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事件 平成 25年 (ワ) 34654号 損害賠償請求事件
平成 27年 (ワ) 8166号 損害賠償等請求事件
第1事件原告兼第2事件被告 ブリリアントビューティー株式会社 (以下「ブリリアント社」という。) 第2事件被告A (以下「A」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 酒井将 浅野健太郎
同訴訟復代理人弁護士 日原聡一郎 藤井真事 第1事件原告補佐人弁理士 児玉道一 第1事件被告兼第2事件原告 コスメテックスローランド株式会社 (以下「ローランド社」という。)
同 訴 訟代理人弁護士村和男 宮舘雅義 藤野大介 第1事件被告補佐人弁理士 岩堀邦男
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2016/06/23
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 -1-1 ローランド社は,別紙被告標章目録記載1の標章を別紙被告商品目録記載1〜5の商品に,別紙被告標章目録記載2の標章を別紙被告商品目録記載1〜4の商品に,別紙被告標章目録記載1若しくは2の標章を別紙被告商品目録記載6の商品の包装に,別紙被告標章目録記載4の標章を別紙被告商品目録記載7の商品の包装に付し,上記各標章を付した各商品若しくは各包装を販売し,又は販売のために展示してはならない。
2 ローランド社は,別紙被告標章目録記載1の標章を付した別紙被告商品目録記載1〜5の商品,別紙被告標章目録記載2の標章を付した別紙被告商品目録記載1〜4の商品,別紙被告標章目録記載1又は2の標章を付した別紙被告商品目録記載6の商品の包装及び別紙被告標章目録記載4の標章を付した別紙被告商品目録記載7の商品の包装をいずれも廃棄せよ。
3 ブリリアント社のその余の請求をいずれも棄却する。
4 ブリリアント社は,ローランド社に対し,9449万1216円及びこれに対する平成27年5月2日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
5 ローランド社の主位的請求及びその余の予備的請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は,第1事件及び第2事件を通じ,ブリリアント社とローランド社の間ではこれを10分し,その6をブリリアント社の,その余をローランド社の各負担とし,Aとローランド社の間では全てローランド社の負担とする。
7 この判決は,1項及び4項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 第1事件 (1) ローランド社は,別紙被告標章目録記載1の標章(以下,同目録記載の標 章をその番号により「被告標章1」などという。)を別紙被告商品目録記載 1〜5の商品(以下,同目録記載の商品をその番号により「被告商品1」な どという。)に,被告標章2を被告商品1〜4に,被告標章1若しくは2を 被告商品6の包装に,被告標章3若しくは4を被告商品7の包装に付し,上 記各標章を付した各商品若しくは各包装を販売し,又は販売のために展示し てはならない。
(2) ローランド社は,被告標章1を付した被告商品1〜5,被告標章2を付し た被告商品1〜4,被告標章1又は2を付した被告商品6の包装及び被告標 章3又は4を付した被告商品7の包装をいずれも廃棄せよ。
(3) ローランド社は,ブリリアント社に対し,3億2252万2618円及び うち1億9442万6533円に対する平成26年3月14日から支払済み まで年6分の割合による金員,うち1億2809万6085円に対する同日 から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 第2事件(主位的請求) ブリリアント社及びAは,ローランド社に対し,連帯して2億6000万円 及びこれに対する平成27年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金 員を支払え。
(予備的請求) ブリリアント社及びAは,ローランド社に対し,連帯して2億4716万5 219円及びこれに対する平成27年5月2日から支払済みまで年6分の割合 による金員を支払え。
事案の概要
1 事案の要旨 本件は商品名を「エスプリンセス」,「esprincess」とするシャンプー等の商品に関する訴訟であり,ブリリアント社がローランド社に対し商品の製造を委託してその製造代金を支払う旨の契約(以下「本件製造契約」という。)を締結し,ローランド社が製造した商品をブリリアント社が販売していたが,その後,ローランド社が商品の販売を代行してその販売代金をブリリアント社に支払う旨の契約(以下「本件代行契約」という。)が締結され,さらに,本件代行契約が解除されるに至った。また,ブリリアント社は「エスプリンセス」の文字等から成る商標につき商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。)を有するところ,ローランド社は本件代行契約の解除後も「esprincess」の文字を含む標章を付したシャンプー等の商品を販売した。
第1事件は,ブリリアント社が,ローランド社に対し,(1) ローランド社が本件代行契約上の債務を履行しなかったと主張して,@債務不履行に基づく損害賠償金1億7515万4420円及びこれに対する履行の請求の後である平成26年3月14日(第1事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金,A本件代行契約に基づく販売代金1927万2113円及びこれに対する履行期の後である同日から支払済みまで同割合による遅延損害金の各支払を求めるとともに,(2) 本件代行契約解除後のローランド社による被告標章1〜4の使用が本件商標権の侵害に当たると主張して,商標法36条1項及び2項に基づく上記各標章の使用の差止め及びこれが付された商品等の廃棄と,民法709条及び商標法38条2項に基づく損害賠償金1億2809万6085円及びこれに対する商標権侵害行為の後である同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める訴訟である。
第2事件は,ローランド社が,(1) ブリリアント社に対し,@主位的に,ブリリアント社がローランド社と締結した本件製造契約において見通しを誤った 過大な発注を行ったことなどが不法行為に当たると主張して,民法709条に基づく損害賠償金2億6000万円及びこれに対する不法行為の後である平成27年5月2日(第2事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の,A予備的に,本件製造契約に基づく製造代金2億4716万5219円及びこれに対する履行期の後である同日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の,(2) ブリリアント社の代表取締役であるAに対し,Aは上記(1)のブリリアント社の不法行為等につき会社法429条1項の責任を負うと主張して,主位的に上記@,予備的に同Aの金員の各連帯支払を求める訴訟である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨に より容易に認められる事実) (1) 当事者 ブリリアント社は化粧品,シャンプー及び美容器具の企画,販売その他商 品開発を業とする株式会社であり,Aはその代表取締役である。
