関連審決 | 無効2017-890075 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成27行ケ10058 審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成30行ケ10141 審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
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事件 |
平成
30年
(行ケ)
10121号
審決取消請求事件
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原告キリン株式会社 同訴訟代理人弁理 士飯島紳行藤森裕司 伊藤大地 被告Y 同訴訟代理人弁護士 岡田健太郎 星原正明 辻居弘平 同訴訟代理人弁理 士岩ア良子 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2019/03/12 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が無効2017−890075号事件について平成30年7月27日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文同旨 |
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事案の概要
本件は,商標登録無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,商標法4条1項11号,同項15号該当性の有無である。 1 本件商標 被告は,以下の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である(甲1,弁論の全趣旨)。 商標 登録番号 第5882929号 出願日 平成28年3月3日 登録査定日 平成28年8月12日 登録日 平成28年9月16日 指定商品 第31類 とうもろこし 2 特許庁における手続の経緯 原告は,平成29年11月13日,本件商標について,商標法4条1項11号,同項15号に該当すると主張して,無効審判を請求し,同請求は,無効2017-890075号事件として係属した。 特許庁は,平成30年7月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,本件審決の謄本は,同年8月6日,原告に送達された。 3 本件審決の理由の要点 (1) 証拠によると,原告(請求人)主張の別紙記載の各引用商標(以下,記載の順に「引用商標1」などといい,併せて「引用商標」という。)のうち,引用商標3,4,7と同一の構成である,以下の「KIRIN」の文字からなる商標,引用商標5と同一の構成である,以下の「麒麟」の文字からなる商標,引用商標と6と同一の構成である,以下の「キリン」の文字からなる商標(以下,併せて「原告ら商標」という。)は,キリングループの業務に係る「ビール,清涼飲料」を表示するものとして,本件商標登録出願時及び登録査定時において需要者の間に広く認識されている商標と認められる。 (引用商標3,4,7と同一の構成の商標)(引用商標5と同一の構成の商標)(引用商標6と同一の構成の商標) (2) 商標法4条1項11号該当性について ア 本件商標 (ア) 本件商標は,「キリンコーン」の片仮名を茶色で縁取り,その内側を黄色で表してなるところ,同一の書体をもって横一連に,外観上まとまりよく一体的に表されたものであるから,その構成中の「キリン」の文字部分のみが強く印象付けられる構成のものとはいえない。また,本件商標の構成文字全体から生じる「キリンコーン」の称呼もよどみなく称呼し得るものである。 また,本件商標の構成中の「キリン」の文字部分は,(a)中国で聖人の出る前 「に現れると称する想像上の動物。(b)最も傑出した人物のたとえ。(c)ウシ目キリン科の哺乳類。(広辞苑第六版)を意味するところ,本件商標が茶色と黄色で着 」色されていることからすると, 「ウシ目キリン科の哺乳類」を表したものといえ,同じく「コーン」の文字部分は, 「とうもろこし」の意味を有する英語「corn」の読みを片仮名で表したものといえる。 そうすると,本件商標は, 「キリン」の語と「コーン」の語を結合したものであるとしても,これら2語を結合することにより,親しまれた観念が生じるものではないことから,本件商標は,構成全体をもって,造語の一種を表したと認識されるというべきである。 したがって,本件商標は,その構成全体として,一体不可分の商標といえ,その構成文字に相応して, 「キリンコーン」の一連の称呼のみを生じるものであって,特定の観念を生じないというのが相当である。 (イ) なお,キリングループの使用する原告ら商標が, 「ビール,清涼飲料」を表示するものとして,本件商標登録出願時及び登録査定時において需要者の間に広く認識されていたとしても,本件商標の構成中の「キリン」の文字部分のみを分離抽出して考察すべき特段の理由があるとはいえない。 イ 引用商標 引用商標は,その構成文字に相応して,いずれも「キリン」の称呼を生じる。また,引用商標は,指定商品中の「ビール,清涼飲料」と同一又は類似する商品との関係においては, 「キリングループがビールや清涼飲料に使用するブランド」との観念を生じ,さらに,引用商標の指定商品中の「ビール,清涼飲料」と同一又は類似しない商品との関係においては,ウシ目キリン科の動物である「キリン」又は想像上の動物である「麒麟」との観念を生じる。 ウ 本件商標と引用商標の類否 本件商標と引用商標は,構成文字数の相違や色彩の有無などにより,明らかに相違するものであるから,外観において,相紛れるおそれはない。 また,本件商標から生じる「キリンコーン」の称呼と引用商標から生じる「キリン」の称呼とは, 「コーン」の音の有無の差異により,その語調・語感が著しく相違したものとなり,明瞭に聴別し得るものであるから,本件商標と引用商標とは,称呼においても相紛れるおそれはない。 そして,本件商標は,特定の観念を生じないものであり,引用商標は, 「キリングループがビールや清涼飲料に使用するブランド」 又は, , ウシ目キリン科の動物である「キリン」,想像上の動物である「麒麟」の観念を生じるから,本件商標と引用商標とは,観念において,相紛れるおそれはない。 したがって,本件商標と引用商標とは,その外観,称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であり,本件商標は商標法4条1項11号に該当しない。 (3) 商標法4条1項15号該当性について ア 本件商標と請求人ら商標との類似性 前記(2)ウのとおり,本件商標と原告ら商標とは,外観,称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標である。 イ 本件商標の指定商品(以下「本件指定商品」という)とキリングループの業務に係る商品との関連性 本件指定商品である「とうもろこし」と,キリングループの業務に係る商品「ビール,清涼飲料」とは,商品の生産・販売部門,原材料,用途が全く異なるものであり,また,両商品の需要者は,一般消費者であるという点では共通するものの,それ以外に共通点を見いだすことはできないから,両商品の関連性の程度は極めて低い。 ウ 出所混同のおそれ 原告は,食料品又は農産物に属する指定商品及び指定役務について,引用商標がキリングループの商品又は役務を示すものとして取引者及び需要者の間で周知著名になっており,原告及びキリンビール株式会社が農産物の生産・販売等と密接な関係を有する事業活動をしていることからすると,被告が指定商品「とうもろこし」について「キリン」の文字を含む本件商標を使用することにより,あたかもキリングループの業務に係る商品であるかのように,商品の出所について誤認混同するおそれがあると主張する。 前記のとおり,原告ら商標は,キリングループの業務に係る「ビール,清涼飲料」を表示するものとして,本件商標の出願及び登録査定の時点において,わが国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることができるにとどまり,原告ら商標の著名性は,本件指定商品にまでは及ばない。 また,原告及びキリンビール株式会社が,農産物の生産・販売等と密接な関係を有する事業活動をしている証拠として提出されたものは,いずれも,キリンビール株式会社が単独で生産,販売した農産物に係る証拠ではなく,そのような証拠によって,原告及びキリンビール株式会社が農産物の生産・販売等と密接な関係を有する事業活動をしていると認めることはできない。 