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関連ワード 独占的使用 /  指定役務 /  顧客吸引力(グッドウィル) /  損害額 /  消滅時効 /  権利濫用(権利の濫用) /  通常使用権 /  差止 /  使用許諾 /  継続 / 
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事件 平成 13年 (ワ) 11393号 商標権侵害差止等請求事件
原告 株式会社ヘッドラインズ
訴訟代理人弁護士 関口博
被告 ミカド観光株式会社
訴訟代理人弁護士 村元博
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/02/13
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
1 被告は,別紙目録記載の標章を,ミカド観光小岩店(東京都江戸川区所在)の看板,同店内のポスター,各パチンコ台上の表示,パチンコのケース,パチンコ玉数計算の計算書(景品引換用レシート),従業員のネームプレート,パンフレット及びカードに付して使用してはならない。
2 被告は,その占有にかかる,別紙目録記載の標章を付したミカド観光小岩店(東京都江戸川区所在)の看板,同店内のポスター,各パチンコ台上の表示,パチンコのケース,パチンコ玉数計算の計算書(景品引換用レシート),従業員のネームプレート,パンフレット及びカードを廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成13年6月22日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
原告は,別紙目録記載の標章(以下「本件商標」という。)につき商標権を有するところ,被告がこれと同一の標章をその経営するパチンコ店舗(ミカド観光小岩店。東京都江戸川区所在。以下「被告小岩店」という。)の看板に付するなどして使用する行為は,上記商標権を侵害する行為に当たると主張して,被告に対して,商標法36条,38条に基づき,上記標章の使用の差止め及び損害賠償を求めている。
1 前提となる事実(末尾に証拠番号を付した事実以外は,当事者間に争いがない。) (1) 原告は,パチンコ等の遊技場の経営にかかわるフランチャイズチェーン店の加盟募集及び加盟店の指導業務を主たる業務とする株式会社である。原告は,親会社である訴外株式会社ジャック(以下「訴外ジャック」という。),関連会社である訴外株式会社ジャックカードシステム等とともに,企業グループ(以下「ジャックグループ」という。)を形成しているが,同グループは,訴外ジャックの代表者であるA(以下「A」という。)を中心とし,その実弟であるB(以下「B」という。)及びC並びに実母であるD(原告代表者)らを経営者とする同族会社である。
被告は,パチンコ等の遊技場の経営を主たる業務とする株式会社であり,中部地方(愛知県内)を中心に,いわゆる郊外型の店舗を中心に複数のパチンコ店を経営している。
(2) 訴外ジャックは,平成5年12月に東京銀座で開店したパチンコ店「アイゼン・ラーガ・ギンザ」(以下「ラーガ・ギンザ」と略称する。)の企画・宣伝等を手がけたが,同店の斬新なコンセプト及びその宣伝・広告等の手法は,当時パチンコ業界で話題となった。
すなわち,同店は,女性を主な顧客対象として想定し,清潔で明るい店内に最新の音楽・新作映画の紹介ビデオを放映するなど,当時としては画期的なコンセプトに基づくパチンコ店であった。また,その宣伝手法も,雑誌・新聞の有料広告やテレビ・ラジオのCMではなく,より宣伝効果の高い記事そのものや番組そのものに取り上げられることに重きをおくものであった。このような企画・宣伝が功を奏して,ラーガ・ギンザは,その開店の前後,頻繁にマスメディアに取り上げられ,「ラーガ・ギンザ」の名前は,パチンコ業界で広く知られるところとなった。
このようなラーガ・ギンザの成功に注目した訴外株式会社東和産業から依頼を受けて,訴外ジャックは,東和産業が東京新宿に開店したパチンコ店「新宿フレスコ」の宣伝に関する助言をした。また,これらのことがきっかけとなって,ジャックグループは,Aが有する企画・宣伝等のノウハウを活かしてパチンコ業界で事業を展開することを考えるようになり,パチンコ店経営者に対するコンサルティング業務に特化する目的で,平成7年11月に原告会社を設立した(証人A,甲11,13等)。
(3) 平成7年11月下旬,訴外ジャックから,被告代表者E(以下「E」という。)に対し,「J-INTERNET」と称するパチンコ業界の新しいネットワーク作りに関する,名古屋地区での説明会・セミナーを開くので,参加して欲しい旨の電話があった。
Eはこれに応じ,同月20日,系列会社の社員であるF(以下「F」という。)を伴って,名古屋ヒルトンホテルで開催されたセミナーに参加し,訴外ジャックの代表者であり,当時の原告代表者でもあったAと会談した。
