審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成12行ケ234審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成16行ケ18審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成10ワ9655商標法違反差止等請求事件 | 判例 | 商標 |
平成18行ケ10233審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成9ワ26980商標権使用差止等請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 識別力 / 包装 / 指定商品 / 普通名称(3条1項1号) / 慣用商標(3条1項2号) / 周知性 / 不正目的(不正の目的) / 不正競争の目的 / 類似性(類否判断) / 立体商標 / 損害額 / 逸失利益 / 通常使用権 / 先使用(32条) / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 全体観察 / 国内 / 差止 / 継続 / 商号 / 利益額 / |
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事件 |
平成
8年
(ワ)
11623号
不正競争差止等請求事件
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原告 株式会社共和右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 山田正 同 堀野家苗 同 西浦克明 被告 シモジマ商事株式会社右代表者代表取締役 【B】 右訴訟代理人弁護士 伊藤真 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2000/07/11 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
一 被告は、原告に対し、金二八〇〇万円及び内金二五五〇万円に対する平成九年一月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。 二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 三 訴訟費用は、これを五分し、その四を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 四 本判決の主文第一項は、仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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請求
一 被告は、別紙第二目録(一)及び(二)記載の標章を付し、又は同標章を付した結束用ゴムバンドを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。 二 被告は、その所持に係る別紙第二目録(一)及び(二)記載の標章を付した結束用ゴムバンドの包装用箱紙及び紙袋を破棄せよ。 三 被告は、原告に対し、金三〇五〇万円及び内金二五五〇万円に対する平成九年一月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要等
一 事案の概要 本件は、被告が販売していたゴムバンドの包装箱及び包装袋に付されていたデザイン(標章)が、原告の有する商標権に係る商標と類似し、商標権を侵害するとして商標法36条、38条2項に基づいて、また、同商標権に係る商標は原告の周知商品表示であるところ、被告の標章はこれに類似し、誤認混同のおそれがあるとして、不正競争防止法2条1項1号、3条、4条、5条1項に基づいて、その販売の差止め等及び損害賠償を請求した事案である(なお、損害賠償請求については、商標権侵害による請求と不正競争防止法による請求とは選択的併合の関係にある。)。 二 当事者間に争いのない事実 1 当事者 (一) 原告は、大正一二年、共和護謨合資会社として設立され、昭和六年共和護謨株式会社に改組後、昭和四八年に現在の社名に変更された、結束用ゴムバンド等のゴム製品の製造、販売等を目的とする会社である。 (二) 被告は、昭和三七年に商号を下島産業株式会社として設立された会社であり、平成三年に商号を現在のものに変更するとともに、当時、訴外下島荷具工業株式会社の関連会社として存在していたシモジマ株式会社及びシモジマ商事株式会社を吸収合併し、今日に至っている。 2 原告の有する商標権 (一) 原告は、次の商標権を有する(以下、(1)の商標権を「本件第一商標権」、その商標を「本件第一商標」と、(2)の商標権を「本件第二商標権」、その商標を「本件第二商標」という。また、本件第一、第二商標権を併せて「本件商標権」、それら商標を併せて「本件商標」という。)。 (1) 登録番号 第一九〇六〇九五号 出願日 昭和五七年九月三〇日(商願昭五七-八六五一二号) 公告日 昭和六一年二月二六日(商公昭六一-一六〇一〇号) 商品区分 旧第一八類 指定商品 結束用ゴムバンド 登録日 昭和六一年一〇月二八日 登録商標 別添商標公報記載のとおり (2) 登録番号 第一九〇六〇九六号 出願日 昭和五九年五月一一日(商願昭五九-四八五三〇号) 公告日 昭和六一年二月二六日(商公昭六一-一六〇三五号) 商品区分 旧第一八類 指定商品 結束用ゴムバンド 登録日 昭和六一年一〇月二八日 登録商標 別添商標公報記載のとおり 3 原告は、別紙第一目録(一)記載の標章をゴムバンドの包装箱に、別紙第一目録(二)記載の標章をゴムバンドの包装袋に付して製造、販売している(以下、 これらの商品を「原告商品」という。)。 4 被告は、少なくとも平成八年九月ころまで、別紙第二目録(一)記載の標章(以下「被告第一標章」という。)を箱型に組み立てたものをゴムバンドの包装箱に、また、別紙第二目録(二)記載の標章(以下「被告第二標章」といい、被告第一標章と併せて「被告標章」という。)をゴムバンドの包装袋の前面に付して販売していた(以下、これらの商品を「被告商品」という。なお、原告は、被告商品の販売時期を平成八年一二月末ころまでと主張している。)。 三 争点 1 商標権に基づく請求 (一) 被告第一標章は本件第一商標に、被告第二標章は本件第二商標に、それぞれ類似するか。 (二) 被告に、被告標章について、先使用に基づく通常使用権が認められるか。 2 不正競争防止法に基づく請求 (一) 本件商標は原告の商品を表示するものとして需要者の間に周知か。 (二) 本件第一商標と被告第一標章、本件第二商標と被告第二標章は、それぞれ類似し、誤認混同のおそれがあるか。 (三) 被告に、被告標章について、先使用に基づく適用除外が認められるか。 3 両請求共通 (一) 原告の損害額 (二) 本訴請求のうち、被告標章を付した商品の譲渡等の差止めに係る部分について、被告が被告標章を使用するおそれがあるか。 四 当事者の主張 1 争点1(一)(類似性)について 【原告の主張】 (一) 本件商標は、文字、図形及び記号と色彩を構成要素とするものであり、このような商標の類否を検討する場合には、これらを一体的に結合したものとして比較し、外観、称呼、観念に基づく印象、記憶、連想等から、全体的に見て類似するものと受け取るおそれがあるか否かを判断すべきである。 (二) 被告標章は、以下に述べるように、外観において本件商標と類似している。 (1) 本件第一商標と被告第一標章の類似性 ア 本件第一商標は、小豆色を下地とした別紙図面1のような形を成しており、同標章のうち、同図面のロ、ハ、ヘ、リの各点を結んだ直線で囲まれた部分(以下「上面部分」という。)は、別紙図面2の原告商品の「上面」に使用され、別紙図面1のハ、ニ、ホ、ヘの各点を結んだ直線で囲まれた部分(以下「正面部分」という。)は、別紙図面2の「正面」に、別紙図面1のイ、ロ、リ、ヌの各点を結んだ直線で囲まれた部分(以下「裏面部分」という。)は別紙図面2の「裏面」に、別紙図面1のリ、ヘ、ト、チの各点を結んだ直線で囲まれた部分(以下「側面部分」という。)は、別紙図面2の「側面」にそれぞれ対応して使用されている。なお、被告標章も、本件商標と同様の形態で被告商品の包装箱に使用されている。 そして、本件第一商標においては、上面部分には、小豆色地のほぼ中央に黄色を用いて上段の幅がやや太い三段構成となるように配色し、その上段小豆色部分のやや左寄りにデザイン化されたクリーム色のローマ字筆記体で「O'Band」と表記し、その下に小さく同色のローマ字で「PURE RUBBER BANDS」と記し、下段の小豆色部分やや右寄りにデザイン化された黄色影付の白色片仮名文字で「オーバンド」と横書きし、中段の黄色部分のほぼ中央に右上がりの横書きで「純正・高級」の文字が記されている。 また、上面部分の右上に輪ゴムを引っ張る指の絵を描き、左下の円形取出口部分の外側に沿って半円形をなし右指先の方向に尖った流線形状をなす引き伸ばされた輪ゴムをイメージした白色の円形を描き、右取出口の内側に沿って輪ゴムをイメージした白色の円形を描き、右取出口部分の中に「簡便」、「経済」の文字を二段横書きで記している。 そして、正面部分及び裏面部分には、箱の下側になる端の部分(別紙図面1のイ、ヌ及びニ、ホ)に沿って黄色のストライプを入れ、小豆色の下地部分は、上面部分と同じ色、ロゴタイプデザインの「O'Band」のローマ字をやや大きく表示している。また、側面部分には、小豆色の下地にやはり右と同じ「O'Band」のローマ字をやや小さめに入れている。 イ これに対し、被告第一標章は、小豆色の下地に黄色系の配色を成し、その黄色部分の位置も本件第一商標と同じであり、また、上面部分の右上に本件第一商標と同じような輪ゴムを引き伸ばす手の絵を描き、左下の取出口部分の内側に沿って描かれた白色の円形、及び同部分の外側に沿って半円を描きそこから右上の方向に尖った流線型を成す白色の図形も本件第一商標と酷似しているし、右取出口部分の内に「簡便」「経済」の文字が二段横書きで記されている点でも一致する。 さらに、「スーパーバンド」と「Super Band」の被告商品名を示す文字の位置については、「スーパーバンド」の片仮名文字を上面黄色部分に表記し、側面部分も片仮名文字の下に小さくローマ字で表すなど本件第一商標と異なる点があるものの、文字の色、デザイン、大きさは、本件第一商標に表記された「オーバンド」及び「O'Band」のローマ字及び片仮名文字とほとんど同じであり、文字の配置関係もよく似ている。また、「純正・高級」の文字が、上面中段の黄色部分の中央付近に、やや右上がりの横書きで描かれている点も同様である。 (2) 本件第二商標と被告第二標章の類似性 ア 本件第二商標は、黄色地の縦長長方形の上から順に黄色、茶色、黄色、茶色、黄色とほぼ等間隔(但し、最下段の黄色部分は他の部分よりやや太い。)の五段の縞模様を表し、その二か所の横長の長方形茶色部分に、黄色のローマ字筆記体をデザイン化した文字で「O'Band」と表記し、その間の黄色部分にやはりデザイン化された茶色片仮名文字で「オーバンド」と横書きし、また同片仮名文字の左上にやや右上がりの茶色横長の長方形を描き、その中に黄色文字で「純正・高級」と横書きし、最上段の黄色部分には黒色ローマ字で「PURE RUBBER BANDS」と、最下段の黄色部分には原告の品質に関する文言が茶、黒、赤の横書き文字でそれぞれ記載されている。 イ これに対し、被告第二標章は、縦長長方形の黄色地に、黄色と茶色を用いた五段の縞模様をなし、その縞模様の同じような位置関係に、本件第二商標と酷似したデザインでほぼ同じ大きさの、黄色ローマ字筆記体および茶色横書きの片仮名文字で被告商品名を表し、その他、「純正・高級」及び「PURE RUBBER BANDS」の表記も位置、大きさ、色が一致しており、また品質に関する記載文字の位置、大きさ、色も本件第二商標とほとんど同一である。 以上より、被告の主張する相違点を考慮してもなお、本件第二商標と被告第二標章の類似性を否定することはできない。 【被告の主張】 (一) 被告は、被告標章を別紙第二目録(一)のような右凸型の図形として、 商標として使用しているものではない。被告商品の包装箱からは、右のような凸型の図案自体は看取することはできない。 (二) 原告商標の要部は、「O'Band」なるローマ字筆記体の文字部分及び「オーバンド」なる黄色影付の白色片仮名部分である。 原告が用いている「O'Band」、「オーバンド」と、被告が用いている「Super Band」、「スーパーバンド」とを対比すると、「Band」、「バンド」は、日本語としてもそのまま意味が通じる紐や帯等を意味する英語であり、ゴムバンドを意味する普通名称にすぎない。さらに、被告の用いる「Super」、「スーパー」は等級を示す平易な用語にすぎず、「O'Band」、「オーバンド」と「Super Band」、「スーパーバンド」とは、称呼・外観・観念のいずれにおいても類似するものではない。 (三) 原告が主張するような本件商標の外観は、ゴムバンドの包装容器及び包装箱に一般的にみられるものであって、識別力を有するものではない。 被告第一標章は、上下段の色が、本件第一商標の色よりも赤みがかった茶色であるうえ、中段の色が橙色である点、手首から先の絵が描かれ、指を丸くして輪ゴムを摘んでいる点、上段と下段に英文表記で商品名を記載するとともに、中段に片仮名で商品名を記載している点が、本件第一商標と異なる。被告第二標章は、一つの商品名(Super Band)を上段と下段に分けて二段表記している点が、本件第二商標と異なる。 (四) 被告は、被告第二標章について商標登録出願をしたところ、本件第二商標権ではなく、別の商標権の存在を理由として拒絶理由通知を受けた。特許庁の手続においては、拒絶理由となる先願商標はすべて引用されるのが原則であるから、特許庁は、被告第二標章と本件第二商標は類似しないと判断したものである。 また、被告は、被告商品のうち、箱製品について、これを立体商標として出願し、 拒絶理由通知を受けたが、この際に引用されたのも、原告商品の立体商標に係る商標権であって、本件第一商標権ではない。 (五) 右各点からすれば、本件商標と被告標章は類似しない。また、原被告商品はいずれも中央部分に商品名が明瞭に記載されていることからすれば、全体観察においても両者が類似しないことは明らかである。 現に、被告は、昭和五三年ころ以降、被告標章を使用しているが、平成四年四月一日以降、需要者の間において原告商品と被告商品が混同されるような事情は何ら発生していない。 2 争点1(二)(先使用)について 【被告の主張】 被告は、被告標章を付した包装のゴムバンドを、昭和五三年ころから使用していた。 本件第一商標の出願日である昭和五七年九月三〇日当時、及び、本件第二商標の出願日である昭和五九年五月一一日当時においては、被告商品はそれなりの販売数量を達成しており、また、総合カタログの頒布等によって、被告標章は被告の商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されていた。 【原告の主張】 争う。 原告は、昭和二八年に、本件商標を使用した原告商品を発売して以来、次々にゴムバンドの需要を開拓して、常に業界トップのシェアを確保し、原告商品について、これまでに何度も雑誌、テレビ等の取材を受け、記事や番組に取り上げられている。 被告が被告商品を販売するようになったと主張する昭和五三年ころには、 既に原告商品の発売以来二〇年以上を経過し、本件商標は、ゴムバンドの定番として、需要者の間において広く知られるようになっていた。その後も原告は順調にシェアを伸ばし、平成六年五月ころには国内シェアの約七割を占めるようになり、現在もなお六五パーセント程度のシェアを有している。 したがって、本件商標は、被告が被告標章の使用を始める以前には、周知性を獲得していたものであり、被告商品の製造、販売は、その発売当初から、本件商標に化体した原告の信用を冒用していたものである。 3 争点2(一)(周知性)について 【原告の主張】 (一) 原告は、会社設立当初の大正一二年に、現在のようなあめ色輪形のゴムバンドを完成し、その製造、販売を開始した。原告の右ゴムバンドは、その販売当初より、大変な評判となり、新聞や雑誌にも取り上げられて人気を集め、たちまち全国に知られるようになり、昭和七年ころには、他の追随を許さないトップメーカーとしての地位を確立した。 (二) 原告は、昭和二六年ころより、日本を代表するグラフィックデザイナーであった【C】によってデザインされた本件第一商標を付した箱入りの原告商品を製造、販売している。そして、原告は、本件第一商標をもとに、そのロゴタイプデザイン、色彩等を転用して、本件第二商標を創作し、昭和二七年ころより、これを付した袋入りの原告商品を製造、販売している。 原告は、右当時、既に大正一二年から三〇年近くもの間、ゴムバンド業界で随一の生産量を誇り、先行トップメーカーとして有名になっていた。そのような状況にあったため、本件商標は、原告商品の包装に付して販売を開始すると同時に原告の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識され、遅くとも被告が設立された昭和三七年ころには、確実に周知性を取得していたものである。 (三) ある商標が、その機能上、商品識別力を失い、慣用商標とみなされるのは、その商標が多数人により使用されているというような社会的事実が存在するからである。本件商標と類似した外観を有するデザインの使用を原告が承諾し、そのような原告の承諾に基づくデザインを使用した商品が二、三存在するとしても、 それだけで右のような社会的事実が存在しているということはいえず、識別力が失われたということもできない。 【被告の主張】 前記のとおり、本件商標と類似する包装箱及び包装容器を用いたゴムバンドが複数の会社から発売されている状況下では、本件商標が原告の商品を識別する標識として周知性を獲得することはあり得ない。 4 争点2(二)(類似性・誤認混同のおそれ)について 【原告の主張】 (一) 前記1【原告の主張】のとおり、本件第一商標と被告第一標章、本件第二商標と被告第二標章は、それぞれ類似する。 (二) 需要者は、本件商標と被告標章の類似性から、原告商品と被告商品を誤認、混同するおそれがある。 現に、原告には、需要者から、被告商品について問い合わせが多数寄せられている。 【被告の主張】 前記1【被告の主張】のとおり、本件第一商標と被告第一標章、本件第二商標と被告第二標章は、いずれも類似していない。 需要者は、一般に商品名で商品を区別するのであり、「オーバンド」及び「O'Band」の名称をもって「商品を表示するもの」として扱い、包装箱及び包装袋のデザインをもって「商品を表示するもの」、すなわち識別標識としては意識しないのである。 5 争点2(三)(被告の先使用)について 【被告の主張】 被告は、被告標章を付した包装のゴムバンドを、昭和五三年ころから使用していた。 仮に原告商標が原告の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているとしても、被告は、それよりも以前から被告標章を不正の目的ではなく使用しているから、不正競争防止法11条1項3号により、同法3条ないし5条の規定は適用されない。 【原告の主張】 本件商標は、昭和三七年以前より、原告の出所を示すものとして需要者の間で広く認識されていたから、被告の主張は失当である。 