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関連審決 無効2008-890053
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10323審決取消請求事件 判例 商標
平成19行ケ10061審決取消請求事件 判例 商標
平成22行ケ10005審決取消請求事件 判例 商標
平成21行ケ10411審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 包装 /  識別機能 /  指定商品 /  記述的商標(3条1項3号) /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項10号 /  4条1項11号 /  4条1項15号 /  類似性(類否判断) /  商品の類似 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  離隔的 /  離隔的観察 /  取引の実情 /  国内 /  使用許諾 /  無効審判 /  外国 /  継続的に使用 /  継続 /  非類似 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10071号 審決取消請求事件
原告日 東電工株式会社
訴訟代理人弁護 士松尾和子
同 熊倉禎男
同 富岡英次
同 小和田敦子
訴訟代理人弁理 士加藤ちあき
被告久 光製薬株式会社
訴訟代理人弁護 士岡崎士朗
同 鰺坂和浩
同 尾関孝彰
訴訟代理人弁理 士長谷川芳樹
同 佐藤英二
同 工藤莞司
同 黒川朋也
同 上原空也
同 小暮君平
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/10/28
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が無効2008−890053号事件について平成21年2月4日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯被告は,登録第4926734号商標(平成17年5月20日登録出願,出願番号商願2005-44585号,平成18年2月3日登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。本件商標は,別紙1のとおり,「肌優」の文字を漢字で横書きした構成からなり,指定商品は第3類と第5類であるが,そのうち原告が無効審判の対象としている第5類の指定商品は,別紙指定商品目録1のとおりである。
原告は,平成20年6月12日付けで,本件商標は,その指定商品中第5類について,登録第4640129号商標(以下「引用商標」という。その構成は別紙2のとおりであり,指定商品は別紙指定商品目録2のとおりである。)と類似し,原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるから,商標法4条1項11号及び15号に該当するとして,本件商標の登録を無効とすることを求めて無効審判請求(無効2008-890053号)をした。
特許庁は,平成21年2月4日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,平成21年2月17日,原告に送達された。
2 審決の理由別紙審決書写しのとおりであり,要するに,本件商標は,引用商標と非類似であるから,商標法4条1項11号に該当しない,また,本件商標は,その指定商品に使用しても原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標と認めることはできないから,商標法4条1項15号にも該当しない,したがって,本件商標は商標法46条1項の規定により無効とすることはできない,というものである。
審決のした,?@商標法4条1項11号該当性の判断(本件商標と引用商標の類否),?A商標法4条1項15号該当性の判断(本件商標の使用による原告の業務に係る商品との混同のおそれの有無)の各内容は,次のとおりである。
(1) 商標法4条1項11号該当性について本件商標は,「肌優」の漢字を横書きしてなるところ,特定の意味合いを有する成語を表したものとはいえないものであり,一連の読み(音読み,訓読み,慣用読み)が特定できないものであるから,「肌」及び「優」の各漢字1字のそれぞれの読みに相応して,「キユウ」,「ハダユウ」,「ハダヤサ」の各称呼を生ずる。
引用商標は,上段部分2段に漢字の「優肌」の上に「ゆうき」の平仮名文字を振り仮名風に小さく書し,その下段にやや間隔を空けて「YU‐KI」の欧文字を書した構成よりなるものであるが,全体としてまとまりのよいものであって,最上段の「ゆうき」の平仮名文字が「優肌」の漢字の読みを特定したものと無理なく認識し得るし,加えて,「YU‐KI」の欧文字も併記されているから,「ユウキ」の称呼のみが生ずる。
そこで,本件商標より生ずる称呼の中の「キユウ」と引用商標より生ずる「ユウキ」の称呼を比較すると,両者は共にわずか3音という極めて短い短音構成よりなり,しかも,称呼の識別上重要な影響を有する語頭音で母音を異にする「キ」と「ユ」の音に差異を有するものであるから,それぞれ一連に称呼しても,音感,音調を異にし互いに相紛れるおそれはない。また,本件商標より生ずる称呼の中の「ハダユウ」又は「ハダヤサ」の各称呼と引用商標より生ずる「ユウキ」の称呼を比較すると,両者は4音対3音という短音構成からなり,しかも構成音が異なるものであるから,明らかに聴別し得る。そうとすると,本件商標と引用商標とは,称呼において互いに相紛れるおそれはない。
そして,本件商標と引用商標は,それぞれ別紙1,2の構成からなるものであって,共に特定の意味を有しない造語であるから,外観においては明確に区別し得るし,また,観念について比較することはできない。
