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事件 平成 30年 (ワ) 11672号 商標権侵害差止等請求事件

原告株式会社学情
同訴訟代理人弁護士 鈴木章
同 補佐人弁理士杉浦靖也
被告 一般社団法人 履修履歴活用コンソーシアム
同訴訟代理人弁護士 堀籠佳典
同 岡田健太郎
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2021/01/12
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,別紙役務目録記載の役務に関する広告及び取引書類に,別紙被告標章目録記載1ないし8の標章を付し,又は,別紙被告標章目録記載1ないし8の標章を付した別紙役務目録記載の役務に関する広告及び取引書類を展示し,あるいは頒布してはならない。
2 被告は,別紙被告標章目録記載1ないし8の標章を付した別紙役務目録記載の役務に関する広告及び取引書類を廃棄せよ。
3 被告は,別紙役務目録記載の役務に関する広告を内容とする情報に,別紙被告標章目録記載1ないし8の標章を付して,電磁的方法により表示してはならない。
4 被告は,別紙被告標章目録記載6の標章をドメイン名として使用してはならない。
5 被告は,別紙被告標章目録記載6のドメイン名の抹消登録-1-手続きをせよ。
6 被告は,原告に対し,44万3919円並びにうち20万円に対する平成31年2月2日から支払済みまで年5分の割合による金員,うち13万2169円に対する令和元年9月30日から支払済みまで年5分の割合による金員及びうち11万1750円に対する令和2年7月31日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
7 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
8 訴訟費用は,これを20分し,その1を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。
9 この判決は,第6項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙役務目録記載の役務に関する広告及び取引書類に,別紙被告標章目録記載1ないし8の標章を付し,又は,別紙被告標章目録記載1ないし8の標章を付した別紙役務目録記載の役務に関する広告及び取引書類を展示し,あるいは頒布してはならない。
2 被告は,別紙被告標章目録記載1ないし8の標章を付した別紙役務目録記載の役務に関する広告及び取引書類を廃棄せよ。
3 被告は,別紙役務目録記載の役務に関する広告を内容とする情報に,別紙被告標章目録記載1ないし8の標章を付して,電磁的方法により表示してはならない。
4 被告は,別紙被告標章目録記載6の標章をドメイン名として使用してはならない。
5 被告は,別紙被告標章目録記載6のドメイン名の抹消登録手続きをせよ。
6 被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成31年2月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 本件は,別紙商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」といい,本件商標権に係る商標を「本件商標」という。)を有する原告が,被告に対し,別紙被告標章目録記載1ないし8の標章(以下,それぞれ順に「被告標章1」ないし「被告標章8」といい,併せて単に「被告標章」ともいう。)を付した別紙役務目録記載の役務に関する広告を内容とするパンフレット,価格表,取引書類を展示,頒布し,また,インターネット上で掲載し,提供する行為が本件商標権の侵害に当たるとして,商標法36条1項,2項,37条1号に基づき,別紙役務目録記載の役務に関する広告及び取引書類に,被告標章を付すこと並びに被告標章を付した別紙役務目録記載の役務に関する広告及び取引書類を展示することの差止め,被告標章を付した別紙役務目録記載の役務に関する広告及び取引書類の廃棄,別紙役務目録記載の役務に関する広告を内容とする情報に,被告標章を付して,電磁的方法により表示することの差止め,被告標章6をドメイン名として使用することの差止め,同ドメイン名の抹消登録手続きを求め,また,被告が被告標章6をドメイン名として使用する行為が不正競争に当たるとして,不正競争防止法2条1項19号,3条1項,2項に基づき,被告標章6のドメイン名としての使用差止め,同ドメイン名の抹消登録手続きを求めるとともに,商標法38条2項,3項,39条(特許法105条の3),民法709条,不正競争防止法4条,5条2項,3項5号,9条に基づく損害賠償として,1億円及びこれに対する平成31年2月2日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(証拠を掲げていない事実は争いのない事実である。) (1) 当事者等 原告は,インターネット上で求人情報,求職者情報の提供を業とする株式会社である。
被告は,株式会社大学成績センターが管理する履修履歴データベースの利用を促 し,企業の採用活動・学生の就職活動において大学等での履修科目,単位数及び成績評価(履修履歴)が重視されるようにすることを目的とする一般社団法人である。
被告は,主に,インターネット上で就職情報サイトを運営し,あるいは就職,採用のあっせん等を業とする企業を会員として構成されている。
(2) 本件商標権 原告は,本件商標の登録商標権者である。本件商標の出願日,登録日,指定役務等は,別紙商標権目録各記載のとおりである(甲3,46)。
(3) 原告の事業 原告は,平成16年11月から,インターネット上に本件商標を掲げたウェブサイトを開設し,求人企業の依頼を受けて,「第二新卒」と称される若年転職希望者を中心とする20代の求職者を対象とした求人広告や就職活動に関する情報を掲載するとともに,会員登録をした求職者に対し,希望条件等に合致する求人企業の求人情報等のメールを送信するサービスを実施している(甲1,33,34)。
原告は,「新卒」と称される学生の就職希望者を対象とする就職,採用については,「あさがくナビ」(朝日学情ナビ)の名称でウェブサイトを開設し,サービスを実施している(甲13,乙6)。
(4) 被告役務等 ア 被告は,平成30年6月から,下記の被告の役務を提供するにあたり,被告標章1である「リシュ活」を含む被告標章を使用し(被告標章を使用して提供する被告の役務を,以下「被告役務」という。),被告役務に関する広告を内容とするパンフレット,価格表,取引書類を展示,頒布し,また,インターネット上で被告役務を提供し,被告役務に係る情報を掲載している。
被告役務の概要は以下のとおりである。
@ 求職者向けウェブサービス 被告は,インターネットに接続して稼働するスマートフォン用アプリケーション等を通じて,無料で,会員登録した求職者に対し,大学等での履修科目に関連する 先輩社員情報等の就職情報を提供し,また,自己の履修履歴を登録した求職者に対し,被告に加盟する企業(正会員,賛助会員)及びそのクライアント企業からのオファーメッセージ(アプリケーション上のメッセージ又は電子メール)を受領できるようにする(甲2,4,乙3,11の4)。
A 求人企業向け履修履歴オファーサービス 被告は,有償で,被告の正会員及び賛助会員(以下「加盟企業」という。)並びにそのクライアント企業が登録した企業名や採用情報サイトへのリンクを含む先輩社員情報等を,審査の上,会員登録した求職者にアプリケーション上でレコメンド表示されるように設定し,また,加盟企業及びそのクライアント企業に対し,インターネット上で,会員登録した求職者の履修履歴情報を検索可能な状態で提供し,求職者に対してオファーメッセージが送信できるようにする(甲2,4,乙3,11の4)。
イ 被告標章2は,被告の開設するウェブサイト上のリシュ活に係るプレスリリース文書において使用されている。
被告標章3及び4は,被告作成の「リシュ活」サービス企画書において使用されている。
被告標章5は,「『リシュ活』プレ会員登録フォーム」をタイトルとするウェブページにおいて使用されている。
被告標章6は,被告の開設するウェブサイトのドメイン名であり,被告のウェブサイトをブラウザで閲覧する際に表示されるほか,被告ウェブサイト内の組織概要のウェブページや被告役務の「リシュ活」サービス企画書において使用されている(甲2,4)。
被告標章7は,ツイッターにおける「リシュ活」の公式アカウントの URL として使用されている。
被告標章8は,「『リシュ活』プレ会員登録フォーム」をタイトルとするウェブページの URL として使用されている。