被告会社は,それまで中部地方(愛知県内)において郊外型の単層(平家)店舗を中心にパチンコ店を経営していたが,当時,東京都江戸川区小岩に都会型の多層階店舗(被告小岩店)の出店を予定していたことから,Eは,当時パチンコ業界で話題を呼んでいたラーガ・ギンザの企画・宣伝等を手がけたAの手腕に興味を抱き,後日詳しい話を聞くことを約束して別れた。
(4) 同年12月中旬,Eは上京し,東京都港区赤坂の訴外ジャック本社において,訴外ジャック側から,Aのほか,B,訴外G及び同Hが出席して,会談が持たれた。この際,Eは,ジャックに対し,被告小岩店出店の企画・宣伝を依頼し,Aの承諾を得たが,同時に,同人から勧められて,パチンコ店経営に関する経営指南のネットワークとされる前記「J-INTERNET」に加入した。
数日後,原告会社から被告会社に対し,上記合意に沿った1995年(平成7年)12月27日付け「覚書」と題する書面(甲49)が送付され,Eはこれに押印した。
同覚書を取り交わしたことにより,原告が被告に対して,@被告小岩店で展開する新規遊技場事業に関する企画・立案,及び,A同事業開始前後に行う営業宣伝並びに広告を含めたマスメディア戦略の企画・立案・遂行及び関係者との交渉の各サービスを提供し(ただし,上記「新規遊技場事業に関する企画・立案」等がどのような内容の業務まで含むものであるかについては,争いがある。別件関連事件(当庁平成11年(ワ)第29317号事件)の判決[乙1]参照),被告が原告に対して,その対価として,5000万円を,同覚書締結日から平成8年12月末日まで合計6回に分けて支払う旨の契約が成立した(以下,この契約を「本件契約」という。)。
被告は,原告に対して,本件契約に定められた対価5000万円を,平成8年末までに全額支払った。
(5) Eは,被告小岩店の円滑な立ち上げのため,被告社員を原告会社に研修出向させることを求め,Aもこれに応じた。そこで,前記Fが,平成8年1月8日付けをもって,原告会社に出向した。
同月30日,EやAらが出席して開かれた会議において,Aから,FMインターウェーブなる放送局と提携し,そのスタジオを被告小岩店に設置して,集客の目玉にするというFM放送局サテライトスタジオ案が提出された。同案は,ジャックグループがかかわるパチンコ店と他店舗とのより一層の差別化を図ろうとする考えから出てきたものであった。すなわち,Aは,前記(2)記載のとおり,当時画期的とされたラーガ・ギンザを手がけ,パチンコ業界の話題を集めることに成功したが,他店にそのコンセプトを模倣され,効果が希薄になってしまったことから,統一されたロゴの独占的使用や,容易に真似できない景品やサービスの提供等を徹底することによって,他店との一層の差別化を達成して優位に立ち,その優位性を保つことが必要と考えていた。そして,その一環として,前記「J-INTERNET」なる名称でのパチンコ店のネットワーク化や,上記FM放送局サテライトスタジオ案を着想し,この段階に至って,FM放送局との提携に具体的なめどが立ったことから,Eに対して同案を持ちかけたものであった。
上記スタジオ案の実施には,前記5000万円以外に更に2000万円の初期投資が必要であり,さらに,1回の放送につき,129万円の制作費等が必要とのことだったので,Eはいったん逡巡したが,ラーガ・ギンザを手がけたAの手腕を信頼していたことや,税務会計処理の都合上,平成8年末までに被告小岩店を開店したいとの思いが強かったことから,結局,この話に応じることにした。
(6) 原告は,平成8年2月6日付けで,当時横浜市内狩場にパチンコ店を新規開店することを計画していた訴外有限会社東横商事(以下「東横商事」という。)との間で,原告が東横商事に対し,@前記FMインターウェーブのサテライトスタジオ設置に関する企画・立案・実施(ただし,スタジオの建設及び設備等は別途協議),AFM局が,上記開店予定のパチンコ店(以下「東横狩場店」という。)の店内スタジオから放送する番組及びコマーシャルの企画・立案・実施(ただし,放送発信頻度は月1回30分とし,制作費及びコマーシャル費用は別途協議),B被告が新規遊技場事業開始前後に行う営業宣伝及び広告を含めたマスメディア戦略の企画・立案・遂行及びその関係者との交渉,C東横狩場店の内装工事を行う業者の選定及び当該業者との条件交渉の各サービスを提供する旨の契約を締結した(証人A,甲11,13)。
なお,原告と東横商事との間の上記契約は,その後,同年8月7日に合意解約され,同日付けで「業務終了確認書」(乙7)が作成された。