そうすると,本件商標と引用商標は,その称呼,外観及び観念のいずれの点からみても,互いに類似しない商標といわざるを得ない。
したがって,本件商標は,商標法4条1項11号に違反して登録されたものではない。
(2) 商標法4条1項15号該当性について原告は,商品「医療用粘着テープ,医療用粘着フィルム,医療用包帯等」等に,「優肌シリーズ」,「優肌」,「優肌絆」,「優肌包帯」,「ゆうきばん/優肌絆」,「優肌パミロール」,「優肌パーミエイド」等の「優肌シリーズ/YU‐KI SERIES」の商標を使用している。
原告の使用商標は,主として「優肌」の漢字が基礎として用いられており,この漢字の読みを特定するものと認められる「ゆうきばん/優肌絆」の「ゆうき」,「優肌シリーズ/YU‐KI SERIES」の「YU‐KI」の各表記が多数確認できるから,「優肌」よりは「ユウキ」の称呼をもって,取引されているとみるのが自然である。
そうすると,原告の使用商標は,本件商標とは別異の商標として認識,理解されるというのが相当である。
本件商標と引用商標又は原告の使用商標とは,商標として別異のものであるから,本件商標をその指定商品に使用しても,これに接する取引者,需要者が引用商標又は原告らの使用商標を連想,想記して,原告の業務に係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生ずるおそれのないものである。
したがって,本件商標は,商標法4条1項15号に該当するものではない。
原告主張の取消事由
審決は,次に述べるとおり,商標法4条1項11号該当性判断の誤り(取消事由1),商標法4条1項15号該当性判断の誤り(取消事由2)があるから,違法として取り消されるべきである。
1 商標法4条1項11号該当性判断の誤り(取消事由1)商標法4条1項11号の商標の類否を判断するに当たっては,取引の状況を考慮しながら,全体的・総合的に判断すべきである。審決は,以下に述べるような,取引の状況を考慮した全体的・総合的判断を怠ったものであり,類否判断の誤りがある。
(1) 指定商品についての取引の実情等「ばんそうこう」,「包帯」の歴史は古く,長年にわたり,医療機関や家庭において傷口の保護等のために使用されてきた。
治療方法の発達に伴い,透析チューブの固定など反復・長時間の使用が増大するにつれて,皮膚の刺激(かぶれ)発現の回避の要求が高まり,固定機能を維持しながら,皮膚の損傷を低減するための改良がされた。これによって,「肌にやさしい」,「皮膚の角質を損傷しない」ばんそうこう等の商品群が,医療用材料の商品市場において確立されてきた。現在においては,こうした商品群がばんそうこう等の市場の中心に存在している。
平成17年(2005年)時点で,「肌にやさしい」タイプの商品の市場規模は16億ないし20億円であったが,その中で,メーカーはそれぞれ異なった商標を使用して販売競争を行っている。例えば,ニチバンは「スキナゲート」,祐徳薬品工業は「ユートク」,スリーエムヘルスケアは「マイクロポア」の各商標を有し,これを商品に付して使用しているが,原告は,その中で,引用商標により自社商品の効果を表現している。
引用商標の指定商品及びこれに対応する本件商標の指定商品は,医療機関に納入され医療の現場で使用される場合と,ドラッグストア・薬局のような小売店により家庭向けに販売される流通ルートがある。前者の医療機関の場合は,医療従事者特に看護師が治療のために日常的に高い頻度で使用する。
多くの医療機関では,看護師等の医療従事者が極めて多忙に動き回り,ばんそうこう等を使用している。
指定商品中の「ばんそうこう,包帯,創傷被覆材」について,「肌にやさしい」,「皮膚を損傷しない」等の性質を有することが重視されていることに照らし,指定商品の具体的な種類・性質・用途及びこれに係る市場の実情を考慮して,本件商標と引用商標の類否を判断すべきである。
(2) 原告の商標の使用態様ア「肌にやさしい」製品の開発は欧米が先行したが,原告もその保有する粘着剤技術を改良し,平成6年に国内で最初の製品として「優肌絆」の商標でフィルム基材の巻絆創膏を発売した。その後,平成8年に不織布の絆創膏を,平成10年に白色不織布の絆創膏を,平成11年にサージカル・ドレッシング(ガーゼ等の固定材,創傷被覆材,カテーテル固定材)を,平成13年に粘着包帯を,さらにその後平成14年から平成16年,その後も平成18年,平成21年に,新製品をすべて「優肌」シリーズとして発売を続けてきた。
イ原告は,引用商標のみならず,医療用粘着テープ・シート類を「優肌」ブランドとして保護するために,漢字の「優肌」の文字を要部とする商標,すなわち,「優肌絆」の文字に「ゆうきばん」の平仮名書き及び欧文字の「YU-KIBAN」を3段書きに表示する構成の商標,その他の一連の商標を登録してきた(甲116の4項,別表1)。
ウ原告及び関連会社である日東メディカル株式会社(以下,「日東メディカル」といい,原告と併せて「原告ら」ということがある。)の製造,販売する「優肌」シリーズの商品は,優肌パーミエイド,優肌パーミパッド,優肌パーミロール等のように,商品名を表す場合に,「優肌」の部分を四角の枠で囲んだ上で表示して使用し,また「優肌絆」「優肌パッド」の文字を大きく表示している。
例えば,これを化粧箱でみると,甲119ないし131のとおり,原告ら商品のフィルムドレッシングの化粧箱の上面及び1あるいは2側面には,「優肌」の文字を四角の枠で囲み,その後ろに「パーミロール」,「パーミエイド」,「パーミパッド」の語を付している。また,原告ら商品のサージカルテープ(絆創膏)の化粧箱の上面及び2側面には,「優肌絆」の漢字を大きく,その上に「ゆうきばん」の平仮名文字を記載し,2側面に「YU-KI BAN」の欧文字を付している。
このように,原告商品の包装には,いずれも「優肌」及び「優肌絆」の文字が最も目立つように,さらに,「YU-KI」,「ゆうきばん」,「YU-KIBAN」の文字が付されている。商品のこうした表記方法は,各商品の発売以来,基本的な変更はない。
