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関連審決 取消2014-300549
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事件 平成 28年 (行ケ) 10093号 審決取消請求事件

原告小笠原製粉株式会社
訴訟代理人弁理士 神谷十三和
被告キリン株式会社
訴訟代理人弁理士 飯島紳行 藤森裕司 伊藤大地
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/11/07
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が取消2014-300549号事件について平成28年3月17日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,商標法50条1項に基づく商標登録取消審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。
1 本件商標及び特許庁における手続の経緯等 被告は,下記の「KIRIN」の欧文字を横書きしてなり,平成8年6月24日に出願され,第30類「コーヒー及びココア,茶,調味料,香辛料,食品香料(精油のものを除く。,食用グルテン,穀物の加工品,菓子及びパン,アイスクリーム )のもと,シャーベットのもと,氷」を指定商品として,平成10年8月21日に設定登録された登録商標(登録第4180368号商標。本件商標)の商標権者である(甲1,7,58,59)。
原告は,平成26年7月24日,商標法50条1項に基づき,本件商標の指定商品中第30類「穀物の加工品」について,商標登録の取消しを求める審判の請求をし,同年8月12日,審判請求の登録がされた(甲59)。
特許庁は,上記請求を取消2014-300549号事件として審理をした上,平成28年3月17日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月25日に原告に送達された。
2 審決の理由の要点 (1) キリン協和フーズ株式会社(キリン協和フーズ)は,平成23年9月現在の商品パンフレットに,第30類「穀物の加工品」に含まれる商品「きのこがゆ」及びその販売に関する情報を掲載したものであり(甲15),該商品パンフレットに掲載された商品「きのこがゆ」の包装袋には,「KIRIN」の欧文字が表示されている(甲17)。
そして,該商品「きのこがゆ」は,「2013 キリン商品カタログ」にも掲載された(甲14,31)。
また,キリン協和フーズは,要証期間内である平成25年10月17日に,「取引先(請求先)コード」を「50115902」とする株式会社に,該商品「きのこがゆ」を売り上げたものと認められ,その「請求書」には,「KIRIN」の欧文字が表示されている(甲20)。
(2) 本件商標は,「KIRIN」の欧文字を書してなるものであり,商品「きのこがゆ」の包装袋に表示された「KIRIN」の欧文字は,本件商標と色彩が相違するものの,構成文字及び態様を同じくするものであるから,本件商標と社会通念上同一のものと認められる。
(3) 本件商標権者(被告)は,キリンホールディングス株式会社(キリンホールディングス)との間で,商標の使用許諾について契約(原使用許諾契約)を締結したものであり,当該契約の契約書(甲34。原使用許諾契約書)の第1条において,使用の許諾は通常使用権とすること,第三者に再使用許諾することを希望する場合は事前にKCの承認を得なければならないが,原使用許諾契約書別紙に記載の再使用許諾先(キリン協和フーズ)についてはこの限りでないこと,第2条において,毎年12月1日時点において,本商標及び本再使用許諾先をKHと確認の上その対価を算出すること,そして,第9条において,その契約の有効期間は,2013年(平成25年)1月1日から同年12月31日までであるが,自動的に延長されること等を内容とするものであり,原使用許諾契約書別紙の「本再使用許諾先」には「キリン協和フーズ株式会社及びその再使用許諾先」が記載され,同別紙の「本再使用許諾先に使用させることができる本商標」には「KIRIN」商標が含まれている。
そして,本件商標権者(被告)から商標の使用許諾を受けたキリンホールディングスは,再使用許諾先であるキリン協和フーズとの間で,商標の使用許諾について契約(再使用許諾契約)を締結したものであり,当該契約の契約書(甲35。再使 用許諾契約書)は,「KIRIN」を含む商標について,第1条において,使用許諾通常使用権とすること,第12条において,使用許諾期間は2013年(平成25年)12月31日までとすること及び本契約の有効期間は同年7月1日から同年12月31日までとすることを内容とするものである。
そうとすれば,キリン協和フーズは,上記(1)のとおり,「きのこがゆ」を売り上げた平成25年10月17日において,商標「KIRIN」について,本件商標権者から再使用許諾を目的として商標使用許諾されていたキリンホールディングスから,その使用を再許諾されたものであるから,本件商標の通常使用権者と認められるものであり,これについて本件商標権者(被告)とキリン協和フーズの間に争いはない。
(4) 上記のとおり,要証期間に含まれる平成25年10月17日に,日本国内において,本件商標の通常使用権者が,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を包装袋に表示した商品「きのこがゆ」を販売したものと認められる。