そうすると,本件商標に接する需要者が,原告ら商標を想起又は連想することはないというべきであるから,本件商標は,これをその指定商品について使用しても,当該商品がキリングループ又は同人と経済的若しくは経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生じるおそれはない。 したがって,本件商標は,商標法4条1項15号に該当しない。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性の判断の誤りについて) (1) 本件商標について ア 「キリン」の文字部分が本件商標の要部として抽出できること 本件商標の構成は, 「キリンコーン」の片仮名を茶色で縁取り,その内側を黄色で表してなり,同一の書体をもって横一連に表されたものであるところ,本件指定商品「とうもろこし」の取引者,需要者が通常有する注意力を基準とすると,構成上,「キリン」と「コーン」の二つの語を結合した商標であると容易に理解できるものである。 また,本件商標から生じる「キリンコーン」の称呼も,やや冗長であり,中間音の「ン」で一拍おいて発音されることから,「キリン」,「コーン」に区切って称呼される。 そして,本件商標の構成中,「キリン」の文字部分は,「(a)中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物。(b)最も傑出した人物のたとえ。(c)ウシ目キリン科の哺乳類。」(広辞苑第六版。乙24)を意味し,「コーン」の文字部分は,「とうもろこし」の意味を有する英語「corn」の読みを片仮名で表したものであるから,本件商標の構成において,「キリン」と「コーン」との間には,熟語的関連性が認められない。 さらに,本件指定商品は,「とうもろこし」であるから,「コーン」の文字部分は,指定商品の普通名称と捉えられ,商品の出所識別標識としての機能を発揮しない部分である。これに対し,「キリン」の文字部分は,上記のとおりの意味があり,本件指定商品「とうもろこし」との関係において,商品の出所識別標識としての機能を発揮する部分であって,「キリン」の文字部分は,「コーン」の文字部分よりも識別力が高いから,取引者,需要者に対して強く支配的な印象を与える。また,「キリン」の文字部分は,本件商標に接する取引者,需要者の注意を引く部分である前半部に位置する。 以上のことからすると,本件商標は,「キリン」と「コーン」とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえない上,「キリン」の文字部分は,その文字の意味及び当該文字の位置から,取引者,需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える商標の要部と認められる。したがって,本件商標から「キリン」の文字部分を要部として抽出することができる。 イ 本件商標の称呼及び観念について 本件商標の全体的な構成を捉えると,「キリンコーン」の称呼が生じる。しかし,前記アのとおり,本件商標からは「キリン」の文字部分を要部として抽出することができるから,同部分からは「キリン」の称呼が生じ,想像上の動物である「麒麟」及びウシ目キリン科の動物である「キリン」の観念が生じる。 (2) 本件商標と引用商標の類否 ア 引用商標中の「キリン」,「KIRIN」,又は「麒麟」の各文字より,引用商標については「キリン」の称呼が生じ,想像上の動物である「麒麟」とウシ目キリン科の動物である「キリン」の観念が生じる。 イ 本件商標の要部である「キリン」と引用商標とを比較すると,本件商標の要部と引用商標とは, 「キリン」の称呼が同一であり,想像上の動物である「麒麟」又はウシ目キリン科の動物である「キリン」の観念を生じる点で共通するから,両商標は,称呼及び観念において相紛らわしい。 なお,本件商標は, 「キリンコーン」の片仮名を茶色で縁取り,その内側を黄色で表してなり,同一の書体をもって横一連に表されたものであるから,本件商標と引用商標とは,外観において相違があるが,文字を縁どりし,その内側に色彩を施すことは,一般的に行われている程度の表示方法であるから,本件商標は,その構成が特異なものとして取引者,需要者に強く記憶されるものとはいえない。 また,本件商標の構成中の「キリン」の文字部分は,取引者,需要者に対し,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える一方,本件商標の構成中の「コーン」の文字部分は,その指定商品「とうもろこし」との関係において,商品の出所識別標識としての機能が発揮されないものであることから,離隔的観察においては,本件商標の外観よりも, 「キリン」の文字を含むという点が強く印象付けられるものであり,「キリン」の文字より生ずる称呼及び観念が強く記憶されるといえる。 そうすると,本件商標と引用商標とは,外観の相違よりも,称呼及び観念の共通性の方がより強い印象を取引者,需要者に与えているといえ,両商標を同一又は類似の商品に使用した場合には,取引者,需要者がその出所について誤認混同するおそれがあるというべきであるから,類似する。 (3) 取引の実情について 被告は,実店舗及びインターネットによる販売の具体的な取引状況からすると,本件商標が,原告若しくは原告と経済的又は組織的に関係を有する者の業務に係る商品であるかのように商品の出所の混同を生じないと主張するが,被告の主張する事情は,いずれも本件商標が現在使用されている商品についてのみの限定的な事情であり,商標の類否の判断を左右するものではない。 また,本件指定商品「とうもろこし」は,後記のとおり, 「穀物」としての「とうもろこし」であるが,被告が本件商標を使用している商品は, 「野菜」としての「とうもろこし」であるから,当該使用は,本件指定商品について登録商標の使用をすることに該当しない。 (4) 本件指定商品と引用商標の指定商品の類否 ア 本件指定商品について 本件商標は,平成28年1月1日から同年12月31日までの間に出願されたものであるから,本件指定商品である「とうもろこし」(類似群コード:33A01)は,類似商品・役務審査基準〔国際分類第10-2016版対応〕 (甲32。以下「旧審査基準」という。)が適用される指定商品であり,指定商品「野菜(「茶の葉」を除く。」 )(類似群コード:32D01)と明確に区別された指定商品として整理されている。 また,本件商標の出願後に適用される類似商品・役務審査基準〔国際分類第10-2017版対応〕 (甲33)においては, 「とうもろこし(穀物)(類似群コード: 」33A01)と「とうもろこし(野菜)(類似群コード:32D01)は,明確に 」区別されて整理されている。 以上からすると,本件指定商品「とうもろこし」 (類似群コード:33A01)は,「穀物」としての「とうもろこし」である。 イ 引用商標の指定商品について 引用商標の指定商品の中には,以下のようなものが含まれている。 引用商標1 第30類 米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦引用商標2 第29類 冷凍野菜,第31類 野菜(「茶の葉」を除く。)引用商標3 第30類 穀物の加工品引用商標4 第29類 豆,加工野菜,冷凍野菜引用商標5 第29類 加工野菜,冷凍野菜,第30類 穀物の加工品引用商標6 第29類 加工野菜,第30類 穀物の加工品引用商標7 第29類 加工野菜 ウ 指定商品の類似性について 本件指定商品「とうもろこし」と,引用商標1の指定商品中の「米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦」及び引用商標4の指定商品中の「豆」とは,旧審査基準において,同一の類似群コード(33A01)が付される指定商品であって(甲32),特許庁の審査において類似と推定される商品である上,いずれも農作物であり,生産者又は販売者が一致する場合が少なくなく,これら商品の需要者には広く一般消費者も含まれるところ,営業主についての明確な区別が困難な場合も少なくない。 したがって,本件指定商品「とうもろこし」と引用商標1の指定商品中の「米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦」及び引用商標4の指定商品中の「豆」とは,類似するものといえる。 引用商標2の指定商品中の「野菜(「茶の葉」を除く。」には, ) 「未成熟とうもろこし」「スイートコーン」などの「とうもろこし(野菜) , 」が含まれ,引用商標2,4,5の指定商品中の「冷凍野菜」には, 「冷凍スイートコーン」などの「冷凍とうもろこし(野菜) が含まれ, 」 引用商標4〜7の指定商品中の「加工野菜」には,「加工済みスイートコーン」などの「加工済みとうもろこし(野菜)」が含まれ,引用商標3,5,6の指定商品中の「穀物の加工品」には, 「炒ったとうもろこし」が含まれる。 