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追加

関連審決 無効2015-890053
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事件 平成 30年 (行ケ) 10138号 審決取消請求事件

原告 オーガスタナショナル インコーポレイテッド
訴訟代理人弁護士 中村稔 松尾和子 田中伸一郎
訴訟代理人弁理士 井滝裕敬 石戸孝
被告 コナミホールディングス株式会社
訴訟代理人弁護士 城山康文 舩越輝
訴訟代理人弁理士 北口貴大 横川聡子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2019/02/06
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2015-890053号事件について平成30年5月17日 にした審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,商標登録第5707700号の商標(以下「本件商標」という。) の商標権者である。
本件商標は,「コナミスポーツクラブマスターズ」の文字を標準文字によ り表して成り,平成26年5月30日に登録出願され,第41類「教育・文 化 娯楽 スポーツ用ビデオの制作 ・ ・ (映画 放送番組 広告用のものを除く。 , ・ ・ ) スポーツの興行の企画・運営又は開催,ゲーム大会の企画・運営又は開催, その他の興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行 及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除 く。),運動施設の提供,運動用具の貸与,レコード又は録音済み磁気テー プの貸与,録画済み磁気テープの貸与」を指定役務として,同年9月5日に 登録査定され,同年10月3日に設定登録された。
(2) 原告は,平成27年6月18日,本件商標は商標法(以下「法」という。) 4条1項15号,同19号及び同7号に該当し,法46条1項1号の規定に 基づき無効にすべきものであるとして,商標登録無効審判を請求した。
特許庁は,原告の請求を無効2015-890053号事件として審理し, 同年12月1日,「本件審判の請求は,成り立たない」とする審決をした。
原告は,平成28年4月5日,知的財産高等裁判所に審決の取消しを求め る訴えを提起し(平成28年(行ケ)第10083号),同裁判所は,同年 10月11日,審決を取り消す旨の判決を言い渡して同判決は確定した。
(3) その後,再開された審判手続において,原告は,審判請求に係る役務の一 部を取り下げ,その請求に係る役務は,第41類「ゴルフ用ビデオの制作(映 2 画・放送番組・広告用のものを除く。),ゴルフの興行の企画・運営又は開 催,ゴルフ場・ゴルフ練習場の提供,ゴルフ用具の貸与,ゴルフを内容とす る録画済み磁気テープの貸与」(以下「無効請求役務」という。)となった。
特許庁は,平成30年5月17日,改めて「本件審判の請求は,成り立た ない。」とする審決をし(出訴期間として90日を附加。以下「本件審決」 という。),同月25日,その謄本が原告に送達された。
(4) 原告は,平成30年9月21日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提 起した。
2 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は,別紙審決書の写しに記載のとおりであり,その要旨は, 以下のとおりである。
(1) 法4条1項15号該当性に関し 「マスターズ」及び「Masters」の文字から成る商標(以下「引用 商標」という。)は,アメリカのジョージア州オーガスタで開催されるゴル フ競技会である「マスターズ・トーナメント」を表す語として需要者の間で 広く認識されており,引用商標に係る「ゴルフの興行の運営又は開催」と無 効請求役務とは,一定程度の関連性があり,需要者を共通にする場合がある。
しかし,引用商標を構成する「マスターズ」の文字は,複数の意味合いを 有する語として辞書等にも掲載されており,その独創性は高いとはいえず, 本件商標と引用商標との類似性の程度は低い。
また,我が国においては,スポーツ競技会において,「マスターズ」の語 を含む大会名称がいくつかあるが,いずれも,原告と関係がある大会である との証左はなく,「マスターズ」の文字は,原告の出所を表示するものとみ るよりは,「中高年のための競技会」,「上級者の競技会」ほどの意味合い で使用されているとみるのが自然である。
してみれば,「マスターズ」及び「Masters」の語が,アメリカの 3 ジョージア州オーガスタで開催されるゴルフ競技会の名称である「マスター ズ・トーナメント」を表すものとして周知であるとしても,「コナミスポー ツクラブマスターズ」の文字から成る本件商標に関しては,まず,株式会社 コナミスポーツクラブ(被告の完全子会社。以下「被告子会社」という。) に係るスポーツクラブの名称として我が国で広く知られている,「コナミス ポーツクラブ」の文字が着目されて,被告子会社のスポーツクラブが想起さ れ,これに続く後半の「マスターズ」の文字については,該スポーツクラブ と関連付けて,「上級者,中高年のための競技会」程の意味合いが認識され るものとみるのが相当であって,殊更,後半の「マスターズ」の文字が着目 され,かつ,前半部分から看取される被告子会社に係るスポーツクラブとの 関連性が排除されて,「マスターズ・トーナメント」が想起されるとみるの は妥当でない。
したがって,商標権者である被告が本件商標を無効請求役務に使用しても, これに接する取引者,需要者が,原告の引用商標である「マスターズ」及び 「Masters」を連想又は想起し,これと関連付けて本件商標を認識す ることはないというべきであり,その役務が原告又は原告と経済的若しくは 組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように,その 役務の出所について混同を生じさせるおそれはないものと判断するのが相当 である。
よって,本件商標は,法4条1項15号に該当しない。
(2) 法4条1項19号該当性に関し 引用商標は,前記のとおり,アメリカのジョージア州オーガスタで開催さ れるゴルフ競技会の名称である「マスターズ・トーナメント」を表す語とし て,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,我が国のゴルフに関連 する役務の取引者,需要者の間で広く認識されていたといえる。
しかしながら,本件商標と引用商標とは,前記のとおり,その文字構成に 4 おいて大きく異なる別異の商標というべきものであって,しかも,原告の提 出に係る証拠を総合してみても,商標権者である被告が原告の使用に係る商 標の名声と信用にフリーライドする意図など,不正の目的をもって本件商標 の使用をするものと認めるに足る具体的事実を見出せない。