そして,本件通常使用権者による上記行為は,商標法2条3項2号にいう「商品の包装に標章を付したものを譲渡する行為」に該当するものである。
(5) 以上のとおり,被請求人(被告)は,審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,本件商標の通常使用権者が,その取消請求に係る指定商品に含まれる「きのこがゆ」に,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用していたことを証明したものと認められる。
したがって,本件商標の登録は,その指定商品中,取消請求に係る指定商品について,商標法50条の規定により,取り消すことができない。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(使用商標の認定の誤り及び同商標を本件商標と社会通念上同一と認定判断したことの誤り) (1) 使用商標 ア 被告及びキリン協和フーズを含む,キリンホールディングス傘下のグループ会社(甲4,5。キリングループ)は,欧文字で表記された「KIRIN」と,上下にオレンジ色の帯を付した赤色の横長の矩形の中央部に白抜きで「Plus-i」の欧文字を配置した図案(「Plus-i」図案)を配した別紙記載の標章(キリンプラス-アイ標章)を結合商標として使用している。キリンプラス-アイ標章は,全体を一体として把握できるものであって, 「キリンプラスアイ」の称呼及び「キリンの健康プロジェクト」の観念を生じさせるものである。
キリン協和フーズが「かゆ」の包装に使用したと主張する「KIRIN」 ( 標章 「本件使用商標」ともいう。)は,キリンプラス-アイ標章(「原告主張使用商標」ともいう。)の一部であり,他の部分から独立した標章として「KIRIN」の欧文字が使用されているわけではない。
イ 被告は,自社のホームページ(甲3)で,キリンプラス-アイ標章を,全体を一体のものとしたキリンの健康プロジェクト「キリン プラス-アイ」として公表している。そして,甲3の記載から,キリンプラス-アイ標章は,被告グループの健康志向の商品群に対して,それぞれの商品ブランドと併用し,それらの商品が健康志向の商品であることをアピールする目的で使用するために,2次的ブランドとして作成されたものと推認できる。
しかるに,審判では,被告は, 「かゆ」の包装に使用されたキリンプラス-アイ標章の欧文字表記された「KIRIN」の部分だけに着目させて, 「KIRIN」の表示が使用されている,と主張し,当該「KIRIN」の表示が本件商標の使用であると主張した。また,被告は,本件訴訟において,被告がホームページで公表した事実は, 「プラスアイ」というプロジェクト名を公表した事実を表す以上のものではない,と主張する。
上記の被告の主張は,被告がホームページで公表した事実に反しており,禁反言の法理に反するものである。
ウ(ア) 被告は,商品「きのこがゆ」の包装袋には,「KIRIN」の欧文字 からなる商標と「Plus-i」図案が併用されているのであって,「KIRIN」の欧文字と「Plus-i」図案を構成要素とする結合商標が使用されているのではない,と主張する。
しかし, 「かゆ」の写真(甲17)には,原告主張使用商標のすぐ右側に「キリンの健康プロジェクト「キリン プラス-アイ」は,」と記載されており,「かゆ」に表示された原告主張使用商標は, 「キリンプラスアイ」と一連で称呼させる結合商標であることを示している。そして,キリンプラス-アイ標章は,キリンの健康プロジェクトで展開しているグループ横断ブランドであって,キリングループの健康志向の商品群向けに2次的ブランドとして作成され,キリン協和フーズの「かゆ」をはじめとしたキリングループ各社の商品に,商品ブランドとして併用されている。
よって, 「かゆ」の包装袋に表示された使用商標は,キリンプラス-アイ標章であって, 「かゆ」が健康志向の商品であることをアピールするために,2次的ブランドとして使用されているものである。
(イ) また,被告は,「KIRIN」の欧文字部分が識別力を有することを理由に, 「KIRIN」の欧文字と「Plus-i」図案とは分離して観察され, 「KIRIN」が独立して着目されて, 「きのこがゆ」商品の出所を表示する商標として使用されていると認識される,と主張する。
しかし,使用商標が登録商標に何らかの文字や図形を付加した結合商標である場合,社会通念上同一の該当性判断においては,付加された構成要素について,その識別力を検討する必要がある。そして,原告主張使用商標の「Plus-i」図案と同様の構成の図案が商標登録を受けているから,「Plus-i」図案の部分は,自他識別力を有する。また,原告主張使用商標は2次的ブランドとして使用されているから,取引者及び需要者は, 「KIRIN」の欧文字と「Plus-i」図案を一連一体のものとして認識する。よって, 「KIRIN」の欧文字と識別力のある「Plus-i」図案を結合したキリンプラス-アイ標章が,使用商標である。
(2) 本件商標と原告主張使用商標との対比 ア 本件商標は,「KIRIN」の欧文字のみからなる商標であって,「キリン」の称呼及び,想像上の動物である「麒麟」の観念と実在の動物であるウシ目キリン科の「キリン」の観念を生ずる。
