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関連審決 審判1999-4127
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10555審決取消請求事件 判例 商標
平成13行ケ49審決取消請求事件 判例 商標
平成13行ケ446審決取消請求事件 判例 商標
平成17行ケ10673審決取消請求事件 判例 商標
平成12行ケ474審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  包装 /  役務の提供 /  識別機能 /  指定商品 /  記述的商標(3条1項3号) /  普通に用いられる方法 /  3条2項 /  周知性 /  立体商標 /  平面商標 /  立体的形状 /  先使用(32条) /  中用件(33条) /  称呼(称呼類似) /  国内 /  存続期間 /  マドリッド /  社団法人 /  パリ条約 /  国際登録 /  外国 /  継続 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 4号 審決取消請求事件
原告 メカニカルプラスチックス コーポレイショ ン
訴訟代理人弁理士 丸山敏之
同 宮野孝雄
同 北住公一
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 久保田正文
同 涌井幸一
同 大橋良三
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/11/27
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第4127号事件について,平成12年8月23日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成9年12月9日,別紙審決書の理由の写し末尾の【別掲】欄(以下,単に「別掲」という。)記載の立体的形状から成り,商標法施行令別表による商品及び役務区分第20類の「合成樹脂製止め具」を指定商品とする商標(以下「本願商標」という。)について,立体商標の商標登録出願(商願平9-184733号)をしたが,拒絶査定を受けたので,平成11年3月11日に,これに対する不服の審判の請求をした。特許庁は,同請求を平成11年審判第4127号として審理した結果,平成12年8月23日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年9月11日にその謄本を原告に送達した。
2 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおり,本願商標は,アーム部分が開いた状態の中空壁用止め具の形状を表したものとみるべきであって,これをその指定商品の「合成樹脂製止め具」について使用しても,取引者・需要者は,単に商品の形状の一形態を表示したものと認識するにすぎないと解されるから,自他商品の識別力を有するものとは認められず,かつ,本願商標の止め具の形状自体が,使用により,需要者の間で何人かの業務に係る商品等であることを認識できるに至っているとも認められないから,商標法3条1項3号に該当し,同条2項には該当しない,と認定判断した。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由のうち,「1 本願商標」及び「2 原査定の理由」は認める。
「3 当審の判断」のうち,(1)欄(2頁2行〜32行)及び(2)欄(2頁33行〜3頁10行)は認め,(3)欄(3頁11行〜15行)は争う。(4)欄のうち,3頁16行ないし20行,3頁37行ないし4頁7行の「請求人は・・・認められ」まで,4頁20行ないし30行は認め,その余は争う。
審決は,本願商標が,その形状の特徴から自他識別力を有するにもかかわらず,誤って,本願商標をその指定商品に使用しても,取引者・需要者は,単に商品の形状の一形態を表示したものと認識するにすぎないものと認定判断して,商標法3条1項3号の該当性の判断を誤り(取消事由1),仮にそうでないとしても,本願商標は,その使用により,自他商品の識別力を有するに至っているにもかかわらず,誤って,自他商品識別力を有しないと認定判断して,商標法3条2項該当性の判断を誤ったものであり(取消事由2),これらの誤りがそれぞれ結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り) (1) 審決は,「本願商標は,別掲に示すとおり,アーム部分が開いた状態の中空壁用止め具の形状を表したものとみるべきであって,これを本願指定商品の「合成樹脂製止め具」について使用しても,取引者,需要者は,単に商品の形状の一形態を表示したものと認識するにすぎないものと判断するのが相当である。」(審決書3頁11行〜15行),「本願商標は,・・・その形状が特徴的なものであっても,それは商品等の機能,又は美感をより発揮させるために施されたものであり,商品の形状を普通に用いられる方法の範疇で表示する標章のみからなる商標というべきであって,本願商標は,その形状に特徴を持たせたことをもって自他商品の識別力を有するものとは認められない」(同3頁29行〜33行)と認定判断した。
しかしながら,本願商標の形状は,両腕を両側方へ大きく広げた特徴のある形状をしており,石膏ボードやベニヤ板への止め具として各社が独自の形状を創作している中で,際立った特徴を有していることから,他業者の止め具とは,識別され,記憶されるものである。
したがって,審決の上記認定判断は,誤りである。
(2) 原告は,その製造販売する合成樹脂製止め具(商品名トグラー)の形状について保護を求めるため,甲第6ないし第8号証の図形商標につき商標登録を受けた。これは,平成8年以前においては,わが国では,商品の立体的形状を商標法によって保護する規定が存在しなかったため,やむを得ず,これを平面的に表し,商標登録出願をしたものにすぎない。上記商標登録の事実は,本願商標の自他識別力の有無の判断に際して考慮されるべきであるのに,審決は,これを考慮していない。審決には,この点において,審理不尽の違法があるというべきである。