(3) 宣伝広告活動等原告らは,後記2(2)のとおり,有力な看護専門誌に「優肌」シリーズの商品広告を頻繁に掲載するなど宣伝広告活動をし,また,「優肌」シリーズの医療用粘着テープ・シートの販売活動を,主に医家向けに積極的に行ってきた。
(4) 本件商標及び引用商標の類否上記(1)ないし(3)で述べた本件商標及び引用商標に係る指定商品についての取引の実情等を踏まえると,本件商標と引用商標は類似する。
観念の類否について(ア)引用商標は,その中央部に「優」及び「肌」の漢字の2文字を「優肌」と横書きに大きく表し,その上段に平仮名文字の「ゆうき」を,下段に欧文字の「YU-KI」を表した造語である。しかし,造語であるからといって,直ちに観念を有しないということはできない。
引用商標は,「優」及び「肌」の2つの漢字を組み合わせた独特な構成により,皮膚に損傷を与えることが嫌われる医療用粘着テープ等の指定商品群に使用された場合に,「優美な肌」,「優しい肌」の独特のイメージないし印象を生ぜしめ,かつ「肌にやさしい」効果を想起させるものである。
(イ)これに対し,本件商標は,「肌」と「優」という引用商標の構成部分と同じ2つの漢字の文字を,「肌」の文字を先に,「優」の文字を後に配置するという,文字の配置順のみを逆にしただけである。2つの漢字の文字からなる造語の場合に,その文字の順序を逆にすることによって別の観念が生じることはあり得るが,本件の場合には,指定商品は同一又は類似しており,文字の順序を逆にしても,両者の組合せから生じる固有のイメージや観念に変化は生じない。
本件商標についても,「優美な肌」,「優しい肌」のイメージないし印象を生ぜしめ,かつ「肌にやさしい」という効果を連想させるものである。
以上のとおり,両商標の観念は類似する。
外観の類否について(ア)引用商標は,漢字部分,平仮名部分及び欧文字部分から構成されるとはいえ,漢字部分の「優肌」が他の文字部分より圧倒的に大きく表わされており,漢字部分からの外観が取引者及び需要者の印象に残り記憶されることは,その構成及び「優肌」という従来存在していなかった文字の組合せからみても明らかである。
(イ)本件商標の「肌優」も,引用商標と同じ2つの漢字から構成され,その先後が逆に配置された点においてのみ相違するものであり,かつ本件商標の「肌優」も従来存在しない漢字の組合せである。
引用商標と本件商標を時と場所を異にして離隔的に観察した場合には,極めて紛らわしく類似した外観の印象が生じる。
両商標の指定商品の使用者・需要者である看護師等は,日常の多忙な業務の中で,両商標を「優しい」という意味の「優」の文字と「皮膚」を意味する「肌」という文字の組合せにより,外観的な印象を把握し記憶することが合理的に推認され,両漢字の先後を誤ることにより,混乱を生じるなど,混同・混乱が発生するであろうことは容易に想像できる。
両商標の外観は類似する。
(ウ)被告は,文字商標の外観は構成する文字の語順により大きく影響され,語順の異なる本件商標と引用商標は類似しないと主張する。
しかし,漢字の2文字からなる短い商標で,構成する文字が同じであり順序のみを異にする場合,とりわけ本件の「優」と「肌」の組合せのように,文字の順序にかかわらず需要者,取扱者に共通のイメージを与える場合には,場所と時を異にした離隔的観察においては,全体として紛らわしく混同する可能性が極めて高い。また,近接的な観察においても,横書きの各商標が付された包装箱が上下を逆に置かれたり,横書きのパッケージが縦に置かれたりする場合には,両商標の識別が困難になり,取り違える可能性が強いことも合理的に推測できる。被告が語順が異なるため非類似とされたとして挙げる事例は,審判段階の事例であり,取引の実情等を詳細に検討して誤認混同の可能性の判断がされたものではない。
称呼の類否について本件商標から生じる「キユウ」の称呼と引用商標の「ユウキ」の称呼は,審決がいうように「共にわずか3音という短い短音構成よりなる」としても,具体的な商品の需要者ないし使用者である多忙な医療施設での医師や看護師が,その指定商品を記憶に従って名称で呼ぶ場合,医療機関が販売業者に対し緊急に在庫を電話で注文する場合,ドラッグストア・薬局などの小売店で顧客が口頭で注文をし店員が聴覚で把握する場合などには,「ユウキ」と「キユウ」が相紛らわしく,両者が間違って呼称される可能性は十分に存在する。両称呼の類否については,審決のように,指定商品の種類や使用される目的・場所を無視して,単に抽象的にしかも近接した比較により,些細な相違を含めて微細な観察により判断されるべきではない。
本件商標と引用商標の称呼は類似する。
エ 小括以上のとおり,本件商標と引用商標は,観念,外観,称呼のいずれもが類似し,両商標は類似する。
(5) 商品の類似性引用商標の指定商品は,別紙指定商品目録2のとおりであり,これらは,「ばんそうこう,包帯,創傷用被覆材,医療用テープ」の一般的記載に加えて,さらに「粘着性」のある各種医療材料を「粘着包帯,医療用シート状粘着テープ,カテーテル用粘着テープ,その他の医療用粘着テープ」と具体的に記載したものである。
本件商標の指定商品中第5類の指定商品がいずれも引用商標の上記指定商品に同一又は類似していることは,特許庁の類似商品審査基準に照らしても疑う余地がない。
(6) 小括以上のとおり,本件商標と引用商標は類似し,その指定商品も同一又は類似であるから,商標法4条1項11号に該当する。審決は,商標法4条1項11号該当性の認定及び判断を誤ったものである。
2 商標法4条1項15号該当性判断の誤り審決は,商標法4条1項15号の「混同を生ずるおそれ」の有無の認定に際し,引用商標及び原告らの使用商標が原告らにより長年にわたり使用されてきた事実,及びその結果,少なくとも,医療機関に対する市場において,医師・看護師等の医療関係需要者という直接的な需要者・使用者に広く認識されてきた事実を看過し,その結果,全体的・総合的な判断を怠ったものである。