これに対して,「きのこがゆ」の包装袋に表示された原告主張使用商標は,「KIRIN」の欧文字の右側に「Plus-i」図案が配置された結合商標であって,「かゆ」の包装袋に表示されているとおり,「キリンプラスアイ」の称呼を生じる。
そして, 「Plus-i」図案の部分は,被告の会社名でもなく,取消請求に係る商品の普通名称慣用商標,産地,品質等には該当せず,識別力があり,外形がプラス(+)文字の形をしているので,何かをプラスするという観念を生じ,原告主張使用商標全体からは,「キリンの健康プロジェクト」の観念を生じる。
よって,原告主張使用商標からは,本件商標とは異なる称呼及び観念が生じることは明らかである。したがって,原告主張使用商標は,本件商標と社会通念上同一と認められる商標には該当しない。
結合商標が登録商標と社会通念上同一と認められる商標に該当するか否かの判断においては,文言上は「同一」であるから,結合商標から抽出した1つの構成要素が登録商標と同一又は社会通念上同一と認められるものであったとしても,それだけでは社会通念上同一と認めるには不十分であり,他の構成要素の識別力や他の構成要素との一体性等を検討した上で,結合商標が全体として登録商標と社会通念上同一と認められる商標に該当するか否かを判断しなければならない。
しかるに,審決は,原告主張使用商標から1つの構成要素である「KIRIN」の欧文字(本件使用商標)を抽出し,これを本件商標と対比して,原告主張使用商標の他の構成要素である「Plus-i」図案については何らの検討を加えることなく,本件使用商標を本件商標と社会通念上同一であると認められると断じており,社会通念上同一の認定判断の手法に誤りがある。
2 取消事由2(キリン協和フーズを本件商標の通常使用権者とした認定判断の誤り) (1) 審決は,原使用許諾契約書及び再使用許諾契約書の記載のうち,被告の主張に整合する部分のみに着目して,キリン協和フーズが本件商標の通常使用権者であったと認定した。しかし,審決が判断の根拠とした書証はその信憑性を欠くものであり,審決は,判断を誤った。
(2) 「キリングループVIマニュアル(抜粋)写し」(甲18。VIマニュアル)について 被告は,審判事件答弁書において,キリン協和フーズが本件商標の通常使用権者であることの根拠として,被告及びキリン協和フーズ等が掲載されたキリングループ内のマニュアルであるVIマニュアルを提出した。
VIマニュアルには,「2010年12月1日改訂」,発行部署は「グループブランド室」問合せ先は , 「キリン株式会社ブランド戦略部企画担当」と記載されている。
しかし,平成22年12月1日時点では,キリン株式会社は設立されていない。
この点につき,被告は,改訂時に改訂日の修正を忘れたと主張するが,信用できない。また,VIマニュアルがキリン株式会社が発足した際に改訂した2013年1月1日改訂版であるなら, 「この「聖獣マーク」はキリンビールが管理しており」 「キリングループオフィス株式会社」の記載があることと整合しない。
よって,VIマニュアルは,問合せ先の記載部分が改ざんされたものである。したがって,被告が提出する他の証拠の信憑性も大きく減殺されたといえる。
(3) 原使用許諾契約書及び再使用許諾契約書の提出経緯に関する疑念 本件商標の使用許諾について最もよく知っているはずの被告は,審判事件答弁書(甲48)では,キリン協和フーズが被告のグループ会社であると主張し,これを根拠としてキリン協和フーズが本件商標の通常使用権者であると主張した。そして,原使用許諾契約書及び再使用許諾契約書は,審理事項通知書(甲50)によりグループ会社であることを根拠としたキリン協和フーズの通常使用権を否定する見解が示された後に,提出されたものである。
よって,原使用許諾契約書及び再使用許諾契約書には,その信憑性に疑問がある。
(4) 原使用許諾契約書について 原使用許諾契約書の作成日は契約期間の末日に近く,自動更新に対する別段の意思表示の期限よりも後である平成25年12月20日となっており,不自然である。
また,第1条第5項には,使用許諾に伴う権利・義務の記載に関し, 「自らがKCに対して負うべき義務」とすべきところを「自らがKHに対して負うべき義務」としており,重大な誤記があるから,真正な契約書ではないとの疑念を抱かせる。
さらに,当事者名を明らかにすることによる不都合はないにもかかわらず,当事者名の欄が塗りつぶされており,被告は,審判の口頭審理では,原使用許諾契約書の押印原本も,塗りつぶしを全て解除した写しも提出しておらず,原使用許諾契約書の信憑性には疑問がある。
(5) 再使用許諾契約書について ア 契印は,契約当事者の双方が押印するのが一般的であるが,再使用許諾契約書の契印は各ページで1つずつであり,その印影も半分しかなく,被告は,審判の口頭審理では,再使用許諾契約書の押印原本を提出していないので,その信憑性には疑問がある。
イ 再使用許諾契約書の使用許諾契約が,原使用許諾契約に基づくものであれば,原使用許諾契約が先に締結されるはずだが,契約日は再使用許諾契約書が原使用許諾契約書に先行している。原使用許諾契約書による商標の使用許諾契約の有効期間が平成25年1月1日から同年12月31日までであるのに対し,再使用許諾契約書による商標の使用許諾契約の有効期間は同年7月1日から同年12月31日までの半年間に限定されており,不自然である。