したがって,本件商標は,法4条1項19号に該当しない。
(3) 法4条1項7号該当性に関し 本件商標である「コナミスポーツクラブマスターズ」は,その構成自体が 非道徳的,卑わい,差別的,きょう激又は他人に不快な印象を与えるような 文字から成るものではなく,これを無効請求役務について使用することが社 会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するものともいえない。
また,本件商標は,他の法律によって,その商標の使用等が禁止されてい るものではないし,特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信 義に反するものでもない。
さらに,原告の主張及び原告の提出に係る証拠を総合してみても,本件商 標の登録出願の経緯に社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが 商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該 当すると認めるに足る具体的事実を見出すことができない。
その他,本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と 認めるに足る証拠もない。
したがって,本件商標は,法4条1項7号に該当しない。
原告が主張する取消事由
1 法4条1項15号該当性に関する認定判断の誤り (1) 引用商標(「マスターズ」及び「Masters」)の語義について 本件審決が,引用商標はアメリカのジョージア州オーガスタで開催される ゴルフ競技会である「マスターズ・トーナメント」を表す語として需要者の 間で広く認識されていると認定しながら,「マスターズ」の語が複数の意味 5 を持つ語と認定したのは,明らかな誤りである。
確かに,広辞苑(第5版。第6版も同様)には,「マスターズ@(Masters Tournament)アメリカのジョージア州オーガスタで毎年四月に行われるゴルフ競技会。一九三四年,世界の名手の招待競技として発足。A(World Masters Games)中高年のための国際スポーツ大会。女子三〇歳・男子三五歳以上の参加者が五歳きざみの年齢別で競技。世界マスターズ大会。B中高年のための競技会の総称。」と三つの語義が記載されている。
しかし,「マスターズ」といえば,通常は,本件審決も認定している周知著名な原告主催のゴルフ・トーナメント(前記@)を意味する語であると一般公衆は理解するのであり,中高年のための国際スポーツ大会(ワールド・マスターズ・ゲームズ)(前記A)や,中高年のための競技会(前記B)などの語義は誰も思い浮かべない。このことは,広辞苑その他の複数の国語辞典において,「マスターズ」の語義としては,前記@の意味のみを記載するか,複数の語義を記載するにせよ,常に真っ先に前記@の意味が記載されていることからも明らかである(「大辞林」,「三省堂国語辞典」等の解説にみられるとおり,特定の語について複数の語義を記載するときは,一般的な語義,広く使われている語義を先に記し,特殊な語義や古風な語義は後に記すのが辞書における複数の語義を記す場合の慣行である。それゆえ,「マスターズ」及び「Masters」の語が「マスターズ・トーナメント」を表す語としてあらゆる辞書に真っ先に記載されている周知,著名な語である以上,他の特殊な語義を考慮する余地は存在しない。)。
また,前記Aの「ワールド・マスターズ・ゲームズ」は,オリンピックのような一流のアスリートがその技量を競う大会でなく,中高年であれば誰でも参加できる生涯スポーツの国際大会にすぎないし,原告の調査(「Nifty」の新聞雑誌記事検索)によっても,その知名度はゼロに近く,大会名 6 を「マスターズ」と略称している事実もない(一部の地方でごく少数の者の 間で知られているにすぎず,全国的には無名に等しい競技会にすぎない。 。
) 前記Bの意味(中高年のための競技会)についても,本件審決が例として 挙げる「日本スポーツマスターズ」は,参加資格(年齢条件)からして必ず しも中高年のための競技会とはいえないし,「ワールド・マスターズ・ゲー ムズ」と同様に知名度もゼロに等しく,「マスターズ」の略称で呼ばれてい るというような事実もない。その他,本件審決が引用するように,我が国で 「マスターズ」の文字をゴルフ競技会の名称の一部に使用している事例が存 在することは事実であるが,これらは全て原告の引用商標が持つ周知性,著 名性にあやかっているにすぎないし,これらの名称の使用を知っている者も 極めて限られた少数者にすぎない。
以上のとおり,一部の辞書に「マスターズ」の語について複数の意味が記 載されていても,引用商標以外の意味ではほとんど社会的に無名ないし無名 に近く,中高年を対象とするものも,原告の引用商標の周知性,著名性,名 声や信用にあやかるために使用しているにすぎない。
したがって,「マスターズ」の語が複数の意味で使用されているという本 件審決の認定は,決定的に誤っている。
(2) 被告子会社が使用する「コナミスポーツクラブ」の周知性について 本件審決が,「コナミスポーツクラブ」の文字は「フィットネスクラブの 分野のみならず,ゴルフを含むスポーツに関する分野全般において,一般需 要者に広く知られている」と認定した点も明らかに誤っている。
すなわち,話題性に富み,メディアに取り上げられることが多い原告主催 のゴルフ・トーナメントを指す引用商標と本件商標とでは,知名度,周知性 の規模,レベルに顕著な違いがあることは誰もが直ちに理解する。
そもそも我が国において健康の維持や増進のためにスポーツクラブやフィ ットネスクラブを利用しようと考える者の数は極めて限られている。「コナ 7 ミスポーツクラブ」を知っているのは,現在の会員数50万人に加え,若干 の潜在的会員,将来,入会しようかと考慮している人々の数を20万人か3 0万人を加えても,せいぜい100万人にも達しない人々にすぎず,この程 度では到底国内で広く知られているとか,周知であるなどと認めることはで きない(たとえスポーツクラブとして会員数が首位だからといって,このス ポーツクラブが我が国で広く知られていることにはならない。)。
被告子会社(コナミスポーツクラブ)はごく限られた一部の人々の間でし か知られていない微々たる企業にすぎず,これが一般需要者に広く知られて いるというような認定は間違いも甚だしい。
(3) 広義の混同を生ずるおそれの有無について ア 本件商標と引用商標の類似性の程度について 本件審決は,「コナミスポーツクラブマスターズ」の文字から成る本件 商標と「マスターズ」及び「Masters」の文字から成る引用商標と は,その文字構成において大きく異なるものであるから,その類似性の程 度は低いと認定したが,この認定も誤りである。
すなわち,本件商標は「コナミスポーツクラブ」と「マスターズ」の二 部から成る結合商標であり,前者・後者の二つの外観,称呼,観念を生じ る商標であると捕らえることが最も自然であって良識に合致する。
