審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成15ワ21451商標使用差止等請求事件 平成15ワ27464損害賠償請求事件 | 判例 | 商標 |
平成18ワ5272損害賠償請求事件 平成18ワ8460損害賠償請求事件 | 判例 | 商標 |
平成15ワ11661商標権侵害差止等請求事件 | 判例 | 商標 |
平成16ワ12489商標権侵害差止等請求事件 | 判例 | 商標 |
平成12ワ5986損害賠償等請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 役務商標 / 取引対象 / 流通性 / 役務の提供 / 商標的使用 / 識別機能 / 指定商品 / 指定役務 / 普通に用いられる方法 / 類似性(類否判断) / 損害額 / 使用料相当額 / 商品の類似 / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 差止 / 商号 / |
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事件 |
平成
10年
(ワ)
4292号
商標使用差止等請求事件
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原告 アイコム株式会社代表者代表取締役 【A】 訴訟代理人弁護士 川村和久 補佐人弁理士 杉本勝徳 被告 株式会社アイコム代表者代表取締役 【B】 訴訟代理人弁護士 本山信二郎 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2001/03/13 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 被告は、別紙被告商品目録記載の商品に関する宣伝用カタログ、パンフレットに別紙標章目録記載の各標章を付して頒布してはならない。 2 被告は、原告に対し、金100万6800円及びこれに対する平成10年5月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は7分し、その6を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 5 この判決は、1及び2項に限り仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告は、別紙被告商品目録記載の商品に、別紙標章目録記載の各標章を付し、又は同標章を付した同商品を、販売し、若しくは販売のために展示してはならない。 2 主文1項同旨。 3 被告は、その本店、営業所に存在する別紙被告商品目録記載の商品、その宣伝用のカタログ、パンフレットを廃棄せよ。 4 被告は、原告に対し、金700万円及びこれに対する平成10年5月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
以下、書証の掲記は甲1などと略称し、その枝番のすべてを含む場合には、 枝番の記載を省略する。 (基礎となる事実) 当事者間に実質的な争いはなく、後掲各証拠により認められる。 1 原告は、次の商標権(以下、本件商標権1ないし4を併せて「本件商標権」という。)を有している。 (1) 本件商標権1(甲3) 商標登録第912916号 出願日 昭和44年6月19日 登録日 昭和46年7月29日 商品の区分 平成3年通商産業省令第70号による改正前の商標法施行規則別表第11類 指定商品 電気機械器具、電気通信機械器具、その他本類に属する商品 登録商標 別紙原告登録商標記載1のとおり(以下「本件登録商標1」という。)。 (2) 本件商標権2(甲4) 商標登録第2269852号 出願日 昭和61年5月15日 登録日 平成2年9月21日 商品の区分 平成3年通商産業省令第70号による改正前の商標法施行規則別表第11類 指定商品 電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く)、電気材料 登録商標 別紙原告登録商標記載2のとおり(以下「本件登録商標2」という。) (3) 本件商標権3(甲5) 商標登録第2269853号 出願日 昭和61年5月15日 登録日 平成2年9月21日 商品の区分 平成3年通商産業省令第70号による改正前の商標法施行規則別表第11類 指定商品 電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く)、電気材料 登録商標 別紙原告登録商標記載3のとおり(以下「本件登録商標3」という。) (4) 本件商標権4(甲6) 商標登録第2698382号 出願日 平成2年2月28日 登録日 平成6年10月31日 商品の区分 平成3年通商産業省令第70号による改正前の商標法施行規則別表第11類 指定商品 電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く)、電気材料 登録商標 別紙原告登録商標記載4のとおり(以下「本件登録商標4」という。) 2 被告は、平成7年4月ころから、移動体管理・配車支援(車両情報)システム(以下「本件システム」という。)を販売しているが、そのパンフレット及び雑誌広告には、別紙標章目録記載3の標章が付されている(甲8、9、11、30ないし32)。また、本件システムの一部である車載コンピュータ(以下「本件コンピュータ」という。)には、別紙標章目録記載1ないし3の標章のいずれかが付されるとともに、そのパンフレットには、別紙標章目録記載3の標章が付されている(甲12、13、29)。 以下別紙標章目録記載の標章を同目録の番号に従い「本件被告標章1」などといい、そのすべてをいう場合には、単に「本件被告標章」という。 3 原告の請求 原告は、被告の上記2記載の行為は、本件商標権を侵害するとして、別紙被告商品目録記載の商品に関して本件被告標章を使用することの差止等と損害賠償を請求している。 【争点】 1 本件登録商標と本件被告標章とは類似するか。 2 本件コンピュータについて使用された本件被告標章は、商標として使用されているか。 3 本件被告標章は、本件商標権の指定商品について使用されているか。 4 本件システム及び本件コンピュータは、商標法上の商品か。 5 被告の本件被告標章の使用につき商標法26条1項1号は適用されるか。 6 被告の本件被告標章の使用は被告商標権によって正当化されるか。 7 差止請求の必要性。 8 損害額 |
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争点に関する当事者の主張
