関連審決 | 無効2002-35358 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成18行ケ10560審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成15行ケ512審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成19行ケ10172審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成12行ケ505審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成11行ケ261審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 指定商品 / 周知商標 / 周知性 / 公序良俗(4条1項7号) / 4条1項19号 / 不正目的(不正の目的) / 顧客吸引力(グッドウィル) / 希釈化(ダイリュージョン) / 類似性(類否判断) / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 離隔的 / 離隔的観察 / 国内 / 警告 / 無効審判 / 継続 / 非類似 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10213号
審決取消請求事件
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原告 株式会社ハウスオブローゼ 同訴訟代理人弁護士 臼井義眞 同 長谷川卓也 同 菅奈穂 同 板橋喜彦 同訴訟代理人弁理士 宇野晴海 被告 ストレートアロープロダクツインコーポレイ テッド 同訴訟代理人弁理士 倉内基弘 同 遠藤朱砂 同 中島拓 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/06/20 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が無効2002-35358号事件について平成16年7月16日にした審決を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 本件商標 別紙1記載の登録第4051523号商標(以下「本件商標」という。)は,「MANE and TAIL」の欧文字と「メイン アンド テイル」の片仮名文字とを二段に横書きして成り,第3類「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き」を指定商品として,原告が平成7年10月25日に登録出願し,平成9年9月5日に設定登録されたものである。 2 特許庁における手続の経緯 被告は,平成14年8月28日,本件商標につき,商標法4条1項7号及び19号の事由があるから,無効とすべきであると主張して無効審判の請求をした。 特許庁は,これを無効2002-35358号事件として審理した結果,平成16年7月16日,「登録第4051523号の登録を無効とする。」との審決をし,同月27日,その謄本が原告に送達された。 3 審決の理由 審決の理由は,別紙2(審決書の写し)のとおりである。要するに,以下のとおり,本件商標は商標法4条1項19号の規定に違反して登録されたものであるから,同法46条1項の規定により,その登録を無効とすべきであるというものである。 (1) 被告(請求人)は,米国において登録された商標「Mane ‘n Tail」(以下「引用商標」という。)を有しており,「’n」が「and」の省略形(短縮形)として用いられることがあることからすれば,引用商標「Mane ‘n Tail」からは,「Mane and Tail」の省略形(短縮形)であることが容易に理解・認識され,それから「メインアンドテイル」の称呼を自然に生じ,「たてがみとしっぽ」の観念を生ずるから,本件商標と引用商標とは,「メインアンドテイル」の称呼及び「たてがみとしっぽ」の観念を共通にし,互いに紛れるおそれある類似の商標である。 (2) 引用商標は,遅くとも本件商標の出願時には,「シャンプー,ヘアコンデショナー」等の商品について米国における需要者等の間において広く認識されていた。 (3) 原告(被請求人)は,本件商標が被告の業務に係る商品を表示するものとして少なくとも米国における需要者等の間において広く認識されていた引用商標と類似であることを知りながら,引用商標が我が国において未だ登録されていないことを奇貨として米国の権利者である被告(請求人)の国内参入を阻止し,あるいは,国内代理店契約を有利に導き,若しくは,それを強制するために,又は被告(請求人)の引用商標の顧客吸引力を希釈化させ,ないしは,それに便乗して不当な利益を得る等の目的のもとに出願し,権利取得したものと推認せざるを得ないから,本件商標は,不正の目的をもって使用をする商標に該当する。