規定する商品等表示にも当たらない、B被告が本件商標の登録の取得過程において不正の目的や商道徳違反など非難されるべき事情があったとは認められず、本件商標の登録後に被告が信義則に反し、又は権利濫用的な権利行使をしたとの主張立証もないから、本件商標は、商標法4条1項7号の規定に違反して登録されたものではないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は、本件商標が商標法4条1項7号の規定に違反して登録された商標に当たることを根拠付ける事由に関し、本件商標の使用が本件著作物に係る原告の我が国における著作権(以下「本件著作権」という。)と抵触するにもかかわらず、
これを否定する誤った判断をし(取消事由1)、本件商標の使用が不正競争防止法2条1項2号に該当し、かつ、本件著作物の形態が同号に規定する商品等表示に当たるにもかかわらず、いずれにも当たらないとする誤った判断をし(取消事由2)、被告が本件著作物の著名性にただ乗りする不正の目的でその形態を模倣、盗用して本件商標の登録を受けた行為は取引上の秩序に反し、かつ、その登録後の行為は商標権の濫用に当たるにもかかわらず、いずれにも当たらないとする誤った判断をした(取消事由3)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(他人の著作権との抵触) (1) 審決は、その使用が他人の著作権と抵触する商標は商標法4条1項7号に規定する商標に当たらないとするが、誤りである。他人の著作物と同一又は類似の商標を使用することは、著作権法により保護されている他人の著作権の侵害を必然的に伴うものであり、そのような商標は、「他の法律によって、その使用等が禁止されている商標」(商標法4条1項7号に関する商標審査基準)であって、公序良俗に反するものである。
(2) ローズ・オニールは、本件著作物を創作し、1913年、その複製物であるキューピー人形を製造してアメリカ合衆国国内で発行し、日米間著作権保護ニ関スル条約(明治39年5月11日公布)により本件著作権を取得したところ、本件著作権は、日本国との平和条約(昭和27年条約第5号)12条(b)(1)(ii)、平和条約第12条に基く著作権に関する内国民待遇の相互許与に関する日米交換公文及び附属書簡(昭和29年外務省告示第4号)、万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律(昭和31年法律第86号)11条に基づき、引き続き内国民待遇を受けており、現行著作権法51条、連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律(昭和27年法律第302号)4条1項により、2005年5月6日まで保護期間が存続する。本件著作権は、ローズ・オニールの死後、同人の遺産を管理するローズ・オニール遺産財団に承継され、原告は、平成10年5月1日、同財団から本件著作権を譲り受け、本件著作権の著作権者となった。
(3) 本件商標は、その登録出願当時、本件著作物を複製し我が国において爆発的人気を博していたキューピー人形に依拠して作成され、本件著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであるから、本件著作物の複製物であって、本件商標の使用は、本件著作権と抵触し、商標法4条1項7号に規定する商標に当たる。
2 取消事由2(不正競争防止法2条1項2号の不正競争) (1) 上記キューピー人形は、アメリカ合衆国のみならず、我が国においても、
爆発的人気を博して著名となったから、本件著作物の形態は原告の著名な商品等表示に該当し、これと類似する本件商標を使用する行為は、不正競争防止法2条1項2号に規定する不正競争に当たる。したがって、同号に違反する本件商標は、それ自体違法なものであって、「他の法律によって、その使用等が禁止されている商標」として公序良俗に反するから、商標法4条1項7号に規定する商標に当たる。
(2) 審決は、登録出願に係る商標について職権により一律に審査、審判がされることをもって、不正競争防止法違反の有無が商標登録の審査及び審判になじまない旨を説示するが、審査においても、出願された個々の商標に応じた具体的な判断が必要であるから、この説示は当たらない。特に、審査において具体的な判断に必要な証拠が入手しにくいとしても、審判においては、個別的な審理がされ、個々具体的な判断のされることが予定されている。
(3) 本件商標の登録出願当時、我が国において、本件著作物ないしその複製物であるキューピー人形は周知、著名であった。その著名性を認める上で、ローズ・オニールの名前まで周知、著名である必要はないから、この点は、本件著作物の形態がローズ・オニールひいては原告の著名な商品等表示であるということの妨げとはならない。
