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関連審決 審判1999-31183
関連ワード 流通性 /  指定商品 /  通常使用権 /  使用許諾 /  存続期間 /  更新登録 /  社団法人 /  立証責任 /  継続 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 43号 審決取消請求事件
原告A
訴訟代理人弁理士 三瀬和徳
被告 株式会社トータル英語研究会
訴訟代理人弁護士 大房孝次
訴訟代理人弁理士 白濱國雄
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/06/20
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第31183号事件について平成13年12月11日になした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,ローマ字大文字で「TOTAL ENGLISH」と横書きして成り,指定商品を商品区分第26類「雑誌,新聞」とする,登録第1706704号商標(昭和56年11月19日商標登録出願,昭和59年8月28日商標登録,平成7年5月30日商標権存続期間の更新の登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は,平成11年8月27日,被告を被請求人として,商標法50条の規定に基づき,本件商標の登録を取り消すことについて審判を請求し,この請求は,平成11年10月6日に登録された。特許庁は,同請求を平成11年審判第31183号事件として審理し,その結果,平成13年12月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。審判費用は,請求人の負担とする。」との審決をし,その謄本を同年12月21日に原告に送達した。
2 審決の理由 審決は,別紙審決書写しのとおり,被告から本件商標の使用許諾を受けている株式会社秀文出版(以下「秀文出版」という。)は,本件審判の請求の登録前3年以内において,本件商標を本件商標の指定商品に含まれる「雑誌」について使用していたものと認められ,したがって,本件商標の登録を商標法50条の規定に従って取り消すことはできない,とした。
原告主張の審決取消事由の要点
秀文出版は,被告から本件商標の使用許諾を受けていない(取消事由1)。秀文出版が本件商標を使用していた教師用指導資料(以下「本件刊行物」という。)は,商標法上の商品には当たらない(取消事由2)。本件刊行物は,本件商標の指定商品である「雑誌」には当たらない(取消事由3)。審決は,これらの点についての認定判断を誤ったものであり,これらの誤りは,それぞれ結論に影響することが明らかであるから,審決は,取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件商標の使用許諾契約の不存在) 審決は,「被請求人提出の乙第6及び第7号証(商標使用許諾書)(判決注・本訴における甲第2及び第3号証又は乙第6,第7号証)によれば,被請求人は「株式会社秀文出版」(東京都豊島区<以下略>)に対し,本件商標の使用を許諾しているものであることが認められる。」(審決書5頁24行〜26行)と認定したが,誤りである。
(1) 審決は,「乙第6及び第7号証には,被請求人である株式会社トータル英語研究会が株式会社秀文出版に対し,本件商標「TOTAL ENGLISH」を中学校英語教科書に関連する部分について,前者(乙第6号証)が1992年(平成4年)12月当時に,また,後者(乙第7号証)が1996年(平成8年)11月当時に,それぞれその翌年4月より4年間使用することを許諾する内容が開示されているところ,その内容に不可解,不自然とされる点はなく,これを架空のものと断ずべき理由は見当たらない。」(審決書5頁36行〜6頁5行)と認定している。
しかし,本来,商標権の通常使用権の許諾は,商標権者と使用権者との契約に基づいてなされるものであるのに対し,この乙第6号証(甲第2号証。以下「本件許諾書1」という。)及び乙第7号証(甲第3号証。以下「本件許諾書2」という。)は,いずれも契約の相手方である秀文出版の代表者の署名又は記名・捺印のない書面であり,このような文書は,単に商標権者である被告の一方的な意思表示を記載した文書でしかなく,商標権の使用許諾契約書であるということはできない。
