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関連審決 不服2001-7751
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 識別力 /  指定商品 /  指定役務 /  4条1項11号 /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  離隔的 /  離隔的観察 /  国内 /  同一の商品 /  類似商標 /  外国 /  非類似 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 415号 審決取消請求事件
原告ザ バンクオブ ノヴァ スコシア
訴訟代理人弁護士 長濱毅
同 宮垣聡
訴訟代理人弁理士 神林 恵美子
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 土井敬子
同 伊藤三男
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/03/11
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2001-7751号事件について平成15年4月23日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文第1,2項と同旨。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,別紙審決書の写し末尾に別掲(1)として示すとおり,アルファベットのS字の中央部に地球儀状の図形を配置し,その下に「Scotiabank」と配置した構成より成り,商標法施行令1条別表の商品及び役務の区分第9類の「コンピュータソフトウェア(記録されたもの),電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープ・その他の記録媒体,コンピュータ用画面,その他の電子応用機械器具及びその部品,レコード,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電気通信機械器具,硬貨の計数用又は選別用の機械,金銭登録機,郵便切手のはり付けチェック装置」,第14類の「貴金属」,第16類の「印刷物,紙類,文房具類」,第35類の「企業の合併・買収に関する仲介,その他の経営の診断及び指導,市場調査,商品の販売に関する情報の提供,競売の運営,文書又は磁気テープのファイリング」,第36類の「預金の受入れ(債券の発行により代える場合を含む)及び定期積金の受入,資金の貸付け及び手形の割引,内国為替取引,債務の保証及び手形の引受け,有価証券の貸付け,金銭債権の取得及び譲渡,有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり,両替,金融先物取引の受託,金銭・有価証券・金銭債権・動産・土地若しくはその定著物又は地上権若しくは土地の賃借権の信託の引受け,債券の募集の受託,外国為替取引,信用状に関する業務,割賦購入のあっせん,前払い式証票の発行,ガス料金又は電気料金の徴収の代行,有価証券の売買・有価証券指数等先物取引・有価証券オプション取引及び外国市場証券先物取引,有価証券の売買・有価証券指数等先物取引・有価証券オプション取引及び外国市場証券先物取引の媒介・取次ぎ又は代理,有価証券市場における有価証券の売買取引・有価証券指数等先物取引及び有価証券オプション取引の委託の媒介・取次ぎ又は代理,外国有価証券市場における有価証券の売買取引及び外国市場証券先物取引の委託の媒介・取次ぎ又は代理,有価証券の引受け,有価証券の売出し,有価証券の募集又は売出しの取扱い,株式市況に関する情報の提供,商品市場における先物取引の受託,生命保険契約の締結の媒介,生命保険の引受け,損害保険契約の締結の代理,損害保険に係る損害の査定,損害保険の引受け,保険料率の算出,建物の管理,建物の賃借の代理又は媒介,建物の貸与,建物の売買,建物の売買の代理又は媒介,建物又は土地の鑑定評価,土地の管理,土地の貸借の代理又は媒介,土地の貸与,土地の売買,土地の売買の代理又は媒介,建物又は土地の情報の提供,骨董品の評価,美術品の評価,宝玉の評価,企業の信用に関する調査」を指定商品又は指定役務とする商標(以下「本願商標」という。)について,平成11年11月17日に商標登録出願(商願平11-104793号。以下「本件出願」という。)をしたが,平成13年2月9日に拒絶査定がなされたので,同年5月10日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを不服2001-7751号事件として審理し,その結果,平成15年4月23日に,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年5月19日にその謄本を原告に送達した。出訴期間として90日が付加された。