ローランド社は,医薬部外品,化粧品,健康食品及び雑貨の製造販売及び 輸出入を業とする株式会社である。
(2) ブリリアント社の商標権 ブリリアント社は,別紙商標権目録記載の本件商標権を有している。
(3) 本件製造契約 ア ブリリアント社とローランド社は,平成23年6月24日,ブリリアン ト社がローランド社に対しシャンプー及びコンディショナー各20万本並 びに容器金型4個の製造を8120万円(内訳:シャンプー及びコンディ ショナー各1本当たり198円,容器金型1個当たり50万円)で委託す る旨の契約を締結した。(甲3,乙1) イ ブリリアント社は,ローランド社に対し,同年9月20日,「仮発注書」 と題する書面を送付した。同書面には,シャンプー及びコンディショナー 各50万本の製造を1億9800万円(1本当たり198円)で発注する 旨の記載がある。(乙14,30。ただし,ブリリアント社が上記各50 万本の製造を委託したかなど本件製造契約の内容については当事者間に争 いがある。) ウ ローランド社は,同年9月〜12月の間,シャンプー25万2647本, コンディショナー21万9371本,セットボックス(シャンプー及びコ ンディショナー各1本を箱詰めしたもの)35万1504セット等の商品 をブリリアント社に納品した。ブリリアント社は,製造代金のうち604 6万0424円をローランド社に支払った。また,ブリリアント社は,上 記期間中,シャンプー7878本,コンディショナー7572本,セット ボックス12万5243セット等の商品を販売した。(甲8,40,41, 乙31)(4) 本件代行契約 ア ブリリアント社とローランド社は,平成24年1月15日に覚書を取り 交わして,エスプリンセスブランドのシャンプー等の商品をローランド社 がブリリアント社に代わって販売することに関する本件代行契約を締結し た。上記覚書には,以下の趣旨の条項がある。(甲12) (ア) 営業代行の販売数量として,同年1月から3月末までのセットボック スの販売努力目標数を50万セットとし,販売目標本数を38万セット とする。(3条1項) (イ) ローランド社は,3条に定める販売数量における支払を,ローランド 社の取引先・取引条件一覧表に基づき商品を販売し,入金された金額を ローランド社への入金後5営業日以内にブリリアント社の指定する金融 機関に振り込むものとする。(4条) イ ローランド社が上記ア(ア)の期間中に販売したセットボックスは2万0 340セットであった。(甲13) ウ ブリリアント社は,同年10月3日に本件代行契約を解除した。(甲1 7,乙18。なお,ローランド社は解除の効力を争っていない。) (5) ローランド社の行為 ローランド社は,同月4日以降,被告標章2を被告商品1〜4及び被告商 品6の包装に,被告標章4を被告商品7の包装にそれぞれ付して,これらの 商品を販売した(被告標章1及び3の使用については争いがある。)。
3 争点(1) 本件代行契約の債務不履行に基づく損害賠償請求について(第1事件) ア 最低販売数量の保証の有無 イ 努力義務違反の有無 ウ 損害額(2) 本件代行契約に基づく販売代金請求について(第1事件) ア ローランド社が支払うべき販売代金の額 イ 本件製造契約に基づく製造代金請求権との相殺の成否(3) 不法行為及び会社法429条1項に基づく損害賠償請求について(第2事 件,主位的請求) ア 不法行為の成否 イ 悪意又は重過失の有無 ウ 損害額消滅時効の成否等(4) 本件製造契約に基づく製造代金請求及び会社法429条1項に基づく損 害賠償請求について(第2事件,予備的請求) ア 訴えの適法性 イ ブリリアント社が支払うべき製造代金の額 ウ 悪意又は重過失の有無 エ 本件代行契約による製造代金請求権の消滅の有無 オ 消滅時効の成否 カ 信義則違反の有無 キ 損害賠償請求権又は不当利得返還請求権との相殺の成否(5) 商標権侵害に基づく請求について(第1事件) ア 被告標章1及び3の使用の有無 イ 本件商標と被告標章1〜4の類否 ウ 損害額4 争点に関する当事者の主張(1) 本件代行契約の債務不履行に基づく損害賠償請求について(第1事件) ア 最低販売数量の保証の有無 (ブリリアント社の主張) ブリリアント社は,シャンプー等の納品日を重視しており,ローランド 社に対して平成23年8月末日までに納品してほしい旨繰り返し伝えてい たが,ローランド社はこの日までに納品せず,その後製造でき次第納品す るという状態であった。ローランド社による納品遅延により,ブリリアン ト社は予定どおり販売することができず,売上げの減少,倉庫料や広告費 等の支出,在庫の発生などの損失が生じた。そこで,ローランド社は,自 ら生じさせた損害について責任を取り,これを確実に填補するために,ブ リリアント社を代行して商品を販売するとともに,ローランド社の販売本 数につき50万セットを努力目標とし,38万セットという最低保証販売 数を設定することを内容とする本件代行契約を締結した。
したがって,ローランド社は,本件代行契約に基づき,平成24年1月 〜3月の間にシャンプーとコンディショナーを最低38万セット販売しな ければならない債務を負う。しかし,ローランド社は,上記期間に2万0 340セット販売したのみであるから,債務不履行となる。
(ローランド社の主張) ローランド社による納品遅延があったことは否認する。納品がブリリアント社の当初希望納期より遅れた原因は,必要な発注書を交付しないなど同社の側にある。本件代行契約は,ブリリアント社によるシャンプー等の販売が低迷したままではブリリアント社からの製造代金の回収が困難となることから,その回収を目的として,ローランド社がブリリアント社を代行してシャンプー等を販売するとしたものである。そして,覚書中の「販売目標本数」はローランド社が支払った資材購入費相当額を回収できるという第1段階の目標数としての38万セットであり,「販売努力目標数」は在庫全てを販売できるという希望的数値としての50万セットであって,いずれも販売目標を定めたものにすぎない。したがって,ローランド社はセットボックスを38万セット販売すべき債務を負わない。
イ 努力義務違反の有無(ブリリアント社の主張) 仮にローランド社が上記アの債務を負わないとしても,ローランド社は少なくとも38万セット販売するべく努力する義務を負う。ところが,ブリリアント社が平成23年9月〜12月に1か月当たり3万セット以上販売したのに対し,ローランド社は平成24年1月〜3月に1か月当たり約7000セットしか販売しておらず,この努力すべき義務を怠ったから,ローランド社には債務不履行がある。
(ローランド社の主張) ローランド社は,製造代金を回収するため,本件代行契約に基づき真摯に営業代行に取り組んでおり,努力義務を怠っていない。
損害額(ブリリアント社の主張) ブリリアント社は,ローランド社の債務不履行により,38万セットを販売できた場合の売上げと実際の売上げの差額である1億7515万44 20円((38万-2万0340)×487円)の損害を被った。
(ローランド社の主張) 争う。
(2) 本件代行契約に基づく販売代金請求について(第1事件) ア ローランド社が支払うべき販売代金の額 (ブリリアント社の主張) 本件代行契約は,ローランド社が商品の販売を代行し,販売代金をブリ リアント社に対して支払うものであるところ,ローランド社が平成24年 1月〜9月25日の間に代行販売した商品の代金額は合計1億2433万 1231円である。このうち5036万2992円が未払であるが,他方 でブリリアント社はローランド社に対して3109万0879円の製造代 金の支払義務を負っている。したがって,ブリリアント社は,ローランド 社に対し,上記の差額である1927万2113円の支払を求める。