3 取消事由3(不正の目的) (1) 商標法4条1項7号に規定する公の秩序には、商品又は役務に関する取引上の秩序が含まれる。被告は、本件著作物の形態の著名性にただ乗りする不正の目的でその形態を模倣、盗用して本件商標の登録出願をしたものであって、本件商標は、商品又は役務に関する取引上の秩序に反し、商標法4条1項7号に規定する商標に当たる。
(2) 著作物には著作権者が存在するのが原則であるから、本件商標の登録出願当時、被告は、本件著作権の著作権者が存在することを認識していたのであって、
出願時において上記不正の目的が存在したといわなければならない。
(3) 被告は、その使用が著作権法及び不正競争防止法に違反する本件商標について、自ら登録を受けながら、これを引用して他人の商標登録を妨害しているから、商標権の濫用に当たり、登録後の事情においても、本件商標の使用が公序良俗に反するものというべきである。
被告の反論
1 取消事由1(他人の著作権との抵触)について 登録商標の使用が他人の著作権と抵触するかどうかは、その使用態様に左右されるから、商標法は、登録商標が他人の著作権と抵触する場合について、一律に商標登録を無効とする制度を採用せず、指定商品又は指定役務のうち抵触する部分の使用を同法29条によって禁止している。したがって、登録商標が単に他人の著作物と同一又は類似であることは、商標登録の無効事由とならない。
2 取消事由2(不正競争防止法2条1項2号の不正競争)について (1) 現行不正競争防止法は、平成5年法律第47号として制定されたものであって、本件商標が登録された昭和37年当時は、旧不正競争防止法(昭和9年法律第14号)が施行され、同法には、現行不正競争防止法2条1項2号に相当する条文は存在しなかったので、本件商標が同号に違反するとの原告の主張は、その前提を欠く。
(2) 本件著作物の形態は、不正競争防止法2条1項2号に規定する商品等表示に当たらないから、本件商標の使用が同号に違反する余地はない。
3 取消事由3(不正の目的)について (1) 我が国において、キューピー人形は、キューピッド、サンタクロース、福助、金太郎等と同様に、民俗的な存在であると認識され、ある者が創作した存在としての著作権の対象となるものと認識されたことはなかった。原告自身、同様の認識であったため、従前からキューピーのグラフィックデザインの制作等を行って対価を得ていたのである。
(2) 本件商標の登録出願は、本件著作物の形態の著名性にただ乗りする意図でされたものではないから、本件商標が商品又は役務に関する取引上の秩序に反するということはできない。
(3) 被告が商標権を濫用しているという事実はない。また、この事実は、原告が審判において主張していないから、審決取消訴訟において主張することはできない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(他人の著作権との抵触)について (1) 著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいい(最高裁昭和53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁)、その翻案とは、既存の著作物に依拠し、その本質的特徴を直接感得することができるものを再製することをいう(最高裁昭和55年3月28日第三小法廷判決・民集34巻3号244頁参照)。また、二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分についてのみ生じ、原著作物と共通し、その実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当である(最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁)。
(2) そこで、図形等からなる商標について登録出願がされた場合において、その商標の使用が他人の著作権を侵害しこれと抵触するかどうかを判断するためには、単に当該商標と他人の著作物とを対比するだけでは足りず、他人の著作物について先行著作物の内容を調査し、先行著作物の二次的著作物である場合には、原著作物に新たに付与された創作的部分がどの点であるかを認定した上、出願された商標が、このような創作的部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものであるかどうか、このような創作的部分の本質的特徴を直接感得することができるものであるかどうかについて判断することが必要である。著作権は、特許権、商標権等と異なり、特許庁における登録を要せず、著作物を創作することのみによって直ちに生じ、また、発行されていないものも多いから、特許庁の保有する公報等の資料により先行著作物を調査することは、極めて困難である。
