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関連審決 無効2004-89106
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10087審決取消請求事件 判例 商標
平成18行ケ10520審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  指定商品 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項11号 /  ただ乗り(フリーライド) /  類似性(類否判断) /  結合商標 /  分離観察 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  国内 /  分割移転 /  存続期間 /  無効審判 /  更新登録 /  類似商標 /  継続的に使用 /  継続 /  非類似 /  商号 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10011号 審決取消請求事件
原告 株式会社セント・ローラン
訴訟代理人弁護士 浅井正
訴訟代理人弁理士 足立勉
被告 株式会社クラウン・クリエイティブ
訴訟代理人弁護士 大室俊三
同 竹下博徳
訴訟代理人弁理士 小山輝晃
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/05/31
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2004-89106号事件について,平成17年11月30日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,被告が,原告を商標権者とする後記商標登録のうち指定商品「被服」について無効審判請求をしたところ,特許庁が当該商標登録を無効とする審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,後記商標につき,平成11年7月1日に登録出願をし,平成12年6月9日に商標登録第4391309号として登録を受けた(甲31。以下「本件商標」という 。。)ところが本件商標につき被告から,平成16年11月25日付けで指定商品中「被服」について商標登録の無効審判請求がなされ,同請求は無効2004-89106号事件として特許庁に係属した。
特許庁は,同事件を審理の上,平成17年11月30日 「登録第439,1309号の指定商品中「被服」についての登録を無効とする 」との審決。
をし,その謄本は平成17年12月10日に原告に送達された。
(2) 本件商標の内容ア 登録商標イ 指定商品第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」(3) 審決の内容ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本件商標は,後記引用商標1及び2(以下これらを併せて「引用各商標」という )と外観上類似し,かつ,本件商標の指定 。
商品中「被服」には,引用商標1及び2の指定商品と同一又は類似の商品が包含されているから,商標法4条1項11号に違反して登録された,としたものである。
イ 引用各商標(ア) 引用商標1引用商標1は,平成2年11月7日に登録出願,第17類「ベレー帽,その他の帽子,その他本類に属する商品」を指定商品として,平成5年9月30日に設定登録された登録第2580800号商標の商標権が平成14年10月23日に分割移転されて登録第2580800号の2となり(権利者クラウンファンシーグッヅ株式会社〈被告の旧商号 ,〉)「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,下着,ねまき類,和服,靴下,たび,手袋(ゴム手袋,絶縁用ゴム手袋を含む ,えりまき,。)マフラー,スカーフ,ネッカチーフ,ショール,ネクタイ,ゲートル,エプロン,おしめ,溶接マスク,防毒マスク,防じんマスク,防火被服,布製身回品,寝具類」が指定商品となった。その後,平成15年4月22日に商標権の存続期間更新登録がされ,平成16年8月11日に指定商品を第24類「布製身の回り品,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」及び第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,ショール,スカーフ,足袋,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー」とする指定商品の書換登録がなされた。