2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り) 仮に1の主張が認められないとしても,本願商標は,以下の点を総合すると,その使用により,自他商品識別機能を有するに至っているというべきである。
(1) 本願商標の形状 本願商標は,前記のとおり,石膏ボード又はベニヤ板に取り付ける止め具として,両腕を両側方へ大きく広げた特徴のある形状をしている。石膏ボードやベニヤ板への止め具の形状については,各社が独自のものを創作している(甲第9号証)。本願商標に係る原告の商品(商品名「トグラー」。以下「原告商品」という。)の形状は,その中で際立っているため,他業者の止め具とは識別され,記憶されやすいのである。
被告は,本願商標に係る形状の商品と類似する商品が存在している,として,昭和貿易株式会社(以下「昭和貿易」という。)の「フェニックス」(乙第9号証の1),アドミラルモルディング社の「トグル」(乙第9号証の2)及びAの登録意匠(乙第10号証の1,2)を,示している。しかし,これらは,次にのべるとおり,いずれも,原告商品を模倣する行為又は原告商品との関係で不正競争行為に該当する行為によって作られたものであり,現在では,使用が中止されるか,形状が変更されるかしているから,被告の主張は,理由がない。
ア 昭和貿易は,1983年から1993年まで,日本国内での原告の総輸入元であった者であり,原告との間の代理店契約(国際販売契約)違反が発端となって,アメリカ合衆国において仲裁事件となり,同事件において,原告に補償金及び仲裁費用を支払うことで決着した。その際,昭和貿易と原告との間の代理店契約は,1992年12月31日をもって終了すること,同契約に基づき昭和貿易が販売する製品は,原告が製造したものに限ることが決められた。したがって,乙第9号証の1の商品が,原告との契約の継続中に販売されたものであるときは,仲裁の規定に違反したものということになるのであり,このようなものを本願商標と対比して,それを根拠に本願商標の出所表示性の有無を論ずることは,許されるべきことではない。
イ アドミラルモルディング社は,原告との商標権侵害等に関する係争において,1992年12月9日に成立した和解の中で,原告商品とは明瞭に識別されるように商品の形状を変更することを取り決めた。乙第9号証の2に掲載された雑誌広告に示されている形状は,和解による取決め前のものであって,この取決めに基づき廃止されているから,これを本願商標と比較対比して,それを根拠に本願商標の出所表示性の有無を論ずることは,許されない。
ウ Aの登録意匠は,本願商標に似てはいるものの,頭部の形状,ネジ孔形状,アームの凹凸形状,アームの横貫通孔形状において,本願商標に変更が加えられたものとなっており,原告商品をかなり意識し,それとは識別できるように苦心していることが理解できる。本願商標は,Aの意匠形状の原型であって,同人は,これを模倣したものであるから,これを本願商標と比較対照して,それを根拠に本願商標の出所表示性の有無を論ずることは,許されない。
(2) 原告商品についての販売活動,積極的な宣伝,広告 ア 原告は,本願商標の立体形状を1970年初頭に創作し,遅くとも1972年から,原告商品の,日本国内での販売を開始し,現在まで長期間にわたり販売を継続している。
証拠上明らかな,原告商品の,わが国での販売数量は,次のとおりである。
1987年(昭和62年) 716万4150個(甲第24号証) 1996年(平成8年) 1255万5500個(甲第19号証の5) 1997年(平成9年) 1108万5500個(同上) 1998年(平成10年) 524万9500個(同上) 1999年(平成11年) 650万個 (同上) 2000年(平成12年) 713万4000個(同上) イ 原告は,平成5年から平成10年にかけて,新聞や雑誌において,原告商品の広告宣伝を行った(甲第15号証の1ないし24)。
ウ 原告は,昭和62年から平成9年にかけて,原告商品を日本国内で開催された大規模展示会に出品した(甲第24号証)。
このほかにも,平成6年10月から原告の日本総代理店をしている高松商事株式会社は,電材問屋,建材問屋などの展示即売会に年間20回ないし30回,原告商品を出品している。
エ 原告は,その日本総代理店などを通じて,原告商品の形状が描かれたカタログを作製し,上記大規模展示会及び展示即売会において来訪者に配付したり,当業者にダイレクトメールで郵送したりしていた(甲第16号証,第25ないし第37号証)。
オ 原告は,本願商標を包装箱に表示している(甲第14号証)。
被告は,本願商標と原告商品及びその宣伝,広告に使用された商標との間には,「TOGGLER」の文字の有無という顕著な差異がある,と主張する。しかし,原告商品のフランジ外側に浮き出し文字で表示されている「TOGGLER」は,メーカーとしての責任の所在を示すために必要な製造者表示にすぎず,ただちに文字を読むことができないほどに表示は小さいから,商標としての表示ではない。
(3) 原告商品の販売量と市場占有率 日本国内における石膏ボード等の中空壁用の止め具の総生産量は月200万ないし300万個と推定される。すなわち,甲第38号証によれば,プラスチック系アンカーの日本国内における平成10年の生産量は3億0662万2000個であり,このうち中空壁用のアンカーの売上の割合は,経験上10分の1であることが確認されているから,その販売量は,上記数量の10分の1である年間3066万2200個と推定され,これは,毎月平均250万5167個に相当する。他方,甲第19号証の5,第24号証により認められる原告商品の年間販売量は,平均年828万個となり,これは,平均月69万個に相当するから,その市場占有率は27パーセントとなる。この数字は,本願商標が日本国内において,当業者に広く知られていることを裏付けるものである。
被告は,原告商品が,中空壁用のアンカーとして分類されることの根拠が希薄である旨主張する。しかし,商品「トグラー」は,業者間では中空壁用のものとして取り扱われているから,原告が原告商品を中空壁用のアンカーに分類したことに誤りはない。