(7) Aらは,前記(5)記載のとおり,他店舗との差別化の一環として,ジャックグループがかかわるパチンコ店で統一的なロゴを使用することを考えていたところ,この当時,原告会社内においてロゴ選定の作業が進んでいた。この作業には,当時外部スタッフとして原告会社に参加していたI(以下「I」という。)がかかわっていたが,平成8年3月ころ,Fは,Iから,同人が独自に準備したロゴのサンプル集(乙4)を見せられた。その後,同サンプル集の中から,被告小岩店で用いるロゴの候補が絞り込まれ,10個程度の候補がEに示された。Eは,その中から「PAPIA」の名称を選び,被告会社としては「PAPIA」の語のロゴが適切と考えている旨をAに伝えた。これを受けて,原告において作業を進めた結果,被告小岩店において用いるロゴは,「PAPIA」の語をデザイン化したロゴである本件商標とすることが決まった(乙2の1,証人I,証人F,被告代表者)。
上記のようなやり取りの際には,原告及び被告の双方とも,被告小岩店において本件商標が使用されることを当然のこととして認識していたものであり,これによれば,そのころ,原告は被告に対し,本件商標を無償で使用することを許諾していたということができる(以下,この使用許諾を「本件使用許諾」という。ただし,無償で使用できる期間等,その具体的な内容については,後記のとおり争いがある。第5回弁論準備手続調書参照。)。
(8) なお,その後しばらくして,AからEに対し,同年6月開店予定の前記東横狩場店においても本件商標を使用することにつき,被告の了承を求める旨の話があった。
Eは,東横狩場店で本件商標が使用されれば,被告小岩店にとっても宣伝になると考え,東横狩場店における本件商標の使用に異を唱えることはしなかった(被告代表者,乙2の2等)。
(9) 平成8年4月3日ころ,原告から,被告宛に「ミカド観光西小岩店新築工事基本構想」なる企画書,イメージパース6枚及び平面プラン5枚が提出されたが,後日内容を精査すると,近隣の競合店舗のパチンコ台数が不正確であるなど,調査結果に不備が散見されたため,被告は再調査を求めた。
また,同月26日付けの日経新聞に,被告と東横商事を含む10数社が原告のフランチャイジーである旨の記事が掲載された。被告としては,本件契約はあくまで業務委託契約であり,原告がフランチャイザーで,被告がフランチャイジーであることを前提とする契約ではないと考えていたことから,この記事を見たFが,当時ジャックのスタッフであったJに,上記記事の内容について抗議した(証人F)。
(10) 上記(9)記載の事情があったことなどから,被告は,このころから,原告に不信感を抱きつつあったが,他方において,ラーガ・ギンザを手がけたAの手腕を信頼していたことや,パチンコ業界の展望を語るAの弁舌に魅力を感じていたことに加え,平成8年末までに被告小岩店を開店したいという現実的な理由があったことから(上記(5)参照),原告からの提案に応じて,以下のとおり契約締結を重ねた(証人F,被告代表者等)。
すなわち,平成8年4月ころには,原告からFMインターウェーブ放送に関する契約案が提示され,被告としては,同年末に予定された被告小岩店開店間際の契約締結で足りるものと考えていたが,同年6月に東横狩場店の開店が控えており,同店にも同様の契約に基づきサテライトスタジオを設置することで相乗効果があるからと説得され,同年4月12日,原告との間で,上記FM放送に関する契約を締結した。
また,同年6月中旬,Aから,FMインターウェーブとの当初合意においては,月1回放送でCMは30秒2回であったところ,交渉の結果,週1回放送でCMも30秒4回となったが,ついては,総費用が600万円かかるので,30秒のCM1本を被告に割り当てるという条件で,3分の1の200万円を被告に負担してもらいたい旨の説明を受け,特に拒否すべき理由もなかったことから,これに応じた。それとともに,同じころ,Aから,同人が有する人脈等を活用し,これまでパチンコ店が取り扱わなかった斬新な景品を格安に提供することができると持ちかけられ,1030万円の対価を支払い,Aが代表者を務める訴外ジャックカードシステムとの間で,景品の仕入れ等に関する代理店契約を締結した。
さらに,同年7月には,サテライトスタジオ設置のための工事を開始することを促され,原告の勧めに従って,同月23日に,訴外日本板硝子株式会社との間でスタジオ工事請負契約(請負代金1200万円)を締結し,同年9月には,設備業者の訴外Kとの間で,スタジオ設備の購入契約(代金800万円)を締結した。
(11) 平成8年7月4日,原告は,被告に告げずに,本件商標につき原告を出願人として商標登録出願した。
(12) 同年8月ころ,被告は,それまでの経緯から,ジャックグループが,パチンコ店経営に関する基本的な知識やノウハウを必ずしも有していないのではないかと考えるようになった。
また,同月中旬ころ,被告が,サテライトスタジオ工事を請け負った前記日本板硝子や,スタジオ設備を扱った前記Kらを問いただしたところ,いずれも原告に対していわゆるバックマージンを支払ったか,あるいは,支払う約束になっていることが判明した。