(イ) 引用商標2〔 出 願 日 〕 平成5年5月12日〔出願番号〕 商願平5-47095〔 登 録 日 〕 平成9年6月6日〔登録番号〕 第4007091号〔 称 呼 〕 カンゴール〔 権 利 者 〕 クラウンファンシーグッヅ株式会社(被告の旧商号)〔指定商品〕 第25類「ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」(4) 審決の取消事由しかしながら,以下に述べるとおり,本件商標と引用各商標とは非類似の関係にあり,本件商標は商標法4条1項11号に該当しないから,これに該当するとした審決は,事実誤認をしており,違法として取消しを免れない。
ア 本件商標と引用各商標との外観上の類否判断の誤り(取消事由1)審決は,本件商標と,引用各商標の図形部分の外観を対比するに当たり,その外観上の相違点を詳細に検討することなく,一部の共通点のみを重視しており,著しく不当である。
(ア) 審決は,両者の外観上の相違点としては,カンガルーの左右の向きの違い,前足部分の違い,頭部及び胸部における白抜き部分の違いがあると認定した。しかし,これに加えて,両者には,カンガルーの体の向き,目,姿勢,尾等について以下のような差異があるため,これらも含めれば,全体として見た両者の差異が微差であるとはいえない。
すなわち,まず,顔や前足,胸部の状態からみて,本件商標のカンガルーの体の向きは真横に近いのに対し,引用各商標のカンガルーの体の向きは斜めになっている。また,本件商標のカンガルーは,白抜きの目を有し,相手をにらみつけているような表情であるが,引用各商標のカンガルーには目はなく,無表情である。また,本件商標のカンガルーは,前足を上げ,垂直に立ち上がった姿勢になっているのに対し,引用各商標のカンガルーは,前足を下げて屈んだ姿勢となっている。そして,本件商標のカンガルーの尾は,先が細く,仮想地面から上方へ跳ね上がっているのに対し,引用各商標のカンガルーの尾は,先が太く,仮想地面についたような状態になっている。
さらに,本件商標のカンガルーは,後足や前足の形状を明確に表すため,白抜きの線が用いられている点や,真横を向いているにもかかわらず,腹部から背中にかけての幅が太く,太ったイメージになり,腹部の袋も表れている点で,引用各商標のカンガルーと相違する。
(イ) 審決は,両者の外観上の共通点として,背中,尾にかけてなだらかな曲線を描いていること,尾を仮想地面上につけていること,垂直に立った状態であること,を認定している。しかし,これらを共通点として重視するのは不当である。すなわち,背中,尾にかけてなだらかな曲線になるのは,カンガルーの形態から当然のことであるし,本件商標のカンガルーの尾は,仮想地面上につけられておらず仮想地面から上方に跳ね上がっており,また,引用各商標のカンガルーは垂直に立った状態ではなく屈んだ状態である。
取引の実情の認定の誤り(取消事由2)(ア) 引用各商標は,そのほとんどが 「O」の部分を黒塗りした特異な ,態様の「KANG●L」の文字と,カンガルーの右横向きの黒いシルエット図形を組み合わせた状態で使用されている。このため,需要者も,文字と図形が一体となった商標と認識して取引に当たるから,引用各商標が需要者に周知であるとしても,そのような文字と図形が一体となった態様のみが周知であると考えられる。周知な商標は,商標法,不正競争防止法等で手厚く保護される以上,その態様については厳格に判断されるべきであり,通常使用することのない図形のみについても周知な商標として保護すべきではない。したがって,本件商標と引用各商標には,Oの部分を黒塗りした特異な態様の「KANG●L」の文字といった極めて目立つ識別標識の有無の差異があり,取引上,誤認混同を生じるおそれはない(甲63〜69参照 。)(イ) また,審決は,図形商標をワンポイントマークとして使用することが普通に行われており,かなり小さな表示形態となることや刺繍をもってする場合があると認定しているが,これらは使用の一形態に過ぎない。
審決は,このような限られた一形態を殊更重視しているが,ワンポイントマークでの使用にあまりにとらわれ過ぎている。このような点よりも,文字と図形が一体となった被告の実際の使用形態を考慮して,そのような使用形態であっても,実際に商品の出所について誤認混同を生じるかの判断をすべきである。
ウ 本件商標から生じる観念の認定の誤り(取消事由3)審決は,本件商標のカンガルー図形について 「前足部分に丸みをもた ,せて,それをつきだしているようにみえるものであるから,ボクシングのグローブを描いたという…主張を俄には否定することができない 「ボ。」,クシングのグローブと思しき図形部分を有する…」と述べる(審決10頁下10行〜6行 。)しかし,本件商標を一目見れば,カンガルーがグローブをはめている態様であり 「ボクシングをするカンガルー」であることは一般の常識から ,みて容易に分かるものであって,審決の上記の認定は,経験則上,一般的ではない。特許庁の特許電子図書館「図形商標検索」のウィーン図形分類において「3.5.15.01 カンガルー」と「21.3.23 ボクシング用グローブ」をAND検索した場合にも,本件商標が抽出される。