3 争点 (1) 役務の類否(争点1) (2) 本件商標と被告標章の類否(争点2) (3) 不正の利益を得る目的又は損害を加える目的の有無(争点3) (4) 損害の発生及び損害額(争点4) 4 当事者の主張 (1) 役務の類否(争点1) (原告の主張) ア 被告は,被告が開設するウェブサイトにおいて,求人企業名,求人サイトへのリンク,先輩社員の履修科目などを含む求人企業の広告を掲載している。また,被告は,求職者から履修履歴情報の提供を受け,求人企業が履修科目等を検索して,該当する求職者に電子メール(オファーメッセージ)を送信することができるようにしている。
これらの被告役務は,本件商標の指定役務である第35類「広告,職業のあっせん,求人情報の提供」に該当し,又は類似する。
イ 被告は,企業が求人活動にどの程度履修履歴を利用していたか,それに対して学生が企業に抱く印象などの調査,学生の学業の実態に関するアンケートを行い,セミナーや講演を通じて情報提供を行っている。
これらの被告役務は,本件商標の指定役務である第35類「経営に関する助言,市場調査,企業の人事・労務管理及び求人活動に関する指導及び助言」及び第41類「求人に関する講習会の企画・運営又は開催,就職セミナーの企画・運営又は開催,その他のセミナー・講演会・研修会の企画・運営又は開催」に該当し,又は類似する。
ウ 被告は,被告標章1に関し,「広告」「職業のあっせん」「経営に関する助言」「市場調査」等,本件商標の指定役務と同一又は類似の指定役務について商標登録しており,現に被告役務で被告標章を使用しているか,使用する予定があるこ とは明らかである。
(被告の主張) ア 被告役務は,求人企業が履修履歴データベースを参照して学生のスマートフォンにオファーメッセージを送信できるようにするものであり,第35類「広告,経営の診断又は経営に関する助言,市場調査,企業の人事・労務管理及び求人活動に関する指導及び助言」には当たらない。
また,オファーメッセージは,学生に対して当該企業への興味の有無を問うものに過ぎず,勤務条件や待遇等を提示するものではなく,雇用関係の成立をあっせんするものでもないから,第35類「職業のあっせん,求人情報の提供」に当たらない。
イ 被告が行う新卒学生の就職における履修履歴活用に関するセミナー,シンポジウム等は,いずれも「リシュ活」事業のプロモーションの一環として履修履歴の活用を啓蒙することを目的とするものであって,独立した商取引として行っているわけではないから,第41類「求人に関する講習会の企画・運営又は開催,就職セミナーの企画・運営又は開催,その他セミナー・講演会・研修会の企画・運営又は開催」に該当しない。
ウ 被告がオファーメッセージの送信に関して企業に対して行っていることは,オファーメッセージの送信のためのプラットフォームを利用可能としていることであり,当該サービスは,第42類「電子計算機用プログラムの提供」に区分される役務である。また,被告がオファーメッセージの受信に関して学生に対して行っていることは,学生に対してアプリ「リシュ活」を提供することであり,第9類「ダウンロード可能なコンピュータソフトウェア」に区分される役務である。
(2) 本件商標と被告標章の類否(争点2) (原告の主張) ア 本件商標について 本件商標は,標準文字で,アルファベットの「Re」の右横に漢字の「就活」が隙 間なく配置されたものであり,辞書には掲載されていない造語である。
「Re」は英語で再びという意味の接頭語であって,「リ」という読み方で知られており,基本的な英単語にも使われているので,取引者,需要者も同様に理解する。
また,「就活」は就職活動の略として一般に知られた単語であり,「シューカツ」という読み方で知られている。本件商標からは,「リシューカツ」という称呼のみが生じるとともに,「再度の就職活動」という観念が生じる。
本件商標の「Re」部分は,役務の内容,質を表示するものではなく,また,英語の接頭語を日本語の「就活」に前置し,1回だけであることが常識であった就職活動に対し,「再度の就職活動」という観念を生じる点で,本件商標は,強い識別力を有している。
原告商標に係る役務も,被告標章に係る役務も,20代の求人企業を需要者とすることは同じであり,近年,新卒求職者と20代の既卒求職者や転職希望者の採用の差異がなくなってきているため,需要者である求職者も重複している。
イ 被告標章1について (ア) 被告標章1は,標準文字で,カタカナの「リシュ」の右横に漢字の「活」が隙間なく配置されたものであり,辞書には掲載されていない造語である。
「活」は,送り仮名がなければ「カツ」と発音されるので,被告標章1からは「リシュカツ」の称呼が生じるが,「シュ」と「カ」の間が呼称する際に詰まった感じになって発音しにくいため,「シュー」という呼称になりやすく,「リシューカツ」という称呼も生じる。また,「リシュ活」は履修履歴活用の略であるから,その意味を知る者により,「リシューカツ」と発音されやすい。
「リシュ」が履修履歴の略として取引者・需要者に認識されるには至っていないが,語尾の「活」は,一般的には活動の略として使用されるところ,本件商標が新聞・雑誌・ネット媒体で広告,報道され周知であることから,取引者・需要者は,本件商標の影響により,被告標章1から「再度の就職活動」という意味を感じ取るので,「再度の就職活動」という観念が生じる。
(イ) 本件商標と被告標章1は,「活」の文字が共通し,いずれも標準文字で格別の特徴がないから,外観に対する印象,記憶,連想等は弱いものであり,外観は類似と考えるべきであり,そうでないとしても,その差異はごく僅かである。
称呼は,被告標章を「リシュカツ」と発音する場合,長音の有無のみが異なっているが,長音は比較的弱く聴覚されるから,ほとんど同一である。需要者である求人企業の発注担当者間では,口頭指示が想定されるから混同のおそれが高い。また,文字入力の場面でも,称呼が同じ又は類似していれば誤変換により混同するおそれが高い。需要者である求職者においても,友人との会話やメールにおいて話題にすることが想定され,そこでは,称呼やそれに基づくひらがな表記やカタカナ表記により認識することが多いと考えられるから,称呼の類似による混同のおそれは高い。
観念も同一であることから,本件商標と被告標章1は類似する。
ウ 被告標章2ないし5について (ア) 被告標章2の外観は,文字の字画が直線的で,「リシュ」の部分が黒色で,「活」の部分がピンク色である。被告標章3の外観は,被告標章2の上部に「ピンク色のスクエアアカデミックキャップ及びその手前にピンク色の虫眼鏡を配置し,虫眼鏡のレンズ部分に黄色の星形を配置した図柄」(以下「本件図柄」という。)を加えたものである。被告標章4の外観は,被告標章3の下部に「CONSORTIUM」の文字を配置したものである。被告標章5の外観は,被告標章2の左側に本件図柄を加えたものである。
被告標章4の「CONSORTIUM」は,「共同体」などの意味を持つ普通名詞であって「リシュ活」部分のみを取り出して判断すべきであるから,被告標章2ないし5から生じる称呼は,いずれも前記イ(ア)と同様に「リシュカツ」又は「リシューカツ」である。
(イ) 本件図柄はごくありふれたものであり,「リシュ活」の部分のみが取引者・需要者に対して,役務の出所識別標識として支配的な印象を与えるから,被告標章2ないし5においても,前記イ(ア)と同様に,「再度の就職活動」との観念を生 じる。
(ウ) 本件商標と被告標章2ないし5は,称呼,外観において類似し,観念も類似するから,類似といえる。
エ 被告標章6ないし8について (ア) 被告標章6の外観は「risyu-katsu.jp」との文字そのもの,被告標章7の外観は「twitter.com/risyukatsu」との文字そのもの,被告標章8の外観は「peac.jp/risyu-katsu」との文字そのものである。
被告標章6及び8の「-」は,長音符号と解釈するのが合理的であることから,「リシューカツ」の称呼を生じる。被告標章7は,「risyu」と「katsu」との間に長音を補わないと発音が困難であるため,「リシューカツ」との称呼を生じる。
被告標章6ないし8は,辞書に載っていないが,前記イ(ア)と同様に「再度の就職活動」との観念を生じる。
(イ) 被 告 標 章 6 の 「 .jp 」 , 被 告 標 章 7 の 「 twitter.com/ 」 , 被 告 標 章 8 の「peac.jp/」の部分は,いずれも被告以外の者にも使用されている文字であるから,「 risyu-katsu 」 な い し 「 risyukatsu 」 が 要 部 で あ る 。 「 risyu-katsu 」 及 び「risyukatsu」の外観は取引者・需要者において「Re 就活」を想起させ,称呼は同じであり,観念も類似するから,被告標章6ないし8は,本件商標と類似する。
