関連審決 | 審判1998-35517 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成15行ケ141審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成13行ケ571審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成14行ケ165審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成13行ケ572審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成14行ケ28審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 指定商品 / 混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) / 4条1項8号 / 4条1項15号 / 専用権 / 外国 / 継続 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
552号
審決取消請求事件
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原告A 訴訟代理人弁護士 藤井冨弘 同 山本卓也 同 鈴木雄一 同 大河内將貴 被告B 訴訟代理人弁理士 鯨田雅信 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/06/27 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第35517号事件について平成13年10月30日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,「赤間外郎」の文字を横書きして成り,商標法施行令1条別表の商品及び役務の区分第30類の「外郎」を指定商品とする登録第3076655号商標(平成4年11月12日登録出願。平成7年9月29日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。 原告は,平成10年10月28日,本件商標の登録を無効とすることについて審判を請求した。 特許庁は,これを平成10年審判第35517号事件として審理し,その結果,平成13年10月30日に,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年11月9日にその謄本を原告に送達した。 2 審決の理由の要点 別紙審決書の理由の写し記載のとおりである。要するに,本件商標中の「外郎」の語は,指定商品の「外郎」そのものを示す普通名詞であるから,本件商標をその指定商品である「外郎」に使用しても,@原告のA家の姓名を含むものと認識されるものではないから,本件商標は商標法4条1項8号に違反して登録されたものということはできず,A原告又は原告と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように商品の出所について混同を生ずるおそれもないから,本件商標は,商標法4条1項15号に違反して登録されたものということもできない,として,請求人(原告)の主張する無効理由をいずれも排斥するものである。 |
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原告の主張の要点