(ローランド社の主張) 未払の販売代金の額は1951万3276円である。
イ 本件製造契約に基づく製造代金請求権との相殺の成否 (ローランド社の主張) 後記(5)イ(ローランド社の主張)のとおり,ローランド社はブリリアン ト社に対し本件製造契約に基づく製造代金請求権を有しているところ,平 成23年12月31日時点の残額は2億4716万5219円であった。
そして,ローランド社はブリリアント社に対し上記製造代金請求権をも ってブリリアント社の販売代金請求権と対当額において相殺するとの意思 表示をしたから,上記販売代金請求権は消滅した。
(ブリリアント社の主張) 後記(4)イ(ブリリアント社の主張)のとおり,「仮発注書」による製造 契約は成立していないから,ローランド社が主張する製造代金請求権は存 在しない。また,同エ(ブリリアント社の主張)のとおり,本件代行契約 の締結により製造代金請求権は消滅した。さらに,同カ(ブリリアント社 の主張)のとおり,ローランド社が製造代金請求権を行使することは信義 則に反するから,相殺の自働債権とすることもできない。
(3) 不法行為及び会社法429条1項に基づく損害賠償請求について(第2事 件,主位的請求) ア 不法行為の成否 (ローランド社の主張) ブリリアント社は,販売の見通しも立たず,支払能力を欠くにもかかわ らず,ローランド社との間で本件製造契約を締結し,確たる販売計画に裏 付けられていない過大な発注を行い,その代金も支払わなかった。これは 詐欺的な行為であり,取引として合理性を逸脱し,社会的相当性を欠くも のであって,不法行為が成立する。
(ブリリアント社の主張) ブリリアント社の販売の見通しが甘かったということはない。商品を十 分に販売できなかった原因は,ローランド社による納品の遅延にある。
イ 悪意又は重過失の有無 (ローランド社の主張) Aはブリリアント社の代表取締役としてブリリアント社の上記行為に積 極的に関与していたから,職務を行うにつき悪意又は重過失がある。
(Aの主張) 争う。
損害額 (ローランド社の主張) ローランド社は,ブリリアント社及びAの行為により,本件製造契約に 基づく未払の製造代金額に相当する2億4716万5219円の損害を被 った。また,弁護士費用相当額は1283万4781円である。
(ブリリアント社及びAの主張) ローランド社は自ら商品を販売したことにより既に製造代金相当額の販 売代金を取得しているから,ローランド社に損害は発生していない。
消滅時効の成否等 (ブリリアント社の主張) 第2事件における主位的請求は,形式的には不法行為に基づく損害賠償 請求であるが,その実質は予備的請求と同じく本件製造契約に基づく製造 代金の請求である。したがって,予備的請求について後述するのと同様に, 消滅時効が成立しており,又は信義則に反するものとしてローランド社の 請求は許されない。
(ローランド社の主張) 争う。
(4) 本件製造契約に基づく製造代金請求及び会社法429条1項に基づく損 害賠償請求について(第2事件,予備的請求) ア 訴えの適法性 (ブリリアント社の主張) 第2事件の予備的請求に係る製造代金請求権は第1事件において相殺の 抗弁に供されているから(前記(2)イ),製造代金の支払を求める訴えは民 事訴訟法142条の趣旨に反して不適法である。
(ローランド社の主張) 本件は第1事件において相殺の抗弁を主張した後に第2事件が提起され たいわゆる抗弁先行型であること,両事件の弁論は併合されており,同一 機会に審理されること,相殺に供されるのは第2事件の請求額の一部であ ることからすれば,第2事件の訴えの提起が不適法となることはない。
イ ブリリアント社が支払うべき製造代金の額 (ローランド社の主張) ローランド社は,ブリリアント社との間で,平成23年6月24日にシャンプー及びコンディショナー各20万本並びに容器金型4個,同年9月26日にシャンプー及びコンディショナー各50万本をそれぞれ製造する旨の契約を締結した。これに加え,営業用サンプル容器,特別セット等の製造の委託を受け,個別的に契約が成立した。ローランド社は,これら本件製造契約に基づき,同年9月〜12月の間にシャンプー及びコンディショナー合計117万5026本等の商品を製造し,ブリリアント社に納入した。ところが,これらの代金のうち同月31日時点において2億4716万5219円が未払であるから,ローランド社は,ブリリアント社に対し,本件製造契約に基づき,同額の製造代金の支払を求める。
(ブリリアント社の主張) ブリリアント社がローランド社に対して平成23年9月20日に送付したのは仮発注書であり,製造ラインを押さえるために形式的に作成したものにすぎないから,上記各50万本の製造契約は成立していない。
ブリリアント社が支払義務を負うのは,本件代行契約の締結までにブリリアント社が販売したシャンプー等の製造代金のみであり,その額は6480万5688円(シャンプー208円×8250本,コンディショナー208円×7896本,セットボックス456円×13万4255セット,トリートメント215円×1056本。甲13)であるが,既にローランド社に対し6026万0424円を支払っているので,残額は454万5264円である。
ウ 悪意又は重過失の有無(ローランド社の主張) Aは,ブリリアント社の代表取締役として,ブリリアント社が上記の債務不履行によりローランド社に損害を与えたことについて,その職務を行 うにつき悪意又は重過失がある。
(Aの主張) 争う。
エ 本件代行契約による製造代金請求権の消滅の有無(ブリリアント社の主張) 本件代行契約は,ローランド社が商品を代行販売し,その販売代金をブリリアント社に対して支払うとともに,ブリリアント社は受け取った販売代金の中から販売された商品の製造原価のみを支払えば足りるというものであるから,本件代行契約の締結前に発生した本件製造契約に基づく製造代金請求権は本件代行契約によって清算され,消滅した。
(ローランド社の主張) ブリリアント社はローランド社から受け取った販売代金の中から未払となっていた製造代金を支払うとされていたのであって,本件代行契約によって製造代金請求権が消滅したということはない。
消滅時効の成否(ブリリアント社の主張) 本件製造契約に基づく製造代金請求権は民法173条1号所定の債権に当たるところ,その支払日(遅くとも平成23年12月31日)から第2事件の提訴(平成27年3月25日)までに2年が経過し,ブリリアント社が時効を援用したから,同権利は消滅時効により消滅した。
(ローランド社の主張) ブリリアント社は,時効期間経過後,平成26年10月2日付け準備書面において,額については争うものの,製造代金の支払義務自体は承認しているから,時効援用権を喪失し,又は信義則上その援用は許されない。
信義則違反の有無(ブリリアント社の主張) ローランド社は,本件製造契約に基づき未払の製造代金を請求しているが,他方で,その製造したシャンプー等を販売して代金を受け取っている。
これに対し,ブリリアント社は,シャンプー等を占有していないため,自ら販売することができない。このような状況下でローランド社がブリリアント社に対して製造代金の支払を請求することは信義則に反する。
(ローランド社の主張) ブリリアント社が製造代金を支払わず,しかも,ローランド社の保管するシャンプー等の在庫の引取りを拒んでいるのに対し,ローランド社はブリリアント社から製造代金を受け取れないために損失を被っているのであるから,ローランド社に信義則違反はない。
