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関連審決 不服2000-2277
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成15行ケ141審決取消請求事件 判例 商標
平成13行ケ571審決取消請求事件 判例 商標
平成14行ケ165審決取消請求事件 判例 商標
平成14行ケ28審決取消請求事件 判例 商標
平成13行ケ552審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 指定商品 /  4条1項8号 /  品質誤認(4条1項16号) /  専用使用権 /  専用権 /  外国 /  継続 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 572号 審決取消請求事件
原告 株式会社ういろう
訴訟代理人弁護士 藤井冨弘
同 山本卓也
同 鈴木雄一
同 大河内將貴
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 山下孝子
同 茂木静代
同 大橋良三
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/06/27
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2000-2277号事件について平成13年11月7日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成10年7月3日,別紙審決書の理由の写しの末尾に表示されているとおり,図形と「ういらう」,「外郎」及び「UIRO」(Oの文字の上に^の印がある。以下,単に「UIRO」と表示する。)の各文字を組み合わせて成り,商標法施行令1条別表の商品及び役務の区分第30類の「菓子」を指定商品とする商標(以下「本願商標」という。)の登録出願をした(平成10年商標登録願第56092号)が,平成11年12月24日拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判を請求した。
特許庁は,これを不服2000-2277号事件として審理し,その結果,平成13年11月7日に,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年12月1日にその謄本を原告に送達した。
2 審決の理由の要点 別紙審決書の理由の写し記載のとおりである。要するに,「ういろう」及び「外郎」の語は,米粉を材料とする蒸し菓子の一種として需要者間によく知られており,本願商標中の「ういらう」,「UIRO」の各文字は,「外郎」の語の読みを旧仮名遣い及び欧文字で表記したものであると容易に理解されるものであるから,本願商標を,その指定商品中の「外郎(ういろう)」以外の「菓子」に使用するときは,その商品があたかも「外郎(ういろう)」であるかのように,その品質について誤認を生じさせるおそれがあるので,本件商標は商標法4条1項16号に該当するものとして商標登録を拒絶されるべきである,というものである。
原告の主張の要点
審決は,「ういろう」及び「外郎」の語は,菓子の一種である「ういろう(外郎)」を意味する普通名詞となっていたと誤って認定したものである。この誤りは,結論に影響することが明らかであるから,審決は,違法なものとして取り消されるべきである。
1 「外郎」の語の由来 原告代表者の名前であるA(商業登記簿上の表示は「A」)は,「A」と読み,原告代表者の家系において代々襲名されてきたものである。原告代表者の祖先である陳延祐(法諱を宗敬という。)は,元の順宗皇帝の礼部員外郎の役職にあった者であり,1368年,元の滅亡に際し,我が国に帰化し,陳外郎(ちんういろう)と称した。原告代表者の家系の姓名が外郎となったのは,これに始まることである。
陳延祐(陳宗敬)の子である大年宗奇は,明国の薬である「霊宝丹」を日本に伝えた。この薬は,効能が顕著であるとして,時の天皇から「透頂香」の名を賜り,後に外郎家の薬として「薬のういろう」と呼ばれるようになった。
また,宗奇は,自ら作った菓子を,外国信使接待のときに供したところ,評判となり,この菓子は,後に,外郎家の菓子として,「お菓子のういろう」と呼ばれるようになった。
その後,五代目定治は,北条早雲に招かれて小田原に移った。
原告代表者のA家では,室町時代から薬である「透頂香」を,一子相伝で,製造・販売し続け,菓子の「ういろう」も,明治時代以降,菓子の「ういろう」の名の下に,製造・販売し続け,現在でも,A家の家業を法人化した会社である原告により,薬と菓子の両方を製造販売している。
2 「外郎」の語は,原告代表者のA家の,日本で唯一の著名な姓名(家名)又は名称であって,普通名詞ではない。
(1) 陳延祐(陳宗敬)は,かつて自らの官職名であった「礼部員外郎」の語の一部である「外郎(がいろう)」を,官職名とは区別する趣旨で「外郎(ういろう)」(唐音又は唐宋音)と呼んで,陳外郎(ちんういろう)と名乗り,「外郎」を原告代表者のA家の姓名(姓の名)としたものである。本来「外」の漢字には「ガイ」か「ゲ」の読みしかなく,「外」が「ウイ」と読まれることはない。「ういろう」の語は,我が国において,外郎家の姓名以外にはない語であり,「外郎」と書いて「ういろう」と読む読み方も,外郎家の姓名以外にはない読み方である。
(2) 株式会社小学館発行の「日本国語大辞典」第二版には,「ういろう[外郎][名](外郎(がいろう)は中国の官名,定員外の職員の意。『うい』は唐宋音)@元の礼部員外郎で,室町時代日本に帰化した陳宗敬の子孫の立てた家名。代々医薬を業とした。」と記載されている。株式会社角川書店発行の角川大字源には,「【外郎】ういろう@元の礼部員外郎の陳宗敬が帰化して立てた家名。」と記載されている。この陳宗敬の子孫の立てた家名の家が原告代表者のA家である。
このように,「外郎(ういろう)」は,辞典にも明記されている著名な原告代表者の家名であり,姓名又は通称である。
(3) 山口県地方では,菓子の一種が「外郎(ういろう)」と呼ばれており,この語は,礼部員外郎の役職にあった陳宗敬の官職名「外郎(ういろう)」に由来する,といわれている。