審決は,「外郎」の語は,本件商標の登録査定の日である平成7年4月6日には,既に,菓子の一種である「ういろう(外郎)」を意味する普通名詞となっていた,と誤って認定したものである。この誤りは,結論に影響することが明らかであるから,審決は,違法なものとして取り消されるべきである。 1 「外郎」の語の由来 原告の名前であるAは,「A」と読み,原告の家系において代々襲名されてきたものである。原告の祖先である陳延祐(法諱を宗敬という。)は,元の順宗皇帝の礼部員外郎の役職にあった者であり,1368年,元の滅亡に際し,我が国に帰化し,陳外郎(ちんういろう)と称した。原告の家系の姓名が外郎となったのは,これに始まることである。 陳延祐(陳宗敬)の子である大年宗奇は,明国の薬である「霊宝丹」を日本に伝えた。この薬は,効能が顕著であるとして,時の天皇から「透頂香」の名を賜り,後に外郎家の薬として「薬のういろう」と呼ばれるようになった。 また,宗奇は,自ら作った菓子を,外国信使接待のときに供したところ,評判となり,この菓子は,後に,外郎家の菓子として,「お菓子のういろう」と呼ばれるようになった。 その後,五代目定治は,北条早雲に招かれて小田原に移った。 原告のA家では,室町時代から薬である「透頂香」を,一子相伝で,製造・販売し続け,菓子の「ういろう」も,明治時代以降,菓子の「ういろう」の名の下に,製造・販売し続け,現在でも,原告を代表者とする原告A家の家業を法人化した「株式会社ういろう」により,薬と菓子の両方を製造販売している。 2 「外郎」の語は,原告の,日本で唯一の著名な姓名(家名)又は名称であって,普通名詞ではない。 (1) 陳延祐(陳宗敬)は,かつて自らの官職名であった「礼部員外郎」の語の一部である「外郎(がいろう)」を,官職名とは区別する趣旨で「外郎(ういろう)」(唐音又は唐宋音)と呼んで,陳外郎(ちんういろう)と名乗り,「外郎」を原告A家の姓名(姓の名)としたものである。本来「外」の漢字には「ガイ」か「ゲ」の読みしかなく,「外」が「ウイ」と読まれることはない。「ういろう」の語は,我が国において,原告A家の姓名以外にはない語であり,「外郎」と書いて「ういろう」と読む読み方も,原告A家の姓名以外にはない読み方である。 (2) 株式会社小学館発行の「日本国語大辞典」第二版には,「ういろう[外郎][名](外郎(がいろう)は中国の官名,定員外の職員の意。『うい』は唐宋音)@元の礼部員外郎で,室町時代日本に帰化した陳宗敬の子孫の立てた家名。代々医薬を業とした。」と記載されている。株式会社角川書店発行の角川大字源には,「【外郎】(ういろう),@元の礼部員外郎の陳宗敬が帰化して立てた家名。」と記載されている。この陳宗敬の子孫の立てた家名の家が原告A家である。 このように,「外郎(ういろう)」は,辞典にも明記されている著名な原告の家名であり,姓名又は通称である。 審決も,「本件商標中の「外郎」の文字が外郎家の姓に由来し,かつて,外郎家の製造する薬や菓子を示す固有名詞であったことが認められる。」(審決書6頁37行〜39行)と認定している。 (3) 山口県地方では,菓子の一種が「外郎(ういろう)」と呼ばれており,この語は,礼部員外郎の役職にあった陳宗敬の官職名「外郎(ういろう)」に由来する,といわれている。 しかしながら,「外郎」が官職名であるか否かについては疑義があり,仮に「外郎」が官職名であるとしても,官職名の「外郎」は,「がいろう」と読まれ,「ういろう」とは読まれないことは,漢和辞典や上記各辞典の記載から明らかである。したがって,山口地方の菓子の名前が官名によるとの説は,明らかに誤りであり,山口県地方でいわれている菓子の命名の故事は,原告A家の家名命名の故事を剽窃するものであり,原告A家の家名を菓子の名前としたことを宣伝するためのものであるにすぎない。 (4) このように,「外郎」の語は,原告A家の著名な家名,姓名又は通称である。 商標法4条1項8号は,他人の氏名・名称に対する人格権を保護する規定であるとされている(東京高等裁判所昭和39年8月15日判決・判例時報384号169頁,東京高等裁判所昭和44年5月22日判決・判例タイムズ237号309頁)。原告にとって,その著名な姓,名称である「外郎」が他人である被告の商標中に使用され,他人に商品名として呼び捨てにされるのは,耐え難い苦痛であり,このことは,本件の判断に当たって十分に斟酌されるべきである。最高裁判所第3小法廷昭和63年2月16日判決(民集42巻2号27頁)は,氏名を他人に冒用されない権利・利益である,専用権としての氏名権を承認している。