(1) 取引の実情及び本件商標と引用商標の類否前記1(1)ないし(4)で述べたとおりである。
(2) 引用商標及び原告ら使用商標の周知著名性について原告らは,「優肌」シリーズの医療用粘着テープ・シートの販売促進活動を,主として医家向けに積極的に行ってきた。「優肌」シリーズの商品の多くは,病院・医院・介護施設などで,医師の診療後の処置,すなわち創傷の被覆,輸血・点滴の針の固定,褥瘡の保護等の看護師向けの作業に主として使用されるため,その販売促進活動は,看護師へ向けての品質のアピール,啓蒙を中心に行われてきた。これらにより,本件商標の出願日である平成18年5月20日までには,「優肌」の商標は,原告の製造販売に係る医療用粘着テープを表す標章として周知著名になっていた。
ア 有力な看護専門誌への広告原告らは,有力な看護専門誌である「月刊ナーシング」(株式会社学習研究社発行,月刊発行部数7万5000部,掲載回数43回),「エキスパートナース」(株式会社照林社発行,月刊発行部数10万部,掲載回数2回),「ナーシング・トゥデイ」(株式会社日本看護協会出版会発行,月刊7万部,掲載回数46回),「臨床看護」(株式会社へるす出版発行,月刊発行部数10万部,掲載回数19回),透析学会の専門誌「透析ケア」(株式会社メディカ出版発行,月刊発行部数1万2000部,掲載回数19回),大手薬品卸商クラヤ薬品株式会社の広報誌「クラヤ薬報」,「クラヤWITH」等(発行部数2万部,掲載回数3回)等に「優肌」シリーズの商品広告を頻繁に掲載した(甲116の8(1)項及び別表4)。
イ 学会・見本市・セミナーへの参加と出展等原告らは,平成6年以降,医師及び看護師を対象とする日本看護学会,日本透析医学会,日本臨床外科学会,日本形成外科学会,日本看護学会,日本皮膚科学学会その他多くの学会,大学,看護フェアー,セミナー,医療機器展示会での講演・パネル展示・商品ブースによる参加,看護師・販売ディーラーへの説明会,看護師との勉強会等を多数行ってきた(甲116添付の別表5)。回数のみを要約すると,平成6年に1回,平成7年に9回,平成8年に9回,平成9年に2回,平成10年に3回,平成11年に8回,平成12年に7回,平成13年に6回,平成14年に12回,平成15年に11回,平成16年に22回,平成17年に21回と,極めて多数回参加し,出席者は数百名から数千名に達する大規模なものが多い。
ウ 説明会・研修会・講習会の開催原告は,「優肌」シリーズの製品の説明会や使用方法についての研究会・講習会を開催して,医師・看護師・ディーラーが数百名レベルで参加している(甲116の別表6)。
エ 第3者の報告・論文等・原告の発行する技術報告等専門調査機関によるレポート(矢野経済レポート)や医療現場の専門家による研究論文・評価論文に「優肌」製品が取り上げられている。矢野経済レポート(甲9,109)は,原告の製品が,絆創膏・サージカルシートの分野で「肌にやさしい」製品を我が国で開発し販売した先駆者と評価しているほか,2回にわたり市場におけるシェアを報告している。
「月刊ナーシング」2005年3月号(甲56)には,田附興風会北野病院の戸田憲一ほかの医師・看護師ら5名による「皮膚腫瘍摘出術後創ならびに皮膚潰瘍に対する『優肌パーミパッド』の使用経験-物性および安全性の検討」と題する比較検討試験を行い,優肌パーミパッドの角質剥離面積率が他社製品より小さい結果が報告されている。
原告発行の「日東技報」(甲113。平成7年11月発行)は,原告の技術者による「低皮膚刺激性サージカルテープ『優肌絆』」の実用評価を行った結果を掲載し,頒布されている。
オ 「優肌」製品関連技術に対する受賞について原告は,剥離時に皮膚の損傷の非常に少ないサージカルテープの開発に対し,平成8年に日本産業皮膚衛生協会の特別奨励賞(開発賞)を,平成17年には「皮膚に優しいゲル粘着剤の開発」により経済産業省「ものづくり日本大賞」優秀賞を受賞している(甲79〜81,甲116の4項)。
カ 病院への納入実績平成20年上期において,日本全国の病院数のほぼ90パーセントに「優肌絆」が納入されており,病院における普及率と認知率は顕著に高い(甲116の7項及び別表3)。その結果,その売上高も甲104に記載のとおりの金額に至っている。
キ インターネットによる販売原告の「優肌」製品は,医療機関への販売にとどまらず,「肌にやさしいテープ」等として,アマゾン(Amazon),特価COM,三牧ファミリー薬局等によるインターネット通販により販売されている。
ク 小括以上によれば,引用商標及び「優肌」の標章は,本件商標の出願時及び登録査定時において,原告の業務に係る「肌にやさしい」タイプの絆創膏その他の医療用粘着テープ・シートを示す商標として,既に周知・著名になっていた。
(3) 混同のおそれ本件商標は,引用商標中の「優肌」部分と文字の順序が逆とはいえ,前記1(4)で述べたとおり,引用商標と類似するものであり,その指定商品中の粘着性絆創膏等の医療用粘着テープ・シートに使用された場合,その指定商品の性質・用途・使用の場所・医療機関における看護婦等による使用状況において,既に同じ市場に存在して需要者に使用され,かつ周知・著名な,引用商標ないし原告らの使用商標を付した原告の業務に係る商品を想起させ,その結果,原告らの商品と混同を生じるおそれがある。
この点について,被告は,需要者については,看護師の能力,義務,責任からみて,一般需要者より注意して識別するはずであり,この点からも誤認混同はないと主張する。しかし,包帯等の医療補助品は,医療機関向けであっても医師の処方を必要とするものではなく,実際に患者に使用する看護師の評判や信用,医療補助品の購入担当者に対する販売活動により,販売の動向が決まるものである。したがって,これらの商品の発注,購入,使用に際しては,通常の商品と同様の注意が払われるにすぎない。一方,一般小売市場においては,店頭の展示やインターネットを通じて販売されるものであり,通常の商品と異なる注意が払われるものではない。