(被告の主張) ア 本件商標について (ア) 本件商標は,「Re」と「就活」に分離可能な外観である。
(イ) 本 件 商標 か らは , 「リ シ ュー カ ツ」 だ けで な く, 「 アア ル イイ シ ュー カツ」,「シューカツ」及び「レシューカツ」の称呼も生じる。
(ウ) 本件商標の「Re」部分は,欧文字を2つ並べただけの単純な表示であり,「再び」を意味するものとして一般的に知られた接頭語であり,「就活」部分は,「就職活動」を意味する語として一般使用され,「就活」を含む多数の商標が第35類で登録されているから,本件商標の指定役務「求人情報の提供」,「職業のあ っせん」との関係では出所識別力を有しない。両者を結合させた本件商標は,「再度の就職活動」との観念を生じ,本件商標の指定役務「求人情報の提供」,「職業のあっせん」との関係では,単に役務の内容ないし質を表示するもので,出所識別力が極めて弱いものである。
(エ) 原告の「Re 就活」の役務の需要者は,第二新卒及び中途採用を行う企業であるが,被告の「リシュ活」の役務の需要者は,就職を希望する学生及び新卒者を求人する企業であるので,需要者が異なる。
イ 被告標章1について (ア) 本 件 商標 と 被告 標 章1 は ,4 文 字中 3 文字 が 相違 し てお り ,本 件 商標 が「Re」と「就活」を分離可能であるのに対し,被告標章1は,「リシュ」と「活」とに分離可能であって,外観上,類似しない。
(イ) 被告標章1からは「リシュカツ」の称呼を生じる。「リシュ」は発音し にくい音ではなく,「シュカ」を「シューカ」と発音することはないから,「リシューカツ」の称呼は生じない。
本件商標は「リ」と「シューカツ」を区切って発音されるか,接頭語の直後の「シュー」にアクセントをつけて発音されるのに対し,被告標章1は長音がなく,「リシュ」と「カツ」を区切って発音されるか,アクセントなく平坦に発音されるので全体的な印象が異なる。略語は明瞭に発音されるのが通常であるから「シューカツ」,「リシュ」,「カツ」はそれぞれ明瞭に発音され,称呼は類似しない。
(ウ) 「リシュ面」は,「履修履歴面接」を意味する語として一般に知られているから,「リシュ」は「履修履歴」を意味するものとして理解され,被告標章1からは,「履修履歴」の「活用」との観念が生じる。本件商標が周知であるならば,取引者・需要者に「リシュ活」との違いが一層顕著に認識されるから,被告標章1から「再度の就職活動」との観念は生じない。「再度の就職活動」と「履修履歴の活用」は異なるから,観念においても,本件商標と被告標章1は類似しない。
(エ) 「Re 就活」も「リシュ活」もオンラインでのサービスのみを提供しており, 会員登録や情報提供もウェブ画面で行うものとなっているが,ウェブサイトでの役務の提供においては,役務主体の識別はウェブサイトの上部等の目立つところに付されたロゴにより行われるのが通常であるから,称呼により取引が行われているわけではない。また,求人企業において原告や被告の役務を利用する際には,申込書を提出し,条件等を確認することにより成約するのであって,高度の注意力をもって取引を行う。求職者が原告や被告の役務を利用する際も,ウェブサイトにアクセスし,ウェブサイトの表示を見て希望するサービスであることを確認して会員登録画面に進み,会員規約に同意し,所定の情報を入力して会員登録を完了することは必要であり,その過程で,多くの画面に接することにより,視覚で役務の内容や運営主体を理解する。取引の実情を考慮すれば,出所識別において称呼は重要ではなく,外観観念を異にする本件商標と被告標章1を混同するおそれはない。
原告がテレビ CM 等において「Re 就活」の広告を行ったとしても,オレンジの背景に所定の字体でロゴを表示し,20代の転職サイトであることの説明が付されているので,特徴の異なる被告標章1とは混同しない。
(オ) 被告標章1と同一商標(標準文字)について,特許庁は商標登録査定をしており,これは,被告標章1が本件商標に類似しないことを示すものである。
ウ 被告標章2ないし5について 前記イのとおり,本件商標と被告標章1は,外観,称呼,観念のいずれの点においても類似しない。被告標章2ないし5は,「リシュ」が黒色で「活」がピンク色で表示される「リシュ活」の文字と所定の図形の組み合わせの点においても識別力を有するので,本件商標とは類似しない。
エ 被告標章6ないし8について 本件商標の「Re」部分は,英語で再びという意味の接頭語であり,「就活」と組み合わせることにより「再度の就職活動」の観念を生じるものであり,「Re」であることに特徴があり,「ri」で始まる被告標章6ないし8は,外観においても観念においても非類似である。称呼においても,「risyu-katsu」は「リシュ・カツ」, 「risyukatsu」は「リシュカツ」の称呼を生じ,本件商標の「リシューカツ」の称呼非類似であるか,少なくとも,外観および観念の違いが凌駕するので,被告標章6ないし8は,本件商標に類似しない。
(3) 不正の利益を得る目的又は損害を加える目的の有無(争点3) (原告の主張) 本件商標の顧客誘引力は強く,被告の役員は,原告の同業者の役員または従業員であるから,本件商標を知らないはずがない。「リシュ」が「履修履歴」を意味するというのも,「活」が「活用」を意味するというのも,日本語として不自然であり,被告が本件商標に類似したドメイン名を使用する必然性はないから,本件商標が有する顧客誘引力にフリーライドする目的がある。
また,被告の役員は,原告と競業する者であり,原告が損害を被れば,原告の営業力が減退し,競業者にとって相対的に有利になるから,原告に損害を加える目的がある。
(被告の主張) 「リシュ活」は「履修履歴活用」を意味し,「履修履歴活用コンソーシアム」の役務について使用しているのであって,本件商標を意識したものではない。
「risyu-katsu」は , カタ カ ナ部 分の 「 リ シュ 」 に対 応す る 「 risyu」と 漢 字部 分 の「活」に対応する「katsu」の間にハイフンを入れたものであるから,被告には,不正の利益を得る目的も,他人に損害を加える目的もない。
原告の求人媒体業界におけるシェアは低く,フリーライドするのであれば,原告商標より著名な「リクナビ」「マイナビ」などにフリーライドした方が効果的である。
被告は,平成30年9月27日,原告の取締役であるP1氏を訪ね,被告の理念,理想について説明しているが,仮に,被告に不正の利益を得る目的や損害を加える目的があれば,このような行動はしない。
(4) 損害の発生及び損害額(争点4) (原告の主張) ア 商標法38条2項,不正競争防止法5条2項の主張 (ア) 推定の適用 被告に参画する加盟企業は,営業主体を誤認していないが,本件商標権侵害の共同不法行為者であるので,商標法38条2項の適用がないことの理由にはならない。
(イ) 売上及び利益の額 被告には,平成30年6月1日から同年9月30日まで(第1期)については130万円,同年10月1日から令和元年9月30日まで(第2期)については403万7696円の売り上げがあった。
被告の令和元年10月1日から令和2年9月30日まで(第3期)については,令和元年9月以前に退会して同年10月以降に賛助会員となった1社及び令和2年7月4日までの間に賛助会員となった1社が加わり,加盟金・年会費収入は少なくとも142万5000円と考えられる。また,加盟金・年会費以外の売上(システム利用料)は,会員が増えたことにより第2期よりも増加したと考えられるので,少なくとも311万0800円と考えられる。
被告は役務を提供しており,売上によって直接に変動しない経費は存在しないから,売上の全額が商標法38条2項,不正競争防止法5条2項の利益といえ,これが原告の損害額と推定される。
加盟金及び年会費は,被告の売上に計上されており,被告が加盟企業に販売する役務の対価であり,求人企業への転嫁が予定されているから,商標法38条2項の利益を算定する基礎とすべきである。
被告の費用は,いずれも売上と費用の相関関係がなく,被告の役務販売に直接関連して追加的に必要となった経費ではないから,商標法38条2項の利益の額を算定するに当たって控除するべき費用に当たらない。
(ウ) 推定の覆滅事由 本件商標がウィークマークであること,あるいは被告標章との類似性が乏しいと の被告の主張は争う。本件商標を付した役務も,被告標章を付した役務も,求職者に個人情報を登録させ,求人企業が求職者に連絡し,面接に至る営業態様は同一であるし,取引者・需要者も重複している。被告の加盟企業は,商標権侵害により被告とともに利益を得る関係にあり,本件商標を付した役務との広義の混同を生じる可能性を認識して被告役務を販売しているから,被告標章の称呼に着目している。