このようなことから,被告は,原告に対する不信感を募らせ,本件商標の使用権限を確保しておく必要性に思い至り,同年10月31日,別紙関連標章目録記載の各標章を登録出願した(甲1〜5,乙3の1〜4,証人F,被告代表者及び弁論の全趣旨。なお,同目録の記載から明らかなとおり,同目録1記載の標章は,通常の字体の英大文字「PAPIA」と片仮名「パピア」を併記してなる標章であり,同目録2記載の標章は,本件商標と同一の標章である。)。
(13) その一方で,原告は,本件契約に従って,被告小岩店の宣伝(パブリシティ)に努め,その結果,同店及びそこで開催されるイベントが,平成8年9月下旬から平成9年2月中旬までの間,日本工業新聞,日本経済新聞,ジャパンタイムズ,日刊スポーツ及びサンデー毎日等の新聞・雑誌等において,合計20回以上記事として取り上げられた。また,同年7月から12月10日ころまでの間は,東横狩場店のFMサテライトスタジオから,それ以後は同スタジオ及び被告小岩店のFMサテライトスタジオから,いずれもほぼ毎日,「ミカドパピア小岩っていうのは今年の冬,小岩に誕生する新時代のアミューズメントスペースのこと。コンセプトは快適,音楽,ネイチャー,くつろぎ,刺激。」,「ミカドパピア小岩,今年の冬,サンタクロースとともにやってきます。」,「21世紀を目前にパチンコ店が情報発信基地として生まれ変わろうとしています。この情報発信基地をフランチャイズシステムによって創造しているのがパピアのヘッドラインズです。ヘッドラインズでは新規開店・新装開店を予定しているパチンコ店のオーナーを対象にパートナーを募集しています。‥‥‥ヘッドラインズはパチンコの未来を変えます。」などのナレーションの入ったコマーシャルを放送した。
そして,平成8年12月中旬ころ,被告小岩店が開店した。被告は,開店準備に伴い,同年7月に本件商標の使用を開始したが,同店が営業を開始した後は,同商標を,看板,ポスター,各パチンコ台上の表示,パチンコのケース,パチンコ玉数計算の計算書(景品引換用レシート),従業員のネームプレート,パンフレット及びカードに付するなどして使用し,現在に至るまで使用し続けている。
(14) 原告出願に係る本件商標は,平成10年7月10日に登録された。これに伴って,原告は,下記のとおりの商標権(以下「本件商標権」という。)を有することとなった。
登録番号 第4163707号 登録年月日 平成10年7月10日 商品区分 第41類 指定役務 ぱちんこホールの提供その他の娯楽施設の提供,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,音楽の演奏の情報の提供,映画・演芸・演劇又は音楽の興行の企画又は運営 登録商標 本件商標と同一 被告出願に係る別紙関連標章目録記載の各標章(前記(12)参照)は,先願の本件商標が存在することから(前記(11)参照),平成11年2月11日付けで拒絶査定となった。
(15) 被告は,原告を相手として,平成9年4月,前記(10)記載のFMラジオ放送の料金に関して,債務不存在確認及び不当利得返還請求事件(当庁平成9年(ワ)第8075号)を提起したのを皮切りに,サービス対価返還請求事件(当庁平成11年(ワ)第29317号。乙1参照),事務委託対価等返還請求事件(当庁平成13年(ワ)第4377号)等,複数の民事訴訟を提起した。
これに対し,原告は,平成13年6月4日に,本件訴訟を提起した。
2 争点 本件においては,原告が本件商標権を有していること,及び,被告が被告小岩店開店の前後から,本件商標権の指定役務であるパチンコホールの提供等に関し,本件商標を使用し続けていることに争いはない(前記1(13),(14))。
しかるところ,被告は,@商標の使用許諾の抗弁,A原告による使用許諾の解除の主張が権利濫用であること,及び,B本訴請求自体が権利濫用であることを主張するとともに(第2回口頭弁論調書),損害の発生及び原告主張にかかる損害額をいずれも争っている。
これに対し,原告は,本件商標の使用を許諾したこと自体は争わないが(第5回弁論準備手続調書),使用の期間は,被告小岩店開店後おおむね1年に限られる旨主張している(同調書)。
したがって,本件における争点は,下記のとおりである。
(1) 本件使用許諾に期間の定めがある旨の原告の主張に理由があるか(争点1)。
(2) 本件訴訟において原告が本件使用許諾の解除を主張し,あるいは本件商標権に基づく権利を行使すること自体が,権利の濫用に当たるものとして許されないか(争点2)。
(3) 原告の損害額(争点3)。
当事者の主張
1 争点1について (原告の主張) 被告は,期間等に制限なく,本件商標を無償で使用する旨の許諾を得た旨を主張するが,そもそも,本件契約は,原告をフランチャイザー,被告をフランチャイジーとするフランチャイズ契約であり,統一的なロゴ(本件商標「PAPIA」)の独占的使用はフランチャイズシステムの中核をなす事柄であるから,かかるロゴを無償で使用させることなどあり得ない。被告に対しては,後に使用許諾料(ロイヤリティ)を取り決めることを前提に,とりあえず被告小岩店開店後1年間をめどに,暫定的に使用を許諾したにすぎない。