審決は,被告が,原告の有する「外郎」の家名・姓名の専用権を侵害して,原告の姓名である「外郎」の語を冒用しているにもかかわらず,これを是認するものであるから,上記最高裁判決に違反するものとして,取り消されるべきである。 3 「外郎」の語は,原告A家の製造・販売する著名な薬又は菓子の固有名詞であって,普通名詞ではない。 (1) 原告A家は,室町時代に,薬の外郎,すなわち,透頂香の製造・販売を家業として始め,以来,これを続けてきた。太平洋戦争の統制時代にも,統制されることなく,その製造・販売が認められていた。原告A家の家業を法人化した株式会社ういろうは,現在も透頂香の製造・販売を継続している。透頂香は,現在も,薬の「ういろう」,「外郎」として根強い人気がある。 薬の「外郎」は,日本の伝統的芸能である歌舞伎においても,取り上げられている。「外郎売り」は,歌舞伎俳優の二代目市川団十郎が初演して以来,現在に至るまで,歌舞伎十八番の一つとして有名な演題であり,薬の「外郎」を早口言葉で宣伝する台詞は,殊に有名で,その台詞に出てくる,薬の「外郎」は著名な商品名である。 このように,「外郎」は,現在でも,小田原の原告A家の製造する薬である「透頂香」の著名な通称・商品名である。 原告A家は,明治時代に,その製造する菓子を,「ういろう」の名の下に販売するようになり,以来,これを続けた。前述のとおり,原告を代表者とする原告A家の家業を法人化した「株式会社ういろう」は,現在でも,菓子の「ういろう」の製造販売を続けている。 このように,「外郎」の語は,原告A家の製造する薬や菓子を示す固有名詞であり,「外郎家のもの」という意味を有している。 (2) 食べ物に関する古典的な書籍である「和漢三才図会」には,「外郎餅」の説明の中で,「外郎」の名は,著名な薬である「透頂香」を製造して有名になり,その薬の名にもなった原告A家の家名,姓名であり,菓子の「外郎」は,その菓子が薬の「外郎」に似ているので「外郎」と云われるようになった,と記載されている。このように,「外郎」は,上記書籍の時代から,菓子と薬の名前になっている,原告の著名な通称又は姓名である。 (3) 本件商標は,原告の著名な薬と菓子の通称又は商品名を,菓子の商標の一部としているものである。被告は,著名な薬の「外郎」から作られた菓子であることを宣伝して,原告A家の著名な薬の「外郎」こと「透頂香」との混同を画策している。したがって,本件商標は,原告の商品である薬の「外郎」と混同を生ずるおそれがある商標であり,商標法4条1項15号に該当するものとして,取り消されるべきである。 4 「ういろう」,「外郎」の語は,菓子の普通名詞ではない。 普通名詞であるといえるためには,それが辞典に記載されているだけでは足りず,取引者・需要者の間でそのように認識されていることが必要である。 (1) 審決は,広辞苑等に「ういろう」,「外郎」の説明として,「菓子の名。・・・山口・名古屋の名産」の記載等があることを根拠に,「ういろう」の語は菓子の普通名詞である,と判断した。しかし,広辞苑の上記説明は,古い時代の間違った情報による書物を根拠にした間違った記載である。 (2) 山口県地方以外では,菓子屋・需要者の間では,菓子の名前を「ういろ」,「外良(ういろ)」とするのが主流である。 ア 各辞典において「ういろう」が名物であるとされている名古屋においては,駅前地下街に「青柳ういろう」の店と並んで「大須ういろ」の店がある。 青柳ういろうは,昭和48年に「外良」と書いて「ういろう」と振り仮名をした商標を出願している。しかし「外良」の字は通常は「ういろ」と読み,昭和40年代の中ごろまでは,そのように読まれていた。青柳ういろうも,昭和6年駅売りの菓子の巻紙には,「名古屋名物外良」(ういろ)と記載しており,当時,菓子の名は,「ういろ」と呼んでいた。現在でもそのように読む業者が多いようである。上記大須ういろは,いずれも「ういろ」を指定商品として,「ドーム型ういろ」(平成7年8月23日出願,平成9年8月29日登録),「風流元禄ういろ」(昭和63年4月2日出願,平成3年4月30日登録)の商標登録を受けている。 