そうすると,前者はスポーツクラブの名称であり,後者は周知著名なゴ ルフ・トーナメントの略称として広く知られているのであるから,「コナ ミスポーツクラブ」と「マスターズ」あるいはその主催者である「オーガ スタ」ないし「オーガスタ・ナショナル・ゴルフ・クラブ」との間に緊密 な営業上の関係,経済的その他の関係があるのではないかとの誤認を生じ させる。換言すれば,「コナミスポーツクラブマスターズ」の冗長な構成 音調から成る本件商標は,少なくとも,引用商標「マスターズ」を連想, 想起させるから,両商標の類似性の程度は強い。
8 したがって,両商標による役務の出所について誤認混同を生じさせるお それがあることは必至である。
イ 「マスターズ」及び「Masters」の独創性について 本件審決は,「マスターズ」及び「Masters」の語は,元々「上 級者」ほどの意味合いで使用されていたものであって,原告主催のゴルフ・ トーナメント以外にも複数の意味を表す語として知られているものである から,原告の造語とは認められず,その独創性が高いとはいえないと認定 したが,この認定も誤りである。
すなわち,「マスターズ」及び「Masters」の語は英語で名人, 達人,名手などの意味を有する「master」の複数形であるから,原 告の造語とはいえないけれども,世界各国のゴルフの名手(名手は単なる 上級者ではない。いわゆる上級者とは技量レベルが全く異なるゴルファー たちを指す。)を招待して競技会を開催するという発想に基づき,「マス ターズ トーナメント」 ・ という名称を選択したことには高い独創性があり, だからこそ,「マスターズ」が「マスターズ・トーナメント」を表す語と して周知性,著名性を得たのである。
独創性の有無,程度ないし識別力の強さは,固定・不動ではなく,変動 ないし成長する性質のものである。商標採用時には,普通語であっても, 長年の使用により,商標として識別力を持つ表示もあり,その意味では文 字の内容・実体は成長する。商標構成文字の「独創性」は,このような性 質のものであるから,混同の有無,特に「広義の混同」の判断に当たって は,判断要素の一つとして考慮されるべきである。
本件についていえば,原告の「マスターズ」の語は原告が主催する「マ スターズ・トーナメント」を指す語としてゴルフ関連役務の取引者,需要 者はもとより,ゴルフ愛好者,ゴルフに関心,興味を持つ者などを含む一 般公衆の間に広く認識されており,極めて強い自他識別力を持つ商標ない 9 し表示として現に存在している。
本件商標の出願時及び登録査定時において,我が国のゴルフに関連する 役務の取引者及び需要者の間で「マスターズ」及び「Masters」の 周知性・著名性は広く認識されており,引用商標は極めて高い自他識別を 発揮している商標であるといえる。
ウ 経営多角化の可能性について 原告が日本国内においてゴルフ場の提供,競技会の開催等を行っている 事実がないことは本件審決が認定するとおりであるが,そもそも,「マス ターズ・トーナメント」の二番煎じ,三番煎じのような競技会を催すこと 自体,「マスターズ・トーナメント」の単一性を損なう自殺行為であるか ら,そのような認定をすること自体意味がない。
また,原告は,ゴルフ関連商品の販売に関しては,ライセンシーにより 大々的にライセンス業務を実施しており,また,ゴルフコースの設計,維 持,管理等の役務も求められれば技術援助する予定であって,経営の多角 化は原告が常に努力しているところである。
(4) 小括 以上を要するに,本件商標は,「コナミスポーツクラブ」と「マスターズ」 の結合商標であって,15文字から成る長い商標であるから,自然に前後二 部分に分けて称呼,観念されるものである。他方,原告の商標「マスターズ」 は,原告主催のゴルフ・トーナメントを指すものとして世界的に極めて著名 な商標である。
しかして,原被告双方は,ゴルフを含むスポーツ関係の商品・役務におい て共通の需要者・取引者を有しており,当該需要者・取引者が有する注意力 の程度に鑑みれば,本件商標が特にゴルフ関係の役務に使用された場合,著 名な原告商標である「マスターズ」及び「Masters」(引用商標)を 連想,想起させることは極めて自然であると理解される。そこで,原被告間 10 に,役務間の関連性,取引者・需要者の共通性,ライセンス契約等の営業的・ 組織的関連性,多角経営上の関連性を極めて自然に連想させる。「マスター ズ」及び「Masters」(引用商標)は,このような被告商標(本件商 標)の所有者ないし運営者との個別具体的連携を連想させる商標である。言 い換えれば,原被告間に混同を生じさせるおそれの強い商標であり,原告に ついて営業上,経営上,組織上,契約上の密接な関係があるものと誤信させ るおそれのある商標である。
したがって,原告の営業上の信用,名声に対する希釈化(ダイリューショ ン)を防止し,あるいは,フリーライド(不当便乗)を防止することが,原 告のみならずその関係者や顧客のために必要である。
したがって,法4条1項15号該当性を否定した本件審決の認定判断は誤 りである。
2 法4条1項19号該当性に関する認定判断の誤り 前記のとおり,本件商標は「コナミスポーツクラブ」と「マスターズ」の結 合商標であって,二部分に分けて考察すべき商標であり,全体を一連に観念, 称呼すべき商標ではない。
そして,被告は,ゴルフ・アカデミー等のゴルフに関する役務を営んでいる のであるから,周知,著名な原告の引用商標を知らずに「マスターズ」の文字 を本件商標の末尾に付加したとは考えられない。つまり,被告は,原告の努力 の成果である引用商標の著名性にフリーライドする意図,すなわち「マスター ズ」の周知性,著名性にフリーライドして不正の利益を得る目的に出たか,周 知商標との間で混同を生じさせて利益を得ようとしたか,そのいずれかとしか 解釈しようがない。
したがって,いずれにしても,本件商標の使用は,法4条1項19号に該当 する。
3 法4条1項7号該当性に関する認定判断の誤り 11 本件審決は,本件商標を無効請求役務に使用しても社会公共の利益に反し, 社会の一般的道徳概念に反しないと認定したが,この点は誤りである。
すなわち,仮に被告が本件商標を採択して登録出願をし,その登録を得たこ とについて,主観的な意図として不正の目的がなかったとしても,周知著名な 引用商標をその一部に接続,結合させた本件商標の使用は,他人が築き上げた 名声,信用,周知性,著名性にフリーライドするものであって,このような行 為が公序良俗に反することは多言を要しない。
被告の反論
1 法4条1項15号該当性に関する認定判断の誤りについて 原告の主張は争う。以下のとおり,本件審決の認定判断に誤りはない。
(1) 「コナミスポーツクラブ」の周知性について 「コナミスポーツクラブ」や「KONAMI SPORTS CLUB」 の文字は,スポーツクラブの運営のみならず,スポーツスクールや競技会の 開催事業にも使用され,また,競技会の主催や所属するトップアスリートの 活躍を通じメディアに露出する機会も多く,スポーツに関する分野全般にお いて,一般需要者に広く知られている商標である。
他方,原告の「マスターズ・トーナメント」は年に1回のみアメリカで開 催されるトーナメントであり,我が国のゴルフに関心のある者は,メディア を通じて間接的,一方向的にしか接する機会がない。
