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関連審決 審判1998-35618
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成12行ケ10審決取消請求事件 判例 商標
平成14行ケ88審決取消請求事件 判例 商標
平成20行ケ10089審決取消請求事件 判例 商標
平成1行ケ245 判例 商標
平成17行ケ10418審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  指定商品 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項11号 /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  離隔的 /  離隔的観察 /  取引の実情 /  出所の混同 /  判定 /  存続期間 /  更新登録 /  類似商標 /  非類似 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 47号 審決取消請求事件
原告 アルコンファルマセウチカル リミテッド
訴訟代理人弁護士 熊倉禎男
同 辻居幸一
同弁理士 大島厚
同 加藤ちあき
被告 千寿製薬株式会社
訴訟代理人弁護士 中島和雄
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/09/13
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成10年審判第35618号事件について平成12年9月25日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,片仮名文字「リスコート」及び欧文字「RISCOAT」を上下2段に横書きして成り,指定商品を第5類「薬剤」とする登録第4028442号商標(平成7年6月19日出願,平成9年7月18日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は,平成10年12月7日,本件商標の登録(以下「本件登録」という。)を無効とすることについて審判を請求し,特許庁は,これを平成10年審判第35618号事件として審理した結果,平成12年9月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を同年10月16日に原告に送達した。
2 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書の写しのとおりであり,その要点は,次のとおりである。
(1) 引用商標 欧文字「VISCOAT」を横書きして成り,指定商品を旧第1類「薬剤」とする登録第2151316号商標(昭和59年4月17日(優先権主張1983年10月17日アメリカ合衆国)出願,平成1年7月31日設定登録,平成11年6月15日商標権の存続期間更新登録。以下「引用商標」という。) (2) 類否判断 本件商標は,「リスコート」の文字と「RISCOAT」の英文字とを二段に併記して成るもので,「リスコート」の文字からは,同文字に相応して「リスコート」の称呼を生じる。他方,引用商標は,「VISCOAT」の英文字を横書きして成り,同文字に相応して「ビスコート」の称呼を生じる。
本件商標から生じる「リスコート」の称呼と引用商標から生じる「ビスコート」の称呼とを比較すると,両称呼は,称呼を識別するうえで最も重要な要素を占める語頭音である「リ」と「ビ」において音質を著しく異にするもので,その「リ」と「ビ」にしても,「リ」の音は,舌面を硬口蓋に近づけ,舌の先で上歯茎を弾くようにして発する有声子音(r)と母音(i)との結合した音節であり,他方,「ビ」の音は,両唇を合わせて破裂させる有声子音(b)と母音(i)との結合した音節であって,しかも,この差異音は,いずれも語頭にあって強く発音されるから,これらを一連に称呼した場合には,全体の語調語感が相違し,称呼上十分に聞き分け得るものである。
また,両商標は,前記したとおりの文字から成るものであるから,外観において区別し得るものであり,さらに,観念においても,特定の意味合いを有しない一種の造語と認められるので相紛れることはない。
そうすると,本件商標と引用商標とは,称呼,観念及び外観のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標と認められる。
