審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成12ワ5986損害賠償等請求事件 | 判例 | 商標 |
平成8ワ14026商標権侵害差止等請求事件 | 判例 | 商標 |
平成10ワ16262不正競争行為差止等請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 包装 / 出所表示機能 / 指定商品 / 周知性 / 不正競争の目的 / 類似性(類否判断) / 損害額 / 権利濫用(権利の濫用) / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 国内 / 差止 / 信用回復措置 / パリ条約 / 国際登録 / 外国 / 商号 / |
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事件 |
昭和
53年
(ワ)
1264号
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裁判所 | 神戸地方裁判所 |
判決言渡日 | 1982/12/21 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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申立
一 原告1 被告は、別紙標章目録記載の標章を付した、別紙商品目録記載の商品を輸入し、譲渡し、引き渡し、譲渡もしくは引渡のために展示し、又は製造したり、右商品に関する包装、容器、広告、定価表、又は取引書類を展示し、又は頒布してはならない。 2 被告は原告に対し、金二五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。 3 被告は読売新聞及び東京都において発行される繊研新聞に各三回宛、別紙謝罪広告目録記載の文案により、標題及び原被告名には四号活字、本文には六号活字を使用した謝罪広告を掲載せよ。 4 訴訟費用は被告の負担とする。 5 2につき仮執行宣言二 被告主文同旨 |
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主張
一 請求原因1 (原被告の業務等) 原告は各種衣料品の製造販売等を目的とし、肩書住所地に本店を、東京都内に支店を有する資本金一億円の会社であり、被告は婦人服地、婦人既製服の輸入販売等を目的とし、肩書住所地に本店を、大阪市内に支店を、海外に連絡所を有する資本金四五〇〇万円の会社であり、原被告は互いに競業関係に立つものである。 2 (原告の商標権)原告は左の登録商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。 登録番号 第一〇〇六一四〇号登録商標 別紙商標目録のとおり指定商品 第一七類 被服(運動用特殊被服を除く。)、布製身回品(他の類に属するものを除く。)、寝具類(寝台を除く。)出願日 昭和四五年一〇月二八日公告日 昭和四七年八月二一日登録日 昭和四八年三月二九日3 (本件商標の周知性等)(一) 原告は昭和四七年五月一七日、フランス共和国法人「ソシエテ・イデ」(通称ドロテビス、以下「ド社」という。)との間に、原告が同社によつて生産された衣料品等のオリジナルモデルの提供を受け、これを我国において再生産した上、「doroth●e bis」商標を付して販売する独占的許可を受けることなどを目的とするジヨイントベンチユアー契約を締結し、右契約が三年の期間満了により終了したあと引き続き、同社の代表者である訴外【A】(以下「【A】」という。)及び同【B】(以下両者併わせて「【A】夫妻」という。)との間に、略同様の契約(以下右契約をその本質如何に拘らず、便宜「本件合弁契約」という。)を締結した。 (二) ところが、我国において、訴外株式会社甲陽が本件商標の商標権者であつたため、原告は昭和四八年一月、右会社から本件商標を譲り受け、同年三月二九日登録の上、その製造売販する衣料品等に本件商標を付するなどの商業活動の結果、 本件商標は昭和五〇年秋頃から同五一年秋頃までに、我国内において広く認識されるに至つた。 4 (被告の標章) 被告は昭和五三年六月一二日、東京都下の品川プリンスホテルにおいて、ド社から輸入した別紙標章目録記載の標章(以下「イ号標章」という。)を付した、衣料品等のコレクシヨン展示会を開催したのをはじめとして、別紙商品目録記載の商品を輸入し、譲渡し、引き渡し、譲渡もしくは引渡のために展示し、又は製造し、右商品に関する包装、容器、広告、定価表及び取引書類を展示し、又は頒布している。 5 (被告の商標権侵害) イ号標章は本件商標と文字・形態・称呼共に同一ないしは極度に類似するから、 被告がイ号標章を右4の態様で使用することは、本件商標を故意又は少くとも過失により侵害するものであり、将来にわたつても侵害する虞れがある。 