原告と競合する他社について企業全体の売上高を比較しても,本件商標とは無関係な役務が多く,シェアを算定したことにならない。原告が使用する「Re 就活」のロゴはオレンジ色で,被告のロゴと同じ暖色系で類似色であるし,字体も直線的で線の幅が一定である特徴が共通しており,何らかの関連性があるとの認識を与えるものであって,被告のサービスの需要喚起に貢献していないことはない。本件商標を付した役務と錯誤したことにより,求人企業が被告の会員に役務の対価を支払っても,錯誤に陥ったままであるとか,担当者が気付いても申告しないことにより,原告の把握できない損害が発生している。被告標章6のドメイン名は,求人企業に対する被告の役務の利用の勧誘に用いられているから,被告の利益獲得に貢献している。
以上のとおり,商標法38条2項の推定を覆滅する事由は存しない。
イ 商標法38条3項,不正競争防止法5条3項5号の主張 (ア) 損害の発生 原告は,東京,名古屋,大阪等に営業拠点を有し,当該地域において多大な費用を投じて広告を展開したところ,被告は,同地域において被告標章を使用したイベントを反復し,1万人を超える学生が利用するに至っているから,損害不発生の抗弁が成り立つ余地はない。
(イ) 使用料率 被告は,本件商標に類似する被告標章6をドメイン名に使用しているが,自己の商標をドメイン名に使用させる許諾事例はありえない。本件商標の顧客誘引力は高く,被告は,原告と競合する同業者に被告標章を使用した役務を提供しており,違 法性が高く,被告標章1を商標登録して独占的に使用しようとしている。原告と被告との間には何ら契約関係が存在せず,契約等で計算書類等開示義務がある場合と比較して,原告の権利保障は弱い。
これらの事情から,商標法38条3項,不正競争防止法5条3項5号により「受けるべき金銭の額」は必然的に高額になり,売上額が少ない場合は,売上額の全額あるいはこれを超える額をミニマムギャランティの額として認定すべきである。
本件商標がウィークマークである,あるいは被告標章との類似性が乏しいとの被告の主張は争う。本件商標を付した役務も被告標章を付した役務も,求職者に個人情報を登録させ,求人企業が求職者に連絡し,面接に至る営業態様は同一であるし,取引者・需要者も重複している。本件商標及びこれに類似する被告標章の使用自体が商標法に違反する以上,被告が本件商標を被告のサービスに使用できないのは当然であり,賠償額を低減する理由にならない。
原告も被告もロゴを使用しているが,需要者の視点では,主体を判断する場合,重視すべきは必然的に称呼となり,原告のロゴにおいてオレンジ色と黒色を用いているところ,被告のロゴもピンク色と黒色であり,オレンジ色とピンク色は類似色であるから,商標法38条3項の使用料率を低減する理由にはならない。原告は,標準文字に近い字体で原告商標を使用していたこともあり,その字体でも顧客誘引力を有している。
被告は,新しい役務・商品の名称を検討するに当たり,既存の同種役務・商品の名称を調査し,類似標章の使用を回避することが通常であるのに,あえて被告標章を使用しているから,本件商標の顧客誘引力にフリーライドしようとしたといえる。
需要者において,本件商標を使用する原告の役務と被告役務が異なることを認識できるとしても,一般に類似の標章を使用した商品・役務については,姉妹品の類と誤認し,出所の混同を生じるから,被告がこれを利用して収益をあげていることは明らかである。
本件商標は,原告の会社説明資料の冒頭に付されており,原告の提供する代表的 な役務に使用されるコーポレートブランドといえるから,コーポレートブランド以外に係る使用料率とすべきではない。
(ウ) 使用料相当額について特に高額とすべき事情 被告は,被告標章を使用して,2万名の学生から個人情報を取得した。被告は,求職者から対価を徴収していないが,求職者の個人情報,志望業種,志望職種・属性等の情報を入手しており,求人企業への提供が想定されているものであって,財産的価値がある。株式会社リクルートキャリアが販売した内定辞退率に関する情報の価値は,一人当たり5833円ないし7291円と考えられ,また,求職者に限定されない個人情報でも一人当たり1万円の損害賠償が認容された事例もあるので,求職者に限定された個人情報であれば,一人当たり5万円を下らない価値がある。
そうすると,原告が商標法38条3項,不正競争防止法5条3項5号により「受けるべき金銭の額」は,求職者一人当たり5000円を下らないから,被告は,少なくとも2万名の求職者に被告標章を示して個人情報を得ているので,賠償すべき額は少なくとも1億円である。
ウ 相当な損害の主張 被告は,被告標章を使用して,求職者の個人情報を取得したほか,イベント等のために被告標章を使用し,正会員や賛助会員に使用させたが,個々のイベントの参加者数が不明なため,この点に係る損害を立証するために必要な事実の立証が極めて困難であるから,商標法39条の準用する特許法105条の3,不正競争防止法9条により,別途相当な損害額が認定されるべきである。
エ 弁護士費用 原告は,本件訴訟について,弁護士及び弁理士に委任して遂行しなければならなかった。この損害は,少なくとも300万円である。
(被告の主張) ア 商標法38条2項の主張について (ア) 推定の適用 被告に加盟する企業は被告の理念に賛同して参画したものであり,被告標章を本件商標と混同して参画した企業は皆無であり,被告が被告標章を使用しなかったとしても,加盟企業が被告役務の提供を申し込まなかったとは考えられないから,商標法38条2項の適用はない。
(イ) 売上及び利益の額 被告は,被告役務の提供に関して学生から利用料を受け取っておらず,被告の売上は,加盟企業が支払う加盟金及び年会費並びにクライアント企業が支払うシステム利用料からなっている。被告の第1期の売上は加盟金130万円で被告役務を提供するためのシステム維持費,事務局業務費,広告宣伝費などの販管費は693万4414円であり,第2期の売上は加盟金125万円,年会費156万6000円,システム利用料122万1696円であり,販管費は942万5160円であり,第3期の令和2年7月31日までの売上は加盟金5万円,年会費112万5848円,システム利用料101万7500円である。
加盟金と年会費は,被告に参画するために支払われるものであり,被告が被告標章を使用しなかったとしても,加盟企業が被告役務の提供を申し込まなかったとは考えられないから,加盟金と年会費は,商標法38条2項の利益の額を算定する基礎となる売上に含まれない。
被告は,「リシュ活」の業務のみを行っているから,販管費はすべて被告役務の提供に直接関連して追加的に必要になった経費であり,これらを差し引くと,商標法38条2項の利益の額は0である。
仮にそうでないとしても,別紙1ないし4記載の経費は,被告役務の提供に直接関連して追加的に必要になった経費であり,これらを差し引くと,商標法38条2項の利益の額は0である。
(ウ) 推定の覆滅事由 本件商標を構成する「Re」の部分と「就活」の部分はいずれも出所識別力を有しないものであり,全体的に観察しても,再度の就職活動という役務の内容ないし質 を示すものに過ぎないウィークマークである。本件商標と被告標章の類似性は乏しく,原告が現に使用している標章とは明瞭な違いがあり,両者が相紛れることはない。
原告の「Re 就活」のサービスと被告の「リシュ活」のサービスは,業務態様を全く異にし,市場において競合していない。原告の「Re 就活」のサービスの需要者・取引者は第二新卒及び中途採用を行う企業であるが,被告の「リシュ活」のサービスの取引者・需要者は就職を希望する学生及び新卒者を求人する企業であるから,取引者・需要者を異にする。求人媒体における原告のシェア(売上高)は, 1.59%に過ぎない。被告の加盟企業は,被告のサービスの理念に共感して参画するので,被告標章を付したことにより得たといえる被告の利益は相当程度限定されたものである。原告や被告のサービスに係る企業取引において,サービスの内容を確かめないことはあり得ず,誤認混同が生ずる事態は考えられない。被告標章6のドメイン名に係るウェブサイトは,被告の設立趣意等の組織紹介にしか使用しておらず,学生向けに「リシュ活」アプリのダウンロードや履修履歴の登録を誘引するウェブサイトは「https://rrweb.jp」である。
これらの事実は,推定の覆滅事由というべきであり,覆滅の程度は99%以上である。
イ 商標法38条3項の主張について (ア) 損害の発生 被告に参画する企業は,「リシュ活」等の被告標章に着目して取引を選択するのではないから,本件商標と混同し,あるいは原告と関係があるものと誤認して参画することはない。したがって,被告が「リシュ活」の名称を付したことによって 加盟企業が被告役務の提供を申し込んだとは考えられないから,原告に損害が発生していないことは明らかである。