また,ボクシングをするカンガルーは,テレビ,映画,雑誌,観光案内,土産,オーストラリアのスポーツのシンボル等でさかんに取り上げられている(甲2〜11,18〜24 。)さらに,動物がボクシンググローブをはめた商標は,度々見受けられるものであるところ(甲25〜30,これらの各商標の動物は,カンガル )ーに比べれば,ボクシンググローブをはめるような必然性がそれほど考えられない。まして,ボクシングをすることが一般的に知られているカンガルーにボクシンググローブをはめれば,需要者は,当然ボクシングをするカンガルーとして認識するものである。
以上のように,ボクシングをするカンガルーは,需要者によく認識されているものであり,本件商標に接する需要者も,ボクシングをするカンガルーとして認識するものである。
本件審決は,このような実情や取引の経験則を考慮することなく,ボクシングとカンガルーを意識的に切り離して結論を導き出しており,経験則上著しく不当である。
エ 過去の商標登録例違反(取消事由4)審決が,本件商標の商標登録を無効と判断することは,特許庁の過去の商標登録の例にも反している。審決は,このような過去の商標登録の例を一切考慮することなく判断しており,著しく不当である。
すなわち,特許庁においては,本件商標や引用各商標と同一又は類似の商品を含む分野において,カンガルー図形について下記のような商標が登録されている。
記登録第1084408号 (甲12)登録第2060592号 (甲13)登録第2520356号 (甲14)登録第2030916号 (甲15)登録第2144484号 (甲16)登録第4168160号 (甲17)これらのうち,甲12〜14の各商標のカンガルーは,全体のシルエットが,本件商標や引用各商標のカンガルーとやや共通しているにもかかわらず登録されている。特に甲13の商標のカンガルーは,引用各商標のカンガルーとその向き,姿勢,背中,尾などに極めて近い共通点を有するから,審決の考え方でいけば,甲13の商標と引用各商標とは,ワンポイントマークや刺繍とした場合,誤認混同を生じるおそれが極めて大きいということになるはずであるにもかかわらず,甲13の商標は商標登録されているものである。被告は,甲13の商標のカンガルーは,前傾姿勢で動的姿勢であるから,引用各商標のカンガルーと類似しないと主張するが,甲13の商標のカンガルーの前傾の程度は極めてわずかであり,引用各商標のカンガルーとの外観上の差異は微差である。このような微差に比べれば,垂直に立ち上がった姿勢となっている本件商標のカンガルーと,引用各商標のカンガルーとの外観上の差異の方がより大きいといえるはずである。
また,甲15〜17の各商標も,スポーツをしているカンガルーのシルエットが引用各商標と多少共通しているにもかかわらず登録されている。
このような特許庁の過去の商標登録の例からみれば,本件商標と引用各商標も,前記ウのような差異がある以上,明確に区別が可能であり,何ら類似するような商標ではない。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)〜(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1に対し原告は,本件商標と,引用各商標の図形部分とは外観非類似である旨主張するが,失当である。
商標の類否判断は,商標の使用される商品の主たる需要者の通常の注意力を基準として,時と処を異にして行う離隔観察によって行われる。そして,本件商標が使用される商品である衣類の主たる需要者は,老人から若者までを含む一般の消費者であり,一般の消費者は,メーカー名などを常に注意深く確認するとは限らず,小売店の店頭などで短時間のうちに購入商品を決定するということも少なくない。
このような取引の実情における需要者の注意力及びワンポイントマークとして使用される可能性を考慮に入れれば,原告が主張するような差異は,すべて類似の範囲内であるといえる。したがって,審決が,本件商標と,引用各商標の図形部分とを対比すると,両者は「横向きで静止状態にあるカンガルーの黒いシルエット図形からなる点,その首から背中,尾にかけてなだらかな曲線を描いており,その後足及び尾を仮想地面上につけて,大きな後足を揃えて垂直に立った状態 (審決9頁下13行から11行)にあるという 」点を共通にしており,構成における軌を一にするものと認定判断したのは,極めて正当である。
本件商標の商標権者である原告は,フリーライド(ただ乗り)の目的を持って意図的かつ常習的に引用各商標に類似する商標を登録させたものである。
(2) 取消事由2に対しア 原告は,引用各商標は,文字と図形とが一体となって使用されている旨主張して,審決が取引の実情の認定を誤った旨主張するが,以下に照らして失当である。
