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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成15ワ11200商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
平成13ネ5605商標権侵害差止等請求控訴事件 平成14ネ5060同附帯控訴事件 判例 商標
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平成14ワ28242損害賠償等請求事件 判例 商標
平成19ワ4692商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
関連ワード 指定商品 /  3条2項 /  周知性 /  逸失利益 /  外観(外観類似) /  国内 /  信用回復措置 /  並行輸入 /  更新登録 /  外国 /  商号 / 
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事件 平成 11年 (ワ) 2574号 損害賠償請求事件
原告 株式会社京都西川
訴訟代理人弁護士 小野誠之
被告 カネヨウ株式会社
訴訟代理人弁護士 米田宏己
同 西信子
同 山崎邦夫
同 石川直基
被告 中浜商事株式会社
訴訟代理人弁護士 大脇保彦
同 神谷明文
裁判所 京都地方裁判所
判決言渡日 2001/05/24
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告らは,連名で,別紙目録(一)記載の新聞に同目録記載の広告を掲載せよ。
2 被告らは,原告に対し,連帯して372万8316円及びこれに対する平成11年10月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告中浜商事株式会社は,別紙目録(二)記載の商標を付して寝具類(寝台を除く。)を販売してはならない。
4 被告中浜商事株式会社は,別紙目録(三)記載の毛布を廃棄せよ。
5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。
7 2項は仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 主文1,3,4項同旨 2 被告らは,原告に対し,連帯して878万9286円及びこれに対する平成11年10月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 事案の要旨 本件は,原告が,被告カネヨウ株式会社(以下「被告カネヨウ」という。)は,原告の登録商標あるいは原告の周知商品表示を付し,原告の商品形態を模倣した毛布を輸入し,被告中浜商事株式会社(以下「被告中浜商事」という。)に販売し,被告中浜商事はこれを小売業者等に販売したとして,@被告らに対し,商標法39条,特許法106条及び不正競争防止法2条1項1号,3号,7条に基づき連名での謝罪広告と,商標権侵害に基づく損害賠償(得べかりし利益の喪失)として商標法38条1項に依拠して378万9286円,不正競争防止法4条に基づく損害賠償(信用毀損等)として500万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成11年10月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,A被告中浜商事に対し,商標法36条1項に基づき,原告の登録商標を付した寝具類の販売の停止,同条2項,不正競争防止法2条1項1号,3号,3条2項に基づき別紙目録(三)記載の毛布1,2(以下「本件毛布1」「本件毛布2」という。)の廃棄を求めた事案である。
2 基本的事実関係 (1) 当事者(争いがない。) 原告は,毛布・布団類の製造・販売,繊維製品輸出入等を業とする会社である。
被告カネヨウ(下記行為時の商号兼松羊毛工業株式会社)は,布団,布団地及び布団わたの販売等を業とする会社であり,筆頭株主は兼松株式会社(以下「兼松」という。)である。