「ういろ」と「ういろう」,「外良」と「外郎」とは,字も発音も異なる。 イ 小学館発行の雑誌「サライ」(1997年6月19日発行)中の,全国の「ういろう」菓子の記事中には,京都の老舗である京都五建外郎屋につき,「この店では「外郎」ではなく「外良」と書いて「ういろ」と呼ぶ。」との記載が,名古屋の老舗である餅文總本店につき,「同店では京都同様「外良」と書いて「ういろ」と読む。」との記載がある。このように,名古屋,京都の菓子屋では,昔から,菓子の名前は,「外郎」ではなく,「外良」であり,「ういろう」ではなく,「ういろ」と呼ばれており,現在もそうであることが明らかである。したがって,これらの店に来店する顧客も「ういろ」と言って菓子を買っているはずであり,これによれば,需要者も「ういろ」と称していることが明らかである。そうすると,現在でも普通名詞である菓子の名前は「ういろ」,「外良」であって「ういろう」,「外郎」ではない,というべきである。 ウ 特許庁への申請商標を調査した結果によれば,昭和20年代から昭和40年代に,名古屋から岐阜・京都地方においてなされた商標登録申請においては,いずれも,指定商品は「ういろ」とされ,商標名も「ういろ」とされており,「ういろう」を指定商品とし,商標名を「ういろう」とした申請例は見当たらない。 @「大須ういろ」(昭和25年11月16日出願) A「五建ういろ」(昭和28年10月3日出願) B「長田のういろや」(昭和35年6月9日出願) C「長良ういろ」(昭和40年12月12日出願) エ 以上のとおり,菓子の普通名詞となっている語は「外良」,「ういろ」であって「外郎」,「ういろう」ではない。 (3) 審決は,「ういろう」が普通名詞であるとの認定の根拠として各辞典の「ういろう」,「外郎」の項に,「菓子の名」と記載されていることを挙げる。しかし,これらの辞典の記載は,江戸時代以降の情報の乏しいいい加減な情報により書かれた書物を根拠にした間違いの記述である。 ア 広辞苑第三版は,「ういろう」,「外郎」について「A菓子の名,米の粉を黄などに染め,砂糖を加えて蒸し,四角に切ったもの。形や色が@(薬のういろう)に似る。山口・名古屋の名産」と記載しており,広辞苑第五版は,「菓子の名。米の粉・砂糖・葛粉などを混ぜて蒸したもの。もとは黒砂糖を使っており,色が@(薬,透頂香)に似る。山口・名古屋の名産。ういろうもち。」と記載している。上記記載は,前記「和漢三才図会」の「外郎餅」の記事及び大言海の「透頂香」についての記載(「今,小田原の宇野氏(虎屋)製して売る。黒褐色,方形なり,痰を治すとぞ」)に依っているものと思われる。 しかし,薬の「ういろう」である透頂香の形状は,小さな銀色の丸薬であり(丸薬であることは,古文書に記載されており,銀色であることは,古文書に記載はないものの,原告のA家に一子相伝で伝えられてきた製法に合致する。),方形の黒褐色の薬ではないから,上記記載は,菓子の「外郎」と薬の「外郎」とを混同している。 日本放送協会のテレビ放送の中にも,薬と菓子とを混同している放送がある(教育放送(3チャンネル)平成13年6月22日放送)。 イ 偽物は,偽物として記述すべきであって,人々の間で広く知れ渡ったからといって,本物のように記述するのは,辞典としての性格上,許されないことである。このような誤った辞典の記載を根拠に「ういろう」を普通名詞であると認定することは,許されないことというべきである。 (4) 原告A家の家業を法人化した株式会社ういろうは,指定商品を菓子全般として,「お菓子の「ういらう」」の文字から成る商標について商標権(登録第0454581号。昭和28年9月30日出願。同29年10月28日登録。)を有し,同商標権は現に効力を有している。同商標は,「ういらう」の文字を中心としており,「ういろう」の語が当時から普通名詞であれば,登録は拒絶されていたはずであるのに,何の問題もなく登録されているところからみて,昭和29年当時には,「ういろう」の語は普通名詞とは考えられていなかったことが明白である。 (5) 特定の商品出所を表示する固有名詞の知的財産権を尊重する風潮は,世界的風潮である。日本国においても,同様に取り扱うべきである。 5 仮に,「ういろう」,「外郎」,の語が「ういろう」と呼ばれる菓子を意味する普通名詞になったことが認められるとしても,「外郎」の語は,「外郎家のもの」,「外郎家の薬」,「外郎家の菓子」の意味を失っておらず,元来外郎家の菓子の固有名詞として知っている人々にとっては,引き続き,外郎家の菓子の固有名詞としての効力を有し続けている。 お茶の表千家編集の「茶と美第12号茶席の菓子」(昭和57年5月10日発行)には,「ういろう 小田原市の外郎藤右衞門の製品である。」との記載が,株式会社学研発行の「和菓子」(昭和51年6月10日発行)には,「ういろう 小田原市,外郎藤右衞門の製品である。」との記載がある。 したがって,本件商標の商標法4条1項8号,15号該当性が否定されるいわれはない。 |
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被告の反論の要点
原告の主張はすべて争う,審決の認定判断は正当であり,審決に,取消事由となるべき瑕疵はない。 |
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当裁判所の判断
1 審決は,「本件商標の登録査定の時である平成7年4月6日には,既に「ういろう」及び「外郎」の語が菓子の一種である「ういろう(外郎)」を意味する普通名詞となっていたと認められる」(審決書6頁17行〜19行)と認定した。 これに対し,原告は,「ういろう」,「外郎」の語は,普通名詞ではない,と主張する。 2 甲第6,第7号証の各1ないし3,第8,第9号証,第13号証の1ないし5,第24,第25号証及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) 「ういろう」,「外郎」の語についての辞典の記載 ア 「広辞苑第四版」(株式会社岩波書店1994年9月12日発行)には,「ういろう【外郎】」の語について,「・・・陳宗敬が・・・創製した薬。・・・透頂香(とんちんこう)」の記載とともに「菓子の名。・・・山口・名古屋の名産・・・ういろうもち」との記載がある。 イ 「大辞林」(株式会社三省堂1991年7月1日発行)には,「ういろう【外郎】」の語について「・・・薬の一種・・・透頂香(とんちんこう)。外郎薬」の記載とともに「菓子の一種・・・名古屋・山口の名産。外郎餅」との記載がある。 ウ 「日本語大辞典」(株式会社講談社1989年11月6日発行)には,「ういろう【外郎】」の語について,「・・・痰切りの妙薬」の記載とともに「米粉を原料としたようかん状の蒸し菓子。名古屋・山口の名物」との記載がある。 エ 「国語大辞典(新装版)」(株式会社小学館1995年1月10日発行)には,「ういろう【外郎】」の語について「・・・陳宗敬が創製したという薬」の記載とともに,「・・・蒸籠で蒸しあげた菓子・・・名古屋,山口,小田原の名物」との記載がある。 オ 「大辞泉 第一版第三刷」(株式会社小学館1995年12月20日発行。甲第6号証の1〜3)には,「ういろう【外郎】」の語について,「江戸時代,小田原名産の去痰(きょたん)の丸薬。元(げん)の礼部(れいほう)員外郎(いんがいろう)陳宗敬が日本に帰化し,博多で創製」の記載とともに,「米の粉に黒砂糖などをまぜて蒸した菓子。名古屋・山口・小田原などの名物。ういろうもち」との記載がある。 カ 「広辞林 第六版」(株式会社三省堂1985年10月20日発行。甲第7号証の1ないし3)には,「ういろう【外郎】」について,「ういろうぐすり」「ういろうもち」との記載があり,「ういろうぐすり【ういろう薬】」について,「元(げん)の帰化人,礼部員外郎(いんがいろう)の官にあった陳宗敬の創製という。江戸時代,神奈川県小田原名産の売薬・・・透頂香(とうちんこう)。」