これに対し,被告子会社は,運営するスポーツクラブの業績が平成14年 以降,同業者中首位を保ち,ゴルフに関しても52施設を展開するなど,我 が国においてスポーツに関する事業を大々的に提供している。「コナミスポ ーツクラブ」の文字は,被告子会社が運営するスポーツクラブやゴルフを含 むスポーツスクールの会員や参加者,各種競技会の参加者や観戦者,大会運 営者,会場関係者や報道関係者らが,実体験と共に「コナミスポーツクラブ」 の文字を見聞きし,称呼する機会があるのであり,強く記憶に留まる。これ 12 に加え,建物の看板や宣伝広告,被告子会社所属のアスリートの活躍等によ るメディアでの露出を通じ,一般公衆が被告子会社の運営するスポーツクラ ブの名称に接する機会も多い。
さらにまた,ゴルフの経験者には40歳代から60歳代が多く,スポーツ クラブの利用者も40歳代以上の会員比率が6割と高くその需要者層が共通 することからも,「コナミスポーツクラブ」はゴルフに関心のある者,特に 中高年層の間でも周知性が高い。
よって,ゴルフを含むスポーツに関する分野全般において,「コナミスポ ーツクラブ」の文字が広く知られているとする本件審決の認定に誤りはない。
(2) 引用商標(「マスターズ」及び「Masters」)について 我が国においては「マスターズ」や,「マスターズ」と他の語とが結合し た語が数多く使用されており,その語が指し示す内容に応じて,「中高年の ための競技会」や,「達人,名人や上位者,上級者向けの競技会」ほどの意 味合いで一般に使用され,理解されている(ゴルフ競技の大会名称にも「マ スターズ」の語を含む例が多数あるほか,野球,陸上,水泳,柔道,テニス, バドミントンなどでも使用されている。また,スポーツ以外の分野での使用 例も存する。)。
原告は,「ワールド・マスターズ・ゲームズ」の知名度はゼロに等しいと 主張するが,同大会は,国際マスターズゲームズ協会(IMGA)が4年ごと に開催するおおむね30歳以上を対象とした生涯スポーツの国際総合競技大 会であり,1985年(昭和60年)に,トロントで第1回大会が開催され た。「世界マスターズ競技会」や「世界マスターズ大会」とも呼称され,様々 な辞書にその語義が掲載されていることからも,社会に定着している語義で あることが明らかである。なお,日本語大辞典第二版(甲138)では,ワ ールド・マスターズ・ゲームズは「マスターズ競技会」という独立した見出 し語で説明されている。原告のマスターズ・トーナメントは「マスターズ・ 13 ゴルフ」の見出し語の下に説明されており,両者の間に一般性や特殊性に関する優劣はない。2021年大会は日本で開催予定であり,朝日新聞,日本経済新聞,毎日新聞,産経新聞といった全国紙がいずれも「中高年の」スポーツ大会と紹介している。
原告は,「日本スポーツマスターズ」についても知名度がゼロに等しいと主張するが,公益財団法人日本スポーツ協会らが主催する「日本スポーツマスターズ」 平成13年より総合競技大会として継続的に開催されており, は,平成26年も,ゴルフを含む13競技が実施された。同大会では,ゴルフ競技は男子55歳以上,女子50歳以上を対象とし,所属都道府県の競技団体会長が,代表と認め選抜した者に参加資格が認められている。また,公益財団法人日本ゴルフ協会のウェブサイトにおいても,「日本スポーツマスターズ」におけるゴルフ競技が紹介されている。平成30年大会は地震のため中止となったが,報道において「中高年のための総合大会」と紹介されていることからも明らかなように,「マスターズ」の語は「中高年のため競技会」との意味合いで使用されている。
したがって,「マスターズ」の語が複数の意味を持つ語であるとした本件審決の認定に誤りはない。換言すれば,「マスターズ」の語は,他の語と組み合わせて「中高年のための競技会」や「達人,名人や上位者,上級者向けの競技会」といった意味合いで一般に使用され,かかる場合には原告の業務に係る役務の出所識別標識として認識されていないのであるから,「マスターズ」の語は原告の「マスターズ・トーナメント」を表す語として周知著名ではない。
また,原告は,原告主催のゴルフ・トーナメントの名称として「マスターズ・トーナメント」という名称を採択したことに高い独創性があるとも主張するが,引用商標が造語でないことは原告も認めており,また,当初「Masters」の語をスポーツの競技会の名称に使用することが一般的ではな 14 かったことを示す証拠も一切ない。さらに,テニスや柔道,バドミントンな ど様々な種目で上位選手が競技する大会の名称に数多く使用されている実情 に鑑みれば,原告だけが独創的に採択した語ではないことは明らかである。
(3) 本件商標と引用商標との非類似について 本件商標は,「コナミスポーツクラブマスターズ」の文字を標準文字で表 して成り,その構成文字は同一の書体,同じ大きさ,等間隔をもって表され ており,視覚上,構成全体としてまとまりよく一体的に看取されるものであ る。よって,本件商標からは,その構成に対応して,「コナミスポーツクラ ブマスターズ」の称呼が生ずる。
「コナミスポーツクラブマスターズ」の称呼は,一息によどみなく称呼し 得るものであり,視覚及び称呼上,本件商標を特定の部位で分離すべき理由 はない。また,前記のとおり,本件商標中,語頭の「コナミスポーツクラブ」 が被告子会社のスポーツクラブの名称として周知著名であるから,まず, 「コ ナミスポーツクラブ」の文字部分が看者の注意を惹くのであって,これを捨 象し,後半の「マスターズ」の文字部分のみが看者の注意を惹くことはない。
よって,本件商標と,「マスターズ」の称呼が生ずる引用商標とは,外観 及び称呼が明確に相違する。
また「マスターズ」の文字は,前記のとおり,「中高年のための競技会の 総称」との語義が辞書に掲載され,ゴルフの競技会を含む数多くの競技会に おいて,他の語と「マスターズ」が結合した語が競技会の名称に使用され, 「マスターズ」の語は「中高年のための競技会」ほどの意味で使用されてい る実情がある。よって,本件商標からは「コナミスポーツクラブが運営する 中高年のための競技会」との観念が生ずる。他方,引用商標は原告の「マス ターズ・トーナメント」との観念が生ずることから,本件商標と引用商標は 観念上も非類似である。
したがって,本件商標と引用商標とは明らかに非類似の商標であり,審決 15 における認定に誤りはない。
(4) 「混同を生ずるおそれ」がないことについて 前記のとおり,「コナミスポーツクラブマスターズ」の文字をまとまりよ く一連一体に表した商標であって,被告子会社が運営するスポーツクラブの 名称として周知著名な「コナミスポーツクラブ」を語頭に配する本件商標と, 「マスターズ」及び「Masters」の文字構成から成る引用商標は,外 観,称呼及び観念が明確に相違する非類似の商標である。
また,「マスターズ」の文字は複数の語義を有する語として多くの辞書に 掲載されており,その独創性の程度が低く,アメリカでのみゴルフ場を運営 しゴルフの競技会を開催する原告が我が国において多角経営を行う可能性が あることを裏付けるものもない。