被告の反論等
1 商標法4条1項11号該当性判断の誤り(取消事由1)に対し(1) 本件商標と引用商標の類否についてア 観念非類似(ア)本件商標及び引用商標は,いずれも既成の語に存在しない造語である。したがって,本件商標及び引用商標に接する取引者,需要者は,両商標から何らかの意味合いを理解・認識することはない。
仮に,本件商標に接する取引者・需要者が,本件商標から何らかの意味合いを理解したとしても,「優」の漢字は,原告が主張する「やさしい」の意味合いだけでなく,「すぐれている」「ゆたかな」「まさっている」という意味合いを有し,一般に使用される多義的な文字である(乙1の1及び乙2の1)。取引者・需要者が「優」の漢字から受け取るイメージは,抽象的で漠然としているため,本件商標及び引用商標から「肌にやさしい」という特定の意味合いのみを理解・認識するものでもない。
したがって,本件商標と引用商標の意味合いを理解・認識できない以上,「肌にやさしい」という観念は生じない。
(イ)仮に,本件商標及び引用商標から「肌にやさしい」という観念が生じたとしても,「肌にやさしい」という観念は,肌に用いる商品のごく一般的な品質ないしは効能を示す記述的な内容である(商標法3条1項3号)。このように,「肌にやさしい」という観念は,一般的な品質ないしは効能を示すものであり,自他識別機能を発揮する観念とは異なる。
(ウ)本件商標及び引用商標から特定の観念が生じない以上,「観念について比較することはできない」という審決の判断は正当である。
外観非類似(ア) 全体構成引用商標には,中段に漢字「優肌」,上段に平仮名「ゆうき」,下段に「YU-KI」の各文字が表記されている。本件商標と引用商標とは,概観全体の対比において類似しない。
原告は,引用商標の「優肌」部分のみを分離する。しかし,引用商標の上段の平仮名部分は,振り仮名を付すように「優」の上に「ゆう」,「肌」の上に「き」とまとまりよく表記されている。漢字部分と平仮名部分は,これに接する者に対し,一体のものとして認識・記憶される。
しかも,「優肌」は造語であり,いくつかの称呼・読みがあるから,「優肌」の漢字を容易に読めない。引用商標に接する者は,その読みを探求しようとして,振り仮名である「ゆうき」と「優肌」とを,なおさら一体として認識・記憶するはずである。
また,下段の「YU-KI」については,「YU」と「KI」の間には「-」がある。上段の平仮名の「ゆうき」,中段の「優肌」の表記からすると,「-」は,欧文字のハイフンではなく,長音を意味する片仮名の「ー」であると分かる。下段の「YU-KI」も,このように平仮名部分及び漢字部分と一体となって構成されている。「YU-KI」自体が欧文字とかな文字から構成されている特徴ある部分であるから,「優肌」の部分のみが要部などとはいえない。
実際,原告が「優肌」の文字を使用するときには,ほとんどの場合,平仮名の「ゆうき」又は欧文字の「YU-KI」を伴って使用しており,これも上記の一体性を示す証左である。
(イ) 語順文字商標の外観は,構成する文字の語順により大きく影響を受けるものであるところ,本件商標と引用商標の漢字部分は「肌」と「優」の語順が異なっている。「肌」と「優」の文字は,一般社会において親しまれた平易な漢字であり,その字体の形象は大きく異なるから,両文字同士は互いに相紛れるところがない。したがって,両者を誤認混同する可能性はなく,両者は非類似である。
漢字2字からなる構成態様の商標について,特許庁の審判段階で非類似とされた商標としては,「はだあい/肌愛」と「ラブハダ/愛肌」(乙8及び乙9),「はだなごみ/肌和み」と「和み肌/なごみはだ」(乙10及び乙11),「肌ひめ」と「姫肌」(乙12及び乙13),「肌花」と「はなはだ/花肌」(乙14及び乙15)等多数存在する。
(ウ) 小括本件商標と引用商標は,字体の形象の異なる「肌」と「優」とにより構成されており,この語順が異なっている。しかも,全体の構成も異なっている。両商標の外観非類似である。
称呼非類似引用商標は,振り仮名「ゆうき」及び欧文字「YU-KI」と組み合わせられていることから「ユウキ」の称呼が生じるが,本件商標は漢字「肌優」の2文字のみからなる商標であり,「キユウ」の称呼は生じない。
現代人は,肌の文字に「き」「KI」を付して「キ」と読める程度である。広辞苑第4版をみても,「き」の漢字として「肌」を記載していない(乙1の3)。また,肌を「キ」と読む代表的な熟語として,「肌骨」,「肌膚」,「肌理」などがあるが(乙2の2),これらの熟語は,既に死後と化している。
また,振り仮名なしで,需要者は肌を「キ」と称呼し難いからこそ,引用商標では振り仮名を付しているのである(乙3)。
したがって,本件商標「肌優」には,「ハダヤサ」,「ハダスグレ」,「ハダユウ」などの称呼が生じるのみである。
仮に,本件商標に「キユウ」の称呼が生じるとしても,引用商標の「ユウキ」とは,共にわずか3音という極めて短い短音構成からなり,「キ」と「ユ」の音は,その母音を異にしているから,互いに紛れることはない。
本件商標と引用商標の称呼非類似である。
エ 小括本件商標と引用商標は,観念,外観,称呼のいずれをとっても明らかに非類似であり,紛れるところがない。外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に観察しても,商品の出所につき誤認混同が生じるおそれはない。審決の判断に誤りはない。
(2) 取引の実情の考慮について原告は,引用商標の使用の事実と周知・著名の事実を主張し,商標法4条1項11号における商標の類否についての総合判断において考慮されるべきであると主張する。しかし,本件商標と引用商標は,観念,外観,称呼のいずれにおいても非類似であって,紛れるところがない以上,取引の実情を判断するまでもない。また,原告は,審判において4条1項11号に関し,引用商標の著名性を主張していなかったのであるから,審判で審理判断されていない事項について,新たな証拠を出して争うことは許されるべきではない。