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本件商標と引用商標との類似性,引用商標の米国における周知性,不正の目的のいずれについても,その認定判断を誤り,その結果,本件商標が商標法4条1項19号に該当すると判断したものであるから,取り消されるべきである。 1 取消事由1(本件商標と引用商標との類似性の判断の誤り) (1) 称呼 本件商標の「MANE and TAIL」の欧文字及び「メイン アンド テイル」の片仮名文字からは,「メインアンドテイル」の称呼が生ずるのが自然である。これに対し,引用商標「Mane ‘n Tail」からは,「メインアンドテイル」の称呼は生じない。むしろ,「‘n」は,我が国において馴染みがなく,どのように読まれるかも定かでないのであって,せいぜい「ン」の称呼を生ずるに過ぎないことからすれば,「Mane ‘n Tail」からは,「メインンテイル」の称呼を生ずるのを自然とする。また,たとえ,「‘n」が「and」の省略形(短縮形)であったとしても,[∂nd]と発音されるものではなく,審決は,表示されていない文字をもって称呼されることを肯定しており,きわめて不自然である。 本件商標から生ずる「メインアンドテイル」の称呼と引用商標から生ずる「メインンテイル」の称呼との間には,「アンド」と「ン」の相違があり,これらの音の相違を聴者が誤って聴くことはあり得ないし,全体として称呼しても音数の差異からこれを誤聴することはあり得ない。 (2) 観念 本件商標からは,「たてがみとしっぽ」の観念を生ずるが,引用商標においては,我が国の通常の英語の知識を有する者が「‘n」の語義を理解することができないため,「メインンテイル」の称呼を生ずる造語と理解されるに止まる。 審決は,「rock ’n’ roll」が「rock and roll」の省略形(短縮形)であるという例を引いているが,この例が記載された刊行物(株式会社研究社「新英和大辞典第5版」)について,審判において原告(被請求人)に何ら答弁の機会を与えなかった。また,審決が引用したのは「’n’」の用例であり,「’n」とも異なるし,引用商標に使われている「‘n」とも異なる。さらに,「’n」が「and」の省略形(短縮形)として刊行物(英和辞典)に記載されていたとしても,そのことから直ちに「我が国においても相当程度知られている」ということはできない。しかも,「’n」は「and」又は「than」の省略形(短縮形)とされており(甲第5号証),そのいずれかを判別し得ないから,「’n」から「and」の観念は生じない。 (3) 外観 本件商標と引用商標の外観は,一見して相違する。 (4) 以上のとおり,本件商標と引用商標とは,称呼,観念,外観のいずれにおいても類似しておらず,互いに非類似の商標というべきであるから,両商標が称呼,観念を共通にし,互いに紛れるおそれある類似の商標であるとした審決の認定判断は誤りである。 2 取消事由2(引用商標の米国における周知性の認定の誤り) 審決は,本件商標の出願の前後に発売された米国の雑誌に掲載された広告等を根拠として,遅くとも本件商標の出願時には引用商標が米国の需要者等の間に広く認識されていたと認定している。しかし,本件商標の出願後に発売された米国の雑誌については,周知性を認定する根拠とはなり得ないものである。また,本件商標の出願前に発売されたものについても,広告の掲載期間が平成7年6月から8月までの短期間に集中しており,広告に反復性及び継続性が認められないから,周知性を認めるに十分ではない。 前記の広告の中には,「IF IT DOESN'T SAY Straight Arrow THEN IT'S NOT The Original Mane‘n Tail.」(「Straight Arrowと銘打っていなければ「元祖」Mane‘n Tailではありません。」)との記載がある(甲第44号証等)。このことは,本件商標の出願当時,「Mane ‘n Tail」又はこれと同様の表示を使用した商品が多く販売されており,かつ,引用商標が,米国市場において,未だ他社商品との商品識別能力を有していなかったことを示している。 したがって,引用商標が米国の需要者等の間で広く認識されていたとの前記審決の認定は,事実に反するものであり,誤りである。 3 取消事由3(不正の目的についての認定の誤り) (1) 前記のとおり,米国において引用商標が広く認識されているとはいえない状況下で,原告は,自己の商品の正当な輸入販売の目的で,引用商標とは類似しない本件商標を出願したものであって,被告の利益を害するなどの不正の目的はなかった。 原告は,平成7年7月よりも前に,馬用ヘアケア商品を人に使用することが米国において流行しているとの情報を得て,これを輸入し販売することを検討し始めた。