さらに,取引の実情として,「マスターズ」の語を含む大会名称は,ゴル フ競技の大会も含め数多く存在するところ,その全てが原告と関係がある大 会であるとの証左はなく,むしろ,「マスターズ」の語は,辞書に掲載され た語義である「中高年のための競技会の総称」や,英語「Master」の 意味に由来し「名人,達人や上位者,上級者の競技会」ほどの意味合いで広 く一般的に使用されている。
してみれば,本件商標中,「コナミスポーツクラブ」の語と共に表される 「マスターズ」の文字は,原告の出所を表示するものとして理解,認識され るはずがない。被告子会社を表す「コナミスポーツクラブ」が広く知られ, 被告子会社は様々なスポーツの競技会を開催していること,「マスターズ」 の文字が「中高年のための競技会」ほどの意味合いを自然に想起させること は前記のとおりであるから,本件商標は「コナミスポーツクラブが運営する 中高年のための競技会」ほどの意味合いを想起させる。現に我が国で原告以 外の者が開催するゴルフの大会名称の一部に「マスターズ」の語が使用され る場合,「中高年のための競技会」や「名人,達人の競技会」又は「上位, 16 上級者の競技会」ほどの意味合いで,需要者や取引者らに認識され,使用さ れているのであり,本件商標について,語頭の「コナミスポーツクラブ」と の関連性を排除してまで,「マスターズ」の文字部分から原告の「マスター ズ・トーナメント」を想起させると判断すべき理由は一切ない。
以上のとおり,本件商標を使用しても原告の「マスターズ・トーナメント」 を想起させないのであるから,本件商標を無効請求役務に使用しても,需要 者や取引者が,原告又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有す る者の業務に係る役務であるかのように,役務の出所について混同するおそ れはない。
(5) したがって,本件商標は法4条1項15号に該当せず,この点に関する本 件審決の認定判断に誤りはない。
2 法4条1項19号該当性に関する認定判断の誤りについて 原告は,被告が「マスターズ」の周知性,著名性にフリーライドして不正の 利益を得る目的に出たか,周知商標(引用商標)との間で混同を生じさせて利 益を得ようとしたか,そのいずれかとしか解釈しようがない,などと主張する が,原告の主張を裏付ける証拠は一切提出されていない。
被告は,遅くとも平成14年から,「マスターズ水泳」の競技会を開催して おり,また,一般社団法人日本マスターズ水泳協会の公認大会として「コナミ スポーツクラブマスターズ水泳競技会」を,平成18年以降毎年開催している ことに起因し,本件商標を採択し出願した。
また,年齢が一定以上の中高年向けの競技会の総称としての「マスターズ」 は,水泳のみならずゴルフや陸上など様々な競技の競技会に使用されている語 であること,今後も日本社会の高齢化が見込まれ,スポーツ全般について中高 年層向けの「マスターズ」大会に関する需要のさらなる増加が予想されること, また種々のスポーツに関するサービスを提供するスポーツクラブにおいては中 高年層が重要な顧客層であることなどを考慮すれば, 「スポーツの興行の企画・ 17 運営又は開催」や「運動施設の提供」,「運動用具の貸与」を始めとする本件 商標登録に係る役務を指定して被告が本件商標を出願したことは正当な行為で あり,不正の目的を推認させる事実は一切ない。
よって,原告の主張は失当であり,本件商標は法4条1項19号に該当しな いとする本件審決の認定判断に誤りはない。
3 法4条1項7号該当性に関する認定判断の誤りについて 原告は,周知著名な引用商標をその一部に接続,結合させた本件商標の使用 は,他人が築き上げた名声,信用,周知性,著名性にフリーライドするもので あって,このような行為が公序良俗に反することは多言を要しない,などと主 張するが,本件商標と引用商標は外観,称呼及び観念のいずれからみても相紛 れるおそれのない非類似の商標であり,本件商標が引用商標の名声,信用,周 知性,著名性にフリーライドするものであることを裏付ける証拠も一切ない。
4条1項7号の規定は,商標の構成自体が,きょう激,卑わい,差別的若 しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合及び商標の構 成自体がそうでなくとも,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くと ころがあり,当該商標登録を認めることが商標法の予定する法秩序に反するも のとして到底容認し得ないような場合や,当該商標を指定商品又は指定役務に ついて使用することが社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反 するような場合に適用される条項である。本件商標は何ら構成自体がきょう激, 卑わいな文字,図形でないばかりでなく,指定役務について使用することが社 会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反するものでもない。
よって,原告の主張は失当であり,本件商標は法4条1項7号に該当しない とする本件審決の認定判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 認定事実 (1) 「マスターズ」の語について 18 ア 原告自身が認めるとおり,我が国を代表する国語辞典の一つである広辞 苑(第5版,第6版)には,「マスターズ」の語義として,「@(Mas ters Tournament)アメリカのジョージア州オーガスタで 毎年四月に行われるゴルフ競技会。一九三四年,世界の名手の招待競技と して発足。A(World Masters Games)中高年のため の国際スポーツ大会。女子三〇歳・男子三五歳以上の参加者が五歳きざみ の年齢別で競技。世界マスターズ大会。B中高年のための競技会の総称。」 と,三つの語義が記載されており(甲28,29。なお,第7版〔甲13 7〕にもほぼ同義の記載がある。),「日本国語大辞典」(甲27),「大 辞林」(甲31,32),「三省堂国語辞典」(甲36,37),「旺文 社国語辞典」(甲40,41)などにおいても,同様に前記@及びA,ま たは,前記@ないしBの複数の語義が記載されている。
このうち,前記@の語義,すなわち,原告が主催するゴルフ・トーナメ ントが世界四大大会の一つとして周知・著名であることは,本件審決が認 定するとおりであり,当裁判所に顕著な事実であるといえる。
イ 前記Aの「ワールド・マスターズ・ゲームズ」は,国際マスターズゲー ムズ協会(IMGA)が4年ごと(オリンピックの翌年)に主催する原則 30歳以上のスポーツ愛好者であれば誰もが参加できる生涯スポーツの国 際総合競技大会であり,第1回大会は昭和60年(1985年)にカナダ のトロントで開催された。
第1回大会の参加国・参加者は61か国・8305人であり,その後, 平成21年(2009年)にオーストラリアのシドニーで開催された第7 回大会には95か国から約3万人が,平成25年(2013年)にイタリ アのトリノで開催された第8回大会には107か国から約1万9000人 が参加した。第10回大会は2021年に日本国内(関西各地域)で開催 される予定であり,開催期間は10日間ほどで,国内外から約5万人の参 19 加を見込むとされている。