(3) 商品の同一又は類似について商品の同一又は類似については争わない。
2 商標法4条1項15号に係る判断の誤り(取消事由2)に対し本件商標と引用商標は誤認混同のおそれはなく,審決に誤りはない。
(1) 両商標の類似性について前記1(1)のとおり,本件商標と引用商標とは,称呼外観観念において紛れるところがなく,類似しない。
(2) 原告商標の周知,著名性について原告らの商標の使用態様,需要者が限定されていること,原告の販売実績に照らすと,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,周知著名であるとはいえない。
ア 原告の商標の使用態様原告が平成6年に発売を開始した商品の商標は「優肌」とは異なる商標である平仮名を付した「優肌絆」である。また,原告が使用した商標は,「優肌絆」,「優肌パーミロール」,「優肌パーミエイド」,「優肌パッド」,「優肌防水パッド」,「優肌包帯50」,「優肌包帯」などである。「優肌絆」,「優肌パーミロール」,「優肌パーミエイド」などは,一体の商標であり,「優肌」とは非類似である。この使用態様に照らすならば,「優肌」が周知,著名となったとはいえない。
イ 需要者が限定されていること原告は,使用実績として,原告による販売促進活動,病院への納入実績などを挙げている。しかし,いずれも医療専門家,特に医師,看護師及び薬剤師向けのものであって,ごく限られた需要者に対する使用実績である。引用商標は需要者に広く知られているわけではなく,著名とはいえない。
ウ 原告らの販売実績日東メディカルの固定テープ,絆創膏の販売シェアは,7.6パーセントとされ,シェアは4位である(甲9の44頁)。しかも,この数字は,引用商標以外を使用する絆創膏等を含む数字である(乙21)。救急絆創膏にあっては,売上高上位のメーカー5社に日東メディカルの名前はない(甲9の45頁)。
(3) 取引の実情原告らの商標の使用状況として,原告らは,ほとんどの場合に,「ゆうき」「YU-KI」を用いており,その浸透に努めている。このような使用状況からすれば,需要者も製造,販売者である原告らも,取引において「優肌」の外観ではなく,「ユウキ」の称呼をもって取引していると推認されるのであって,両商標間に誤認混同は生じない。
原告が主張する需要者は医療機関である。医師,看護師及び薬剤師は,医療品について高度の知識を有し,かつ重大な注意義務と責任を負っている。
商品購入時においても,その使用時においても,注意深く商品を識別するから誤認混同は生じない。
(4) 小括以上の点からみて,本件商標と引用商標について商品の誤認混同は生じない。原告の主張は,商標法4条1項10号と15号とを混同し,商標法4条1項15号の括弧書きを無視した主張であって,主張自体が失当である。
当裁判所の判断
1 商標法4条1項11号該当性判断の誤り(取消事由1)について商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり(最高裁昭和39年(行ツ)第110号昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照),以下,本件商標と引用商標との類否を判断するに当たって,上記の点を考慮して判断する。
(1) 取引の実情甲5,6,9,105,114ないし116,117,119ないし132,134,259ないし261及び個々に摘記した証拠によれば,以下の事実が認められる。
ア 引用商標に係る指定商品等の取引の実情等(ア)引用商標は,原告が製造し,日東メディカルが販売する固定テープ・巻絆創膏市場における商品に使用されている(平成8年に日東メディカル設立される前は,原告において製造及び販売をしていた。)。
固定テープ・巻絆創膏とは,粘着剤を裏面に塗布したテープ形状の製品を言い,患部の固定や保護のために使用される。
固定テープ・巻絆創膏には,医家向けと薬局・薬店向けがあるが,市場全体では,約65パーセントが医家向け,約35パーセントが薬局・薬店向けである。医家向け製品の用途は,主に固定の用途であり,固定の対象は,脱脂綿・ガーゼ・穿刺針,カテーテル,チューブ,副木等多様である。
民間の調査機関である株式会社矢野経済研究所の調査によれば,固定テープ・巻絆創膏の市場規模は,平成16年度,平成17年度とも売上高62億円(メーカーの出荷金額ベース)である。そのうち,原告の関連会社である日東メディカルの平成17年度の売上高(出荷金額ベース)は4億7000万円であり,市場でのシェアは7.6パーセントとされている。
引用商標を付した商品は,そのほとんどが医療機関向けとして販売されている。
(イ)近年は,患者のQOL(Quolity of Life:生活の質)の向上が求められ,テープかぶれに対し,創傷,ストーマケア,失禁ケアの看護を中心に関心が強く,かぶれ発現の機構や低減の工夫について,看護学会で発表され,また,看護雑誌へ投稿され,医療現場の看護師からは,巻絆創膏の製造販売業者に対して,かぶれのないことのほか,剥がすときに痛くない製品の開発が要望されている。
個別の医療分野で見ても,慢性腎不全により人工透析を受ける患者は年々増加し,透析療法の技術の向上により,透析歴が20年を超える患者も存在し,透析は週に2,3回行われるが,その都度,穿刺針や血液回路の固定にテープが使用され,テープによるかぶれや掻痒の苦痛を訴える患者が多い。皮膚の弱い老人等にも,テープの使用による,はがす時の表皮のはがれ等の苦痛を訴える者が多い。また,褥瘡を生じやすい患者等についても,使用するテープへの配慮が必要である。
(ウ)このような製品に対する需要を踏まえて,粘着テープの業界においても,固定の機能を維持しながら皮膚の損傷を低減するための改良がされた低刺激絆創膏が種々開発されるようになった。
このような肌に優しい絆創膏として,原告は,「優肌絆」の商標を付した絆創膏を,遅くとも平成6年11月ころには販売を開始した(甲195)。