2 審決の理由の要点 別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,本願商標は,その図形部分も独立して自他商品及び役務の識別標識としての機能を果たし得ると判断した上で,本願商標は,その図形部分と,いずれも本件出願の日前の出願に係る別紙審決書の写し末尾に別掲(2)として示された構成より成る各登録商標(登録第2668131号,同第2668132号,同第2678385号,同第2678567号,同第3149861号。以下,まとめて「引用商標1」という。)及び別掲(3)として示された構成より成る登録商標(登録第3057136号。以下「引用商標2」という。)とが,欧文字「S」状の中央部分に地球儀状の円形図形を配して成る構成より成る点において,構成の軌を一にしているから,これらと外観上類似の商標であるというべきであり,指定商品及び指定役務も同一又は類似のものであるから,商標法4条1項11号に該当する,というものである。
原告の主張の要点
審決は,本願商標の商標法4条1項11号該当性についての判断を誤ったものであり,この誤りが結論に影響することは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1 S字の形状について (1) 審決は本願商標の図形部分(以下,特に断らない限り,図形部分を指すものとして,「本願商標」の語を用いる。)も引用各商標も,欧文字のS字の形状をしている,と認定した。しかし,この認定は誤りである。
本願商標は,容易にS字として認識されるものである。これに対し,引用各商標は,S字として認識することが困難なものである。
審決は,S字の特徴について,@右上から左下へ向けて二つのカーブを有した曲線から成ること,A曲線は,字の中心に対して対称な点で構成された線であることの2点を挙げている。しかし,S字の特徴としては,さらに,Bこれらの二つの曲線が字の中心点で結合していること,も重要である。審決は,この点を看過した結果,本願商標と引用各商標との類否の判断を誤った。
本願商標における上下二つの帯状図形(以下,上の帯状図形を「上の曲線」,下の帯状図形を「下の曲線」といい,二つをまとめていうときは,「上下の曲線」という。)は,上の曲線の下向きの部分及び下の曲線の上向きの部分がそれぞれ次第に細くなって,最終的には,地球儀状の図形の輪郭線と,接触まではしないものの,連続し,一体化して,地球儀状の図形の輪郭線を,その延長として利用している。このように,本願商標は,上下の曲線が地球儀状の図形の輪郭線を延長線として中心点で結合されていることによって,容易にS字として認識される。
引用商標1は,上の曲線の下向きの部分及び下の曲線の上向きの部分が,それぞれ次第に細くなっている点では,本願商標と同じである。しかし,引用商標1においては,これらの曲線の先端がそれぞれ地球儀状の図形の頂点の部分まで達している(上の曲線の下向きの先端は下の頂点へ,下の曲線の上向きの先端は上の頂点へ,それぞれ達している。)。その結果,曲線が地球儀状の図形を包含する構成となり,本願商標のように上下の曲線の輪郭が地球儀状の図形の輪郭と連続することによってS字の中に地球儀状の図形があると把握することはできない。引用商標1は,上の曲線と下の曲線とが,地球儀状の図形の中心点で結合しているとみることはできないため,S字として認識することは困難である。
引用商標2は,上の曲線の下向きの部分及び下の曲線の上向きの部分が,それぞれ次第に細くなっている点では,本願商標と同じである。しかし,引用商標2においては,これらの曲線と地球儀状の図形との間の隙間が地球儀状の図形の輪郭線の太さの約8倍程度にも及ぶため,これらの曲線と地球儀状の図形とが一体となっているとみられるのではなく,地球儀状の図形の上下に帯状の模様が別々に付されているとみられることになる。このように,上部の曲線と下部の曲線とが地球儀状の図形の中心点で結合しているとみることができない引用商標2を,S字を構成しているものと認めることはできない。