キ 損害賠償請求権又は不当利得返還請求権との相殺の成否(ブリリアント社の主張)(ア) ローランド社は,本件代行契約が解除されたことにより,ブリリアン ト社に対してその占有している商品(ローランド社の主張によれば,解 除時点での在庫はシャンプー22万5108本,コンディショナー18 万7448本,セットボックス13万1646セットである。)を引き 渡す債務を負っていたにもかかわらず,これを引き渡さず,ブリリアン ト社の所有権及び販売権を侵害した。ブリリアント社は,この債務不履 行又は不法行為によって,引渡しを受けていれば販売することができた シャンプー等の販売代金額に相当する3億7157万5778円の損害 を被った。したがって,ブリリアント社は,ローランド社に対し上記債 務の不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求権を有しており,これら 請求権をもってローランド社の製造代金請求権と対当額において相殺す るとの意思表示をしたから,上記製造代金請求権は消滅した。
(イ) ローランド社は,上記(ア)のとおりブリリアント社に対し在庫商品を 引き渡す債務を負っていたにもかかわらず,そのシャンプー等を販売し て代金3億3554万1561円を受け取った。ローランド社の上記行 為は,ブリリアント社の所有権及び販売権の侵害に当たるとともに,法 律上の原因なく他人の財産によって利益を受けたことになるから,ブリ リアント社はローランド社に対し不法行為に基づく損害賠償請求権又は 不当利得に基づく利得金返還請求権を有する。そして,ブリリアント社 はこれら請求権をもってローランド社の製造代金請求権と対当額におい て相殺するとの意思表示をしたから,同請求権は消滅した。
(ローランド社の主張) ローランド社が占有する商品について,ローランド社はブリリアント社 に対し製造代金請求権を有しているから,その占有を継続する権原を有し ている(商法521条,民法295条)。また,ブリリアント社は,シャ ンプー等の引取りを拒絶している。したがって,ローランド社に債務不履 行等はなく,ブリリアント社による相殺は認められない。
(5) 商標権侵害に基づく請求について(第1事件) ア 被告標章1及び3の使用の有無 (ブリリアント社の主張) ローランド社は,平成24年10月4日以降,被告標章1を被告商品1 〜5及び被告商品6の包装に,被告標章3を被告商品7の包装にそれぞれ 付して販売している。
(ローランド社の主張) 争う。ローランド社が本件代行契約の解除後に使用したのは被告標章2 及び4のみである。
イ 本件商標と被告標章1〜4の類否 (ブリリアント社の主張) 本件商標は,「ESPRINCESS」及び「エスプリンセス」の文字 を上下二段に書して,それぞれが黒色のゴシック体の文字で構成されてい る。その称呼は「エスプリンセス」であり,「プリンセス」の文字を有することから「王妃」の観念が生じる。
(ア) 被告標章1との類否について 被告標章1は,「esprincess」と黄金色の欧文字で書し, 「i」の点の部分をダイヤの図形で構成して成るものであり,その称呼 は「エスプリンセス」であって,「princess」の文字を有して いるから「王妃」の観念が生じる。被告標章1は,本件商標と外観が類 似し,称呼及び観念が一致するから,本件商標に類似する。
(イ) 被告標章2との類否について 被告標章2は被告標章1の上方に「ROLAND &」との黄金色の 文字及び記号を小さく配したものであるが,「esprincess」 の文字が「ROLAND &」より大きく構成されていることからすれ ば,その要部は「esprincess」の文字にある。そうすると, 被告標章2からは「ローランドアンドエスプリンセス」のみならず「エ スプリンセス」の称呼が生じ,これに応じた「王妃」の観念が生じるか ら,本件商標に類似する。
(ウ) 被告標章3との類否について 被告標章3は,赤色の花柄模様の下地に,各文字の周囲が黒みがかっ た黄金色の欧文字で「esprincess」と書し,「i」の点の部 分をダイヤの図形で構成して成るものであり,被告標章1と同様に,本 件商標に類似する。
(エ) 被告標章4との類否について 被告標章4は,被告標章3の上方に各文字の周囲が黒みがかった黄金 色の「ROLAND &」の文字及び図形を小さく配したものであり, 被告標章2と同様に,本件商標に類似する。
(ローランド社の主張) 被告標章2及び4は,いずれも外観において明らかに本件商標と相違している。また,これらは造語であって意味もないから,観念が相違する。
被告標章2及び4から「ローランドアンドエスプリンセス」との称呼のほか「エスプリンセス」との称呼が生じることは否定しないが,これのみで問屋等の取引者に資することはないから,本件商標と被告標章2及び4が相紛れることはない。そして,在庫処理のために行われたという被告標章2及び4が付されたシャンプー等の販売形態に照らせば,問屋等の取引者において被告標章2及び4を本件商標と区別することができるから,これらは本件商標に類似しない。
損害額(ブリリアント社の主張)(ア) 平成24年1月〜9月の間のローランド社による月間平均の利益は 853万9739円であったから,ローランド社が同年10月〜平成2 5年12月の15か月間に被告商品1〜7を販売することにより得た利 益の額は1億2809万6085円を下らず,ブリリアント社は同額の 損害を被ったと推定される(商標法38条2項)。そして,被告標章1 〜4を付したシャンプー等は,ブリリアント社による宣伝広告等の結果, ブリリアント社の商品であると広く認識されており,ローランド社がそ の販売に際し格別の貢献をしたとはいえないから,上記推定が覆滅する ことはない。
(イ) ローランド社は本件代行契約の解除後に販売した商品の数量につき 以下のとおり主張するが,同契約締結当時の在庫数,契約期間中の販売 数や,ローランド社の取引先に対するブリリアント社による弁護士法2 3条の2に基づく照会及び本件における調査嘱託の結果に比し著しく少 なく,信用することができない。ローランド社による上記解除から平成 28年3月までの販売数量は合計43万4089本,これによる利益の 額は2億0645万2985円と推計することができる。
(ローランド社の主張) 被告標章2及び4を付したシャンプー等の販売価格は低廉であり,その 製造原価や倉庫料として2億円以上費やしていることから,被告標章2及 び4の使用によってローランド社に利益は生じていない。なお,本件代行 契約の解除後,平成27年3月末までにローランド社が販売したのは,シ ャンプー1382本,セットボックス1万6446セットからコンディシ ョナーの返品331本を控除した3万3943本である。
さらに,本件商標は,これを付した商品の発売後間もなく,消費者の認 知度は低く,顧客吸引力があるとしても極めて僅かであるから,利益への 寄与度は皆無であるか極めて僅少である。
当裁判所の判断