被告は,平成25年12月1日時点における許諾対象商標,再使用許諾先及び対価の確認,確定手続を当事者間で行い,その手続が完了した段階で契約書を締結しているため,原使用許諾契約書第9条で,有効期間を同年1月1日から同年12月31日と遡らせた上で,締結日は実際に両契約当事者の捺印が完了した日(同年12月20日)としたのであって,原使用許諾契約書締結前にキリンホールディング スが再使用許諾を行う必要が出てきた場合,被告は,個別の同意に基づき再使用許諾をキリンホールディングンスに認めることについては,契約当事者間で合意していた,と主張する。
しかし,キリン協和フーズは,通年で原告主張使用商標等の商標を使用していたから,やはり,原使用許諾契約書と再使用許諾契約書で契約の有効期間が異なるのは不可解である。
ウ 原使用許諾契約書で被告がキリンホールディングスに対してキリン協和フーズに再使用許諾を認めた商標は, 「KIRIN」, 「Kirin Kyowa Foods」及び「麒麟協和食品」であるが,再使用許諾契約書でキリンホールディングスがキリン協和フーズに使用許諾した商標は, キリンのコーポレートブランド 「商標(「麒麟」「キリン」「KIRIN」及び「きりん」 , , )及びこれらの商標を態様の一部に含む商標並びにこれらと類似する商標」であって,一致せず,不自然である。
被告は,被告及びキリンホールディングスは,原使用許諾契約書の作成に先だって,同契約書別紙の「本再使用許諾先に使用させることができる本商標」の「KIRIN」に,社会通念上同一の範囲と考えられる, 「麒麟」「キリン」「きりん」も , ,包括されることを合意していた,と主張する。
しかし,そのような合意は原使用許諾契約書に記載されておらず,VIマニュアルの「KIRIN/キリン/麒麟」の使用区分についての記載と整合しない。また,VIマニュアルに「キリングループブランドシンボルは重要な資産であり,決して変形や改ざんするなどの不正な使用をしないように注意して下さい。 と記載されて 」いるから,「KIRIN」を変形したものに該当する,「KIRIN」等を態様の一部に含む商標, 「KIRIN」等と類似する商標について,使用許諾をするはずがない。
被告の反論
1 取消事由1について (1) 原告は,使用商標を「「KIRIN」の欧文字の右側に「Plus-i」図案が配置された結合商標」と捉えて,原告主張使用商標から「キリンプラスアイ」の称呼及び「キリンの健康プロジェクト」の観念を生じさせる旨主張する。
しかし, 「KIRIN」の欧文字からなる本件使用商標と「Plus-i」図案とは,別個独立した商標であり,それが単に商品「きのこがゆ」の包装などで併用されているにすぎないものである。
本件使用商標の使用態様を見ても,「KIRIN」の欧文字は,「Plus-i」図案と視覚上,分離して観察されるものであって, 「KIRIN」の欧文字が被告を含むキリングループの業務に係る商品を表示する商標として著名であることも考慮すると,商品「きのこがゆ」の取引者,需要者に独立して着目され,商品の出所を表示する商標として使用されているものと認識される。
それゆえ,使用商標は, 「KIRIN」の欧文字からなる商標であって,原告主張使用商標の「「KIRIN」の欧文字の右側に「Plus-i」図案が配置された結合商標」ではない。ましてや,本件使用商標から, 「キリンの健康プロジェクト」という観念が生ずることはあり得ない。
(2) また,原告は,原告主張使用商標が「2次的ブランド」の一部として使用されるものであるため, 「KIRIN」の欧文字と「Plus-i」図案とを全体を一体として把握する商標である旨主張する。
しかし,原告の推測に基づく主張である上,その主張内容には論理の飛躍があり,この主張が「社会通念上同一」の解釈にどのように具体的に関連するものであるか全く理解できない。
(3) 原告は,被告のホームページ(甲3)で公表した事実を指摘した上で,「被告の主張は,被告がホームページで公表した事実に反しており,禁反言の法理に反する」と主張する。
しかし,被告がホームページで公表した事実は,「プラスアイ」というプロジェ クト名を公表した事実を表す以上のものではなく,本件商標と本件使用商標の社会通念上同一の判断に何らの影響を及ぼすものではない。ましてや,ホームページで公表した事実は,被告の主張と矛盾するところはなく,禁反言の法理に反するものではない。
2 取消事由2について (1) 被告は,キリンホールディングスとの間で,キリン協和フーズを再使用許諾先として,商標の使用許諾について原使用許諾契約を締結した。被告から商標の使用許諾を受けたキリンホールディングスは,再使用許諾先であるキリン協和フーズとの間で, 「KIRIN」を含む商標の使用許諾について再使用許諾契約を締結した。
そして,キリン協和フーズは, 「きのこがゆ」を売り上げた平成25年10月17日において(甲20),商標「KIRIN」について,被告から再使用許諾を目的として商標使用許諾されていたキリンホールディングスから,その使用を再許諾されたものである。
したがって,キリン協和フーズは,本件商標の通常使用権者と認められ,この事実関係について,被告とキリン協和フーズの間に争いもない。
(2) 原告は,原使用許諾契約書の信憑性に疑念を持っており,再使用許諾契約書が取消しを免れるために偽造されたと主張する。
しかし,原使用許諾契約書は,被告とキリンホールディングスとの間で真正に成立したものであり,再使用許諾契約書も,キリンホールディングスとキリン協和フーズとの間で真正に成立したものであり,そこに何らの改ざんも,偽造もない。書面の体裁に,原告が主張するような,格別不自然な点もない。