被告は,被告小岩店で用いるロゴの決定権限は被告が有しており,被告がその権限に基づいて同ロゴを本件商標に決定したものであることを前提に,上記の主張をするが,フランチャイザーである原告が,1フランチャイジーにすぎない被告に,フランチャイズシステムで統一的に使用するロゴの選択を委ねるはずがない。
被告の意見を事実上聴取したことはあったかも知れないが,同ロゴは,あくまで原告の意思と権限に基づいて決定したものである。被告の主張は,その前提からして事実に反している。
(被告の主張) 原告は,本件使用許諾は,被告小岩店開店後おおむね1年の期間に限られる暫定的なものであった旨主張するが,原告の同主張は,否認する。
いったん開店したパチンコ店舗の屋外広告表示,内外装,店舗内の什器備品に付した標章を変更することは,数千万円の費用を要するものであり,そのようなことは,特別な事情のある場合,例えば全面的なリニューアル等の場合にしか想定できないことである。したがって,暫定的な使用の後に,原告が被告に対する使用許諾を見合わせる,あるいは被告が本件商標の使用を中止するなどということは事実上考えられないのであり,原告が主張するように,1年間をめどに暫定的に使用を許諾するなどということはあり得ない。
そもそも,本件契約は,被告が5000万円の対価を支払うことにより,原告が被告に対し,被告小岩店の企画・宣伝をするとともに,同店を集客力の高い店舗として維持・運営するためのノウハウを提供するという内容の業務委託契約であり,同店で使用する店名,標章,ロゴ等をデザインして被告に提供することも上記対価の対象として本件契約に含まれていたものである。したがって,被告小岩店に関して使用するロゴを決定する権限は,当然,上記対価を支払った被告にあった。
被告は,外部スタッフとして原告会社で働いていた訴外Iを介してロゴの候補を幾つか提示され,上記の権限に基づき,複数の候補の中から本件商標を選択して,これを用いることを決定した。このような経緯そのものから,原告が被告に対し,登録前の本件商標の通常使用権を許諾する旨の明示あるいは黙示の意思表示をしたことが認められるというべきである。そして,この通常使用権許諾(使用許諾)には,期間を含めて何の留保も付されていないから,被告が現在に至るまで,あるいは将来にわたって,本件商標を使用しても,それは通常使用権という正当な権限に基づくものであって,商標権侵害の問題は生じない。
2 争点2について (被告の主張) 本件商標は,前記のとおり,平成8年3月ころに訴外Iから提示された複数の候補の中から,被告が被告小岩店に使用するロゴとして採用を決定したものであるが,被告の了解の下に,東横商事が同年6月に開店した東横狩場店の商標(ロゴ)として使用され,同商事は,現在に至るまで原告に一切対価を支払うことなく,本件商標を使用し続けている。また,被告においても,被告小岩店の開店に先立つ同年7月ころから,店舗の屋外広告表示,内外装,店舗内の什器備品に付して本件商標を無償で使用してきた。その後,原告被告間の紛争が顕在化し,平成9年4月に,被告が前記FMラジオ放送に関する契約につき,債務不存在確認及び不当利得返還請求訴訟を提起した(前記第2,1(15)参照)のを皮切りに,原告被告間において本訴・反訴が交錯し,熾烈な訴訟合戦となったにもかかわらず,その間,原告から本件商標の使用料の請求があったことは一度もないし,本件商標の使用許諾契約を解除する旨の主張がされたこともない。
しかるに,原告は,被告が平成11年に提起した前記サービス対価返還請求事件に応訴する過程で,被告が同事件等を提起したことに対するいわば対抗措置として,本件商標権に基づく権利を行使することに思い至り,本訴を提起したものにすぎない。前記前提となる事実(第2,1)に加えて,上記の経緯を考慮すれば,原告が本件使用許諾を解除すると主張することのみならず,本訴請求をすること自体が権利の濫用に当たるというべきである。
(原告の主張) 原告が本件使用許諾の解除を主張すること,及び,本訴請求をすること自体が,いずれも権利の濫用に当たる旨の被告の上記主張は,否認する。
前記のとおり,原告は,後で本件商標の使用料を取り決めることを前提に,とりあえず,被告小岩店開店後1年間をめどとして,暫定的に本件商標の使用を許諾したものである。その後,原告被告間で複数の訴訟が係属し,紛争が激化したので,上記使用料に関する協議をするような状況ではなかったし,いったん関連事件の和解が成立した後も,原告としては,被告の出方を見守るつもりで,協議を持ちかけないでいたにすぎない。本件使用許諾の内容がどのようなものであるかは別にしても,上記の経過に照らし,本件訴訟において,原告が同使用許諾の解除を主張することが権利の濫用に当たるものではないし,原告の本訴請求自体が権利の濫用に当たるものでもない。