(3) 混同のおそれ 請求人(原告)は,同人も被請求人(被告)も眼科用薬剤の製薬会社であるから,本件商標と引用商標とで出所の混同の生じる可能性が限りなく大きい旨主張する。しかし,出所の混同に関係する取引の実情が立証に係る程度のものであれば,それを上記の類否判断を左右するものとすることはできない。
(4) まとめ 以上のとおり,本件商標は,商標法4条1項11号の規定に違反して登録されたものでない。その他,本件登録を無効にすべき理由はない。
原告主張の取消事由の要点
審決の理由のうち,1(本件商標),2(請求人の主張及び趣旨),3(請求人の弁駁),4(被請求人の主張)は認める。6(当審の判断)のうち,本件商標は,「リスコート」の文字と「RISCOAT」の英文字とを二段に併記して成り,「リスコート」の文字から,同文字に相応して「リスコート」の称呼を生じ,他方,引用商標は,「VISCOAT」の英文字を横書きして成り,同文字に相応して「ビスコート」の称呼を生じるとの部分,「ビ」の音は,両唇を合わせて破裂させる有声子音(b)と母音(i)との結合した音節であるとの部分,観念においても特定の意味合いを有しない一種の造語と認められるとの部分を認め,その余を争う。
1 称呼の類否について 審決は,本件商標より生じる「リスコート」の称呼と引用商標より生じる「ビスコート」の称呼とを比較すると,両称呼は,称呼を識別するうえで最も重要な要素を占める語頭音である「リ」と「ビ」において音質を著しく異にすると判断しているが,この判断は誤っている。
(1) 語頭音が「称呼を識別するうえで最も重要な要素を占める」というような原則は存在しない。また,仮にこのような原則が存在するとしても,その原則は本件には当てはまらない。
言語のリズムの単位である「拍」は,例えば日本人が俳句をひねろうとして指を折り,5・7・5と数えるときの5とか7というその言語のリズムの単位をいうもので,原則として1文字が一つの拍を表すものである。この拍の観点から両商標をみると,本件商標の「リスコート」と引用商標の「ビスコート」とは,いずれも5拍から構成されており,いわば5拍語名詞に当たるのである。
本件商標の「リスコート」と引用商標の「ビスコート」とは,語頭に位置する「リ(ri)」と「ビ(bi)」が相違するにすぎず,しかも,相違音「リ(ri)」と「ビ(bi)」とは,母音「イ(i)」を共通にするものである。そして,「ri」は,語頭に置かれると弱い破裂音となり,「ビ(bi)」も同様に,上下のくちびるを閉じてから発する破裂音である。
また,外来語であって新しく取り入れられたもののうち,3拍以上の名詞の場合には,通常,語尾音から3番目にアクセントの頂点がくる(例えば「カメラ」「オリンピック」「アルミニウム」)。また,長音(引き音「ー」)については,アクセントの頂点が置きにくいため,アクセントの高さの切れ目がその辺りに来ると,その位置が原則として前にずれるという法則もある(例えば「ストーリー」「ハンバーガー」)。これらの法則の下では,本件商標の「リスコート」も引用商標の「ビスコート」も,いずれも片仮名語(外来語)の造語(新語)であるから,「コ」の部分にアクセントの頂点が来るうえ,「コ」は長音の前の音でもあるから,2拍目と3拍目,すなわち「スコ」の部分が高くなり,4拍目の長音「ー」が低くなることとなる。つまり,「リスコート」と「ビスコート」とは,そのアクセントの頂点の位置が同じであるため,両商標を発音する場合に,全体の語調・語感が極めて近似したものとなる。
さらに,本件商標及び引用商標に係る指定商品「薬剤」の分野においては,日常的に英語が用いられており,取引者・需要者(医者・薬剤師等)も英語に慣れ親しんだ人間が多く,これらの取引者・需要者が本件商標の英文字部分の「RISCOAT」や引用商標の英文字の「VISCOAT」に接したときには,これらを英語で称呼することも十分に考えられる。英語風に称呼する場合,両者は,「(ウ)リィスコート」,「ヴィスコート」となり,「COAT(コート)」の前に途切れ目があり,アクセントはいずれも「コー」の位置にくる。その結果,全体の称呼において,そのアクセント(強勢)の位置が共通となり,しかもそのアクセント音「コ」が長音(引き音)として強調されるため,両者の全体的な語調・語感が極めて近似したものとなる。
このように,本件商標の「リスコート」と引用商標の「ビスコート」とでは,全体の語調・語感が近似しており,称呼上,相紛らわしく聞き分けにくい。
(2) 被告は,相違が1音のみのとき,その相違が語頭音でなければ他の原則により類似とされる場合でも,その1音の相違が語頭音であるときは,類似とする他の原則に優越して非類似とされる,という原則がある旨主張する。