1 事実経過 前記前提事実に加え,証拠(書証の枝番の記載は特記するものを除き省略す る。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 本件製造契約に基づく商品の製造及びブリリアント社による販売 ア ブリリアント社は,女性アイドルグループ「AKB48」のメンバーを 宣伝キャラクターとして起用したシャンプー等の販売を企画し,平成23 年3月頃(以下,(1)においては「平成23年」の記載を省略する。),シ ャンプー等の製造業者であるローランド社との間で,商品の製造委託に関 する交渉を開始した。ただし,ブリリアント社が株式会社として設立され たのは5月10日である。(甲1,34,乙49) イ ブリリアント社とローランド社は,4月末ないし5月初め頃の段階では, シャンプー等の納品日を7月15日と予定していた。ローランド社はその ために5月16日までに容器金型を発注することを求めたが,ブリリアン ト社はこれに応じなかった。ブリリアント社とローランド社は,6月1日, 今後のスケジュールについて協議し(この時点での商品名は「アントワネ ット」),同月20日までにブリリアント社が発注書を提出することを前 提に,8月31日までにローランド社がシャンプー及びコンディショナー 各15万本を納入することを確認した。ローランド社は容器メーカーの要 望があるので発注を急ぐよう度々連絡したが,ブリリアント社が発注書を 送付したのは6月23日であった(この時点での商品名は「マーメイドプ リンセス」)。ブリリアント社の担当者は9月1日の発売予定は変わらな い旨伝えたものの,発注書の記載内容は,上記確認された内容と異なり, 数量を各20万本,納品期限は別途相談とするものであった。ローランド 社は,6月24日,上記発注書に対する注文請書を送付し,これにより合 計40万本の製造を委託する旨の契約が成立した。(甲3,4,38,乙 1,6〜10,29,49)ウ ブリリアント社は,6月28日,ローランド社に対し,シャンプー及び コンディショナーの容器各15万本を追加注文するとの発注書を送付する とともに,半金を7月5日に支払う旨及び9月1日発売に向け尽力をお願 いする旨伝えた。ブリリアント社は,6月29日に上記追加注文に係る注 文請書を送付し,7月5日に上記イの各40万本の製造代金の半金として 4368万円を受領した。(甲39,乙4,27)エ ローランド社は,7月25日,ブリリアント社に対し,容器のデザイン が複雑であり,より多く納品するためには印刷よりラベルシールが望まし いが,9月1日までに何本納品できるかは未定である旨伝え,最終デザイ ンを早く決めるよう求めた。ローランド社は,7月26日,デザインは現 物を確認して決めたい,具体的工程を把握してスケジュールを共有しなが ら進めていきたい旨返答した。ローランド社は,8月11日,追加発注の 数量及び時期について問い合わせたが,ブリリアント社から明確な回答は なかった。(甲5,乙12,13,28,証人B) オ ローランド社からブリリアント社への商品の納入は9月1日に開始さ れた。同月15日の商談の場でブリリアント社の側から納期遅れに関する 言及があったが,商品の納入はそのまま続けられ,同月20日までに約1 6万本のシャンプー及びコンディショナー(セットボックス分を含む。以 下(1)において同じ。)が引き渡された。ブリリアント社は,同日,ローラ ンド社に対し,シャンプー及びコンディショナー各50万本の製造を委託 する旨の「仮発注書」を交付した。この書面には,納期は互いに調整する が最終は12月末を目安とする,都合により発注を取りやめる場合もある 旨記載されていた。ローランド社は,発注を中止する場合はその時点での 費用を請求する旨断った上で,9月26日,これに対する注文請書を送付 した。ローランド社からブリリアント社へはその後も商品の納入が続けら れ,シャンプー及びコンディショナーの累積納入数は同月末日時点で約2 4万本,10月14日時点で約40万本,同月末日時点で約62万本とな った。ブリリアント社は,同月中旬,ローランド社に対して11月及び1 2月の納入予定本数の確認を求め,ローランド社は予定数量を伝えた。ま た,ローランド社は,ブリリアント社からシャンプー等以外にサンプル品 等の注文も受けたので,これを製造して納入したほか,製造に要した香料, 工賃,版下等の代金をブリリアント社に請求した。ローランド社は,これ らの納入又は請求の都度,商品名,数量,単価,合計額等を明記した納品 書をブリリアント社に交付した。(甲6,40,41,乙14〜16,3 0,31,47,49,証人B)カ ブリリアント社によるシャンプー及びコンディショナーの販売数は,9 月が約6万本,10月が約8万本であった。ブリリアント社は,11月初 めから下旬にかけ,当時人気のあったAKB48所属のタレント2名を起 用した広告を雑誌9誌に掲載し,主要駅の構内に掲示するなど大規模な宣 伝活動を行った。同月のシャンプー等の販売数は10万本を超過したもの の,ローランド社からの累積納入数は同月末日時点で約100万本に達し, 在庫が大量に発生した。(甲7,8,24,25,40,41,乙31) キ ローランド社からの納入は12月9日まで続けられ,シャンプー及びコ ンディショナーが合計117万5026本納入された。これらシャンプー 等に上記オのサンプル品,工賃等を合わせた代金額は3億0742万56 43円であった。一方,9月〜12月の間に販売されたシャンプー及びコ ンディショナーは合計26万5936本であった。また,ブリリアント社 からローランド社への支払は,前記ウの半金4368万円のほか,11月 末日振込の1658万0424円のみであり,2億4716万5219円 が未払となった。ローランド社は,12月30日,ブリリアント社に対し 売掛債権の残高が同額である旨を通知した。(甲8,40,41,乙4, 17,31)(2) 本件代行契約の締結及び解除 ア 上記の販売状況の結果,在庫が大量に発生し,ブリリアント社からロー ランド社への製造代金の支払が困難になったことから,両社は今後の対策 につき協議を行った。ブリリアント社が,平成23年12月9日,販売が 低迷したのはローランド社の納品遅延によるものであり,そのために損失 が生じたとして対応を求めたのに対し,ローランド社は,同月下旬までに, 納品遅延の原因についてはあえて触れずに,ローランド社がブリリアント 社に代わって営業活動を行い,その販売代金により製造代金を支払うとす ることを提案した。ローランド社がこのような提案をしたのは,商品の原 材料,容器その他資材の購入費用を既に支払い,運送費等を負担している が,商品が売れなければ入金が見込めないところ,ブリリアント社が在庫 商品を販売できる可能性は低いので,ローランド社が販売を代行すること により製造代金の回収を図ろうとしたものである。
(甲9〜11,乙49, 証人B)。
イ ブリリアント社とローランド社は,平成24年1月15日(以下,(2) においては「平成24年」の記載を省略する。)に覚書を取り交わし,本 件代行契約を締結した。この覚書には,1月〜3月の間のセットボックス の販売努力目標数を50万セット,販売目標本数を38万セットとする旨 定められたが,前者は在庫一掃のため,後者はローランド社の資材購入費 用を賄うためにおおむね必要な数量であり,実際の販売数がこれらに満た なかった場合の取扱いに関する定めはされなかった。(甲12,乙49, 証人B) ウ ローランド社は,ブリリアント社から在庫商品の引渡しを受けて,これ を販売した。ローランド社によるセットボックスの販売数は,1月〜3月 が2万0340セットであり,9月までの累計は6万5580セットであ った。ローランド社が販売した商品については,ローランド社が販売先か ら受領した代金をブリリアント社に全額交付し,ブリリアント社は,その 受領後,販売された分の製造代金をローランド社に支払うとされていた。
ローランド社は支払期日8月31日分までの販売代金を支払ったが(甲1 4の1〜10),ブリリアント社は同月7日支払予定の製造代金(甲15 の2)を支払わなかった。そこで,ローランド社が支払期日を9月28日 とする販売代金(甲14の12)の支払を留保したところ,ブリリアント 社は,10月3日,ローランド社に対し,この不払等を理由に本件代行契 約を解除する旨通知した。ローランド社は,同月9日,本件代行契約に基 づくブリリアント社の販売代金請求権と本件製造契約に基づくローラン ド社の製造代金請求権を対当額で相殺する旨の意思表示をした。(甲13 〜15,17,乙3,18,49,証人B)2 本件代行契約の債務不履行に基づく損害賠償請求(第1事件)(1) 争点(1)ア(最低販売数量の保証の有無)について ア ブリリアント社は,平成23年8月末という納品日を重視していたとこ ろ,ローランド社が納品を遅延したためにブリリアント社に損失が生じた ので,ローランド社は自ら責任を取り,上記損失を填補するために最低保 証販売数を定めた旨主張する。