(4) アンケート結果 原告が実施したアンケート(甲第20,第21号証)の結果によれば,石膏ボード用の止め具では,原告商品である「トグラー」が他の止め具を圧倒的に抑えて広く利用されている。
被告は,このアンケート調査の結果について,本願商標と同種の商品が,その形状によって,出所が区別され,識別されているとは言い難く,それぞれの商品などに使用されている文字などの商標によって,本来的に識別されているというべきである,と主張する。
しかしながら,アンケートの調査対象者は,住宅,建築,設備工事関連の専門業者であり,これらの者の間では,商品形状を「トグラー」の名前で代表しているから,アンケートの中に「トグラー」の商品名を表示することにより,商品形状は特定されている。上記アンケート結果によれば,上記専門業者がアンカーを購入する際に最も重視するのは「機能」であるとの回答が97点で,「名前」であるとの回答が2点であるのに対して圧倒的に多い。これは,専門業者がアンカーを購入する際に重要視するのは,ほとんど機能,形状であって,これを考慮せずに,商品名だけで購入する者はほとんどいないことを示している。本願商標が,その形状によって識別されているとは言い難い,との被告の主張は,誤りである。
被告は,「トグラー(TOGGLER)」には,4ないし6タイプ(サイズ)の形状の商品が存在し,このうち本願商標と同一といい得る形状のものは「TB」タイプ(サイズ)とみられるもののみである。」と主張する。しかし,商品は,それの使用個所に合わせて,大型小型など適当なサイズがつくられるのが通常であり,タイプ(サイズ)の違うものがあるからといって,本願商標の形状と別の形状のものがあるということになるわけではない。
(5) 当業者らによる証明 上記の事実を踏まえて,大阪商工会議所会頭,社団法人日本建築あと施工アンカー協会理事長は,本願商標が原告の製造販売に係る商品として取引業者の間で周知である旨の証明書を提出し(甲第18,第22号証),各種の産業用及び住宅用止め具を販売している当業者らも,これらの者が取り扱う各種止め具の中で,本願商標が取引業者間でよく知られていることを証明している(甲第19号証の1ないし3)。
甲第18,第22号証の証明者は,いずれも公的立場にある者であり,これらの者の証明した事項には,十分に信頼が置かれ,尊重されるべきである。甲第19号証の1の証明者は,原告商品のみではなく,競合する他社商品の販売も行うアンカー専門の卸売業者である。甲第19号証の1ないし5の証明書は,いずれも,単に捺印するだけのものではなく,最近5年間の輸入数量,総販売開始年,主な販売先と販売方法などの記入を求めており,各社は,少なくとも販売数量については,過去の記録を調査し,自ら記入している。証明内容を十分に確認した上での証明書であるから,尊重されるべきである。
(6) 被告は,立体商標について,商標法3条2項を適用するに当たっては,商標権の効力が全国に及び,かつ存続期間の更新により半永久的な独占権となり得ることを考慮すれば,自他商品などの識別力についての運用は,厳格な解釈に基づいて行われるべきであり,このように厳格な解釈に基づき運用することによって,初めて,商標法以外の工業所有権法の目的との均衡,そして,不正競争防止法も含む知的財産権制度全体の整合性が保たれる,旨主張する。
しかしながら,二つの法律が同一の対象物を重複して登録し,保護することは,何ら,それぞれの法律の趣旨に反することではない。例えば,ある物品の形状について意匠出願と特許又は実用新案出願がなされた場合に,特許権又は実用新案権の存続期間が満了し,意匠権だけが依然として排他的効力を発揮することは,法律が予定しているところである(特許法82条,意匠法32条2項参照)。また,ある商品形状について,意匠出願と特許出願がなされ,それぞれが登録された後,いずれか一方の権利が放棄又は登録料の不納付によって消滅した場合にも同じ問題が生じる。これは,商標権との関係についても同じである(商標法33条の2)。被告の主張は,商品形状の登録を求める商標使用者の保護を疎かにし,商標登録をいたずらに困難にするばかりでなく,自他識別機能を備えた商品形状を模倣する第三者の暗躍を許す,不合理な結果をもたらすものである。
原告が,本願商標の形状が含まれる特許第1318607号(乙第4号証の2)及び特許第1326091号(乙第5号証の2)の特許発明について,特許権を取得し,これらの特許権の存続期間が満了して消滅したことは事実である。しかしながら,本願商標の形状は,それら特許発明に含まれるものであるものの,それらの特許発明の図面に示された形状と同一ではない。原告は,存続期間の満了した上記特許発明の権利が一般に開放されていることは認めており,これらの権利を主張しようとしているのではない。原告は,本願商標の形状の原告商品との間で出所の誤認混同を生じる形状について,他人の使用を拒否しようとしているにすぎない。特許権の存続期間満了を口実として,原告商品の形状を模倣し,営業する者があれば,それは商標法及び不正競争防止法の趣旨に反することであるから,厳重な取締りが必要とされることは,何ら不思議ではない。
(7) 米国及びヨーロッパ各国においては,商品の立体的形状が取引者・需要者の間で周知であることが認定されれば,それを商標登録し,保護する実務が,既に行われている。
甲第11号証の1ないし5は,米国における立体的商標の登録例である。
本願商標と同一形状の商標は,フランス国立工業所有権局商標部(甲第12号証)及びベネルックス商標局(甲第13号証)において,立体的商標として原告に商標登録が認められている。
これらの外国における登録例は,わが国においても,本願商標の登録に際して参考とされるべきである。
被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり,審決に原告主張の違法はない。