1 争点1(商標の類似性)について 【原告の主張】 本件登録商標と本件被告標章からは、いずれも「あいこむ」の称呼が生じ、 称呼が同一である。 また、本件被告標章2の外観は、本件登録商標3の外観と同一であり、本件被告標章1及び3の外観も、本件登録商標3の外観と極めて類似している。そして、本件被告標章の外観は、本件登録商標1及び4とも類似している。 以上より、本件被告標章は、いずれも本件登録商標のいずれにも類似する。 【被告の主張】 争う。 2 争点2(商標的使用)について 【原告の主張】 被告は、本件コンピュータが、本件システムの部品にすぎないことを理由に、本件コンピュータに使用された本件被告標章が商標として機能していないと主張するが、本件被告標章は、需要者に対し、本件コンピュータが被告の商品であるとの出所識別機能を発揮しているから、商標として機能している。 【被告の主張】 本件コンピュータは、本件システムの部品にすぎず、独立の商品ではない。 したがって、本件コンピュータ自体に市場流通性、取引可能性、代替可能性はなく、それに使用された本件被告標章は、商標として機能していない。 3 争点3(商品の類似性)について 【原告の主張】 本件システム及び本件コンピュータは、本件商標権の指定商品である「電気通信機械器具」に該当ないし類似し、本件商標権2ないし4の指定商品である「電子応用機械器具」に該当ないし類似する。 【被告の主張】 被告は本件商標権の指定商品について、本件被告標章を使用しているわけではなく、コンピュータプログラムの作成という役務を提供するに当たって、本件被告標章を使用しているにすぎない。 4 争点4(商品性)について 【原告の主張】 (1) 本件システム及び本件コンピュータは、商取引の目的となるものであって、商標法上の商品であることは明らかである。 (2) 被告は、本件システム及び本件コンピュータに代替性がないと主張するが、同種商品は複数販売されているから、代替性は存在する。また、個別受注生産であることを理由に、代替性を否定することはできない。 なお、被告は、本件システムの商品名である「モニカ」について、指定区分を第9類とする商標登録出願をしており、被告自身、本件システムが商標法上の商品に属することを認めている。 (3) 被告は、本件コンピュータが本件システムの部品にすぎないとして、その商品性を争っている。 しかし、被告は、本件コンピュータ単体の価格を設定した上で取引先に納品しており、本件コンピュータも単独の商品であることは明らかである。そして、 本件システムが顧客に導入された後、システムの対象となる車両が追加される場合には、本件コンピュータのみ追加販売するであろうから、本件コンピュータが単独の商品と扱われる場合があり得る。 また、本件コンピュータが本件システムの部品にすぎないとしても、それが直ちに商標権侵害を否定する根拠とはなり得ない。すなわち、ここで問題とすべきは、使用部品そのものが商品に該当するかどうかではなく、当該部品に付された標章が出所識別機能をなお発揮し得ると認められるか否かであって、当該標章が完成品の流通過程において取引関係者や需要者に視認される可能性があるか否かを勘案すべきである。そして、本件コンピュータに付された本件被告標章は、本件コンピュータが部品として本件システムに組み込まれている場合であっても、需要者に対し、本件コンピュータが被告の商品であるとの出所識別機能をなお発揮しているから、商標権侵害が成立するのである。 【被告の主張】 本件コンピュータ及びそれが搭載されている本件システムは、顧客の要望に応じて、そのシステムの構成や内容、コンピュータプログラム自体が変わってくるものであり、個別受注生産により利用者に供給されている。したがって、それらは、同種対象物からの代替性がない。また、本件コンピュータ及び本件システムには、定価、単価がなく、単体での取引も行われていない(コンピュータソフトの作成が伴う。)。 このように、本件コンピュータ及び本件システムは、取引市場において、それぞれが代替性を有する多数の同種対象物の中から、所望の対象物を商標によって選択し入手するという行為が存在しないから、商標法上の商品に該当しない。 また、本件コンピュータは、本件システムの部品にすぎず、独立の商品ではないから、それ自体に市場流通性、取引可能性、代替可能性はない。 5 争点5(商標法26条1項1号)について 【被告の主張】 本件被告標章の商品への記載、カタログ、パンフレットへの記載は、被告の名称の普通に用いられる方法での表示にすぎない。 【原告の主張】 商標法26条1項1号の「名称」とは登記商号をいうと解するのが一般であり、本件被告標章がこれに当たらないことは明らかである。また、その使用態様も自他商品の識別を可能とするような商標としての態様において使用されており、同号の「普通に用いられる方法で表示」しているとも解されない。 6 争点6(被告商標権による正当化)について 【被告の主張】 被告は、本件被告標章について商標権を有しており、本件被告標章の使用は、同権利の正当な行使であり、違法性はない。 【原告の主張】 争う。 7 争点7(損害額)について 【原告の主張】 (1) 使用料相当額(商標法38条3項) ア 本件システムの売上高 被告は、平成7年4月20日から平成11年10月15日までの売上高一覧表を提出しているところ(乙18)、同表中、本件システムの売上高と考えられるのは、別紙売上高一覧表記載のとおりである。 なお、原告は、乙18の内摘要欄の記載から、システム保守料金と考えられるものも、本件システムの売上高であると主張しているが、これは、被告が、 システム保守料金が、本件コンピュータの入れ替え(交換)の代金としてまかなわれていると主張しているからである。 したがって、本件商標権侵害による被告の本件システムに関する売上は、合計金2億5856万4525円である。 イ 使用料率 原告は、昭和39年より無線通信等の製造販売を開始し、アマチュア無線機及びその関連機器については近年業界トップのシェアを保持している。また、 平成2年には、ナビゲーション機器の販売も開始しており、同3年にはGPSレシーバーユニットの発売を行い、現在ではその営業活動を全国的に展開している。 そして、そのような営業活動を踏まえ、業界及び一般消費者に対し広く宣伝活動を展開してきたこと、並びに平成2年には大阪証券取引所支部第2部に上場を果たしたことなどから、原告の名称及び本件登録商標は、無線業界をいうに及ばず、今や全国的に広く認識されるに至っている。 したがって、本件登録商標の使用料は、売上高の5パーセントを下ることはないというべきである。 ウ 使用料相当額 以上より、使用料相当額は、金1292万8226円となるところ、原告は、本訴において、被告に対し、内金600万円を請求する。 (2) 弁護士費用 原告が本訴遂行を弁護士に依頼したことは明らかであり、本訴の事案の内容、難易等に鑑みれば、弁護士費用相当額は、金100万円を下らないというべきである。 【被告の主張】 (1) 使用料相当額について ア 売上高について 原告が本件システム及び本件コンピュータの売上と主張する被告の売上についての被告の主張は、別紙売上高一覧表被告の主張欄記載のとおりである。 なお、本件コンピュータは、本件システムが採用しているテレターミナル方式の規格が変更されて本件システムを改良するのに伴い、開発したものである。そして、本件コンピュータの売り先は、改良前の本件システムを導入していたところであって、実質は通信機器の取り替えにすぎないから、本件コンピュータの売上は、本件商標権侵害と因果関係がない。 また、本訴提起以降は、本件被告標章を本件コンピュータに付したり、 それを付したパンフレットを頒布していない。 以上のとおり、本件システムの売上は存在せず、また商標権侵害と相当因果関係のある売上もないことは明らかである。 イ 使用料率について 争う。 (2) 弁護士費用について 争う。 |