本件許諾書1及び2は,その体裁も,その宛先を「株式会社秀文出版代表取締役A殿」とすべきところを「株式会社秀文出版御中」とし,その許諾年月日も許諾の日付の記載がなく,単に「1992年12月」,「1996年11月」とのみ記載されているなど,法人対法人の契約書としては,最小限守られるべきことも守られていないのであり,信用するに値しない。
(2) 審決は,原告が審判において提出した甲第1号証の1及び2(本訴における甲第4号証の1及び2)について,「甲第1号証の1は,請求人からの問い合わせに対する破産管財人の回答書であるところ,その内容からは破産管財人が平成12年5月25日現在保管している関係書類中に「乙第6号証」「乙第7号証」に相当する書面その他通常使用権の許諾を内容とする契約書類がないことが証明されたにとどまるのであり,過去において,紛失,破棄等があった可能性は否定できず,また,同じく甲第1号証の2は,請求人自身が請求人の主張に沿うよう陳述した内容の証明書であって,何ら客観性のないものであるから,いずれの証拠もその証明力は低く評価せざるを得ず,結局,請求人の主張は,記憶に依拠した不確実なものに帰着し,錯誤の可能性も否定できないものである。」(審決書6頁11行〜20行)と判断した。
しかし,秀文出版は,被告に対し,本件商標権の使用許諾を受けたいとの申出をしたこともなければ,通常使用権の許諾契約を締結したこともないのである。このような不存在の事実の立証は,極めて困難であるから,使用許諾契約があったことの立証責任は,当然に被告にあるはずである。審決は,立証責任の分配の問題を理解していないといわざるを得ない。
(3) 審決は,被告と秀文出版との間には,「業務上緊密な関係があったと認められるところ,・・・約18年もの間,被請求人会社が株式会社秀文出版に知られることなく,本件商標の出願,登録,更新出願,更新登録の各手続を独自に行ったとするには,被請求人において意図的に隠匿する等特段の事情がない限り,一般的にみて不自然といわざるを得ないが,本件審判を通じて両者間にそのような特段の事情があったと認めるに足りる主張も証拠もない。」(審決書6頁23行〜30行)と判断した。
しかし,秀文出版は,昭和52年新学期より「TOTAL ENGLISH」を題号とする中学校用英語教科書を文部省検定の下に発行してきたものの,中学校用英語教科書及びその教師用指導資料である本件刊行物は書籍の範疇に入り,しかも,「TOTAL ENGLISH」を教科書の題号として使用しても,自他商品識別標識としての機能を有しないということであったため,商標権の登録については何も気にすることもなくこれを使用してきたものである。まして,本件商標の指定商品の中には教科書(書籍)は包含されていないのであるから,仮に,秀文出版が本件商標が存在していることを知っていたとしても,同社にとって,被告から積極的に使用許諾を得る必要のないことは,明らかであったのである。
本件商標権につき通常使用権の許諾契約を締結する必要性が生じたのは,被告の方である。被告は,昭和50年法律第46号の商標法改正により更新登録出願の願書には使用証明を付することが必要となったため,本件商標の更新登録出願をするために,本件商標の使用者である秀文出版を通常使用権者とする,通常使用権許諾契約の存在を証する書面を必要とするようになったものと推測される。
秀文出版は,本件商標の通常使用権に対する使用料を支払っていない。本件商標の更新登録も,同社にとっては必要のないことであったため,本件商標の更新登録にかかった費用も,一部分にせよ,負担してはいない。
これらの状況に照らすと,商標使用者である秀文出版の関知しないところにおいて,本件許諾書1及び2が作成された,という以外には考えられないのである。
2 取消事由2(本件刊行物の商品性の欠如) 審決は,「たとえ中学校用英語教科書に付随するものであっても,本件商品は,それ自体独自の商品価値を有し,教科書本体とは別個の取引形態をもって独立して商取引の対象となり得るものであって,そうである以上,これを商標法上の商品でないとまでいうことはできない。」(審決書6頁36行〜7頁1行)と判断したが,誤りである。