同月末か同年8月上旬ころ,原告の担当者Aが米国カリフォルニア州において,人が使用する馬用ヘアケア商品に関し,店舗を回って商品を購入して調査をしたところ,「Mane and Tail」との表示は,馬用ヘアケア商品を一般に表す名称として使われており,特定の会社の商品の識別を可能とするような表示として用いられてはいなかった。原告は,商品を入手することのできたすべての販売会社に連絡を取り輸入の交渉を試みたが,いずれの会社とも交渉を開始するには至らなかった。原告が連絡を取った会社の中に,被告が含まれている。その後,同年10月ころ,原告は,Miriam Collins Palm Beach Beauty Products Company(以下「パームビーチ社」という。)との間で,同社の商品を輸入することを合意し,これを我が国で販売する際の商標として,米国で馬用ヘアケア商品を一般に表す用語として使用されていた「メインアンドテイル」を用いることを考え,同月25日,本件商標の登録出願をした上で,平成8年5月,パームビーチ社からの商品の輸入,販売を開始したものである。このように,原告が,自己の商品の正当な輸入販売の目的のために本件商標を出願したものであることは明らかであり,審決が列挙するような不正の目的の下に本件商標を出願した事実は存在しない。 (2) また,審決は,原告が被告に対し商品の輸入を申し入れた際の書面(甲第48号証A・審判甲第4号証A)を引用して,原告の不正目的の認定をしているが,被告が提出したその翻訳文(甲第48号証B・審判甲第4号証B)中の第3段落「要点としては,・・・当然のことながら,貴社の正式なご賛同を得なければ日本国内での保護が受けられず,貴社のシャンプーを日本の市場に入れることはできないと心得ております。私共では,ご賛同いただいて,日本の市場向けに権利の保護がなされるよう,検討していきたいと考えます。」は明らかな誤訳であり,正しくは「要件ですが,・・・もちろん,私達は,保存料(防腐剤)が日本では許可されていないため,貴社のオリジナルの処方では,貴社のシャンプーを日本の市場に輸入することができないことを認識しています。日本市場向けに,保存料を認められているものに変更することについても,話し合いたいと考えます。」である(甲第48号証C)。このように重大な誤訳を含む証拠を採用してされた審決は違法である。 (3) 以上のとおりであるから,「本件商標は,不正の目的をもって使用をする商標に該当する」とした審決の認定は,誤りである。 |
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被告の主張の要点
1 取消事由1(本件商標と引用商標との類似性の判断の誤り)について (1) 称呼 引用商標の外観の離隔的観察を行った場合には,「‘n」と「’n」とをほとんど区別することはできず,同一として認識される。また,一般的な英文表記において,「‘」と「’」とを区別せずに,「'」が使用されることもある。引用商標は,商標登録出願受領書(乙第2号証)において「Mane ‘n Tail」と表記されているが,米国における商標の電子検索システムデータ(乙第3号証)においては「MANE 'N TAIL」と表記されている。したがって,一般的な辞書に記載されていない「‘n」を見た通常の取引者や需要者は,これを一般的な辞書に記載されている「and」の省略形(短縮形)の「’n」と同意であると認識するのが自然である。 省略符号「’」が使用されている場合においては,省略部分が発音されないとき(例えば,overの省略形o'er [our])もあれば,文字の省略のみで発音は省略前と同じとき(例えば,governmentの省略形gov't)もある。したがって,「and」の省略形(短縮形)「’n」から「アンド」の称呼を生ずることも自然である。また,商標の称呼は,取引の実際における経験則に照らし,商標の構成自体から最も呼びやすいものが選ばれるのであり,原告の主張する「メインンテイル」では,撥音「ン」を二度連続して発音するのが困難であるから,自然な称呼とはいえない。これらによれば,引用商標「Mane ‘n Tail」から「メインアンドテイル」の称呼が生ずるということができる。 (2) 観念 引用商標においても,前記のとおり,「‘n」と「’n」とが実質的に同一であり,「’n」が「and」の省略形(短縮形)であることは通常知られているから,引用商標の「Mane ‘n Tail」は,「Mane and Tail」の省略形(短縮形)であり,「たてがみとしっぽ」の観念を生ずる。 (3) 外観 本件商標は,太字の「MANE and TAIL」と細字の「メイン アンド テイル」の片仮名文字とを二段に横書きして成るもので,上段に配された「MANE and TAIL」は下段に配された「メイン アンド テイル」の約1.7倍の高さである。したがって,看者は,「MANE and TAIL」が本件商標の要部であり,「メインアンドテイル」はその称呼を補助的に記載したに過ぎないと観察する。