被告中浜商事は,寝具及び室内装飾品卸業等を業とする会社である。
(2) 原告の商標権(甲5,6) 原告は以下の商標権を有している(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件登録商標」という。)。
登録番号 第2023093号 出願日 昭和61年2月27日(出願番号 昭61-019629) 登録日 昭和63年2月22日 更新登録日 平成10年3月10日 商品の区分 第17類 指定商品 寝具類(寝台を除く。) 登録商標 別紙目録(二)記載のとおり (3) 原告の販売商品(甲19,20) 原告は,別紙目録(四)3のラベル(以下「原告ラベル1」という。)を付した同目録1,2のマイヤー合せ綿毛布(柄番号ER20000-U。以下「原告毛布1」という。)を平成8年4月以降平成10年6月30日まで販売していた。
なお,原告商品1の衿仕様は同目録4のとおりである。
また,原告は,別紙目録(四)5のラベル(以下「原告ラベル2」という。)を付したプリント綿毛布(柄番号FU-100。以下「原告毛布2」という。)を平成8年度から平成10年3月30日にかけ販売した。
(4) 被告らの行為 ア 被告カネヨウは,被告中浜商事の発注書(乙2)に基づき,「品番20000のマイヤー合せ綿毛布」2500枚,「品番FU-100のプリント綿毛布」5000枚につき,中国のルーガオ市対外貿易公司(以下「公司」という。)からの輸入者として,株式会社東京三菱銀行に信用状を発行してもらい,送り状(インボイス),船荷証券,梱包明細書でもこれらの商品の輸入者ないし荷受人として記載されている。売買契約書(乙3の1・2)上でも被告中浜商事ではなく被告カネヨウが買主と表示されている。税関手続においても,被告カネヨウが輸入者として扱われている。被告カネヨウは,銀行を通じ公司に代金を支払った(以上につき乙1ないし15〔枝番含む。〕,証人A)。
イ 被告中浜商事は,被告カネヨウに対し,被告カネヨウが公司に支払った代金に為替レートを乗じたものにさらに1割を加えた額を支払った上で,本件毛布を引き取り,これらの商品を販売した。販売数量は,「品番20000のマイヤー合せ綿毛布」については2469枚(後に276枚回収),「品番FU-100のプリント綿毛布」については4940枚(後に1295枚回収)である(証人A,被告中浜商事代表者)。
ウ 上記ア,イの「品番20000のマイヤー合せ綿毛布」は,別紙目録(三)(2)のラベル(以下「本件ラベル1」という。)を付した同目録(1)(3)の毛布であり(以下「本件毛布1」という。),その衿仕様は同目録(4)のとおりである。また,本件毛布1の縫込ラベルの表表示は同目録(5),裏表示は同(6)のとおりである。
同じく「品番FU-100のプリント綿毛布」は,同目録(三)(8)のラベル(以下「本件ラベル2」という。)を付した同目録(7)の毛布(以下「本件毛布2」という。)である(以下「本件毛布2」という。)。また,本件毛布2の縫込ラベルの表表示は同目録(9),裏表示は同(10)のとおりである。
本件毛布1は原告毛布1を,本件毛布2は原告毛布2を模倣して中国で製造されたものである(甲15,19)。
3 争 点 (1) 原告ラベル1,2に付されている「西川」を図案化したマーク(以下「西川マーク」という。)及び「KYOTO NISHIKAWA」の表示(以下「ローマ字表示」という。)は原告の商品表示として周知性を有しているか。
(2) 被告カネヨウの行為が本件毛布1,2の「輸入」に該当するか。
(3) 被告らの輸入・販売に当たっての故意・過失の有無。被告カネヨウについては,重過失の有無(不正競争防止法11条1項5号)。
(4) 被告らに損害賠償義務が認められた場合,賠償すべき額。信用回復の措置の要否。
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(原告ラベル1,2に付されている西川マーク及びローマ字表示は原告の商品表示として周知性を有しているか。)について 【原告の主張】 甲12,13の各1ないし13により商品表示としての周知性は明らかである。
