関連審決 |
不服2022-18756 |
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事件 |
令和
6年
(行ケ)
10058号
審決取消請求事件
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5 原告 有限会社齋藤歯研工業所 同訴訟代理人弁護士 樋口真也 同訴訟代理人弁理士 岸本忠昭 10 同松下ひろ美 被告特許庁長官 同指定代理人 渡邉潤 同 大橋良成 15 同須田亮一 同 阿曾裕樹 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2024/12/25 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 20 事 実 及 び 理 由第1 請求特許庁が不服2022−18756号事件について令和6年5月22日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要25 1 事案の要旨本件は、商標出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取1消訴訟である。争点は、本件審決における商標法3条1項3号、同条2項の各該当性についての認定判断の誤りの有無である。本文中で定義して用いた略語の一覧表は別紙略語一覧表のとおりである。 2 特許庁における手続の経緯等5 ? 原告は、令和3年4月1日、別紙の立体商標(乙1。以下「本願商標」という。)について、商標登録出願(商願2021−039392。乙1)をした。原告は、令和4年4月5日付け手続補正書(乙2)により、指定商品を第9類「歯科用歯形模型用支持台」に補正した。 ? 原告は、令和4年8月29日付けで拒絶査定を受けたため、同年11月210 2日、拒絶査定に対する不服審判請求(以下「本件審判請求」という。)をした。 ? 特許庁は、これを不服2022−18756号事件として審理した上、令和6年5月22日、本件審判請求は成り立たないとの審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年6月4日に原告に送達された。 15 ? 原告は、令和6年6月27日、本件審決の取消しを求めて本件訴訟に係る訴えを提起した。 3 本件審決の理由の概要? 本願商標は、「歯科用歯形模型固定用プレート」(以下「固定用プレート」という。)とともに「歯科用支持模型」を構成する「歯科用歯形模型用支持20 台」(以下「支持台」という。)の形状のうち、「シングル5ピン」タイプの支持台の形状を表したものである。本願商標の支持台上部には、5つの挿入孔のほか、両側縁に設けられた一対の筋状の突部の内側に傾斜部を設け、 傾斜部に半円状の切欠きを複数設ける形状(以下「第1特徴的形状」という。)と、5つの挿入孔の片側のみに複数の小突起を一列に点線状にして設25 ける形状(以下「第2特徴的形状」といい、第1特徴的形状と併せて「各特徴的形状」などという。)が確認される。 2そして、支持台上部に設置された挿入孔及び固定用プレート下部に設置されたダウエルピンは、支持台と固定用プレートを接合するために使用され、 また、同種の各事例と同様、支持台上部及び固定用プレート下部に設置された凹凸は、両者の接合をより強固にするために設けられたとみられる。そう5 すると、本願商標の挿入孔に相当する形状や、各特徴的形状に相当する凹凸は、いずれも両者の接合を実現強化するためのものであって、商品の機能的役割を果たす形状と認識される。 したがって、本願商標の形状は、同種の商品等について、その機能又は美観上の理由から採用すると予測される範囲内の形状によって構成されるもの10 であって、需要者としても、商品の機能や美観を際立たせるために選択された形状と認識するものであるから、本願商標は、商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり、商標法3条1項3号に該当する。 ? 原告が販売する「シングル5ピン」タイプの支持台(以下「本願使用商品」15 という。)を含めた支持台は、一般的には固定用プレートとセットで販売・使用されるものであって、支持台の上部構造を見せることなく販売、紹介されることも多くあるほか、業界一般においても同様の事情がみられるから、 本願商標の指定商品を取り扱う取引者、需要者が、本願使用商品の構造、特に上部構造に着目し、これを目印に他社商品の形状と比較して、商品の取捨20 選択を行うとは考え難い。 