イ そこで判断するに,まず,本件代行契約に係る覚書をみると,「販売努 力目標数」を50万セット,「販売目標本数」を38万セットとするとさ れており(前記前提事実(4)ア(ア)),その文言上,これらの数量が「目標」 であることが明らかである。また,上記覚書には,販売数量が上記各セッ ト数に達しなかった場合にローランド社が不足数量分相当の支払義務を負 うなどといった定めはない(甲12)。そうすると,上記覚書の記載上, ローランド社が最低販売数量を保証したとみることは困難である。
ウ これに加え,本件代行契約の締結に至る経過についてみるに,前記1認 定の事実関係によれば,予定された納品日(当初は平成23年7月15日, その後変更されて同年8月31日)までに商品(同年6月24日付け注文 請書による合計40万本)が納入されなかったことの主たる原因は,所定 の期限までに発注書を提出せず,同年7月下旬に至ってもデザインを確定 させなかったブリリアント社の側にあると認められる。また,ブリリアン ト社作成の発注書には納品期限は「別途相談」と記載されており,このこ とは同社が納品日を重視していたとの主張と相反するものである。そうす ると,ローランド社が納品遅延の責任を取るために最低販売数量を保証し たとのブリリアント社の主張を採用することはできない。
(2) 争点(1)イ(努力義務違反の有無)について 上記(1)によれば上記覚書に規定された数量につきローランド社は努力義務 を負うにとどまると解されるところ,ブリリアント社は,ローランド社がこ の努力義務を怠ったので損害賠償責任を負う旨主張する。
そこで判断するに,証拠(乙32〜35)及び弁論の全趣旨によれば,ロ ーランド社は,本件代行契約の締結の前後から,取引先を訪問する,説明会 を開催して新たな販売店を開拓するなど営業活動を行っていることが認めら れ,ローランド社は相応の努力をしていたとみることができる。また,本件 代行契約締結後のローランド社による販売数量がそれ以前のブリリアント社 による販売数量を下回ることはブリリアント社指摘のとおりであるが(甲8, 13),その一因は前記1(1)カのような大規模な宣伝活動がされなったこと (平成24年には雑誌広告が数回されたにとどまる。甲24)にあると考え られるから,販売数量の減少をもってローランド社が努力義務を怠ったと認 めることはできない。したがって,努力義務違反をいうブリリアント社の主 張も失当である。
(3) 小括 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本件代行契約の 債務不履行に基づく損害賠償請求は理由がない。
3 本件代行契約に基づく販売代金請求(第1事件)(1) 争点(2)ア(ローランド社が支払うべき販売代金の額)について ブリリアント社は,本件代行契約に基づきローランド社が支払うべき販売 代金のうち5036万2992円が未払である一方,ブリリアント社は31 09万0879円の製造代金支払義務を負うとして,差額の1927万21 13円の支払を求める。
そこで判断するに,ブリリアント社は上記販売代金額の裏付けとして5通 の請求書(甲14の11〜15)を提出するところ,ローランド社はうち1 通(甲14の12。1951万3276円。支払期日平成24年9月28日) の未払を認めている。その余の4通中3通(甲14の13〜15。合計19 04万1026円。支払期日同年10月31日以降)については,品目,数 量等がブリリアント社からローランド社への支払通知書(甲15の6〜8) とおおむね一致しており,ブリリアント社の請求は正当とみられるが,他の 1通(甲14の11。支払期日同年8月9日)については,ブリリアント社 が同年9月28日を支払期日とする販売代金の不払を解除理由としているこ と(甲17)に照らし,ローランド社の支払義務を認めるに足りない。した がって,未払の販売代金の額は3855万4302円であると認めるのが相 当である。
そして,これからブリリアント社が支払義務を自認する前記製造代金を差 し引くと,ブリリアント社が請求し得る額は746万3423円となる。
(2) 争点(2)イ(本件製造契約に基づく製造代金請求権との相殺の成否)につい て ア ローランド社は,ブリリアント社の販売代金の請求に対し製造代金請求 権との相殺を主張する。
そこで判断するに,前記1(1)キのとおり,ローランド社がブリリアント 社の注文を受けて納入したシャンプー等の代金額が合計3億0742万5 643円,うちブリリアント社が支払ったのは6026万0424円であ り,平成23年12月末の時点で2億4716万5219円が未払であっ たと認められる。また,その後にブリリアント社が支払った販売代金の額 につき,ローランド社は2411万9701円と主張するところ,ブリリ アント社はこれを超える支払をしたと主張立証していない。一方,上記(1) の3109万0879円は製造代金の支払に充てられたとみることができ る。そうすると,ローランド社の製造代金請求権の残額は1億9195万 4639円となる。そして,ローランド社はブリリアント社に対し相殺の 意思表示をしたから(前記1(2)ウ),ブリリアント社のローランド社に対 する販売代金請求権は相殺により消滅したことになる。したがって,ブリ リアント社の販売代金請求は理由がない。
イ これに対し,ブリリアント社は,@「仮発注書」による製造契約の成立 は認められない,A本件代行契約の締結により製造代金の支払義務は消滅 した,Bローランド社が製造代金請求権を行使することは信義則に反する と主張するが,次のとおり,いずれも採用することはできない。
(ア) @(仮発注書)について ブリリアント社とローランド社は,本件代行契約において,販売努力 目標数を50万セットと定めているが,この数量は仮発注書に記載され た数を含めなければ導き出すことができないものである。
また,ブリリアント社がローランド社に対し書面を発したのは前記1 (1)イ及びウの発注書並びにオの仮発注書のみであるが,ローランド社は これらに記載されたもの以外にもブリリアント社の注文に応じてサンプ ル品を納入するなどし,ブリリアント社はその都度金額等が記載された 納品書を受領しており(前記1(1)オ),ブリリアント社が,納入の当時, 注文した事実はないなどといった異議を述べたことはうかがわれない。
そうすると,少なくとも納品書に記載されたシャンプー等については, ブリリアント社とローランド社の間の上記発注書等の書面又は口頭によ る合意に基づいてローランド社が納入したものということができるから, ブリリアント社はこれら本件製造契約に基づく代金の支払義務を負うと 解するのが相当である。
(イ) A(製造代金支払義務の消滅)について 本件代行契約の締結に先立ちブリリアント社がローランド社に対し製 造代金の支払義務を負っていたことは明らかであるが,本件代行契約に 係る覚書(甲12)には,その支払義務を免除又は猶予するといった条 項はない。この覚書においてローランド社が販売代行により受領した代 金をブリリアント社に交付するとされていたのは,その中からローラン ド社に対して製造代金が支払われること,すなわち,製造代金請求権が 存続することが前提となっていたと解することができる。また,ローラ ンド社は上記アのとおり本件代行契約の締結当時2億円を超える製造代 金請求権を有していたところ,ブリリアント社の主張によるとローラン ド社はこれを放棄したことになるが,ローランド社においてこれを放棄 すべき理由は見当たらない(販売低迷の原因が納入遅延であったとして も,前記2(1)ウのとおり,遅延の責任がローランド社の側にあったとは 認められない。)。したがって,ブリリアント社とローランド社が本件 代行契約の締結に当たり製造代金支払義務を消滅させることを合意した ということはできない。