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について (1) 本願商標は,指定商品である「合成樹脂製止め具」の形状の一形態を表したものであり,たとい,その形状にやや特徴的なものがあるとしても,それは,商品の美感又は機能(使用時の強度)をよりよく発揮させるために採択されたものとみられるから,商品の形状を普通に用いられる方法の範疇で表示する標章のみからなる商標というべきである。したがって,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした審決の認定判断に誤りはない。
(2) 原告は,審決が,原告が登録した図形商標(甲第6ないし第8号証)を本願商標の自他識別力の判断に当たって参考としなかったことは,審理不尽である旨主張する。
しかしながら,甲第6号証の商標は,原告がその登録手続の過程において,「請求人(原告)が会社創業時から社章として採用していたものであること」などと主張していたもので,「本願商標とは異なる平面図形商標とみられるものであったこと,甲第7号証の商標は,本願商標の正面図とみられる部分と酷似した形状のほかに,識別力を有する「TOGGLER」の文字を有していることから,本願商標とは異なるものであり,甲第8号証の商標は,原告がその登録手続の過程において,「シルエット手法による抽象的なこの図形は斬新で,顕著なものであるから,商品の使用状態を普通に用いられる方法で表示したことにならない」などと主張していたもので,本願商標のように商品そのものの立体的形状を表した商標であるとはいえないものであり,いずれも,本願商標の場合とは,明らかに事案を異にするものである。そうである以上,この点について,審決に審理不尽があったとすることはできない。
2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について 原告が商標法3条2項該当性の主張の根拠として提出する証拠は,以下に述べるとおり,本願商標それ自体が使用による識別力を有するに至っているとするには,客観性に乏しい,というべきである。
(1) 本願商標の形状について 本願商標に係る形状は,合成樹脂製止め具の形状の一形態を表し,商品の機能,又は美感をよりよく発揮させるために採択されたものとみられるものであるから,本来的に自他商品の識別標識たり得ないものといわざるを得ない。
それに加えて,本願商標に係る形状の商品と類似する商品が存在し(昭和貿易「フェニックスアンカーシステム」・乙第9号証の1,「AMERICAN FASTENER Journal」Volume7,No,5;乙第9号証の2),また,意匠に係る物品を「ねじ受具」として意匠登録されている意匠の中に,本願商標と類似する形状のものがあることも認められる(乙第10号証の1,2)。
そうすると,本願商標に係る形状について,唯一無二の特異な形状であるとまでいえるものではなく,また,その形状のみによって,識別され,記憶されているともいうことはできない。
(2) 原告商品についての販売活動,宣伝,広告について 原告は,甲第14ないし第16号証を挙げ,本願商標の形状について,積極的な宣伝,広告,販売活動を行った結果,同形状は,取引者・需要者に印象付けられ,記憶されるに至ったものである,旨主張する。しかし,上記各証拠によっては,本願商標の形状と同一形状の商品が販売されているということはできるにしても,その商品の広告,宣伝がどの程度行われていたかは不明であるから,これらの証拠のみをもって,積極的な広告,宣伝,販売活動を行ってきたということはできず,まして,広告,宣伝の結果,同形状が取引者・需要者に印象付けられ,記憶されているということはできない。
甲第14ないし第16号証において原告商品に使用されている商標は,「トグラー」,「TOGGLER」等の文字及び登録第2569024号商標(甲第5号証)の図形部分及び同第4089448号商標(甲第6号証)と酷似した(本願商標の正面図に相当する部分を白抜きで表して,他の部分を黒線及び黒の点線で表した)平面図形商標とみられ,立体的形状を表した本願商標とは異なる。また,甲第15号証の4ないし19,22ないし24に表示された本願商標と酷似した形状を表したとみられる図形には,「TOGGLER」の欧文字が表されており,この文字部分も自他商品の識別標識として使用されているというべきであるから,文字等の表示がされていない本願商標との間には,「TOGGLER」の文字の有無という顕著な差異がある。さらに,検甲第1号証,甲第14号証によれば,原告商品の包装容器には,「トグラー」,「TOGGLER」の文字が表示されており,甲第15号証の1ないし24及び甲第25ないし第37号証にも,これらの文字が表示されており,これらこそが,宣伝,広告に使用されている商標であるというべきである。そして,他に,その商品の形状のみについて,広告,宣伝等され,取引者・需要者に記憶されるに至ったとみられる形跡はなく,原告商品及びその宣伝,広告に使用された商標と本願商標とが同一であるとはいえないのであるから,本願商標の形状それ自体のみについて,取引者・需要者間で広く認識されるに至っているということはできない。
原告は,甲第16号証,第25ないし第37号証を挙げ,本願商標がこれらの配布によって広く知られていることが推認される旨主張する。しかし,これらがどの程度作成され,配布されたものであるかは明らかでなく,これらは,本願商標に関する商品のカタログが,原告の取引先により作成されている事実について立証しているものにすぎないから,これらによっては広範囲な宣伝広告が行われていたと推認することができず,したがって,これらを根拠に,本願商標が取引者・需要者間で広く認識されているに至っている,ということはできない。
(3) 原告商品の販売量と市場占有率について 本願商標に係る形状の商品の販売量に関する原告主張の根拠は,原告代表者の陳述書であり,それによっても,この数量がいかなる根拠から導き出されたものであるか不明である。原告主張の数量は,にわかには信じ難い。
原告は,原告商品が「中空壁用アンカー」に分類されるものであることを前提に市場占有率を算出している。しかし,甲第28,第29号証によれば,原告商品は,中空壁に限られず,あらゆる壁に使用することができるとされているから,甲38号証の分類中,「その他のアンカー類プラスチック系」としてみるのが妥当であり,これを前提に算出した市場占有率は3パーセント前後にすぎない。