しかしながら,「外郎」が官職名であるか否かについては疑義があり,仮に「外郎」が官職名であるとしても,官職名の「外郎」は,「がいろう」と読まれ,「ういろう」とは読まれないことは,漢和辞典や上記各辞典の記載から明らかである。したがって,山口地方の菓子の名前が官名によるとの説は,明らかに誤りであり,山口県地方でいわれている菓子の命名の故事は,原告代表者のA家の家名命名の故事を剽窃するものであり,原告代表者のA家の家名を菓子の名前としたことを宣伝するためのものであるにすぎない。
(4) 元来,人の氏名・名称を排他的,専属的に使用する権利は,基本的人権の一つであり,憲法11条,13条によって保護されているところである。最高裁判所第3小法廷昭和63年2月16日判決(民集42巻2号27頁)は,氏名を他人に冒用されない権利・利益である,専用権としての氏名権を承認している。また,商標法4条1項8号は,他人の氏名・名称に対する人格権を保護する規定であるとされている(東京高等裁判所昭和39年8月15日判決・判例時報384号169頁,東京高等裁判所昭和44年5月22日判決・判例タイムズ237号309頁)。
原告代表者の家業を法人化した会社である原告は,「外郎」の家名・姓名の排他的な専用使用権を有している。本願商標中の「外郎」,「ういらう」,「UIRO」の各文字は,いずれも,原告代表者のA家の家名(姓名)又は通称の字又は読みであり,原告は,これらの文字又は語を,自己の製造販売する菓子の固有名詞として使用する権利を有している。
3 「ういろう」及び「外郎」の語は,原告の製造・販売する著名な薬又は菓子の固有名詞であって,普通名詞ではない。
(1) 原告代表者のA家は,室町時代に,薬の外郎すなわち透頂香の製造・販売を家業として始め,以来,これを続けてきた。太平洋戦争の統制時代にも,統制されることなく,その製造・販売が認められていた。原告は,A家の家業を法人化した会社であり,現在も透頂香の製造・販売を継続している。透頂香は,現在も,薬の「ういろう」,「外郎」として根強い人気がある。
(2) 薬の「外郎」は,日本の伝統的芸能である歌舞伎においても,取り上げられている。「外郎売り」は,歌舞伎俳優の二代目市川団十郎が初演して以来,現在に至るまで,歌舞伎十八番の一つとして有名な演題であり,薬の「外郎」を早口言葉で宣伝する台詞は,殊に有名で,その台詞に出てくる薬の「外郎」は,著名な商品名である。
「広辞苑」(乙第1号証),「大辞林」(乙第2号証),「日本語大辞典」(乙第4号証)その他の各辞典には,「ういろう(外郎)」の項目か,「ういろううり(外郎売り)」の項目が必ずあり,その説明の中に,歌舞伎十八番の演目の一つとしての「外郎売」又は「外郎」の説明が記載されている。上記「大辞林」には,「外郎」が「外郎売り」の略称でもあることが記載されている。
しかも,本願商標に含まれる図形は,上記歌舞伎十八番の一つである外郎売の市川団十郎の舞台姿の錦絵類似の図形であり,小田原の外郎家の薬の外郎(ういろう)こと透頂香を売る薬売りの絵柄として有名な図形である。著名な「外郎売り」の図形下の「外郎」の字は,一般常識がある通常人が読めば,歌舞伎十八番の一つである,「ういろう」売りの物真似で有名な演目の「外郎」又は売られる商品である薬の「外郎」そのものを指す語であると考えるはずであって,これを菓子の一種を指す語と考えることは,考えられない。
「広辞苑」,「大辞林」,「日本語大辞典」には,いずれも,「ういろう」の語の説明の最初に外郎薬のことが記載されている。
このように,「外郎」は,現在でも,小田原の原告代表者のA家の製造する薬である「透頂香」の著名な通称・商品名(固有名詞)である。
原告代表者のA家は,明治時代に,その製造する菓子を,「ういろう」の名の下に販売するようになり,以来,これを続けた。前述のとおり,原告は,A家の家業を法人化した会社であり,現在でも,菓子の「ういろう」の製造販売を続けている。
このように,「ういろう」及び「外郎」の語は,原告A家の製造する薬や菓子を示す固有名詞である。
(3) 食べ物に関する古典的な書籍である「和漢三才図会」には,「外郎餅」の説明の中で,「外郎」の名は,著名な薬である「透頂香」を製造して有名になり,その薬の名にもなった外郎家の家名,姓名であり,菓子の「外郎」は,その菓子が薬の「外郎」に似ているので「外郎」と云われるようになった,と記載されている。
(4) このように,「外郎」は,上記書籍の時代から,菓子と薬の名前にもなっている,原告代表者のA家の著名な通称又は姓名であり,「外郎家のもの」という意味を有している。
4 「ういろう」,「外郎」の語は,菓子の普通名詞ではない。
普通名詞であるといえるためには,それが辞典に記載されているだけでは足りず,取引者・需要者の間でそのように認識されていることが必要である。
(1) 審決は,辞典の記載を根拠に,「ういろう」,「外郎」の語は,米粉を材料とする蒸し菓子の一種を表す普通名詞である,と判断した。しかし,審決が根拠とした辞典中の記載は,古い時代の間違った情報による書物を根拠にした記載であって,誤っている。
被告は,「ういろう」,「外郎」が普通名詞であるとして,新聞報道などを挙げる。しかし,上記新聞報道などの記載は,辞典若しくはあいまいな情報に基づく誤った記載であり,取引者・需要者の認識を正確に伝えているものではない。
(2) 「外郎」の字を菓子の「ういろう」に使用するのは山口県地方だけであり,同地方以外では,菓子屋・需要者の間では,菓子の名前を「ういろ」,「外良(ういろ)」とするのが主流である。
ア 各辞典において「ういろう」が名物であるとされている名古屋市においては,駅前地下街に「青柳ういろう」の店と並んで「大須ういろ」の店がある。
青柳ういろうは,昭和48年に「外良」と書いて「ういろう」と振り仮名をした商標を出願している。しかし「外良」の字は通常は「ういろ」と読み,昭和40年代の中ごろまでは,そのように読まれていた。青柳ういろうも,昭和6年駅売りの菓子の巻紙には,「名古屋名物外良」(ういろ)と記載しており,当時,菓子の名は,「ういろ」と呼んでいた。
「ういろ」と「ういろう」,「外良」と「外郎」とは,字も発音も異なる。
名古屋の業者の一部が,マスコミにより「ういろう」の語を宣伝したとしても,他の業者しかも老舗の業者は,昔からの呼び名である「ういろ」,「外良」の語を使用しており,取引者・需要者の間では,「ういろ」,「外良」の語が菓子の名前として認識されている。上記各辞典が,「ういろう」,「外郎」は,「名古屋・山口の名産」と記載しているのは誤りである。