(イ) 使用料率 本件商標の使用許諾の実績はなく,単に役務の内容ないし質を表示するに過ぎな いウィークマークであるから,使用料率は低廉であるべきである。本件商標や原告の使用する標章と被告標章は顕著に違いがあるので,顧客誘引力を利用できる余地はなく,使用料率は低廉であるべきである。
被告の「リシュ活」サービスは,原告の「Re 就活」サービスとは業務態様を全く異にし,被告のサービスに「Re 就活」を使用すれば品質誤認のおそれがあるので,本件商標の顧客誘引力が被告の売上に貢献する余地はない。原告が現実に使用している「Re 就活」の標章は特徴的な字体のロゴであり,被告の使用する「リシュ活」の標章も特徴的なロゴであるから,「Re 就活」の文字による識別力や顧客誘引力が,被告の売上に貢献する余地はなく,被告は,本件商標の顧客誘引力や信用を利用することを目的として被告標章を使用したものではない。
ウェブサイトで提供される役務については,ウェブサイト画面の上部等の目立つところに配置されたロゴにより識別されるのが通常であり,企業が利用する際には,申込書を提出し,条件等を確認して成約する企業取引であって,高度の注意力をもって行われるから,文字の果たす役割は限定的である。
本件商標の属する第35類のロイヤルティ料率は3.9%程度であるところ,ライセンスされた商標がそのまま使用されることを想定しており,同業他社へのライセンスを想定しているから,本件商標を被告がそのまま使用していないこと,原告と被告の業態が異なることからすると,はるかに低額であるべきである。
これらの事実を考慮すると,実施料率は0.1%を超えることはないというべきである。
(ウ) 使用料相当額を高額とすべき事情 被告のサービスは,全体として一体のスキームの中で,サービス提供の対価としてシステム利用料を加盟企業から取得するのであり,学生から対価を取得していないことも,スキームの一部を構成しているから,商標法38条3項の使用料を検討するに当たっても,学生との関係を切り離して考えるべきではない。
原告が主張する求職者の個人情報収集や個人情報漏洩については,本件商標権と は直接関係しない。
ウ 損害に関する原告のその余の主張について いずれも争う。
当裁判所の判断
1 争点1(役務の類否)について (1) 証拠(甲4,7,8,乙3,11の4,5 )によれば,被告は,被告役務として,スマートフォン用アプリケーションで会員登録した者に対し,求人企業があらかじめ作成し,被告が内容を審査して登録した先輩社員の出身学校名,学部学科名,履修科目等,企業における仕事内容,企業名,本社所在地,企業のサイトへのリンク,採用情報へのリンクなどからなる「先輩社員情報」をレコメンド表示する役務を提供していることが認められる。
上記役務は,求人企業のために,当該企業に興味を持ちそうな者に対し,当該企業の仕事の魅力等を伝達するものであるから,本件商標の指定役務である「広告」に該当し,求人企業の企業名や本社所在地等を表示するものであるから,同じく「求人情報の提供」にも該当する。
また,証拠(甲4,7,8,乙3)によれば,被告役務のオファーメッセージ送信サービスは,求人企業があらかじめ登録したメッセージがアプリケーションあるいは E メールで会員登録した者に送付されるものであり,被告は,この機能について,「企業からオファーが届く」,「履修履歴でオファーが届く逆求人アプリ」などと宣伝していることが認められるから,この機能は,アプリケーションを利用しようとする者にとっては,本件商標の指定役務である「職業のあっせん」,「求人情報の提供」に相当する役務を受けられるものと理解させるものであり,被告において現実にオファーメッセージの内容に関与していないとしても,外形的には上記指定役務に類似するものといえる。
(2) 被告は,「リシュ活」のサービスは,企業にオファーメッセージの送信のためのプラットフォームを利用可能とするものであるので,指定役務区分第42類 の「電子計算機用プログラムの提供」に区分され,学生にアプリ「リシュ活」を提供するものであるので,同じく第9類の「ダウンロード可能なコンピュータソフトウェア」に区分される役務であると主張する。
しかしながら,それらの役務に該当するからといって,前記(1)で検討した「広告」,「職業のあっせん」,「求人情報の提供」に該当しないことにはならないし,被告自身も,「リシュ活」を商標登録出願するに際し,その指定役務を「広告」,「職業のあっせん」,「求人情報の提供」を含む役務区分第35類及び第41類のみとし,第9類及び第42類を指定役務としていない(乙63,64)。
(3) 以上によれば,被告標章の使用の対象となる被告役務は,本件商標の指定役務と同一又は類似であるということができる。
2 争点2(本件商標と被告標章の類否)について (1) 取引の実情について ア 原告の事業 (ア) 本件商標は,前記前提事実のとおり,原告による第二新卒を中心とする20代の求職者を対象としたウェブサイト上での求人情報等の提供,求人企業の求人情報等のメール送信等に係る役務の名称として用いられており,新卒者を対象とする役務については別の名称で行っているから,本件商標に係る役務の需要者は,第二新卒を中心とする新卒以外の若年求職者の採用を希望して求人広告等を依頼しようとする求人企業と,第二新卒を中心とする新卒以外の若年求職者であると認められる。
(イ) 証拠(甲1,乙6ないし8,12の1ないし6)によれば,求職者が本件商標に係る役務を利用するに当たり,ウェブサイト上の求人情報を閲覧するには特段の手続きは必要ないが,個別に求人情報メールを受信する等のサービスを受けるには,原告のウェブサイト上で氏名及びメールアドレスを登録して会員規約に同意して会員登録をする必要があることが認められる。また,証拠(乙9)によれば,求人企業が本件商標に係る役務を利用するには,原告に対し,企画参加申込書を提 出して,所定の金額に係る契約を締結する必要があることが認められる。
イ 被告役務 (ア) 被告標章2ないし8は,前記前提事実のとおり,被告による大学等での履修履歴,成績等を登録した者を対象としたウェブサイト上での求人情報等の提供,スマートフォン用アプリケーション上での求人企業からのオファーメッセージの送受信等を内容とする被告役務に使用されている。
証拠(乙3,4)によれば,履修履歴データベースへの履修履歴,成績等の登録は,株式会社大学成績センターのウェブサイトにおいて行われており,同サイトでは,学生用であることが明示されていることが認められるから,被告役務は,基本的に大学等に在学中の者の利用が想定され,履修履歴データベースへの登録を前提とする被告役務の利用者も,大学等に在学中の者が想定されているものと認められる。
そうすると,被告役務の需要者は,新卒の求職者を採用するために広告や勧誘メッセージの送信を希望する求人企業及び就職を希望する学生であると認められる。
原告は,近年,新卒求職者と20代の既卒求職者を含む転職希望者の採用の差異がなくなってきているから,本件商標に係る役務と被告役務の需要者が重複していると主張するが,証拠(乙6,13の1ないし8,乙22の1,乙24の4,乙25,40の1)によれば,原告を含む新卒求職者と転職希望者双方に係る就職情報サイトを運営している企業であっても,新卒求職者対象のサイトと転職希望者対象のサイトを別サイトとし,別の名称で役務を提供していることが認められるから,少なくとも就職情報サイトに係る役務においては,新卒求職者と転職希望者は区別されているものと認められる。
(イ) 証拠(乙3,4,36の2)によれば,学生が被告役務を利用するには,メールアドレス,電話番号,現住所と学校情報を登録した上で,アプリをダウンロードすることが必要であり,それのみで先輩社員情報等の求人企業の広告やイベント情報などを閲覧することはできるが,先輩社員情報のレコメンド表示やオファー メッセージの受信には履修履歴データベースへの履修履歴(卒業予定年,学校名,学部名,学科名,講義名,成績評価,単位数)の登録が必要であることが認められる。また,証拠(乙5)によれば,求人企業が被告役務を利用するには,オファーメッセージ数に応じた料金に係る企画(パック)を選択し,被告の加盟企業を通じて,履修履歴オファーサービス利用申請書を提出する必要があることが認められる。
(2) 本件商標の外観,称呼,観念について ア 外観 本件商標は,欧文字の「Re」と漢字の「就活」という標準文字の文字列が横並びに配置されている。
称呼 「就活」という単語の前に配置された「Re」は,接頭語的なものと理解され,「リ」と発音されるものと認められるから,本件商標からは,「リシューカツ」という称呼が生じると認められる。