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争点に対する判断
1 争点1について (1) 本件登録商標について ア 本件登録商標1は、アルファベット大文字で「ICOM」と横書きしてなるものであり、「いこむ」ないし「あいこむ」の称呼が生じるものと認められる。なお、「あいこむ」の称呼が生じることについては、近年コンピュータ関連の商標において「〜COM」という商標が多く使われていることが当裁判所に顕著であることから、本件登録商標1についても「I」と「COM」を分離して見ることができることによる。 イ 本件登録商標2は、カタカナで「アイコム」と横書きしてなるものであり、「あいこむ」の称呼が生じるものと認められる。 ウ 本件登録商標3は、アルファベット大文字で「AICOM」と横書きしてなるものであり、「あいこむ」の称呼が生じるものと認められる。 エ 本件登録商標4は、アルファベットの大文字で「AICOM」と横書きしてなるものであって(ただし「COM」が「AI」よりも小さく記載されている。)、「あいこむ」ないし「えいあいこむ」の称呼が生じるものと認められる。 オ なお、いずれの本件登録商標についても、それから特定の観念が生じるとは認められない。 (2) 本件被告標章について ア 本件被告標章1は、アルファベットで「AiCOM」と横書きしてなるものであり、「あいこむ」の称呼が生じるものと認められる。 イ 本件被告標章2は、アルファベット大文字で「AICOM」と横書きしてなるものであり、「あいこむ」の称呼が生じるものと認められる。 ウ 本件被告標章3は、アルファベットで「AIcom」と横書きしてなるものであり、「あいこむ」ないし「えいあいこむ」の称呼が生じるものと認められる。 エ なお、いずれの本件被告標章についても、それから特定の観念が生じるとは認められない。 (3) 類否について 以上に基づき、本件登録商標及び本件被告標章を対比すると、本件被告標章は、いずれも本件登録商標のそれぞれに同一又は類似するというべきであることは明らかである。 2 争点2ないし4及び6について (1) 本争点を検討するに先立ち、本件システム及び本件コンピュータの販売経緯・内容等について検討するに、証拠(甲2、8ないし13、29ないし32)と弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ア 被告は、昭和59年12月14日、コンピュータとその周辺装置に関する機械器具の製造並びに販売、コンピュータソフトウエアの製造並びに販売等を目的として設立された株式会社である。 イ 被告は、日本シティメディア株式会社及びパイオニアナビコム株式会社と共同で低価格の配車支援システム(本件システム)を開発し、平成7年4月からその販売を開始した。 本件システムは、事務所・車両間(もしくは車両同士)で運行状況や配送先地図、渋滞情報など様々な情報をやり取りするシステムで、日本シティメディアが運営するテレターミナル方式の無線データ通信ネットワークと、パイオニアナビコムのGPS(全世界測位システム)カーナビゲーションシステムを組み合わせ、被告がシステム統合して開発したものである。その具体的内容は、配車センターにワークステーション(UNIX)又はパソコン(WINDOWS)を管理対象車両台数に応じて設置し、管理対象車両にGPSレシーバーと無線モデム又は専用車載端末を設置し、移動体管理機能、運行記録機能、電子地図機能(以上が標準機能)、道路交通情報通知機能、各種伝言通信機能(以上がオプション機能)、及びその他カスタマイズ機能を実現することができるソフトウェアを組み込むことにより、構成されている。 本件被告標章3が付されている甲9(移動体管理配車支援システムと題するパンフレット)は、この本件システムを販売するに当たり頒布されたものである。 ウ その後、被告は、遅くとも平成8年8月ころには、本件システムの中の上位モデルとして、テレターミナル方式のみならず、様々な通信インフラで使用できる汎用携帯端末をも用意するとともに、それらを含めた本件システムに「モニカMONICAR」の名称を使用し始めた。 エ 前記本件システムの販売が開始された当初、日本シティメディアは、独自の規格のテレターミナル方式を運営していたが、平成8年秋ころ、その規格を他社の規格に変更した。 そこで、被告は、その変更後の規格に対応し、なおかつテレターミナル方式のみならず携帯電話、衛星通信、業務用無線等の様々な通信インフラに対応することができる車載コンピュータ(商品名「VC-100MS」、「MC-400DT」。本件コンピュータ)を独自開発し、それを組み込んだ改良後の本件システムを販売した(以下、特にこの改良後の本件システムをいう場合には「本件改良後システム」といい、上記イ及びウ記載の改良前の本件システムをいう場合には「本件改良前システム」という。)。そして、本件改良後システムも「モニカMONICAR」の商品名で販売された。 (2) 本件改良前システム関係について ア 甲9のパンフレット及び甲30ないし32の雑誌広告は、本件改良前システムのパンフレットないし広告であって、そこに付された本件被告標章3は、その使用態様からして、同システムの出所を識別する商標であるといえる。そして、 同システムは、上記(1)イ記載のとおり、複数のハードウエアとソフトウエアから構成されるシステムであるが、システムを全体としてみる場合には、全体で1つの商品であるということができ、そのシステムの内容からして、本件商標権の指定商品である電気通信機械器具に類似する商品であるということができる。 したがって、被告が、本件改良前システムのパンフレット(甲9)に本件被告標章3を付して頒布したことは、本件商標権を侵害する行為とみなされる(商標法37条1号、2条3項7号)。なお、本件改良前システムの関係で本件被告標章が使用されたことが認められるのは、これらのパンフレット及び広告のみであり、本件改良前システムを構成するコンピュータ等に本件被告標章が付されていたとは認められない。 イ 被告は、コンピュータプログラムの作成という役務を提供するに当たって、本件被告標章を使用しているにすぎないと主張する(争点3)。被告の主張は、要するに、本件改良前システムの製造・販売において、被告が現実に行っていることはコンピュータプログラムの作成にすぎず、本件商標権の指定商品を製造・販売していないというものであると解される。 確かに、証拠(甲8、10、31)と弁論の全趣旨によれば、被告は本件改良前システムのソフトウエアは作成していたが、本件改良前システムにおけるハードウエアは、パイオニアナビコム等の他社製の汎用品を使用するものであったことが認められる。 しかし、被告は、他社製のコンピュータ、GPSレシーバー、及び無線モデム又は専用車載端末と、自社製のソフトウエアを組み合わせたシステムを、被告の商品として販売していたのであるから、被告が、本件改良前システムを販売する前提として、自ら作成していたのがコンピュータプログラムのみであったとしても、需要者との関係では、被告は、商品である本件改良前システムを販売したというべきである。すなわち、被告が、仮に需要者の元にあるハードウエアに組込むためにコンピュータプログラムのみを作成し、適宜記憶媒体に記憶させるなどして納品する場合には、それは、コンピュータプログラムの作成という役務の提供になり得ようが、本件のように、コンピュータプログラムをハードウエアに組み込み、それらを有機的機能的に結合した1つのシステムとしてハードウェアごと需要者に供給する行為は、システムという商品の売買と評価すべきである。 