仮に,原告主張の数量等に誤りがないとしても,本願商標に係る商品の販売量が多く,したがって,市場占有率が高いとみられることは,本願商標の周知性についての評価に際して,無視しえないものではあるものの,あくまで評価の一要素としての資格においてみるべきであって,これのみを取り上げて過大評価することはできないから,このことが,本願商標の周知性を直ちに表しているということはできない。
(4) アンケート結果について 甲第20,第21号証のアンケート回答者の属する住宅,建築,設備関連の業界にあっては,工事等に使用される資材,機器等の商品は,部品も加えれば相当の種類,数量に及ぶため,多くのメーカーによって製造され,多数の種類のある本願指定商品と同種の商品の間の区別については,メーカー名,商品の商標,品番等により,それぞれ仕訳がされているものとみられる。また,この種業界においても,電話,口頭による取引が行われることも,決して少なくないものとみられ,そのような場合には,商品やカタログ等に使用されている文字標章及びこれより生ずる称呼をもって取引が行われるものとみるのが相当である。そうすると,同種の商品であっても,その形状によって,出所が区別され,識別されているとはいい難く,むしろ,それぞれの商品等に使用されている文字等の商標によって,本来的に識別されているというべきである。
また,甲第25ないし第29号証によれば,「トグラー(TOGGLER)」には,4ないし6タイプ(サイズ)の形状の商品が存在し,このうち,本願商標と同一といい得る形状のものは,「TB」タイプ(サイズ)とみられるもののみである。甲第24号証によれば,「TB SIZE」の売上げの割合は,58.3パーセントであり,「TOGGLER」の商標が使用されている合成樹脂製止め具であっても,本願商標と同一とはいえない形状の商品が,約40パーセントは存在すると推認される。
そうすると,原告の行ったアンケート調査で「トグラー」アンカーを使用していると答えた回答者が,その商品の形状までも直ちに想起できたとはいい難く,また,アンケート自体にも本願商標の指定商品であることを示す言葉としては,「トグラー」の文字のみしか用いられていないものであるから,このアンケートをもって,本願指定商品の直接の需要者である回答者に対し,商品名又は業者名を示すだけで,その商品の形状までが特定された,とまではいい難い。
甲第20,第21号証からは,「トグラー」あるいは「TOGGLER」の文字商標が,本願指定商品の取引者・需要者間で相当程度知られるに至っているとの推認が可能であるといえるにとどまり,これらの証拠には,本願商標の形状そのものまで示されていないため,「トグラー」等の商標(商品名),業者名を離れても,商品「止め具」の立体的形状のみからなる本願商標自体が,同種の商品との間にあって,商品の出所を表示するものとして認識される程度に至っているとするには,不十分である。
(5) 当業者による証明について 甲第18,第22号証は,原告,輸入先及び販売代理店が,連名で,あらかじめ証明内容を記載して,証明者に証明を依頼し,証明者がその内容を証明する形式となっているものである。このうち,証明事項2.は,「上記合成樹脂製止め具は,形状の特異さと活発な営業活動によって,(中略)アンカー取引業者間では広く知られており,他の業者が製造販売する止め具とは識別されていること。」と記載されており,このうち,「活発な営業活動」及び「アンカー取引業者間では広く知られており,他の業者が製造販売する止め具とは識別されていること」に係る事実について確認するには相当の書証等を要するものと想像されるにもかかわらず,原告等が,証明者に対して,どのような証拠を提示した結果,証明者が上記事実について相違ないと証明したものであるか,その過程が明らかにされていない。
したがって,証明事項2.の記載内容の客観性については,疑わしいものといわざるを得ない。
甲第19号証の1ないし3は,あらかじめ用意された証明書について,取引業者が,販売数量,販売先等を記載したうえで署名,押印したものであることから,甲第18,第22号証と同様に,証明に至るまでの過程が不明であり,また,証明者が同種商品を製造等する競業者ではなく,原告の商品を取り扱う者であるとみられることから,その証明内容についての客観性は,極めて乏しいものといわざるを得ない。
(6) まとめ 原告の提出した上記各証拠は,本願商標それ自体が使用による識別力を有するに至っているとするには客観性に乏しい。そして,他の甲号証を総合しても,本願商標の形状そのものが,使用された結果,取引者間において周知となっており,需要者が原告の業務に係る商品であると認識できるに至っていると認めるには足りないから,本願商標の形状が使用による識別力を有するに至っているということはできない。
(7) 商標法3条2項の適用に当たっては,自他商品の識別力について,厳格に解釈するべきである。
原告は,本願商標と酷似又は類似する形状について,既に特許権を付与され(乙第4,第5号証の各1,2,第6号証の1ないし3),その後,いずれも存続期間が満了し,権利が消滅している。特許法は,新しい技術として公開された発明を利用する機会を第三者に与えることを目的の一つとしており,特許権の存続期間の経過後においては,全く自由にその発明を利用する機会を第三者に与えるものである。そして,実用新案法及び意匠法も,同様の目的を有している。そうすると,権利消滅後,第三者によって自由に実施することが予定されている上記商標法以外の工業所有権法により保護されてきた権利は,その存続期間が満了した後は,原則として誰もが自由に利用できるように開放しておくべきものであるということができる。また,優れた発明,考案,意匠であれば,同業他社が使用を欲し,その権利の消滅を待ち,使用を開始しようとすることは想像に難くないところであり,これら,第三者による発明等の実施行為は,商標法以外の工業所有権法においては,産業の発達に寄与するものとして,もともと予定されているところである。