本件刊行物は,文部省検定済み中学校用英語教科書「TOTAL ENGLISH」の教師用指導資料である。本件刊行物は,秀文出版の営業部員が,常時,同教科書が採用された学校に出向き,アフターサービスとして,同教科書を使用した際に生じた疑問点,生徒の反応等を担当教師から聞き取ったことを参考にして,教科書編集委員と中学校の教師が「中学校の教師が同教科書をどのように使って生徒に教えればよいか」というテーマ等で執筆したものを掲載したり,同教科書に準拠した中間テスト,期末テストの問題等をその時期に合わせて提供する,というものである。このように,本件刊行物は,教科書が採用されていない学校についてはその教科書の宣伝のために,既に教科書が採用されている学校については今後の教科書の継続的使用のために,営業活動の一環として各学校の教師に無償で配布されるものである,本件刊行物の裏表紙に定価100円と表示されているといっても,一般の書店では発売されていない。
本件刊行物のような教師用指導資料は,このような目的で発行されるものであるから,過剰なサービスを防ぐ意味で,文部科学省の指導のもと社団法人教科書協会においてページ数等の規制もしている。
これらの事は,この業界においては常識である。
したがって,本件刊行物は,教科書本体を離れては存在価値はなく,教科書本体とは別個の取引形態をもって独立して商取引の対象となるものではないから,商標法上の商品には該当しない。
3 取消事由3(本件刊行物の「雑誌」該当性の欠如) (1) 本件商標の指定商品である「雑誌」とは,「@雑多のことを記載した書物。A号を追って定期に刊行する出版物。週刊・月刊・季刊などがある。」(広辞苑第2版(甲第6号証)893頁)のことであり,「定期刊行物」とは,「新聞・雑誌・書籍など,一定の時期ごとに刊行する印刷物。」(同1513頁)のことである。
「本件商品は,教科書の内容や扱い方について使用した教師等の意見,感想などを紹介しているものであり,毎号その内容を異にしながら号を追って発行され,1999年(平成11年)現在,その号数も第86号を数えるに至って」(審決書7頁2行〜5行)いるものであることは,審決の認定するとおりである。しかしながら,審決が,そのことから直ちに,その理由も付さず,「その発行形態,内容,題字,裏表紙等の体裁からみて,商品「雑誌」の範疇に入ると判断して何ら差し支えない」(審決書7頁5行〜6行)としていることは誤りである。本件刊行物の発行形態は,前記のとおりであり,このような発行形態のものを,「雑誌」とみることはできないというべきである。一般に,「雑誌」は,グラビア,随筆,漫画,小説等雑多なものを収録したものであって,本件刊行物のように,一貫して教科書本体を販売するために編集されたものは,「雑誌」というより,むしろ「書籍」の範疇に入るというべきであるからである。
(2) 審決は,本件刊行物が「定期に刊行されないことを理由に「雑誌」でないということもできない。」(審決書7頁7行〜8行)としている。しかし,「雑誌」とは,前記のとおり,「A号を追って定期的に刊行する出版物。」でもあるので,審決は,この点においても,誤っている。
被告の反論の要点
審決の認定・判断は,正当であり,審決に原告主張のような認定・判断の誤りはない。
1 取消事由1(本件商標の使用許諾契約の不存在)について (1) 被告の代表者であるB(以下「B」という。)は,前代表者のC(以下「C」という。)から本件商標権の権利関係を明確にするようにいわれていたため,平成4年12月に,当時秀文出版の代表取締役であった原告と同じく取締役であったD(以下「D」という。)にその趣旨の申入れをし,原告及びDと合意して,乙第6号証の本件許諾書1を作成した。本件許諾書1は,Bが1通作成して,記名捺印した上,秀文出版のDを通じて,その代表取締役である原告に渡したものである。
(2) Bは,本件商標に係る商標権存続期間満了の約7か月前である平成6年1月ころ,本件商標の更新登録手続をするかどうかを原告とDに相談した上で,その了解を得て更新登録手続を取った。Bは,Dに対し,本件刊行物の一つである乙第3号証の原本と乙第6号証の本件許諾書1の原本を,本件商標の更新登録手続のために特許事務所に持参するように依頼し,更新登録手続終了後に,特許事務所から各原本の返還を受けたので,これをDに手渡した。
(3) 上記の経緯から,被告が,秀文出版に対し,本件商標の使用許諾をしたことは,明らかである。
2 取消事由2(本件刊行物の商品性の欠如)について 商標法上の商品とは,「生産又は取引の目的たる流通性を有する有体動産」である。本件刊行物の裏表紙には,上記のとおり,定価とその連絡先が記載されているのであり,秀文出版の営業部に連絡すれば,これを購入することができるのである。本件刊行物が商標法上の商品であることは明らかである。