そして、甲9及び30ないし32における本件被告標章3の記載態様からすれば、そこに付された本件被告標章3は、そのような1つの商品と認められる本件改良前システムの出所を識別しているというべきである。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。 ウ 被告は、本件システムは、顧客の要望に応じた受注生産であり、取引市場において、それぞれが代替性を有する多数の同種対象物の中から、所望の対象物を商標によって選択し入手するという行為が存在しないから、商標法上の商品に該当しないと主張する(争点4)。 しかしながら、本件改良前システムが、顧客の要望に応じた仕様が施される受注生産であるとしても、被告が顧客の要望に応じて本件改良前システムの具体的仕様を決定するのは、被告と需要者とが取引の交渉に入った後のことである。 そして、そのような交渉に至る前においては、本件改良前システムは、他の同種対象物(甲24ないし27)と同レベルで市場に存在し、そこでは、本件被告標章3が他の同種商品から本件改良前システムを識別する機能を果たしているのであって、本件改良前システムが、商標法上の商品に該当することは明らかである。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。 エ 被告は、本件被告標章の使用は、被告が有する商標権の行使として正当化されると主張する(争点6)。 証拠(乙1ないし4)によれば、被告は、別紙被告登録商標記載の商標について、電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守等を指定役務とする商標権を有していることが認められる。 しかしながら、上記登録商標と同一の商標が使用されていると認められるのは、甲9のパンフレット及び甲30ないし32の雑誌広告のみであり、それについても、既に判示したように、本件改良前システムという商品の商標として使用されているのであるから、被告の主張は採用することができない。 (3) 本件改良後システム関係について ア 上記【基礎となる事実】記載及び(1)記載の事実からすれば、本件改良後システムについては、その全体を示す商品名としては「モニカMONICAR」が使用されるとともに、同システムを構成する本件コンピュータ及びそのパンフレットには、本件被告標章のいずれかが付されていることがと認められるところ、その使用態様からすると、それらに付された本件被告標章は、本件コンピュータの出所を識別する商標として使用されているといえる。なお、本件コンピュータに関して使用されている本件被告標章の使用態様、及び本件改良後システム全体としては「モニカMONICAR」という商品名があることからして、その本件被告標章が本件改良後システム全体の商標として機能していると見ることはできない。 そして、本件コンピュータは、その内容からして、本件商標権の指定商品である電気通信機械器具であると認められる。 したがって、被告が、本件コンピュータに本件被告標章を付することは、本件商標権を侵害する又は侵害するものとみなされ、本件被告標章を付した上記パンフレットを頒布することは、本件商標権を侵害する又は侵害するものとみなされる(商標法25条、37条1号、2条3項1号、7号)。 イ 被告は、コンピュータプログラムの作成という役務を提供するに当たって、本件被告標章を使用しているにすぎないと主張する(争点3)が、本件コンピュータに関して使用されている本件被告標章が、被告の販売に係る本件コンピュータという商品の出所を識別していることは明らかである。 したがって、被告のこの主張は採用することができない。 ウ 被告は、本件コンピュータは、顧客の要望に応じた受注生産であること、及び本件システムの部品にすぎないことを理由として、「商品」ではないと主張するとともに(争点4)、本件コンピュータに関して使用されている本件被告標章は、商標として機能していないと主張する(争点2)。 しかしながら、本件コンピュータの設定等が顧客の要望に応じた仕様になるとしても、そのことが、本件コンピュータの商品性を否定する理由にならないことは、本件システムの場合(上記(2)ウ)と同様である。 また、本件コンピュータが本件システムにおける1つの構成要素であることは被告が主張するとおりである。しかし、被告は、本件コンピュータ独自のパンフレットを作成していること(甲12、13)、本件コンピュータは、管理対象車両ごとに設置されるものであり、本件改良後システムを購入した需要者が、管理対象車両数の増加に合わせて、本件コンピュータのみを追加的に購入することもあり得ること(甲11の本件改良後システムのパンフレットには、「本格導入前に数台からのテスト運用をお試しいただけます。」と記載されている。)、さらには、 本件コンピュータが、本件改良後システムの一部として販売される場合であっても、本件コンピュータは管理対象車両に取り付けられるものであって、需要者は、 本件コンピュータを視認することができ、本件コンピュータに付された本件被告標章を見るのであって、その場合には、その本件被告標章が本件コンピュータ独自の出所を識別することになることからすると、本件コンピュータが本件システムにおける1つの構成要素であることから、本件コンピュータが商標法上の商品に該当しないということはできず、本件コンピュータに関して使用されている本件被告標章は商標として機能しているというべきである。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。 エ 被告は、本件被告標章の使用は、被告が有する商標権の行使として正当化されると主張する(争点6)が、この主張を採用することができないことは、本件改良前システムの場合(上記(2)エ)と同様である。 3 争点5(商標法26条1項1号)について 被告は、本件被告標章は、被告の名称の普通に用いられる方法での表示にすぎないと主張する。 しかしながら、商標法26条1項1号が、自己の名称を普通に用いられる方法で表示する商標について、商標権の効力が及ばないとしたのは、そのような商標についてまで商標権の効力が及ぶとすれば、本来需要者が商品について必要とする製造者・販売者等の情報を得ることができなくなってしまい、取引秩序という公益を図ることができなくなってしまうからである。 したがって、同号にいう「普通に用いられる方法」とは、商品の製造者・販売者名等を示す方法として普通に用いられる方法をいうものと解するのが相当である。 しかるに、甲9、12及び13のパンフレットに付された本件被告標章は、 いずれも、被告の名称である「株式会社アイコム」という表示ではなく、その使用態様も、それらのパンフレットには、別途開発元販売者ないし開発製造者として「株式会社アイコム」と記載されている一方で、本件被告標章は、単に本件システムや本件コンピュータの開発元販売者名ないし開発製造者名を示す以上の態様で使用されていると認められるので、「普通に用いられる方法」で使用されているということはできない。 