6 争点3(一)(損害)について 【原告の主張】 (一) 被告は、本件商標権を侵害し、又は不正競争行為に当たることを知りながら、平成五年一一月一五日から平成八年一二月末日までの間、被告商品を販売した。 原告は、原告商品を昭和二六、七年から長期間にわたり製造、販売してきており、被告商品の販売数量は、原告の製造、販売数量の約二・三パーセントにすぎないから、原告は、新たな設備投資や従業員の雇用を要さず、そのままの状態で製造、販売が可能であった。したがって、被告の得た利益も、被告商品の売上高からその仕入価格等、販売のための変動経費のみを控除した額と解するのが相当であって、被告商品のデザイン代等の開発費用や、間接部門の労働者の人件費等の一般管理費、営業外費用、租税公課、減価償却費等は控除の対象とならないと解すべきである。 被告は、右にいう販売のための変動経費を要した点についても立証をしないから、被告商品の販売について控除すべきなのは、仕入価格のみである。そうすると、被告が右期間に被告商品を販売したことにより得た利益は、少なくとも二五五〇万円を下らない。 右被告の利益額は、原告の損害の額と推定される。 (二) 原告は、本訴提起を弁護士に依頼しなければならなかったところ、当該弁護士費用は五〇〇万円を下らない。 (三) よって、原告は、被告に対し、右合計三〇五〇万円及び内金二五五〇万円に対する平成九年一月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いを求める。 【被告の主張】 争う。 (一) 損害賠償の算定に際して、相手方の得た利益を損害と推定するのは、 相手方が当該商品を販売しなかったら、被害者の商品がその分だけ売れたはずであるとの推定が成り立つことを前提とするものである。 しかるに、ゴムバンドは、通常、複数の種類を店頭に並べて販売する形態がとられることはなく、また、原告と被告は商品を卸す代理店も異なる。さらに、ゴムバンドは、原被告の商品以外にも多数存在し、需要者においてブランドにこだわるような性質の商品ではない。したがって、被告商品を販売しなかったら、 原告商品がその分だけ売れたということはできないから、被告商品の販売による利益を原告の損害と推定することはできない。 (二) 仮に、被告の得た利益額が原告の損害と推定されるとしても、売上高から仕入価格のほか、次の経費を控除して計算すべきである。 (1) 被告商品は、訴外オカモト(以下「オカモト」という。)に全量生産させて、これをそのまま販売している。納品は、原則としてオカモトから被告の配送部の倉庫に納品され、そこから大口顧客先に納品されるという形態をとり、主に全国の各営業部が取り扱う。なお、配送費用のうち、オカモトから被告への配送分はオカモトが負担し、被告から顧客への配送費用は被告が負担する。 被告における営業部の売上げは、被告全体の売上げの六六パーセントを占め、営業部の売上げのうち、被告商品の売上げが占める割合は〇・二四パーセントである。 したがって、被告商品の販売に関連する販売費及び一般管理費としては、営業部における販売費及び一般管理費に、商品管理部の販売費及び一般管理費のうち営業部に係る部分として六六・〇パーセントを加算したものを算出し、これに営業部の売り上げのうちで被告商品が占める割合である〇・二四パーセントを割り付けるべきである。 (2) 営業部の販売費及び一般管理費のうち、被告商品の販売に関連する費目の合計額は、平成八年度において、二六億二八八七万八〇〇〇円であり、また、 商品管理部の販売費及び一般管理費のうち、被告商品の関連する費目の合計額の六六・〇パーセントを計算すると、四億四八二八万六〇〇〇円である。 したがって、被告商品の販売に関連する販売費及び一般管理費は、三〇億七七一六万四〇〇〇円となり、これが被告の全販売費及び一般管理費に占める割合は三九・七五パーセントとなる。 (3) これに基づいて、平成五年度から平成八年度までの被告商品の販売に係る販売費及び一般管理費を計算すると、次のとおりとなる。 平成五年度 五五七万九〇〇〇円 平成六年度 七六〇万五〇〇〇円 平成七年度 七五六万二〇〇〇円 平成八年度 七三八万六〇〇〇円 右金額のうち、本訴請求に係る期間の部分については、被告の得た利益額の算定に当たって控除されるべきである。 (三) なお、乙32は、被告の平成五年一一月一五日以降の被告商品の仕入原価、販売数量、販売額について、被告のコンピュータに入力されたデータを出力したものであるが、データ入力の際に、販売先の都合で、被告商品と被告の別ブランドである「ヘイコーバンド」とを区別せずに、単に「ゴムバンド」として入力されたものがあり、これは乙32には含まれていない。 7 争点3(二)(被告標章を使用するおそれ)について 【被告の主張】 被告は、その販売するゴムバンド(スーパーバンド)のデザインについて、既に変更済みであり、今後、被告標章を使用する予定は一切ない。 【原告の主張】 争う。 |
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当裁判所の判断
(証拠は甲1などと省略し、枝番全部を含むときは枝番の記載を省略する。) 一 争点1について 1 争点1(一)(類似性) (一) 本件第一商標と被告第一標章について (1) 証拠(甲1の1、19の1、20、検甲2)によれば、本件第一商標は次のとおりの特徴を有するものと認められる。 ア 外観的特徴 全体外形は、直方体箱体のうちの上面及び側面三方の合計四面を展開した形状であり(別紙図面1参照)、全体の下地の色彩を小豆色としている。これを上面部分、正面部分、裏面部分、側面部分に分割して観察すると、 a 上面部分について 中央やや下寄りに黄色地の帯を横方向に配し、全体の色彩を小豆色、黄色、小豆色の三段構成としている。 左下に大きく白色の円形を、右上に右手の親指と人差し指を表す図柄を配し、左下の円形の周囲に沿って半円形に黄色の線を記すとともに、これを右上の図柄の指先と結ぶことにより、指先で輪ゴムを引っ張ったイメージを表している。また、左下の円形の中には、小豆色の文字で「簡便!」、「経済!」と二段に横書きしている。 上段には、中央やや左寄りに、ローマ字筆記体をデザイン化したクリーム色の文字で「O'Band」と大きく横書きし、その下にクリーム色の文字で「PURE RUBBER BANDS」と小さく横書きしている。 中段には、中央部分に右肩上がりの斜め方向に小豆色の文字で「純正・高級」と横書きし、また、右下には地球儀をデザイン化した模様の上に「1000000」と記載したマークが表記されている。 