(3) 原告は,被告が審判事件答弁書(甲48)において,@キリンはキリンホールディングスの子会社としてキリンホールディングスを頂点とするキリングループ内の「KIRIN」の表示の使用について管理する立場であること(甲18),Aキリン協和フーズはキリンホールディングスの子会社であること(甲19) B通常 , 使用権は商標権者が他人にその商標権について使用の許諾をすることにより発生するものであり,商標登録原簿に登録されることが効力を生ずる要件となっておらず,グループ会社の通常使用権については,その関係性ゆえに通常使用権の許諾関係が容易に否定できないものであることを理由に,キリン協和フーズが被告のグループ会社であるから,キリン協和フーズが本件商標の通常使用権者である旨主張したことにつき, 虚偽であることを認識した上での主張であったと非難されるべきもので 「あり,禁反言の法理及び信義則にも反するものである」と主張する。
しかし,キリン協和フーズは,平成25年6月30日まではキリンホールディングスの子会社であるから,グループ会社の通常使用権については,その関係性ゆえに通常使用権の許諾関係が容易に否定できないという被告の主張は,何ら誤ったものではない。
また,同年7月1日以降は,キリン協和フーズが三菱商事グループの一員になったとしても,平成26年1月1日の社名変更まで, 「キリン」や「KIRIN」を使用するため,本件商標につき通常使用権の許諾関係は継続していると解釈することはごく自然であり,被告,キリンホールディングス,キリン協和フーズの間でもその合意がなされているから,被告の前記主張には誤りはない。
さらに,被告,キリンホールディングス,キリン協和フーズの間では,商標使用許諾の範囲や当事者間の対価の算出や支払方法などを,より明確にするために,原使用許諾契約書及び再使用許諾契約書を作成しているのである。
したがって,被告の,審判事件答弁書(甲48)における,グループ会社であることを根拠とした通常使用権の主張は,虚偽であることを認識した上での主張でも,禁反言の法理及び信義則に反するものでもない。
(4) 原告は,VIマニュアルの「2010年12月1日改訂」との記載部分を指摘し,被告提出の同証拠が改ざんされたものであると主張する。
しかし,VIマニュアルは,2013年(平成25年)1月1日のデータ改訂時に, 「2013年1月1日改訂」と修正すべき部分が, 「2010年12月1日改訂」 として残ってしまったものである。また,VIマニュアルに若干の修正漏れがあったとしても,それは,単に修正漏れがあったにすぎない。
当裁判所の判断
1 認定事実 以下に掲記する証拠及び弁論の全趣旨から,次の事実を認定することができる。
(1) 本件商標は,平成10年8月21日,商標権者を麒麟麦酒株式会社(後のキリンホールディングス)として,設定登録された(甲1)。
(2) 麒麟麦酒株式会社は,平成14年3月15日に,本件商標とほぼ同一の「KIRIN」商標につき,指定商品に「第30類 穀物の加工品」を含めて,防護標章登録をし,被告も,平成26年2月28日に,同じく防護標章登録をした(乙1,2)。
(3) キリンホールディングスは,平成22年4月16日,「Plus-i」図案とほぼ同一の商標(ただし,色は白黒。)につき,指定商品に「第30類 穀物の加工品」を含めて,商標登録をした(乙3)。
(4) キリン協和フーズは,平成23年9月現在の商品パンフレットに,「きのこがゆ」を掲載した(甲15)。
(5) VIマニュアルは,キリングループのグループ内における商標の使用ルール等を定めた一般的方針である。平成25年1月1日に改訂されたVIマニュアルには,キリン協和フーズが, 「ブランドバリュー牽引グループ」の1つであってVIマニュアルの適用対象であることが記載されるとともに, キリングループブランド 「シンボルは重要な資産であり,決して変形や改ざんするなどの不正な使用をしないように注意して下さい。, 」「グループ外第三者の「KIRIN」 「キリン」 「麒麟」等の貸与・贈与は禁止しております。商品やサービスへの使用については,すべてキリン株式会社ブランド戦略部企画担当が管理しておりますので,必要な場合はお問い合わせください。」と記載され,「KIRIN/キリン/麒麟」の使用区分,問合 せ先は, 「キリン株式会社ブランド戦略部企画担当」であり,想像上の生き物である麒麟をかたどったいわゆる「聖獣マーク」は,キリンビールが管理していることなどが記載されている。(甲18,38〜46)。
(6) 本件商標は,平成25年2月14日,キリンホールディングスから被告へ移転された(甲1)。
(7) キリンホールディングスと三菱商事株式会社(三菱商事)とは,平成25年3月18日,キリン協和フーズの株式譲渡契約を締結した(甲4)。
(8) キリングループは,遅くとも平成25年4月に,「きのこがゆ」を掲載した「2013 キリン商品カタログ」を発行し(甲14),同月下旬から同年12月下旬にかけて,全国に約6万8千部を配布した(甲31)。
(9) キリンホールディングスとキリン協和フーズとは,平成25年6月24日,再使用許諾契約書を作成した(甲35)。再使用許諾契約書は,キリンホールディングスがキリン協和フーズに対し,キリンのコーポレートブランド商標(「麒麟」「キ ,リン」「KIRIN」及び「きりん」 , )及びこれらの商標を態様の一部に含む商標並びにこれらと類似する商標の非独占的通常使用権を許諾するものである。契約の有効期間は,平成25年7月1日から同年12月31日までとされた。