また、本件コンピュータに付された本件被告標章についても、同様であり、 その表示内容、使用態様(特に、商品上面に付されている本件被告標章1又は3は、大きく目立つように記載されている。)からすると、それは、単なる本件コンピュータの開発・製造者名を示す以上の商標と認められるので、「普通に用いられる方法」で使用されているということはできない。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。 4 原告の差止請求等について (1) 原告は、別紙被告商品目録記載の商品について、@本件被告標章を付して販売等することの差止め、A宣伝用カタログ、パンフレットに本件被告標章を付して頒布することの差止め、B前記商品そのもの、その宣伝用のカタログ、パンフレットの廃棄を求めている。 (2) @について 被告が、本件改良前システム又は本件改良後システム自体に本件被告標章を付して販売等したと認めるに足る証拠はなく、別紙被告商品目録記載の商品自体にその商標を付するということは、その構成からして考えにくいことであるから、 そのおそれがあるとも認められない。 したがって、上記@の請求は理由がない。 (3) Aについて 既に判示したところから明らかなように、被告が、本件システムについて、本件被告標章を使用したと認められるのは、本件改良前システムについて、本件被告標章3を付したパンフレットである甲9を頒布した行為である。そして、被告が、平成8年秋ころから販売している本件改良後システムにおいて、本件被告標章を使用したことを認めるに足る証拠はない。 そうすると、被告が本件システムについて本件被告標章を使用しなくなってから、既に4年以上が経過していることとなる。 しかしながら、本件改良前システムに関して使用した本件被告標章3は、 役務商標にすぎないなどと主張している被告の本件訴訟における態度などに照らせば、なお、被告が別紙被告商品目録記載の商品の広告等に本件被告標章を付して頒布するおそれがあるというべきである。 したがって、原告の差止請求等のうち、別紙被告商品目録記載の商品の宣伝用カタログ、パンフレットに本件被告標章を付して頒布することの差止めを求める請求は理由がある。なお、甲9のカタログには、本件被告標章3しか付されていないが、本件被告標章1ないし3は非常によく似た標章であるから、そのすべてについて差止めを認めるべきである。 (4) Bについて Bの請求のうち、商品の廃棄を求める部分については、(2)記載のことからすると、理由がないことは明らかである。また、宣伝用カタログ、パンフレットの廃棄を求める部分については、現に、別紙被告商品目録記載の商品に関する宣伝用カタログ、パンフレットに本件被告標章を付したものが存在するとは認められないから、理由がない。 5 争点7(損害額)について (1) 被告は、本件商標権侵害行為について過失があったものと推定されるところ(商標法39条、特許法103条)、本件においてこの推定を覆すに足りる事情も認められないから、被告は損害賠償責任を負う。 (2) 使用料相当額について ア 既に判示したところから明らかなように、被告が本件商標権侵害を問われるのは、@本件被告標章3を付した本件改良前システムのパンフレットを頒布したこと、A本件被告標章を付した本件コンピュータのパンフレットを頒布したこと、B本件被告標章を本件コンピュータに付して販売したことであるから、使用料相当額を算定するに当たって前提とすべき売上は、本件改良前システムの売上と本件コンピュータの売上ということになる。 原告は、本件コンピュータに関して使用されている本件被告標章をもって、本件改良後システムの商標として機能していると主張し、本件改良後システムの売上を使用料相当額を算定するに当たって前提とすべき売上と主張するようであるが、本件コンピュータに関して使用されている本件被告標章をもって、本件改良後システムの商標として機能していると見ることができないことは、既に判示したとおりであるから、原告のこの主張は採用できない。 なお、原告は、訴状においては、別紙当初被告商品目録記載のとおり、 商標権侵害の対象商品を本件コンピュータの商品名及び本件改良後システムの名称で特定をしていたが、平成11年9月10日付準備書面において、別紙被告商品目録記載のとおり、その対象を変更している。しかしながら、その趣旨は、同準備書面記載のとおり、被告が将来において商品名を変更して商標権侵害を行うおそれがあるから、より一般的な目録にしたというものであり、専ら差止請求の実効性を確保する趣旨に出るものであると解される。 そうすると、差止請求等の対象としては、あくまでも別紙被告商品目録そのものに該当する商品(同別紙の記載からすると本件改良後システムのみを意味していると解される。)が対象になると解されるが、原告は従前から本件改良前システムの売上についても損害賠償の対象であると主張し、また、本件コンピュータが本件商標権の指定商品と同一ないし類似すると主張するとともに、本件コンピュータに関して使用されている本件被告標章をもって、本件改良後システムの商標としても機能していると主張していることからすると、損害賠償の対象としては、本件改良前システムに関する本件被告標章3の使用行為及び本件改良後システムの一部を構成している本件コンピュータに関する本件被告標章の使用行為も、その対象として主張する趣旨と解するのが相当である。 イ 本件改良前システム及び本件コンピュータの売上高について 原告は、別紙売上高一覧表記載のとおり、本件システムの売上高があると主張するので、同表の番号欄記載の番号にしたがって、順次検討する。 なお、上記2(1)記載のことからすると、遅くとも平成9年以降は、本件改良前システムが販売されたとは認められず、また、早くとも平成8年夏以前に本件コンピュータが販売されたとは認められないから、同表1番ないし17番については、本件改良前システムの販売か否かのみを検討し、同表25番以降は、本件コンピュータの販売か否かのみを検討することとする。 (ア) 1番について 証拠(乙18、19)と弁論の全趣旨によれば、1番の取引によって、被告は、「PC版配車支援システム開発設備」として、@開発・保守用パソコン(NEC製PC9821Xa/clow)一式、Aパソコン増設メモリ(16MB SIM)2個、BパソコンTCP/IP通信ハード/ソフト一式、C開発・保守用地図DB(パイオニアナビコム製)一式、D開発・保守用GPS(パイオニアナビコム製GPS303PT)一式、E文字放送受信ハード/ソフト一式、FHT-500取付金具一式を、合計137万円(消費税別途加算)で販売したことが認められる。 この取引内容は、本件改良前システムの構成となり得るものであり、 特にCとDは、本件改良前システムの共同開発者であるパイオニアナビコムの製品であり、また、証拠(甲31)によれば、FのHT-500は、同じく共同開発者である日本シティメディアのテレターミナル方式の専用無線携帯端末であることが認められることからすると、1番の取引は、本件改良前システムの販売と推認することができる。 他方、被告は、1番の取引は、稼働中の既存システムの追加ハードの納品及び保守であると主張するにとどまっており、真実そうであれば、何らかの客観的証拠を提出してしかるべきであるが、そのような証拠を何ら提出していないから、上記推認は覆らない。 したがって、1番の取引は、全体として、本件改良前システムの販売であったと見るのが相当である。 (イ) 2、3及び6番について 証拠(乙18、20)と弁論の全趣旨によれば、2番の取引によって、被告は、「PC版Kシリーズリンクソフト」を販売したことが認められるが、 その見積書(乙20の2)の備考欄には、「Kシリーズ事務処理システムとパソコンシステムの連携処理ソフトウエア」と記載されている。そうすると、同取引は、 取引先に存在する2つのシステムを連携(リンク)させるためのソフトの販売であったと見るのが相当であり、本件改良前システムの販売とは認められない。 そして、証拠(乙18、21)と弁論の全趣旨によれば、3番の取引によって、被告は、「WS版Kシリーズリンクソフト」を販売したことが認められるが、その見積書(乙21の2)の備考欄には、「Kシリーズ事務処理システムとワークステーションシステムの連携処理ソフトウエア」と記載されていることから、3番の取引は、2番の取引同様、本件改良前システムの販売とは認められない。 また、証拠(乙18、22)と弁論の全趣旨によれば、6番の取引によって、被告は、「KシリーズホストとPCの連携機能」一式を販売したことが認められるので、その取引名称からして、その取引内容は、2及び3番の取引と同様であったと認められ、本件改良前システムの販売とは認められない。 (ウ) 4、30及び34番について 証拠(乙18、44)と弁論の全趣旨によれば、4番の取引は、●●道路(●●の部分は、被告が開示しないため不明。以下同様。)に設置している情報表示板の制御を行うシステムの開発を請け負ったものと認められるのであって、 本件改良前システムの販売とは認められない。 そして、証拠(乙18、45)と弁論の全趣旨によれば、30番の取引は、4番の取引先に対し、ソフトの開発を請け負ったものと認められるのであって、本件コンピュータの販売とは認められない。 また、証拠(乙18)によれば、34番の取引は、その詳細は不明であるものの、売上高一覧表の摘要欄に、30番の取引と同じく「●●:交通システム」と記載されていることが認められ、本件コンピュータの販売とは認められない。 (エ) 5、7、9、11、12、14ないし18、20、21、24、25、28、31、32、35、38、40、41、43、45ないし47、51ないし53、57、59ないし61、63、68、70、71、73、74、76ないし78、80、81、84ないし104、106ないし110番について 証拠(乙18)によれば、これらは、いずれも「配車システム保守」、「システム保守」又は「保守」にかかるものであって、その取引経過からすると、平成7年12月以降、毎月51万5000円(ただし、平成9年4月以降は毎月52万5000円)のものと、平成9年10月以降、毎月84万円のものとの2種類があるものと認められる。なお、45及び47番の取引については、乙18の売上高一覧表の摘要欄には何ら記載が認められないものの、その金額からして、 毎月84万円の保守料金と見るのが相当である。 したがって、上記掲記の取引が、本件改良前システムの販売又は本件コンピュータの販売であるとは認められない。 これら保守料金について、原告は、被告がシステム保守料金は本件コンピュータの入れ替え(交換)の代金としてまかなわれていると主張しているので本件システムの代金の一部であると主張する。 しかし、弁論の全趣旨によれば、この被告の主張は、別紙売上高一覧表48番の取引について本件コンピュータの売買代金が発生したかどうかの主張にすぎず、保守料金一般の主張ではないと認められるから、原告の主張は採用することができない。 (オ) 8及び10番について 証拠(乙18、23、24)と弁論の全趣旨によれば、被告は、8番の取引によって、「農業機械稼働状況支援システム」一式を販売し、10番の取引によって、当該システムのGPS精度を高めるため「D-GPSデータ通信ソフトウェア」を試作し、「研究所詳細地図表示」を製作したものと認められる。 原告は、8番の取引対象は、本件改良前システムをカスタマイズしたものであると主張する。 確かに、8番の取引対象であるシステムは、10番の取引内容から明らかなように、GPSを使用するので、その点では、本件改良前システムと同じであるということができるが、8番の取引は農業機械の稼働状況を支援するためのシステムであること、当該システムによって実現される機能が一切不明であること、 当該システムの構成要素も不明であることからすると、その共通点をもって、直ちに原告の主張を認めることはできない。 そして、他に原告の主張を認めるに足る証拠はないから、8及び10番の取引は、本件改良前システムの販売と認めることはできない。 (カ) 13番について 証拠(乙18、26)と弁論の全趣旨によれば、被告は、13番の取引によって、「民間業務用システム開発」として、@構造設計、A配車支援機能製作、B運行実績管理機能製作、C検索処理製作、Dマスタ登録(地図データ含む)、Eメンテナンス機能製作を行っているが、その物品受領書(乙26の1)によれば、この取引は、@デモシステムのPCへの組み込み、A地図データCD-ROMという形態で納品されていることが認められる。 そして、被告は、13番の取引について、もともとの共同開発先に対する新規のソフトウエア開発であり、見積書記載の作業時間数に応じた役務報酬であると主張しているところ、その見積書(乙26の2)には、時間数と単価を乗じた金額が記載されていることが認められる。 このことからすると、13番の取引内容は、コンピュータプログラムの作成という役務の提供と地図データの販売であったと見るのが相当である。 したがって、13番の取引は、商品である本件改良前システムの販売と認めることはできない。 (キ) 19、36、39及び48番について a 証拠(乙18、27)と弁論の全趣旨によれば、被告は、平成8年10月20日ころ、19番の取引によって、「●●工場配車支援システム」一式を販売したことが認められるところ、その取引名称からして、本件改良前システムの販売であると推認される。 そして、弁論の全趣旨によれば、19、36、39及び48番の取引は、同一の取引先であると認められるところ、証拠(乙18、32)と弁論の全趣旨によれば、被告は、平成9年7月5日ころ、39番の取引によって、「●●工場モニカ改良」を行ったものと認められる。 これらのことからすると、被告は、19及び39番の取引先の工場において、19番の取引によって、本件改良前システムを販売し、39番の取引によって、当該システムを本件改良後システムに変更したと見るのが相当である。そして、本件コンピュータは、本件改良後システムの販売に当たって、被告が開発、 製造したものであるから、被告は、39番の取引によって、本件改良前システムを本件改良後システムに変更するに当たり、本件コンピュータを販売したと見るのが相当である。 b 証拠(乙18、31)と弁論の全趣旨によれば、被告は、平成9年6月10日ころ、36番の取引によって、「●●褐芟配車支援システム改良」を行ったことが認められるが、売上高一覧表の当該売上に係る摘要欄には、「●●モニカ」と記載されていることが認められる。 そうすると、この36番の取引も、39番の取引同様、それまで、 異なる配車支援システムを利用していた取引先に対し、本件改良後システムを導入したものと見るのが相当である。そして、被告は、39番の取引同様、36番の取引によって、本件改良後システムを導入するに当たり、本件コンピュータを販売したと見るのが相当である。 