本件商標における「MANE」及び「TAIL」,引用商標における「Mane」及び「Tail」のいずれも各商標の両端にあり,離隔的観察を行った場合に,視覚に訴えるのは,「Mane」及び「Tail」が大部分であるから,これらの共通点を有する本件商標と引用商標とは,外観において類似する。 (4) 以上のとおり,本件商標は,称呼,観念及び外観のいずれにおいても同一又は類似するものであり,審決の認定に誤りはない。 2 取消事由2(引用商標の米国における周知性の認定の誤り)について 引用商標を使用した広告は,本件商標の出願の前後にわたって被告が継続的に行ってきたものであり,一過性のものではない。また,本件商標の出願は被告の知らないところで行われたものであるから,被告が原告の出願前に集中的に雑誌に広告を掲載するなど,本件商標の出願に合わせて広告・宣伝を行うことはあり得ない。さらに,広告・宣伝が発達した今日においては,短期間の集中的な広告・宣伝によっても,容易に周知性が獲得される。 被告がした広告において,「IF IT DOESN'T SAY Straight Arrow THEN IT'S NOT The Original Mane‘n Tail.」(「Straight Arrowと銘打っていなければ「元祖」Mane‘n Tailではありません。」)との記載があるのは,被告が引用商標と類似する商標を使用されるなどの被害を受けていたことを意味し,引用商標が周知商標であるからこそ記載されていたものである。 以上のとおり,引用商標がシャンプー等の商品について米国における需要者等の間において広く認識されていたとの審決の認定に誤りはない。 3 取消事由3(不正の目的についての認定の誤り)について 以下の経緯からすれば,原告は,本件商標の出願当時,被告とパームビーチ社との間で係争中であった商標の付された商品をパームビーチ社から我が国に輸入するために,被告に先んじて我が国において引用商標と類似する商標を出願したものであり,被告が我が国において引用商標を使用することを妨害するなどの不正の目的があったものである。 原告は,平成2,3年ころから引用商標を知っており,平成7年8月7日,被告に対して商品の輸入を申し入れた。これに対し,被告は,原告からの申出は断るが,代わりに被告の関連会社であるQ’Numed社から姉妹ブランドを輸入することを勧める申出をしたが,原告から返答はなく,同年10月25日,原告は被告に無断で本件商標の出願を行い,その設定登録の直後である平成9年10月8日,被告の販売代理店に対して,販売中止の警告を行った。 原告がパームビーチ社と交渉を始める以前の平成6年12月24日,被告はパームビーチ社の使用する「Mane Tail & Body」等の商標について,商標侵害の訴えを米国内で提起していた。そして,平成8年9月5日付けで,パームビーチ社が商標「Mane Tail & Body」を使用せず,引用商標及び商標「Mane ‘n Tail and Body」と同一又は類似の商標を使用しない旨の合意が被告とパームビーチ社との間に成立し,同年11月5日付けで,パームビーチ社が米国特許商標庁へ申し立てた異議申立てが却下され,引用商標が米国において登録された。 以上の経緯からすれば,原告が不正の目的に基づいて本件商標を出願したことは疑いがなく,審決の認定に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(本件商標と引用商標との類似性の判断の誤り)について 本件商標は,「MANE and TAIL」の欧文字と「メイン アンド テイル」の片仮名文字とを二段に横書きして成るものであり,引用商標は,「Mane ‘n Tail」の文字より成るものである。 (1) 称呼 ア 英語表記において,「’」が単独で使用されるときは,アポストロフィと呼ばれ,それが付された個所に文字の省略があることを示す符号であり(乙第6号証),甲第5号証(株式会社三省堂「最新コンサイス英和辞典」),乙第19号証(CD-ROM版「ランダムハウス英語辞典」)によると,「’n」は,[∂n]と発音され,「and」の省略形(短縮形)として用いられることがあることが認められる。 ところで,引用商標において用いられている「‘」については,それが「’」と同様に省略を示す記号として用いる用法があることを認めるに足りる証拠はない。しかし,「‘」と「’」とは,その離隔的観察において,外観上その違いを識別することは困難であり,乙第2号証(2枚目)によれば,英文表記の字体によっては,「‘」と「’」とを区別せずに,いずれにも「'」が使用されることもあることが認められる。現に,引用商標は,商標登録出願受領書(乙第2号証)では「Mane ‘n Tail」と表記されているが,米国における商標の電子検索システムデータ(乙第3号証)においては「MANE 'N TAIL」と表記されている。