(10) キリン協和フーズは,平成25年10月17日, 「きのこがゆ」を販売した(甲20)「きのこがゆ」の包装袋には,キリンプラス-アイ標章及びその赤と 。
白を反転した標章が記載されている(甲17)。
(11) 被告とキリンホールディングスとは,平成25年12月20日,原使用許諾契約書を作成した(甲34,37)。原使用許諾契約書は,被告がキリンホールディングスに対して,商標の再使用許諾を許諾するものであり,再使用許諾先にはキリン協和フーズが含まれ,再使用許諾対象商標は, KIRIN」 Kirin 「 , 「 Kyowa Foods」及び「麒麟協和食品」である。契約の有効期間は,同年1月1日から同年12月31日までとされた。
(12) キリン協和フーズは,平成26年1月,その社名をMCフードスペシャ リティーズ株式会社に改めた(甲32,33)。
(13) キリングループは,本件商標と同一ないしほぼ同一である「KIRIN」の標章を,キリングループのブランドシンボルとして位置付け(甲18),キリングループ各社は,これをウェブサイトの各ページ左肩など(甲2〜5,13,60,乙7,8,12,13)及び請求書(甲20〜24)に表示して,キリングループ及びその商品やサービスを広く示すハウスマークとしても使用している。
(14) キリングループは,そのウェブサイト上で, 「キリンの健康プロジェクト「キリン プラス-アイ」は, 「お客様にいくつになってもおいしい食生活」を楽しんでいただくために,キリングループの総力を結集したプロジェクト。」と説明し,キリンプラス-アイ標章を使用した(甲3)。
(15) キリングループは,コーラ系飲料等の飲料や食品に,キリングループの健康プロジェクトの一環で展開しているグループ横断ブランド「キリン プラス-アイ」シリーズのマークを採用したとして,キリンプラス-アイ標章及びその色違いの標章を使用している(甲60〜62)。
(16) 被告は,平成26年10月3日付け審判事件答弁書において,平成25年10月当時,被告が本件商標の商標権者であり,キリン協和フーズはキリンホールディングスを頂点とするキリングループに属する会社であって, 「KIRIN」の表示を商品やサービスに使用する際には,事前に被告に問い合わせることとなっているから,被告がキリン協和フーズに本件商標の使用を許諾し,使用を継続させている,と主張した(甲48)。
(17) 「特許庁審判長」は,平成27年3月10日付けで,キリン協和フーズが,請求書(甲20〜24)発行時期を始めとした要証期間内において,被告の子会社であったことや,VIマニュアルのグループ1に属していたことの確認ができず,本件商標の使用者であることを認めることができない旨を含む暫定的見解を示した審理事項通知書を作成し,発送した(甲50)。
(18) 被告は,平成27年4月28日の口頭審理において,原使用許諾契約書 (甲34)と再使用許諾契約書(甲35)を提出し,請求書(甲20〜24)発行時期を始めとした要証期間内において,キリン協和フーズが本件商標と社会通念上同一の商標を使用することにつき,契約関係に基づき許諾されていたから,本件商標に係る通常使用権者であった,と主張した(甲51,53)。
2 取消事由1(使用商標の認定の誤り及び同商標を本件商標と社会通念上同一と認定判断したことの誤り)について (1) 使用商標 上記1(10)のとおり,キリン協和フーズは,平成25年10月17日,キリンプラスーアイ標章を記した包装袋を用いた「きのこがゆ」を販売した。
上記「きのこがゆ」に用いられた標章は,上記1(14)のとおり,キリングループが,「キリンの健康プロジェクト「キリン プラス-アイ」」と名付けて,使用している標章であって,左側に「KIRIN」の欧文字,少し間隔を空けて右側に「Plus-i」図案を配してなり, 「KIRIN」と「Plus-i」図案とは分離して観察できる。また,キリングループは,上記1(13)のとおり,本件商標と同一又はほぼ同一の商標をキリングループのハウスマークとして使用しており,上記1(2)のとおり,本件商標と同一又はほぼ同一の商標を防護標章として登録していることから,本件商標と同一又はほぼ同一の商標は,キリングループの商品又は役務を示すものとして取引者及び需要者の間で周知著名になっていると認められる。したがって,キリンプラス-アイ標章は,キリングループが出所であることを示す「KIRIN」の欧文字と,キリンの「健康プロジェクト」であることを示す「Plus-i」図案が併用されたものであり, 「KIRIN」部分は,それのみでも,キリングループの商品であることを示す商標として表示されている,使用商標と認めるのが相当である。
(2) 本件商標と本件使用商標との社会通念上の同一性 「きのこがゆ」にキリングループの商品であることを示す商標として表示された使用商標「KIRIN」と,本件商標とは,外観はほぼ同一,称呼及び観念は同一 であるから,社会通念上同一であることが明らかである。
(3) 原告の主張に対する判断 ア 原告は,きのこがゆ」 「 の包装袋に表示されたキリンプラス-アイ標章(原告主張使用商標)は,キリングループの健康志向の商品群向けに2次的ブランドとして使用されているものだから, 「KIRIN」の欧文字と「Plus-i」図案を構成要素とする結合商標である,と主張する。