3 取消事由3(本件刊行物の「雑誌」該当性の欠如)について 本件刊行物は,教科書の内容や扱い方について,これを使用した教師等の意見,感想などを紹介しているものであり,一定の間隔を置いて,毎号その内容を異にしながら,号を追って発行している。本件刊行物の号数は,平成11年現在,86号を数えるに至っている。本件刊行物は,その題字及び表紙の体裁,並びに,裏表紙の体裁についても,発行所名と,その発行年,住所,電話番号及びマーク,定価等が記載されており,雑誌であることは明らかである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件商標の使用許諾契約の不存在)について (1) 証拠(乙第12号証(D作成の陳述書)及び後記括弧内記載の証拠)によれば,次の事実が認められる。
(ア) 被告は,昭和48年12月24日に,当時学芸大学教授であり,英語研究の第一人者の一人として,株式会社三省堂(以下「三省堂」という。)との間に,英語教育関係の書籍について強いつながりを有していた,Cによって設立された会社であり,三省堂の倒産後も,Cらが有する著作権を保全すること,及び,英語教育の普及に関する書籍の編集,教育及び普及活動等をすることを目的としていた(乙第9号証)。
(イ) 秀文出版は,昭和50年4月2日に,Cが中心となって設立した会社であり,三省堂倒産後も中学校の英語教科書の発行を継続することを目的としていた。その出資者は,Cのほか,D,原告等であり,Cと原告が秀文出版の代表取締役に,Dが編集・出版担当としてその取締役に,それぞれ就任した(乙第10号証の1・2)。
(ウ) 被告と秀文出版は,秀文出版設立以来,豊島区<以下略>にある同じビル内に本店を構え,業務を行ってきた。秀文出版は,昭和52年度から,三省堂が発行していたのと同じ「TOTAL ENGLISH」の題号で,中学校英語教科書の発行を開始した。なお,この「TOTAL ENGLISH」との題号は,教科書の著者の一人であったEの発案によるものであった。
(エ) Eは,昭和47年3月14日に,指定商品を「新聞,雑誌」として,「TOTAL ENGLISH」との商標権を取得していたものの,昭和55年9月に死亡し,同商標権は,昭和57年3月18日に,存続期間の満了により消滅した(乙第11号証の1・2)。そのため,被告は,昭和56年11月に出願をして,本件商標を取得した。
(オ) Cは,平成3年6月30日に死亡し,Bが,同年8月20日に被告の代表取締役に就任した(乙第9号証)。Bは,平成4年12月に,秀文出版において,秀文出版の代表取締役である原告と取締役であるDに対し,秀文出版が本件刊行物に使用している本件商標について,使用許諾の趣旨を書面で明確にすることを提案し,原告もこれを了承した。Bは,その2,3日後に,本件許諾書1を作成して持参し,Dがこれを受領した。本件許諾書1は,被告が,秀文出版に対し,本件商標及び登録商標「トータルの友」を秀文出版が使用することを許諾するとの内容であり,使用期間は平成5年4月から4年で,使用料は特に定められず,無償であった。(この項全体につき,甲第2号証,乙第6号証。ただし,これらは,本件許諾書1そのものではなく(その所在は,不明である。後述の秀文出版の破産管財人による回答書参照),その控えとして作成されていたものである。) (カ) Dは,平成6年1月27日に,秀文出版の代表取締役に就任した。これにより,同社の代表取締役は,原告と同人の二人となった。Dは,平成7年5月の本件商標の存続期間更新の登録に際して,被告から依頼されて,特許事務所に本件許諾書1等の書類を持参し,更新登録手続に協力した。本件商標は同年5月30日に更新登録された(乙第2号証)。
(キ) 秀文出版は,「TOTAL ENGLISH」との題号の中学校用英語教科書のみならず,本件商標(「TOTAL ENGLISH」)を題号とした本件刊行物をも継続的に刊行し,平成8年には82号を,平成10年には83号ないし85号を,平成11年には86号,87号を刊行している(甲第7ないし第10号,乙第3ないし第5号証,第8号証の1ないし3)。
(ク) 被告は,平成8年11月には,本件許諾書1と同内容の本件許諾書2を作成して,秀文出版にこれを交付し,前記(オ)と同内容で,本件商標の使用を許諾した(甲第3号証,乙第7号証。ただし,これらは,本件許諾書2そのものではなく(その所在は,不明である。後述の秀文出版の破産管財人による回答書参照),その控えとして作成されていたものである。)。