(3) また、特許庁は、狭義の工業所有権の専門官庁であって、著作権の専門官庁ではないから、先行著作物の調査、二次的著作物の創作的部分の認定、出願された商標が当該著作物の創作的部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものであるかどうか、その創作的部分の本質的特徴を直接感得することができるものであるかどうかについて判断することは、特許庁の本来の所管事項に属するものではなく、
これを商標の審査官が行うことには、多大な困難が伴うことが明らかである。
(4) さらに、このような先行著作物の調査等がされたとしても、出願された商標が他人の著作物の複製又は翻案に当たるというためには、上記のとおり、当該商標が他人の著作物に依拠して作成されたと認められなければならない。依拠性の有無を認定するためには、当該商標の作成者が、その当時、他人の著作物に接する機会をどの程度有していたか、他人の当該著作物とは別個の著作物がどの程度公刊され、出願された商標の作成者がこれら別個の著作物に依拠した可能性がどの程度あるかなど、商標登録の出願書類、特許庁の保有する公報等の資料によっては認定困難な諸事情を認定する必要があり、これらの判断もまた、狭義の工業所有権の専門官庁である特許庁の判断には、なじまないものである。
(5) 加えて、上記のとおり、特許庁の審査官が、出願された商標が他人の著作権と抵触するかどうかについて必要な調査及び認定判断を遂げた上で当該商標の登録査定又は拒絶査定を行うことには、相当な困難が伴うのであって、特許庁の商標審査官にこのような調査をさせることは、極めて多数の商標登録出願を迅速に処理すべきことが要請されている特許庁の事務処理上著しい妨げとなることは明らかであるから、商標法4条1項7号が、商標審査官にこのような調査等の義務を課していると解することはできない。
(6) したがって、その使用が他人の著作権と抵触する商標であっても、商標法4条1項7号に規定する商標に当たらないものと解するのが相当であり、同号の規定に関する商標審査基準にいう「他の法律(注、商標法以外の法律)によって、その使用等が禁止されている商標」には該当しないものというべきである。そして、
このように解したとしても、その使用が商標登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触する商標が登録された場合には、当該登録商標は、指定商品又は指定役務のうち抵触する部分についてその態様により使用することができないから(商標法29条)、不当な結果を招くことはない。
(7) 原告は、取消事由2(不正競争防止法2条1項2号の不正競争)に関し、
登録出願に係る商標の審査において具体的な判断に必要な証拠が入手しにくいとしても、審判においては、個別的な審理がされ、個々具体的な判断のされることが予定されている旨主張し、この点は、取消事由1についても関連するので、一括して判断する。確かに、無効審判においては、口頭審理の原則及び職権審理の方式(商標法56条1項において準用する特許法145条1項150条153条等)が採られ、民事訴訟法の多くの規定が準用されているけれども、商標法46条1項1号は、同項2号ないし5号とは異なり、「その商標登録が・・・第4条第1項・・・の規定に違反してされたとき」と規定し、4条1項各号に規定する、商標登録を受けることができない事由をそのまま商標登録を無効にすべき事由としているから、同法は、これらの事由について、審査の段階においても、審判におけるのと同様の認定判断を審査官が行った上で登録査定又は拒絶査定をすべきことを要請していると解すべきである。また、いったんされた商標登録が無効審判において無効とされることは、当該商標を巡る法的安定性を害し、出願人と第三者の双方に耐え難い不利益をもたらすから、このような事態をできるだけ避けることが望ましく、審査と審判とで認定判断の内容等が異なることを前提とする原告の上記主張は、採用することができない。
2 取消事由2(不正競争防止法2条1項2号の不正競争)について (1) 被告は、本件商標が登録された昭和37年当時は、現行不正競争防止法が施行されておらず、不正競争防止法2条1項2号に相当する規定が存在しなかったことを理由に、本件商標が同号に違反するとの原告の主張は前提を欠く旨主張するが、商標法46条1項5号は、商標登録がされた後において、その登録商標が同法4条1項7号に掲げる商標に該当するものとなっているときを商標登録の無効事由とする旨規定するところ、原告の主張は、現行不正競争防止法が施行されている現在において、本件商標の使用が不正競争防止法2条1項2号に規定する不正競争に当たるから、本件商標が商標法4条1項7号に該当し、ひいては同法46条1項5号に規定する無効事由があることを主張するものと解されるので、以下、この点について判断する。