しかし,上記(1)のとおり,キリングループは,「キリンプラス-アイ」シリーズの標章として,左側に「KIRIN」の欧文字,右側に「Plus-i」図案を配した標章を使用しているものの,「KIRIN」の周知著名性(識別力の顕著さ),「KIRIN」の欧文字部分と「Plus-i」図案とが分離して識別可能であることからすれば, 「KIRIN」の欧文字を「Plus-i」図案とは独立した, 「きのこがゆ」の商標として用いていると解するのが相当である。
原告の主張には,理由がない。
イ また,原告は,被告が,自社ホームページで,キリンプラス-アイ標章をキリンの健康プロジェクト「キリン プラス-アイ」と公表したにもかかわらず,審判及び本件訴訟において, 「きのこがゆ」の包装に使用されたキリンプラスーアイ標章の「KIRIN」部分のみを本件商標の使用であると主張したことは,禁反言の法理に反する,と主張する。
しかし,上記(1)のとおり,キリンプラス-アイ標章は, 「キリン プラス-アイ」シリーズの標章として使用されるとともに,その一部である「KIRIN」の欧文字は,キリングループの商品であることを示す商標として従前から使用されていたものと認められるから,被告の上記ホームページでの公表事項と,審判及び本件訴訟における主張とが矛盾するとはいえない。
原告の主張には,理由がない。
ウ さらに,原告は,結合商標が登録商標と社会通念上同一と認められる商標に該当するか否かの判断において,結合商標から1つの構成要素を抽出して登録 商標と比較するには,他の構成要素の識別力や他の構成要素との一体性等を検討した上で,結合商標が全体として登録商標と社会通念上同一と認められる商標に該当するかを判断しなければならない, 「Plus-i」図案には識別力があるから,キリンプラス-アイ標章全体と本件商標を比較し,称呼及び観念が異なるから,原告主張使用商標と本件商標とは社会通念上同一とはいえない,と主張する。
しかし, 「KIRIN」の欧文字部分と「Plus-i」図案とは分離して観察できること, 「KIRIN」には顕著な識別力が認められることからすれば,キリンプラス-アイ標章(原告主張使用商標)が常に一体不可分と認識されるわけではなく,「KIRIN」の欧文字のみを使用商標として認識することもできる。
「Plus-i」図案に一定の識別力があると認められることは, 「Plus-i」図案も「きのこがゆ」の商標として用いられていることの根拠にはなるものの, 「KIRIN」の欧文字が単独で「きのこがゆ」の商標として用いられていることと何ら矛盾しない。
原告の主張には,理由がない。
(4) よって,取消事由1には,理由がない。
3 取消事由2(キリン協和フーズを本件商標の通常使用権者とした認定判断の誤り)について (1) 上記1(4)のとおり,キリン協和フーズは,キリングループ会社であった,遅くとも平成23年9月には 「きのこがゆ」の販売を開始しており,上記1(7)(8)(10)のとおり,その株式が三菱商事に譲渡された後も,同様の「きのこがゆ」を販売し,その包装袋には「KIRIN」商標を付していた。そして,上記1(11)のとおり,キリンはキリンホールディングスに対し,キリン協和フーズに「KIRIN」商標の再使用許諾をすることを許諾し,上記1(9)のとおり,キリンホールディングスはキリン協和フーズに対し, 「KIRIN」商標の非独占的通常使用権を許諾し,キリン協和フーズが「きのこがゆ」を販売した平成25年10月17日(上記1(10))は,両契約の有効期間に含まれている。
よって,キリン協和フーズは,平成25年10月17日, 「KIRIN」商標の通 常使用権者として,キリンホールディングスを通じて,商標権者である被告から許諾を受けて,「きのこがゆ」に「KIRIN」商標を付したものと認められる。
(2) 原告の主張に対する判断 ア 原告は,VIマニュアル(甲18)は,改訂日には存在しない会社が記載されており,被告が主張するように改訂日の修正を忘れたとしても,聖獣マーク」 「の管理者の記載などが整合しないから,問合せ先の記載が改ざんされたものであると主張する。
しかし,被告が属するような多数の会社で形成されたグループ会社において,その商標の使用及び管理についてマニュアルが存在することは合理的であるし,被告が主張するように,改訂日の修正を忘れたり,改訂時に修正漏れがあることも一般的に起こり得るものと推測される。また,VIマニュアル自体には,外見上改ざんを疑わせるような不自然な点も見当たらない。そうすると,VIマニュアルは,信用性を欠くものとは認められない。
原告の主張には,理由がない。
イ また,原告は,被告は本件商標の使用許諾について知悉しているはずなのに,原使用許諾契約書及び再使用許諾契約書は,審理事項通知書により,キリン協和フーズがグループ会社であることを根拠にした通常使用権を否定する見解が示された後に提出されたものであるから,信憑性に疑問がある,と主張する。
しかし,キリン協和フーズの株式が譲渡されたのは,本件の要証期間中であるから,被告が当初,被告主張の使用商標の使用時期に対応する通常使用権の設定関係につき誤解していたとしても不自然ではないし,上記1(4)(8)(10)のとおり,キリン協和フーズは,その株式譲渡の前後において,同じく「きのこがゆ」の販売をしていたから,株式譲渡後にも本件商標の使用許諾がなされていたと考えるのがむしろ合理的であり,これに沿う原使用許諾契約書及び再使用許諾契約書が存在するのは自然である。
原告の主張には,理由がない。