しかしながら,同数の音からなる比較的短い称呼であって相違するその1音が母音を同じくする近似音である場合は,原則として類似とされる,というのが称呼類否判断上の大原則であって,被告の主張は,根拠なくこの大原則に例外を認めようとするものであり,不当である。
2 外観の類否について 本件商標の英文字部分「RISCOAT」と引用商標「VISCOAT」とは,語頭の1文字を除く残りの6文字「ISCOAT」を共通にしており,文字の配列も全く同じである。アルファベット7文字のうちの最初の1文字が異なるだけであるから,外観上の差異は,ほとんど目立たない。通常の商取引において,商標は直接並べて対比されるわけではなく,時と所を異にして人間のあいまいな記憶に基づいて認識されるものであることから,その類否の判定はいわゆる離隔的観察によるべきものとされている。このような離隔的観察による場合,本件商標と引用商標の英文字部分は,7文字中順序を全く同じくする6文字が共通であるため,一見して即座に区別することは困難であり,外観上極めて紛らわしい。
3 混同のおそれについて 審決は,本件商標と引用商標とは,出所の混同に関係する取引の実情が立証に係る程度のものであれば,上記の類否判断を左右するものとはいえないと判断するが,この判断も誤っている。
(1) 携帯電話等の情報機器の発達によって,MRと呼ばれる医薬情報担当者(いわゆる医薬品の営業マン)等の取引者は,耳からの情報のみによって取引をするという場合が少なくない。とりわけ,携帯電話の普及により聞き間違い等が生じやすい状況においては,上記の語調・語感の類似性が当該両商標の全体的な類似性に与える影響は極めて大きく,両商標は全体的な音の構成・構造からみて混同を生じるおそれが強いものである。
要するに,本件商標及び引用商標のような同一の語調・語感を有する音構成においては,アクセントのない「リ」と「ビ」の相違のみによって,両者を明確に区別することは困難である。
(2) 原告は,眼科用薬剤を主たる製品とする世界的に著名な製薬会社であり,引用商標を使用した製品を,1991年(平成3年)以来,世界各国に販売しており,2000年(平成12年)度の総売上高は,世界89か国で6113万8601米ドル(日本円で約73億3700万円)に達している。我が国では,原告の子会社である日本アルコン株式会社が,平成11年(1999年)11月から引用商標を使用した製品の販売を開始している。一方,被告も,製薬会社であって,その取り扱っている商品は,ほとんどが「眼科用薬剤」であり,平成5年当時で,その売上高の87%を「眼科用薬剤」が占めている。
眼科医に向けた眼科専門誌には,引用商標が使用された「眼科手術補助剤」の宣伝広告と,被告の製造若しくは販売に係る「眼科用薬剤」の宣伝広告とが同時に掲載されていることも少なくない。
以上のような状況の下において,本件商標が「眼科用薬剤」について使用された場合,実際の市場においてその出所につき引用商標と混同される可能性は非常に大きく,また,効能・効果が同じ眼科用薬剤に使用される可能性さえもある。このような商標の類似性は,本件指定商品が「薬剤」という間違いが許されない商品であることも考慮して判断されるべきである。
本件商標が,現段階では,被告により薬剤について使用されていないとしても,今後,「眼科用薬剤」に使用される蓋然性が高いことは明らかであり,これにより出所の混同の生じるおそれがあることも明白である。
被告の反論の要点
審決の認定判断は,正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 称呼の類否について 原告は,語頭音が称呼を識別するうえで最も重要な要素を占めるというような原則は存在しないと主張するが,失当である。
1音の相異が語頭音でなければ他の原則により類似とされる場合でも,その1音の相異が語頭音であるために,類似とする他の原則に優越して非類似とされるという原則があるのであり,この原則こそ,まさに審決が前提としたものである。
確かに,アクセントとは,個々の語句について決まっている高低又は強弱の配置であるから,日本語でない「リスコート」や「ビスコート」を日本語式に読む場合は,どこにも強弱のアクセントはなく,したがって,これらの名称それ自体についていえば,語頭を強く発音するというような決まりはない。しかし,日常の日本語の会話には,強弱の変化があることは明らかであって,上記のことは,実際に臨んで商品名たる両商標を称呼する場合に経験則上どの音を強く発音するかということとは,おのずから別の問題である。そして,実際に臨んで両商標を称呼する場合には,自他識別のために無意識的に語頭音を強く発音する,という経験則が認められるのである。