したがって、本願商標が独立して、出所識別標識として取引者、需要者に認識されるに至ったということはできず、本願商標が指定商品に使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品であると認識するに至ったと認めることはできない。よって、本願商標は、商標法3条2項の要件を具備しない。 25 第3 審決取消事由に関する当事者の主張1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について3(原告の主張)? 各特徴的形状の機能的役割は限定的であり、機能確保のために当然備えるべき立体的形状とはいえない。すなわち、商標法3条1項3号該当性は、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するから、特定人による5 独占使用を認めるのを公益上適当としないものか否か(独占不適商標)、一般的に使用される標章であって多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないか否か(自他商品識別力欠如商標)で判断すべきである。 本件において、本願商標の指定商品としての「歯科用歯形模型用支持台」10 の取引においては、各社に対する直接の購入申込みのほか、歯科用品専門の通販サイト又は各カタログが主要な販売手段になるところ、原告以外の他社の「歯形模型用支持台」は多数掲載されているものの、本願商標と同様の特徴的な形状を有する「歯形模型用支持台」は存在しないから、本願商標が「歯形模型用支持台」の取引において「独占不適商標」に該当するとはいえ15 ない。 また、「歯形模型用支持台」の属する取引分野における需要者は歯科技工士を主とする歯科専門家であり、販売方法も、直売か専門業者の通販サイトにほぼ限られるところ、本願商標は、同様の形状で意匠登録されて新規性を有するものであり、通販サイトに掲載される他社の支持台上面の形状とは一20 見して明らかに異なる特異かつ個性的な形状であるから、本願商標は「自他商品識別力欠如商標」とはいえない。 ? 本願商標は、@支持台上面の点状又は線状の凹凸は、他社商品とは明らかに異なる特異かつ個性的な形状であり、A固定用プレートの下部と支持台上部が隙間なく接合されるということは、ダウエルピンとその挿入孔のみで実25 現できるから、その余の凹凸は同機能との関係では必要不可欠ではなく、B商品説明の記載は、固定用プレートと支持台の接合を強化し得るという補助4的な機能に焦点を当てたにすぎないから、各特徴的形状は、単に機能的役割を果たす形状ではない。各特徴的形状は、支持台として機能上又は美観上の理由から予測される範囲を超えた形状である。 ? よって、本願商標の商標法3条 1 項3号該当性を認めた本件審決の判断に5 は誤りがある。 (被告の主張)? 本願商標は、歯科用作業模型の部品である「歯形模型用支持台」として、 固定用プレートと組み合わせて使用するために、必要かつ適切な形状よりなるものであって、上面に配置された穴やくぼみ、突起(各特徴的形状を含10 む。)は、固定用プレートを連結して固定(回転防止、捻転防止等)し、又はその連結強度を高めるためなどの、商品の機能を高める目的で採用されたものと理解することができ、それらは整然と美観を高めるように配置されているから、客観的に見て、商品の機能又は美観に資することを目的として採用された形状、又はそのような目的による形状の選択と予測し得る範囲の形15 状を組み合わせてなるものである。 また、本願商標の形状(特に各特徴的形状)は、意匠権や特許権に基づき独占権が付与されている形状の構成要素を含んでなるもので、そのような形状について、重ねて商標権によって保護を与えることは半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり、独占適応性の観点からの問20 題がある。 そうすると、本願商標は、指定商品「歯科用歯形模型用支持台」との関係において、客観的に見て、商品の機能又は美観に資することを目的として採用された形状、又はそのような目的による形状の選択と予測し得る範囲の形状よりなるから、商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章であり、 25 また、それら形状の子細な特徴(各特徴的形状を含む。)も、専ら商品の機能向上の観点から選択されたものであるため、自他商品の出所識別標識とし5ての機能を果たすものではない。 ? よって、本願商標の商標法3条 1 項3号該当性を認めた本件審決の判断に誤りはない。 2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について5 (原告の主張)? 立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは、@当該商標の形状及び当該形状に類似した商品等の存否、A当該商標が使用された期間、商品の販売数量、広告宣伝がされた期間及び規模等の使用の事情を総合して判断すべきである。 10 ? 本件において、@本願商標の各特徴的形状は、特異かつ個性的で、類似する他社商品は存しない。原告は各特徴的形状を有する商品をシリーズ化しており、意匠的特徴・商品表示として統一的に理解され、需要者の使用態様等にも照らせば、商品識別力を有するものである。また、A本願使用商品は、 平成23年販売開始以降、同一の形状で販売を継続し、販売広告チラシと商15 品サンプル又は試用見本を全国の歯科技工所のうち1038事業所に配布し、 11年で379万7400個(売上約3億5800万円)販売し、令和4年、 令和5年には、各年50万個以上販売している。本願使用商品は、原告自身の小売りのほか、写真の掲載とともに、主要な通販サイト等を通じて販売され、カタログにも継続的に掲載され、補綴専門誌にも掲載されている。 20 そうすると、本願商標は、原告の商品に独占的排他的に長期間使用され、 全国的に需要者全体を対象として広告宣伝され、相当数の販売実績がある上、 支持台の使用形態に照らすと、主たる需要者である歯科技工士は、本願商標の各特徴的形状によって他社製品と区別する指標と認識するに至っているから、使用によって自他商品識別機能を獲得したものである。 25 ? よって、本願商標の商標法3条2項の要件具備を否定した本件審決の判断には誤りがある。 6(被告の主張)? 本件では、@本願使用商品の立体的形状は、他の商品にない特徴的なものではないこと、A本願使用商品は、一定程度の販売実績があるとしても、その取引の実情を踏まえると、その販売実績が、原告に係る出所識別標識とし5 ての認知度や知名度の向上につながるとは考えにくいこと、B本願使用商品がウェブサイトやカタログ等に掲載されているとしても、それらによる広告宣伝効果は極めて限定的で、本願商標に相当する形状について、原告に係る出所識別標識としての認知度や知名度が直ちに向上するものではないことなどを踏まえると、本願商標は、その指定商品に係る取引者、需要者の間にお10 いて、原告に係る出所識別標識として広く認識されるに至っているとはいえない。したがって、本願商標は、その指定商品との関係において、原告により使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品であると認識できるに至ったものとはいえない。 ? よって、本願商標の商標法3条2項の要件具備を否定した本件審決の判断15 に誤りはない。 第4 当裁判所の判断1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について? 商標法3条1項3号は、形状その他の特徴を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は、商標登録を受けることができない旨規定して20 いる。商品の立体的形状も、同号の「形状」に含まれている(同法2条1項、 5条2項参照)。指定する商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標の登録が認められないのは、通常の場合、このような商標は、自他商品識別力を欠くと考えられるからである。もとより、同法3条1項3号に該当する商標であっても、使用をされた結果、自他商品識別力を25 有するに至ったと認められる場合には、商標登録が認められるが(同条2項)、その場合でも、商品が当然に備える特徴と認められる立体的形状のみ7からなる商標の登録は認められない(同法4条1項18号、商標法施行令1条の2)。商品の機能を確保するために不可欠であるような立体的形状は、 商品が当然に備える特徴と解されるのであり、このような立体的形状を有する商品が、存続期間の更新が可能な商標権に基づき、事実上、半永久的に独5 占販売されることは相当ではないからである。 以上によれば、立体的形状のみからなる商標の商標法3条1項3号該当性は、当該立体的形状が指定商品の形状を「普通に用いられる方法で表示」するものであり、自他商品識別力を欠くものと認められるか否かという観点から判断されるのであり、同法4条1項18号のように商品の当然に備える特10 徴である立体的形状(商品の機能を確保するために不可欠な立体的形状)のみからなる標章であると認められることまでは要しない。 