これらからすれば,取引者や需要者において,「‘」と「’」とは厳格に区別されず,同一の符号として認識されることが十分考えられるところであり,引用商標の「‘n」は「’n」と同じものと認識されることがあるものと推認される。 そうすると,引用商標の「Mane ‘n Tail」からは,「メインアンドテイル」あるいは「メインアンテイル」[mein ∂n teil]の称呼を生ずるということができる。他方,本件商標からは,「メインアンドテイル」の称呼を生ずるから,引用商標と本件商標とは,称呼の点で同一あるいは類似するということができる(なお,英語の「MANE and TAIL」を称呼する場合において,「and」の「d」を強く発音することはなく,特に3語を続けて称呼するときには,「d」の音はほとんど聞き取れないこともあることからすると,本件商標の「MANE and TAIL」の部分に着目したときは,「メインアンテイル」[mein ∂n teil]と発音されることも十分考えられる。)。 イ 原告は,「‘n」は,我が国において馴染みがなく,「ン」の称呼を生ずるに過ぎないから,引用商標からは「メインンテイル」の称呼を生ずるのを自然とすると主張するが,前記のとおり「‘n」は「and」の省略形(短縮形)である「’n」と同一のものとして認識されることがあり,また,撥音「ン」を2回連続して発音することは困難であることからすれば,引用商標から「メインンテイル」の称呼を生ずるとするのは不自然であって,原告の主張は採用できない。 また,原告は,「‘n」は[∂nd]と発音されるものではなく,表示されていない文字をもって称呼されることはきわめて不自然であると主張する。しかし,前記のとおり,「‘n」と「’n」との区別は外観上困難であるところ,「’n」は[∂n]と発音され,「and」の省略形として用いられることがあることからすれば,引用商標の「‘n」を「アン」と称呼し,あるいは,その語義から「アンド」と称呼することも不自然ではなく,乙第6号証によれば,省略符号「’」が使用されている場合においては,省略部分が発音されないとき(例えば,overの省略形o'er [our])もあれば,文字の省略のみで発音は省略前と同じとき(例えば,governmentの省略形gov't)もあることが認められ,文字が表示されないから称呼されないとは限らないことからも,原告の主張は採用することができない。 (2) 観念 ア 「MANE」が「たてがみ」を,「and」が「と」(添加の格助詞)を,「TAIL」が「しっぽ」をそれぞれ意味する単語であることから,本件商標からは,「たてがみとしっぽ」の観念を生ずる。引用商標においても,「Mane」から「たてがみ」,「Tail」から「しっぽ」の観念を生じ,また,「‘n」は,「and」の省略形(短縮形)である「’n」と同じものとして,「’n」と同じ意味であると認識されるものといえるから,全体として「たてがみとしっぽ」の観念を生ずるということができる。したがって,引用商標と本件商標からは,いずれも「たてがみとしっぽ」の観念を生ずることが認められる。 イ 原告は,引用商標においては,我が国の通常の英語の知識を有する者が「‘n」の語義を理解することができないため,「メインンテイル」の称呼を生ずる造語と理解されるに止まると主張する。 しかし,前記のとおり,「‘」と「’」とは厳格に区別されず,同一の符号として認識されることが十分考えられるのであり,「‘n」を見た取引者や需要者が,これを辞書に記載されている「and」の省略形(短縮形)の「’n」と同意であると認識することは推認するに難くないのであって,引用商標の「Mane ‘n Tail」が造語と理解されるに止まるとする原告の主張は採用できない。 ウ 原告は,「‘n」を「’n」と同じ意味であると認識したとしても,「’n」が「and」の省略形(短縮形)であることは,「我が国においても相当程度知られている」とはいえないと主張する。 しかし,「’n」が英和辞典に掲載されていることは前記のとおりであるから,それが「and」の省略形(短縮形)として用いられることがあることは,我が国においても相当程度知られたところとなっているものと認められる。我が国の中学校及び高等学校で用いられる英語教科書には「’n」が取り上げられていない(甲第6号証ないし第17号証)としても,そのことは上記認定を妨げるものとはいえないのであって,原告の上記主張は採用できない。 なお,原告は,審決において引用された「rock ’n’ roll」の例が記載された刊行物(株式会社研究社「新英和大辞典第5版」)について,審判において原告(被請求人)に何ら答弁の機会が与えられなかったことを論難するが,審決において,上記刊行物は,「rock ’n’ roll」が「rock and roll」の省略形(短縮形)であることが周知であることの一例として引用されているものに過ぎず,審決に手続上の違法はない。