(2) 被告は,その主張の根拠として,S字状の図形とみることのできる図形の態様は様々であることを挙げ,図案化したS字をマーク,シンボルとして採用した事例や商標登録出願及び商標登録された事例についての証拠を提出する。
しかしながら,被告の提出する証拠は,いずれも,グラフィックデザインなどの専門的分野においてデザインエレメントを抽出するための分類上の必要性や,特許庁における図形調査の必要性から,たまたまS字状の図形に分類されただけの図形についてのものにすぎない。これらの図形が一般需要者によって直ちにS字状の図形と認識されるか否かは別の問題である。一般的にはS字状の図形とみることのできる図形といっても,その態様は様々である。上記の証拠は,何ら,本願商標と引用各商標とが類似していることの根拠となるものではない。上記の証拠に示されたS字を図案化したマークには様々な態様があり,単にS字を図案化した範疇に入るという一事をもって,これらすべてが類似であるということができないことは,当然である(S字を図案化した登録商標について,甲第8ないし第46号証参照)。
2 全体的な印象が異なること (1) 本願商標は,前記のとおり容易にS字として認識されるものである。さらに,上の曲線の右上端と下の曲線の左下端とが鋭角であり,かつ,上の曲線の右端の切り口と下の曲線の左端の切り口とが,同一直線上に存在している。本願商標は,これらのことによって,シャープで,かつ動きのある印象を与える。
本願商標は,各曲線と地球儀状の図形との間の隙間が曲線の幅に比べて極めて小さいこと,地球儀状の図形が上下の曲線と同様に黒色を基調として描かれ,その黒い丸の中に縦2本,横3本の白線が引かれていることから,上下の曲線と地球儀状の図形との輪郭線を一体的な連続したものとして把握することができる。その結果,上下の曲線と地球儀状の図形との間に一体感を醸し出しているほか,全体として縦長のほっそりとした印象を与えている。
(2) 引用商標1は,前記のとおりS字として認識することが困難なものである。さらに,上の曲線の右端と下の曲線の左端とが共に直角であり,上の曲線の切り口と下の曲線の切り口とは同一直線上には存在していない。引用商標1は,これらのことのため,動きの感じられない安定した印象を与える。
引用商標1においては,地球儀状の図形が,上下の曲線が黒色であるのとは異なり,白色を基調として,黒色の輪郭線,経線,及び緯線で描かれていること,地球儀状の図形を描いている黒線の周囲全部が上下の曲線によって囲まれていることから,地球儀状の図形の黒い輪郭線の周りに更に白い輪郭線が存在する。これにより,引用商標1は,地球儀状の図形と上下の曲線の部分との間に一体性を感じさせることができず,また,横幅方向にずっしりと太い図形という印象を与えている。
(3) 引用商標2は,前記のとおりS字として認識することが困難なものである。さらに,上の曲線の右端と下の曲線の左端とが共に直角であり,上の曲線の切り口と下の曲線の切り口とは同一直線上には存在していない。引用商標2は,これらのことのため,動きの感じられない安定した印象を与える。
引用商標2においては,地球儀状の図形が,上下の曲線が黒色であるのとは異なり,白色を基調として,黒色の輪郭線,経線及び緯線で描かれている。また,地球儀状の図形を描いている黒線と上下の曲線との間隔が,黒線の太さに比べて極めて広い。引用商標2は,これらのことにより,地球儀状の図形と上下の曲線の部分との間に一体性を感じさせることができないものとなっている。
(4) 上に述べたところによれば,本願商標と引用各商標とは,全体的な印象が全く異なる非類似の商標であるというべきである。
本願商標のものと同一の商品及び役務を指定商品及び指定役務とし,本願商標のものと同一の図形を包含する登録第4517497号商標,本願商標のものと同一の商品及び役務を指定商品及び指定役務とし,本願商標のものと同一の図形から成る登録第4583693号商標が,いずれも引用各商標と非類似であるとして登録されていること(甲第6,第7号証),登録第4059357号(甲第39号証)と登録第4579432号(甲第40号証)の各図形商標は,両端が直角であるか鋭角であるかの相違のみによって非類似商標としてそれぞれが登録されていることは,このことを裏付けるものというべきである。