2 争点(2)(被告カネヨウの行為が本件毛布1,2の「輸入」に該当するか。) 【被告カネヨウの主張】 被告カネヨウは,被告中浜商事の依頼により,本件毛布の輸入代行をしているのみであり,輸入をしているわけではない。
(1) 被告カネヨウの輸入代行は,あくまで被告中浜商事への金融であり,被告カネヨウ自身が,本件毛布を契約当事者として国内市場の流通に置くものではない。契約当事者として本件毛布を流通市場に置くのは,被告中浜商事である。
(2) 被告中浜商事の被告カネヨウに対するLC開設依頼は,被告中浜商事と輸出者の売買契約ごとに行われ,被告中浜商事が被告カネヨウに対し,売買契約書を添えて,発注書を提出して行われる。
【原告の主張】 被告カネヨウが輸入をしたことは明らかであり,被告ら間でいかなる取引関係にあるかは,原告に対しては無関係である。
3 争点(3)(被告らの故意・過失の有無。被告カネヨウの重過失の有無。)について 【原告の主張】 以下のとおり,被告らに過失及び重過失が存することは明白である。
(1) 原告と兼松間の取引において,原告毛布1の柄が原告指定のオリジナルなものであり,かつ,本件登録商標を付したものであり,原告以外に輸入・販売しないことは明らかな合意事項であった。
(2) 日本国内においては,原告製造にかかる毛布その他の寝具は,ブランド品として周知のところである。したがって,西川マーク及びローマ字表示の付された商品について,原告を経由することなく中国の企業から直接輸入・購入することができないのも業界の常識である。本件毛布1,2の輸入価格・販売価格は,原告毛布1,2と比較して著しく低い。また,品質も原告毛布1,2と比較すれば劣悪であることが容易に判明し得たものである。
【被告カネヨウの主張】 以下のとおり,被告カネヨウは,本件毛布1,2について,真正品でないことを知るべき状況にはなかった。
(1) 販売確認書(乙1)でも発注書(乙2)でも,該当商品の特定は,本件毛布1につき,品番「20000」,品名及び規格「マイヤー合せ綿毛布140×200m,1.40s」,数量2500枚,本件毛布2につき,品番「FU-100」,品名及び規格「プリント綿毛布140×200m,1.2s」,数量5000枚という形でされており,本件登録商標や西川マーク,ローマ字表示,さらに本件毛布1,2の形態を推測させるような記載は一切ない。
(2) 送り状(乙4,5,8,12,13の各1・2),梱包明細(乙6,7,10,11,14,15の各1・2)の記載も同様である。
【被告中浜商事の主張】 被告中浜商事に侵害行為があるとしても,それは故意にしたものではない。
すなわち,公司は,かつて被告中浜商事に対しいわゆるB品を売りつけた穴埋めとして,原告商品を買ってほしい旨の申し入れをしてきたのであるが,これは,被告中浜商事と公司の信頼関係はなお失われていない状態での申し入れであった。したがって,被告中浜商事として,今度は真正商品を送ってくると信じるについて相当の理由があった。
4 争点(4)(被告らに損害賠償義務が認められた場合,賠償すべき額。信用回復の措置の要否。)について 【原告の主張】 (1) 逸失利益 原告毛布1についての単位数量あたりの利益(国内販売価格-仕入価格-物流経費)は1007円であり,これを本件毛布1の販売数に乗じた額が損害となる。
同様に,原告毛布2についての単位数量あたりの利益は417円であり,これを本件毛布2の販売数に乗じた額が損害となる。
(2) 実施料相当損害 原告は実施料相当損害も請求する。
(3) 信用毀損による損害 以下のとおり,本件毛布1,2は劣悪品であり,これが原告の製品として消費者間に広範に出回ったことによる信用の毀損や弁護士費用等の負担による損害は少なくとも500万円に及ぶ。
ア 原告毛布1の衿は三重に縫製されているが,本件毛布1の衿は二重である。また,原告毛布の平均重量は1617グラムであるが,本件毛布1について9枚の平均重量を計測したところ1501グラムであった(5パーセント程度のばらつきは避けられないものの,重量は毛布の品質に直接かかわる要素である。)。原告ラベル1の材質はアセテートであるが,本件ラベル1の材質はポリエステルである。