しかるところ、商品の形状は、多くの場合、商品に期待される機能をより効果的に発揮させ、又は商品の美観をより優れたものとする等の目的で選択されるものである。また、これらの目的で選択された商品の形状は、通常、 15 同種の商品に関与する者であれば誰でも使用することを欲するようなものであり、需要者からみれば、商品の形状そのものの範囲を出ないと認識されるものと考えられる。これらの点に照らすと、客観的にみて、商品の機能又は美観に資することを目的として採用されると認められる商品の形状は、特段の事情のない限り、商品の形状を普通に用いられる方法で表示するものと解20 するのが相当である。すなわち、商品の形状が、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、同種の商品について、機能又は美観に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば、当該形状が他の特徴を有していたとしても、商標法3条1項3号にいう「普通に用いられる方法で表示」したものに該当するというべきである。 25 ? 本願商標の形状及び同種の支持台の形状等ア 本願商標は、指定商品「歯科用歯形模型用支持台」について、別紙のと8おり、@ 略楕円状の上面を有する直方体状の形状(底面は中抜きされている。)であり、A 上面及び側面には規則的に孔やくぼみ、突起などを配置した立体的形状から成る商標である。 また、本願商標の立体的形状には、その上面において、B 中央に5つ5 の孔が一列に等間隔に並べられ、長手方向の両側縁の内側には、傾斜のある連続した突部が設けられ、その連続した突部の傾斜部には、半円状の切欠きが複数設けられた形状(第1特徴的形状)と、前記連続した突部の一方と中央の連続した孔の間には、複数の小突起が一列に点線状に設けられた形状(第2特徴的形状)が備えられているという特徴がある(乙1)。 10 イ 本願商標の指定商品である「歯科用歯形模型用支持台」(支持台)は、 「歯科用歯形模型固定用プレート」(固定用プレート)とともに、主に歯科技工士において使用する「歯科用支持模型」を構成する。 歯科治療を行う場合、最初、支持台の本体部の上面には、固定用プレートが載置された状態にあり、この状態において、患者の歯形模型が、接着15 剤を用いて固定用プレートの上面に固定され一体化される。そして、固定の際には、歯形模型の永久歯のうち5本の永久歯が支持台側の各挿入孔(固定用プレート側のダウエルピン)に対応する位置となるよう固定される。次に、このように固定した状態において、歯科治療を行う歯部位(以下「治療歯部位」という。)の両側を切断して切り出せば、治療歯部位の20 下側にはダウエルピンが付いた固定用プレートの一部が付いているから、 ダウエルピンを支持台の孔に挿入することにより、切り出した歯部位を歯科用作業模型から取り出したり戻したりして、治療歯部位の噛み合わせなどの調整を行うことができる。そして、このような調整が正確にできるようにするためには、治療歯部位が歯科用作業模型に戻したときに、正確に25 元の位置に戻るとともに、戻した状態において確実に固定される必要がある(乙1〜3)。 9ウ 原告及び同業者が製造販売する本願商標の指定商品と同種の商品である「歯科用歯形模型用支持台」のうち、本体が直方体状の形状でダウエルピンが挿入される構成を有している商品(底面は中抜きされていることが推認される。)は、多数製造販売(モデルカップ、ダイトックPlus、だ5 いちゃん、Mベースラボ模型、Sベースラボ模型、スマートベース、正宗モデルマスター)されており、いずれも、その上面で、組み合わせる固定用プレートのダウエルピンの数に応じた複数の孔が配設されるだけでなく、 固定用プレートと支持台が隙間なく接合し固定されるよう、支持台の上面の孔の周辺や縁辺等を含め種々の凹凸、くぼみ、突起等が設けられている10 ことが認められる(甲26〜32、乙4〜15)。 エ 原告は、平成22年12月24日、 【図17】本願商標の上面の第1特徴的形状及び第2特徴的形状を備える物品について、部分意匠の設定登録を15 受けている(甲24)。また、原告は、発明の名称「歯科技工用作業模型」とする特許(特許第5606597号。