下段には、右寄りに、白色に黄色の影を付した片仮名文字で「オーバンド」と大きく横書きし、その下には白色で原告社名等が記載されている。 b 正面部分及び裏面部分について 正面部分は、小豆色の下地に、下方に細く横帯状に黄色を配して、二段構成としている。 上段には、ローマ字筆記体をデザイン化したクリーム色の文字で「O'Band」と大きく横書きし、その上方に白色で小さく片仮名文字で「オーバンド」と横書きし、これを白色楕円で囲んでいる。また、下方には、クリーム色の文字で「Neater! Quicker! Cheaper! than string」と横書きしている。 下段には、黒色の文字で「MANUFACTURED BY KYOWA LIMITED」と横書きしている。 裏面部分は、上面部分の対角線の交点を中心として点対称となる、正面部分と同一の図柄である。 c 側面部分について 側面部分は、上寄りにローマ字筆記体をデザイン化したクリーム色の文字で「O'Band」と大きく横書きし、その上方にクリーム色のローマ字で「ALL PURPOSE」と小さく横書きし、下方にはクリーム色の文字で「PURE RUBBER BANDS」と小さく横書きしている。また、右下に白丸を配してその中に黒文字で「NO.16」と、左下にも同様に白丸を配してその中に「NET 100g」と表記し、その間に白色文字で原告社名等を横書きしている。 イ 称呼 本件第一商標の称呼についてみるに、デザイン化された「O'Band」との文字及び「オーバンド」の文字から、「オーバンド」との称呼を生ずるものと認められる。 (2) 別紙第二目録(一)によれば、被告第一標章の構成は、次のとおりであると認められる(なお、被告は、被告第一標章を別紙第二目録のような平面形状ではなく、紙箱の立体形状として使用したにすぎないと主張するが、被告商品の包装箱の外観からは被告標章(一)を認識することができるから、被告の右主張は、以下の検討を左右するものではない。)。 ア 外観的特徴 全体外形は、直方体箱体のうちの上面及び側面三方の合計四面を展開した形状であり(別紙図面1参照)、全体の下地の色彩を小豆色としている。これを、正面部分、裏面部分、側面部分に分割して考察すると、 a 上面部分について 中央やや下寄りに黄色と橙色の中間色(別紙第二目録(一)参照。 以下、単に「橙色」という。)の帯を横方向に配し、全体の色彩を小豆色、橙色、 小豆色の三段構成としている。 左下に大きく小豆色の円形を、右上に右手の手首から先を表す図柄を配し、左下の円形の周囲に沿って半円形に白線を記すとともに、右上の図柄の指先と結ぶことにより、指先で輪ゴムを引っ張ったイメージを表している。また、 左下の円形の中には、白色の文字で「簡便」、「経済」と二段に横書きしている。 上段には、中央やや左寄りに、ローマ字筆記体をデザイン化したクリーム色の文字で「Super」と大きく横書きしている。 中段には、中央部分に右肩上がりの斜め方向に小豆色の文字で「純正・高級」と横書きし、右寄りに白色に小豆色の影を付けた片仮名文字で「スーパーバンド」と横書きしている。 下段には、右寄りに、ローマ字筆記体をデザイン化したクリーム色の文字で「Band」と大きく横書きしている。 b 正面部分及び裏面部分について 正面部分は、下方に細く横帯状に橙色を配し、二段構成としている。 上段には、ローマ字筆記体をデザイン化したクリーム色の文字で「Super Band」と大きく横書きし、その上方に白色で小さく動物を模したマークを配し、これを白色楕円で囲んでいる。 裏面部分は、上面部分の対角線の交点を中心として点対称となる、正面部分と同一の図柄である。 c 側面部分について 側面部分は、上寄りにクリーム色の片仮名文字で「スーパーバンド」と大きく横書きし、その下方にローマ字筆記体をデザイン化した白色文字で「Super Band」と小さく横書きしている。また、右下、中央下、左下にそれぞれ白い四角形を配して、右下の四角形の中には「No.14」等と、中央下には「NET 100g」と、左下にはバーコードを、それぞれ記載している。 イ 称呼 被告第一標章の称呼についてみるに、デザイン化された「Super Band」との文字及び「スーパーバンド」の文字から、「スーパーバンド」との称呼を生ずるものと認められる。 (3) そこで、本件第一商標と被告第一標章の外観について比較すると、全体の色調、文字及び図柄の配置態様が類似することは明らかである。すなわち、まず、全体については、下地を小豆色の色彩とし、これに黄色系統の色彩を配するとともに、ローマ字筆記体をデザイン化したクリーム色の文字で商品名を横書きしている点、上面については、中央横方向に黄色系統の色彩の帯を配して三段構成とし、左下に円形を、右上に手の図柄を配し、左下の円形の周囲及び右上の図柄の指先を線で結ぶことにより、指先で輪ゴムを引っ張ったイメージを表している点、左下円形の中には、「簡便」、「経済」と二段に横書きしている点、中央に「純正・高級」と右肩上がりで横書きしている点などが類似しており、全体から受ける印象が極めて近似しているということができる。のみならず、本件第一商標の「O'Band」と、被告第一標章の「Super Band」に共通する「Band」の部分について、これをデザイン化した部分は、ほぼ同一の形状となっており、また、片仮名文字についても、両者に共通する「バンド」の部分を比較すれば明らかなように、ごく近い装飾形態を採用しており、この点からも、両者は極めて類似する印象を与えるものということができる。 この点、確かに、本件第一商標と被告第一標章を並べて逐一比較検討すれば、前記(1)、(2)に記載したとおり、個々の部分においては相違点があり、また、本件第一商標の称呼は「オーバンド」と、被告第一標章の称呼は「スーパーバンド」と見るのが相当である点も異なる。しかし、右に述べたところの色彩、構成、デザイン化された文字の配置、装飾態様から需要者が受けることとなる全体の印象の類似性からすれば、これを離隔観察の観点から検討した場合には、なお、被告第一標章は、本件第一商標と類似するものと評価するのが相当である。 (二) 本件第二商標と被告第二標章について (1) 証拠(甲1の2、19の2、21、検甲3)によれば、本件第二商標は、 次のとおりの特徴を有するものと認められる。 ア 外観的特徴 a 全体を横に五分割し、下地の色彩を上から順に黄色、茶色、黄色、茶色、黄色としている。 b 第一段目には黒色で地球儀を模した図柄の上に「1000000」と表記した図柄を配し、その下に小さな黒色ローマ字で「PURE RUBBER BANDS」と横書きしている。 