6 (被告の不正競争) 被告は、原告が本件商標の商標権者であり、かつ、右商標を付した衣料品を製造販売していることを認識しながら、不正競争の目的でイ号標章を右4の態様で使用しているから、業界及び一般大衆・需要者に対し、被告の商品及びその営業を、原告のそれと誤認混同を生じさせている。従つて、被告のイ号標章の使用は不正競争行為にも該当するものであり、将来においても同様の所為を繰り返す虞れがある。 7 (損害賠償等)(一) 本件商標の使用料は、本件合弁契約代金及び本件商標権取得代金等を考慮すると、昭和五二年度分は金二五一〇万円、同五三年以降本件商標権の存続見込期間である昭和六一年までは毎年右金額から一割宛逓減した額が相当であるので、その期間内における使用料の総額は金一億六二八三万一〇〇〇円となり、原告は同額の損害を被つたことになるから、被告に対し、この内金二五〇〇万円を限度として賠償を求める。なお、原告は、被告の商標権侵害ないし不正競争行為により、昭和五三年七月までに、金七六九万円相当の商品の返品を受け、同額の損害が発生しており、その一〇年間分が金七六九〇万円となることからしても、右損害額の算定は相当である。 (二) 原告は、被告の商標権侵害ないし不正競争行為によつて著しくその信用を害され、金銭賠償のみによつては補填し得ない損害を被つたので、被告に対し、その信用回復措置として別紙謝罪広告目録記載の文案により謝罪広告することを求める。 8 よつて、原告は被告に対し、商標法36条、38条、39条、特許法106条、不正競争防止法1条1項一、二号、1条の2に基き、イ号標章使用の差止と、 損害賠償金二五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払並びに謝罪広告を求める。 二 請求原因に対する認否1 請求原因1、2の事実は認める。 2 同3(一)の事実中、ド社の商号は否認し、その余の事実は認め、本件合弁契約の本質がジヨイントベンチユアーであることは争う。ド社の正式商号は「イデ・ドロテビス」であり、本件合弁契約の本質は技術導入ないしはライセンス契約である。 同3(二)の事実中、原告が本件商標を訴外株式会社甲陽から譲り受けたことは認め、その余の事実は否認する。原告は本件商標を使用したことはなく、原告が本件合弁契約に基いて製造販売した衣料品等に付した商標は、「doroth●e bis」であり、右商標は【A】夫妻が創作するいわゆるパリモードフアツシヨンの一つを表象するものとして世界的に著名なものである。 3 同4の事実中、被告が婦人用洋服、セーター、コート及び布製身回品(以下「本件商品」という。)以外の別紙商品目録記載の商品並びに定価表、取引書類にイ号標章を付したこと、本件商品を製造したこと、昭和五六年四月一日以降もイ号標章を使用していることは否認し、その余の事実は認める。被告は同五四年一〇月輸入分以降、後述のド社との輸入販売総代理店契約を合意解除し、同五六年三月中に本社商品の在庫処分を終え、それ以降本件商品を輸入販売等しておらず、イ号標章も使用していないし、将来にわたつて使用する意図もない。 4 同5の事実中、被告がイ号標章を右3の態様及び方法で使用したことは認め、 本件商標との同一性ないし類似性に関する主張は争う。被告はイ号標章を単独ではなく、「e et j,jacobson」との結合標章として使用しているから、本件商標と類似しない。 5 同6、7の事実は否認し、その主張は争う。 三 抗弁(権利の濫用) 仮に、被告のイ号標章の使用が本件商標権を侵害し、或いは不正競争行為に該当するとしても、 1 原告は、本件合弁契約に基き、ド社及び【A】夫妻から提供されるオリジナルモデルをもとに、そのコピーないしライセンス物を我国で製造し、「doroth●e bis」商標を付して販売していたが、右契約は昭和五三年三月三一日、期間満了により終了し、以降原告は右商標を付した衣料品等を製造販売することはできず、またその意思もなく、右商標に代えて「ヴイルビル」の標章により衣料品等の製造販売を行うことを一般に公表している。 2 ところで、「doroth●e bis」商標は、ド社の代表者である【A】が一九六五年六月一日、フランス共和国において登録した商標であり、本件商標出願当時には既に【A】夫妻の創作する婦人服のパリモードフアツシヨンを表象するものとして世界的に著名なものであつた。しかるに、右商標が未だ我国において登録されていないことを奇貨として、訴外株式会社甲陽が本件商標として出願し、これを原告が・【A】の承諾もなく譲り受けて登録したものである。 かかる所為は国際的信義に悖るものである。 3 被告は、原告の本件合弁契約が昭和五三年三月三一日をもつて終了したのを機会に、ド社の製造した真正商品を我国で独占的に輸入販売することを目的として、 同年四月一日、同社との間に輸入販売総代理店契約(以下「本件代理店契約」という。)を締結し、同年九月からイ号標章を表示した襟ネーム、下げ札付きの本件商品を輸入販売し、同社の指示によつて被告が製作した包装袋にイ号標章を表示し、 広告に使用したものである。 