(2) 商標法46条1項1号ないし3号は、これら商標登録を拒絶すべき事由をそのまま商標登録の無効事由としており、これらの事由の存否は、原則として、登録査定時を基準として判断されるのに対し、同項4号及び5号の無効事由は、商標登録後に生じた事由を商標登録の無効事由としているものである。ところで、商標法等の一部を改正する法律(平成8年法律第68号)による改正(以下「平成8年改正」という。)前の商標法(以下「旧法」という。)においては、商標権の更新登録の出願がされたときには、登録商標が旧法19条2項ただし書に該当するときは更新登録が拒絶され(旧法21条1項1号)、旧法19条2項ただし書には、旧法4条1項7号(現行法と同じ。)に規定する公序良俗を害するおそれがある商標が、他の公益的事由に該当する商標とともに、更新登録が拒絶されるべきものとして規定され、さらに、これら公益的事由に該当することは、旧法48条1項1号において、更新登録無効審判の事由としても規定されていた。平成8年改正は、更新登録に際し、旧法21条に規定するような実体的審査を行わないこととし、更新登録無効審判の制度も廃止したが、他方、旧法48条1項に規定されていた、その商標を登録することが公益的事由により好ましくない、旧法19条2項ただし書各号に掲げる商標に該当するものについては、その事由が登録後に生じた場合であっても登録の無効事由としたものと解される。このような平成8年改正の趣旨に照らすと、商標法46条1項5号の無効事由は、更新登録においてこれらの事由が審査の対象から外され、また、更新登録無効審判の制度も廃止された際に、これらの事由の公益的性格にかんがみ、登録後の無効事由として新たに規定されたものと解するのが相当である。
(3) これに対し、商標法4条1項10号及び15号の事由の存否は、平成8年改正の前後を通じ、規定する事由の存否を、登録査定時に加えて登録出願時をも基準として判断するものとされ(平成8年改正の前後を通じ同法4条3項)、一般の登録拒絶及び無効の事由よりも早い時点をも基準時としているのであって、もとより後発的な無効事由として規定されてはいない。また、平成8年改正において、不正の目的をもって他人の周知の商標を使用するものが同法4条1項19号として規定されたが、同号の無効事由は、同項7号のような後発的な無効事由としては規定されなかっただけでなく、同項10号及び15号の事由と同様、登録査定時に加えて登録出願時をも基準として存否の判断がされ(同条3項)、他の登録拒絶及び無効の事由に比べてより早い時点も基準時とされているのである。そうすると、平成8年改正は、登録拒絶及び無効の事由として新設された同項19号の事由を、同項10号及び15号の事由と同様の性質を有するものとして新設したと解するのが相当である。このような平成8年改正の内容に照らすと、同項19号の事由について、旧法4条1項7号に規定されていた公序良俗違反の一類型であると解することは相当でない。
(4) 不正競争防止法2条1項2号は、「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用・・・する行為」を不正競争と規定し、同項1号は、「商品等表示」とは「人の業務に係る・・・商品又は営業を表示するものをいう」と規定している。他方、商標法4条1項10号は、他人の周知の商標と同一又は類似の商標で商品又は役務が類似するものについて、同項15号は、他人の周知の商標と同一又は類似の商標で他人の商品又は役務と混同を生ずるおそれがあるものについて、いずれも登録を受けることができない旨規定する。また、不正競争防止法2条1項1号に規定する「混同を生じさせる行為」は、他人の周知の商品等表示と同一又は類似のものを使用する者が自己と他人とを同一営業主体として誤信させる行為のみならず、両者間にいわゆる親会社、子会社等の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存在するとの誤信(以下「広義の混同」という。)を生じさせる行為をも包含し(最高裁平成10年9月10日第一小法廷判決・裁判集民事89号857頁)、商標法4条1項15号に規定する「混同を生ずるおそれ」も、広義の混同を生ずるおそれを包含すると解すべきである(最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁)。したがって、その使用が不正競争防止法2条1項1号に規定する不正競争に当たる商標は、同時に、商標法4条1項10号又は15号により登録を受けることができない。ところで、不正競争防止法2条1項2号に規定する著名な商品等表示は、同項1号に規定する周知の商品等表示にも当たるから、他人の業務に係る商品又は役務と同一又は類似のものに使用される場合には商標法4条1項10号により、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがあるものについては同項15号により、いずれも商標登録を受けることができない。そうすると、その使用が不正競争防止法2条1項2号に規定する不正競争に当たる商標が登録されるのは、その使用が他人の業務に係る商品又は役務と広義の混同を生ずるおそれがない場合に限られることとなるが、他人の著名な商品等表示を使用してもなお広義の混同を生ずるおそれすらないことは極めてまれであり、また、不正競争防止法が事業者間の公正な競争等の保護を目的とする(同法1条)のに対し、商標法が商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図ること等を目的としており(同法1条)、両法がその目的を異にすることにかんがみれば、その使用が不正競争防止法2条1項2号に規定する不正競争に当たる商標であっても、広義の混同を生ずるおそれが全くない場合には登録されることとなるが、このような事態が不合理であるとはいえない。