(2) 確かに,乙第6号証及び第7号証は,原告が主張するように,いずれも,使用許諾を受ける立場にある秀文出版の記名・押印がなく,両者間の契約書の形式にはなっていないものであり,その許諾の日付も,日付までの記載はなく,単に「1992年12月」,「1996年11月」と記載されているものである。しかし,@被告も秀文出版も,もともとはCが中心となって設立した会社であり,その事業目的も共通し,業務上緊密な関係の会社であったこと,A本件許諾書1及び2は,商標権者である被告が秀文出版に本件商標の無償の使用を許諾することを内容とするものであることから,そこに,秀文出版の被告に対する契約上の義務(使用料の支払義務等)を記載する必要のないものであること,Bこれまでの被告と秀文出版との間の本件商標の使用許諾の関係を書面で明確に追認した趣旨のものであること,からすれば,契約書の形式によることなく,また,許諾の日付を上記のような不完全な形のままとして,記載されることも,十分にあり得ることであり,このような形式で使用許諾書が作成されたとしても,特段不自然なことということはできない。
原告は,秀文出版の代表取締役として,秀文出版が本件許諾書1及び2(乙第6,第7号証)を受領していないこと,及び,被告と秀文出版との間に本件商標の使用許諾契約が存在しないことを記載した証明書を甲第4号証の2として提出している。しかし,Dは,前掲乙第12号証の陳述書において,乙第6,第7号証の本件許諾書1及び2を被告から受領し,本件商標の使用許諾を受けていたことを認めている。Dは,設立当時から秀文出版の編集・出版担当の取締役であり,平成6年1月27日から同9年7月29日までの間は,原告とともに秀文出版の代表取締役となっていた者である(乙第10号証の3)。このDが,このように認めていることは重要である。前記(1)に認定した本件商標の出願登録及び「TOTAL ENGLISH」との題号の中学校用英語教科書及び本件刊行物の継続的発行の経緯を前提にDの上記陳述書をみれば,本件商標を本件刊行物に継続して使用してきた秀文出版が,被告から本件商標の使用許諾を受けたのは,ごく自然なこととして了解することができる。したがって,原告の甲第4号証の2の証明書をもって,上記(1)の認定の妨げとなるものとすることはできない。
原告は,中学校用英語教科書,及び,その教師用指導資料である本件刊行物は,書籍の範疇に入り,「TOTAL ENGLISH」を教科書の題号として使用しても,自他商品識別標識としての機能を有しないということであったため,商標権の登録については何も気にすることもなくこれを使用してきたものである,まして,本件商標の指定商品の中には教科書(書籍)は包含されていないのであるから,仮に,秀文出版が本件商標が存在していることを知っていたとしても,被告から積極的に使用許諾を得る必要はなかった,と主張する。しかし,本件刊行物が本件商標の指定商品である雑誌に当たることは,後記説示のとおりである。したがって,少なくとも客観的には,秀文出版は,本件商標を本件刊行物に継続して使用する以上,被告から本件商標について使用許諾を得る必要があったのであり,その必要性がないことが秀文出版に明らかであったことを前提とする原告の主張は,そもそも採用することができない。
甲第4号証の2によれば,秀文出版の破産管財人は,平成12年5月25日付けで,破産宣告直後の秀文出版の事務所には,乙第6,第7号証に相当する書面を発見することができなかったことを回答書で証明していることが認められる。
しかし,破産宣告直後であるとはいえ,破産宣告の前後に,不測の事態が生じたり,何らかの理由で重要な書類等が破棄されたり紛失したりすることもあり得ないことではないこと,及び,前掲各証拠からすれば,甲第4号証の2の証明書記載のとおりであったとしても,前記認定の事実を覆すべきものということはできない。
原告の主張は,いずれも採用することができない。
2 取消事由2(本件刊行物の商品性の欠如)について (1) 審決は,「たとえ中学校用英語教科書に付随するものであっても,本件商品は,それ自体独自の商品価値を有し,教科書本体とは別個の取引形態をもって独立して商取引の対象となり得るものであって,そうである以上,これを商標法上の商品でないとまでいうことはできない。」(審決書6頁36行〜7頁1行)と判断した。