4 原告は、本件合弁契約が更新できないまま終了したことの腹いせに、国際的信義に悖り、かつ、一度も使用したこともなく、使用する意図もない本件商標権に基き、原告の真正商品の輸入販売等を妨害するため本訴請求に及んだものであり、かかる請求は権利の濫用である。 四 抗弁に対する認否1 抗弁1の事実中、原告が本件合弁契約に基き、ド社らの提供したオリジナルモデルをもとに「doroth●e bis」商標を付した衣料品等を製造販売していたこと、右契約が昭和五三年三月三一日終了したことは認め、原告が右契約終了後には右商標を使用し得ない旨の主張は争う。 2 同2の事実中、原告が被告主張のとおり本件商標を譲り受けて登録したことは認め、その余の事実は否認する。仮に、【A】がフランス共和国において「doroth●e bis」商標につき商標権を有していたとしても、商標権独立の原則、属地主義、パリ条約からして、我国において右権利を享有し得ないことは明らかであり、訴外株式会社甲陽が本件商標を出願したことは当然の権利行使であり、 何ら国際的信義に悖る点も存しない。更に、原告が本件商標を右訴外会社から譲り受けたのは、「doroth●e bis」商標を使用することが本件商標権を侵害することになるため、【A】にその旨を通知して、本件商標を買い取るよう勧告したにも拘らず、同人がこれを拒否したので、やむなく原告においてこれを譲り受けるにいたつたものである。 3 同3の事実中、被告がド社との間に、本件代理店契約を締結し、同社から輸入した商品にイ号標章を付して使用していたことは認める。 4 同4の事実は否認し、その主張は争う。原告の本訴請求は、本件商標権に基く正当な権利行使であるのに対し、被告は本件合弁契約存続中から、あらゆる不正手段を構じて原告と【A】夫妻の関係を疎外し、原告が右契約を更新することを不可能ならしめた上、ド社との本件代理店契約の締結に成功し、イ号標章を不法に使用しているものであるから、その違法性・反社会性は顕著であり、本訴請求が権利の濫用にわたることはない。 |
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証拠(省略)
理 由一 請求原因1(原被告の業務等)の事実は当事者間に争いがない。 二 まず、原告の商標権侵害の主張について判断する。 1 原告が指定商品を第一七類とする本件商標の商標権者であること、被告がイ号標章を付した本件商品をド社から輸入した上、昭和五三年六月、東京都下の品川プリンスホテルにおいてコレクシヨン展示会を開催したのをはじめ、以降同五六年三月末まで国内で譲渡し、引き渡し、これらのため展示したこと(以下「販売等」という。)、本件商品の包装袋、広告にも右標章を表示したことは当事者間に争いがない。 原告は、被告が、イ号標章を本件商品以外の別紙商品目録記載の商品及び定価表、取引書類にも使用したこと、本件商品を製造したこと、昭和五六年四月一日以降もイ号標章を使用していることを主張するが、これを認めるに足る証拠はない。 却つて、被告代表者本人尋問の結果によると、被告は後示のド社との本件代理店契約を昭和五四年一〇月輸入分以降合意解除し、同五六年三月末までに在庫商品も販売し尽し、それ以降ド社からイ号標章を付した本件商品を輸入していないし、今後も輸入する予定はなく、従つて、本件商品、包装袋、広告にイ号標章を使用する虞れもないことが認められる。 2 そこで、イ号標章を本件商標と対比すると、外観において、アルフアベツトの大文字と小文字の差異があるほか、第一文字と第二文字との間に「o」が入り、揚音符が第二番目ではなく、第一番目の「e」に付されている以外同一であるから類似するものというべきであり、称呼においても両者共に「ドロテビス」の称呼が生ずるから同一のものであり、従つて、両者が全体として類似することは明らかである。そして、本件商品はいずれも第一七類の指定商品に属することが明らかである。 3 ところで、被告はイ号標章の使用を自認しながらも、イ号標章を単独で使用することはなく、「e et j,jaco-bson」との結合標章として使用しているから、本件商標と類似しないと主張する。 成立に争いのない甲第四号証の一・二、同第一六号証、原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第六号証の二、同第一七号証の一・二、 被告代表者本人尋問の結果によると、被告は本件商品をド社によつて襟札と下げ札にイ号標章のみを表示した状態で同社から輸入し、これを顧客に販売等していたこと、被告は右商品を顧客に引き渡すに際し、同社の指示により、赤地に白抜きで大きく「e et j,jacobson」と【A】夫妻の名の頭文字と姓を横書し、その下に約四分の一の大きさでイ号標章を表示した合成樹脂製の包装袋を使用し、また同様の仕様による広告を行つていることが認められ、右認定に反する証拠はない。 