本件指定商品「とうもろこし」と引用商標2〜7の上記各指定商品は, 「とうもろこし」の加工の程度又は方法に差があるとはいえ,農産物の「とうもろこし」の生産者により製造又は供給される商品であり,これら商品の需要者には広く一般消費者も含まれるところ,営業主についての明確な区別が困難な場合も少なくない。 したがって,本件指定商品は,引用商標2〜7の指定商品に含まれる「とうもろこし(野菜), 」「冷凍とうもろこし(野菜), 」「加工済みとうもろこし(野菜), 」「炒ったとうもろこし」と,同一又は類似の商標を使用されるときに,同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認混同されるおそれがあるから,それらの商品は,類似する。 エ 被告は,本件指定商品が「穀物」としての「とうもろこし」とされる理由はないと主張する。 しかし,本件指定商品と引用商標の指定商品の類似性の有無は,本件指定商品に関する被告の主観的意図とは切り離して判断されるべきで問題であって,「野菜」としての「とうもろこし」に使用するつもりであったというような被告の意図は,商品の類否の判断を左右するものではない。 また,特許庁は,商標登録出願の審査などに当たり,同じ類似群コードが付された商品について類似と推定するところ(甲32,33),被告の主張は,旧審査基準が適用される指定商品「とうもろこし」 (類似群コード:33A01)に,野菜としての「とうもろこし」 (類似群コード:32D01)を含むという主張にほかならず,本件商標の商標登録時よりも,類似群コードが拡大することになり,特許庁の上記取扱いを前提とすると,第三者に対する不測の損害や手続上の不平等が生ずる可能性がある。 仮に,被告の主張のとおり,本件指定商品が「野菜」としての「とうもろこし」であるとすると,本件指定商品は,引用商標2の指定商品中の「野菜 「茶 (の葉」を除く。」のうち, ) 「とうもろこし(野菜)」と同一の指定商品ということになる上,引用商標2,4,5の指定商品中の「冷凍野菜」とも旧審査基準において,同一の類似群コードが付される指定商品ということとなる。 (5) 以上のとおり,本件商標は,引用商標と類似であって,引用商標の指定商品に同一又は類似の指定商品について使用するものであるから,商標法4条1項11号に該当する。 2 取消事由2(商標法4条1項15号該当性の判断の誤りについて) (1) 原告ら商標の周知・著名性等について ア 原告の親会社であるキリンホールディングス株式会社の前身である麒麟麦酒株式会社は,明治40年2月に設立された企業であり,その後事業の拡大をし続け,キリンホールディングス株式会社及びその連結子会社と持分法適用関連会社によって構成されるキリングループを形成し,キリンホールディングス株式会社を持株会社として,国内綜合飲料事業,オセアニア綜合飲料事業,海外その他綜合飲料事業,医薬・バイオケミカル事業,その他の事業が行われている(甲37,57)。 キリンホールディングス株式会社の連結子会社及び持分法適用関連会社は,178期有価証券報告書(平成28年1月1日〜同年12月31日)によると,それぞれ188社,18社であり,179期有価証券報告書(平成29年1月1日〜同年12月31日)によると,それぞれ170社,22社であり,キリンホールディングス株式会社の178期の連結売上高は,約2兆750億円であって,179期の連結売上収益は,約1兆8637億円である(甲37,57)。 イ 原告ら商標は,「日本商標名鑑」(昭和51年9月27日発行。甲14),「日本商標名鑑’97」(平成9年10月1日発行。甲15)にそれぞれ掲載され,これらの商標の説明として, 「同社(麒麟麦酒株式会社)の代表的商標として各類にわたり登録され,同社の製品であるビール(ラガービール・黒ビール・スタウト) ・清涼飲料(オレンジエード・レモン・タンサン)のラベル及びびん・箱などの容器に使用されている。」と記載され,また,麒麟麦酒株式会社に関して,「販売量世界第三位のビール会社として業界をリードしている。などと記載されている。 」 さらに,原告ら商標のうち,引用商標3,4,7と同一の構成からなる商標は, 「日本有名商標集」 (甲16)にも掲載され, 「Goods/Services」の項目には, 「Beer,Whisky,Wine,Soft drink,Fruit juice,Coffee,Tea」などが記載されている ウ 原告ら商標と同一の構成の商標は,以下のとおり,農産物を含む食品に係る指定商品について,防護標章登録がされており,原告ら商標は,とうもろこし」 「などの農産物を含む食品に係る指定商品について,商品又は役務の出所の混同を来すほどの強い識別力を備えており,そのような程度に至るまでの著名性を有している。 引用商標3,4,7と同一の構成である「KIRIN」の文字からなる商標については,指定商品「とうもろこし,豆,米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,野菜,冷凍野菜,加工野菜,穀物の加工品」を含む,広範囲に及ぶ指定商品及び指定役務について防護標章登録されている(甲18,19)。 引用商標6と同じ構成である「キリン」の文字からなる商標については,指定商品「豆,穀物の加工品,米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,冷凍野菜,加工野菜」を含む,広範囲に及ぶ指定商品及び指定役務について防護標章登録されている(甲20)。 引用商標5と同一の構成である「麒麟」の文字からなる商標については,指定商品「豆,米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,冷凍野菜,加工野菜,穀物の加工品」を含む,広範囲に及ぶ指定商品及び指定役務について防護標章登録されている(甲21)。 エ これまでにされた異議の決定や審決では, 「麒麟麦酒株式会社」が,わが国のビール業界において屈指の存在であり, 「麒麟」「KIRIN」「麒麟」の図形 , ,商標及び「キリン」が,麒麟麦酒株式会社の著名な略称として,また,麒麟麦酒株式会社の業務に係る商品「ビール」等を表示する商標として使用されて,取引者,需要者の間に広く認識されていたなどと認定されている(甲24,25)。 また,知財高裁における各裁判例でも,「KIRIN」の文字商標につき,「キリングループの商品又は役務を示すものとして取引者及び需要者の間で周知著名になっていると認められると判断されている(甲26〜29)。 オ 上記ア〜エからすると,原告ら商標は, 「ビール,清涼飲料」にとどまらず,少なくとも食品事業に関連する商品(「酒類,茶,コーヒー」など)を表示する代表的出所標識として取引者,需要者の間で広く認識されているものであり,その使用期間及び使用規模からすると,その周知・著名性の程度は,極めて高い。 (2) 原告ら商標の独創性 原告ら商標は,想像上の動物である「麒麟」と,ウシ目キリン科の動物である「キリン」を表したものと認識されるものであり,キリングループの商品又は役務との関係で,独創性の程度が高い表示といえる。 (3) 本件商標と原告ら商標との類似性について 原告ら商標からは,いずれも「キリン」の称呼が生じ,想像上の動物である「麒麟」と,ウシ目キリン科の動物である「キリン」の観念が生じる。 他方,本件商標からは,前記のとおり,「キリンコーン」のほか,「キリン」との称呼も生じ,想像上の動物である「麒麟」と,ウシ目キリン科の動物である「キリン」の観念が生じるから,原告ら商標と本件商標は,類似している。 (4) 本件指定商品とキリングループの業務に係る商品との関連性等 本件指定商品である「とうもろこし」は,食品に係る商品である。 他方,キリングループは,食品事業を中核とする多角経営企業であって,キリングループの事業会社は,コーンポタージュスープ,野菜ジュース,スムージーなど農産品を原材料とした食品,加工品,飼料を多数取り扱っており,特定産地のホップを使用したビールの製造,販売や特定産地の果実を使用した酎ハイの製造,販売もしている(甲58〜68,70〜74)。キリングループの業務に係る商品は,食品事業に関連する商品である。 また,原告及びキリンビール株式会社は,農産物の生産・販売等と密接な関係を有する事業活動をしており(甲41),原告が原告ら商標と社会通念上同一と認められる商標を使用して,「とうもろこし」の販売をしたこともあった(甲42)。 そして,キリングループは,農業法人に出資し,日本産ホップの持続的生産など,農業を通じた地域活性化に向けてさまざまな取組みを推進している(甲75, 76)。 上記のとおり,本件指定商品「とうもろこし」と原告ら商標が使用されたキリングループの商品とは,いずれも食品に関する商品であること,原告ら商標を付したキリングループの商品の原材料に農産物が使用される場合は,決して少なくなく,特にコーンポタージュスープは,「とうもろこし」を原材料とする商品であること,食品の分野で原告ら商標がキリングループの商品を示すものとして取引者,需要者の間で周知・著名になっており,原告らが農産物の生産等と密接な関係を有する事業活動をしていること,両商品の購入者等は,共に特別な専門的知識経験を有しない一般消費者であることからすると,両商品の関連性の程度は高いといえる。 (5) 小括 以上を踏まえて,本件指定商品の取引者,需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断すると,本件商標登録出願時において,本件商標は,これを被告が本件指定商品に使用するときは,その商品があたかもキリングループと経済的又は組織的に何らかの関係がある者の生産・製造,販売に係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものである。 法解釈としても,商標法64条と同法4条1項15号との混同範囲は同一と考えられるところ(甲77),原告ら商標が,指定商品「とうもろこし」等について防護標章登録されている事実からすると,「とうもろこし」などの農産物を含む食品に係る指定商品について,原告ら商標が使用されると,キリングループの業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあることは明らかである。 また,本件商標において,本件指定商品「とうもろこし」の普通名称にすぎない「コーン」の文字が,「キリン」の文字の後に付されたからといって,「キリン」の文字部分に強く印象が残る以上,キリングループの業務に係る商品と混同を生ずるおそれは否定できない。 したがって,本件商標は,仮に商標法4条1項11号に該当しない場合においても,キリングループの業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であり,同法4条1項15号に該当するものである。 |
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被告の主張
1 取消事由1について (1) 本件商標が一体として認識,称呼されるべきであること 本件商標は,長音記号も含めても全体で6文字であり,これより生じる称呼も6音からなるから,「やや冗長」という評価は当てはまらないし,本件商標において「キリン」と「コーン」を区切って称呼することは明らかに不自然である。 また,「コーン」という用語は,特に食品業界においては,「スイートコーン」,「コーンスープ」,「コーンスターチ」,「コーンフレーク」,「とんがりコーン」,「カプリコーン」,「ジャイアントコーン」,「シュガーコーン」のように,「○○コーン」,「コーン○○」として商品名や商標に一体的に使用されている実情がある。 以上からすると,本件商標に接した需要者は,これを一体の商標として認識し,称呼するのが自然である。 (2) 本件商標と引用商標の類否 ア 外観 引用商標1,6は,「キリン」の片仮名文字を黒字の横書きしたものであり,引用商標2は,「キリン」の片仮名文字を黒字の縦書きしたものである。 これに対し,本件商標は,「キリンコーン」の片仮名文字を茶色で縁取り,その内側を黄色で表されており,かつ,やや丸みを帯びた親しみやすい字体であり,上記の引用商標1,2,6とは外観において大きく異なる。また,前記のとおり,本件商標は,6文字が一体として認識されるものであり,3文字の引用商標とはその点においても大きく異なる。 なお,引用商標4,7は,いずれもアルファベット文字「KIRIN」であり,引用商標5は,漢字「麒麟」であることから,本件商標とは外観上の差異が明確である。 イ 称呼 本件商標より生じる「キリンコーン」の称呼は,全体として長音を含み6音からなり,よどみなく一気に称呼できるものであるところ,引用商標の称呼は,いずれも短い3音からなる「キリン」であり,両称呼をそれぞれ称呼したときには語感語調が大きく異なる。 ウ 観念 本件商標は,「キリンコーン」という造語であり,特定の観念を生じない。したがって,本件商標と引用商標とは観念上比較できない。 本件商標と引用商標を比較すると,外観,称呼,観念のいずれにおいても大きく異なっている。 エ 取引の実情 以下に示すとおり,本件指定商品「とうもろこし」の具体的な取引の状況からすると,原告あるいは原告と経済的又は組織的に関係を有する者の業務に係る商品であるとの誤認混同が生じるおそれはない。 実店舗における本件商標を付した「とうもろこし」の販売 被告は,本件商標を付した「とうもろこし」を,被告住所と同じ場所にある実店舗及びインターネットにおいて販売しているところ,実店舗は,被告の屋号である「かに太郎」が目立つように大きく表示されており, 「北海道カニ・海産物・旬野菜専門店」と表示されている(乙21)。 シーズン中,被告は,近隣にある旭山動物園にちなんで名付けられた「ライオンコーン」「白くまコーン」「キリンコーン」「象もろこし」という各種の「とうも , , ,ろこし」を販売している。販売の形態としては,産地直送(農園から直接発送する)という形で,客が,店舗内で「ライオンコーン」, 「白くまコーン」, 「キリンコーン」,「象もろこし」の中から「とうもろこし」を選択して購入し,商品は,後日,化粧箱(乙26)に入って配送される。化粧箱の側面には,「白くまコーン(白), 」「ライオンコーン(黄)「象もろこし(ビッグ)「キリンコーン(バイカラー種) 」 」 」と記載され(乙26の1頁),該当する商品の右側の空欄に〇を付けて配送される。 これらの販売形態からすると,被告の実店舗に来た客が, 「キリンコーン」のことを,原告の製造した「とうもろこし」であるなどと誤認したり,原告が「とうもろこし」の販売主体であると誤認したりすることはあり得ない。 インターネットにおける本件商標を付した「とうもろこし」の販売 a 被告が開設するホームページ(以下「被告ホームページ」という。) 被告ホームページでは, 「かに太郎」という被告の屋号が冒頭に大きく表示されており,1頁目には,【送料無料】北海道旭川近郊産 「 とうもろこし 旭山動物園キリンコーン(バイカラー種トウモロコシ)10本入り」との表示がされ,3頁目には, 「北海道旭川美瑛富良野産あさひやま動物園キリンコーン」との表示がされている。また,5頁目には, 「とうもろこし」を育てている様子が記載され,6,7頁目には,黄色の粒と白色の粒が3:1の割合であり,生で食べられることなどが記載され,9,10頁目には, 「農家さんと直接契約」などと記載されて生産する過程が記載され,23,24頁目には, 「実店舗所在地・会社概要」 「(省略)」 「かに太郎 店主 Y」という表示がされている。 これらの表示内容からすると,被告ホームページを見た消費者が, とうもろこし」 「の生産者,販売者が原告であると誤認するおそれはない。 b 楽天市場における被告のページ(以下「楽天市場ページ」という。) 楽天市場ページでは, 「かに太郎」という被告の屋号が冒頭に大きく表示されており,2頁目には, 「白くまコーン」が楽天市場のとうもろこしランキングで1位を獲得したことや,被告が商品の売上げの一部を旭山動物園に寄付していることなどが表示されている。そして,2頁目から3頁目にかけて, 「ライオンコーン」「象もろ ,こし」「白くまコーン」などと並べて「キリンコーン」が販売されている。また, ,5頁目には,商品が「かに太郎」の包装箱に詰めて発送されることが記載されている。これらの表示内容からすると,楽天市場ページを見た消費者が,とうもろこし」 「の生産者,販売者が原告であると誤認するおそれはない。 c ヤフーショッピングにおける被告のページ(以下「ヤフーショッピングページ」という。) ヤフーショッピングページでは, 「かに太郎」という被告の屋号が冒頭に大きく表示されており,1頁目には,バイカラー種とうもろこし旭山動物園キリンコーン(北海道産スイートコーン)黄色と白い粒がまばらにある生トウモロコシ。産地直送」などと記載されており,2頁目には, 「北海道旭川美瑛富良野産あさひやま動物園キリンコーン」と表示され,3,4頁目には,商品の詳しい説明が記載されている。 そして,7頁目には, 「ライオンコーン」「白くまコーン」「象もろこし」と並べて , ,「キリンコーン」が販売されている。これらの表示内容からすると,ヤフーショッピングページを見た消費者が, 「とうもろこし」の生産者,販売者が原告であると誤認するおそれはない。 オ 以上のとおり,本件商標と引用商標を比較すると,外観,称呼,観念のいずれにおいても異なっており,取引の実情に照らしても,非類似の商標である。 被告は,旭山動物園との協力関係の下に, 「とうもろこし」に動物の名前を付けて子供から大人まで親しみやすく覚えやすい名前ということで本件商標を出願したものである。 「とうもろこし」を生産,販売していない原告は,全く使用する意思がないにもかかわらず,本件商標と同じ「キリンコーン」の商標を「とうもろこし」を指定商品として出願し,商標登録を得ている(乙19)。 (3) 本件指定商品と引用商標の指定商品の類否 ア 本件指定商品について 被告は,従前から「野菜」である「とうもろこし」を生産,販売しており,「穀物」である「とうもろこし」は生産,販売したことがないし,今後も生産,販売するつもりはない(乙3,8,9,16,17,23,26)。 本件商標には「33A01」という穀物類の類似群コードが付いているが,この類似群コードは,特許庁が審査の便宜上機械的に付けたにすぎず,被告は,「野菜」としての「とうもろこし」を生産,販売するに当たって使用する目的で指定商品を「とうもろこし」と記載して出願したのであり,出願時の資料にも,本件訴訟の証拠と同様に,「野菜」としての「とうもろこし」を生産,販売している資料を提出している。 本件商標に適用される旧審査基準においては,「野菜」である「とうもろこし」と「穀物」である「とうもろこし」とが区別されておらず,被告は,「野菜」としての「とうもろこし」に使用する目的で,本件指定商品を「第31類 とうもろこし」としたのであり,本件指定商品が「穀物」としての「とうもろこし」とされる理由はない。 したがって,本件指定商品の類否を判断するに当たっては,「33A01」という類似群コードを重視すべきではなく,本件指定商品である第31類「とうもろこし」及び被告が生産,販売している「野菜」としての「とうもろこし」と,引用商標の指定商品とを比較して,商品の出所について誤認混同を生ずるおそれあるか否かを判断すべきである。 イ 引用商標の指定商品について 引用商標1の指定商品について 引用商標1の指定商品は,「米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用グルテン」である。 これらの商品の生産者は,米や麦を生産する農家であり,通常,とうもろこしを生産する農家とは一致しない。 また,引用商標1の指定商品を販売するのは,精米店や麦の卸売業者であり,「とうもろこし」を販売する野菜直売所や八百屋とは一致しない。スーパーマーケット等の総合小売店ではいずれの商品も販売しているが,「野菜」としての「とうもろこし」と「米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用グルテン」の商品の陳列場所は異なる場合がほとんどである。 引用商標1の指定商品は,ご飯などの主食を製造するために使用されるが,本件指定商品は,蒸したり焼いたり,サラダに入れるなど,副菜として使用されるものであり,用途も一致しない。 したがって,本件商標をその指定商品「とうもろこし」に使用したとしても,引用商標1の指定商品を生産,販売する者との間で出所の混同が生じるおそれはなく,本件指定商品と引用商標1の指定商品は類似しない。 引用商標2の指定商品について 引用商標2の指定商品の一つである「野菜(「茶の葉」を除く。)」は,本件指定商品である「とうもろこし」と比較的近いとはいえるが,原告は「とうもろこし」を生産,販売しておらず,出所の混同は生じないから,本件指定商品と引用商標2の指定商品は類似しない。 引用商標2〜7のその他の指定商品について a 被告が生産,販売している「とうもろこし」と,引用商標4の指定商品中の「豆」とは,生産・販売部門が一致せず,原材料や用途も異なっており,出所の混同を生じるおそれはないから,本件指定商品と引用商標4の指定商品は類似しない。 b 被告は,「野菜」としての「とうもろこし」を生産し,そのまま加工せずに販売しているのであり,とうもろこしの加工品は生産,販売していない。 引用商標3,5,6の指定商品中の「穀物の加工品」と「とうもろこし」は,生産・販売部門が一致せず,用途も異なっているのであり,出所の混同を生じるおそれはないから,本件指定商品と引用商標3,5,6の指定商品は類似しない。 c 「加工済みとうもろこし」や「冷凍とうもろこし」を製造販売する業者は,被告のような「生のとうもろこし」を生産,販売する農家とは別の業者であり,販売部門も通常異なっているから,本件指定商品と引用商標2,4〜7の指定商品中の「加工野菜」,「冷凍野菜」は類似しない。 2 取消事由2について (1) 本件商標と原告ら商標が非類似であること 前記1(2)のとおり,本件商標と原告ら商標は,外観,観念,称呼のいずれでも類似せず,非類似である。 (2) 原告ら商標の周知著名性について 原告は,自らを「日本綜合飲料事業を展開するキリン株式会社」 (乙18)と表示し, 「キリングループの歴史」として「時代がめまぐるしく変化する中でも常にお客さまの暮らしに寄り添い,あたらしい飲みものをお届けしてきました。(乙1の1 」頁)と表示している。また,原告のグループ会社の事業範囲には,「とうもろこし」の生産・販売やそれに類似する事業は含まれていない。 そうすると,キリングループの中核をなす事業として広く知られるのは,飽くまでもビール,アルコール飲料,清涼飲料水等の飲料事業であり, 「KIRIN」「キ ,リン」「麒麟」の文字及び「麒麟」の図形の周知著名性が認められたとしても,上 ,記飲料分野に限られるのであって,本件指定商品である「とうもろこし」を含む雑穀類及び野菜等の食品分野全体にまで周知著名性が及んでいるものではない。 (3) 本件指定商品とキリングループの業務に係る商品との関連性等について 本件審決が指摘するとおり,本件指定商品とキリングループの業務の係る商品の生産・販売部門,原材料,用途が全く異なり,両商品の需要者が一般消費者であるという以外に共通点はないから,関連性は極めて薄いというべきである。 この点,原告は,グループの事業会社が,コーンポタージュスープや野菜ジュース,スムージー等を取り扱っていること,特定産地のホップを使用したビールや特定産地の果実を使用した酎ハイの製造販売をしていること等を挙げ,経営多角化をしていると主張するが,コーンポタージュスープは,「ホット専用缶飲料」(甲60)であるし,野菜ジュースも「飲料」である。また,コーンポタージュスープには,「KIRIN」の文字及び赤道と緯度を表した楕円状の地球儀のような図形及び「世界のkitchenから」の文字等が表示されており「キリン」の文字表記がない。 さらに,当該シリーズの商品と思われる「とろけるカオスープ」の商標出願の指定商品が,第32類「ビール,ビール風味の麦芽発泡酒,アルコールを含有しない飲料,アルコールを含有しない麦芽飲料,アルコール分を含有しないビール風味の清涼飲料,アルコール分が1%未満のビール風味の炭酸飲料,清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,ビール製造用ホップエキス,乳清飲料」であることからすると,「濃厚コーンスープ」も飲料として流通,販売されるものといえる。 そうすると,商品の需要者である一般消費者は,キリングループについて,「飲料」を製造販売している会社と受けとめるのが通常であって,キリングループが,「とうもろこし」を含む農産物を生産・販売しているとまでは想起・連想しないとみるべきである。 また,原告は,「とうもろこし」を販売したり,農業を通じた地域活性化の取組みを行ったりしていると主張するが,これらの活動は,原告やキリンビール株式会社が単独で農作物を生産,販売するというものではない。CSR活動の一環として,原告やキリンビール株式会社が地域貢献活動をしているというものであり,原告が農産物の生産・販売等と密接な事業活動をしているとまでは認められないというべきである。 (4) 原告ら商標の独創性について 原告ら商標中,「キリン」については,動物を表す語として辞書等にも記載された一般に親しまれた語であり,造語と異なり,独創性はない。 (5) 本件指定商品とキリングループの業務に係る商品との関連性等について 本件指定商品「とうもろこし」は,夏から秋に収穫され,インターネットを利用した通信販売により取引者,一般需要者に提供される「野菜」に属する商品であるところ(乙16,23),インターネットを通じての取引においては,顧客自身が商品の説明,価格,生産者,商標について画面等で直接確認した上で取引することが普通に行われている。当該商品の取引者,需要者の注意力からすると,当該商品と原告らの業務に係る商品の出所について混同するおそれはない。 (6) 以上のとおり,本件商標は,被告がこれを本件指定商品「とうもろこし」に使用するときに,これに接する需要者が,原告らの商標を想起・連想することはなく,原告又はキリングループと経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であると誤認し,その商品等の需要者,取引者が商品の出所について混同するおそれはないというべきであり,商標法4条1項15号に該当しない。 (7) 原告の主張に対する反論 ア 原告主張の防護標章登録のうち,「キリン」以外の防護標章と本件商標とは非類似の商標である。また,原告ら商標が防護標章として登録されているとしても,その周知・著名の範囲は,本件指定商品「とうもろこし」には及ばないことからすると,本件商標を「とうもろこし」に使用しても,これに接する取引者,需要者をして原告及び原告と経済的及び組織的に関係を有する者に係る商品であるかのように出所の混同を生じるおそれはない。 イ 原告ら商標が,「日本商標名鑑」(甲14,15)及び「日本有名商標集」(甲16)に掲載されていたとしても,本件審決は,商標の類否や商品の取引の実情等を総合的に考慮して判断したものであるから,原告の主張は理由がない。 ウ 原告は,異議の決定や審決,知財高裁の各裁判例について主張するが,いずれも本件とは事案を異にするものである。 |