被告は,本件商標から「アアルイイシューカツ」,「シューカツ」及び「レシューカツ」という称呼も生じると主張するが,「Re」は容易に発音できる文字であるから,全く発音せずに「シューカツ」のみ読むことが一般的とは考え難く,「Re」を「アアルイイ」や「レ」と発音することがないとはいえないものの,英語における接頭語としては,「リ」と発音するのが一般的と解される(甲9)。
観念 本件商標の文字列のうち「就活」は,就職活動の略語として一般に使用されており,「Re」は「就活」という完結した単語に前置されているので,英語における接頭語として,「あとに」,「再び」という観念を生じる(甲9)。
そうすると,本件商標からは,「通常の時期よりも後に行う就職活動」ないし「再び行う就職活動」の観念が生じる。
エ 出所識別力 被告は,本件商標が指定役務との関係で出所識別力がないか極めて弱いと主張するが,「Re 就活」は造語であり,辞書等にも登載されておらず,第三者が「再び行う就職活動」などの意味で使用している事実もなく,普通名詞として通用しているものとも認められないから,一定の出所識別力は有するものといえる。
(3) 本件商標と被告標章1の類否 ア 被告標章1の外観,称呼,観念 (ア) 被告標章1は,カタカナの「リシュ」と漢字の「活」という標準文字の文字列が横並びで配置されている。
(イ) 被告標章1からは,「リシュカツ」という称呼が生じる。
原告は,「リシュカツ」の発音のしにくさや「履修履歴活用」の略であることから「リシューカツ」という称呼も生じると主張するが,発音が特に困難であるとまでは認め難く,「履修履歴活用」の略であっても,文字列としては長音を含んでいないので,「リシューカツ」と発音することが一般的とまでは考え難く,通常は「リシュカツ」と発音されるものと認められる。
(ウ) 被 告標 章1 は ,造語 であ り, 辞書 等に は 登載 され てい ない。 また ,証拠(乙2)によれば,企業の採用面接において「履修履歴面接」あるいは「履修履歴活用面接」といった方法が行われることがあり,これを「リシュ面」と呼ぶことがあると認められるが,「リシュ」それ自体が「履修履歴」の略語として一般的に使用されていると認めるに足りる証拠はない。そうすると,被告標章1が「履修履歴の活用」の観念を生じさせるということはできない。また,「リシュ面」の用語を知っている者は,「リシュ」から面接方法に関する役務を想起することもあり得るが,「活」の語は,「活用」の略語としてではなく「活動」の略語として使用されることが多いから(甲292),その場合であっても,「履修履歴の活用」といった観念を生じるとは考えにくい。
原告は,本件商標が周知のものであるから,被告標章1から「再度の就職活動」との観念が生じると主張するが,被告標章1の「リ」はカタカナであるから,「R e」と異なり,英語の接頭語としての観念が直ちに生じるものではないし,「リシュ活」を「リ」と「シュ活」に分断することも不自然であるから,「リシュ活」から「再度の就職活動」の観念が生じるとは考え難い。原告において本件商標に係る役務について多数の広告宣伝活動を行っているものの,原告の調査によっても,20代の男女のうち,3割弱しか本件商標を知らないというのであるから(甲31),本件商標が周知であることを理由に被告標章1から本件商標と同一の観念が生じるとまではいえない。
以上によれば,被告標章1それ自体からは,特定の観念は生じないものといえる。
イ 本件商標と被告標章1の対比 (ア) 前記のとおり,本件商標は,欧文字2文字と漢字2文字からなっており,カタカナ3文字と漢字1文字からなる被告標章1とは,語尾の「活」の一文字のみが共通しているに過ぎず,欧文字とカタカナから受ける印象も相応に異なるから,外観は同一ではなく,類似するものとも認め難い。
また,被告標章1からは特定の観念を生じないため,観念の点において,両者が同一又は類似ということはできない。
しかしながら,称呼においては,両者は長音の有無が異なるに過ぎず,長音は他の明確な発音と比べて比較的印象に残りにくいことから,離隔的に観察した場合,同一のものと誤認しやすく,極めて類似しているといえる。被告は,アクセントが異なると主張するが,本件商標も被告標章1も造語であるため,固定したアクセントがあるわけではなく,時と場所を異にしてもアクセントの違いで区別できるほど,印象が異なるものとは認め難い。
(イ) 取引の実情を踏まえて検討するに,需要者である求人企業においては,前記認定のとおり,本件商標に係る役務についても,被告役務についても,役務利用に当たっては文書による申込みを要し,役務のプランを選択し,相応の料金を支払うものであり,新規に正社員を採用するという企業にとって日常の営業活動とは異 なる重要な活動の一環として行われる取引であるから,求人に係る媒体の事業者が多数ある中で(乙17,33),どの程度の経費を投じていかなる媒体でいかなる広告や勧誘を行うかは,各事業者の役務内容等を考慮して慎重に検討するものと考えられ,外観観念が類似しない本件商標と被告標章1について,需要者である求人企業が,称呼類似性により誤認混同するおそれがあるとは認め難い。
しかしながら,求職者についてみると,前記認定のとおり,本件商標に係る役務も被告役務も,利用のための会員登録は簡易であり,無料で利用できる上,証拠(乙13,18ないし27,34。各枝番を含む。)によれば,多数の他の求人情報ウェブサイトでも会員登録無料をうたっており,気軽に利用できるように簡単に会員登録ができることを宣伝しているところ,情報を得て就職先の選択肢を広げる意味で複数のサイトに会員登録する動機がある一方で,複数のサイトに会員登録することに何らの制約もなく,現実に多数の大学生が複数の就職情報サイトに登録していることが認められる。そうすると,求職者については,必ずしも役務内容を事前に精査して比較検討するのではなく,会員登録が無料で簡易であるため,役務の名称を見てとりあえず会員登録してみることがあるものと考えられる。
そして,本件商標も被告標章1も短く平易な文字列であり,発音も容易であること,本件商標に係る役務や被告役務はインターネット上で提供されているところ,インターネット上のウェブサイトやアプリケーションにアクセスする方法としては,検索エンジン等を利用した文字列による検索が一般的であり,正確な表記ではなく,称呼に基づくひらがなやカタカナでの検索も一般に行われており,ウェブサイトや検索エンジン側においてもあいまいな表記による検索にも対応できるようにしていることが広く知られていることからすれば,需要者である求職者は,外観よりも称呼をより強く記憶し,称呼によって役務の利用に至ることが多いものというべきである。
そうすると,求職者が需要者に含まれるという取引の実情にかんがみれば,需要者に与える印象や記憶においては,本件商標と被告標章1とでは,前記外観の差異 よりも,称呼類似性の影響が大きく,被告標章1は特定の観念を生じず,観念の点から称呼類似性の影響を覆すほどの印象を受けるものではないから,前述のとおり必ずしも事前に精査の上会員登録するわけではない学生等の求職者において,被告標章1を本件商標に係る役務の名称と誤認混同したり,本件商標に係る役務と被告役務とが,同一の主体により提供されるものと誤信するおそれがあると認められる。
(ウ) 被告は,ウェブサイトでの役務の提供においては,役務主体の識別はウェブサイトの上部等の目立つところに付されたロゴにより行われるのが通常であると主張するが,前記のとおり,インターネット上においても,文字列で構成された商標については,称呼で記憶してアクセスすることが多いのであり,称呼の重要性が低いものとはいえない。また,被告は,求職者がサービス内容を確認して会員規約に同意し,所定の情報を入力して会員登録するまでの過程で多くの画面に接することにより視覚で役務の内容や運営主体を理解すると主張するが,証拠(乙3,36の1,2)によれば,被告は,ウェブサイト上で,被告役務につき「まずは会員登録してください。メールアドレスと属性の登録のみで約1分で完了します。」などと記載し,会員登録フォームのページには被告役務の内容を説明する特段の記載はなく,メールアドレスや学校名等の登録のみで会員登録が完了し,会員規約はスクロールしなければ内容を確認できないものであることが認められる。他方,被告役務の会員登録に当たって,学生に役務の内容や運営主体を理解させ,本件商標に係る役務との誤認混同を生じさせないようにする識別表示については,存するとは認められない。
(4) 本件商標と被告標章2ないし5の類否 ア 被告標章2ないし5の外観,称呼,観念 (ア) 被告標章2は,カタカナの「リシュ」と漢字の「活」の文字列が横並びで配置され,字形はいずれも曲線を用いず,ほぼ縦方向及び横方向の太い直線の組合せにより構成されており,「リシュ」は黒色,「活」はピンク色である。