との記載とともに,「ういろうもち【ういろう餅】」について,「米の粉を黄に染め,砂糖を加えて蒸し,四角に切った菓子。山口・名古屋の名産」との記載がある。 キ 「日本国語大辞典 第二版」(株式会社小学館2001年2月20日発行。甲第8号証)には,「ういろう【外郎】」について「@元の礼部員外郎で,室町時代日本に帰化した陳宗敬の子孫の立てた家名。・・・A外郎家が北条氏綱に献じてから小田原の名物となった丸薬。・・・Bういろうもち【外郎餅】の略」との記載があり,「ういろうもち【外郎餅】」について,「米の粉と黒砂糖を使用した蒸しようかんの一種。名古屋,山口の名物。ういろう。・・・」との記載がある。 ク 「角川大字源」(株式会社角川書店1992年2月10日発行。甲第9号証)には,「【外郎】」について,「がいろう」の読みで,「@漢代の官名・・・,A吏員,下級官吏」との記載があり,「ういろう」の読みで,「@元の礼部員外郎の陳宗敬が帰化して立てた家名。A外郎家が売り始めた薬。B菓子の名。ういろうもち。」との記載がある。 (2) 「ういろう」,「外郎」,の語についての書籍・雑誌やテレビ放送の紹介 ア 雑誌「サライ」(株式会社小学館1997年6月19日号。甲第13号証の1ないし5)には,「モノ語り 六百年前,京都で生まれた庶民の味 ういろう」の見出しで書かれた特集記事が掲載されており,同記事中には,次の記載がある。 @「「ういろう」「ういろ」「外郎」「外良」。呼び名も様々なら,味もそれぞれ個性的。室町時代に京都で生まれ,小田原や山口,名古屋で育って全国的な銘菓となった,単純にして奥の深い,蒸し菓子の物語をお届けします。」 A「小田原ういろう 諸外国信使の接待に供した菓子 江戸時代には全国的に有名に・・・“ういろう”とは,粳粉,糯粉,小麦粉,葛粉などに砂糖を合わせて練り,蒸してつくった菓子の総称である。棹物に仕立てることが多く,別名はういろう餅。小田原,名古屋,京都,山口のものが著名だが,筆頭にういろうの語源となった小田原の外郎家の歴史を溯ることにしよう。・・・現在販売されているういろうは,白,ひき茶,小豆,黒,栗の5種。他の地域のういろうと比べると,やや歯応えのある自然で素朴な味わいが身上。」 B「京都 五建外良屋 京都独特の“ういろ”は三角形 災難を防ぐ菓子として広まった・・・京都の五建外良屋の創業は幕末の安政5年(1858)。現存するういろう店の中でも,古い歴史を誇る。この店では「外郎」ではなく「外良」と書いて「ういろ」と呼ぶ。・・・現在この店で扱うういろうは,日持ち2日の「生ういろ」と,日持ちを良くするため筒形に仕立てて真空パックにした「五建ういろ」の2種。・・・ういろう全体の売り上げの7割がこの生ういろで占める。・・・ういろう好きには白を,餡好きには小豆ののったタイプがお勧め。」 C「名古屋 餅文總本店 名古屋のういろうは浮き粉が決め手 歯切れの良さは,ここから生まれる・・・同店では京都同様「外良」と書いて「ういろ」と読む。ういろう製造の経緯は諸説あるが・・・ういろうの製造は店舗2階の工場で行われている。」 D「名古屋 青柳ういろう・・・昭和初期から積極的に宣伝・販売に努めういろうの名を全国に広めることに成功・・・昭和6年から名古屋駅構内売店とホームでの立ち売り,昭和39年からの新幹線車内販売などで,全国区で最も名前が浸透しているのは,名古屋の「青柳ういろう」だろう。・・・青柳は,その後積極的にういろうの日持ち対策に取り組んだ。結果,昭和37年にまったく人の手を触れずに製品化することに成功。全国発売が可能になり,味の種類が増えたことも手伝い全国に知られていった。」 イ 「和菓子」(株式会社 学研昭和51年6月10日。甲第24号証)には,和菓子の一つとして「ういろう」が「小田原市,外郎藤右衛門の製品である。」と記載されている。 「茶と美 第12号 茶席の菓子」(表千家編集 茶と美舎昭和57年5月10日発行。甲第25号証)には,茶席に用いられる菓子のひとつとして,「ういろう」が,「小田原市の外郎藤右衛門の製品である。」と記載されている。 