c 第二段目及び第四段目には、黄色のローマ字筆記体をデザイン化した文字で大きく「O'Band」と記載している。 d 第三段目には、左上に茶色で右肩上がりにやや傾けた横長長方形を配し、その中に黄色の文字で「純正・高級」と表記している。また、中央部分に茶色に黒色で影を付けた片仮名文字で「オーバンド」と大きく横書きし、その上に黒色文字で小さく「ゴムバンドの元祖」と表記している。 e 第五段目には、「オーバンドの品質について」(「オーバンド」の部分は茶色の太字で強調している。)と横書きし、その下に説明書きを付している。また、右側には黒色の円を描いてこれを水平に分割し、上段に「No.18」と、下段に「NET 500g」といずれも横書きに記載し、下部中央には、原告社名等が記載されている。 イ 称呼 本件第二商標の称呼についてみるに、「O'Band」、「オーバンド」との表記から、「オーバンド」との称呼を生じるものと認められる。 (2) 被告第二標章の外観であることが当事者間に争いのない別紙第二目録(二)によれば、被告第二標章は、次のとおりの構成を有するものと認められる。 ア 外観的特徴 a 全体を横に五分割し、下地の色彩を上から順に黄色、茶色、黄色、茶色、黄色としている。 b 第一段目には黒色で動物を模した図柄を楕円形の中に記載し、その下に小さな黒色ローマ字で「PURE RUBBER BANDS」と横書きしている。 c 第二段目には、黄色のローマ字筆記体をデザイン化した文字で大きく「Super」と記載している。 d 第三段目には、右上に茶色で右肩上がりにやや傾けた横長長方形を配し、その中に黄色の文字で「純正・高級」と横書きしている。また、中央部分に小豆色に黒色で影を付けた片仮名文字で「スーパーバンド」と大きく横書きし、 その上に黒色文字で小さく「ゴムバンド」と表記している。 e 第四段目には、黄色のローマ字筆記体をデザイン化した文字で大きく「Band」と記載している。 f 第五段目には、「スーパーバンドの品質について」(「スーパーバンド」部分は小豆色の太字で強調している。)と横書きし、その下に説明書きを付している。また、右側には黒色の円を描いてこれを水平に分割し、上段に「No.8」等と、下段に「NET 500g」等といずれも横書きに記載し、下部中央には、黒色で「TOKYO JAPAN」と記載されている。 イ 称呼 被告第二標章から生じる称呼についてみるに、「Super」、「Band」及び「スーパーバンド」の表記から、「スーパーバンド」の称呼を生じるものと認められる。 (3) そこで、本件第二商標と被告第二標章を比較すると、まず、全体の色彩について、横方向に五段に分割し、上から黄色、茶色、黄色、茶色、黄色の色彩としていること、第二、第四段目に黄色のローマ字筆記体をデザイン化した文字、 第三段目の茶色又は小豆色に黒色で影を付けた片仮名文字で商品名を記載していること、第三段目左上に茶色で右肩上がりにやや傾けた横長長方形を配し、その中に黄色文字で「純正・高級」と記載していることなど、需要者の注意を引く特徴的部分がことごとく類似している。特に、デザイン化された商品名の部分についても、 本件第一商標と被告第一標章の場合と同様に、デザイン自体が極めて類似し、近似した印象を与えるものということができる。 さらに、第五段目に記載されている説明書には、商品名である「オーバンド」と「スーパーバンド」との相異を除いては、装飾形態も含めて、一字一句同一である。 右類似点からすれば、本件第二商標と被告第二標章は、需要者に極めて類似した印象を与え、特に離隔観察においては、混同のおそれがあるものと認めるのが相当である。 (三) 被告は、ゴムバンドに係る商標には、本件商標と類似するものが多数存在することから、本件商標と被告標章の類似点をもって、本件商標と被告標章が類似すると言うことはできないと主張する。 確かに、証拠(乙11)によれば、原告商品、被告商品の他にも、「フクバンド」、「プリンスバンド」、「ローヤルバンド」(本件第一商標について)、 「プリンスバンド」、「ミヤコバンド」、「ローレルバンド」(本件第二商標について)など、全体の色使い、デザイン等が類似する標章を付した商品が存在することが認められる(なお、証拠(証人【D】)によれば、右のうち「フクバンド」、 「プリンスバンド」、「ローヤルバンド」については、原告がゴムバンドを供給している相手先ブランド商品(OEM商品)であることが認められる。)。 しかし、証拠(甲38ないし51、55ないし59、検甲4ないし6、乙24)によれば、各社の販売するゴムバンドの包装に用いられているデザインは、色彩として黄色、あるいは小豆色を基調とするものも中には存在するものの、取り立ててそのような色彩のものが多いとまではいうことはできず、まして、本件商標のような色彩が一般的であるとは認められない。また、右各証拠によれば、本件商標と被告標章のその余の類似点についても、これがゴムバンドの包装として一般的であるということができないことが認められ、被告の主張を採用することはできない。 (四) また、被告は、被告が被告標章及び被告商品の箱製品を対象とした立体商標について商標登録出願をしたところ、本件商標権ではなく、別の登録商標権が拒絶理由の引例として挙げられたことをもって、本件商標と被告標章が類似しないことは明らかである旨主張するが、証拠(甲64ないし66、乙36ないし38)によれば、被告の商標登録出願に対して特許庁から発せられた拒絶理由通知は、引用された登録商標(動物の図柄の商標)との関係で、被告出願に係る商標が商標法4条1項11号に該当することを理由とするものであって、本件商標と被告標章との類似性を否定するものとは解されないから、被告の主張を採用することはできない。 (五) よって、本件第一商標と被告第一標章、及び、本件第二商標と被告第二標章は、いずれも類似するものと認められる。 2 争点1(二)(先使用)について (一) 他人の登録商標出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその登録商標出願に係る指定商品についてその商標に類似する商標を使用していた結果、その登録商標出願前の際現にその商標が自己の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標を使用する場合は、その商品についてその商標を使用する権利を有する(商標法32条1項)。 (二) しかし、本件記録を精査してみても、被告第一標章について、原告第一商標の出願日である昭和五七年九月三〇日当時に、また、被告第二標章について、本件第二商標の出願日である昭和五九年五月一一日当時に、それぞれ、被告の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたと認めるに足りる証拠はない。 (三) また、証拠(甲3ないし5、7ないし9、10の5・7、14ないし18、22ないし24、26ないし28、乙12、13並びに証人【D】)によれば、次の各事実が認められる。 (1) 原告は、大正一二年に設立されたころからゴムバンドを製造、販売し、当時から現在まで業界第一位のシェアを保持し、近時では、その割合はおよそ六五ないし七〇パーセントを占めている。 (2) 原告は、昭和二六年、著名なグラフィックデザイナーであった【C】に依頼して、ゴムバンドの新型パッケージのデザインを完成し、本件第一商標とほぼ同一のデザインの包装箱を用いた原告商品の販売を開始した(なお、当時のデザインは、本件第一商標とほぼ同一の構成、色彩、図柄であったが、本件第一商標の地球儀を模した図柄に「1000000」と記載されているマークの代わりに、「kric」との英文字をデザインしたマークが使用されていた点が異なっていた。)。 原告は、右パッケージデザインについて、昭和二八年四月二二日に指定区分を旧第一六類、指定商品を結束用ゴムバンドとして商標登録出願し、これは、昭和二九年九月二二日に登録された。 (3) 原告は、昭和二七年、【C】と相談の上、右包装箱のパッケージデザインに使用されていた「オーバンド」、「O'Band」のロゴタイプデザインをそのまま転用した紙袋用のパッケージデザインを完成し、本件第二商標とほぼ同一のデザインの包装袋を用いた原告商品の販売を開始した(地球儀を模した図柄に「10000000」と記載されているマークの代わりに、「kric」との英文字をデザインしたマークが使用されていた点は当時の包装箱のデザインと同様である。)。 (4) 原告は、ゴムバンドの包装箱、包装袋のデザインについて、遅くとも昭和二八年九月ころには、右商標登録出願にかかる商標中、右「kric」の部分の標章について、他者に譲渡したため、右登録商標そのままの態様で使用ができなくなったことから、右商標権を放棄するとともに、右「kric」の部分について、本件商標のとおりの地球儀を模した図柄に「1000000」と記載されているマークに変更し、 本件商標をゴムバンドの包装箱、包装袋のデザインとして使用してきた。原告は、 その後オカモトとの間で紛争が生じたのを契機に、現実にゴムバンドの包装箱のデザインとして使用してきた本件第一商標について商標登録出願をし、これが昭和五九年に商標登録された(本件第一商標権)。また、原告は、昭和五九年には、ゴムバンドの包装袋のデザインとして使用してきた本件第二商標についても商標登録出願し、これも昭和六一年に同様に商標登録された(本件第二商標権)。 (5) 原告は、ゴムバンドの包装箱、包装袋は、ごく一部に輸出用、あるいは二種類の商品を一つのパッケージに詰めて販売する商品などについて、異なるデザインのものを使用したことがあるものの、それ以外は、右「Kric」のマーク部分を「1000000」のマークに変更した以外は、今日に至るまで一貫して本件商標あるいはこれとほぼ同一のパッケージデザインを使用してきた。 原告の製造、販売するゴムバンドのパッケージデザインである本件商標は、ゴムバンド業界における原告のシェアの高さもあり、ゴムバンドの包装箱、 包装袋の代表的デザインとして、需要者の間に広く認識されるに至り、昭和三二年ころには、原告のゴムバンドのパッケージデザインを完全に模倣した、いわゆる偽の原告商品が流通するなどの事態も発生し、これが新聞報道されたこともあった。 その他、本件商標は、古くからパッケージデザインが変わらない商品の代表的存在として、数多くの新聞、雑誌等に掲載されている。 右各事実からすれば、遅くとも昭和三二年ころには、本件商標は、原告の商品を表示する商標として、需要者の間に広く認識され、かつ、当該認識は今日まで継続しているものと認めることができる。 そうすると、仮に被告の主張するとおり、被告が被告標章の使用を開始したのが昭和五三年ころであったとしても、その時点において、本件商標は、原告の出所を示すものとして需要者の間に広く認識されていたのであるから、これと類似する被告標章を使用する行為が、「不正競争の目的でなく」なされたものであると認めることはできない。 (三) よって、被告に、商標法32条1項に基づいて、被告標章につき先使用による商標の使用権を認めることはできず、被告が被告商品に被告標章を付して販売する行為は、原告の商標権を侵害する。 3 争点3(一)(損害)について (一) 被告が被告商品に被告標章を付して販売したことにより、原告の商標権を侵害したことについては、商標法39条、特許法103条により、被告に過失があるものと推定され、これを覆すに足りる証拠はない。 (二) 被告が、被告商品を販売したことにより受けた粗利益について 証拠(甲29ないし33、証人【D】)によれば、被告商品は、少なくとも平成八年末ころまで販売されていたこと、及び、原告商品と被告商品は同一店舗に置かれることもあり、両者は競合関係にあることが認められる。 そして、証拠(乙32)によれば、被告の被告商品に関する売り上げに係る情報が入力され、保存されているコンピュータデータを集計すると、平成五年一一月一五日から平成八年一二月末日までの間に、被告が販売した被告商品の売上金額の合計は一億六〇一〇万八八六四円であること、 これに要した仕入原価は一億三六五〇万八二一九円であること、右販売に係る粗利益額は二三六〇万〇六四五円であることがそれぞれ認められる。 ところで、被告は、被告商品の全量をオカモトに製造させて、これを仕入れて販売していたところ、証拠(乙25)によれば、オカモトから被告に納入された被告商品は、別紙「仕入数量と販売数量の対比」の「仕入数量」欄記載のとおりであることが認められる。他方、前掲乙32によれば、同期間の被告の販売数量は、 同別紙「販売数量」欄記載のとおりであると認められる。 また、弁論の全趣旨によれば、被告は、被告商品のほか、「ヘイコーバンド」という商品名のゴムバンドも販売しているが、コンピュータ入力(伝票起こし)の際には、一般的には被告商品と「ヘイコーバンド」を区別して入力しているものの、取引先の都合により、「ゴムバンド」との分類で入力される場合があり、 集計において、被告商品(スーパーバンド)と「ヘイコーバンド」との区別が不分明となるものも存在することが認められる。 そこで検討するに、被告商品は、オカモトから被告に納品され、これが被告から顧客に販売されるものであるから、被告の在庫商品となる期間を考慮すれば、各月の仕入数量と販売数量が一致しないこと自体は、格別不自然ということはできない。