被告標章3は,被告標章2の上部に,「リシュ活」の文字の大きさの2文字分程度の大きさの,アカデミックキャップや虫眼鏡等を配置した本件図柄を置いたものである。
被告標章4は,被告標章3の下部に,「リシュ活」の文字列と長さをそろえた欧文字の「CONSORTIUM」を,横並びで黒色ゴシック調の文字列で配置したものである。
被告標章5は,被告標章2の左側に,「リシュ活」の文字の大きさの2文字分程度の大きさで本件図柄を配置したものである。
(イ) 被告標章2からは,被告標章1と同様に「リシュカツ」という 称呼が生じる。
被告標章3及び5については,本件図柄からは特定の称呼は生じないと考えられるから,「リシュカツ」という称呼が生じる。
被告標章4については,本件図柄からは特定の称呼が生じないが,「CONSORTIUM」からは「コンソーシアム」という称呼が生じるから,「リシュカツコンソーシアム」という称呼が生じる。
(ウ) 前記認定のとおり,「リシュ活」の文字列からは特定の観念を生じ ず,本件図柄も虫眼鏡等の物品を重ねて配置した形状で特定の観念を生じないから,被告標章2ないし5についても特定の観念を生じない。なお,被告標章4の「CONSORTIUM」は「協会」「組合」等の意味を有するが,「リシュ活」から観念を生じないため,いかなる組織であるかを想起させることができず,全体として観念を生じないものといえる。
イ 本件商標と被告標章2ないし5の対比 前記認定のとおり,標準文字からなる被告標章1は,本件商標と類似するところ,被告標章2は,標準文字ではないものの,太い直線からなる字形はありふれたものであり,黒色とピンク色からなることもそれほど珍しい配色とはいえないから,外観において被告標章1と大きく異なる印象を与えるものではない。そうする と,取引の実情にかんがみれば,需要者において,称呼を同じくする被告標章2も本件商標に係る役務の名称と誤認混同するおそれがあると認められるから,被告標章2は本件商標に類似するというべきである。
また,本件図柄は,虫眼鏡等のありふれた物品を重ねた図案であって,特定の意味を観念できないものであり,平易な文字列である「リシュ活」と比べて極めて弱い印象を与えるに過ぎないから,被告標章3及び5も,同様に本件商標に類似するものと認められる。
さらに,被告標章4の「CONSORTIUM」の文字列は,「リシュ活」の文字列よりも個々の文字が小さく,「協会」や「組合」といった意味合いで理解されるから,「リシュ活」部分が役務の主体を識別する部分として認識され,記憶されると考えられるから,被告標章3及び5と同様に本件商標に類似するものと認められる。
(5) 本件商標と被告標章6ないし8の類否 ア 被告標章6ないし8の外観,称呼,観念 (ア) 被告標章6は,欧文字の「risyu-katsu.jp」という標準文字の文字列が横並びで配置されている。
被告標章7は,欧文字の「twitter.com/risyukatsu」という標準文字の文字列が横並びで配置されている。
被告標章8は,欧文字の「peac.jp/risyu-katsu」という標準文字の文字列が横並びで配置されている。
(イ) 被告標章6からは,「リシュカツドットジェーピー」という称呼が生じ ,あるいは「-」を長音を表現したものとみて,「リシューカツドットジェーピー」という称呼が生じる。
被告標章7からは,「ツイッタードットコムスラッシュリシュカツ」という称呼が生じる。原告は,「risyu」と「katsu」の間に長音を補わないと発音が困難であるため,「リシューカツ」との称呼が生じると主張するが,「リシュカツ」の発音 が特に困難であるとは認められない。
被告標章8からは,「ピークドットジェーピースラッシュリシュカツ」ないし「ピークドットジェーピースラッシュリシューカツ」という称呼が生じる。
(ウ) 「risyu-katsu」及び「risyukatsu」は造語である「リシュ活」をローマ字表記したものであって,前記認定のとおり「リシュ活」には特定の観念を生じないから「risyu-katsu」及び「risyukatsu」も同様に特定の観念を生じない。また,被告標章6の「.jp」,被告標章7の「twitter.com/」及び被告標章8の「peac.jp/」の部分は,インターネット上ではドメイン名と理解され,「risyu-katsu」ないし「risyukatsu」の役務について何ら観念を生じさせるものではないから,被告標章6ないし8からは特定の観念を生じない。
イ 本件商標と被告標章6ないし8の対比 被告標章6ないし8は,欧文字のみで構成されており,先頭が大文字である本件商標とはすべての文字が一致しないから,外観が同一又は類似とはいえない。
他方,被告標章6の「.jp」は,株式会社日本レジストリサービスの管理するドメイン名であることを示すものであり(甲365),被告標章7の「twitter.com/」及び被告標章8の「peac.jp/」はドメイン名であって,「/」以下の文字列とは区別して認識されるから,いずれも「risyu-katsu」ないし「risyukatsu」より生ずる称呼をもって,各標章の称呼と認識されることになる。
そうすると,被告標章6ないし8は,外観,観念において本件商標と同一又は類似とはいえないが,称呼においては本件商標と類似しており,前記の取引の実情にかんがみても,被告標章1ないし5と同様,需要者において,本件商標に係る役務の名称と誤認混同するおそれがあると認められる。
(6) まとめ 前記1及び2の(1)ないし(5)で検討したところによれば,被告は,本件商標の指定役務と同一又は類似の範囲にある被告役務に,称呼において本件商標と類似する被告標章を使用しており,需要者に誤認混同を生じさせるおそれがあると認められ るから,被告は本件商標権を侵害するものというべきである。
なお,被告標章1と同一の商標(標準文字)が商標登録査定されたことについて,被告は,被告標章1が本件商標に類似しないことの理由としてのみ援用している。
3 争点4(損害の発生及び損害額)について (1) 前記認定によれば,被告が,平成30年6月から,被告の主たる役務(被告役務)の名称を被告標章1とし,ウェブサイトや企画書において被告標章2ないし8を使用していることは,本件商標権を侵害するものである。そして,被告には当該行為につき過失が推定される(商標法39条,特許法103条)から,被告は,本件商標権侵害によって原告が被った損害を賠償する義務がある。
(2) 商標法38条2項の主張について ア 証拠(乙76ないし78)によれば,被告は,被告役務の提供の対価として,平成30年6月1日から令和2年7月31日までの間に223万9196円のシステム利用料収入を得たことが認められる。原告は,令和元年10月1日から令和2年9月30日までの加盟金・年会費以外の売上が少なくとも311万0800円であると主張するが,それ以前のシステム利用料収入からの推計にすぎず,採用できない。
また,原告は,加盟金及び年会費も被告が加盟企業に販売する被告役務の対価であって求人企業への転嫁が予定されているから,商標法38条2項の利益を算定する基礎とすべきであると主張するが,証拠(甲4,乙5,11の1ないし5,乙188)によれば,加盟企業は法人である被告自体に加盟しており,被告役務の利用や販売の有無にかかわらず加盟金及び年会費を負担するものであり,加盟金,年会費及び被告役務の利用料金はそれぞれ被告において定額で決められており,加盟企業が求人企業に転嫁することが予定されているものともいえないから,被告役務の提供に対する対価には当たらない。
イ 証拠(乙80,87の1,乙88ないし93,94の1,2,乙97の1な いし3,乙99の1,2,乙103,104,124,126,127の1,2,乙130,138,140,142,145,148,149,153,155,166,170,173ないし176,182ないし184,188)によれば,被告は,平成30年6月から令和2年7月31日までの間に,被告役務に係るウェブサイトの制作費,メンテナンス費として127万2190円,履修履歴データベース利用料として20万5200円,履修履歴データベースとの連携に係るバナー設置費用として16万2000円,ドメイン更新料として2万1471円を支払い,被告設立前に被告役務に係るウェブサイトの制作費,メンテナンス費,ドメイン取得料,システム利用料,履修履歴データベースとの連携に係るバナー制作,設置費用,ロゴデザイン費として株式会社パフが支払った97万9946円の債務を引き受けたことが認められ,少なくともこれらはいずれも被告役務を提供するために直接必要な費用であると認められる。