ウ 日本放送協会(NHK)は,教育テレビ(3チャンネル)平成13年6月22日午後8時放送の番組である「金曜アクセスライン」の1コーナーとして,「山口県のういろう」を放送した。同番組は,「「ういろう」この変わった響きを持つお菓子は,どこから来たのでしょう。米を原料とするういろうについては,陳氏という中国人が日本に伝えたと言われています。(画面に「陳氏延祐・禮部員外郎」の文字が出る。)陳氏は中国では「外郎(ういろう)」という職についていました。ういろうの名前はそこから来たと言われています。」「これは「外郎売」という歌舞伎十八番の一つ。この歌舞伎の一番の見せ場は役者がういろうという薬を飲んだとたん,急に呂律が回り出すというシーンです。「ぶぐばぐぶぐばぐみぶぐばぐ・・・」ここでは,ういろうは「お菓子」ではなく「薬」として描かれています。」との放送をした。 3 上に認定した諸事実によれば,「ういろう」及び「外郎」の語は,遅くとも,本件商標登録の査定時(弁論の全趣旨により平成7年4月6日と認められる。)には,米粉などを原材料として製造される蒸し菓子の一種を指す一般的な名称として,取引者・需要者に認識されている普通名詞となっていたと認めることができる(上記認定の事実の中には,本件商標登録の査定時後のものもある。しかし,これらの事実も,上記査定時の状況を認定する資料となり得る。)。 原告は,「外郎」の語は,原告A家の日本で唯一の著名な姓名(家名)又は名称であることからすれば,これが普通名詞となることはあり得ない,と主張する。 原告の氏が「外郎」であることは,記録上明らかである。また,甲第8,第9号証によれば,上記日本国語大辞典第二版(株式会社小学館2001年2月20日発行。甲第8号証)には,「ういろう【外郎】」の項に「元の礼部員外郎で,室町時代日本に帰化した陳宗敬の子孫の立てた家名。」との記載があること,角川大字源(株式会社角川書店1992年2月10日発行。甲第9号証)には,「【外郎】」の項に「ういろう@元の礼部員外郎の陳宗敬が帰化して立てた家名」との記載があることが認められる。しかしながら,一つの語が複数の意味を持つことがあることはごく当たり前のことであり,このことは,普通名詞とされる語にあっても,例外ではない。「外郎」の語が氏,家名を表す語であるからといって,そのことが,直ちに,「外郎」の語を菓子の一種を示す普通名詞であると認めることを妨げることになるわけのものではない。普通名詞であるか否かの判断に当たっては,問題となる商標の指定商品との関係も考慮に入れるべきである。本願商標の指定商品は,商品及び役務の区分30類の菓子類に含まれる「外郎」であるから,本願商標中の「外郎」の語に接した取引者・需要者は,「外郎」の語を菓子の一種を示す語として認識,理解するのが通常であることは,上記2で認定した事実に照らし明らかというべきである。取引者・需要者が,菓子に使われた本願商標中の「外郎」の語を菓子の一種ではなく原告の氏ないし家名を示すものとして認識,理解すると認めるに足りる証拠はない。 原告は,本件商標は,原告の姓名である「外郎」の語を冒用して,原告の有する「外郎」の語に関する専用権を侵害しており,これを是認した審決は,原告の有する氏名権の侵害を容認する点において,最高裁判所第3小法廷昭和63年2月16日判決(民集42巻2号27頁)に違反する,と主張する。しかしながら,本件商標中の「外郎」の語は,菓子の一種を示すものとして用いられているもので,原告の氏ないし家名を示すものとして用いられているものでないと理解すべきことは,上記のとおりであるから,本件商標は原告の氏名権を何ら侵害するものではなく,このような使用を是認したからといって,何ら上記最高裁判決に違反するものではない。 原告は,「外郎」及び「ういろう」の語は,歌舞伎十八番の一つとして有名な「外郎売」にも取り上げられている,外郎家の著名な薬又は菓子の固有名詞であり,普通名詞ではない,と主張する。 上記認定のとおり,前記の各辞典には,「ういろう【外郎】」の語について,元の礼部員外郎陳宗敬が日本に渡来して創製した薬で,後に小田原に伝えられ評判を取った透頂香と呼ばれる薬の呼び名である旨の記載がある。