大会に関する報道記事は,日本国内においても全国紙・地方紙を問わず 多数の例が認められ,中には,「世界大会で銅メダル マスターズ重量挙 げで…さん」,「『大阪入らないのはおかしい』マスターズ開催で…」な どと記事の見出しにおいて大会名を「マスターズ」と略して表記している 例も存する。
(以上につき,甲109,140〜142,145,146,乙22の 1〜54,23の1〜6,28の1〜5など)ウ 前記Bに関して,日本国内における「マスターズ」の使用例としては, 例えば,次のようなものが認められる。
(ア) 「日本スポーツマスターズ」は,公益財団法人日本スポーツ協会(旧 日本体育協会)などが主催する,シニア世代(原則として35歳以上と し,競技ごとに別に定めるとされている。)を対象とした我が国唯一の 総合スポーツ大会であり,平成13年より毎年継続的に日本国内で開催 されている。近年はゴルフを含む13競技が実施されており,毎回80 00人前後が参加している。ゴルフ競技は男子55歳以上,女子50歳 以上を対象とし,所属都道府県の競技団体会長が代表と認めて選抜した 者に参加資格が認められている。各都道府県において予選ないし代表選 手の選考会が行われており,「兵庫県スポーツマスターズ・ゴルフ選手 権」,「鹿児島スポーツマスターズゴルフ大会」などと,大会名に「マ スターズ」を含むものも存する(甲110の1〜3,乙30の1〜37, 弁論の全趣旨)。
(イ) 他のゴルフ大会の例としては,例えば,沖縄テレビ放送主催の「OT V杯マスターズゴルフ選手権大会」(参加資格50歳以上・甲113), 一般社団法人日本エイジシューター協会主催の「全日本エイジシュータ ーマスターズ選手権」(年齢は参加資格の要件とされていないが,選手 20 自身の満年齢がハンディとなる。甲111の1・2),石川テレビ放送 などが共催する「北陸マスターズゴルフ」(一定のハンディキャップ取 得者で大会本部の推薦者であることが参加資格とされており,平成27 年で第42回を数える。甲116),能登カントリークラブ開催の「北 陸マスターズ」(昭和50年以降毎年開催・乙32),CBCテレビな どが主催する「中部日本ゴルフマスターズ選手権大会」(中部地区にお けるアマチュアゴルフの王座決定戦を謳い,参加資格にハンディキャッ プが設定されている。乙34)や,「産業新聞鉄鋼マスターズゴルフ大 会」(甲115),「春のマグナリゾート マスターズゴルフコンペテ ィションin浜名湖カントリークラブ」(甲117),「パテントマス ターズ」(甲118の1・2)などが存する。
(ウ) ゴルフ以外の競技で使用されている例としては,@野球では,全国高 校野球OBクラブ連合主催の「マスターズ甲子園」(甲119,乙35) や,プロ野球OBによる「プロ野球マスターズリーグ」(現在は休止中・ 甲120)が,A陸上競技では,公益社団法人日本マスターズ陸上競技 連合が主に男女とも35歳以上を対象として管理・運営する「マスター ズ陸上」(全国大会のほか,地域大会,都道府県大会,記録会などがあ り,それぞれ「○○マスターズ陸上競技選手権」や「○○マスターズ陸 上競技会記録会」などと「マスターズ」の語を含む大会名・競技会名が 付けられている。甲121)が,B水泳では,一般社団法人日本マスタ ーズ水泳協会が18歳以上の幅広い年齢層を対象として年間80〜90 前後の公式・公認競技会を開催する「マスターズ水泳」が(甲122), C柔道では,日本マスターズ柔道協会などによる30歳以上の男女を対 象とした「日本マスターズ柔道大会」が(甲123)ある。
エ 学術論文でも,中高年のスポーツへの取組について論じたものが複数あ り,例えば,谷藤千香「マスターズスポーツの現状と課題」(千葉大学教 21 育学部研究紀要第60巻365頁)では,「マスターズ大会とは,中高年 の参加者によって競われるスポーツ競技大会であり,日本においては,1 980年の第1回日本マスターズ陸上競技会開催以降,各競技団体で様々 な大会が行われるようになった。」,「単種目のマスターズ大会は,日本 では陸上競技や水泳が多く実施され,また,いわゆるスポーツ種目のマス ターズ大会は欧米で非常に古くから存在していた。 , 」 「マスターズ大会, マスターズスポーツというと,中高年を対象とした一部の人々のためだけ のエリートスポーツという固定観念を持つ人も多いが,海外では各種マス ターズ大会が様々な形で開催され,技を磨き合うというスポーツの本質的 な楽しみ方を加齢に伴って発展・成熟させていこうとする熟年層が増加し ているとも言われる。」などと紹介されている(乙40の1・2)。
オ 以上のとおり,原告が主催する「マスターズ・トーナメント」が世界的 に有名なゴルフ競技会の一つであることは疑う余地がなく,我が国におい ても例外でないといえるものの,他方で,我が国において「マスターズ」 なる語が意味するところは,原告主催のゴルフ・トーナメントの略称にと どまらず,熟練者ないし中高年を含む一定年齢以上の年齢層を対象とした 各種スポーツ競技ないし競技会をも含んでおり,現に,総合的な競技大会 としては,国際大会としての「ワールド・マスターズ・ゲームズ」や国内 大会としての「日本スポーツマスターズ」が一定の知名度を得ているほか, 個別の競技においても,陸上競技や水泳などを中心に多数の競技団体が「マ スターズ」を冠する大会の開催実績を積み重ねてきている事実が認められ る。
前記のとおり,広辞苑その他の国語辞典類でも,原告主催のゴルフ・ト ーナメントのほかに,「ワールド・マスターズ・ゲームズ」や中高年のた めの競技会の総称など,複数の語義を掲載するものが少なくないのは,正 にその表れであるといえる。
22 以上によれば,「マスターズ」は,我が国においては,原告主催のゴル フ・トーナメントのみならず,熟練者ないし中高年を含む一定年齢以上の 年齢層を対象とした各種スポーツ競技ないし競技大会をも指す語として, スポーツ愛好者の間に広く知られているということができる。
(2) 「コナミスポーツクラブ」について ア 「コナミスポーツクラブ」は,被告子会社が運営するスポーツクラブの 名称であり,被告はその持株会社である。被告子会社は,平成28年9月 時点で北海道から沖縄まで全国に直営施設を183施設運営しており,会 員数は50万人を超える。そのうち「コナミスポーツクラブ」の名称で運 営するクラブは177施設あり,フランチャイズ及び受託施設を含めると, 施設数は399に及ぶ。各店舗の建物には,外壁や外壁に取り付けられた 看板に,赤地に白抜きで「コナミスポーツクラブ」や「KONAMI S PORTS CLUB」の文字が表示されており,多くの店舗が,人が集 まる駅の近くやショッピングセンター内に設けられている(甲93の1〜 15,乙1の1〜5,乙2の1〜7)。