証拠(甲第7ないし第10号証,乙第3ないし第5号証,乙第8号証の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア) 本件刊行物は,秀文出版発行の中学校用英語教科書「TOTAL ENGLISH」を採用している中学校の教師等を対象とした指導用資料であり,同教科書の内容や指導方法等について,これを使用した現場の教師等の意見,感想などを紹介したり,英語教育の研究者の論考等を掲載したりしているものである。本件刊行物は,毎号その内容を異にしながら号を追って年に数回発行され,平成8年には82号,平成10年には83号ないし85号,平成11年には86号,87号が発行されるに至っているものである。
(イ) 本件刊行物は,その表紙に「TOTAL ENGLISH」との題号が表示され(平成10年発行の85号から「英語通信」との題号及び「TOTAL ENGLISH」との題号の両方が併記されている。),その裏表紙には,発行者として,秀文出版の名前と住所及びその営業部の電話番号,「定価100円」(平成11年発行の86号から「定価200円」となっている。)との表示,並びに,「株式会社秀文出版」との表示と発行年が印刷されている。
(ウ) 本件刊行物は,秀文出版の営業部員が,同教科書を採用している学校の教師を対象として,有償又は事実上無償で販売ないし配布するものであり,また,一般の書店で市販はされていないものの,秀文出版の営業部に電話等で直接申し込めば,これを購入することが可能なものである。中学校用教科書は,各市町村の教育委員会において採択され,国が指定教科書発行者に対し,指定教科書の代金を支払い,各学校において生徒に無償で配布されるのに対し,本件刊行物は,これとは異なる上記の取引形態により,上記の形の取引市場において,教科書とは独立して流通するものである。
上記認定事実によれば,本件刊行物は,秀文出版発行の中学校英語教科書「TOTAL ENGLISH」が採用されている学校の教師等中心として独立に広く流通しているものであり,商標法上の商品であると認められる。
(2) 原告は,本件刊行物は,教科書が採用されていない学校に対してはその教科書の宣伝のために,すでに教科書が採用されている学校に対しては今後の教科書の継続的使用のために,営業の一環として各学校の教師に無償で配布されるものである,本件刊行物の裏表紙に定価100円と表示されているといっても,一般の書店では発売されていない,本件刊行物は,教科書本体を離れては存在価値はなく,教科書本体とは別個の取引形態をもって独立して商取引の対象となるものではないから,商標法上の商品には該当しない,と主張する。
しかし,教師用指導資料である本件刊行物のすべてが,教師等の学校関係者に対し,事実上無償で配布されるものなのかどうかは,証拠上は明らかではない。また,仮に,本件刊行物のすべてが事実上無償配布されるものであるとしても,本件刊行物は,教科書の内容を教えるための工夫とか,現場の教師の意見,感想などを紹介したり,英語教育の研究者の論考などを掲載したりしているものであり,それ自体独自の価値を有する内容の雑誌である。そして,本件刊行物は,採用された教科書が教育現場において有効に利用され,その価値を高めるために必要な指導用資料であり,教科書と内容的に密接な関係を有し,継続的に発行されるものであることからすれば,同じく無償で配布されるものであるとしても,商品本体に付される景品とかおまけとは異なるものであり(商標法上の商品であることが否定されることが多い景品の場合は,商品の種類が毎回同じものに限定される必要性はないが,本件刊行物は,常に,「雑誌」として継続的に発行されるものであるから,その商標登録を維持すべき必要性は高いというべきである。),本件刊行物は,この点からも,独立して商取引の対象となる商品であるというべきである。本件商品が商標法上の商品ではないとの原告の主張は,採用することができない。
3 取消事由3(本件刊行物の「雑誌」該当性の欠如)について 本件商標の指定商品である「雑誌」とは,「@雑多のことを記載した書物。
A号を追って定期に刊行する出版物。週刊・月刊・季刊などがある。」(広辞苑第2版893頁,甲第6号証)のことであるから,本件刊行物が上記に認定した内容の刊行物であり,ほぼ毎年数回発行されているものである以上,それが正確には定期に刊行されたものではないとしても,本件商標の指定商品の「雑誌」に当たるというべきである。
4 まとめ 以上のとおりであるから,被告から本件商標の使用許諾を受けている秀文出版が,本件商標をその指定商品である雑誌に使用している,と認定した審決は,その結論において相当であり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件
訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久