上記大須ういろは,いずれも「ういろ」を指定商品として,「ドーム型ういろ」(平成7年8月23日出願,平成9年8月29日登録),「風流元禄ういろ」(昭和63年4月2日出願,平成3年4月30日登録),「大須 ふかしういろ」(平成12年11月10日出願。平成13年11月9日登録)の商標登録を受けている。合資会社餅文總本店は,「第30類 栗又は栗餡入りういろ」を指定商品として,「栗ういろ」(平成10年7月17日出願。平成11年10月8日登録)の商標登録を,「第30類 水分を多くふくんだういろ」を指定商品として,「水ういろ」の商標登録を受けている。
イ 小学館発行の雑誌「サライ」(1997年6月19日発行。甲第13号証の1ないし5)中の,全国の「ういろう」菓子の記事中には,京都の老舗である京都五建外郎屋につき,「この店では「外郎」ではなく「外良」と書いて「ういろ」と呼ぶ。」との記載が,名古屋の老舗である餅文總本店につき,「同店では京都同様「外良」と書いて「ういろ」と読む。」との記載がある。このように,名古屋,京都の菓子屋では,昔から,菓子の名前は,「外郎」ではなく「外良」であり,「ういろう」ではなく「ういろ」と呼ばれており,現在もそうであることが,明らかである。したがって,これらの店に来店する顧客も「ういろ」と言って菓子を買っているはずであり,これによれば需要者も「ういろ」と称していることが明らかである。そうすると,現在でも普通名詞である菓子の名前は「ういろ」,「外良」であって「ういろう」,「外郎」ではない,というべきである。
ウ 特許庁への申請商標を調査した結果によれば,昭和20年代から昭和40年代に,名古屋から岐阜・京都地方においてなされた商標登録申請においては,いずれも,指定商品は「ういろ」とされ,商標名も「ういろ」とされており,「ういろう」を指定商品とし,商標名を「ういろう」とした申請例は見当たらない。
@「大須ういろ」(昭和25年11月16日出願。甲第17号証) A「五建ういろ」(昭和28年10月3日出願。甲第18号証) B「長田のういろや」(昭和35年6月9日出願。甲第19号証) C「長良ういろ」(昭和40年12月12日出願。甲第20号証) エ 被告は,名古屋でも,「ういろう」,「外郎」の語が用いられているとして乙第10号証の1,2を提出する。しかし,被告の提出する書証には,名古屋地方で,業者が「ういろう」,「外郎」の語を菓子の名前に使用している例は記載されていない。
名古屋の業者自身が,「ういろう」と区別する趣旨で,「ういろ」の語を使用している,と明言している。被告が提出した書証(乙第9号証の6,第10号証の2,第11号証の1)中にも,菓子の名前を「ういろ」とする記載がある。
オ 以上のとおり,菓子の普通名詞となっている語は「ういろ」,「外良」であって「ういろう」,「外郎」ではない。
(3) 被告は,「ういろう」,「外郎」が普通名詞であるとの認定の根拠として各辞典の「ういろう」,「外郎」の項に,「菓子の名」と記載されていることを挙げる。しかし,これらの辞典の記載は,江戸時代以降の情報の乏しいいい加減な情報により書かれた書物を根拠にした間違いの記述である。
ア 広辞苑第三版は,「ういろう」,「外郎」について「A菓子の名。米の粉を黄などに染め,砂糖を加えて蒸し,四角に切ったもの。形や色が@(薬のういろう)に似る。山口・名古屋の名産」と記載しており,広辞苑第五版は,「菓子の名。米の粉・砂糖・葛粉などを混ぜて蒸したもの。もとは黒砂糖を使っており,色が@(薬,透頂香)に似る。山口・名古屋の名産。ういろうもち。」と記載している。上記記載は,前記「和漢三才図会」の「外郎餅」の記事及び大言海の「透頂香」についての記載(「今,小田原の宇野氏(虎屋)製して売る。黒褐色,方形なり,痰を治すとぞ」)に依っているものと思われる。
しかし,薬のういろうである透頂香の形状は,小さな銀色の丸薬であり(丸薬であることは,古文書に記載されており,銀色であることは,古文書に記載はないものの,原告のA家に一子相伝で伝えられてきた製法に合致する。),方形の黒褐色の薬ではないから,上記記載は菓子の「外郎」と薬の「外郎」とを混同している。
日本放送協会のテレビ放送の中にも,薬と菓子とを混同しているものがある(教育放送(3チャンネル)平成13年6月22日放送)。
イ 偽物は,偽物として記述すべきであって,人々の間で広く知れ渡ったからといって,本物のように記述するのは,辞典としての性格上,許されないことである。このような誤った辞典の記載を根拠に「ういろう」,「外郎」を普通名詞であると認定することは,許されないことというべきである。
(4) 原告代表者のA家の家業を法人化した原告は,指定商品を菓子全般として,「お菓子の「ういらう」」の文字から成る商標について商標権(登録第0454581号。昭和28年9月30日出願。同29年10月28日登録。昭和56年12月1日譲受け。)を有し,同商標権は現に効力を有している。同商標は,「ういらう」の文字を中心としており,「ういろう」の語が当時から普通名詞であれば,登録は拒絶されていたはずであるのに,何の問題もなく登録されているところからみて,昭和29年当時には,「ういろう」の語は普通名詞とは考えられていなかったことが明白である。
(5) 特定の商品出所を表示する固有名詞の知的財産権を尊重する風潮は,世界的風潮である。日本国においても,同様に取り扱うべきである。
5 仮に,「ういろう」,「外郎」,の語が「ういろう」と呼ばれる菓子を意味する普通名詞になったことが認められるとしても,「外郎」の語は,「外郎家のもの」,「外郎家の薬」,「外郎家の菓子」の意味を失っておらず,元来外郎家の菓子の固有名詞として知っている人々にとっては,引き続き,外郎家の菓子の固有名詞としての効力を有し続けている。
お茶の表千家編集の「茶と美第12号茶席の菓子」(昭和57年5月10日発行)には,「ういろう 小田原市の外郎藤右衞門の製品である。」との記載が,株式会社学研発行の「和菓子」(昭和51年6月10日発行)には,「ういろう 小田原市,外郎藤右衛門の製品である。」との記載がある。