もっとも,審決が挙げた上記用例は「’n’」の用例であって,「’n」が「and」の省略形(短縮形)として使われる用例としては必ずしも適切とはいえないが,「’n」が「and」の省略形(短縮形)として用いられることがあることは前記のとおりであるから,この点は審決の結論に影響を及ぼすものではない。 エ 原告は,「’n」が「and」又は「than」の省略形(短縮形)であり(甲第5号証),そのいずれかを判別し得ないから,「’n」から「and」の観念は生じないと主張する。 しかし,乙第19号証によれば,「’n」が「than」の省略形(短縮形)として用いられるのは,「more’n」のように,形容詞の比較級に接着しているときが典型例であることが認められ,引用商標では「’n」の直前に空白(スペース)があり,その前の語が「Mane」という名詞であることからすれば,「’n」が「than」の省略形(短縮形)ではなく,「and」の省略形(短縮形)であると認識することに困難はない。 (3) 外観 原告は,本件商標と引用商標の外観は一見して相違すると主張する。 本件商標は,「MANE and TAIL」の欧文字と「メイン アンド テイル」の片仮名文字とを二段に横書きして成るもので,甲第3号証によれば,上段に配された「MANE and TAIL」は下段に配された「メイン アンド テイル」よりも大きく,肉太の字体を用いて記載されていることが認められる。したがって,本件商標のうち,上段の「MANE and TAIL」が看者の目を引き,下段の「メイン アンド テイル」はその称呼を補助的に記載したに過ぎないと観察するといえる。 そして,本件商標における「MANE」及び「TAIL」,引用商標における「Mane」及び「Tail」は,いずれも各商標の両端にあり,本件商標及び引用商標を離隔的に観察した場合,視覚に訴えるのは,各商標の両端の語であるといえるところ,本件商標と引用商標とでは,その両端の語のすべての文字を大文字で綴るか,先頭の文字のみを大文字で綴るかの違いはあるが,同一の単語である以上,この違いは外観上大きな相違ということはできない。 本件商標の「MANE and TAIL」と引用商標の「Mane ‘n Tail」とでは,その中央部が「and」と「‘n」という外観上の相違点が存在するが,本件商標における「and」は,その両端の「MANE」及び「TAIL」が大文字であるのに対し,すべて小文字で綴られており,また,引用商標における「‘n」は,その両端の「Mane」及び「Tail」の単語の間に存在する符号と小文字1文字から成る部分であって,いずれも商標全体の中では重要でない部分であるということができる。したがって,上記外観上の相違点は,本件商標及び引用商標全体からみれば,重要でない部分についてのものであるといえる。 以上のとおり,本件商標と引用商標とは,各商標の両端にあって看者の視覚に訴える「MANE」及び「TAIL」と「Mane」及び「Tail」との部分で共通し,外観上近似した印象を与えるものであって,原告が主張するように,その外観が一見して相違するということはできない。 (4) 以上検討したところからすれば,本件商標と引用商標とは類似の商標であると認められ,この点に関する審決の判断に誤りはなく,取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(引用商標の米国における周知性の認定の誤り)について (1) 乙第23号証ないし第26号証(枝番等を省略)によれば,平成5年10月から平成6年10月までに発行された雑誌の記事において,平成2年ころから被告が従来馬用に使用されていたシャンプーを人間用に販売し始め,売上を伸ばしていることなどが紹介されていることが認められる。そして,甲第18号証ないし第37号証によれば,引用商標を付した被告の商品(シャンプー,ヘアコンデショナー)の広告は,本件商標の出願前において,平成6年夏(陳列期限7月19日)1誌,平成7年6月9誌,同年8月5誌,同年9月1誌に掲載されていることが認められ,乙第9号証及び第10号証によれば,それら広告が掲載された雑誌の発行部数が相当な部数に及んでいることが認められる。また,乙第20号証(枝番等を省略)によれば,平成6年8月ころから,被告はカーレースのレースカーの車体に引用商標を表示する広告を行ってきたことが認められる。 以上の事実からすれば,引用商標は,本件商標の出願当時,米国内において,被告の商品(シャンプー,ヘアコンデショナー)を表示するものとして「需要者の間に広く認識されている」商標であったと認められる。 (2) 原告は,広告の掲載期間が平成7年6月から8月までの短期間に集中しており,広告に反復性及び継続性が認められないと主張する。 しかし,被告がその当時原告による本件商標の出願を知っていたと認めるに足りる証拠はないから,被告が原告の出願に合わせて一時的に広告・宣伝を行ったとは到底考えられず,その後平成8年,9年にも被告の商品について雑誌に広告を掲載していること(甲第38号証ないし第45号証)を併せ考えると,前記広告の掲載が,一過性のものであって,反復性,継続性がなかったということはできない。 