(ア) 引用各商標は,文字と図形によって構成されるいわゆる結合商標であるが,かかる結合商標においては,文字と図形が常に一体として把握されなければならないわけではなく,文字と図形とが,それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほどまでに不可分的に結合していない限り,分離観察を行うことができる。
そして,引用各商標も 「KANG●L」とカンガルー図形とが,分 ,離して観察することが取引上不自然と思われるほどまでに不可分的に結合しているものと認めることはできないから,カンガルー図形のみを分離して観察することが可能である。
(イ) そして,引用各商標においては,文字よりも図形の方が周知である(乙12〜14 。また,引用各商標の大部分を占めるカンガルー図形 )の方が,文字よりも需要者の視覚に訴えるので,需要者に与える印象が大きく,図形の方が文字よりも識別力が高い。さらに,引用各商標の文字と図形は常に一体として使用されているとは限らず,乙17〜19に示すように,カンガルー図形のみで使用されている例も多い。したがって,引用各商標は,図形のみにおいても周知な商標として保護されるべきである。
原告は,文字と図形とから成る商標については,文字の存在が重要な要素である旨主張して,甲63〜69を提出するが,これらの審決例は,いずれも,図形から受ける印象は類似しているが文字の存在により看者に別異の印象を与える,との趣旨を述べたものではなく,原告の主張の根拠にはならない。
(ウ) また,衣料品を取り扱う業界においては,主たる需要者は,老人から若者までを含む一般大衆であって,被服にかかる商標やブランドについて,詳しくない者や中途半端な知識しか持たない者も多数含まれている。そして,そのような需要者が購入する際は,恒常的な取引やアフターサービスがあることを前提にメーカー名,その信用等を検討して購入するとは限らず,いきなり小売店の店頭に赴いたり,通りすがりにバーゲンの表示や呼び声につられて立ち寄ったりして,短時間で購入商品を決定することも少なくない。したがって,本件商標と引用各商標の類否の判断に当たっては,上記のような取引の実情を考慮し,需要者の通常有する注意力を基準として判断しなければならない。
イ 原告は,審決は,ワンポイントマークとしての使用はあくまで使用の一態様に過ぎないにもかかわらず,このような限られた一形態を殊更重視している,と主張するが,以下に照らして失当である。
なぜなら,衣類業界においては,ワンポイントマークは幅広く,恒常的に使用されており,常識といってもいい一般的な使用態様であり,一番重要な使用形態ともいえるからである。そして,ワンポイントマークは,比較的小さいものであり,マーク自体に細かい模様や図柄を表することはかなり困難であり,ワンポイントマークの周囲の地色や柄などによっては目立ちにくくなることもあるという実情をも考慮すべきである。
(3) 取消事由3に対しア 原告は,本件商標を一目見れば,カンガルーがグローブをはめている態様であり,ボクシングをするカンガルーであることは明らかと主張するが,以下に照らして失当である。
まず,原告は,本件商標のどのような図形的特徴から,本件商標がボクシングをするカンガルーであることが明らかであるのか,一切主張立証できていない。すなわち,本件商標の図形における,カンガルーの前足部分の丸みと細い白抜きの線で囲まれた部分を「グローブ」であると当然に一義的に判断できる根拠はないし,さらに,それがボクシング用のグローブであると当然に一義的に判断できる根拠もない。
イ また,原告は,ボクシングをするカンガルーは需要者によく認識されているものであると主張するが,以下に照らして失当である。
まず,原告は,その根拠として,インターネット上の検索結果を挙げる。
しかし,このような検索結果のみをもってしては,日本国内において「ボクシングをするカンガルー」が広く認識されており周知であることを示す証拠にはならない。しかも,原告が列挙するインターネット検索におけるヒット件数は,少ないものでは「グローブをはめたカンガルー」の15件,多いものでも「カンガルーボクシング」の4660件に過ぎない。これに対し,引用各商標の文字部分である「KANGOL」のヒット件数は,339万件(乙21)にも及ぶ。このようなヒット件数の比較からは,逆に,需要者が「ボクシングをするカンガルー」についてほとんど認識していないことが裏付けられる。
(4) 取消事由4に対し原告は,本件商標や引用各商標と共通点を有する商標が登録されていることを理由に,審決は,このような登録例を一切考慮しておらず不当である旨主張するが,失当である。
すなわち,原告が,甲12〜14の各商標について 「全体のシルエット,が本件商標や引用各商標とやや共通している 」と述べたり,甲15〜17 。