3 本願商標と引用各商標との間に誤認混同を生じる余地がないこと 原告の正式名称は,「ザ バンク オブ ノヴァ スコシア」である。しかし,原告は,1906年から,その電信略号として「スコシアバンク」を用いており,「スコシアバンク」という略称も,「フライングSシンボル」すなわち本願商標の図形部分の形状が採用された1974年の時点で広く用いられ,取引者・需要者の間で知られるに至っていた(甲第2ないし第4号証)。1974年に採用された「フライングSシンボル」は,この「スコシアバンク」(Scotiabank)の頭文字の「S」と,原告が世界的な規模で業務を行っていることを示す地球儀状の図形とを組み合わせたものである。
本願商標の図形部分は,1974年に採用されて以来,原告の営業表示として一貫して使用され,現在では,世界中で約50か国(甲第5号証),約1700もの支店及び営業所において使用されている。原告は,カナダでは第3位の金融機関であり,その名声は,単に一部のビジネスの世界で知られているにとどまらず,カナダ在住の日本人やカナダを訪れたことのある観光客にも知られている(甲第47ないし第55号証参照)。原告の本国であるカナダ,あるいは原告が事業を展開している世界約50か国のいずれかに所在する原告の銀行を利用したことがある者であれば,必然的に本願商標の図形部分である「フライングSシンボル」を目にすることになる。原告は,日本においても20年近く前から支店を開設しており,同支店に「フライングSシンボル」を表示しているので,日本においても多分にこれを目にする機会がある。このように,本願商標の図形部分は,原告の営業を示すものとして取引者・需要者の間に広く知れ渡っている。
本願商標は,上記のとおり,図形部分である「フライングSシンボル」の部分のみでも識別力を有してはいるものの,実際には,「Scotiabank」の文字とともに用いられている。本願商標に接する需要者は,まず上記文字部分から本願商標を付した商品・役務が原告を出所とするものであることを認識する。
以上のとおり,本願商標は,原告の営業を示すものとして現に使用され,かつ需要者にもそういったものとして認識されているのであるから,本願商標と引用各商標との間に誤認混同が生じる余地はない。両商標は,類似しないと解するのが相当である。
被告の反論の要点
原告の主張はすべて争う,審決の認定判断は正当であり,審決に,取消事由となるべき誤りはない。
1 S字の形状の主張について (1) 本願商標も引用各商標も,共に,地球儀状の図形とそれを囲むように配された上下の二つの曲線から成るものであり,看者の印象として強く残るのは,この構成である。上下の曲線は,右上から始まり左下下方へ流れる曲線から成っていること,これらの曲線は,地球儀状の図形の中心に対して対象に配置されていること,二つの曲線の上部と下部とが平行に太く表されてS字の上部と下部を形作っていることを強く印象付けること等からすれば,本願商標も引用各商標も,共に,S字の特徴,構成を有しており,S字状の図形であると認識される可能性が非常に高いということができる。
審決は,本願商標及び引用各商標における各上下の曲線につき,S字の形状であると認定しているわけではない。これらはすべて「S字状」の形状をしている,と認定したものである。
S字そのものにおいては,上下の曲線が中心点で無理なく結合している。
しかし,「S字状の図形」においては,上下の曲線がその中心点において結合されているか否かは重要な特徴とはならない。S字状の図形とみることのできる図形の態様は様々だからである(乙第1,2号証,第3号証の1ないし9,第4号証の1ないし10。図案化したS字をマーク,シンボルとして採用した事例や図案化したS字について商標登録出願及び商標登録がなされた事例)。
そうである以上,S字状の図形のS字がその中心点で結合するか否かを重要な特徴として考慮する必要性はなく,むしろ,全体としてS字状の図形と看取されるか否かがより重要であるというべきである。
図形が外観上類似しているか否かは,それぞれの構成全体の有する外観上の印象が互いに相紛らわしいか否かによって判断されるべき事柄である。一般に,図形によって構成される商標について,取引者・需要者は,必ずしも,図形の細部まで正確に観察し,記憶し,想起してこれによって商品の出所を識別するとは限らない。S字の中心点で結合されているか否かの構成上の細部をとらえて,両商標の類否を判断するのは,正しい方法ではない。