元来,「外郎」の語には,外郎家の姓名以外に「ういろう」との読みはない。「外郎」を「ういろう」と読む読み方は,漢字にはない読み方である。したがって,仮に「ういろう」が菓子の一種を示す普通名詞であるとしても,「外郎」の漢字を「ういろう」と読むことはできない。「外郎」を「ういろう」と読むためには,読み方の由来を説明する必要があるから,「外郎」の語は,本来持っていた,「外郎家の家名」,「外郎家のもの」という意味を失っていない。
被告の反論の要点
原告の主張はすべて争う,審決の認定判断は正当であり,審決に,取消事由となるべき瑕疵はない。
1 原告は,「外郎」の語は,菓子の一種である「ういろう(外郎)」を意味する普通名詞でなく,本来の「外郎」の語が持っていた「外郎家のもの」の意味も持っている,と主張し,「ういろう」,「外郎」の語について故事来歴を縷々述べている。
(1) しかし,「外郎」の語は,審決が述べるように,米粉を材料とする蒸し菓子の一種を指称するものである。このことは,例えば,次の各種辞典の記載からも首肯し得るものである。
ア「広辞苑第五版第一刷」(株式会社岩波書店1998年11月11日発行。乙第1号証)の「ういろう」の欄には,「【外郎】@・・・陳宗敬が・・・創製した薬。・・・透頂香(とんちんこう)。A菓子の名。米の粉・砂糖・葛粉などを混ぜて蒸したもの。ういろうもち。」と記載されている。
イ「大辞林第九刷」(株式会社三省堂1989年3月28日発行。乙第2号証)の「ういろう」の欄には,「【外郎】@薬の一種。痰をきり,口臭を除く丸薬。透頂香。外郎薬。A外郎売りの略。B菓子の一種。米の粉に黒砂糖などで味つけした蒸し菓子。名古屋・山口などの名産。外郎餅。」と記載されている。
ウ「大辞泉第一版」(株式会社小学館1995年12月1日発行。乙第3号証)の「ういろう」の欄には,「【外郎】@江戸時代,小田原名産の去痰の丸薬。
ういろうぐすり。A米の粉に黒砂糖などをまぜて蒸した菓子。名古屋・山口・小田原などの名物。ういろうもち。」と記載されている。
エ「講談社カラー版 日本語大辞典第二版第五刷」(株式会社講談社1997年9月2日発行。乙第4号証)の「ういろう」の欄には,「【外郎】@陳宗敬が伝えた痰切りの妙薬。A米粉を原料としたようかん状の蒸し菓子。名古屋・山口などの名物。」と記載されている。
オ「新編 日本食品事典第一版第五刷」(医歯薬出版株式会社昭和60年2月15日発行。乙第5号証)には,「4.菓子類」の項目に「ういろう」として,「(外郎)ういろうはうるち米の粉に砂糖を加えて,セイロウで蒸したもので,淡泊な味と柔らかで,しかも歯切れのよい食感が特徴である。」と記載されている。
カ「総合食品事典 ハンディ版第六版」(株式会社同文書院平成10年4月5日発行。乙第6号証)の「ういろう」の欄には,「外郎 もち菓子の一種である。・・・鎌倉時代からの菓子である。〔原料配合〕砂糖3750g,小豆あん2250g,小麦粉375g,わらび粉,水適量。」と記載されている。
キ「菓子 新・食品事典10」(株式会社真珠書院1991年6月20日発行。乙第7号証)の「ういろう」の欄には,「蒸し菓子の一種。ウルチ米の粉に少量の水を加えて練り,砂糖を加え,箱に流して,せいろうで蒸した菓子。漢字で「外郎」と書く。」と記載されている。
ク「和菓子の辞典初版」(株式会社東京堂出版昭和58年8月20日発行。
乙第8号証)の「ういろう」の欄には,「「外郎」と書く。いろいろの製法があるが,米粉,餅粉,葛粉,砂糖を合わせて練り,蒸して棹物にした菓子である。」と記載されている。
(2) さらに,新聞報道(乙第9号証の1ないし15),インターネットのホームページ情報(乙第10号証の1ないし3,第11号証の1,3)によれば,「ういろう」,「外郎」の語は,菓子の一種を示す普通名詞として一般に広く使用されていることが認められる。
(3) 原告が主張するように,「ういろう」,「外郎」の文字が外郎家の姓に由来し,かつて外郎家の製造する菓子の固有名詞であったとしても,当初特定の商品の出所を表示する固有名詞であった語が,時代とともに次第にその商品の種類を示す普通名詞になることは決してまれではない。すなわち,指定商品の一種を示す普通名詞であるかどうかは,当該語を採択,使用する者の意図にかかわりなく,当該語が指定商品の属する特定の業界において,取引者・需要者によって当該商品の一般的名称として認識されるに至っているかどうかで判断すべきものである。当初,固有名詞ないしは商標であったものが,一般に使用され時代の推移とともに,商品の普通名詞になることは,決して珍しいことではないのである(東京高等裁判所平成9年11月27日判決・平成9年(行ケ)第62号)。
「ういろう」及び「外郎」の語は,当初は外郎家の製造する菓子であることを示す固有名詞であったものが,次第に菓子の一種を意味する普通名詞になったものであり,(1),(2)で述べた事実からすれば,現在では,一般の取引者・需要者は「ういろう」,「外郎」の語を菓子の一種を指称するものとして理解し認識しているというべきである。
(4) 原告は,名古屋では,菓子の名前は,「ういろ」又は「外良」であり,「ういろう」,「外郎」の語はない,取引者・需要者の間での菓子の呼び名は,「ういろ」,「外良」であり,その菓子の普通名詞は「ういろ」,「外良」,であって,「ういろう」,「外郎」ではあり得ない,と主張する。
しかし,名古屋においても,菓子の名称として「ういろう」,「外郎」,の語が用いられていることは,前記ホームページの情報(乙第10号証の1,2)において「ういろう」及び「外郎」の語が使用されていることからも明らかである。
「ういろう」,「外郎」,「ういろ」,「外良」の語は,いずれも同じ蒸し菓子の一種を指称しているものということができる(甲第13号証の1ないし5,乙第10号証の2,乙第11号証の1ないし3)。
以上のとおり,「ういろう」,「外郎」,「ういろ」,「外良」のいずれの語を用いるにせよ,これらの語に接する取引者・需要者は,同じ蒸し菓子の一種を示すものとして理解,認識しているというべきである。
(5) このように,「ういろう」及び「外郎」の語は,現在では菓子の一種を示す普通名詞であり,もはや原告代表者の菓子の通称又は商品名とはいえず,「外郎家のもの」の意味を有するものではないというべきである。
2 憲法13条及び商標法4条1項8号について 原告は,審決の認定判断は,@憲法13条及び最高裁の判例に反する,A商標法4条1項8号に違反する,と主張する。