平成26年9月5日設定登録)を有しており、その20 特許公報(乙16)には、本願商標の上面の第1特徴的形状及び第2特徴的形状に相当する形状が記載された図面【乙16の図17】が開示され、明細書の発明の詳細な説明において、「固定用プレート6Fを支持基台本体12Fの上面に支持させると、 連結用突部24の第1突状部26及び第1凹状部28がそれぞれ連結用凹25 部36の第2凹状部40及び第2突状部38と相互に連結されるとともに、 複数の連結補助用突部72Fと複数の連結補助用凹部78Fとが相互に連10結される。これにより、固定用プレート6Fと支持基台本体12Fとの水平方向の連結強度をより一層高めることができる」(乙16の段落【0073】)との記載がある(甲24、乙16)。 ? 検討5 ア 以上を踏まえて検討すると、本願商標の形状のうち、@ 略楕円状の上面を有する直方体状の形状(底面は中抜きされている。)であり、A 上面及び側面に規則的に孔やくぼみ、突起などを配置した形状であることは、 一般的な支持台の形状ということができる。また、本願商標の形状のうち、 Bその上面において、中央に5つの孔が一列に等間隔に並べられ、長手方10 向の両側縁の内側には、傾斜のある連続した突部が設けられ、その連続した突部の傾斜部には、半円状の切欠きが複数設けられた形状(第1特徴的形状)であること、前記連続した突部の一方と中央の連続した孔の間には、 複数の小突起が一列に点線状に設けられた形状(第2特徴的形状)であることは、いずれも「歯科用歯形模型用支持台」(支持台)として、ともに15 「歯科用作業模型」を構成する「歯科用模型固定用プレート」(固定用プレート)の下面におけるダウエルピンの挿入だけでなく、切欠け部や突部との嵌合等により、両者が連結して固定され、又は連結強度を高めて確実に固定されるようにするという商品の機能に資することを目的とするものと認められる。さらに、支持台の上面における第1特徴的形状及び第2特20 徴的形状が、両側縁内側において連続的に突部が設けられたり、その一方と中央の連続した孔の間においても一列に点線状に小突起が設けられたりするなど、その配置は美感を高めるものと認められる。そして、同業者の同種の商品においても、上面の孔の周辺や縁辺等を含め種々の凹凸、くぼみ、突起等が設けられているものが多く製造販売されていることや、原告25 が保有する特許の明細書において、本願商標の各特徴的形状と同様の立体的形状を備える支持台が記載され、これらの複数の突部及び凹部が、連結11補助用のものであり、支持台と固定用プレートの連結強度をより一層高めるためのものであることが開示されていることなどに照らすと、本願商標の各特徴的形状を含む形状は、客観的にみて、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、同種の商品等について、機能又は美観に資することを5 目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものと認めるのが相当である。本願商標は、商品の立体的形状以外の標章は含んでいないから、本願商標は、その需要者からみて、指定商品である歯科用歯型模型用支持台の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として、 自他商品識別力を有さないというべきである。したがって、本願商標は、 10 商標法3条1項3号に該当し、商標登録を受けることはできない。 イ この点について、原告は、本願商標の形状は、他社の支持台上面の形状とは一見して明らかに異なる特異かつ個性的な形状であるから、本願商標は「独占不適商標」でも「自他商品識別力欠如商標」でもないとか、本願商標の形状は、単に機能的役割を果たす形状ではないから、支持台として15 機能上又は美観上の理由から予測される範囲を超えた形状であるなどと主張する。 しかしながら、前記のとおり、本願商標の各特徴的形状は、支持台の孔に固定用プレートのダウエルピンを挿入するだけでなく、支持台と固定用プレートの連結強度をより一層高める機能を有する連結補助のための形状20 であるとともに、支持台の美観を高めるための形状であることが認められ、 同業者の同種の商品においても、上面の孔の周辺や縁辺等を含め種々の凹凸、くぼみ、突起等が設けられているものが多く製造販売されていることが認められるのであるから、本願商標の支持台上面の凹凸やくぼみ、突起等が、他社のものに見られないものであるとしても、当該商品の用途、性25 質等に基づく制約の下で、同種の商品等について、機能又は美観に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものと認めるのが12相当である。 