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当裁判所の判断
1 分離観察の可否について (1) 複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについては,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められないときには,その構成部分の一部を抽出し,当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することが許される場合があり,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許される(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。 以下,上記判断枠組みに沿って本件商標について, 「キリン」の部分を要部として抽出することができるかどうかについて検討する。 (2) 本件商標は,前記第2の1のとおり,本件指定商品を第31類「とうもろこし」とするもので,その構成は, 「キリンコーン」の片仮名を茶色で縁取りし,その内側を黄色で表してなるもので, 「キリンコーン」の文字が,同一の書体,色彩で横一連に表示されたものである。 もっとも,@本件商標の構成中, 「コーン」の文字部分が「とうもろこし」の意味を有する英語である「corn」 の読みを片仮名で表したものであること(甲9〜12,44,45),A「キリン」の文字部分が,(a)中国で聖人の出る前に現れ 「ると称する想像上の動物。(b)最も傑出した人物のたとえ。(c)ウシ目キリン科の哺乳類。」との意味を有していること(乙24),B「キリンコーン」が特段の意味を有しない造語であることからすると,本件商標は, 「キリン」と「コーン」とを結合した結合商標と理解することができるものである。 また,上記のように「コーン」が本件指定商品である「とうもろこし」の意味を有する英語である「corn」 の読みを片仮名で表したものであることは,わが国においても広く知られていること(甲44,45,弁論の全趣旨)からすると,本件指定商品との関係では,本件商標の構成中, 「コーン」の文字部分は,本件指定商品そのものを意味するものと捉えられ,その識別力は低いものといえる。 他方で,上記のような意味を有する「キリン」は,本件指定商品との関係で, 「コーン」よりも識別力が高く,取引者,需要者に対して強く支配的な印象を与えるというべきである。 そうすると,本件商標の「キリン」の文字部分と「コーン」の文字部分とが,分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとは認められず,本件商標から「キリン」の文字部分を要部として観察することは許されるというべきである。 (3) 被告は,@その構成からして本件商標を「キリン」と「コーン」に区切って称呼することは明らかに不自然であること,A「コーン」という用語は,特に食品業界においては,「スイートコーン」などのように,「○○コーン」,「コーン○○」として商品名や商標に一体的に使用されている実情があることからすると,本件商標に接した需要者は,これを一体の商標として認識し,称呼すると主張する。 上記@について, 色彩で横一連に表示されたものであるが,「キリン」と「コーン」を統合したものと理解されるのであって,分離して観察することができるものである。 上記Aについて,被告が指摘する各例は,いずれも「コーン」と他の語が結合されることによって,「○○コーン」や「コーン○○」が,それ自体として,特定の意味を有する一つの語として機能しているものである。他方,本件商標「キリンコーン」は,前記のように造語であってそれ自体としては一つの語として特段の意味を有しないものであるから,それらの例をもって本件商標が一体として認識,称呼されるとはいい難いところである。 以上からすると,被告の上記主張は採用することができず,前記(2)の判断は左右されない。 2 本件商標と引用商標の類否について (1) 本件商標から要部である「キリン」の文字部分を抽出した場合,同部分からは「キリン」との称呼が生じるとともに, 「中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物」及び「ウシ目キリン科の哺乳類」との観念が生じる。 この点について,本件審決は,本件商標が茶色と黄色で表示されていることからすると, 「キリン」の文字部分は「ウシ目キリン科の哺乳類」のみを表したものとする。しかし,中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物」 「 の色彩について,これがはっきりと定まっているわけではないことからすると,本件商標の構成中の「キリン」の文字部分から「中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物」との観念が生じないとはいえない。 (2) 引用商標は,別紙のとおりの構成からなるものであり,いずれからも本件商標と同じ「キリン」との称呼が生じる上,引用商標1〜4,6,7からは「中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物」及び「ウシ目キリン科の哺乳類」との観念が生じ,引用商標5からは「中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物」との観念が生じるから,本件商標と引用商標を観念で区別することはできない。 また, 「キリン」の片仮名を縦又は横に記載した引用商標1,2,6と本件商標とは,「キリン」の文字部分の色彩や書体に違いはあるものの,本件商標の「キリン」の文字部分とは, 「キリン」の文字は同じであるから,外観上,類似するものといえる。 以上に加え,本件指定商品である第31類「とうもろこし」の需要者に一般消費者が含まれることも併せて考慮すると,本件商標と引用商標は,出所について誤認混同を生ずるおそれがある類似する商標というべきである。 3 被告の主張する取引の実情について 被告は,@実店舗において, 「かに太郎」との屋号が表示されており,実店舗における販売では,近隣にある旭山動物園にちなんで名付けられた本件商標を付した「とうもろこし」が,同様に上記動物園にちなんで名付けられた「ライオンコーン」などと共に販売されていること,Aインターネットにおける販売でも,同様に「かに太郎」との屋号が用いられて被告の氏名等がウェブサイトに記載されるなどしている上,本件商標を付した「とうもうろこし」が, 「ライオンコーン」などと共に販売されたり,「旭山動物園キリンコーン」などと記載されたりしていて,「とうもろこし」の生産者,販売者が原告であると誤認混同するおそれはないと主張する。 しかし,被告の上記主張は,現在の販売形態について主張するものにすぎず,一般的,恒常的な事情とまではいい難いものである。 また, 「かに太郎」との屋号や被告の氏名等が表示されていたしても,販売されている商品について,その生産者・製造者と消費者への最終的な販売者が異なることがあり得ることからすると,そのことをもって誤認混同のおそれが生じなくなるものではない。 さらに, 「旭山動物園キリンコーン」との表示がされている点や本件商標を付した「とうもろこし」が, 「ライオンコーン」などと共に販売されている点など被告が主張する点を考慮したとしても,各ウェブサイトにおいて,写真中に「キリンコーン」,「送料無料」「10本」とのみ表示した「とうもろこし」の写真が掲載されている ,こと(乙3の1枚目,乙16の2枚目,乙23の2枚目)や本件指定商品の需要者が一般消費者であって,かつ本件指定商品が比較的安価なものであることからすると,消費者が注意深く観察せずに,本件商標が付された商品を購入することもあり得るものといえることからすると,被告が主張する点により直ちに誤認混同のおそれが生じなくなるとはいえないところである。 以上からすると,被告の上記主張は採用することができず,前記2の認定判断を左右するものではない。 なお,被告は,本件商標登録の出願をした経緯や原告が「とうもろこし」を生産・販売していないこと,原告が本件商標と同じ商標を出願して商標登録を得たことを主張するが,これらは,何ら前記2の認定判断を左右するものではない。 