の各商標について 「シルエットが引用各商標と多少共通している 」と述 ,。
べていることからすれば,原告自身,本件商標や引用各商標と,原告が指摘する商標登録の例とが,シルエットとしての共通性が乏しいことを認めているといえる。
しかも,原告が指摘する商標登録の例をみると,それぞれ,親子のカンガルー(甲12 ,飛び跳ねているカンガルー(甲14)など特有の動作を表 )しており,本件商標や引用各商標とは,外観上及び観念上,一見して分かるほど,それぞれの基本的構成を異にしている。また,甲13の商標のカンガルーは,カンガルーの頭から仮想地面に対し垂直に線を引いた場合に,その垂直線上にカンガルーの足が位置しておらず,全体として斜めに前傾した図形であり,需要者に,今から跳躍せんとする動的姿勢であるとの印象を与える。他方,本件商標や引用各商標のカンガルーは,カンガルーの頭から下方に引いた垂直線上に脚の位置があるため,需要者に,いずれも静止状態にあるとの印象を与える。このように,甲13の商標と,本件商標及び引用各商標とは,需要者に与える印象が異なっている。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯 ,(2)(本件商標の内容)及び )(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2 本件商標の商標法4条1項11号該当性の有無(1) 商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的取引状況に基づいて判断すべきである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照 。)そこで,以上の見地に立って,本件商標と引用各商標の類否について判断する。
(2) 本件における事実関係ア 本件商標は,前記1の請求原因(1)(特許庁における手続の経緯)において認定したとおり,平成11年7月1日に出願され,平成12年6月9日に設定登録されたものであり,その構成は,前記のとおり,左横向きカンガルーの黒いシルエット図形から成り,指定商品は,第25類の「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」とするものである。
イ 一方,引用商標1は,前記認定のとおり,平成2年11月7日に出願され,第17類「ベレー帽,その他の帽子,その他本類に属する商品」を指定商品として平成5年9月30日に設定登録された登録第2580800号商標の商標権が,平成14年10月23日に分割移転されて登録第2580800号の2となり 「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類, ,下着,ねまき類,和服,靴下,たび,手袋(ゴム手袋,絶縁用ゴム手袋を含む ,えりまき,マフラー,スカーフ,ネッカチーフ,ショール,ネ 。)クタイ,ゲートル,エプロン,おしめ,溶接マスク,防毒マスク,防じんマスク,防火被服,布製身回品,寝具類」が指定商品となった。その後,平成15年4月22日に商標権の存続期間更新登録がされ,平成16年8月11日に指定商品を第24類「布製身の回り品,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」及び第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,ショール,スカーフ,足袋,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー」とする書換登録がなされた。この引用商標1は,前記認定のとおり,カンガルー図形と「KANG●L」の文字から成り,このうち上記図形は,横向きカンガルーの黒いシルエット図形から成るもので,甲33及び弁論の全趣旨によれば,昭和55年(1980年)ころから「カンゴール」の称呼で帽子等の需要者に広く認識されているものである。
また,引用商標2は,前記認定のとおり,平成5年5月12日に出願され,平成9年6月6日に設定登録されたが,その構成(図形と文字)は引用商標1と同一であり,指定商品は第25類「ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」とするものである。
(3) 取消事由1(本件商標と引用各商標との外観上の類否判断の誤り)についてア 本件商標は,前記のとおり,左横向きカンガルーの黒いシルエット図形から成り,他方,引用各商標のうちの図形部分は,前記のとおり,右横向きカンガルーの黒いシルエット図形から成るものである。