しかし、被告商品の仕入れ及び販売を一定期間を通じて見た場合、在庫商品を被告の倉庫内に大量に積み上げる、あるいは、在庫商品を破棄するなどの特段の事情がない限り、仕入数量と販売数量はほぼ同程度となるのが自然であるということができる。しかるところ、本件全証拠によっても、右のような仕入数量と販売数量が異なる事態が生じるような特段の事情は認められない。そうすると、右に認定した被告の被告商品についての売上げデータの入力方法に鑑みれば、別紙「仕入数量と販売数量の対比」における両数量の差については、「ゴムバンド」として伝票計上されたことにより、コンピュータデータの集計において、被告商品の売上げとして計上されなかったものが反映されているものと見るのが相当である。 そこで、この仕入数量と販売数量の差についてみると、同別紙記載のとおり、商品単位で見て、仕入数量よりも販売数量の方がおよそ一一パーセント少ないことが認められる。 したがって、被告が現に得た粗利益についても、右コンピュータデータの集計結果から算出された二三六〇万〇六四五円は、実際の利益の八九パーセントに当たるものとみなして現実の利益額を算出するのが合理的であり、これを計算すると、被告の粗利益額は、二六五一万七五七八円(一円未満は切り捨て)となる。 (三) 被告が被告商品を販売したことにより受けた利益の額の算定に当たり、更に控除すべき費用について (1) 商標法38条2項は、侵害行為を行った者が当該行為により受けた利益の額をもって権利者等の損害の額と推定する旨規定しているところ、この規定は、商標権が侵害された場合の権利者が侵害行為と損害との因果関係を立証することが一般に困難であることに鑑みて設けられたものであるが、更に逸失利益の立証の容易化を図る趣旨で、平成一〇年の商標法の改正により、同条一項として、侵害者の譲渡した侵害品の数量に権利者が侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を損害の額とすることができる旨の規定が新設されたものである。これらの規定の趣旨を総合して考えると、同条二項にいう「利益の額」とは、侵害者が侵害行為によって得た売上額から侵害者において当該侵害行為たる製造、販売に必要であった諸経費を控除した額であると解するのが相当である。 もっとも、右「利益の額」とは、侵害者が侵害行為により受けている利益、即ち侵害行為と因果関係がある利益を意味している。したがって、侵害者が侵害行為により受けている利益を算定するに当たっては、侵害品の売上高から侵害行為のために要した費用のみを差し引くべきである。そして、侵害行為のために要した費用とは、いわゆる売上原価がそれに当たることは明らかであるが、販売費及び一般管理費にあっては、当該侵害行為をしたことによって増加したと認められる部分に限って、侵害行為のために要した費用と認めるのが相当である。なぜなら、 一般に販売費及び一般管理費には、売上原価と異なり、当該侵害行為を行わなかったとしても必要であった費用が多く含まれており、そのような費用については、侵害行為を行うために要した費用とは認められないからである。 (2) そこで、本件において売上原価以外に更に控除すべき経費について検討するに、この点について、証拠(乙40ないし42)によれば、被告においては、販売費及び一般管理費については、運賃、倉敷料、役員報酬、給与・賞与、賞与引当金繰入額、福利厚生費、租税公課、減価償却費、地代家賃、機械賃借料、引当金繰入額、その他の各費目に分類して集計していることが認められ、被告はこれらの費目も被告が被告商品を販売するのに要した費用であると主張する。 しかし、証拠(乙33、40ないし42)によれば、本訴請求の対象期間における被告の年間売上総額は、およそ二八〇億ないし三一五億円程度であり、被告の取扱品目は数百種類に上ることが認められる。他方、前記(二)で認定したとおり、被告のコンピュータデータを集計した結果による被告商品の販売総額は三年一か月余りで一億六〇一〇万八八六四円である。前記のとおり、これが実際の売り上げの八九パーセント程度に当たるとしても、右期間の被告商品の売上総額は一億八〇〇〇万円足らずであり、これを一年当たりに換算すると、およそ五七五二万円程度である。したがって、被告商品の被告の総売上高に占める割合は、〇・一八ないし〇・二〇パーセント程度にすぎないのであって、これからすれば、特段の事情のない限り、被告が被告商品を販売するに当たって、製造原価以上の費用を追加的に必要としたとみるのは相当でない。 さらに被告は、被告から大口顧客先への運送費用については、被告が負担する旨主張するが、本件全証拠を精査してみても、これを認めるに足りる証拠はない。また、ゴムバンドが商品の性質として、値段の割に嵩があることを考慮に入れたとしても、被告商品の販売により新たに倉庫を借りる等、経費を要したと認めるのは困難である。 また、被告商品の販売により、倉庫の出入庫費用を要した可能性は否定できないが、これを認めるに足りる証拠は存在しない。 その他、被告が被告商品を販売するに当たって、新たに倉敷料を要したと認めるに足りる証拠はない。 (四) よって、被告が被告商品を販売することにより得た利益は、少なくとも、原告の本訴請求に係る二五五〇万円を下らないものと認められる。 2 弁護士費用 本件に現れた一切の事情を考慮すれば、本訴提起に係る弁護士費用は、二五〇万円と認めるのが相当であり、これは、被告の行為と相当因果関係のある損害であると認められる。 3 したがって、被告が被告商品を販売することにより、原告に与えた損害は、合計二八〇〇万円であると認められる。 三 争点3について 証拠(検乙1、2、証人【E】)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、被告商品のパッケージデザインを変更し、少なくとも、本件口頭弁論終結時において、 被告標章を使用しておらず、今後使用するおそれもないものと認められる。他に、 右使用のおそれを裏付ける事情を認めるに足りる証拠はない。 そうすると、原告の請求のうち、被告標章の使用差止め、及び被告標章を付したパッケージの廃棄を求める部分は理由がないものといわざるを得ない。 四 よって、原告の請求は主文第一項の限度で理由がある。 (平成一二年三月二三日口頭弁論終結) |
裁判長裁判官 | 小松一雄 |
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裁判官 | 高松宏之 |
裁判官 | 水上周 |