4 商品の類否について (1) ア 本件指定商品は,「第31類 とうもろこし」であるところ,商標法施行令別表(以下「政令別表」という。)は,第31類を「加工していない陸産物,生きている動植物及び飼料」と定めている。そして,本件商標登録出願時の平成28年経済産業省令第109号による改正前の商標法施行規則別表(以下「旧省令別表」という。 は, ) 第31類に属するものを1から15に分類し,そのうちの1で「1 あわ きび そば ごま とうもろこし ひえ 麦 籾米 もろこし」として, 「とうもろこし」を他の雑穀や穀物と並べて記載していたが, 「10 野菜」には,とうもろこしは記載されていなかった。 また,本件商標登録出願時における特許庁の旧審査基準(甲32)では, 「とうもろこし」 「あわ は, きび そば ごま ひえ 麦 籾米 もろこし」, 「豆」, 「米 脱穀済みのえん麦 脱穀済みの大麦」と同一の類似群(33A01)に属するとされていた。 これらのことからすると,旧省令別表第31類1にいう「とうもろこし」は, 「穀物」としての「とうもろこし」であったと解するのが相当であり, 「第31類 とうもろこし」とする本件指定商品の範囲は,少なくとも「穀物」としての「とうもろこし」に及ぶものである。 イ また,商標法施行規則別表における細分類の表示は飽くまで例示であるところ,政令別表は,前記のとおり,本件指定商品が含まれる第31類を「加工していない陸産物,生きている動植物及び飼料」と定めており,本件商標の出願後に施行された平成28年経済産業省令第109号が,商標法施行規則別表の第31類1中の「とうもころし」を「とうもろこし(穀物)」とし,同類10「野菜」に「とうもろこし(野菜)」を加えたように,第31類の中には,「穀物」としての「とうもうころし」と「野菜」としての「とうもろこし」の双方が含まれるということができる。このことに照らすと,本件指定商品「第31類 とうもろこし」 「穀物」 は,としての「とうもろこし」だけでなく, 「野菜」としての「とうもろこし」も含むと解することが相当である。本件商標に類似群コードとして「33A01」が付されていることはこの認定を左右しない。 ウ 以上の検討からすると,本件指定商品の範囲には, 「野菜」としての「とうもころし」及び「穀物」としての「とうもろこし」のいずれもが含まれると解されるのであり,これを前提にして商品の類否の判断をするのが相当である。 エ 被告は,@従前から「野菜」である「とうもろこし」を生産,販売しており,「穀物」である「とうもろこし」は生産,販売したことがないし,今後も生産,販売するつもりはないこと,A被告が,「野菜」としての「とうもろこし」に本件商標を使用する意図で, 「野菜」としての「とうもろこし」の資料とともに本件商標の出願をしたこと,B類似群コードが特許庁により付されたものであることなどから,本件指定商品は, 「野菜」としての「とうもろこし」と解すべきであると主張する。 しかし,本件指定商品は「第31類 とうもろこし」であるから,前記ア〜ウのとおり解されるのであって,上記@〜Bの事情は,この認定を左右するものではない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 (2)ア 前記(1)を踏まえて,本件指定商品と引用商標の各指定商品が類似するかどうかを検討するに,指定商品が類似のものであるかどうかは,商品自体が取引上誤認混同のおそれがあるかどうかにより判断すべきものではなく,それらの商品が通常同一営業主により製造・生産又は販売されている等の事情により,それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一の営業主の製造・生産又は販売にかかる商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にある場合には,たとえ,商品自体が互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても,類似の商品に当たると解するのが相当である(最高裁昭和33年(オ)第1104号同36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁参照)。 イ 本件指定商品の範囲に含まれる「穀物」としての「とうもろこし」と,引用商標1の指定商品中の「米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦」と引用商標4の指定商品中の「豆」とは,いずれも「穀物」に属するものであって,その生産者,販売者が一致することが通常あり得るものと認められるし,その需要者にはいずれも一般消費者が含まれるものである。 したがって,それらの商品に同一又は類似の商標が使用されたときには,同一の営業主の生産又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあるということができ,本件指定商品と,引用商標1の指定商品中の「米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦」及び引用商標4の指定商品中の「豆」は,商標法4条1項11号にいう類似の商品に当たるというべきである。 ウ 次に,引用商標2の指定商品中の「野菜(「茶の葉」を除く。」には, ) 「野菜」としての「とうもろこし」が,引用商標2,4,5の指定商品中の「冷凍野菜」には「冷凍とうもろこし」が,引用商標4〜7の指定商品中の「加工野菜」には,「加工済みスイートコーン」のような「加工済みのとうもろこし」が,引用商標3,5,6の指定商品中の「穀物の加工品」には, 「炒ったとうもろこし」がそれぞれ含まれるものと認められる。 本件指定商品には「とうもろこし(野菜)」が含まれているから,本件指定商品は,この点において,引用商標2の指定商品中の「野菜(「茶の葉」を除く。」と同一である。 ) b また,本件指定商品である「とうもろこし(野菜)」と引用商標2,4,5の指定商品中の「冷凍野菜」に含まれる「冷凍とうもろこし」とは,同じ「野菜」としての「とうもろこし」からなるものであって,生産者・製造者,販売者が同一の場合もあり得るものと認められる。 したがって,本件指定商品である「とうもろこし(野菜)」と引用商標2,4,5の「冷凍野菜」に同一又は類似の商標が使用されたときには,同一の営業主の生産・製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあるということができるから,本件指定商品である「とうもろこし(野菜)」と引用商標2,4,5の指定商品中の「冷凍野菜」は,商標法4条1項11号にいう類似の商品に当たるというべきである。 本件指定商品である「とうもろこし(穀物)」と引用商標2,4,5の指定商品中の「冷凍野菜」,引用商標4〜7の指定商品中の「加工野菜」,引用商標3,5,6の指定商品中の「穀物の加工品」及び引用商標2の指定商品中の「野菜(「茶の葉」を除く。」とは, ) 「穀物」か「野菜」か,加工の有無,程度又は方法について差異があるとはいえ,いずれも「とうもろこし」からなるものという点では変わりがなく,「とうもろこし(穀物) 」と引用商標2〜7の上記各指定商品の生産者・製造者,販売者が一致することもあり得るものと認められる。そして,その需要者にはいずれも一般消費者が含まれる。 したがって,本件指定商品である「とうもろこし(穀物)」と引用商標2〜7の上記各指定商品に同一又は類似の商標が使用されたときには,同一の営業主の生産・製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあるということができるから,本件指定商品である「とうもろこし(穀物)」と引用商標2,4,5の指定商品中の「冷凍野菜」,引用商標4〜7の指定商品中の「加工野菜」,引用商標3,5,6の指定商品中の「穀物の加工品」及び引用商標2の指定商品中の「野菜「茶の葉」 ( を除く。」 )は,商標法4条1項11号にいう類似の商品に当たるというべきである。 エ この点について,被告は,@「米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦」と「とうもろこし」を生産する農家は一致せず, 「とうもろこし」が八百屋等で販売されるのに対し, 「米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦」は精米店等で販売されるものである上,主食の製造のために用いられる米等とは異なり,「とうもろこし」は副菜として使用されて用途も異なるから,非類似である,A「とうもろこし」と「豆」とは生産・販売部門が一致せず,原材料や用途も異なっていて非類似である,B「穀物の加工品」と「とうもろこし」は,生産・販売部門が一致せず,用途も異なっている,C「加工野菜」「冷凍野菜」を製造販売する業者は,被告のような「生 ,のとうもろこし」を生産,販売する農家とは別の業者で,販売部門も異なる,D原告が「とうもろこし」を販売していない以上,「野菜(「茶の葉」を除く。」