その後,日東メディカルは,優肌シリーズとして,平成8年に優肌絆不織布,平成11年に優肌パッド,平成13年に優肌絆アルファ,平成14年に優肌絆スキンカラー,優肌パーミエイド(カテーテル固定用材),平成15年に優肌パーミパッド(創傷部位の保護材),平成16年に優肌パーミロール(防水性創傷部位等保護材)の販売を開始している(甲116の別表2)。
固定テープ・巻絆創膏の分野で原告よりも売上高で上位を占めるニチバン,スリーエムヘルスケア,祐徳薬品工業も,現在では,皮膚に対し刺激の少ない絆創膏の販売を開始している。
イ 引用商標の使用態様日東メディカルは,現在,優肌絆(優肌絆不織布,優肌絆スキンカラー,優肌絆プラスチック,優肌絆アルファを含む),優肌パッド,優肌パーミエイド,優肌パーミパッド,優肌パーミロールの各製品の包装箱の上面及び側面に大きな文字で「優肌絆」「優肌パッド」「優肌パーミエイド」「優肌パーミパッド」「優肌パーミロール」の標章を使用している。
このうち,「優肌絆」及び「優肌パッド」の「優肌」文字の上には,それぞれ平仮名で小さく「ゆうきばん」「ゆうき」の振り仮名が記載されている。
そして,後記ウの宣伝広告に記載された包装箱の写真からみて,前記アの時期に各商品が販売されたころから(優肌絆については甲195が発行された平成6年11月以降,優肌パッドについては甲205が発行された平成12年4月以降,優肌パーミエイドについては甲216が発行された平成14年10月以降,優肌パーミパッドについては甲229が発行された平成16年5月以降,優肌パーミロールについては甲217が発行された平成16年8月以降には包装箱に上記のような表示があったことが認められる。),既に包装箱に上記各表示があり,その後継続的に使用されていることが認められる。
ウ 原告らによる雑誌等への宣伝広告の掲載原告及び日東メディカルは,原告を製造元,日東メディカルを販売元として(日東メディカル設立前は原告を製造販売元として),月刊誌「臨牀看護」(甲15〜21,甲211〜217),月刊誌「Nursing Today」(甲27〜53,甲193),「月刊ナーシング」(甲56〜68,甲194〜210),月刊誌「透析ケア」(甲137〜185)等に,平成6年12月以降,本件商標が登録された平成18年2月3日までの間に,多数回にわたって,「優肌絆」「優肌パーミエイド」「優肌パーミパッド」「優肌パーミロール」等の宣伝広告をし,その中で「肌への思いやり」,「肌にやさしい」等の表現により,原告製品の特色を宣伝した。また,日本透析医学会,日本皮膚科学会,日本看護学会等において優肌絆等の商品のパネル展示を行い,同内容の宣伝をした。
エ 引用商標を使用した商品の取引者,需要者とその認識等引用商標を使用した商品の取引者,需要者は医療関係者であり,前記固定テープ・巻絆創膏市場における取引者,需要者の関心事項,本件商標の使用態様,原告らによる宣伝広告の内容からみれば,取引者・需要者は引用商標の「優肌」の文字について,肌にやさしいという意味を有するものとして理解しているものと解される。
オ 本件商標に係る取引の実情被告が製造,販売する商品に本件商標を使用していることは本件証拠によっても認められない。乙17ないし20,23の1ないし3によれば,被告は,平成18年8月10日,ユニ・チャーム株式会社との間で本件商標の使用許諾契約を締結し,ユニ・チャーム株式会社は,その販売する生理用品に「ふわごこち肌やさスリム」という商標を使用している。
その使用態様は,包装袋の中央部に「ふわごこち」と大きく書かれた文字の下に,やや小さい文字で「肌やさスリム」記載されたものであり,かつ,本件商標と異なって「肌やさ」と一部平仮名を用い,かつ「スリム」の文字と組み合わせたものであるため,本件商標が商品識別機能を果たしている態様で使用されているということはできない。上記生理用品の取引者・需要者は,一般消費者である。
カ 肌にやさしいタイプの絆創膏等の商品に付された商標等の状況肌にやさしいタイプの絆創膏等の商品の市場規模は,平成17年(2005年)時点で,16億ないし20億円であった。メーカーはそれぞれ異なった商標を使用しており,ニチバンは「スキナゲート」,祐徳薬品工業は「ユートク」,スリーエムヘルスケアは「マイクロポア」の各商標を有し,これを商品に付して使用している。
(2) 本件商標と引用商標の類否上記認定した事実を考慮して,本件商標と引用商標の類否を判断する。
観念における対比(ア) 引用商標の識別機能を有する部分について引用商標は,前記のとおり,中段に漢字「優肌」が,その上にひらがな「ゆうき」が,下段に欧文字「YU-KI」が,それぞれ横書きされ,中段と下段との間には,間隔が空けられて表記されている。
上段に横書きされたひらがな「ゆうき」は,「優肌」の振り仮名を,下段に横書きされた欧文字「YU-KI」は,「優肌」の読みを,それぞれ示したものと理解されるから,「ゆうき」,「YU-KI」の部分は取引者,需要者の注目を惹く態様のものではなく,漢字で記載された「優肌」部分が,出所識別機能を有する特徴のある部分(要部)と解すべきである。
この点について,被告は,「優肌」は造語であり,いくつかの読みがあるから,看者は,その読みを探索しようとして,振り仮名である上段の「ゆうき」部分,及び下段の「YU-KI」も平仮名部分を認識するから,「優肌」のみが,出所識別機能を有する部分とはいえないと主張する。
しかし,上段のひらがな「ゆうき」部分は,漢字「優肌」部分の4分の1以下の大きさであること,通常の自体で表記され,特段注目を惹くものではないこと,称呼を示すために付加表記された趣旨が明らかであること,また,下段の欧文字「YU-KI」部分は,漢字「優肌」部分と大きさにおいて変わりがないが,独立の外国語として意味を有するものではないこと,上段と同様,読みを示すために付加記載された趣旨が明らかであることから,「ゆうき」部分及び「YU-KI」部分のいずれも,中央の「優肌」の称呼を確認した後には,看者に対して強い印象を与えるものではないといえる。前記(1)で認定した取引の実情等を考慮しても,引用商標の出所識別機能を有する部分は,中央に記載された漢字「優肌」部分というべきである。