そこで,本件商標と引用各商標の図形部分を対比するに,確かに,両者は,カンガルーの左右の向き,体の向き,姿勢,目や胸の白抜き部分の有無,前足,後足,尾の部分等に若干の相違がある。しかし,両者は,横向きで静止状態にあるカンガルーの黒いシルエット図形から成る点,その首から背中,尾にかけてなだらかな曲線を描いており,その後足及び尾を仮想地面上につけて,大きな後足を揃えて垂直に立った状態にあるという点において,一致していると認められる。
したがって,両者を子細に観察すれば相違が認識され得るものの,上記の一致点がカンガルーのシルエット図形の構成上の一致点と評価できることに照らせば,両者の相違はいずれも些細な微差にとどまるものというほかない。すなわち,両者は,上記のようなカンガルーの特徴を捉えて黒く塗りつぶして描いた点において構成の軌を一にしているため,看者に与える印象が近似したものになり,時と処を異にして両者に接するときは互いに紛れやすいというべきである。
以上によれば,全体として両者は外観上紛らわしく,商品の出所について誤認混同を生ずる虞れがあることは否定できないから,本件商標と引用各商標の図形部分は,外観において類似するというべきである。
イ 原告は,審決は,両者の外観上の相違点としては,カンガルーの左右の向きの違い,前足部分の違い,頭部及び胸部における白抜き部分の違いがあると認定したが,これに加えて,両者には,カンガルーの向き,目,姿勢,尾等について差異があるため,これらも含めれば,全体として見た両者の差異が微差であるとはいえない,そのほか,本件商標のカンガルーは,後足や前足の形状を明確に表すため,白抜きの線が用いられている点や,真横を向いているにもかかわらず,腹部から背中にかけての幅が太く,太ったイメージになり,腹部の袋も表れている点で,引用各商標のカンガルーと相違する,と主張する。
しかし,審決が認定しなかったとして原告が指摘する上記各相違点は,カンガルーの向き,目,姿勢,尾,後足や前足の白抜きの線,腹部から背中にかけての幅,腹部の袋等について,いずれも,よく見ないと見落としてしまうような極めて微細な差異であって,その一つ一つの内容を慎重に検討しても,審決が認定した相違点と比べ,いずれも極めて微小な差異であると評価するほかはない。したがって,審決が認定した相違点を含め,原告の指摘するすべての相違点を考慮に入れて検討しても,一般消費者が時と処を異にして被服に付された両者を見れば,この程度の差異は見落としてしまう可能性が高く,上記アで認定したシルエット図形の構成上の一致点に埋没してしまう性質のものといわざるを得ない。
以上によれば,原告の上記の主張は採用することができない。
ウ また原告は,審決は,両者の外観上の共通点として,背中,尾にかけてなだらかな曲線を描いていること,尾を仮想地面上につけていること,垂直に立った状態であること,を認定しているが,これらを共通点として重視するのは不当である,と主張する。
しかし,両者の外観上の共通点は,上記アで認定したとおり,カンガルーのシルエット図形の構成上の一致点と評価できるものであり,両者は,上記アに認定したようなカンガルーの特徴を捉えて黒く塗りつぶして描いた点において,構成の軌を一にしているとみられるものであって,背中,尾にかけて曲線になることがカンガルーの形態から当然であるとしても,上記認定が左右されるものではない。また,原告は,本件商標のカンガルーの尾が地面から少し跳ね上がっている点,引用各商標のカンガルーが屈んだ状態である点について指摘するが,その尾の跳ね上がりの程度やカンガルーが屈んでいる程度は,注意してみないと分からないほどの極めて微細なものであるから,これらの相違点があったからといって,両者が,その後足及び尾を仮想地面上につけて,大きな後足を揃えて垂直に立った状態にある,という点で一致するという上記アの認定を左右するほどではない。
以上によれば,原告の上記の主張は採用することができない。
(4) 取消事由2(取引の実情の認定の誤り)についてア 原告は,引用各商標は,そのほとんどが 「O」の部分を黒塗りした, ,特異な態様の「KANG●L」の文字と,カンガルーの右横向きの黒いシルエット図形を組み合わせた状態で使用されているため,需要者も,文字と図形が一体となった商標と認識して取引に当たるから,引用各商標が需要者に周知であるとしても,そのような文字と図形が一体となった態様のみが周知であると考えられ,取引上,誤認混同を生じるおそれはない,と主張する。