なお,被告は,原告が東横商事に対し,本件商標を無償で使用させ続けていることをもって,自らの主張を根拠づける事情のひとつとしている。
東横商事との間で本件商標の使用料を取り決めていないのは事実であるが,同商事との間では,原告がFM放送の放送料支払を求めた別件訴訟の控訴審において,同商事に対して2000万円の支払を命じる判決がされ,その直後に同商事から遅延損害金を含む認容額全額が支払われたので,その潔い態度を良しとして,事実上,上記使用料を不問に付している(乙7参照)にすぎない。
これに対し,被告は,上記同様の放送料金支払に関する訴訟(当庁平成9年(ワ)第8075号事件。前記第2,1(15)参照)において,裁判所の勧告に応じ,同訴訟を含む合計4つの訴訟を終局させる内容の和解をして,上記東横商事が支払ったのと同様の認容額が見込まれる放送料金の支払を免れておきながら,それから1年以上も経って,これらの基本契約ともいえる本件契約に関して,その有効性を争い,対価の返還を求める前記サービス対価返還請求事件(当庁平成11年(ワ)第29317号事件。前記第2,1(15)参照)を提起した。
このように,東横商事に対するのと,被告に対するのとでは,客観的にも主観的にも利益状況が全く異なるのであり,東横商事に対する扱いを持ち出して,自らの正当性を根拠づけようとする被告の上記主張は誤りである。被告は権利濫用を云々するが,和解によりいったん紛争が収束した後に,同じ当事者間で複数の訴訟を提起してくるのは異例のことであり,被告の方こそ,濫訴的傾向があるといわなければならない。
3 争点3について (原告の主張) 被告は,平成8年7月から本件商標を使用し続けているところ,平均的なパチンコ店のパチンコ台の1日の売上は5万円以上であり,被告小岩店には589台のパチンコ台があるから,同店の1日の売上は2945万円を下ることはない。そして,本件商標の使用料は,パチンコ店の売上の3パーセントを下ることはないから,不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効にかからない過去3年分の損害額は,2945万円×365日×3年×0.03=9億6743万2500円となる。原告は,これに弁護士費用相当額の1000万円を加えた9億7743万2500円を損害額として主張するが,本件訴訟においては,上記損害額のうち1億円及びこれに対する遅延損害金を請求する。
なお,被告は,原告は本件商標の登録出願以後現在に至るまで,東横商事に無償で使用許諾したほかは,本件商標を使用した営利活動を何ら行っていないから,被告の本件商標使用によって,原告には何らの損害も生じていない旨主張する。
しかし,原告は,FM放送のCMにおける「パピアのヘッドラインズ」のキャッチコピーに象徴されるように,フランチャイザーとしての原告自身の宣伝(パブリシティ)を行ったり,訴外仙台観光株式会社等に対し,パピアのブランド(ロゴ)を用いたフランチャイズシステムに基づくパチンコ店の展開を持ちかけたりするなど(甲15,40),本件商標を用いた営利活動を行っている。被告の上記主張は誤りである。しかるに,被告は,本件商標の違法な使用を継続するばかりか,原告を誹謗中傷し,さかんに訴訟を提起しており,そのことが顧客獲得の機会を喪失せしめ,原告のフランチャイズ展開にとって大きな支障となっている。被告の本件商標使用により原告が被った損害には,計り知れないものがある。
また,被告は,パチンコ店の営業については,商標は店舗の雰囲気の醸成につきわずかに資するところはあるが,それ自体が顧客吸引力を有するものではなく,売上に寄与するところはほとんどないと主張する。
しかし,原告は,フランチャイジーに対し,本件商標を屋号として統一的に使用させる一方で,従来見られなかった景品の提供等様々な利益を独占的に与え,もって本件商標のブランド価値を高めようと構想していたのであり,被告自身も,そのような効果を期待して,原告と本件契約を締結したはずである。被告の上記主張は,せいぜい旧来のパチンコ店についていえることでしかない。
(被告の主張) 損害額に関する上記原告の主張については,被告が平成8年7月以後本件商標を使用していること,及び,被告小岩店には589台のパチンコ台があることを認め,その余は争う。
なお,仮に本件商標権の侵害が問題になることがあったとしても,原告は,本件商標の登録出願以後現在に至るまで,東横商事に無償でその使用を許諾しているほかは,本件商標を使用した営利活動を何ら行っていない。したがって,被告が本件商標を使用したことによって,原告には得べかりし利益の喪失を含め何らの損害も生じていないから,商標法38項2項が適用されるべき場面ではなく,原告の損害賠償請求には理由がない。
また,パチンコ店の営業については,商標は店舗の雰囲気の醸成につきわずかに資するところはあるが,それ自体が顧客吸引力を有するものではなく,ほとんど売上に寄与しない。したがって,この点からも,原告による商標法38条適用の主張には理由がない。