(イ) 対比a引用商標は,漢字「優」の右に「肌」を配置させて,組み合わせた語からなる商標であって,「優」は,「優しい,優美な,優れた,優雅な,上品な,気品のある」等を意味する語(形容詞的に用いられる。)であり,「肌」は「人の体の表皮,皮膚」等を意味する語(名詞的に用いられる。)であり,既存の語ではないものの,消費者,需要者に対して,「肌に優しい」,「優しい肌」,「優美な肌」等の観念を生じさせる。
本件商標も,漢字「肌」の右に「優」配置させて,組み合わせた語からなる商標であって,既存の語ではないものの,消費者,需要者に対して,「肌に優しい」,「優しい肌」,「優美な肌」等の観念を生じさせる。特に,左右の配置は異なるものの,漢字「肌」は名詞として,漢字「優」は修飾語として用いられることに照らすならば,配置の相違が観念の相違を来すことはなく,引用商標と本件商標は,観念において同一であるといえる。
b前記(1)で認定した取引の実情を踏まえると,引用商標からは,医療関係者を含む取引者,需要者に対して,「肌に優しい」等の観念を生じさせる。特に,造語であることに照らすならば,引用商標が需要者,取引者に対して,強い印象を与えるものというべきである。本件商標からも,医療関係者を含む取引者,需要者に対して,同様に「肌に優しい」等の観念を生じさせる。なお,指定商品中には,医療関係商品のみならず,衛生関係商品も含まれるが,その多くは肌(皮膚)に接して使用する商品であるといって差し支えないから,「肌に優しい」等の観念を生じる点で,変わりはない。
cそうすると,本件商標と引用商標は,観念において同一(又は類似)である。
外観における対比前記アで述べたとおり,引用商標は,漢字「優」の右に「肌」を配置させて,組み合わせた語からなる商標であり,本件商標は,漢字「肌」の右に「優」配置させて,組み合わせた語からなる商標である。他方,本件商標は,引用商標中の漢字2字の左右を入れ替えて,配置,表記したものである。
引用商標と本件商標とを対比すると,両者とも,?@既存の語を利用した商標ではなく,新しく創作された語(造語)であるため,確定した固有の意味を有していないこと,?Aしたがって,商標を構成する文字(漢字)そのものも持つ意味が,重要な判断の要素となること,?B各商標を構成する2つの漢字,すなわち,「優」と「肌」とが共通すること,?C「優」,「肌」の漢字は,いずれも指定商品と関連性の強い文字が選択されていること,?D各商標とも,横書きであるため,取引者,需要者は,語順を正確に記憶して理解することが必ずしも容易でない場合があること等の諸点を総合考慮するならば,離隔的に観察するときには,両商標の外観は,紛らわしいものということができるから,両者は,外観においても,類似する。
称呼における対比本件商標は,「ハダヤサ」「ハダユウ」又は「キユウ」の称呼を生じるのに対し,引用商標は「ユウキ」の称呼を生じ得る。本件商標が「ハダヤサ」,「ハダユウ」との称呼を生じる限りにおいては,引用商標と本件商標とは,称呼において類似しない。また,本件商標が,「キユウ」との称呼を生じる場合においても,「キユウ」と「ユウキ」とでは,冒頭及び末尾の音が相違することから,称呼において類似しない。
取引の実情等について前記(1)に認定したとおり,原告は,平成6年ころから,長年にわたって,引用商標中の「優肌」を含む商標(「優肌シリーズ」,「優肌」,「優肌絆」,「優肌包帯」,「ゆうきばん/優肌絆」,「優肌パミロール」,「優肌パーミエイド」等)を,原告の製造に係る商品(医療用粘着テープ,医療用粘着フィルム,医療用包帯等の商品)の包装箱に継続的に使用し,また,雑誌等の宣伝広告媒体に掲載していること,絆創膏等の商品について,複数のメーカーが存在するが,各メーカーは,例えば,ニチバンは「スキナゲート」,祐徳薬品工業は「ユートク」,スリーエムヘルスケアは「マイクロポア」の各商標を有して,互いに異なった商標を使用していること等の事情に照らすと,「肌優」が本件商標の指定商品に使用されると,取引者,需要者は,同一の出所に由来するものと誤認する可能性があるという意味で「優肌」と類似する商標と理解するというべきである。
オ 小括以上のとおり,取引の実情を考慮して,本件商標と引用商標とを対比すると,観念及び外観において類似する。本件商標と引用商標がいずれも造語であり,特に本件商標については,複数の称呼が生じ得ることにかんがみると,本件商標と引用商標の類否を判断するに当たり,本件において称呼を重視するのは妥当とはいえない。
本件商標に係る指定商品のうち,ばんそうこう,包帯,創傷被覆材が引用商標の指定商品と同一であり,その他の指定商品が引用商標の指定商品と類似することは当事者間に争いがない。
そうすると,本件商標は,引用商標とその指定商品が同一又は類似する。
2 結論本件商標は,引用商標と類似し,その指定商品も同一又は類似であるから,商標法4条1項11号に該当し,商標法46条1項1号の無効事由がある。
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,審決の判断は違法であるから,これを取り消すこととし,主文のとおり判決する。
追加
(別紙1)(別紙2)(別紙)指定商品目録1第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド,歯科用材料,医療用腕環,はえ取り紙,防虫紙,乳糖,乳児用粉乳,人工受精用精液,創傷被覆材」(別紙)指定商品目録2第5類「ばんそうこう,粘着包帯,包帯,創傷被覆材,医療用シート状粘着テープ,カテーテル固定用粘着テープ,その他の医療用粘着テープ,医療用テープ」
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大須賀滋
裁判官 齊木教朗