しかし,審決は,「ういろう」及び「外郎」は,菓子の一種を示す語であって,そのため,本願商標は,その指定商品中「ういろう(外郎)」以外の菓子に使用するときは商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある,とするものであるから,個人の尊重,幸福追求権,公共の福祉について規定する憲法13条や,氏名は人格権の一内容を構成する旨判示する原告引用の最高裁判例とは,次元を異にするものである。
商標法4条1項8号が人の氏名,名称を保護する規定であるとしても,既に述べたように,「ういろう」,「外郎」は人の氏名,名称ではなく菓子の一種を示す語なのであるから,審決が商標法4条1項8号に違反するという原告の主張は,前提を欠くことになる。
3 商品の品質について誤認を生じさせるおそれについて (1) 原告は,審決が「ういろう」及び「外郎」が普通名詞であることを前提とした判断をしたのは誤りである,と主張する。しかしながら,上記のとおり,「ういろう」,「外郎」の文字は,外郎家の姓に由来し,かつて外郎家の製造する薬,あるいは菓子の固有名詞であったとしても,現在では菓子の一種を意味する普通名詞になっているのであり,審決の認定判断に誤りはない。
(2) 原告は,名古屋及び京都の菓子屋での使用例を挙げて,菓子の名は「ういろ」,「外良」であって「ういろう」,「外郎」ではなく,「ういろう」,「外郎」は普通名詞ではない,と主張する。
しかし,「ういろう」及び「外郎」が菓子の一種を意味する語であることは既に述べたとおりであるばかりでなく,「ういろ」と「ういろう」は同義語として使用されているところである(乙第8号証参照)。原告の主張は失当である。
(3) 原告は,各辞典の「ういろう(外郎)」の記載が間違いの記述であり,「ういろう」及び「外郎」を普通名詞とする各辞典の記載は誤りである,と主張する。
しかし,前記のとおり,各種辞典には,「ういろう」及び「外郎」が菓子の名として記述されているのであり,その記述が訂正されているとの証拠もなく,これらがすべて間違いの記述であるとは到底いえない。その由来がどうであれ,遅くとも審決時においては,「ういろう」及び「外郎」の語は,本願商標の指定商品の取引者・需要者によって商品の普通名詞として理解,認識されている以上,菓子の一種を示す普通名詞であるといわざるを得ない。
(4) 本願商標は,その構成中に「外郎」の文字,「ういろう」の旧仮名遣いである「ういらう」の文字及びその欧文字表記である「UIRO」の文字を有するもので,菓子としての「ういろう(外郎)」を含む「菓子」を指定商品とするものであるから,これをその指定商品に使用した場合には,これに接する取引者・需要者は,その商品が「ういろう(外郎)」であることを表示したものと考えることは必定であり,その指定商品中の「ういろう(外郎)」以外の菓子に使用した場合には,これに接する取引者・需要者は,その商品があたかも「ういろう(外郎)」であるかのごとく,その商品の品質について誤認するおそれがあるというべきである。
本願商標は商標法4条1項16号に該当するとした審決の認定判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 審決は,「「外郎」「ういろう」は,米粉を材料とする蒸し菓子の一種として需要者間によく知られているところである」(審決書1頁下から5行〜3行)として,「外郎」及び「ういろう」の語は,菓子の一種を表す普通名詞であると認定し,この認定に基づき,本願商標は,商標法4条1項16号に該当するものと判断した。
これに対し,原告は,「ういろう」,「外郎」,の語は,普通名詞ではない,と主張する。
2 甲第13号証の1ないし5,第24,第25号証,乙第1ないし第8号証,第9号証の1ないし15,第10号証の1ないし3,第11号証の1,2,及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 「ういろう」及び「外郎」の語についての辞典類の記載 ア 広辞苑第五版(株式会社岩波書店1998年11月11日発行。乙第1号証)の「ういろう【外郎】」の項には,「A菓子の名。米の粉・砂糖・葛粉などを混ぜて蒸したもの。・・・ういろうもち。」との記載がある。
イ 大辞林(株式会社三省堂1989年3月28日発行。乙第2号証)の「ういろう【外郎】」の項には,「B・・・菓子の一種。米の粉に黒砂糖などで味つけした蒸し菓子。名古屋・山口などの名産。外郎餅。」との記載がある。
ウ 大辞泉(株式会社小学館1995年12月1日発行。乙第3号証)の「ういろう【外郎】」の項には,「A米の粉に黒砂糖などをまぜて蒸した菓子。名古屋・山口・小田原などの名物。ういろうもち。」との記載がある。
エ 講談社カラー版日本語大辞典第二版(株式会社講談社1997年9月2日発行。乙第4号証)の「ういろう【外郎】」の項には,「A米粉を原料としたようかん状の蒸し菓子。名古屋・山口などの名物。」との記載がある。
オ 新編 日本食品事典(医歯薬出版株式会社昭和60年2月15日発行。
乙第5号証)には,「4.菓子類」の項目の「ういろう(外郎)」の項に,「ういろうはうるち米の粉に砂糖を加えて,セイロウで蒸したもので,淡泊な味と柔らかで,しかも歯切れのよい食感が特徴である。・・・原材料・製法:当初のものは米の粉と黒砂糖を用いていたが,現在では白砂糖を用いた白ういろうが一般的である。そのほかには,抹茶の色と風味が添加されたものもある。ういろうには,包み物,延ばし物,枠流し(棹物)の3種がある。これらはすべてうるち米の粉(上新粉)を主原材料として用い,もち米粉,浮粉(小麦粉でん粉)またはくず粉に砂糖を加え,用途に応じて硬さを調整する。製法は上新粉に砂糖などを混ぜ合わせて,水を徐々に加えながら攪拌して,半流動状にこねつける。・・・保存性:ういろうは関東よりも関西(名古屋地方)で好まれる傾向にある。・・・」との記載がある。
カ 総合食品事典 ハンディ版第六版(株式会社同文書院平成10年4月5日発行。乙第6号証)の「ういろう 外郎」の項には,「もち菓子の一種である。・・・鎌倉時代からの菓子である。〔原料配合〕砂糖3750g,小豆あん2250g,小麦粉375g,わらび粉,水適量。・・・口当たりの軟らかく,滑らかな菓子である。」との記載がある。
キ 菓子 新・食品事典(株式会社真珠書院1991年6月20日発行。