(5) そうすると、商標法は、その使用が不正競争防止法2条1項2号に規定する不正競争に当たる商標については、商標法4条1項10号、15号又は19号の規定に該当する場合に登録拒絶及び無効の事由とすることにより、その登録を規律することを意図していると解するのが相当であって、その使用が不正競争防止法2条1項2号に規定する不正競争に当たる商標が一律に商標法4条1項7号に該当し登録拒絶及び無効とされるべきものと解することはできない。したがって、これと異なる見解に立つ原告の主張は、本件著作物の形態の商品等表示該当性について検討するまでもなく、採用することができない。
3 取消事由3(不正の目的)について (1) 商標法4条1項7号に規定する公序良俗を害するおそれがある商標には、
その構成自体がきょう激、卑わいな文字、図形である場合及びその構成自体がそうでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合が含まれ(東京高裁昭和27年10月10日判決・行政事件裁判例集3巻10号2023頁参照。商標法4条1項7号に関する現行の商標審査基準も同旨である。)、さらに、その使用が不正な意図をもってされ、国際信義又は公正な取引秩序に反する場合もこれに当たると解される(東京高裁平成11年3月24日判決・判例時報1683号138頁、同平成11年12月22日判決・判例時報1710号147頁参照)。
(2) 本件において、原告は、本件商標の登録出願当時、我が国においてキューピー人形が大流行しており、被告が本件著作物の形態の著名性にただ乗りしたと主張する。しかしながら、上記2のとおり、商標法4条1項7号に規定する公序良俗違反の事由は、一般の登録拒絶及び無効の事由と異なり、公益的理由に基づくものとして、同項1号ないし3号の事由等と共に後発的無効事由としても規定されているのであるから、このような同項7号の趣旨にかんがみると、上記(1)のように、同号に規定する公序良俗違反とは、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念
国際信義又は公正な取引秩序に反することをいうものと解するのが相当である。これを本件についてみると、原告が公序良俗違反として主張する事由は、要するに、
被告がローズ・オニールの創作した著名な本件著作物の形態を冒用して本件商標の登録を受けた行為が商品又は役務に関する取引上の秩序に反するというものであり、公正な取引秩序に反することをいう趣旨であるとしても、その実質は、取消事由2において主張する、その使用が不正競争防止法2条1項2号に規定する不正競争に当たる商標であることをいうものにほかならない。確かに、その使用が同号に規定する不正競争に当たる商標であって、本件商標の登録出願当時からこのような事情が継続しているものであれば、本件商標の登録が商標法4条1項10号、15号又は19号、46条1項1号の規定に基づき無効とされることはあり得る。しかしながら、商標法4条1項7号に規定する公序良俗を害するおそれがある商標とは、上記のとおり、商標の構成自体がきょう激、卑わいな文字、図形である場合及び商標の使用が反社会的なものをいうのであって、単にその使用が不正競争防止法2条1項2号に規定する不正競争に当たることは含まれないのであり、他に本件商標が商標法4条1項7号に規定する公序良俗を害するおそれがある商標に当たることを根拠付ける格別の事情を認めるに足りる証拠はないから、本件商標の同号該当をいう原告の主張は、採用することができない。
(3) なお、原告は、被告が、その使用が著作権法及び不正競争防止法に違反する本件商標について自ら登録を受けながら、これを引用して他人の商標登録を妨害していることが商標権の濫用に当たり、登録後の事情においても本件商標の使用が公序良俗に反すると主張するが、この点が審判手続において現実に争われ、かつ、
審理判断された形跡のないことは、審決の理由に徴して明らかであるから、審決の違法事由として主張することは許されない。付言するに、本件商標の登録に無効事由が認められない以上、原告主張の被告の上記行為は、本件商標について商標権を行使したというものにすぎず、商標権の濫用ないし公序良俗違反に当たるということはできない。
4 以上によれば、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 長沢幸男