(2) 本願商標の,上の曲線を地球儀状の図形の輪郭線の左側中央部分とつなげ,そこからその線を輪郭線に沿って下方向に伸ばした曲線と,下の曲線を地球儀状の図形の輪郭線の右側中央部分とつなげ,そこからその線を輪郭線に沿って上方向に伸ばした曲線とは,地球儀状の形状の中心点では結合しない。これらの二つの曲線は,むしろ,地球儀状の図形を取り囲むこととなり,それぞれ引用商標1の上の曲線の形状及び下の曲線の形状と似通ったものとなる。本願商標の二つの曲線が中心点で結合しS字を構成するとの原告の主張は失当である。
2 全体的な印象が異なるとの主張について 本願商標も引用各商標も,地球儀状の図形とそれを取り囲むように配された上下二つの曲線の図形から成るという点こそが,一見したときに最初に認識し得る特徴である。そして,上下の曲線から成る図形部分は,上部のものが横線とその左端から下に向かって徐々に細く伸びるものと,下部のものが横線とその右端から上に向かって徐々に細く伸びるという形状から成るために,全体としてS字状の図形と看取され,商標全体としては,S字状の図形と地球儀状の図形とを配して成る,という共通点を主たる印象とするものということができる。
本願商標と引用各商標との間には,@上の曲線の右上端と下の曲線の左下端が,本願商標においては鋭角であるのに対し,引用各商標においては直角であるとの差異,A上の曲線の右端の切り口と下の曲線の左端の切り口が,本願商標においては同一直線上に存在しているのに対し,引用各商標においては同一直線上に存在していないとの差異,B地球儀状の図形と経線の色及び曲線の最終部分の位置などにおける差異,があるものの,両商標に接する取引者・需要者は,上記のとおり両商標の共通点に強く印象を受けるものと認められるから,上記の差異は微差にとどまるものというべきである。
両商標に時と所を異にして接した一般の取引者・需要者は,両商標の上記の一致点について強い印象を受け,これを記憶し,想起して,取引に当たるというべきである。
本願商標と引用各商標とは,子細に見れば異なるところがあるとしても,欧文字S状の中央部分に地球儀状の円形図形を配して成る構成より成る点において,構成の軌を一にする外観上類似の商標である,とした審決の判断に誤りはない。
3 誤認混同を生じる余地がない,との主張について 原告の提出した証拠によっては,本願商標が,我が国において,原告の業務とする金融関係における取引者・需要者の間に広く知られていると認めることはできない。ましてや,金融関係以外の引用各商標の指定商品及び指定役務における取引者・需要者に広く知られていると認めることはできない。
当裁判所の判断
1 原告の主張1(S字の形状)及び2(全体的な印象が異なる,との主張)について 審決は,本願商標と引用各商標との類否について,「本願商標の図形部分と引用各商標とは,地球儀状の円形図形が黒地であるか否か,また,その回りの帯状図形が当該円形図形をどの程度取り囲んでいるか等の差異があるとしても,両者は,何れも欧文字「S」字状の中央部分に地球儀状の円形図形を配してなる構成よりなるものといえる。」(審決書4頁3行〜7行),「本願商標の図形部分及び引用各商標は,子細にみれば多少異なるところがあるとしても,欧文字「S」状の中央部分に地球儀状の円形図形を配してなる構成よりなる点において,構成の軌を一にする外観上類似の商標といわざるをえない。」(審決書4頁下から2行〜5頁2行)と判断した。
原告は,審決の上記類否の判断は誤りである,と主張する。
しかしながら,本願商標の図形部分と引用各商標とを対比するならば,これらの各商標は,いずれも,@経線と緯線を表した地球儀状の円形図形を中心に配している点,A上記円形図形の周りに黒く塗りつぶした帯状の図形を配している点,B上記帯状の図形は,上記地球儀状の円形図形の上部と下部に平行に配された太い横線が,上部の図形は左端が地球儀状の円形図形に沿って下方に曲がるとともに次第に細くなり,下部の図形は右端が地球儀状の円形図形に沿って上方に曲がるとともに次第に細くなり,いずれも先端は,とがった形になっている点,C全体としては,欧文字「S」字状の図形の中心に地球儀状の円形図形を配して成る点において共通していると認められる。
これらの共通点は,本願商標の図形部分及び引用各商標の基調をなす点についての共通点であり,これらの商標に接した取引者・需要者に強い印象を与えるものであるというべきである。これらの共通点に照らすと,反対に解すべき特段の事情が認められない限り,本願商標と引用各商標とは類似するものと認めるのが相当である。
原告は,本願商標は,帯状の図形である上下の曲線が中心点で結合されていることによって,容易にS字として認識されるのに対し,引用各商標においては,上の曲線と下の曲線とが,地球儀状の図形の中心点で結合しているとみることはできないため,S字として認識することは困難であるという相違点があるのに,審決はこの相違点を看過したものである,と主張する。