乙第7号証)の「ういろう」の欄には,「蒸し菓子の一種。ウルチ米の粉に少量の水を加えて練り,砂糖を加え,箱に流して,せいろうで蒸した菓子。漢字で「外郎」と書く。・・・山口市の「ういろう」と,名古屋市の「ういろう」が有名である。」との記載がある。
ク 和菓子の辞典(株式会社東京堂出版昭和58年8月20日発行。乙第8号証)の「ういろう」の項には,「「外郎」と書く。いろいろの製法があるが,米粉,餅粉,葛粉,砂糖を合わせて練り,蒸して棹物にした菓子である。・・・《ういろう》[神奈川・小田原]この店の「ういろう」は米粉,餅粉,葛粉,砂糖を合せて練り,蒸して棹物にしたもので,小豆,白,挽茶,黒などの種類がある。・・・《餅文総本店》[愛知・名古屋]名古屋には「ういろう」を作る店が多いが,小田原の外郎家のものが名古屋に伝わったものであろう。」との記載がある。
(2) 「ういろう」,「外郎」の語についての新聞記事 ア 朝日新聞1998年4月8日大阪地方版/岡山 岡山版(乙第9号証の1)には,「ういろう 山口(ちゅうごく特産めぐり)/岡山」の見出しの下に,「ようかんのような歯ざわりと控えめな甘さ。和菓子の「ういろう」といえば,名古屋市や神奈川県小田原市,京都市が有名だ。山口の名物でもある,と言ったら,不思議に思われるだろうか。「外郎(ういろう)」はその昔,漢方薬の名前だった。・・・」と記載されている。
イ 朝日新聞2000年8月11日西部朝刊(乙第9号証の2)には,「みんなのQ&A」の見出しの下で,「ういろうの作り方 私の家族はみんな「外郎(ういろう)」が大好物ですが,いつも買って食べる訳にはいきません。家で作れる方法を知りたいのです。」との記載されている。
ウ 朝日新聞2001年6月12日西部地方版/宮崎(乙第9号証の3)には,「青島ういろう コシに独特な食感 宮崎市(宮崎 この逸品)/宮崎」の見出しで,「素朴な甘さともちもちした食感が特徴のういろうは,宮崎市の観光地,青島の代表的なおみやげ。・・・原料は砂糖とうるち米の粉。砂糖を入れた水を沸かし,米の粉を混ぜる。どろどろになるまでよくこねて,せいろで蒸すと板状のういろうができあがる。・・・同市青島1丁目のういろう店・・・午前4時には作業を始め,3時間ほどかけて10切れ入りのういろうを100食を作り・・・」と記載されている。
エ 朝日新聞2001年9月18日名古屋地方版/愛知(乙第9号証の4)には,「イモ菓子15品 名古屋・北区が特産PR,まちおこしに期待/愛知」の見出しの下に,「今年は,焼き芋風の焼き菓子のほか,パイ皮のまんじゅう,ういろうなどの力作がそろった。」と記載されている。
オ 朝日新聞2001年11月28日東京朝刊(乙第9号証の5)には,「アレルギーでも楽しくおやつ 母親たちのレシピ特集,続々刊行」の見出しの下に,「蒸しパン,ごまクッキーなど30分ほどでできる手軽なものや,ういろう,桜もちといった和菓子まで,収録したレシピはバラエティーに富んでいる。」と記載されている。
カ 朝日新聞2002年2月4日名古屋地方版/三重(乙第9号証の6)には,「バレンタイン,新味で演出 占い・祈とう企画も/三重」との見出しの下に,「中高年層には和菓子が人気だ。虎屋ういろ(伊勢市)はチョコを混ぜ,アーモンドを散らしたういろうを1本400円で4日から販売する。」と記載されている。
キ 読売新聞1999年3月9日東京朝刊(乙第9号証の7)には,「[情報ランド]お土産食品」の見出しの下に,「愛知 ういろう〈1〉江戸時代に中国人が伝えたとされ,元は米の粉に砂糖を混ぜて蒸した素朴な菓子。今では“トッピング”もいろいろ。「ういろ」とも・・・」,「山口 外郎 (ういろう)〈1〉室町時代からの銘菓。伝統的な小豆のほか,抹茶や豆入りも人気・・・」と記載されている。
ク 読売新聞2000年11月17日西部朝刊(乙第9号証の8)には,「阿知須町商工会が新土産品4品を開発 「外郎」などきらら博でPR=山口」の見出しの下に,「〈1〉「あじすの外郎(ういろう)」・・・外郎は,糖度が高いカボチャやムラサキイモを使っているのが特徴で,黒,黄,紫の三色。」と記載されている。
ケ 読売新聞2001年8月7日中部朝刊(乙第9号証の9)には,「名古屋土産なににする? 日持ち,軽さに人気 売場,この1週間が勝負=愛知」の見出しの下に,「・・・「洋風生ういろう」。ゴマクッキーの上に洋風味の「ういろう」をのせ,ケーキ風にしてある。・・・」と記載されている。
コ 毎日新聞2000年11月30日地方版/山口(乙第9号証の10)には,「[街かど]阿知須町の新特産品です。――商工会が開発の土産品7品を発表」との見出しの下に,「土産品は,糖度の高いカボチャを利用した「あじす外郎(ういろう)」・・・」と記載されている。
サ 毎日新聞2001年4月1日東京朝刊(乙第9号証の11)には,「[転機の一点]無題No.95-1985 彫刻家・田中米吉(日曜くらぶ)」との見出しの下に,「山口の名産として知られる外郎(ういろう)の老舗(しにせ)・・・江戸時代から続く外郎作りの伝統を継ぐ・・・外郎の原料となるワラビの根や小豆などが出回るようになると,父は戦争で中断した外郎作りを再開した。・・・」と記載されている。
シ 毎日新聞2001年5月25日地方版/三重(乙第9号証の12)には,「伊勢神宮内宮前で26,27日「夏まちまつり」/三重」との見出しの下に,「伊勢肉の牛串焼きやういろう,ラムネなども楽しめる。・・・」と記載されている。
ス 日本食糧新聞2001年6月11日(乙第9号証の13)には,「2001年夏期穀粉・製菓原材料特集:品種別生産動向,菓子種好調目立つ」との見出しの下に「和菓子屋でだんご製造用,ういろう,柏もちを製造するために使用する上新粉の生産は,・・・」と記載されている。
セ 百歳元気新聞2001年11月10日(乙第9号証の14)には,「おコメ大好き!豊かな秋の実りに感謝」との見出しの下に,「コメを使った菓子はせんべいやあられだけではない。団子はもちろんういろうや最中の皮・色とりどりの生菓子までおコメがさまざまに変身する。・・・」と記載されている。
ソ 日本食料新聞2001年12月7日(乙第9号証の15)には,「2001年冬期穀粉・製菓原材料特集:品種別生産動向」の見出しの下に,「だんご,柏餅,ういろうなどの原料である上新粉は,・・・」と記載されている。