イ 原告毛布2の重量は1300グラムの仕様であったが,原告保管にかかる本件毛布2の重量は1160グラムである。
ウ 被告中浜商事は,原告が,本件毛布2の品質に劣る(重量の軽い)プリント綿毛布の販売をしている(丙1ないし3)旨主張するが,原告は多種類のグレードの異なる規格品を販売しており,丙1ないし3は,原告毛布2とはグレードが異なり,柄で区別されているものである。
(4) 信用回復の措置 本件毛布1,2の回収は一部にとどまっており,被告中浜商事は販売先の開示を拒絶している状況であり,上記のとおり劣悪な本件毛布1,2が原告の製品として一般消費者に販売されたことによる原告の信用の毀損は著しく,また販売先の開示の拒絶により信用回復の道が閉ざされていることから,謝罪広告が必要である。
【被告カネヨウの主張】 平成10年度に日本に輸入された起毛毛布(原告毛布1はこれに属する。)は約502万枚(乙18),綿プリント毛布(原告毛布2はこれに属する。)は約471万枚である(乙17)。
これらを合計すれば約973万枚であり,このような市場規模のもとで,合計6000枚程度本件毛布1,2が流通したとしても,その影響は微少であり,謝罪広告の必要はない。
【被告中浜商事の主張】 (1) 本件毛布1,2が劣悪品というのは当たらない。
ア 本件毛布1,2について消費者からの苦情があったわけではない。
イ 原告毛布1と被告毛布1の重量差は116グラムであり,衿が二重であることによる重量差と思われる。そして,この116グラムという数値は,原告毛布1の平均重量1617グラムの5パーセントである80.85グラムと大差ない。
ウ 原告は,本件毛布2の品質に劣る(重量の軽い)プリント綿毛布の販売をしており(丙1ないし3),本件毛布2の販売によりブランドイメージが傷つけられたことはない。
原告は,丙1ないし3のプリント綿毛布は,原告毛布2とはグレードが異なる旨主張するが,原告毛布2の小売価格は2000円から2980円くらいであると思われ,2000円で売られていた丙3の真正商品と大差はない。
(2) 原告は本訴提起前に,新聞社,特に業界紙に本件訴訟に関する情報を提供し,記事を掲載させた。見出しには「商標権を侵害」などと記載されており,事実上の信用回復措置は行われたといってよい。
(3) 被告中浜商事は,原告からの問い合わせに対し,原告の知らない情報も含めて開示してきた。取引先を明らかにしなかったのは,原告が本件毛布1ないし2を取り扱ったみつる株式会社(以下「みつる」という。)及び株式会社ナイト(以下「ナイト」という。)を犯人扱いして詰問したので,自己の取引先に同種の迷惑がかかることをおそれたためである。
(4) 本件毛布1,2の販売による影響が大きいとはいえないことは,被告カネヨウの主張のとおりである。
争点に対する判断
1 争点(1)(原告ラベル1,2に付されている西川マーク及びローマ字表示は原告の商品表示として周知性を有しているか。)について (1) 証拠(甲1,12,13の各1ないし13,19,証人C)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 原告の前身は,1566年(永禄9年)創業の西川甚五郎商店であり,法人設立も昭和16年に遡り,現在の資本金は9億円である。なお原告の関連会社として株式会社大阪西川(本店大阪市。以下「大阪西川」という。),西川産業株式会社(本店東京都。以下西川産業」という。)があり,いずれも寝具類を取り扱い,創業者である西川本家が資本を掌握している。
イ 「西川」の表示自体,「ふとんの西川」として寝具業界では原告ないしこれと関連会社を一体としてみた西川グループの商品表示として周知性を有している。
ウ 原告は,「西川」の表示を図案化した西川マークについては昭和48年11月ころから,原告商号をローマ字化したローマ字表示については昭和58年2月ころから原告製造販売にかかる毛布・布団類に使用すると共に,新聞,雑誌,カタログ等に掲載して日本全国にわたり宣伝広告してきた。
エ 西川マークについては,西川産業が商標登録を受けるとともに,原告・大阪西川・西川産業で構成する商標管理委員会において管理している。