しかしながら,引用各商標を全体としてみた場合には,厳密にはS字そのものとはいえなくとも,少なくとも「S」字状の図形があると認識することができると認められることは,上記Cで認定したとおりである。
本願商標の上下の曲線と引用各商標の上下の曲線とでは,地球儀状の図形の中心点で結合しているとみることができるか否かの違いがあること,これにより,本願商標における帯状の図形と引用各商標における帯状の図形とは,S字状の図形であると抽象的にとらえた場合には一致するものの,具体的な図形としては一致するものでないことは,原告の主張するとおりである。
しかしながら,商標の類否観察は,現実の取引に鑑み,両商標を時と所を異にして観察する離隔的観察の方法によって行うべきである。時と所を異にして本願商標と引用各商標とを観察した場合には,原告主張の上記相違点は,取引者・需要者に強い印象を与える上記@ないしCの共通点,特に,全体としては,欧文字「S」字状の図形の中心に地球儀状の円形図形を配して成る点を凌駕して非類似の判断を導くものとは評価することはできず,細部の違いにとどまる,というべきである。
原告は,本願商標と引用各商標とは,上の曲線の右上端と下の曲線の左下端が,本願商標においては鋭角であるのに対し,引用各商標においては直角であること,上の曲線の右端の切り口と下の曲線の左端の切り口が,本願商標においては同一直線上に存在しているのに対し,引用各商標においては同一直線上に存在していないこと,地球儀状の図形と経線の色及び曲線の最終部分の位置などにおいて異なることを指摘し,これらの相違点によれば,両商標は,類似しないと解すべきである,と主張する。
しかしながら,原告主張のこれら相違点は,これに前述のS字状形状における相違点を加えても,離隔的観察の下では,取引者・需要者に強い印象を与える前記共通点を凌駕して非類似の判断を導くものとは評価することができず,細部の違いにとどまるものというべきである。
原告は,本願商標と引用各商標とが類似しないとの主張の根拠として,他の商標の登録例を挙げる(甲第6,第7,第39,第40号証)。しかしながら,他の商標登録例が存在することが,本件における類否判断を左右するものではないことは,事柄の性質上明らかである。
原告の主張1,2は,いずれも採用することができない。
2 原告の主張3(誤認混同を生じる余地がない,との主張)について 原告は,本願商標は,原告の営業を示すものとして需要者の間で広く知られているから,引用各商標と誤認混同を生じない,と主張し,その根拠となる証拠として,甲第2ないし第5号証,第47ないし第55号証を挙げる。
しかしながら,甲第2ないし第4号証は,いずれも英語で書かれた文献であり,これらの文献が日本国内において頒布されたことを示す証拠もないから,本願商標が我が国の取引者・需要者に広く知られていることを示すものとすることはできない。甲第5,第47,第55号証によれば,原告が1832年創業のカナダで第3位の金融機関であること,カナダを始め世界に1400店以上の支店,駐在員事務所を設けていること,日本の顧客にもサービスを提供していること,原告の関連証券会社であるスコシア・キャピタル・インクが東京に駐在員事務所を設けていることが認められるものの,これらの証拠中には,原告の我が国における具体的な活動内容についての記載はない。甲第48ないし第54号証によれば,原告がインターネット記事において紹介されていることが認められるものの,甲第48号証の記事は,原告がある業務システムを採用しようと考えていたことを紹介するものにすぎず,甲第49ないし第54号証の記事は,主としてカナダへの旅行や留学を考えている人向けに,現地の金融機関として原告を紹介したものにすぎない。これらの各証拠中には,原告の日本国内における活動内容についての記載はない。
以上のとおりであるから,原告の挙げる証拠によっては,本願商標が我が国の取引者・需要者に広く知られていることを認めることはできない。本件全資料を検討しても,他に,このことを認めるに足りる証拠を見いだすことはできない。
原告の主張3は,採用することができない。
結論
以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由は理由がなく,その他審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久