当裁判所の判断
1 争点1について 本件においては,原告が被告に対して本件商標の使用を許諾したこと自体に争いはないところ(第5回弁論準備手続調書),原告は,被告に対して許諾したのは,被告小岩店開店後おおむね1年をめどとする暫定的な使用であり,その後に,本件商標の使用料に関して協議することが当然に予定されていたと主張する(前記第3,1)。
そこで,この点につき検討すると,本件で提出されたすべての証拠を精査しても,上記原告の主張を直接裏付ける証拠は存在しない(原告の実質的な代表者であるAも,本件契約における5000万円の対価には,本件商標権の譲渡の対価まで含まれてはいない旨証言するにとどまり[同人の証人尋問調書17頁],同人の証言中には,上記使用許諾が暫定的なものであり,その後に使用料に関する協議が予定されていることを前提とする供述は見当たらない。)。
また,同主張の内容が事実であることを推認させる事情も存在しない。すなわち,本件契約に基づき原告が被告に提供すべき,@被告小岩店で展開する新規遊技場事業に関する企画・立案,及び,A同事業開始前後に行う営業宣伝並びに広告を含めたマスメディア戦略の企画・立案・遂行及び関係者との交渉の各サービスが,具体的にどのような内容のものであるかは別にして(ちなみに,前記サービス対価返還請求事件(当庁平成11年(ワ)第29317号事件)の一審判決[平成13年12月17日言渡。乙1]は,上記「新規遊技場事業に関する企画・立案」に係るヘッドラインズ(本件原告)の業務内容は,ミカド観光(本件被告)が新規に開店するパチンコ店にヘッドラインズの持つノウハウを投入して,集客効果のあるパチンコ店を作ることができるよう,同店の開店運営について総合的・全体的に企画,立案することであったと認めるのが相当である旨判示している。),少なくとも同契約を成文化した覚書(甲49)には,本件商標の使用に関する具体的な条件を定める条項は一切存在しないばかりか,将来それを取り決めることが予定されていることを示唆する記載もない。また,本件契約締結後,同契約をいわば基本契約として,原告と被告は,FMラジオ放送に関する契約及び景品の仕入れ等に関する代理店契約を締結し,さらに,被告は,原告の勧めに応じて,サテライトスタジオの設置に関する工事請負契約等を前記日本板硝子と締結するなどし,その中で各契約の履行内容や対価等の具体的条件を定めているにもかかわらず,本件商標の使用に関しては,契約を締結したことはおろか,その協議をした形跡すら存在しない。
加えて,原告は,本件訴訟の提起に至るまで,本件商標の使用に関する具体的条件の協議を申し入れたことはなく,被告による本件商標の使用に異議を述べたことも一度もない。
以上を総合すると,本件使用許諾につき,被告小岩店の開店後おおむね1年間をめどとする暫定的なもので,その後に使用料の支払に関する協議が当然に予定されていたという原告の主張を認めることはできない。
かえって,前記前提となる事実(第2,1)に加え,証拠(証人I,同F,同B,同A及び被告代表者,甲11〜13,15,40及び49〜51,乙1〜3の4,6〜9)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
@ 原告は,Aがパチンコ業界で話題となったラーガ・ギンザの企画・宣伝を手がけたことがきっかけとなって,パチンコ店経営者に対するコンサルティング業務に特化する目的で,平成7年11月に設立された株式会社であるところ,1995年(平成7年)12月27日付け「覚書」と題する書面(甲49)をもって,被告との間に,原告が被告に対し,(ア)被告小岩店で展開する新規遊技場事業に関する企画・立案,及び,(イ)同事業開始前後に行う営業宣伝並びに広告を含めたマスメディア戦略の企画・立案・遂行及び関係者との交渉の各サービスを提供し,他方,その対価として,被告が原告に対し,5000万円を支払う旨の本件契約を締結したこと, A 被告代表者Eは,被告小岩店の円滑な立ち上げのため,平成8年1月8日付けをもって,Fを原告会社に出向させ,同月30日には,原告と被告の間で,原告がFMインターウェーブなる放送局と提携し,そのスタジオを被告小岩店に設置して,集客の目玉にするというFM放送局サテライトスタジオ案に関する基本的な合意がされたこと, B 平成8年3月ころ,被告小岩店で用いるロゴの候補が幾つかに絞り込まれた後,複数の候補がEに示され,Eがその中から「PAPIA」の名称を選んだ結果,被告小岩店において用いるロゴとして「PAPIA」の語をデザイン化した本件商標が決まったこと, C その後,AからEに対し,同年6月開店予定の東横狩場店においても本件商標を使用することにつき,被告の了承を求める旨の話があり,これをEが了承した結果,東横狩場店においても本件商標が使用されることとなったこと, D 