(ウ) B(信義則違反)について ローランド社がブリリアント社に納入したシャンプーの製造代金等の 支払を求められることは前記ア及びイ(ア)のとおりであり,本件代行契約 を締結してシャンプー等の占有をローランド社に移転したことは上記代 金請求権の行使を妨げる事情となるものでない。さらに,本件代行契約 の解除後についても,本件の関係各証拠上,ブリリアント社がローラン ド社に対し在庫の引渡しを求めたとはうかがわれないこと,ローランド 社が在庫を販売したことについては別途損害賠償ないし不当利得返還の 責任を負うこと(後記5(7))に照らすと,ローランド社による請求自体 が信義則に違反するとして否定されることはないと解すべきである。
(3) 小括 以上によれば,ブリリアント社の本件代行契約に基づく販売代金請求は理 由がない。
4 不法行為及び会社法429条1項に基づく損害賠償請求(第2事件,主位的請求)(1) 争点(3)ア(不法行為の成否)について ローランド社は,本件製造契約の締結に係るブリリアント社の行為は詐欺 的であって,取引として合理性を逸脱し,社会的相当性を欠くので,不法行 為に当たる旨主張する。
そこで判断するに,前記1(1)認定の事実経過によれば,ブリリアント社が 発注したシャンプー等の本数は実際に販売された本数からみると結果的に過 大であったと評することはできるものの,ブリリアント社が商品の宣伝キャ ラクターとしてAKB48に所属する女性タレント2名を起用し,販売促進 のため大掛かりな広告宣伝活動を行っていることからすれば,ブリリアント 社が相当数の販売が見込まれると考えたとしても著しく不合理であったとい うことはできない。また,ブリリアント社において虚偽の事実を説明してロ ーランド社に商品を製造させたとうかがわせる証拠はない。そうすると,ブ リリアント社及びAの見通しが甘かったということはできるものの,発注行 為自体が詐欺的であって社会的相当性を欠くと評価することは困難であり, 不法行為としての違法性があると認めることはできない。
(2) 小括 したがって,不法行為を理由とするブリリアント社に対する請求及びこれ を前提とするAに対する会社法429条1項に基づく損害賠償請求は,その 余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
5 本件製造契約に基づく製造代金請求及び会社法429条1項に基づく損害賠償請求(第2事件,予備的請求)(1) 争点(4)ア(訴えの適法性)について ブリリアント社は,第1事件において相殺の抗弁に供した製造代金請求権 を訴訟物とする第2事件の予備的請求に係る訴えは民事訴訟法142条の趣 旨に反し不適法である旨主張する。
そこで判断するに,第2事件はブリリアント社が提起した第1事件の防御 の方法と関連し,実質的に反訴に相当するもの(Aを被告とするため別訴と されたもの)であり,第1事件において相殺の抗弁につき判断が示された場 合はその部分を請求しない趣旨と解することができる。また,第2事件は第 1事件の弁論に併合されており,第1事件における相殺の抗弁と第2事件に おける予備的請求について審理の重複や判断の矛盾が生じるおそれはない。
本件のこのような事情の下では,第2事件の予備的請求に係る訴えが不適法 となることはないと解すべきである。
(2) 争点(4)イ(ブリリアント社が支払うべき製造代金の額)について 前記3(1)及び(2)アで説示したところによれば,ローランド社はブリリアン ト社に対し本件製造契約に基づき1億9195万4639円の製造代金請求 権を有するところ,この一部はブリリアント社のローランド社に対する74 6万3423円の本件代行契約に基づく販売代金請求権と相殺されたことで 消滅したから,ローランド社はブリリアント社に対し1億8449万121 6円の請求権を有すると認められる。
(3) 争点(4)ウ(悪意又は重過失の有無)について ローランド社は,ブリリアント社は製造代金の支払を怠ってローランド社 に損害を被らせたものであり,Aはその代表取締役として職務を行うにつき 悪意又は重過失があったと主張する。
そこで判断するに,前記4(1)で説示したとおり,ブリリアント社からロー ランド社への発注が過大であったとしても,相当数の販売があると見込んだ ことが著しく不合理であったとはいえないから,Aに悪意又は重過失があっ たと認めるに足りないと解すべきである。
したがって,ローランド社のAに対する請求は理由がない。
(4) 争点(4)エ(本件代行契約による製造代金請求権の消滅の有無)について 前記3(2)イ(イ)のとおり,本件代行契約の締結によりローランド社の製造 代金請求権が消滅したとは認められない。
(5) 争点(4)オ(消滅時効の成否)について ブリリアント社は,ローランド社の製造代金請求権は民法173条1号所 定の債権に当たり,支払日から第2事件の提訴までに2年の時効期間が経過 したのでこれを援用する旨主張する。
そこで判断するに,前記3(2)のとおり,ローランド社はブリリアント社に 対し本件製造契約に基づく製造代金請求権を有するところ,支払期はシャン プー等を最後に引き渡した平成23年12月9日と解されるから,これが同 号所定の債権に当たるとすれば平成25年12月9日に時効期間が経過し たことになる。しかし,ブリリアント社は,その経過後である平成26年1 0月9日の第4回弁論準備手続に陳述した同月2日付け準備書面において, 本件製造契約に基づく製造代金の支払義務が存在していることを認めてい る(当裁判所に顕著)。したがって,ブリリアント社が消滅時効を援用する ことは信義則に照らし許されないと解するのが相当である。
(6) 争点(4)カ(信義則違反の有無)について 前記3(2)イ(ウ)のとおり,ローランド社がブリリアント社に対し製造代金 の支払を求めることが信義則に反するとは認められない。
(7) 争点(4)キ(損害賠償請求権又は不当利得返還請求権との相殺の成否)につ いて ブリリアント社は,本件代行契約が解除されたことによってローランド社 はブリリアント社に対しその占有するシャンプー等を引き渡す義務を負っ ていたところ,@ローランド社はこれを引き渡さずにブリリアント社の所有 権及び販売権を侵害したので,ブリリアント社はローランド社に対し,引渡 しを受けていれば販売できた商品の代金相当額につき,債務不履行又は不法 行為に基づく損害賠償請求権を有する,Aローランド社が上記シャンプー等 を販売して利益を得たことにつき,ブリリアント社はローランド社に対し, 不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得に基づく利得金返還請求権 を有するとして,これらの請求権を自働債権とする相殺を主張する。
そこで判断するに,@について,前記1の事実経過によれば,ブリリアン ト社が本件代行契約を締結して在庫商品をローランド社に引き渡したのは, ブリリアント社による販売が低調でローランド社への製造代金の支払がで きなかったことに起因するものである。また,同契約の解除後についても, 本件の関係各証拠上,ブリリアント社がローランド社に対し商品の引渡しを求めたとも,引渡しを受けていればこれを販売して利益を上げることができたとも認めることはできない。したがって,ローランド社が上記商品を引き渡さなかったことによりブリリアント社が損害を被ったとは認められないから,ブリリアント社の上記@の主張は失当である。