c 証拠(乙18)によれば、売上高一覧表の48番の取引の摘要欄には、「●●西東京モニカ」と本件改良後システムの商品名が記載されているので、 本件改良後システムと関係のある取引と推認される。 もっとも、この取引に関する取引書類等は提出されていないので、 その詳細は証拠上不明である。 しかしながら、被告は、48番の取引に関し、本件コンピュータの製造に関係するソフトの改造であるが、本件コンピュータそのものについては、補助金助成等を利用した現物の交換として通常の定額保守費用でまかない、売買代金は発生していないと主張しており、少なくとも、48番の取引によって、本件コンピュータが、取引先に引き渡されたこと自体は認めている。 そして、被告は、本件コンピュータの代金は発生していないと主張するが、取引先との関係で売買代金が発生していないことうかがわせる客観的証拠はない以上、48番の取引には、本件コンピュータの販売が含まれていたと見るのが相当である。 (ク) 22、26、33及び37番について 証拠(乙18、28)と弁論の全趣旨によれば、被告は、22番の取引によって、ルートマネージャーという「民間業務用システム開発」を行ったことが認められるが、同システムには、@運行管理とA安全運行管理が含まれることが認められる。これは、本件改良前システムの機能と似ているといえなくもない。 しかし、22番の取引の見積書(乙28の3)には、時間数と単価を乗じた金額が見積額として記載されていることが認められるのであって、このことからすると、22番の取引は、システム商品の販売というよりも、システム開発というコンピュータプログラムの作成という役務の提供であったと認められる。 そして、証拠(乙18)によれば、26、33及び37番の取引は、 いずれもルートマネージャーに関する取引であると認められ、その詳細は不明であるものの、その取引名称からして、22番の取引同様、その取引内容は、役務の提供であったと認められる。 したがって、上記掲記の番号の取引は、いずれも、本件改良前システムの販売とは認められず、また、本件コンピュータの販売が含まれていたとも認められない。 (ケ) 23及び29番について 証拠(乙18、29)と弁論の全趣旨によれば、被告は、23番の取引によって、●●株式会社の三ツ沢サテライトシステムを更新したことが認められ、具体的には、ホストPCのハードウエア及びソフトウエアと、出荷カードポストのハードウエア及びソフトウエアの各一式を納品したことが認められる。 被告は、この取引は、販売管理システムの更新であると主張するところ、上記取引の内容からすると、被告の主張も相当程度合理的であると考えられる。他方、この取引が、本件システムに関する取引であると認めるに足る証拠はない。 そして、29番の取引の詳細は不明であるものの、証拠(乙18)によれば、その売上高一覧表の摘要欄には、「●●/三沢サテライト」と記載されていることが認められる。そうすると、同取引も、23番同様、本件システムに関する取引であるとは認められない。 したがって、23及び29番の取引に、本件改良前システム又は本件コンピュータの販売が含まれていたとは認められない。 (コ) 27番について 証拠(乙18、30)と弁論の全趣旨によれば、被告は、27番の取引によって、雪氷対策車両管理システムとして、LSIカードのフォーマット及び読み込み、車両マスターメンテナンス及び実績データ送信を行ったことが認められ、その見積書(乙30の2)には、人日数に単価を乗じた金額が見積額として記載されていることが認められる。 このことからすると、27番の取引は、システム商品の販売というよりも、何らかの役務の提供と見るのが相当であって、本件改良後システムの販売とは認められないから、この取引に本件コンピュータの販売が含まれていたとも認められない。 (サ) 42、50、56、58、64、65及び75番について これらの取引の詳細は不明であるものの、被告は、これらの取引は、 長野オリンピックに関係する信号機等の交通システムに関するものと主張する。そして、証拠(乙18)によれば、これらの取引の売上高一覧表の摘要欄には、「●●/長野交通情報その1」、「●●:長野その2」、「交通・長野交通3」、「交通・長野交通4」、「交通・長野交通5」、「交通・長野交通6」、「交通・長野交通県警対」と記載されており、このことからすると、被告の主張は、相当程度合理的であると考えられる。 他方、これらの取引が、本件改良後システムに関する取引であることをうかがわせるに足る証拠はないことからすれば、これらの取引に本件コンピュータの販売は含まれていたとは認められない。 (シ) 44番について 証拠(乙18、33)と弁論の全趣旨によれば、被告は、44番の取引によって、●●向けT-MCSS開発として、車両運行管理機能と運行実績管理機能の開発を行ったことが認められる。 そして、その見積書(乙33の3)には、時間数と単価を乗じた金額が見積額として記載されているものと認められるから、44番の取引は、役務の提供であったと見るのが相当である。 したがって、44番の取引は、商品の売買とは認められず、本件コンピュータの販売が含まれていたとは認められない。 (ス) 49番について 証拠(乙18)によれば、売上高一覧表の49番の取引の摘要欄には、「●●工場」と記載されているにすぎず、同取引が、本件改良後システムの販売と関係することをうかがわせるものではなく、その他に、同取引が、本件改良後システムと関係のある取引であることを認めるに足る証拠もない。 (セ) 54番について 証拠(乙18、34ないし36)と弁論の全趣旨によれば、被告は、 54番の取引によって、車両動態管理システムの通信ソフト開発/通信機能改造及びモデム取付工事を行ったことが認められる。そして、その具体的内容は、車載機器通信ソフト開発、センターシステム通信機能改造及びテレターミナル無線モデム取付工事であると認められるので(乙34の2)、本件改良後システムと機能的に類似するシステムに関する取引であると考えられる。 しかしながら、54番の取引では、管理対象車両に、テレターミナル専用無線モデム33台が取り付けられたと認められ(乙36)、本件コンピュータが販売されたと認めるに足る証拠はない。 (ソ) 55及び72番について 証拠(乙18)によれば、売上高一覧表の55及び72番の取引の摘要欄には、「●●デリバリ」と記載されているにすぎず、同取引が、本件改良後システムの販売と関係することをうかがわせるものではなく、その他に、それらの取引が、本件改良後システムと関係のある取引であることを認めるに足る証拠もない。 (タ) 62番について 証拠(乙18、46)と弁論の全趣旨によれば、被告は、62番の取引によって、●●生産指示システムの海外対応のためのソフトウエアの製作を行ったことが認められるのであって、その取引が、本件改良後システムと関係のある取引であることを認めるに足る証拠はない。 (チ) 67番について 証拠(乙18、37)と弁論の全趣旨によれば、被告は、67番の取引によって、端末側通信ソフト開発及びセンター側データ受信ソフトのリプレイスを行い、それに伴って、ニッケル水素蓄電池、リブレット用RS232Cクロスケーブル、ソフトウエアインストール手順書、システム仕様書一式を納品したことが認められる。 