また,原告は,前記の広告の中には,「IF IT DOESN'T SAY Straight Arrow THEN IT'S NOT The Original Mane‘n Tail.」(「Straight Arrowと銘打っていなければ「元祖」Mane‘n Tailではありません。」)との記載があり,このことは,本件商標の出願当時,「Mane ‘n Tail」又はこれと同様の表示を使用した商品が多く販売されており,かつ,引用商標が,米国市場において,未だ他社商品との商品識別能力を有していなかったことを示していると主張する。 甲第32号証,第38号証,第42号証ないし第44号証によれば,被告の前記広告において,原告主張の上記記載があることが認められる。しかし,乙第11号証によれば,米国内において,平成6年12月以降,被告の引用商標に係る商標権の侵害等をめぐり訴訟を含む計23件の紛争があり,そのうち10件において相手方が引用商標を使用しない旨の和解が成立していることが認められることからすると,被告の広告における上記記載は,引用商標と類似する商標を使用した侵害品が出回っていたことから,需要者に対して被告の商品と誤認混同しないよう注意を促す趣旨で記載されたものと推認することができ,上記記載をとらえて,引用商標が米国市場において未だ商品識別能力を有していなかったことを示すものであるとみることはできない。 (3) 以上のとおりであり,引用商標が,遅くとも本件商標の出願時には,被告の商品(シャンプー,ヘアコンデショナー)について米国における需要者等の間で広く認識されていたとの審決の認定に誤りはなく,取消事由2は理由がない。 3 取消事由3(不正の目的についての認定の誤り)について (1) 以下に摘示する証拠によれば,次の事実が認められる。 ア 原告は,化粧品販売業を営む会社であり,自社ブランド商品の販売とともに,海外の興味深い化粧品等の商品の輸入販売も手がけている。原告は,平成7年7月よりも前に,馬用ヘアケア商品を人に使用することが米国において流行しているとの情報を得て,これを輸入し販売することを検討し始めた。同月末か同年8月上旬ころ,原告の担当者Aが,米国カリフォルニア州において,人が使用する馬用ヘアケア商品に関し,店舗を回り,被告を含む数社の商品を購入して調査をした。 原告は,商品を入手することのできたすべての販売会社に連絡を取り輸入の交渉を試みたが,いずれの会社とも交渉を開始するには至らなかった。(甲第89号証) イ 原告は,平成7年8月7日,被告に対し,ファックスで,被告の馬用ヘアケア用品を輸入したい旨を申し入れたが,そのファックスには,「私達は,4〜5年前から貴社の名前と製品を存じ上げており,貴社の馬用のヘアケア商品に興味を持ってきました。」,「私達は,貴社のヘアケア商品の「MANE 'N TAIL」に非常に興味を持っており,可能であれば貴社から輸入したいと考えています。」(訳文甲第48号証C)との記載がある(甲第48号証A)。これに対し,被告は,日本向け窓口商社であったQ’Numed社を介して,原告からの申出を断ったが,その際,Q’Numed社は,原告に対し,代わりに姉妹ブランドの「EQUENNE」製品を輸入することを提案したものの,原告から連絡はなかった(乙第12号証の8及び9,第13号証)。被告は,既に平成6年ころから,自社製品の日本への輸入が認められるよう成分に関する検討を行っていた(乙第12号証の1ないし7)。 ウ その後,原告は,パームビーチ社と交渉し,平成7年10月ころ,パームビーチ社との間で,「Mane Tail & Body」などの表示を使用した同社の馬用シャンプー及びコンディショナー商品を輸入する合意をし,同月25日,本件商標の登録出願をした上で,平成8年5月,パームビーチ社からの輸入販売を開始したが,その販売する商品には,「Mane, Tail & Body」の表示が使用されている(甲第49号証(枝番を省略),第50号証,第89号証)。 その後,原告は,平成9年9月5日に本件商標が設定登録された後である同年10月8日,被告の日本における販売代理店に対して,販売中止の警告を行った(乙第14号証)。 エ 原告がパームビーチ社と交渉を始める以前の平成6年12月22日,被告は,パームビーチ社の使用する「Mane Tail & Body」等の商標について,商標権侵害の訴えを米国内で提起していたが,平成8年9月5日,パームビーチ社が以後同商標を使用しないとの合意が被告とパームビーチ社との間に成立し,決着した(乙第11号証,第28号証)。 (2) 上記(1)の認定事実を踏まえて検討すると,アからオまでの各点を指摘することができる。 