したがって,例えば,物の発明において,その物の形状とその発明に係る商品の立体的形状とが同一又は類似である場合のように,その発明等とこれに係る商品等の形状とが直接的な関係を有する立体商標が出願されたときには,その商標自体が商標法3条2項に該当すると認められ,かつ,同法4条1項第18号に該当していないと認められる場合を除き,原則として,商標登録はなされるべきではないというべきであり,また,商標法3条2項の適用に当たっては,商標権の効力が全国に及び,かつ存続期間の更新により半永久的な独占権となり得ることを考慮すれば,自他商品の識別力についての運用は,厳格な解釈に基づいて行われるべきである。
立体商標については,商標法をこのように厳格な解釈に基づいて運用することによって,初めて,商標法以外の工業所有権法の目的との均衡,そして,不正競争防止法も含む知的財産権制度全体の整合性が保たれるというべきである。
(8) 原告は,米国やヨーロッパ各国においては,商品の立体的形状が取引者・需要者の間で周知であることが認定されれば,それを商標登録しており,このような外国における立体商標の登録例を,本願商標の登録に際して参考にすべきである旨主張する。
しかしながら,我が国においても,商品等の形状からなる立体商標が,使用により識別力を有していると認められるものであれば,商標法3条2項の適用により登録されるのであり,この点において,諸外国と何ら異なるところはない。
なお,工業所有権の保護に関するパリ条約6条(1)において,「商標の登録出願及び登録の条件は,各同盟国において国内法令で定める。」として,商標登録の条件について,各国の商標保護の独立が規定され,また,標章の国際登録に関するマドリッド協定の議定書5条(1)でも,「締約国の官庁は,関係法令が認める場合には,当該締約国においては当該標章に対する保護を与えることができない旨を拒絶の通報において宣言する権利を有する。」と規定されているように,出願に係る商標が自他商品の識別力を有するかどうかの判断は,各締約国の判断に委ねられている。
したがって,我が国に出願された商標は,あくまでも,我が国の商標法及び我が国の商品取引の実状に照らして登録されるか否かが判断されるものであり,その商標の自他商品の識別力,そして,使用による自他商品の識別力の獲得の有無についても,我が国におけるその商標の使用状況等を勘案して判断されるべきものであるから,わが国に出願した立体商標と同一の商標が,既に外国で登録されているからといって,我が国においても直ちに登録されなければならないことになるわけではないことは,明らかである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)について 原告は,審決が,本願商標の立体的形状は,商品等の機能,又は美感をよりよく発揮させるために施されたものであるから,本願商標は,商品の形状を普通に用いられる方法の範疇で表示する標章のみからなる商標であって,自他商品の識別力を有するものとは認められない,としたのは誤りであると主張する。
立体商標制度は,商品若しくは商品の包装又は役務の提供の用に供する物の形状を含む立体的形状であって,商品又は役務について使用するものを商標として登録し,保護しようとするものである(商標法2条,3条)。立体商標が登録されるためには,平面商標の場合と同じく,自他商品又は自他役務の識別力を備えるものであることが必要であることは当然である(商標法3条)。
本願商標は,商品の立体的形状そのものについて,当該商品を指定商品として商標登録をしようとするものである。しかしながら,商品の立体的形状は,本来,その商品に期待される機能を効果的に発揮させたり,あるいは,その商品から得られる美感を優れたものとしたりする等の目的で選択されるものであって,商品の出所を表示し,自他商品を識別する標識として選択されるものではないから,その機能あるいは美感等とは関係のない特異な形状であるような場合を除き,基本的に自他商品の識別標識とはならないものと解するのが相当である。
本願商標は,別掲のとおりのものであるから,アーム部分が開いた状態の中空壁用止め具の形状を表したものとみることができる。甲第16,第25ないし第29号証によれば,原告商品は,壁に器具等を取り付けるために,取付部分にあらかじめ埋め込まれるアンカーであり,取付部分に開けられた穴に,アーム部分を折り畳んでボルト状にして差し込む方法で使用するものであること,特に中空壁においては,取付部分の穴に差し込んだ後に,壁面に露出した頭部分に開けられている穴にキー若しくはねじを差し込むことによって,壁面内部で折り畳んだアームを開き,アーム部分によって,取り付ける器具の重量を支えること,このようにアームが完全に開いた場合,開いたアーム部分は頭の部分に比べて相当大きく,内部の壁面に接触する面積が大きいため,重量等による負荷が分散されて,アンカーの負荷に対する強度が最大に発揮されるものであること,が認められる。本願商標に係る止め具の上記形状は,甲第9号証によって認められる他社の同種製品と比べ,アーム部分を両側方に大きく開いた形状に特徴があり,美感上も優れていると評価することができるものの,上記認定によれば,その特徴は,その美感を高めるとともに,その使用時の強度を向上させるという機能と密接に関係し,これをよりよく発揮させるために施されたものであるということができるから,商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるとみるのが相当である。
したがって,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした審決の判断に誤りがあるとすることはできない。
原告は,原告商品につき,平面図形からなる図形商標の商標登録を受けている事実を考慮するべきである旨主張する。しかしながら,平面図形に関する商標登録の事実があるからといって,そのことから直ちに立体的形状についても商標登録を認めるべきであるということができないことは,明らかである。原告の主張は採用することができない。
2 取消事由2(商標法3条2項該当性判断の誤り)について (1) 原告は,本願商標は,使用により自他商品の識別力を取得した旨主張する。
商標法3条1項3号に該当する商標であっても,使用により二次的に自他商品等の識別力を有するに至った場合には,商標登録が認められることはもちろんである(商標法3条2項)。