そこで検討すると,証拠(甲36〜54,乙12〜14,16〜19,21)及び弁論の全趣旨によれば,引用各商標は,被服に付される場合,カンガルー図形と「KANG●L」の文字とがともに付されて使用される態様(甲36〜47,50〜52,乙12〜14,17)のほか,カンガルー図形が単独で使用されている態様(甲42,50,乙13,17〜19)もあること,カンガルー図形と文字とがともに付されて使用される場合でも,カンガルー図形の方が文字部分よりも面積的に相当大きな部分を占めること,引用各商標については,1980年(昭和55年)代初めまでカンガルー図形は使用されていなかったが,1980年(昭和55年)代初め,ニューヨークのラップミュージシャンたちが「カンゴール」の帽子を愛用したのをきっかけに,ひいきのラップミュージシャンたちが被っていた「カンガルーの帽子」がほしいと若者たちが言い出し,アメリカの人々はカンゴールのキャップやハットではなく「カンガルー」を欲しがったため,この混乱を解決するなどの目的で,カンガルー図形が使用されるようになったという経緯があること(甲36,50,51,乙12〜14 ,引用各商標は,1980年(昭和55年)代から継続的に使用され ),, て 「カンゴール」の称呼及びカンガルーの黒いシルエット図形において一般消費者に相当程度広く認識されていること(甲36,50,51,53,54,乙12〜14,16,21,弁論の全趣旨)が認められる。
また商標は,その作成者の意図如何にかかわらず,常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されるとは限らず,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,一個の商標から二つ以上の称呼,観念の生ずることがあるところ(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁等参照 ,前記のとおり,引用各商標 )は,文字と図形とから成る結合商標であるが,その外観上の構成自体からみても,後からカンガルー図形が追加されたという経緯からみても,各構成部分はそれを分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているとは認めがたいから,常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,しばしばその一部だけによって簡略に称呼,観念されることがあるというべきである。
以上を総合すれば,引用各商標において,たとえ「KANG●L」の文字が特異であるとしても,そのカンガルー図形の部分についても,文字部分と同程度に看者の注意を引くものと解するのが相当であり,本件商標が付された被服に接した一般消費者が,これを,一般消費者に相当程度広く認識されている引用各商標が示す出所に係る商品であると誤認混同するおそれは否定できないというべきである。
したがって,原告が主張するように,引用各商標が,文字と図形が一体となった態様のみが周知であると考えることはできないから,原告の上記の主張は採用することができない。
イ また,原告は,審決は,ワンポイントマークという限られた一形態を殊更重視している,と主張する。
しかし,上記アに記載した各証拠に,甲35,乙3を併せれば,引用各商標は,被服について,刺繍などによるいわゆるワンポイントマークとして付されていることも相当多く,他方,原告自身も,本件商標を,靴下に,ワンポイントマークとして付した形跡があること(甲35,乙3 ,ワン)ポイントマークとして付される場合,これらはかなり小さな表示形態になり,刺繍をもってする場合もあることが認められる。これらの事情に照らせば,被服の取引分野においては,商標の使用形態としてワンポイントマークを過小評価することはできないというべきである。
また,引用各商標の使用態様に,文字と図形が一体となって使用されているものが多くあったとしても,上記アで説示したとおり,被服の取引者・需要者である一般消費者は,小さな「KANG●L」の文字に注意を払わずにカンガルー図形の外観上の類似に注意を引かれて,商品の出所を誤認混同する虞れがあることは否定できないというべきである。
以上によれば,原告の上記の主張は採用することができない。
(5) 取消事由3(本件商標から生じる観念の認定の誤り)についてア 原告は,本件商標を一目見れば,カンガルーがグローブをはめている態様であり 「ボクシングをするカンガルー」であることは一般の常識から ,みて容易に分かる,これは,特許庁の特許電子図書館「図形商標検索」の検索結果からも裏付けられる,また,ボクシングをするカンガルーは,テレビ,映画,雑誌,観光案内,土産,オーストラリアのスポーツのシンボ), ル等でさかんに取り上げられている(甲2〜11,18〜24 ,さらに動物がボクシンググローブをはめた商標は,度々見受けられるものであるところ(甲25〜30 ,まして,ボクシングをすることが一般的に知ら )れているカンガルーにボクシンググローブをはめれば,需要者は,当然ボクシングをするカンガルーとして認識する,本件商標に接する需要者も,ボクシングをするカンガルーとして認識するものであり,審決は,このような実情や取引の経験則を考慮することなく,ボクシングとカンガルーを意識的に切り離して結論を導き出しており,経験則上著しく不当である,と主張する。