したがって、原告の主張を採用することはできない。 ウ よって、本願商標に係る立体的形状は、支持台として、機能又は美観に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものと認め5 られるから、本願商標は、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当するというべきである。 ? したがって、この点に係る本件審決の判断に誤りはないから、取消事由1は理由がない。 10 2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について? 商標法3条2項は、同条1項3号から5号までに該当する商標であっても、使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合には商標登録を受けることができる旨規定している。同項3号に該当する商標は、もともと類型的に自他商品識別力が乏しいものである上、本願商標のように商品の15 立体的形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は、 それが同法4条1項18号にも該当する場合に商標登録が認められないことは明らかであり、仮に該当しない場合であっても、通常、特定人に独占させることが相応しくないものである。しかるところ、このような商標について、同法3条2項を適用して商標登録を認めたときは、存続期間の更20 新が繰り返されることにより、事実上、半永久的に当該形状を商標として使用し、当該形状に係る商品を独占販売することを認める結果となるのであるから、同項を適用する場合には、当該形状について、このような結果を許容するに足りる十分な自他商品識別力が、その商標としての使用により獲得されたことが認められる必要がある。そして、当該形状から成る商25 標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは、(ア) 当該商標の形状及び当該形状に類似した他の商品等の存否、(イ) 当該商標が使用された13期間、商品の販売数量、広告宣伝がされた期間及び規模等の使用の事情を総合考慮して判断すべきである。 ? 本願商標の使用による自他商品識別力の獲得の有無ア 本願商標の形状及び当該形状に類似した他の商品等の存否5 本願商標は、指定商品「歯科用歯形模型用支持台」の立体的形状から成る商標であり、その形状は、前記1?アのとおり、@ 略楕円状の上面を有する直方体状の形状(底面は中抜きされている。)であり、A 上面及び側面には規則的に孔やくぼみ、突起などを配置しており、B 中央に5つの孔が一列に等間隔に並べられ、長手方向の両側縁の内側には、傾斜の10 ある連続した突部が設けられ、その連続した突部の傾斜部には、半円状の切欠きが複数設けられた形状(第1特徴的形状)と、前記連続した突部の一方と中央の連続した孔の間には、複数の小突起が一列に点線状に設けられた形状(第2特徴的形状)が備えられているものである。 そして、前記1?ウのとおり、同業者の同種の商品には、前記@及びA15 と同様の形状を有する製品が多数製造販売されていることが認められる。 また、前記1?のとおり、前記Bの第1特徴的形状及び第2特徴的形状については、客観的にみて、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、 同種の商品等について、機能又は美観に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものと認められる。 20 イ 本願商標が使用された期間、商品の販売数量、広告宣伝がされた期間及び規模等の使用の事情掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。 (ア) 原告は、本願商標の形態的特徴を備える商品(本願使用商品)として「シングル5ピン」タイプの支持台(「SSLABO模型Sピン〔シ25 ングルピン〕局部用5ピン」の支持台。なお「本願使用商品」は、支持台と固定用プレートとを併せた商品を意味することがある。)を販売し14ている(甲1)。 (イ) 本願使用商品は、原告のウェブサイト(甲1、2)及び歯科用品に関する複数の通販サイト(甲3〜5)において販売されているところ、 これらのウェブサイトやカタログ等では、本願使用商品は「SSLAB5 O模型」「シングルピン」「5ピン」などの商品名やタイプで特定され、 支持台の固定用プレートとともに掲載されており、両者を併せたものがセットとして価格設定がされている(甲1〜11、41、42、54、 56、57、61、64。