(2) 上記認定事実に照らせば,ブランド名が取引上重要な位置を占める寝具業界において,「西川」の表示から容易に想起することのできる西川マークやローマ字表示が,遅くとも本件で問題となる被告らの行為より前に原告の商品表示として周知性を取得していることは優に認定することができるというべきである。
2 争点(2)(被告カネヨウの行為が本件毛布1,2の「輸入」に該当するか。)について (1) 商標法2条3項2号,不正競争防止法2条1項1号・3号にいう「輸入」とは,「外国から本邦に到着した貨物又は輸出の許可を受けた貨物を本邦に引き取ること」をいうと解されるところ(関税法2条1項1号),「譲受」と必ずしも一致するものではない。
(2) 前記「基本的事実関係」(4)ア,イ記載の事実関係からすれば,被告カネヨウは,公司との売買契約における買主とされ,貿易書類上も輸入者ないし荷受人とされ,税関手続上も輸入者として扱われているのであるから,本件毛布1,2の本邦への引取人であり,輸入者であると認めるほかはない(被告中浜商事は,被告カネヨウに対する発注者であるとしても,貿易書類上及び税関手続上,輸入者たる地位にはない。また,被告中浜商事は,被告カネヨウに対し,被告カネヨウが公司に支払った代金に為替レートを乗じたものにさらに1割を加えた額を支払うことを要するものであるところ,被告カネヨウとしてはこの代金確保をする必要があるから,実際上も,日本における受取りは,上記記載の各種書類のとおり,まず被告カネヨウがしているはずである。)。
(3) 被告カネヨウは,同被告の行為は輸入代行であり,あくまで被告中浜商事への金融である旨主張するが,被告ら間の取引の経済的背景・実体はどうあれ,本件毛布の引取行為の主体は被告カネヨウであると認めるほかないことは上記のとおりであるから,被告カネヨウの主張は理由がない。
3 争点(3)(被告らの故意・過失の有無。被告カネヨウの重過失の有無。)について 商標権侵害については過失が推定されるところであるが(商標法39条による特許法103条の準用),以下に認定するとおり,被告らにはこれを覆すに足りる事情はない。さらに,不正競争防止法関係においても,被告カネヨウについては重過失がないとは認められず,被告中浜商事については故意が認められるというべきである。
(1) 被告カネヨウについて 被告カネヨウは,本件毛布1,2を輸入するに際し,全くその内容を確認していない(証人A)。
被告カネヨウは,販売確認証(乙1,3の1),発注書(乙2),送り状(乙4,5,8,12,13の各1・2),梱包明細(乙6,7,10,11,14,15の各1・2)には,本件登録商標や西川マーク,ローマ字表示,さらに本件毛布1,2の形態を推測させるような記載はない旨主張するが,輸入に際し目的物の内容すら確認せず,それ故に登録商標を認識していないなどとして責任が軽減されるというのは全くの背理であり,むしろ著しく注意を欠いたものとして,それ自体重過失を基礎づけるものというべきである。
(2) 被告中浜商事について 被告中浜商事は,公司がかつて被告中浜商事に対し,いわゆるB品を売りつけた穴埋めとして,原告商品を買ってほしい旨の申し入れをしてきたものであり,被告中浜商事と公司の信頼関係はなお失われていない状態での申し入れだったのであるから,被告中浜商事として,今度は真正商品を送ってくると信じるについて相当の理由がある旨主張し,被告中浜商事代表者は,本人尋問において,同旨の供述をする。
なるほど,丙9ないし11(公司から被告中浜商事へのファックス送信文書)には,公司の被告中浜商事への提案として,被告中浜商事が公司から原告の毛布を購入したら,以前のB品販売の代償金と思われる6000ドルを代金から差し引く旨の記載がある。しかしながら,B品を売りつけるような企業による代替品の申し出は,それ自体正規品でないことを強く疑わせるものである。また,原告毛布1,2は原告において日本向けの商品をコスト削減のために中国で生産しているもので,中国での流通が予定されていないものであり(証人C),公司から被告中浜商事に送られてきたファックスにあるラベル(本件ラベル2と思われる。)