「リスコート」,「ビスコート」の「コート」の部分については,他にも「コート」や「COAT」を後半部分の構成として有する薬剤を含む旧1類を指定商品とする商標が極めて多数存在する(例えば,「ディスコート/DISCOAT」のほか,「CRISCOAT/クリスコート」,「MOSCOAT」,「キレスコート/KILESCOAT」,「ENALESS COAT/エナレスコート」,「JUSCOAT/ジャスコート」,「ガスコート/GASCOAT」,「Stress Coat」等がある。)。したがって,「コート」や「COAT」の部分には,識別力はあまり期待できないから,いきおい「リス」,「ビス」の部分が強調されることになるはずであり,そうすると,擦歯音である「ス」よりも,破裂音である語頭音の「リ」や「ビ」の方が,より強く発音されることになるのが自然の成り行きである。
原告は,「リ(ri)」は,語頭に置かれると弱い破裂音となるというが,誤っている。「リ」は,「語頭以外でははじき音」,「語頭で弱い破裂音」とされるものの,ここに「語頭で弱い破裂音」とは,破裂音であるが語頭では弱く発音するという意味ではなく,本来「はじき音」であるが語頭では破裂の程度が弱い破裂音になるという意味である。つまり,語頭の「リ」は,破裂の程度が弱くて口蓋化するため,むしろ「はじき音」の範疇に包含されるべきものなのである。そうすると,「リ」と「ビ」の間には,少なくともかなりの音質の差異があることになる。
「リ」と「ビ」の音質が著しく異なることは,たとえば「リンゴ」と「ビンゴ」,「リショク」と「ビショク」などにおいて,これらが互いに1音違いの語であることを意識させないほどに,両者は全体としての語感,語調が異なり,相紛れるおそれが皆無であることに照らしても明らかである。
2 外観の類否について 本件商標と引用商標とが「ISCOAT」を共通にしているとしても,両商標において視覚上特に識別標識として強く印象に残る語頭文字の形状が,「R」と「V」とで著しく異なっているから,離隔観察による場合であっても,両者は外観において区別し得るものである。
3 混同のおそれについて 原告は,審判段階及び本訴を通じて,その立証内容は,原告が引用商標を使用させている日本代理店が眼科用薬剤を主たる製品とする製薬会社であること,引用商標が眼科用薬剤に現に使用され広告もされていること,及び,被告の主製品が眼科薬であることのみであり,取引の実状に照らして,本件商標,引用商標を付した薬剤相互間に現実に出所の混同ないしその危険が生じていることの主張立証はしていない。
当裁判所の判断
1 称呼の類否について (1) 本件商標が,「リスコート」の文字と「RISCOAT」の英文字を二段に併記して成り,「リスコート」の文字から,同文字に相応して「リスコート」の称呼を生じ,他方,引用商標が,「VISCOAT」の英文字を横書きして成り,同文字に相応して「ビスコート」の称呼を生じることは,当事者間に争いがない。
(2) 本件商標の「リスコート」と引用商標の「ビスコート」とが,いずれも5音から成っていること,これら2組の5音を比較すると,語頭に位置する「リ(ri)」と「ビ(bi)」が相違しており,その余の「スコート」が共通していることは,両商標の構成自体から明らかである。
「ビ」の音が,両唇を合わせて破裂させる有声子音(b)と母音(i)との結合した音節であって,いわゆる破裂音であることは,当事者間に争いがない。
甲第4号証の4によれば,「リ(ri)」の「r」は,標準的な発音法では,語頭に置かれるとき,舌の先とそれに続く舌の下側の面とが上歯の後ろの付近に触れて発音される弱い破裂音となることが認められる。
そうすると,語頭に置かれたときの「リ(ri)」と「ビ(bi)」のそれぞれの発音を対比すると,両者は,子音においては,弱い破裂音の「r」と破裂音の「b」という相違を有するものの,母音においては,ともに「イ(i)」であって同じであるということができる。
このように,本件商標の「リスコート」と引用商標の「ビスコート」とは,発音の冒頭において,弱い破裂音の子音「r」で開始されるのか,破裂音の子音「b」で開始されるのかで異なるだけであり,その後の母音「イ(i)」からの発音は全く同一であるから,全体としては,語調・語感が近似することになり,称呼上,相紛らわしいものといわざるを得ない。