平成8年4月26日付けの日経新聞に,被告と東横商事を含む10数社が原告のフランチャイジーである旨の記事が掲載されたが,被告としては,本件契約はあくまで業務委託契約であり,原告がフランチャイザーで,被告がフランチャイジーであることを前提とする契約ではないと考えていたことから,この記事を見たFが,当時ジャックのスタッフであったJに,上記記事の内容について抗議したこと, E FMラジオ放送やサテライトスタジオの設置にからめて系列化されたパチンコ店舗を拡大しようという原告の活動は,被告から原告に支払われる報酬を主たる資金源とするものであり,その意味で,被告は事実上,出資者に似た立場にいたこと, F 本件商標は,平成8年7月4日に原告により商標登録出願され,平成10年7月10日に商標登録されたが,原告は本件商標の商標登録出願につき事前に被告に何の説明もしておらず,むしろ被告に秘して商標登録出願をしたものであり,また,平成8年12月中旬ころの被告小岩店開店以後,被告が,一貫して,本件商標を,看板,ポスター,各パチンコ台上の表示,パチンコのケース,パチンコ玉数計算の計算書(景品引換用レシート),従業員のネームプレート,パンフレット及びカードに付するなどして使用し,現在まで使用し続けているにもかかわらず,原告は,本件訴訟提起に至るまで,被告に対し,本件商標の使用に関して異議を述べたことはなかったし,また,同商標の使用料を請求したり,その協議を申し入れたこともなかったこと, 以上の各事実に加えて,前記のとおり,原告と被告との間では本件商標の使用に関して何らの合意も存在しないばかりか,その協議がされたこともなく,原告から協議が申し入れられたことすらないといった事情に照らせば,本件商標は,当初から被告小岩店において用いることを目的とするロゴとして,被告の選択により採用されたものであって,本件商標の作成及び被告によるその使用は,被告の支払った5000万円の対価の対象に含まれており,被告小岩店の開業後は,被告において何らの制約もなく被告小岩店の営業に関して無償で使用することが,当然の了解事項として原告と被告との間で共通に認識されていたものと認めるのが相当である。なお,原告は,東横商事との間での契約が合意解除された後も,東横商事が狩場店において引き続き本件商標を無償で使用することを許諾しているものであり(乙7),このような原告の東横商事に対する対応との均衡という点に照らしても,原告は被告に対して本件商標を無期限で無制限に無償で使用することを許諾していたものと認めるのが相当である。
以上によれば,本件使用許諾につき被告小岩店開店後おおむね1年間をめどとする暫定的なものである旨をいう原告の前記主張は採用することはできず,むしろ原告の被告に対する本件商標の使用許諾は無期限無制限のものであったというべきであるから,本件商標権の侵害を理由とする原告の本訴請求は,理由がない。
2 争点2について 前記のとおり,本件使用許諾に期間の定めがある旨の原告の主張は採用することができず,この点において既に原告の本訴請求には理由がないが,念のため,争点2についても判断する。
前記1において認定した事実によれば,原告は,当初から本件商標を被告小岩店において用いることを目的として被告の選択により名称を決定するなどして作成し,これを被告小岩店の店舗や什器備品等に付して使用させておきながら,他方において,被告に秘したまま,本件商標につき商標登録出願をしていたものであり,また,従来,被告の本件商標の使用につき何ら異議を述べたこともなかったにもかかわらず,被告との間での紛争が生じるや,本件商標につき商標登録を受けていることを奇貨として被告に対して本件訴訟を提起したものと認められる。このような事情に照らせば,本件訴訟において原告が本件使用許諾の解除を主張することはもちろん,そもそも被告に対して本件商標権に基づく権利を行使すること自体が,権利の濫用に当たるものとして許されないというべきである(なお,原告は,関連事件が和解で終局した後に,被告が新たに前記サービス対価返還請求事件[当庁平成11年ワ第29317号]等を提起したことは濫訴的な態度であり,その対抗上本訴を提起したものである旨主張するが,上記和解においてこれらの訴訟を提訴しないことが和解条項として合意されていたなどの特段の事情がない限り,被告がその後に原告を相手方として新たな訴訟を提起したからといって,原告の本訴請求が権利の濫用に当たるとの評価が妨げられるものではない。)。
したがって,この点からも,原告の本訴請求は理由がない。
3 結論 以上のとおり,本件使用許諾には期間の定めがある旨の原告の主張は採用できない上に,本件訴訟において,原告が本件使用許諾解除の主張をし,また,本件商標権に基づく権利を行使すること自体が権利の濫用に当たるものとして許されないというべきである。したがって,その余の点につき判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 村越啓悦
裁判官 青木孝之