これらのことからすると、仮に、端末側通信ソフト開発及びセンター側データ受信ソフトが、本件改良後システムのソフトを意味しているとしても、この取引によって、本件コンピュータが販売されたとは認められない。 (ツ) 69番について 証拠(甲12、13、乙9、18、38)と弁論の全趣旨によれば、 被告は、69番の取引によって、関西シティメディア株式会社に対し、「GPS車載コンピュータサンプル出荷」として、本件コンピュータである「VC100MS」及び「MC400DT」を1台ずつ合計34万円で販売したことが認められる。 (テ) 79番について 証拠(乙18、41)と弁論の全趣旨によれば、被告は、79番の取引によって、「DoPa通信評価ソフト」の開発を行ったことが認められるところ、その取引名称からして、この取引によって、本件コンピュータが販売されたとは認められない。 (ト) 82、83及び111番について 証拠(乙18、39)と弁論の全趣旨によれば、被告は、平成10年9月8日ころ、82番の取引によって、「●●向けシステム開発」を行い、具体的には運行状況表示処理、センター側メール通信ソフト及び車載端末側調査設計を行うとともに、VISMAP3地図CDーROM1枚を販売したことが認められる。 また、証拠(乙18、40)と弁論の全趣旨によれば、被告は、平成10年9月17日ころ、83番の取引によって、「●●向けGPS連動システム開発」を行い、具体的にはプログラムの構造設計、運行状況表示処理一式、携帯電話通信機能一式を開発したことが認められる。 また、証拠(乙18、42)と弁論の全趣旨によれば、被告は、平成11年9月30日ころ、111番の取引によって、「●●向け車両情報システム一式」を販売しており、具体的には、車両コンピュータ2台、特定小電力送信機2台及び特定小電力受信機1台を販売したことが認められる。 これらの取引に係るシステムは、その内容からして、本件改良後システムと類似した機能を有するシステムであると認められるが、本件改良後システムの商品名である「モニカ」という記載がされておらず、本件コンピュータが販売されたと認めるに足る的確な証拠がない上、弁論の全趣旨によれば、被告は、本件コンピュータを個別受注生産していたものと認められる一方、これらの取引時期が、 本件訴訟提起後であることからすれば、被告が、これらの取引によって、本件コンピュータと同一の機能を有するコンピュータを販売していたとしても、その販売に際しては、本件コンピュータの商品名を使用せず、本件被告標章を使用しなかったことも十分考え得るところである。 これらのことからすると、これらの取引によって、本件商標権を侵害する形態で本件コンピュータが販売されたとは認められないというべきである。 (ナ) 105番について 証拠(乙18)によれば、売上高一覧表の105番の取引の摘要欄には、「●●/カードPC・メモリ 5セ」と記載されているものの、その詳細は不明である。しかしながら、摘要欄の記載からしても、この取引によって、本件コンピュータが販売されたとは認められない。 ウ 以上によれば、本件改良前システムの売上として認められるのは、1及び19番の取引であり、その合計(消費税抜きの価格合計)は、797万円となる。 また、本件コンピュータの販売が含まれる取引と認められるのは、36、39、48及び69番である。もっとも、本件コンピュータ自体の売上が判明する69番を除き、36、39及び48番の取引は、本件コンピュータ以外のコンピュータプログラムの開発等の売上も含まれた売上しか判明せず、しかも本件コンピュータが何台販売されたかも不明であるが、証拠(乙18)と弁論の全趣旨によれば、それらの取引は、いずれも既存のシステムの改良であったと認められるので、その売上の主な要素はコンピュータプログラムの開発と本件コンピュータの販売であったと考えられる。そこで、36、39及び48番の取引の内、本件コンピュータの価格が占める割合は、各売上高の2分の1と見るのが相当である。 したがって、本件コンピュータの売上として認められるのは、合計559万円(消費税抜き価格)となる。 (350万円+400万円+300万円)×1/2+34万円=559万円 よって、被告が本件被告標章3を付した甲9のパンフレットを頒布したこと及び本件コンピュータに本件被告標章を付したことに対して支払うべき使用料相当額算定の基礎とすべき売上高は、1356万円となる。 なお、被告は、本件被告標章の使用と本件改良前システムないし本件コンピュータの販売との間には因果関係がないから、使用料相当額は0円であると主張する。 本件における原告の使用料相当額の請求は、商標法38条3項に基づくものであるが、同規定によれば、商標権者は、損害の発生について主張立証する必要はなく、権利侵害の事実と受けるべき金額を主張立証すれば足りるのであって、 侵害者は、損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証して、損害賠償の責めを免れることができると解される(最高裁平成9年3月11日判決・民集51巻3号1055頁参照)。 これについて被告は、1番の取引先は、既存システムが稼働している取引先であり、19番の取引先は、以前からの共同開発先であると主張するが、そのような事実を認めるに足る証拠はなく、さらに甲9のパンフレットの頒布と無関係に販売されたことについての証拠もない。また、たとえ、本件コンピュータの販売先が、本件改良前システムのユーザーであり、本件コンピュータをバージョンアップ等のために購入したとしても、本件コンピュータについては、商品自体に本件被告標章が付されており、その購入者に対して本件コンピュータの出所を表示することになる。 これらに加え、本件コンピュータにおける本件被告標章の使用態様や甲17ないし21及び27に見られる原告の業務状況に照らすと、本件被告標章を使用することによって原告に損害が生じなかったとはいえない。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。 エ 使用料率 上記被告の売上高に乗ずべき本件登録商標のいずれか又はそのすべての使用料率は、原告と被告の業種は類似しており、実際、原告は、遅くとも平成10年9月以降、本件改良前システム及び本件コンピュータと競合する商品を販売していること(甲27)、被告の本件被告標章の使用態様、被告の営業態様、その他本件口頭弁論において明らかとなった一切の事情を斟酌して、3パーセントと見るのが相当である。 オ 使用料相当額 以上によれば、被告が、本件商標権侵害によって、原告に対して支払うべき使用料相当額は、40万6800円であると認められる。 (2) 弁護士費用 原告が本訴の提起及び遂行を弁護士に委任したことは当裁判所に顕著であるところ、原告が本件商標権侵害の差止め及び損害賠償を求めるためには、弁護士費用の出捐が必要であったと認められ、本件事案の内容、訴訟の経過、認容の程度等を勘案すると、被告の本件商標権侵害と相当因果関係にある弁護士費用は、60万円とするのが相当である。 6 よって、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 小松一雄 |
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裁判官 | 高松宏之 |
裁判官 | 安永武央 |