ア 原告は,被告に宛てたファックスにあるように,平成2,3年ころから被告の名前及び製品を知っており,遅くとも平成7年8月には,引用商標の付された被告の商品を入手していたこと(甲18号証ないし第36号証によれば,原告が被告の商品を入手したとする平成7年8月ころには,引用商標を使用した被告の商品が市場に流通していたことが認められるから,原告が入手した被告の商品には引用商標が付されていたことが推認される。)。 この点について,Aは,その陳述書(甲第89号証)において,被告に宛てたファックスで「私達は,4〜5年前から貴社の名前と製品を存じ上げており,貴社の馬用のヘアケア商品に興味を持ってきました。」と記載したのは,一種の社交辞令であり,実際には4〜5年前から被告の名前と製品を知っていたわけではないと陳述しているが,社交辞令で「4〜5年前」という具体的期間を明記するのは不自然であり,上記陳述は採用することができない。 イ 原告は,平成7年8月,被告に対し,被告の人に用いる馬用ヘアケア商品の輸入を申し込んだものの,被告がこれに応じなかったため,被告との取引が成立しなかったが,その際,被告の日本向け窓口商社であったQ’Numed社から姉妹ブランドの製品の輸入についての提案を受けており,被告が日本市場に進出しようとする意図があることを認識していたものと推認されること。 ウ 原告は,被告との輸入取引を断られた後,パームビーチ社と交渉し,平成7年10月ころには,パームビーチ社から「Mane Tail & Body」などの表示を使用した同社の商品を輸入する合意をした上,本件商標の出願をしたこと。 エ 原告がパームビーチ社から商品を輸入する合意が成立する前に,米国内において,被告がパームビーチ社を相手として商標権侵害を理由とする訴えを米国内で提起していたが,原告が出願した本件商標は,パームビーチ社が商品に現に使用していた「Mane Tail & Body」ではなく,「MANE and TAIL メイン アンド テイル」であったこと。 オ 原告がパームビーチ社から輸入して国内で販売した商品には,本件商標の「MANE and TAIL」の欧文字は使用されていないこと。 (3) 上記アないしオの点と,前記のとおり,引用商標と本件商標とは高い類似性を有していること,引用商標が本件商標の出願当時,米国内において被告の商品を表示するものとして需要者等の間で広く認識されていたことをも併せ考慮すると,原告は,本件商標の出願当時,米国内において引用商標が広く知られていることを知りながら,未だ引用商標が我が国において商標登録されていないことを奇貨として,被告の国内参入を阻止ないし困難にし,あるいは被告の日本進出に際し原告との国内代理店契約の締結を強制するなどの不正の目的のために,引用商標と類似する本件商標を出願し,設定登録を受けたものと推認せざるを得ないというべきである。 原告は,パームビーチ社から輸入する商品を我が国で販売する際の商標として,米国内で馬用ヘアケア商品を一般に表す用語として使用されていた「Mane and Tail」を用いることを考え,本件商標を出願したものであり,自己の商品の正当な輸入販売の目的のための出願である旨主張する。 しかし,本件全証拠を検討しても,米国内において「Mane and Tail」が馬用ヘアケア商品一般を表す用語(一般的名称)であるとまで認めるに足りる的確な証拠はない。例えば,馬用ヘアケア商品に「Mane and Tail Shampoo」などの記載がされていたとしても,それは「たてがみ及びしっぽ用シャンプー」であるという用途の説明を兼ねた表示とも解することができるのであって,馬用ヘアケア商品の一般的名称を表示したものと速断することはできないし,甲第50号証の商品には,明確に「FOR MANE,TAIL & Body」と表示されている。また,前記のとおり,原告の輸入販売する商品には,「Mane, Tail & Body」の表示が使用され,「MANE and TAIL」の欧文字は使用されていないのであり,自己の商品の正当な輸入販売の目的で本件商標を出願したにしては不自然であって,原告の上記主張は採用できない。 なお,原告は,甲第48号証A(審判甲第4号証A)について被告が提出した翻訳文の一部に誤訳があり,このような証拠を採用してされた審決は違法であるとも主張するが,原告の指摘する誤訳部分は,審決において引用されている部分ではなく,当該誤訳の存否によってその判断に影響を及ぼすものとは認められないから,原告の上記主張は失当である。 (4) 以上のとおりであり,本件商標は,不正の目的をもって使用をする商標に該当するとした審決の認定に誤りはなく,取消事由3も理由がない。 4 以上からすると,本件商標は商標法4条1項19号に該当するものであり,原告主張の取消事由1ないし3は,いずれも理由がなく,その他,審決に,これを取り消すべき誤りがあるとは認められない。 よって,原告の請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 三村量一 |
裁判官 | 古閑裕二 |