イ 被告子会社が運営するスポーツクラブの売上規模は,国内のフィットネ スクラブ売上げランキングで平成14年以降首位を保っており,平成25 年の売上高は765億円である。また,平成28年12月9日付けのウェ ブサイトの記事によると,その売上規模はフィットネスクラブ業界の世界 ランキングで世界第5位に位置付けられている(甲94,95)。
ウ 被告子会社が運営するコナミスポーツクラブでは,フィットネスマシン やスイミングプールなどフィットネスに関する設備の提供や,プール,エ アロビクスやヨガといったフィットネスに関するプログラムの提供のみな らず,スイミングスクール,体操スクール,ダンススクール,サッカース クール,テニススクール,チアダンススクール,空手スクール等の役務を 提供している(甲96)。
23 被告子会社が提供するスポーツ関連事業の役務・商品等は,全国紙だけ でも朝日新聞,読売新聞,日本経済新聞,毎日新聞などで取り上げられ, また雑誌にも掲載されている(乙7の1〜16)。被告子会社のインスト ラクターが専門家として取材を受け,「コナミスポーツクラブ」の語が新 聞に掲載されることも多い(乙8の1〜6)。
エ ゴルフに関しては,被告子会社は子供向け及び大人向けのゴルフスクー ルを,主に被告子会社のスポーツクラブ内で運営しており,ゴルフシミュ レータなどの練習設備を提供している。ゴルフスクールの施設は,平成2 9年2月の時点で,全国に52施設を展開している(甲97の1及び2)。
被告子会社は,子供向けには,ゴルフスクールに加え,小学生を対象と したゴルフの競技会として,「コナミスポーツクラブ・キッズゴルファー チャレンジカップ」を毎年開催しており,被告子会社が運営・開催する子 供向けのゴルフ競技会やゴルフスクールは,広告や紹介記事がゴルフ雑誌 やビジネス雑誌,地域のタウン誌等に掲載されている(甲97の5〜9)。
また,被告子会社が運営するゴルフ教室やゴルフ競技会を紹介する記事 が,日刊紙に多数掲載されている(乙9の1〜16)。
オ 被告子会社は,公益財団法人日本水泳連盟公認大会である「KONAM I OPEN」を毎年主催している。本大会は,A選手,B選手,C選手, D選手,E選手,F選手といったトップレベルの選手も出場する大会であ り,平成24年は朝日新聞など全国紙を始めとする新聞社11媒体,出版 社1媒体,テレビ局7媒体,平成25年は朝日新聞,読売新聞など新聞社 10媒体,出版社1媒体,NHK,テレビ朝日,TBS,日本テレビなど のテレビ局9媒体,平成26年は朝日新聞,読売新聞など新聞社8媒体, 出版社1媒体,テレビ朝日,日本テレビなどのテレビ局5媒体により広く 報道された(甲98の1〜3,乙10の1〜111)。
また,被告子会社は,年齢が一定以上の一般の水泳競技者を対象とする 24 マスターズ水泳について,一般社団法人日本マスターズ水泳協会の公認大 会である「コナミスポーツクラブマスターズ水泳競技会」を平成18年か ら継続的に主催し(甲99の1〜15),さらに,コナミスポーツクラブ の会員向けに,前記「コナミスポーツクラブ・キッズゴルファーチャレン ジカップ」に加え,「ダンシングスターズコンテスト」,「コナミスポー ツクラブ・ジュニアテニス選手権大会」,「アクションサッカー選手権」 などを毎年開催している(甲100の1〜3)。
カ 被告子会社は,オリンピック出場選手を含む数々のトップアスリートを 雇用し(平成30年11月時点で,体操選手11名,水泳選手9名が所属 している。),その活動を継続的にサポートしながら,企業ブランドの浸 透や企業イメージの向上等を図っている。平成20年の北京オリンピック では,被告子会社所属のG選手が,体操男子団体で銀メダル,水泳ではC 選手が男子400mメドレーリレーで銅メダルを獲得した。平成24年に 開催されたロンドンオリンピックでは,所属選手である体操のH選手(個 人総合金メダル,男子団体銀メダル,種目別ゆか銀メダル),I選手及び J選手(男子団体銀メダル),競泳のC選手(400mメドレーリレー銀 メダル)がそれぞれメダリストとなった(甲101の1ないし4,乙13 の1・2)。
キ 被告子会社は,多額の費用をかけて,イベントの開催,折込チラシの配 布,看板の制作及び掲示,各種キャンペーンの実施,テレビコマーシャル やインフォマーシャルの放送,新聞広告,インターネットバナー広告,ス ポーツ大会への協賛等の広告宣伝活動を展開しているほか,平成26年1 月及び4月に展開した,彫刻が音楽に合わせてエクササイズするユーモラ スなCMが,CM総合研究所による銘柄別CM好感度ランキングで上位に ランキングされるなど,テレビコマーシャルに関しても話題を集めている (乙14の1〜15,15の1〜7,16の1・2など)。
25 ク 前記アないしキに認定した事項を総合すれば,日本国内において,「コ ナミスポーツクラブ」や「KONAMI SPORTS CLUB」の文 字は,被告子会社によるスポーツクラブの運営のみならず,スポーツスク ールや競技会の開催事業にも使用され,また,被告子会社主催の競技会や 被告子会社に所属するトップアスリートの活躍を通じてメディアに露出す る機会も多く,ゴルフを含むスポーツに関する分野全般において,一般需 要者に広く知られている商標であるといえる。
2 法4条1項15号該当性について (1) 法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずる おそれがある商標」には,当該商標を指定商品等に使用したときに,当該商 品等が他人の商品等に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみな らず,当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営 業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係に ある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ,すなわち,いわ ゆる広義の混同を生ずるおそれがある商標をも包含する。
また,「混同を生ずるおそれ」の有無は,@当該商標と他人の表示との類 似性の程度,A他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,B当該商標の 指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における 関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情な どに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払わ れる注意力を基準として,総合的に判断すべきである(最高裁平成12年7 月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。
(2) これを本件についてみるに,本件商標は,「コナミスポーツクラブマスタ ーズ」の片仮名15文字を標準文字で表して成る文字商標であって,外観的 には,同一の大きさ・書体の文字により,全体が等間隔で一行にまとまりよ く配置されており,一連一体のものとして構成されていることが明らかであ 26 る。