には「アースバードコットンブランケット」「中国製」などと日本語で記載されており,公司が正規のルートで本件毛布1,2を取得し販売しようとしているものでないことは明白である。被告中浜商事代表者は,本人尋問において,本件毛布1,2が少なくとも正規の工場で生産されたものであると思っていた旨供述するが,仮にそうであったところで,その認識はライセンス工場の横流し品との認識であり,真正商品の並行輸入との認識ですらないというべきである(真正商品の並行輸入として違法性が阻却されるには,これが商標権者など権利者によって,あるいはその適法な許諾のもとで流通に置かれることを要する)。
(3) 本件毛布1,2の外観上も,@原告毛布1,2は原告ラベル1,2によって繊維品質表示規定を満たしているので裾ヘム縫込ラベルは縫着していないのに,本件毛布1,2は裾ヘム縫込ラベルを縫着している,A本件毛布1の裾ヘム縫込ラベルに表示されている番号(製造年月と生産工場の暗号)が,本件ラベル1と全く異なる,B繊維製品の取扱いに関するJIS記号の数が本件毛布1,2の裾ヘム縫込ラベルでは本件ラベル1,2より1つ少ない,C本件毛布1,2の裾ヘム縫込ラベルでは検針欄,縫製責任者欄が空白になっている,D本件毛布1,2では西川マークが手書きに近いようなものになっている,E本件毛布1,2には,その輸入・販売当時必要なくなっていた品質表示責任者番号が印刷されている,F本件毛布2の表示ラベルにはブランドネームを「アースバード」と表示している(甲15の1ないし20,19,証人C,検証の結果)。したがって,専門業者である被告らは,本件毛布の外観を検討すれば,真正商品ではないことに容易に気づくはずであったといえる。このことも,被告カネヨウには重過失が,被告中浜商事には故意があったことを裏付けるものといえる。
4 争点(4)(被告らに損害賠償義務が認められた場合,賠償すべき額。信用回復の措置の要否。)について (1) 逸失利益について 商標法38条1項にいう「利益」の算定について,同項が権利侵害がなければ権利者が得られたであろう逸失利益の額の主張立証を容易にするためにもうけられたことに照らせば,粗利益から,製造原価ないし仕入原価及び限界的な変動費用のみを控除すれば足りると解するのが相当である。
原告毛布1についての単位数量あたりの利益(国内販売価格3317円-仕入価格2210円-物流経費100円)は1007円であり(甲14),これを中浜商事の本件毛布1の販売数(回収分を除く。)2193枚に乗じると,220万8351円となる。
同様に,原告毛布2についての単位数量あたりの利益(国内販売価格1676円-仕入価格1159円-物流経費100円)は417円であり(甲14,20),これを本件毛布2の販売数(回収分を除く。)3645枚に乗じると,151万9965円となる。
以上を合計すると逸失利益は372万8316円である。
これらについて被告らは共同不法行為者として賠償責任を負う。
(2) 実施料相当損害について 原告は実施料相当損害をも請求するが,実施料相当額について具体的な主張立証をせず,これが(1)の逸失利益を超えるかどうかすら明らかでないので採用しない。
(3) 信用毀損による損害及び信用回復の措置について 被告らによる本件商標権侵害及び不正競争行為により,原告は信用毀損を受けたとして,損害賠償の他に謝罪広告をも請求する。そこで,原告の受けた信用毀損について,これが金銭賠償のみによっては,十分に救済されず,謝罪広告によらねば回復できない程度の損害をもたらしたかどうかを検討する。
ア 証拠(甲15の1ないし10,18,19,証人C,検証の結果)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告毛布1の衿は三重に縫製されているが,本件毛布1の衿は二重であり,三重の方が肩周りが暖かく,洗濯しても痛みにくい。原告毛布の平均重量は約1617グラムであるが,本件毛布1について9枚の平均重量は原告の計測したところ約1501グラムであり,原告毛布2の重量は1300グラムの仕様であったが,原告保管にかかる本件毛布2の重量は1160グラムである。