本件において,本願商標が自他識別力を取得したか否かを判断するに当たっては,原告が,本願商標の形状と同一又は類似の形状をその権利範囲に含む特許権を有していたことを考慮する必要がある。すなわち,甲第15号証の1ないし3,乙第4,第5号証の各1,2,乙第6号証の1ないし3によれば,原告は,昭和45年4月22日,アメリカ合衆国において1969年7月10日にした出願に基づく優先権を主張して,本願商標の形状をその権利範囲に含む特許出願をして昭和51年10月27日に特許権の設定登録を受け(特第0832541号),その特許権の存続期間が満了したのは,平成2年4月22日であること,昭和52年9月14日,アメリカ合衆国において1976年9月15日にした出願に基づく優先権を主張して,本願商標と類似する形状をその権利範囲に含む特許出願をし,昭和61年5月29日に特許権の設定登録を受け(特第1318607号),その特許権の存続期間が満了したのは,平成9年9月14日であること,昭和55年9月13日,アメリカ合衆国において1979年12月21日にした出願に基づく優先権を主張して,本願商標と類似する形状をその権利範囲に含む特許出願をし,昭和61年7月16日に特許権の設定登録を受け(特第1326091号),その特許権の存続期間が満了したのは,平成12年9月13日であること,原告は,原告商品の広告に「特許NO1318607 1326091他」と,上記特許権の特許番号の表示をして,原告商品がこれら特許権の対象となっていることを示す内容の広告を少なくとも平成5年ころには行っていたこと,がそれぞれ認められる。
特許法は,発明者に一定期間に限って発明の独占を認めるとともに,その存続期間経過後は,一般公衆がその発明を自由に利用できるようにすることにより,発明者の保護と公衆による発明の利用を共に図ろうとするものである。このように,特許権者に,一定期間の発明の独占が認められれば,その結果として,その発明の権利範囲に含まれる商品の形状又はこれに類似する商品の形状が,特許権者の業務に係るものとして知られるに至ることは,ある意味では極めて当然のなりゆきであって(その商品が機能や美感において優れていればいるほど,このことは強くいい得る。),特許法が当然のこととして予定しているところであるというべきである。もし,特許権に基づく,一定期間の独占の結果として,その権利範囲に含まれる商品の立体的形状又はこれに類似する商品の形状について,特許権者の業務に係るものとして知られたことをもって,商標登録に必要な自他識別力を取得したとして商標登録を認めてしまうと,商標登録は存続期間の更新が可能なため,商標権者に半永久的に当該形状の独占を許すことになり,特許権の存続期間満了後には一般公衆にその発明の自由な利用をさせる,という特許法の意図に反する事態を招来することは,明らかである。
したがって,特許権による独占が認められていた商品の形状又はこれに類似する商品の形状については,原則として,すなわち,例えば,特許権による独占とは無関係に自他識別力を取得した等の特段の事情の認められない限り,使用により自他識別力を取得したと認めることはできない,とするのが,立体商標制度と特許制度との調和を図るという観点からみて,商標法3条2項の解釈として相当であるというべきである。
ところが,本件全資料を検討しても,本願商標について,上記特段の事情があることを認めるに足りる事実の主張,立証を見いだすことはできない。
すなわち,この点に関連して,使用により自他商品識別力獲得を肯定すべき根拠として,原告の主張するところは,それがすべて真実であると仮定しても,上述した,特許法が当然のこととして予定しているところを超えるものではなく,他にも,上記特段の事情に該当すべき事実は,本件全証拠によっても認めることができない。
以下,原告主張の個々の点について述べると,次のとおりである。
(2) 原告の主張について ア 原告は,本願商標の形状が,アーム部分を両側方に大きく開いた点において,他業者の同種商品と比べ,際だった特徴を有しているから,識別,記憶されやすい旨主張する。
本願商標の形状は,アーム部分を両側方に大きく開いた点に特徴があり,美感上も優れていると評価することができることは前記のとおりである。しかしながら,前記のとおり,上記特徴は,その機能又は美感と密接に関連するものであり,基本的に自他識別機能を有しないものであるから,その特徴だけから,直ちに,原告商品の形状が,上述の意味で使用により自他識別機能を取得したことを,根拠付けることができるものではないことは,明らかである。
イ 原告は,原告商品につき,新聞や雑誌において宣伝広告を行い,日本国内で開催された展示会に出品し,その形状が描かれたカタログを作成して,展示即売会で来訪者に配布し,当業者にダイレクトメールで郵送するなどして宣伝活動を行ったり,その形状を原告商品の包装箱に表示したりした結果,本願商標が自他識別性を取得したとして,上記事実を使用による自他識別力獲得の根拠として主張する。
甲第5,第6,第14号証,第15号証の1ないし24,甲第16号証,第25ないし第37号証によれば,原告は,平成5年から11年にかけて,原告商品を,その形状を表す平面図形及び商品名「トグラー」「TOGGLER」の文字を用いた広告を,新聞及び雑誌に掲載したこと,「トグラー」「TOGGLER」の文字とともに,原告商品の形状を写真やイラスト(説明のための絵)により表示した原告商品のカタログを複数作製したこと,原告商品を,その形状を平面図形及び「トグラー」,「TOGGLER」の文字を印刷した包装箱に入れて販売していることが認められる。また,甲第24号証によれば,原告の日本における輸入総代理店であった昭和貿易の1987年度の年次報告中には,同年度に日本国内において原告商品を50を越える展示会に出品し,1988年に70以上の展示会に出品する予定である旨の報告記載があることが認められる。
しかしながら,原告商品に関する上記宣伝,広告等は,いずれも,本願商標の立体的形状又はこれに類似する形状を権利範囲に含む特許権の存続期間中に,特許権による独占状態の下で行われていることが明らかである。上記宣伝,広告等から,本願商標の立体的形状が,ある程度知られるに至っているということはいえても,それは,特許法が当然に予定している範囲にとどまるというべきであり,本願商標の立体的形状が,使用により,自他識別機能を取得したといえるような特段の事情があると認めることはできない,というべきである。