との出 )所の混同は生じないと主張する。 しかし,上記@〜Bの主張は,本件指定商品の範囲が, 「野菜」としての「とうもろこし」に限られることを前提したものであると解されるところ,前記(1)アで検討したとおり,本件指定商品の範囲から「穀物」としての「とうもろこし」が除外されていると考えることはできないから,前提を欠いている上, 「穀物」である「とうもろこし」について,穀物取扱業者などによってその他の穀物やその加工品と共に販売されることがあり得ることからすると,前記イ,ウのように出所の混同が生じるおそれがあるということができる。 また,上記Cについて, 「穀物」又は「野菜」としての「とうもろこし」と「加工済みとうもろこし」及び「冷凍とうもろこし」との間で,生産者・製造者,販売者が常に異なるとまではいえず,出所の混同が生じるおそれがあることは,前記ウのとおりである。 そして,上記Dについては,原告が,「とうもろこし」を販売していないことは,前記イ,ウの認定を左右するものではない。 したがって,被告の上記主張はいずれも採用することができない。 5 以上のとおり,本件商標は,引用商標と類似であって,かつ引用商標の指定商品と同一又は類似の本件指定商品について使用するものであるから,商標法4条1項11号に該当する。したがって,原告主張の取消事由1は理由がある。 |
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結論
よって,原告の請求には理由があるから,本件審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
(別紙)1登録第2544094号の2商標(1)出願日昭和57年4月19日(2)登録日平成5年6月30日(3)更新登録日平成25年5月28日(4)商標(5)商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務第30類米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用グルテン2登録第2556501号の1商標(1)出願日昭和57年4月28日(2)登録日平成5年7月30日(3)更新登録日平成25年10月22日(4)商標(5)商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務第29類冷凍野菜,冷凍果実第30類コーヒー豆,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー但し,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダーを除く第31類野菜(「茶の葉」を除く。),茶の葉,糖料作物,果実3登録第4180368号商標(1)出願日平成8年6月24日(2)登録日平成10年8月21日(3)更新登録日平成20年6月17日(4)商標(5)商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務第30類コーヒー及びココア,茶,調味料,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),食用グルテン,穀物の加工品,菓子及びパン,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,氷4登録第4433606号の2商標(1)出願日平成11年12月20日(2)登録日平成12年11月17日(3)更新登録日平成22年8月24日(4)商標(5)商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務第29類食肉,食用魚介類(生きているものを除く。),肉製品,加工水産物(「かつお節・寒天・削り節・食用魚粉・とろろ昆布・干しのり・干しひじき・干しわかめ・焼きのり」を除く。),かつお節,寒天,削り節,食用魚粉,とろろ昆布,干しのり,干しひじき,干しわかめ,焼きのり,豆,加工野菜及び加工果実,冷凍果実,冷凍野菜,卵,加工卵,乳製品,食用油脂,カレー・シチュー又はスープのもと,なめ物,お茶漬けのり,ふりかけ,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,食用たんぱく第33類日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒5登録第4486902号の2商標(1)出願日平成12年8月1日(2)登録日平成13年6月29日(3)更新登録日平成23年5月17日(4)商標(5)商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務第29類加工野菜及び加工果実,冷凍果実,冷凍野菜,乳製品,食用油脂,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,食用たんぱく第30類コーヒー及びココア,茶,みそ,ウースターソース,ケチャップソース,しょうゆ,食酢,酢の素,そばつゆ,ドレッシング,ホワイトソース,マヨネーズソース,焼肉のたれ,角砂糖,果糖,氷砂糖,砂糖,麦芽糖,はちみつ,ぶどう糖,粉末あめ,水あめ,ごま塩,食塩,すりごま,セロリーソルト,化学調味料,香辛料,食品香料(精油のものを除く。,食用グルテン,穀物の加)工品,菓子及びパン,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,アーモンドペースト,氷,アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリーム用安定剤第32類清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料,ビール製造用ホップエキス6登録第4498171号の2商標(1)出願日平成12年8月1日(2)登録日平成13年8月10日(3)更新登録日平成23年5月17日(4)商標(5)商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務第26類編みレース生地,刺しゅうレース生地,組みひも,テープ,リボン,房類,ボタン類,針類,編み棒,裁縫箱,裁縫用へら,裁縫用指抜き,針刺し,針箱(貴金属製のものを除く。,被服用はと)め,衣服用き章(貴金属製のものを除く。,衣服用バッジ(貴金)属製のものを除く。,衣服用バックル,衣服用ブローチ,帯留,)ボンネットピン(貴金属製のものを除く。,ワッペン,腕章,腕)止め,頭飾品,つけあごひげ,つけ口ひげ,ヘアカーラー(電気式のものを除く。,靴飾り(貴金属製のものを除く。,靴はと))め,靴ひも,靴ひも代用金具,造花(「造花の花輪」を除く。,)造花の花輪,漁網製作用杼,メリヤス機械用編針第29類加工野菜及び加工果実,乳製品,食用油脂,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,食用たんぱく第30類コーヒー及びココア,茶,みそ,ウースターソース,ケチャップソース,しょうゆ,食酢,酢の素,そばつゆ,ドレッシング,ホワイトソース,マヨネーズソース,焼肉のたれ,角砂糖,果糖,氷砂糖,砂糖,麦芽糖,はちみつ,ぶどう糖,粉末あめ,水あめ,ごま塩,食塩,すりごま,セロリーソルト,化学調味料,香辛料,食品香料(精油のものを除く。,食用グルテン,穀物の加)工品,菓子及びパン,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,アーモンドペースト,氷,アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリーム用安定剤第32類飲料用野菜ジュース,乳清飲料,ビール製造用ホップエキス7登録第4505207号商標(1)出願日平成12年10月20日(2)登録日平成13年9月7日(3)更新登録日平成23年8月9日(4)商標(5)商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務第29類食肉,食用魚介類(生きているものを除く。,肉製品,加工水産)物,加工野菜及び加工果実,卵,加工卵,卵殻カルシウム・ビタミン・ミネラル・乾燥ビール酵母粉末等を含む粉末状・顆粒状・粒状・液状の加工食品,乳製品,食用油脂,カレー・シチュー又はスープのもと,なめ物,お茶漬けのり,ふりかけ,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,食用たんぱく以上 |
裁判長裁判官 | 森義之 |
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裁判官 | 佐野信 |
裁判官 | 熊谷大輔 |