しかしながら,「外郎」の語が薬を表す語であることが,直ちに「外郎」の語を菓子の一種を示す普通名詞であると認めることを妨げるものではないこと,普通名詞であるか否かの判断に当たっては,問題となる商標の指定商品との関係も考慮に入れるべきであり,本件商標の指定商品が菓子の一種としての「外郎」であることからすれば,本件商標中の「外郎」の語に接した取引者・需要者は,「外郎」の語を上記の菓子の一種を示す語として認識,理解すると認められることは,前に述べたところと同じである。取引者・需要者が本件商標中の「外郎」の語を,それが菓子に使われているのに,薬を表す語と認識,理解すると認めるに足りる証拠はない。 また,前記認定によれば,原告のA家が,菓子の「ういろう」,「外郎」を製造する業者として一定の知名度を有しているということはできるものの,それは,他にもある「ういろう」の製造業者の一つとして知られているというにとどまるものというべきである。上記2(2)イで認定した記載中には,「ういろう」の菓子が小田原の原告の作品であるとの記載があるものの,同記載だけでは,「ういろう」の語が,特定の出所を表示するものとして取引者・需要者に認識されていることを認めることはできず,他にもこれを認めるに足りる証拠はない。 原告は,取引者・需要者の間では,菓子の名前として認識されているのは,「ういろ」,「外良」であって,「ういろう」,「外郎」ではないとして,「ういろう」,「外郎」の語は普通名詞ではない,と主張する。しかしながら,前記2(2)アで認定した事実によれば,「ういろう」及び「外良」の語は,いずれも,一般に「ういろう」,「外郎」と呼ばれている菓子の別名として用いられ,理解されているにすぎないというべきである。原告は,その主張を裏付けるものして,昭和20年代から昭和40年代にかけては,「ういろう」の語を用いた商標登録申請はなく,指定商品を「ういろ」とし,「ういろ」,「外良」の語を用いた商標登録しかなかったとの事実を挙げる。しかしながら,前記2で認定した事実によれば,「ういろう」及び「外郎」の語は,遅くとも,本件商標の登録査定の時点では,普通名詞となっていたと認めることができ,「ういろ」,「外良」の商標登録の事実は,この認定を覆すに足りるものではないというべきである。 原告は,昭和29年に「お菓子の「ういらう」」の文字から成る商標について商標権の設定登録がなされていることを根拠に,昭和29年当時には「ういろう」の語は普通名詞ではなかった,と主張する。しかしながら,遅くとも,本件商標の登録査定時において,「ういろう」及び「外郎」の語が普通名詞となっていたと認めることができることは上記のとおりであり,昭和29年当時の商標登録の事実は,この認定を覆すに足りるものではないというべきである。 原告は,「ういろう」及び「外郎」の語が普通名詞であることが認められるとしても,「外郎」の語は,「外郎家のもの」,「外郎家の薬」,「外郎家の菓子」の意味を失っていない,と主張する。しかしながら,本件においては,「外郎」の語が菓子の一種を意味する普通名詞であるか否かが問題なのであり,これが認められるならば,「外郎」の語が他の意味を有するか否かは,問題とする余地のないことである。原告の上記主張は,結局,「外郎」の語が普通名詞ではないとの主張を言い換えたものにすぎないというべきであり,この主張が採用できないことは,上に述べたとおりである。 原告の主張は,いずれも採用することができない。 4 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がなく,その他審決には,これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。 |
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結論
以上のとおりであるから,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 阿部正幸 |