ウ さらに,原告は,原使用許諾契約書は,@その作成日が契約期間の末日に近く自動更新に対する別段の意思表示の期限よりも後になっていること,A第1条第5項に重大な誤記があること,B当事者名が塗りつぶされ,原本も提出されていないことから,その信憑性に疑問がある,と主張する。
しかし,@原使用許諾契約書は,キリン協和フーズが,キリンホールディングスから三菱商事への株式譲渡後も譲渡前と同じく,本件商標を含む被告の商標を使用し続けていることについて権利関係を明確にするために,グループ会社である被告とキリンホールディングスとの間で作成された契約書であると理解することができ,契約書作成前に,当事者間でキリン協和フーズによる本件商標などの使用が問題にされていたわけではないから,契約書作成日が契約期間の末日近くになり自動更新に対する別段の意思表示よりも後になっていることは,当該契約の信用性を左右するものではない。また,A原告が指摘する誤記の内容は, 「自らがKC(キリン株式会社)に対して負うべき義務」とすべきところを, 「自らがKH(キリンホールディングス)に対して負うべき義務」としているというものであって,誤記であることが明確である上に,原使用許諾契約書は,権利関係に争いのないグループ企業間において作成されたものであって,誤記があることによって契約当事者間に紛争が生じる可能性もないから,上記誤記を理由に真正な契約書ではないともいえない。さらに,B当該契約書において塗りつぶされた部分は,契約当事者の代表者名にすぎないから,塗りつぶしによって契約当事者が異なる契約書の写しが提出されたと推測することもできない。
原告の主張には,理由がない。
エ 原告は,再使用許諾契約書は,@提出された写しの契印の印影が各ページで1つずつであり,しかも半分にすぎず,押印原本も提示されていない,A再使用許諾契約書が原使用許諾契約書に基づくものであれば,原使用許諾契約書が先に作成されるはずだが,契約日は再使用許諾契約書が原使用許諾契約書に先行しており,契約期間も,原使用許諾契約書が1年間であるのに対し,再使用許諾契約書は 半年間であることとは不自然である,B原使用許諾契約書で被告がキリンホールディングスに対して再使用許諾を認めた商標と,再使用許諾契約書でキリンホールディングスがキリン協和フーズに使用許諾した商標とが一致せず不自然である,C原使用許諾契約書における使用許諾対象商標「KIRIN」に「麒麟」 「キリン」が含まれるとすることは,VIマニュアルの「KIRIN/キリン/麒麟」の使用区分についての記載と整合しないし,再使用許諾契約書において「KIRIN」等を態様の一部に含む商標及び「KIRIN」等と類似する商標について使用許諾することは,VIマニュアルの「KIRIN」を変形したものの使用禁止に反する,と主張する。
しかし,@契約書の契印を,契約当事者全員が必ず行うという商習慣を認定するに足る証拠はなく,審判手続において提出する証拠の写しを作成する際,契印のみが存在する契約書用紙の裏のコピーを省略することも,不合理ではない。
また,A原使用許諾契約書の契約締結日について,被告は,平成25年12月1日時点における使用許諾対象商標,再使用許諾先及び対価の確認,確定手続を当事者間で完了した段階で契約締結したため,締結日が同年12月20日となったと主張しており,そのような主張内容は不合理ではないことに加え,キリン協和フーズによる本件商標を含む被告所有商標の使用が,三菱商事への株式譲渡前から継続されていたのであって,新たに被告らの有する商標の使用を開始させるものではないことからすれば,契約締結日が原使用許諾契約書と再使用許諾契約書とで異なることは不自然ではない。原使用許諾契約書は,再使用許諾契約書の根拠となるものであり,前者が後者より契約期間が長いことは,不合理ではない。
さらに,B原使用許諾契約書と再使用許諾契約書との間で,許諾対象商標に文言上の齟齬はあるが,許諾対象商標に「麒麟」 「キリン」及び「きりん」が含まれる再使用許諾契約書が作成された後に原使用許諾契約書が作成された上で,その許諾対象商標が文言上「KIRIN」等となっていること,被告,キリンホールディングス及びキリン協和フーズとの間で,許諾対象商標についての争いがあったとは認め られないことからすれば,原使用許諾契約書の「KIRIN」には,「麒麟」「キリン」及び「きりん」が含まれるものと被告及びキリンホールディングスとが合意していたものと解することができる(甲54参照)。
C上記1(5)のとおり,VIマニュアルは,キリングループのグループ内における商標の使用ルール等を定めた一般的指針であるから,同マニュアルによって個別の契約書の効力が左右されるものではない。すなわち,原使用許諾契約書における契約の解釈として,使用許諾対象商標「KIRIN」に「麒麟」 「キリン」が含まれると解することは,キリングループ内の各商標の具体的な使用ルール等の指針であるVIマニュアルにより影響されるものではない。なお, 「KIRIN」等を態様の一部に含む商標や「KIRIN」等と類似する商標の全てが「KIRIN」を変形したものに該当するわけではないことは明らかであるから,このような商標の使用許諾がVIマニュアルに反するとはいえない。
原告の主張には,理由がない。
(3) よって,取消事由2には,理由がない。
結論
以上のとおり,原告の請求には理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 片岡早苗
裁判官 古庄研