(3) 被告は,「リスコート」,「ビスコート」の「コート」の部分については,他にも「コート」や「COAT」を後半部分の構成として有する,薬剤を含む旧1類を指定商品とする商標は極めて多数存在するから,「コート」や「COAT」の部分には,識別力はあまり期待できないので,いきおい「リス」,「ビス」の部分が強調されることになるはずであり,そうすると,擦歯音である「ス」よりも,破裂音である語頭音の「リ」や「ビ」の方が,より強く発音されることになるのが自然のなりゆきである旨主張する。
しかしながら,本件商標の「リスコート」及び引用商標の「ビスコート」は,いずれも,わずか5音から成る短い造語であり,それ自体で何らかの意味を有するというものではなく,一般的には,これらに接した取引者・需要者に格別の観念を生じさせるものともいえないから,取引者・需要者は,通常,本件商標及び引用商標をそれぞれ「リスコート」及び「ビスコート」と一体不可分に把握し,一連のものとして発音するのが通常であると認められる。
そうすると,被告の上記主張は,前提において誤っているものであり,その余の点について検討するまでもなく,失当なことが明らかである。
また,被告は,確かに,アクセントとは,個々の語句について決まっている高低又は強弱の配置であるから,日本語でない「リスコート」や「ビスコート」を日本語式に読む場合は,どこにも強弱のアクセントはなく,したがって,これらの名称それ自体についていえば,語頭を強く発音するというような決まりはないとしつつ,しかし,日常の日本語の会話には,強弱の変化があることは明らかであって,上記のことは,実際に臨んで商品名たる両商標を称呼する場合に経験則上どの音を強く発音するかということとは,おのずから別の問題であり,実際に臨んで両商標を称呼する場合には,自他識別のために無意識的に語頭音を強く発音する,という経験則が認められると主張する。
しかしながら,本件全証拠によっても,被告主張の,実際に臨んで両商標を称呼する場合には,自他識別のために無意識的に語頭音を強く発音する,という経験則が存在することを認めることはできない。
仮に,一般論として,語頭音が称呼を識別するうえで重要な要素を占めることが多いとしても,上述したとおり,本件商標の「リスコート」及び引用商標の「ビスコート」は,5音から成る文字のうちの語頭の子音のみが相違しているだけであり,その子音は,弱い破裂音か破裂音かで異なるだけであって,しかも,「リスコート」及び「ビスコート」は,それ自体で何らかの意味を有するというものではないという本件の場合において,一般の取引者・需要者が,自他識別のために無意識的に「リ(ri)」や「ビ(bi)」を強く発音するとは考えにくい。
被告は,「リ」と,「ビ」の音質が著しく異なることは,たとえば「リンゴ」と「ビンゴ」,「リショク」と「ビショク」などにおいて,これらが互いに1音違いの語であることを意識させないほどに,両者は全体としての語感,語調が異なり,相紛れるおそれが皆無であることに照らしても明らかである旨主張する。
しかしながら,これらの語はいずれもよく知られた語であり,そのため,「リンゴ」という語からは,林檎という特定の果実の観念が,「ビンゴ」という語からは,その名を冠する特定のゲームの観念が,「リショク」という語からは,「離職」,「利殖」などという観念が,「ビショク」という語からは,「美食」という観念が,それぞれ極めて明確に生じることは,当裁判所に顕著である。そして,いずれもよく知られた語同士の間では,称呼自体には似ている要素が多くとも区別が比較的容易となることも,当裁判所に顕著である。また,これらの語が現実に使用される状況に着目すると,「リンゴ」と「ビンゴ」,「リショク」と「ビショク」では,ほとんどの場合,一方の使用は予想できても,他方の使用は予想できない場面でしか使用されないということができ(果実店で,「リンゴ」は注文しても,「ビンゴ」を注文することはない。),このような使用により相紛れることがないのは,むしろ当然というべきである。したがって,現実に,これらの間で相紛れることがないとしても,そのことから,直ちに,相紛れるおそれが少ない理由は,「リ」と,「ビ」の音質が著しく異なるためである,とする結論を導き出すことはできない。
被告の上記主張も,採用できない。