そして,前記のとおり,我が国においては,「コナミスポーツクラブ」は被告子会社が運営するスポーツクラブの名称として周知であるということができる一方で,「マスターズ」は原告主催のゴルフ・トーナメントの略称のみならず,熟練者ないし中高年を含む一定年齢以上の年齢層を対象とした各種スポーツ競技ないし競技大会をも指す語として,スポーツ愛好者等の間に広く知られており,現にゴルフはもちろん,ゴルフ以外の競技においても,大会名において「マスターズ」の語が広く使用されている事実が認められることからすると,本件商標を目にした者が直ちに「マスターズ」の部分のみに着目して原告主催のゴルフ トーナメントを連想するということはできず, ・むしろ,語頭の「コナミスポーツクラブ」の部分に着目して「コナミスポーツクラブが関連する何らかのマスターズ競技ないしその競技大会」と理解すると考える方が合理的である。したがって,外観(文字構成),称呼及び観念に照らしても,本件商標と引用商標の類似性の程度はそれほど高いとはいえない。
また,「マスターズ・トーナメント」という大会それ自体は世界的に周知・著名なゴルフ競技会であるとしても,元々「masters」が「名人,達人」を意味する「master」の複数形にすぎず,原告の造語でないことは原告自身も認めているところであるし,ゴルフというスポーツの技を競い合う競技会の名称に,技術に長けた人を表す「名人,達人」の語を用いることは,語義に忠実な用法であって,特に奇抜性があるとか斬新であるということもできないから,当該表示や当該表示を選択したことについて独創性があるともいえない。
さらに,商品・役務間の関連性や取引者・需要者の共通性という点についても,本件商標の指定役務のうち無効請求役務は,いずれもゴルフに関連する役務であるから,その限りにおいて,原告の役務との間で関連性や需要者 27 の共通性が認められるというべきであるが,他方で,原告はその主催する「マ スターズ・トーナメント」がよく知られているという以外には,特に日本国 内でゴルフ競技会を開催しておらず,また,日本国内でゴルフ関連事業(商 品の販売や役務の提供)がよく知られているとも認められない。すなわち, 原告提出の証拠(甲56〜76など)によれば,原告は,一応,日本国内に おいても,ライセンス等により引用商標を表示したゴルフ用品の販売を行っ ていることや,「マスターズ・トーナメント」の開催時期に合わせてグッズ や関連商品の販売を行っていることが認められるが,その売上高や広告宣伝 等(事業規模)の詳細は不明であって,この程度の立証では,引用商標が「マ スターズ・トーナメント」以外に原告の提供する商品それ自体の出所識別を 表示するものとしても我が国で周知著名であると認めるには足りない。
以上のことからすると,本件において,役務の関連性や需要者の共通性は それほど重視すべき事情であるとはいえない。また,原告は経営多角化の可 能性についても言及するが,何ら具体性のある主張立証はなされておらず, この点についても特にみるべき事情があるとはいえない。
(3) 以上によれば,引用商標が原告主催のゴルフ・トーナメントの略称として も周知著名であることや,引用商標と本件商標との間に「ゴルフ」という共 通項があることを踏まえても,本件商標を指定役務(無効請求役務)に使用 したとき,当該役務が,原告の業務に係る役務であるとか,原告との間にい わゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商 品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務である と誤信されるおそれがあるということはできず,ほかにそのようにみるべき 事情はない。
(4) 原告の主張について 原告は,本件商標について法4条1項15号該当性を認めなかった本件審 決の認定判断は誤っているとして種々主張するが,その主張は要するに, 「マ 28 スターズ」の語に原告主催の「マスターズ・トーナメント」以外の意味が認 められないことや,「コナミスポーツクラブ」の周知性が認められないこと を前提とするものであって,その前提自体が採用できないものであることは, 既に説示したとおりである。
また,原告は,本件審決が本件商標と引用商標の類似性の程度が低いと認 定した点や,「マスターズ」及び「Masters」の独創性が高いとはい えないと認定した点についても誤りであると主張するが,その主張が採用で きないことも既に説示したとおりである。
(5) 以上によれば,法4条1項15号該当性を認めなかった本件審決の認定判 断に誤りはなく,これに反する原告の主張は採用できない。
3 法4条1項19号該当性について 原告は,本件商標が同号に該当する理由として,被告は,原告の努力の成果 である引用商標の著名性にフリーライドする意図,すなわち「マスターズ」の 周知性,著名性にフリーライドして不正の利益を得る目的に出たか,周知商標 (引用商標)との間で混同を生じさせて利益を得ようとしたか,そのいずれか としか解釈しようがない,などと主張する。
しかしながら,その主張は,法4条1項15号該当性における主張と同じく, 「マスターズ」の語に原告主催の「マスターズ・トーナメント」以外の意味が 認められないことや,「コナミスポーツクラブ」の周知性が認められないこと を前提とするものであって,その前提自体が採用できないものであることは, 既に説示したとおりである。
また,これ以外に,被告が引用商標の周知性,著名性にフリーライドして不 正の利益を得ようとするなどの不正の目的をもって本件商標の使用をしている と認めるに足りる具体的な事実の主張立証はない。
よって,法4条1項19号該当性を認めなかった本件審決の認定判断に誤り はなく,これに反する原告の主張は採用できない。
29 4 法4条1項7号該当性について 原告は,本件商標が同号に該当する理由として,仮に被告が本件商標を採択 して登録出願をし,その登録を得たことについて,主観的な意図として不正の 目的がなかったとしても,周知著名な引用商標をその一部に接続,結合させた 本件商標の使用は,他人が築き上げた名声,信用,周知性,著名性にフリーラ イドするものであって,このような行為が公序良俗に反することは多言を要し ない,などと主張する。
しかしながら,かかる原告の主張も,結局は,「マスターズ」の語に原告主 催の「マスターズ・トーナメント」以外の意味が認められないことや,「コナ ミスポーツクラブ」の周知性が認められないことを前提とするものであって, その前提自体が採用できないことは既に説示したとおりであるし,ほかに本件 商標がその出願経過等に照らして公序良俗に反すると認める足りる具体的な事 実の主張立証はない。
よって,法4条1項7号該当性を認めなかった本件審決の認定判断に誤りは なく,これに反する原告の主張は採用できない。
5 結論 以上の次第であるから,原告が主張する取消事由はいずれも理由がなく,本 件審決に取り消されるべき違法はない。
よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 鶴岡稔彦