ウ 以上によれば,令和2年7月31日までの被告役務の提供に係る売上が223万9196円であるのに対し,これに必要な費用は少なくとも264万0807円であるから,被告が侵害行為により利益を受けたとは認められない。そうすると,原告の商標法38条2項に係る主張は採用できない。
(3) 商標法38条3項の主張について ア 被告は,加盟企業が「Re 就活」と混同し,関係があるものと誤認することはなく,原告に損害が生じていないことが明らかであると主張するが,前記のとおり,需要者である学生が誤認混同するおそれがあり,原告に何らの損害も生じていないとはいえない。
イ 前記のとおり,本件商標に係る役務は既卒の就職希望者や転職希望者を対象としたものであり,被告役務は新卒の就職希望者を対象としたものであるから,各役務に登録しようとする求職者が異なり,役務を利用しようとする求人企業もその差異を前提として使い分けることになり,役務自体は市場において競合する関係にはない。もっとも,前記のとおり,原告は,新卒求職者向けに「あさがくナビ」と いう名称の役務を提供しており,「あさがくナビ」との関係では,被告役務は競争関係にあるといえる。
また,原告は,本件商標に係る役務について多数の広告宣伝活動を行っており(甲47ないし270),前記のとおり,転職希望者の間で本件商標はある程度認知されているといえるが,本件商標は,「通常の時期よりも後に行う就職活動」ないし「再び行う就職活動」という観念を生じるから,通常の時期の新卒採用を希望する学生を対象とする被告役務とは整合せず,被告役務が本件商標に係る役務に関係があると認識させることによる顧客誘引力は,それほど高いものとは考え難い。
証拠(乙189)によれば,平成21年度に国内同業他社に対しコーポレートブランド以外の商標について非独占的なライセンスを与える場合の販売高に対する料率をアンケート調査した結果,役務区分第35類の役務に係る商標権については,平均値が3.9%,最大値が11.5%,最小値が0.5%であったこと,訴訟などの和解交渉の場合の変動料率の平均値が0.6%,コーポレートブランドであった場合の変動料率の平均値は1.9%であったことが認められる。
ウ 被告は,本件商標や原告が実際に役務に使用しているロゴが被告標章と相応に相違しているので,本件商標の顧客誘引力を利用できないと主張するが,前記認定のとおり,本件商標と被告標章は類似しているし,原告が使用しているロゴ(甲1)も,本件商標と文字列自体は同一で字形をデザイン化した程度の差異しかないから,やはり類似したものと認識され,顧客誘引力を利用できるものといえる。
原告は,被告が被告役務について2万名の学生から個人情報を取得したことから,個人情報の価値は一人当たり5万円であるとして金1億円をもって,商標法38条3項の受けるべき金銭の額と主張する。しかしながら,原告も被告も,自己の役務に関して入手した個人情報を他社に販売しているわけではなく,学生が会員登録したことにより被告が得ているものは前記認定の被告役務に係るシステム利用料のみであるから,原告が,被告において収集した個人情報の販売価格を商標法38条3項の受けるべき金銭の額として取得すべき理由はない。
エ 以上の事情及び侵害行為後に事後的に定める使用料率であることを考慮すると,本件について被告が原告に対し支払うべき使用料相当額は,被告役務に係る売上額である223万9196円の10%である22万3919円と認めるのが相当である。
また,証拠(乙76ないし78)によれば,システム利用料のうち,122万1696円は第2期(平成30年10月1日から令和元年9月30日まで)に,101万7500円は第3期(令和元年10月1日から令和2年7月31日まで)に支払われたものと認められるが,システム利用料が支払われた具体的な日は不明であり,使用料相当額の損害が発生した日も,それに対応する侵害行為日も特定できないから,第2期分(12万2169円)については遅くとも令和元年9月30日,第3期分(10万1750円)については遅くとも令和2年7月31日に侵害行為があったものとして,遅延損害金の起算日を定めるべきである。
(4) その他の主張について 原告は,選択的に,被告による被告標章6の使用について不正競争防止法2条1項19号に該当するとしてドメイン名の使用差止め及び抹消登録手続き並びに損害賠償を求めているが,ドメイン名の使用差止め及び抹消登録手続き請求については,後記4のとおり被告標章6を含む被告標章全部に係る商標権侵害に基づく使用差止め及び予防措置請求において認められ,損害賠償請求については,商標権侵害に係る賠償額を上回るものではないことが明らかである。
また,原告は,被告がイベント等で被告標章を使用し,加盟企業に使用させたことによる損害が,個々のイベントの参加者数が不明なため,立証が極めて困難であるとして,商標法39条の準用する特許法105条の3により別途損害が認定されるべきと主張するが,被告の主催あるいは参加するイベントは,被告の被告役務の広告宣伝活動そのものであって,その損害は,被告標章を被告役務に付することによる損害に包含されるものであるから,原告において,前記商標法38条2項及び3項により推定される損害とは別個の損害を被ったとは認められない。
なお,原告は,民法709条の不法行為を理由とする損害賠償をも請求し,同請求に係る訴えを取り下げようとしたが,被告がこれに異議を述べた。
しかしながら,民法709条の不法行為に基づき,原告が被告に対し損害賠償を請求し得ることについての立証はなく,原告の請求は理由がない。
(5) 弁護士費用について 本件事案の内容及び専門性,訴訟の経過を考慮すると,本件においては,第2期及び第3期に係る侵害行為に関し各1万円を,後記4の被告標章の使用差止め等に関し20万円を,弁護士費用に係る損害額として認めるのが相当である。
4 被告標章の使用差止め,廃棄,予防措置請求について 被告は,前記前提事実のとおり,被告標章2ないし8を被告役務に関するウェブサイトや広告,取引書類において使用しているが,別紙役務目録記載のすべての役務を現に実施しているわけではない。しかしながら,別紙役務目録記載の役務は,被告の現在の被告役務に関連し得る役務であり,証拠(乙63,64)によれば,被告が被告標章1について商標登録出願し,登録された指定役務に別紙役務目録記載の役務が含まれていることからすれば,それらの役務を実施するおそれがあると認められ,被告標章2ないし8について別紙役務目録記載の役務に関する広告及び取引書類に付すること及び展示,頒布並びに電磁的方法による表示の差止め及び廃棄請求には理由がある。また,被告標章1については,証拠上,被告役務に関して現実に使用している例は見られないが,被告が提供する役務の名称であって,被告において商標登録出願していることからすれば,使用するおそれがあると認められ,被告標章1についても,差止め及び廃棄請求には理由がある。
また,前記前提事実のとおり,被告標章6については,被告のウェブサイトのドメイン名として使用されており,現在,被告においては被告役務に関連する役務以外の事業を行っているとは認められないから,ドメイン名の使用差止め及び抹消登録手続き請求についても理由がある。
5 結論 以上によれば,原告の請求は,被告に対し,別紙役務目録記載の役務に関する広告及び取引書類に被告標章を付し,又は,被告標章を付した当該役務に関する広告及び取引書類を展示,頒布し,当該役務に関する広告を内容とする情報に被告標章を付して電磁的方法により表示することの差止め,被告標章を付した当該役務に関する広告及び取引書類の廃棄,被告標章6のドメイン名としての使用差止め,被告標章6のドメイン名の抹消登録手続き並びに損害賠償として44万3919円及びうち20万円(差止め等に係る弁護士費用)とこれに対する訴状による催告後の平成31年2月2日からの年5分の割合による遅延損害金,うち13万2169円(第2期分の使用料相当額と弁護士費用)とこれに対する令和元年9月30日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金,うち11万1750円(第3期分の使用料相当額と弁護士費用)とこれに対する令和2年7月31日から支払済みまで年3分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるが,その余は理由がない。
また,主文第1項ないし第5項については相当でないから仮執行宣言を付さないこととする。
よって,主文のとおり判決する。
追加
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裁判長裁判官 谷有恒
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