2 混同のおそれについて (1) 一般に,商標の類否は,対比される二つの商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきである。その場合,考察は,上記のような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼によって取引者・需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的になされるべきであり,しかも,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきである。また,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎないから,外観,観念,称呼の3点のうち1点において類似するものでも,他の2点において著しく相違することその他取引の実情等によって,何ら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認め難い事情があると認められるときには,類似商標に当たらないと解するべきである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
(2) 上記認定のとおり,本件商標の「リスコート」と引用商標の「ビスコート」とは,全体として語調・語感が近似し,称呼上,相紛らわしいものであるから,両商標の類否判断においても,一応,出所の誤認混同のおそれを生じさせると推測されるということができる。そして,本件全証拠を検討しても,商品の出所に誤認混同を来すおそれを認め難い事情を認めることはできない。したがって,本件商標は引用商標の類似商標に当たると解すべきである。
(3) 被告は,原告が,取引の実状に照らして,本件商標,引用商標を付した薬剤相互間に現実に出所の混同ないしその危険が生じていることの主張立証をしていない旨主張する。
しかしながら,上述したとおり,本件商標と引用商標とは,称呼において相紛らわしく,本件商標を使用した商品につき出所の混同のおそれを一応推測させるものであるから,両商標が類似することを妨げる取引の実情は,被告こそが主張立証すべき事柄であるというべきである。
しかも,取引の実情をみると,むしろ,商品の誤認混同のおそれが肯定されるということができる。
甲第12号証,第14号証,第18号証,甲第22号証,第23号証の各1,2によれば,原告の製造販売する眼科手術補助剤「ビスコート」(以下「本件商品」という。)は,まず,米国において,各種非臨床試験及び臨床試験が行われ,1986年(昭和61年)に,「白内障摘出術及び眼内レンズ挿入術を含む前眼部手術における手術補助」を効能として承認を取得したこと,その後,米国をはじめとする世界各国で販売されるようになり,我が国においては,平成5年から,本件商品について,「超音波水晶体乳化吸引術」及び「白内障摘出術及び眼内レンズ挿入術」における手術補助剤としての有効性及び安全性について検討が行われ,有効性及び安全性が確認されたうえで,平成11年9月に輸入承認を受けたこと,本件商品は,我が国において,白内障摘出等の手術の際に眼球に注入する手術補助剤として使用されるものであることから,その流通経路は,製薬会社から出荷され,専門の卸業者を経由して,病院ないしは医院に販売され,もっぱら眼科医師が最終需要者となることが認められる。
また,甲第9号証,第10号証の2,第11号証によれば,原告は,1945年創業の眼科用薬剤を主たる製品とする製薬会社であり,一方,被告も,昭和22年の創業以来,眼科薬一筋に歩んできた会社であり,平成5年当時においても,眼科用薬剤が同社の売上高の87%を占めていたことが認められる。これによれば,原告と被告とは,いずれも眼科用薬剤を製造販売しているという点で事業内容が共通していることが明らかである。
上記認定の各事実によれば,本件商標は,被告の眼科用薬剤に使用される見込みが大きく,その場合には,その流通経路が本件商品のそれと競合する可能性があり,その場合,少なくとも流通経路の中間にいる卸業者あるいは病院あるいは医院の窓口となる者においては,耳からの情報のみによって取引をすることが少なくなく,本件商標と引用商標との称呼上の紛らわしさから,商品の出所に混同をきたすおそれがあるものというべきである。
したがって,被告の上記主張は,失当である。
(4) 以上検討したところによれば,本件商標と引用商標とが,称呼,観念及び外観のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標であるとし,この類否判断を左右するに足りる取引の実情もないとした審決の認定判断は,誤っていることが明らかである。
3 そうすると,審決の取消しを求める原告の請求は,理由がある。そこで,これを認容することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 宍戸充
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