イ 確かに,本件商標の構成を見ると,前足部分に丸みをもたせて,それをつきだしているようにみえる。しかし,本件商標は,前記のとおり,左横向きカンガルーの黒いシルエット図形から成っているところ,原告がボクシンググローブであると指摘する部分も,カンガルーの体の他の部分と同様に黒いシルエット図形になっているため,体の他の部分と区別がつきづらいものであり,その形態からしても,必ずしも一義的にボクシンググローブとみることはできないというべきである。また,原告が指摘するように,特許電子図書館「図形商標検索」のウィーン図形分類によるAND検索により本件商標が抽出された(甲1)としても,それのみで当然に,本件商標から「ボクシングをするカンガルー」との観念が生ずるということには無理がある。
ウ また,原告は,ボクシングをするカンガルーは,テレビ,映画,雑誌,観光案内,土産,オーストラリアのスポーツのシンボル等でさかんに取り上げられている,動物がボクシンググローブをはめた商標は,度々見受けられるから,まして,ボクシングをすることが一般的に知られているカンガルーにボクシンググローブをはめれば,需要者は,当然ボクシングをするカンガルーとして認識する,と主張し,甲2〜11,18〜30には,以下のa〜cを含めて,これに沿う部分がある。
a 検索エンジンであるGoogleで検索をすると 「ボクシングをするカ ,,, ンガルー」は92件が 「グローブをはめたカンガルー」は15件が「ボクシングカンガルー」は989件が 「カンガルー ボクシン ,グ」は4660件がヒットする。
b ボクシングのミットをつけたカンガルーが戦うポーズをとっている図柄は,オーストラリアの応援旗,ぬいぐるみの土産品,トランクス,時計,ゲームなどに見られる。
c ポール・ギャリコ著,山田蘭訳「マチルダ-ボクシング・カンガルーの冒険」という単行本が,創元推理文庫から出版されている。同単行本においては,ボクシングをするカンガルー「マチルダ」が主人公になっている。
しかし,検索エンジンであるGoogleで「KANGOL」を検索した場合のヒット数が,約339万件に達すると認められること(乙21)に照らしても,上記aの程度の検索結果のヒット数が,ボクシングをするカンガルーが一般需要者に広く知られていると認めるに足りるほどの数であるとは到底考えることはできず,また,ボクシングのミットをつけたカンガルーが戦うポーズをとっている図柄が,オーストリアの応援旗,ぬいぐるみの土産品,トランクス,時計,ゲームなどに見られたり,ボクシングをするカンガルーが主人公となった単行本が出版されていたとしても,ボクシングをするカンガルーが,我が国の一般消費者において,広く知られていると認めるには不十分である。
また,原告は,動物がボクシンググローブをはめた商標は,度々見受けられるから,まして,ボクシングをすることが一般的に知られているカンガルーにボクシンググローブをはめれば,需要者は,当然ボクシングをするカンガルーとして認識する,と主張するが,カンガルーがボクシングをすることが一般的に知られているというその前提が成り立つとはいえない。
すなわち,仮にカンガルーがボクシングをすること自体が事実であるとしても(甲3 ,かかる事実が一般的に知られているかどうかはまた別の問 )題であって,本件全証拠をもっても,かかる事実が一般的に知られているとまで認めることはできない。
エ したがって,原告の上記アの主張は採用することができない。
(6) 取消事由4(過去の商標登録例違反)について原告は,審決が,本件商標の商標登録を無効と判断することは,特許庁の過去の商標登録の例にも反しており,審決は,このような過去の商標登録の例を一切考慮することなく判断しており,著しく不当である,と主張し,甲12〜17を提出する。しかし,商標の類否の判断は,上記(1)に記載したとおり,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否を,商標の外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察し,その商品の取引の実情,具体的取引状況に基づいて個別に判断すべきものであるから,それぞれの具体的取引状況等の個別の事情を何ら考慮することなく,甲12〜17の商標が,引用各商標等と類似すると直ちに即断することはできないし,しかも,そもそも他のカンガルー図形の商標登録の有無が,本件商標と引用各商標の類似性の認定を左右するものでもない。
以上によれば,原告の上記の主張は採用することができない。
(7) 小活以上に説示したところによれば,本件商標と引用各商標は,その外観において類似しており,全体的に考察してみて,本件商標は,引用各商標の類似商標と認めるのが相当である。したがって,本件商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断に誤りはない。
3結論以上によれば,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 田中孝一