なお、枝番のある書証で特に枝番を記載していないものは、すべての枝番を含む趣旨である(以下同じ。)。)。 10 (ウ) 本願使用商品は、平成23年の販売開始以降、同一の形状で継続的に販売され、令和3年までの11年間の販売個数は合計379万7400個であり、売上高は約3億5800万円である(このうち、平成30年以降は、同年が51万2200個・5122万円、令和元年が63万4800個・6348万円、令和2年が62万3200個・6232万15 円、令和3年が59万5400個・5954万円である。)。また、その後の販売個数及び売上高も、令和4年が51万0100個・5113万9269円、令和5年が50万5900個・5252万2710円であり、平成30年以降の各年の販売個数は50万個以上、売上高5000万円以上を維持している。一方、国内歯科機器・材料市場の規模は、 20 平成31年・令和元年度において、歯科機器市場が949億3700万円、歯科材料市場が1219億6400万円である(甲17〜19、34、35、59、65、乙17)。 (エ) 原告は、本願使用商品を原告のウェブサイトで紹介、販売するほか、 販売広告チラシ(甲16)と商品サンプル又は試用見本を、北海道4025 事業所、東京78事業所、神奈川79事業所、愛知64事業所、大阪149事業所、兵庫50事業所、福岡12事業所、熊本23事業所など、 15全国合計1038か所の歯科技工所その他店舗に配布している。また、 前記(ア)のとおり、本願使用商品は、歯科関連製品の通販サイトである「FEEDデンタル」「Ciモール」「SIM Dental Meterial」の各ウェブサイト及びカタログにも掲載され販売されてい5 る。 本願使用商品の広告は、原告のウェブサイトでは、遅くとも平成25年6月13日以降、固定用プレートを外した状態の支持台の写真が併せて掲載されており、多くの通販サイトやカタログにおいても、同様の写真が掲載されている。他方、これらのウェブサイトやカタログ、チラシ10 の中には、固定用プレートを組み合わせた状態のため支持台の上面が表れていない写真のみが掲載されているものや(甲5、7、16等)、説明文において「プラスティック模型の改良により、シングルピンでも、 精密なコンタクト、咬合調節が可能です」(甲1)、「唇側、舌側のディンプルと歯列上のツメ状突起により、Wピンタイプと同等またはそれ15 以上の機能があるとモニターの先生方から高評価」(甲4、9)などの商品の機能に着目した記載がされているものがある。(甲1〜13、16、37、38、41、42、54、56、57、61、64、65)。 (オ) 本願使用商品は、歯科医師と歯科技工士のための専門雑誌である「QDT」2018年7月号においては、「図10 現在市販されてい20 る貼付型模型の一例を示す。」との説明の下、他の同業者3社の製品とともに原告の商品が紹介されている(甲14、15)。 (カ) 前記1?エのとおり、原告は、平成22年12月24日に本願商標の支持台上面の各特徴的形状を備える物品に関して部分意匠の設定登録を受け、また、平成26年9月5日には、本願商標の支持台上面の各特25 徴的形状に相当する形状等を明細書の図面に記載した発明に関して特許の設定登録を受けている。 16? 検討ア 以上を踏まえて検討すると、本願使用商品は、平成23年の販売開始以降、形状を変えることなく継続的に販売され、同年から令和3年までの販売個数が379万7400個、売上高が約3億5800万円と一定の販売5 実績を上げていることが認められるものの、国内歯科機器・材料市場の規模に照らし、原告の市場におけるシェアが大きいものと評価することは困難である。また、本願使用商品は、原告のウェブサイトや歯科用品に関する複数の通販サイトにおいて販売されたり、販売チラシとともに商品サンプル又は試用見本が全国の歯科技工所の事業所に配布されたり、前記各ウ10 ェブサイトのカタログに掲載されたりしているが、その掲載において、本願使用商品は、「SSLABO模型」の商品名や「シングルピン」「5ピン」などのタイプで特定され、支持台だけでなく固定用プレートを併せたものがセットとして価格設定がされている。さらに、広告の中には、支持台と固定用プレートを組み合わせた状態で支持台の上面が表れていない写15 真のみが掲載されているものや、説明文において「シングルピンでも、精密なコンタクト、咬合調節が可能」「唇側、舌側のディンプルと歯列上のツメ状突起により、Wピンタイプと同等又はそれ以上の機能がある」などの機能面に着目した記載がされるにとどまっている。