ウ 原告は,本願商標の立体形状を1970年初頭に創作し,1972年から我が国での原告商品の販売を開始し,今日に至るまで,多数の原告商品を販売し,その市場占有率は27パーセントに上る旨主張する。しかしながら,仮に,原告商品の販売期間,数量及び市場占有率が原告主張のとおりであるとしても,上記販売は,いずれも,特許権による独占状態下で行われていることが明らかであるから,これらの事実から,本願商標の立体的形状がある程度知られるに至っているということはいえても,それは,特許法が当然に予定している範囲内にとどまるというべきであり,本願商標の立体的形状が,使用により,自他識別機能を取得したといえるような特段の事情があると認めることができないことは,イで述べたところと同じである。
エ 甲第20,第21号証によれば,原告が取引者・需要者である建設業,設備工事等の業者に対して行ったアンケートの結果中には,「主に使われるアンカーは何でしょうか」という質問に対して,石膏ボード用としては,トグラーを使用する,と回答した者が最も多かったこと(158のうち72),「アンカーを購入する際,どのような点を重要視しますか」といった質問に対して,「機能」である,と回答した者が最も多かったこと,が記載されていることが認められる。
しかしながら,原告商品を取り扱う者の数が多いことが,直ちに,原告商品の立体的形状が前記の意味で自他識別力を取得したことに結び付くものでないことは明らかである。また,アンカーを購入する際に最も着目する点は機能であるとの回答は,原告商品を使用する者も,原告商品を他の商品と識別して使用しているとしても,その機能に着目して使用しているのであって,その名前(出所)に着目して使用しているわけではないことを示すという意味で,むしろ,原告商品の立体的形状自体が,出所を識別するという意味での自他識別力を取得するに至っていることとは,相反する要素を有するものというべきである。
オ 甲第18,第22号証中には,大阪商工会議所会頭及び社団法人日本建築あと施工アンカー協会会長作成の各証明書において,同証明書右側欄に印刷された本願商標の立体的形状について,「1.右頁に示す形状の合成樹脂製止め具は,メカニカル プラスチックス コーポレーションが日本国内で,商品名「トグラー」「TOGGLER」として販売している商品であること。2.上記合成樹脂製止め具は,形状の特異さと活発な営業活動によって,メカニカル プラスチックス コーポレーションの製造販売に係わ(る)商品として,アンカー取引業者間では広く知られており,他の業者が製造販売する止め具とは識別されていること。」という証明事項につき,上記事実に相違ないことを証明する,との記載がある。しかしながら,上記各証明書は,いずれも,特許権による独占状態が続いた状況下での認識であること,その形式は,原告があらかじめ上記証明事項を印字した同一の証明書用紙に,各証明者が記名押印するという形式によるものであり,特に,証明事項2.について,その判断の客観的な過程が明らかでないこと,に鑑みると,上記各証明書の記載によっては,本願商標の立体的形状が前述の意味で自他識別力を取得するに至ったと認めることはできないものというべきである。
また,甲第19号証の1ないし5中には,原告の取引先の作成に係る各証明書において,証明者による原告商品の販売数量及び同証明書右側欄に印刷された本願商標の立体的形状について,「1.図面形状のプラスチック製止め具は,アメリカ法人 メカニカル プラスチックス コーポレーションで製造され,総代理店である高松商事株式会社を通じて日本に輸入されている製品であること。2.弊社が図面形状のプラスチック製止め具の販売を開始して以来現在まで,商品の形状は変わっていないこと。3.図面形状のプラスチック製止め具と同じ形状をした止め具が,万一上記製造会社以外で製造され,止め具の市場に存在すると,弊社の営業は混乱し,お客に迷惑を掛ける虞があること。」という証明事項につき,上記のとおり相違ないとの記載がある。しかしながら,上記証明事項1,2の記載内容が,原告商品の形状が自他識別力を取得していることを何ら示すものでないことは,明らかである。また,証明事項3は,証明者の結論的な主観的判断が記載されているのみで,その判断の客観的根拠は何ら明らかにされていないから,これにより,本願商標の立体的形状識別力を取得していることを認めることはできないというべきである。
カ 原告は,外国での立体商標の登録例を,本願商標を登録するか否かの判断にあたって考慮すべきである旨主張する。しかし,原告の引用する外国の登録例については,その判断の基準や判断過程及び根拠が明らかではないから,外国の登録例があるからといって,そのことから直ちに本願商標を登録すべきであるとはいえないことは明らかである。
原告は,本願商標の登録を認めないことは,その形状を模倣する者の暗躍を許すことになる旨主張する。しかしながら,原告の主張は,本願商標の形状が前述の意味で自他識別力を有することを前提として初めて成り立つ議論であり,このような前提が認められないことは既に述べたとおりであるから,この点において,既に失当である。識別力が認められないときに行われるこのような主張は,一方で,特許権の存続中はその利益を享受しつつ,他方で,立体的商標権保護の名の下に,特許権存続期間満了に伴う一般公衆による発明の自由な利用を否定しようとするものであり,特許制度と両立しないものという以外にないのである。
(3) 以上によれば,本願商標が使用により自他商品の識別力を有するに至ったものと認めることはできず,本願商標につき商標法3条2項の適用がないとした審決の認定判断に誤りがあるとは認められない。
以上のとおり,原告主張の審決取消事由には理由がなく,その他審決には,
これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。よって,本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 宍戸充
裁判官 阿部正幸