タ 朝日新聞1998年9月5日名古屋夕刊(乙第11号証の1)には,「名古屋・中区大須(アベニュー・アベニュー)」との見出しの下に,ういろうに関する記事が掲載され,その中で,「大須ういろが「ういろう」ではなく「ういろ」にするのは,「青柳さんと区別する意味と,言いやすいから」・・・名古屋で一番古いういろう屋は餅屋(もちや)文蔵が創業した「餅文総本店」・・・製品の中心は・・・「献上外良(ういろ)」。・・・」と記載されている。
(3) 「ういろう」,「外郎」の語についてのインターネットのホームページ情報 ア 名古屋市のホームページ(乙第10号証の1)には,「ういろう」の見出しの下に,ういろうを和菓子として紹介し,その製法を写真入りで説明しており,「名古屋の和菓子で全国的に知られているものといえば「ういろう・・・米粉と米のでんぷんである浮粉をお湯で溶かしたものに砂糖を加えて蒸しただけの素朴なものです。・・・素朴な土地柄が作り上げる素朴な味わいの和菓子,それが名古屋のういろうです。」と記載されている。
イ 大須商店街のホームページ(乙第10号証の2)には,「大須余話」の見出しの下に,「名古屋を代表する名物といえば「きしめん」と「ういろう」・・・その「ういろう」の発祥の地は大須・・・ういろうは米の粉を湯で溶いて砂糖を加え,蒸籠(セイロ)でむして羊羹形に切った物。ういろうの文字は外郎,外良とも書き・・・大須ういろ,青柳ういろうの製造元が店を出している。・・・」と記載されている。
ウ 相田百合子のホームページ(乙第10号証の3)には,「外郎のこと」との見出しの下に,「外郎は名古屋だけに売っている・・・と思ってましたが山口にもありました。・・・名古屋と山口の外郎の味は違う。・・・」との文章及び「外郎」と表示された菓子の写真並びに外郎の製造工程を写真入りで説明する文章とが記載されている。
(4) 「外郎」,「ういろう」の語についての,書籍・雑誌やテレビ放送の紹介 ア 雑誌「サライ」(株式会社小学館1997年6月19日号。甲第13号証の1ないし5)には,「モノ語り 六百年前,京都で生まれた庶民の味 ういろう」の見出しで書かれた特集記事が掲載されており,同記事中には,次の記載がある。
@「「ういろう」「ういろ」「外郎」「外良」。呼び名も様々なら,味もそれぞれ個性的。室町時代に京都で生まれ,小田原や山口,名古屋で育って全国的な銘菓となった,単純にして奥の深い,蒸し菓子の物語をお届けします。」 A「小田原ういろう 諸外国信使の接待に供した菓子 江戸時代には全国的に有名に・・・“ういろう”とは,粳粉,糯粉,小麦粉,葛粉などに砂糖を合わせて練り,蒸してつくった菓子の総称である。棹物に仕立てることが多く,別名はういろう餅。小田原,名古屋,京都,山口のものが著名だが,筆頭にういろうの語源となった小田原の外郎家の歴史を溯ることにしよう。・・・現在販売しているういろうは,白,ひき茶,小豆,黒,栗の5種。他の地域のういろうと比べると,やや歯応えのある自然で素朴な味わいが身上。」 B「京都 五建外良屋 京都独特の“ういろ”は三角形 災難を防ぐ菓子として広まった・・・京都の五建外良屋の創業は幕末の安政5年(1858)。現存するういろう店の中でも,古い歴史を誇る。この店では「外郎」ではなく「外良」と書いて「ういろ」と呼ぶ。・・・現在この店で扱うういろうは,日持ち2日の「生ういろ」と,日持ちを良くするため筒形に仕立てて真空パックにした「五建ういろ」の2種。・・・ういろう全体の売り上げの7割がこの生ういろで占める。・・・ういろう好きには白を,餡好きには小豆ののったタイプがお勧め。」 C 「名古屋 餅文總本店 名古屋のういろうは浮き粉が決め手 歯切れの良さは,ここから生まれる・・・同店では京都同様「外良」と書いて「ういろ」と読む。ういろう製造の経緯は諸説あるが・・・ういろうの製造は店舗2階の工場で行われている。」 D「名古屋 青柳ういろう・・・昭和初期から積極的に宣伝・販売に努めういろうの名を全国に広めることに成功・・・昭和6年から名古屋駅構内売店とホームでの立ち売り,昭和39年からの新幹線車内販売などで,全国区で最も名前が浸透しているのは,名古屋の「青柳ういろう」だろう。・・・青柳は,その後積極的にういろうの日持ち対策に取り組んだ。結果,昭和37年にまったく人の手を触れずに製品化することに成功。全国発売が可能になり,味の種類が増えたことも手伝い全国に知られていった。」 イ 「和菓子」(株式会社学研昭和51年6月10日発行。甲第24号証)には,和菓子の一つとして「ういろう」が「小田原市,外郎藤右衛門の製品である。」と記載されている。
「茶と美 第12号 茶席の菓子」(表千家編集 茶と美舎昭和57年5月10日発行。甲第25号証)には,茶席に用いられる菓子のひとつとして,「ういろう」が,「小田原市の外郎藤右衛門の製品である。」と記載されている。
ウ 日本放送協会(NHK)は,教育テレビ(3チャンネル)平成13年6月22日午後8時放送の番組である「金曜アクセスライン」の1コーナーとして,「山口県のういろう」を放送した。同番組は,「「ういろう」この変わった響きを持つお菓子は,どこから来たのでしょう。米を原料とするういろうについては,陳氏という中国人が日本に伝えたと言われています。(画面に「陳氏延祐・禮部員外郎」の文字が出る。)陳氏は中国では「外郎(ういろう)」という職についていました。ういろうの名前はそこから来たと言われています。実は,「ういろう」という名はお菓子だけではなく,薬の名前でもあります。」との放送した。
3 上に認定した諸事実によれば,「ういろう」及び「外郎」の語は,遅くとも,審決時においては,米粉などを原材料として製造される蒸し菓子の一種を指す一般的な名称として,取引者・需要者に認識される,そのような意味を有する普通名詞となっていた,と認めることができる。
原告は,「外郎」の語は,原告代表者のA家の日本で唯一の著名な姓名(家名)又は名称であることからすれば,これが普通名詞となることはあり得ない,と主張する。