そして、本願使用商品は、歯科医師と歯科技工士のための専門雑誌にも掲載されたことはある20 が、他の同業者の商品とともに紹介されているにすぎない。そうすると、 本願使用商品やその広告等に接した取引者、需要者は、主として、本願使用商品の「SSLABO模型」の商品名や「シングルピン」「5ピン」などのタイプや、支持台と固定用プレートを組み合わせた状態、両者を外した状態の各写真等から、原告の商品であることを認識するものと認められ25 るが、本願使用商品の支持台の上面の形状(各特徴的形状を含む。)自体から、商品の出所を認識するものと認めることは困難である。 17以上のとおり、本願使用商品の立体的形状それ自体は、他の商品にない特徴的なものとまでは認めることができないことに加え、本願使用商品は一定の販売実績を上げているものではあるが、市場におけるシェアが大きいものと評価することはできないものであり、本願使用商品の広告におい5 ても、取引者、需要者は、本願商品の支持台及び固定用プレートの商品名やタイプ、両者を組み合わせたり外したりした状態の写真等から自他商品の識別を行ってきたと認められることなどの取引の実情を考慮すると、本願使用商品の立体的形状が、その形状のみによって十分な自他商品識別力を獲得するに至ったと認めることはできないものというべきである。 10 イ この点について、原告は、本願商標の各特徴的形状は、特異かつ個性的であるとともに、シリーズ化により、原告の商品として統一的に理解され自他商品識別力を有すると主張するが、前記?アのとおり、本願商標の形状が他の商品にない特徴的なものとまでは認めることはできない。 原告は、本願使用商品の販売実績や広告宣伝の実情に加え、支持台の使15 用形態によれば、主たる需要者である歯科技工士は、本願商標の各特徴的形状によって他社製品と区別する指標と認識するに至っているから、本願商標は使用によって自他商品識別機能を獲得したと主張する。 しかしながら、前記?アのとおり、本願使用商品の販売実績が著しいものと評価することが困難であることに加え、支持台の販売や宣伝広告の実20 情は、必ずしも支持台上面の形状に着目した取引の実情にあるとはいえない。これらの点を考慮すると、仮に、支持台の主たる需要者である歯科技工士が、本願使用商品を使用する中で、本願商標の形状を事実上認識することがあるとしても、本願商標が商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標であるにもかかわらず商標法3条2項を適25 用して商標登録を認めるべき十分な自他商品識別力を獲得する状態に至ったということはできないというべきである。 18したがって、原告の主張を採用することはできない。 ウ よって、本願商標は、使用をされた結果、自他商品識別力を獲得し、商標法3条2項により商標登録が認められるべきものということはできない。 ? したがって、この点に係る本件審決の判断に誤りはないから、取消事由25 は理由がない。 第5 結論したがって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部10裁判長裁判官清 水 響15裁判官菊 池 絵 理20裁判官頼 晋 一2519別紙略語一覧表略語 意義本願商標 本判決別紙記載の立体商標(商標登録出願(商願2021−039392)。乙1)本件審判請求 令和4年8月29日付け拒絶査定に対する原告の不服審判請求本件審決 本件審判請求は成り立たない旨の令和6年5月22日付け特許庁審決(不服2022−18756号)固定用プレート 歯科用歯形模型固定用プレート支持台 固定用プレートとともに歯科用支持模型を構成する歯科用歯形模型用支持台本願商標の支持台上部の形状であって、5つの挿入孔のほか、両側縁に設けられた一対の筋状の突部の内側第1特徴的形状に傾斜部を設け、傾斜部に半円状の切欠きを複数設ける形状本願商標の支持台上部の形状であって、5つの挿入孔の片側のみに複数の小突起を一列に点線状にして設け第2特徴的形状る形状各特徴的形状 第1特徴的形状及び第2特徴的形状本願使用商品 原告が販売する「シングル5ピン」タイプの支持台20治療歯部位 歯科治療を行う歯部位(略語の順序は、本文中で定義した順による。)2122232425 |
事実及び理由 | |
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全容
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