次に,Aについて,ローランド社が占有するシャンプー等の在庫の所有権はブリリアント社が有するから,この在庫を第三者に売却して利益を得た場合には,ブリリアント社はローランド社に対して上記利益相当額の損害賠償請求権ないし利得金返還請求権を有するものと解される。そして,証拠(甲14,15,30,31,33,セルレ株式会社及び株式会社PALTACに対する調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,@ローランド社は,本件代行契約解除後の平成24年10月4日以降,被告標章1,2及び4を商品又は包装に付した被告商品1〜7を少なくとも別表記載の4社に販売したこと,Aこれら商品は,ローランド社が本件代行契約の解除前から在庫として保有していた商品に「ROLAND &」の文字等を付記するなどしたものであること,Bこれら4社に対する販売の内訳は別表記載のとおりであること(株式会社PALTACに対する販売分については,平成24年2月〜平成28年1月の間の販売数が19万5050個,うち平成24年9月までの販売数が4万1244個であるから,同年10月以降の販売数を15万3806個と認めた。),C各商品の1本当たりの販売価格及び製造原価並びにこれらにより算定される粗利額は別表の各欄記載のとおりであること(株式会社PALTAC分の商品ごとの内訳は不明であるが,販売数の多くはシャンプー,コンディショナー又はセットボックスと推認されるので,1本当たりの粗利額を400円と認めた。),D上記粗利額の合計は8113万2692円と算定されること,E本件代行契約に基づくローランド社の販売額全体に占める上記4社の割合は約49.5%であったこと,以上の事 実が認められる。そうすると,上記4社以外への販売を含めた粗利額は上記 Dを上回ると認めるべきであるが,他方,ローランド社が上記商品の販売に 当たり運送費,在庫の保管費用等の諸経費を負担したことは経験則上明らか と解される。これらの点に関する的確な主張立証はないが,以上に判示した 諸事情に照らすと,ローランド社が得た利益の額は9000万円と認めるこ とが相当である。そうすると,ブリリアント社はローランド社に対して90 00万円の損害賠償請求権ないし利得金返還請求権を有することになる。
そして,ブリリアント社は,ローランド社に対し,平成27年12月8日 の第14回弁論準備手続期日に陳述した同月4日付け準備書面において,ロ ーランド社の製造代金請求権とブリリアント社の上記損害賠償請求権ない し利得金返還請求権を対当額で相殺する旨の意思表示をしたから(当裁判所 に顕著),ローランド社の上記製造代金請求権は相殺により一部消滅したこ とになる。
(8) 小括 以上によれば、ローランド社の予備的請求はブリリアント社に対し944 9万1216円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
6 商標権侵害に基づく差止請求等(第1事件)(1) 争点(5)ア(被告標章1及び3の使用の有無)について 本件代行契約が解除された平成24年10月4日以降にローランド社がシ ャンプー等の商品に被告標章2及び4を使用したことに争いはない。
被告標章1及び3についてみるに,セルレ株式会社に対する調査嘱託の結 果によれば,被告標章1を付した被告商品3(トリートメント)をローラン ド社が販売したことが認められる。なお,ローランド社は,ブリリアント社 からその使用につき許諾を受けた旨主張するが,本件代行契約の解除後の使 用について許諾があったことをうかがわせる証拠はない。一方,被告標章3 については,ブリリアント社が提出した証拠(甲18,23)はローランド 社以外の会社が運営するインターネット上のショッピングサイトの表示等に とどまり,ローランド社が本件代行契約の解除後に被告標章3を使用したこ とを裏付ける証拠はない。したがって,被告標章3に関するブリリアント社 の主張を採用することはできない。
(2) 争点(5)イ(本件商標と被告標章1〜4の類否)について 上記のとおり被告標章3を使用したとは認められないので,本件商標と被 告標章1,2及び4の類否を検討する。
ア 本件商標の外観は,別紙商標権目録記載のとおり「ESPRINCES S」及び「エスプリンセス」のゴシック体様の文字を上下二段に書したも のであり,「エスプリンセス」の称呼が生じる。
イ 被告標章1は,別紙被告標章目録記載1のとおり「esprinces s」との黄金色の斜体の欧文字及び「i」の点の部分に配したダイヤ状の 図形から構成されており,「エスプリンセス」の称呼が生じる。
被告標章2は,同目録記載2のとおり,被告標章1の上方に「ROLA ND &」との黄金色の斜体の欧文字等を配したものであり,この部分の 大きさは「esprincess」部分に比し幅が約3分の1,高さが半 分以下となっている。このような外観からすれば,被告標章2に接した需 要者(被告標章2が付されたのはシャンプー等の商品であり,一般消費者 が含まれることは明らかである。)において「esprincess」部 分を独立して看取し,「エスプリンセス」の称呼が生じると認められる。
また,被告標章4は,同目録記載4のとおり,下地の模様,各文字の周囲 の色を除き,被告標章2と外観が一致しており,類否の判断に当たっては 被告標章2と同様に解することができる。
ウ 以上を前提に,まず,本件商標と被告標章1の類否についてみるに,両 者は,字体や配色,「i」の点の部分の図形の有無が相違し,大文字,小 文字の違いもあるが,文字列としては共通し,称呼も同一であるから,被 告標章1は本件商標に類似すると認められる。
次に,被告標章2及び4の類否についても,外観上独立して看取される 部分は被告標章1と同様の構成であり,「エスプリンセス」という称呼を 本件商標と共通にすると認められるから,これらも本件商標に類似すると 解するのが相当である。
エ 以上によれば,ローランド社は本件商標に類似する被告標章1,2及び 4を使用したものであり,また,これらが使用されたシャンプー等の商品 が本件商標権の指定商品と同一又は類似であることは明らかであるから, ローランド社は本件商標権を侵害したものと認められる。
(3) 争点(5)ウ(損害額)について ア ブリリアント社は,ローランド社が本件代行契約解除後の平成24年1 0月4日〜平成25年12月末の間に本件商標に類似する標章を付した シャンプー等の販売により少なくとも1億2809万6085円の利益 を得たとして,商標法38条2項に基づき同額の損害賠償を求める。
イ そこで判断するに,前記5(7)で説示したとおり,ローランド社が本件代 行契約解除後の平成24年10月4日以降に本件商標に類似する標章を 付したシャンプー等の販売により合計9000万円の利益を得たことに ついてはブリリアント社による相殺が認められ,これによって上記利益は 遡って消滅したことになる。そうすると,ローランド社が本件商標権の侵 害行為により利益を得たとは認められないから,ブリリアント社の商標法 38条2項に基づく主張は失当である。
(4) 小括 以上によれば,ブリリアント社の商標権侵害に基づく請求は,被告標章1, 2及び4の使用の差止め並びにこれらを付した商品又は包装の廃棄を求める 限度で理由がある。
結論
よって,主文のとおり判決する。なお,主文2項についての仮執行の宣言は,相当でないので,これを付さないこととする。
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官 萩原孝基
裁判官 中嶋邦人