原告代表者の氏が「外郎」であることは,記録上明らかである。甲第8,第9号証によれば,日本語大辞典(株式会社小学館2001年2月20日発行。甲第8号証)には,「ういろう【外郎】」の項に「元の礼部員外郎で,室町時代日本に帰化した陳宗敬の子孫の立てた家名。」との記載があること,角川大字源(株式会社角川書店1992年2月10日発行。甲第9号証)には,「【外郎】」の項に「ういろう@元の礼部員外郎の陳宗敬が帰化して立てた家名」との記載があることが認められる。しかしながら,一つの語が複数の意味を持つことがあることはごく当たり前のことであり,このことは,普通名詞とされる語にあっても,例外ではない。「外郎」の語が氏,家名を表す語であるからといって,そのことが,直ちに「外郎」の語を菓子の一種を示す普通名詞であると認めることを妨げることになるわけのものではない。普通名詞であるか否かの判断に当たっては,問題となる商標の指定商品との関係も考慮に入れるべきである。本願商標の指定商品は,「菓子」であるから,本願商標中の「外郎」,「ういらう」「UIRO」の語に接した取引者・需要者は,「外郎」等の語を上記の菓子の一種を示す語として認識,理解するのが通常であることは,上記2で認定した事実に照らし明らかというべきである。
取引者・需要者が,菓子に使われた本願商標中の上記「外郎」等の語を菓子の一種ではなく原告の氏ないし家名を示すものとして認識,理解すると認めるに足りる証拠はない。
原告は,人の氏名・名称を排他的,専属的に使用する権利は,憲法11条,13条等によって保護されており,「外郎」の家名・姓名の排他的専用権を有する原告は,商標中に「外郎」等の語を使用する権利を有する,と主張する。しかしながら,商標中に用いられた語の意味は,商標を使用する者の主観的意図にかかわりなく,取引者・需要者によってどのような意味を有するものとして認識,理解されるかによって決せられるべきである。本願商標中の「外郎」等の語は,取引者・需要者から菓子の一種として認識,理解されるのが通常であることは,前記のとおりであるから,「外郎」の語を普通名詞と理解した上で,当該商標が商標法4条1項16号に該当するものとして,その登録を拒絶することは,原告が氏名使用権を有することと何ら矛盾しないものというべきである。
原告は,「ういろう」及び「外郎」の語は,有名な歌舞伎十八番の一つである「外郎売」にも取り上げられている,外郎家の著名な薬又は菓子の固有名詞であり,普通名詞ではない,と主張する。
乙第1ないし第8号証によれば,前記の各辞典には,「ういろう【外郎】」の語について,前記認定の意味のほかに,元の礼部員外郎陳宗敬が日本に渡来して創製した薬で,のち小田原に伝えられ評判を取った透頂香と呼ばれる薬の呼び名である旨の記載があることが認められる。しかしながら,「ういろう」,「外郎」の語が薬を表す語であることは,直ちに「ういろう」,「外郎」の語を菓子の一種を示す普通名詞であると認めることを妨げるものではないこと,普通名詞であるか否かの判断に当たっては,問題となる商標の指定商品との関係も考慮に入れるべきであり,本願商標の指定商品が「菓子」であることからすれば,本願商標中の「外郎」等の語に接した取引者・需要者は,「外郎」等の語を上記の菓子の一種を示す語として認識,理解するのが通常であることは,前に述べたところと同じである。
取引者・需要者が,菓子に用いられた「外郎」等の語を薬を表す語と認識,理解すると認めるに足りる証拠はない。
また,前記認定によれば,原告のA家が,菓子の「ういろう」を製造する業者として一定の知名度を有しているということはできるものの,それは,他にもある「ういろう」の製造業者の一つとして知られているというにとどまるものというべきである。上記2(4)イ認定した記載中には,「ういろう」の菓子が小田原の原告の作品であるとの記載があるものの,同記載だけでは,「ういろう」の語が,特定の出所を表示するものとして取引者・需要者に認識されていることを認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
原告は,取引者・需要者の間で,菓子の名前として認識されているのは,「ういろう」,「外郎」の語ではなく,「ういろ」,「外良」の語である,として,「ういろう」,「外郎」の語は普通名詞ではない,と主張する。しかしながら,前記2(2)のカ,キ,タ,(3)のイ,(4)で認定した事実によれば,「ういろ」及び「外良」の語は,いずれも,一般に「ういろう」,「外郎」と呼ばれている菓子の別名として用いられ,理解されているにすぎないというべきである。原告は,その主張を裏付けるものして,昭和20年代から昭和40年代にかけては,「ういろう」の語を用いた商標登録申請はなく,指定商品を「ういろ」とし,「ういろ」,「外良」の語を用いた商標登録しかなかった,との事実を挙げる。しかしながら,前記2で認定した事実によれば,「ういろう」及び「外郎」の語は,遅くとも,審決の時点では,普通名詞となっていた,と認めることができ,「ういろ」,「外良」の商標登録の事実は,この認定を覆すに足りるものではないというべきである。
原告は,昭和29年に「お菓子の「ういらう」」の文字から成る商標について商標権の設定登録がなされていることを根拠に,昭和29年当時には「ういろう」の語は普通名詞ではなかった,と主張する。しかしながら,遅くとも,審決時において,「ういろう」及び「外郎」の語が普通名詞となっていたと認めることができることは上記のとおりであり,昭和29年当時の商標登録の事実は,この認定を覆すに足りるものではないというべきである。
原告は,「ういろう」及び「外郎」の語が普通名詞であることが認められるとしても,「外郎」の語は,「外郎家のもの」,「外郎家の薬」,「外郎家の菓子」の意味を失っていない,と主張する。しかしながら,本件においては,「ういろう」及び「外郎」の語が菓子の一種を意味する普通名詞であるか否かが問題なのであり,これが認められるならば,「外郎」の語が他の意味を有するか否かは,問題とする余地のないことである。原告の上記主張は,結局,「外郎」の語が普通名詞ではないとの主張を言い換えたものにすぎないというべきであり,この主張が採用できないことは,上に述べたとおりである。
原告の主張は,いずれも採用することができない。
4 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がなく,その他審決には,これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
結論
以上のとおりであるから,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸
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