(イ) 原告の担当者C(以下「C」という。)は,平成10年6月4日,原告の九州地区営業担当副部長から,福岡のみつるが本件毛布1を原告のキャンセル品として売っているとの情報を受け,同月12日,みつるの仕入れ先であるナイトに問い合わせると,ナイトは,その仕入先から原告のキャンセル品である旨聞いていると答えた。Cは,同年8月31日,みつるの担当者と面談したところ,同担当者は,原告の毛布を正規ルート以外で入手することが困難であることを知っていたが,ナイトから中国産の原告の綿毛布があるので買わないかとの連絡がありこれに応じた旨回答した。そして,Cは,同年11月13日,ナイトの代表者と面談したところ,ナイトの仕入先が被告中浜商事であることが判明した。その後,原告と被告中浜商事の間で交渉が行われたが,被告中浜商事は販売先名の開示には応じなかった。
なお,原告は,模倣品が流通したことから,同年6月30日をもって本件毛布1の追加注文を打ち切らざるを得なかった。
(ウ) 本件毛布1,2の販売先は九州から東北の幅広い地域に及んでいる。
(エ) 本件毛布1の被告中浜商事からナイトへの売却価格は,1枚1980 円,ナイトからみつるへの売却価格は1枚2130円,九州地方での小売価格は2枚3500円ないし4200円である。一方,原告毛布1,2の原告から取引先への平均販売価格は,前記のとおり,それぞれ1枚3317円,1676円である。
イ 上記認定事実によれば,本件毛布1,2は原告毛布1,2に比べ品質において劣るといわざるを得ないところ(なお,被告中浜商事は,原告が,本件毛布2の品質に劣る《重量の軽い》プリント綿毛布の販売をしていると主張し,これを裏付ける証拠として,丙1ないし3を提出するが,証人Cの証言によれば,原告は柄毎にグレードの異なる多種類の規格品を販売しており,丙2,3該当の毛布と原告毛布2とはグレードが異なり,柄で区別されることが認められるから,同被告の上記主張は採用できない。),被告らの重過失あるいは故意に基づく輸入,販売行為により,原告毛布1,2より品質の劣る本件毛布1,2が,原告毛布1,2のキャンセル品であるとして安価で流通していることになる。
そうすると,原告は,キャンセル品を流通させているという評判の流布自体により,信用を著しく傷つけられたといえる。さらに,被告中浜商事が販売者名を明かさないことから,原告は,流通先に対して,信用回復のための具体的行動をとることができない事態にあるといえる。
以上のことからすれば,本件については,原告の信用毀損の回復のためには,金銭賠償では十分ではなく,謝罪広告を認めるのが相当であるといえる。しかし,また,これにより原告の信用は回復されることから,金銭賠償を同時に認める必要はない。
ウ 被告らは,平成10年度に日本に輸入された起毛毛布は約502万枚,綿プリント毛布は約471万枚であり,これらを合計すれば約973万枚であるところ,このような市場規模のもとで,合計6000枚程度本件毛布1,2が流通したとしても,その影響は微少であり,謝罪広告の必要はない旨主張するが,本件毛布1,2の流通による影響を計る母体として日本に輸入された起毛毛布と綿プリント毛布の合計による根拠が全く不明であるから採用の限りでない。
被告中浜商事は,原告が本訴提起前に,新聞社,特に業界紙に本件訴訟に関する情報を提供し,記事を掲載させ,見出しには「商標権を侵害」などと記載されていることをもって,事実上の信用回復措置は行われた旨主張するが,上記報道はあくまで訴訟提起に関する事実報道にすぎない上,被告中浜商事が関与していることを知らない末端の小売店にまで事情を明確にする必要性も認められるから,なお謝罪広告を要するものというべきである。
被告中浜商事は,また,販売先を明かさないのは原告がみつるやナイトを犯人扱いしたので他の取引先に迷惑がかからないようにするためである旨主張するが,上記の経緯からみて,原告が本件毛布1,2の流通ルートを調査したのは当然であって,同被告の上記主張のごとき理由は,謝罪広告の必要性を否定する事由とはならない。
5 結 論 よって,原告の請求は主文の限度で理由がある。
裁判長裁判官 赤西芳文
裁判官 本吉弘行
裁判官 鈴木紀子