右認定事実からすると、本件商品にはイ号標章のみが単独で表示されているとみるのが相当であり、しかも、イ号標章と「e et j,jacobson」とが一連のものとして使用される場合においても、後者は人名、前者は後示の意味を持つ造語で、上下に分離して横書されており、外観、発音、観念も分離しており、不可分一体に表示された結合標章とみることは困難である。従つて、これらは別個に本件商標との類似性が判断されるべきであり、【A】夫妻の姓名が表示されていることの故をもつて、本件商標との類似性を否定することはできず、被告がイ号標章と「e et j,jacobson」とを一連のものとして表示する場合においても、イ号標章部分は本件商標と類似する。 三 次に、原告の不正競争の主張について判断する。 本件商標が、不正競争防止法施行の地域内において広く認識された商標であると認めるに足る証拠はなく、かえつて、後示の如く、原告はもとより何人も本件商標を一度も使用したことすらなく、従つて、右地域内において全く認識される余地はなかつたものであるから、同法1条1項一、二号の周知性の要件を欠き、その余の点を判断するまでもなく、この点に関する原告の主張については理由がないものといわなければならない。 四 そこで、被告の権利濫用の主張について判断する。 1 我国の商標権者は、外国においてその商標と同一又は類似する標章につき商標権を有する者から発出した該標章を付した商品が、我国内に輸入された場合、我国の商標権を侵害するものとして、その使用の差止等を求めうることは属地主義及び商標権独立の原則(工業所有権保護に関するパリ条約6条3項)から明らかである。 2 ところで、本件では以下に判示する特別の事情が存在する。 (一) 「doroth●e bis」商標について 成立に争いのない乙第七、八号証、被告代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、【A】夫妻はフランス共和国パリ市を活動の本拠とする服飾デザイナーであり、一九五八年から同市において「doroth●e」と称する服飾店を開業し、自ら創作する婦人服飾品を販売していたところ、次第に隆盛となり、右店舗を拡張するに至つたが、その際、店舗名を「doroth●e bis」と変更したこと、【A】は一九六二年に同夫妻が創作する婦人服飾関係品を製造販売することを目的とするド社を設立し、自ら代表者に就任したが、右会社の商号を「イデ・ドロテビス」としたこと(従つて、ドロテビスは右会社の正式商号であつて、 原告主張の如き通称ではない。)更に、【A】は一九六五年(昭和四〇年)六月一四日、同国(フランス)において、婦人衣類、身回品、宝石、香水等の商品につき「doroth●e bis」商標の登録商標権者となり、同年一一月二五日国際登録され、その頃ド社に右商標の使用権を付与したこと、【A】夫妻はその創作する婦人服飾製品に右商標を表示して販売していたが、右製品は婦人服飾品に関するいわゆるパリモードフアツシヨンの一つとして次第に著名なものになると同時に、 右商標は【A】夫妻が創作する婦人服飾品を表象するものとして著名なものとなり、遅くとも本件商標が出願された一九七〇年(昭和四五年)頃までには世界的にも著名な商標となつていたこと、「doroth●e bis」の意味は、「doroth●e」が欧米で慣用される女子のフアーストネームであり、英語における「ドロテイ」のフランス語にあたるものであつて、【A】夫妻がその間に出生する女児のために予定していたものの一つで、当初これを店舗名として使用し、次いで店舗を拡張した際、同番地の建物の二つ目の入口を意味するフランス語の「bis」を後尾に付けたものであり、それ自体殊更の意味を持つものではない造語的商標であることがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。 (二) 本件商標について 本件商標は、訴外株式会社甲陽が昭和四五年一〇月二八日出願し、同四七年八月二一日公告され、原告が同四八年一月右訴外会社から譲り受け、同年三月二九日登録されたものであることは当事者間に争いがない。 ところで、前示の「doroth●e bis」商標成立の経緯及びこれが造語的商標であり、偶々日本人がこれと類似の本件商標を独自に考案する可能性を認めることは極めて困難であること(これを認める証拠もない。)、しかも、本件商標出願当時既に「doroth●e bis」商標は世界的に著名なものであつたことを勘案するならば、株式会社甲陽が本件商標を出願したのは、「doroth●e bis」商標が世界的に著名でありながら、未だ我国において出願登録されていないことを奇貨として、剽窃的にこれを出願したものと推認せざるを得ない。 (三) 原告の本件商標及び「doroth●e bis」商標の使用状況等について(1) 原告が昭和四七年五月一七日、ド社との間に、原告が同社によつて生産された衣料品等のオリジナルモデルの提供を受け、これを日本国内において再生産した上、「doroth●e bis」商標を付して販売する独占的許可を受けることなどを目的とした契約を締結し、右契約が三年の期間満了により終了したあと引き続き、【A】夫妻を契約当事者として略同様の本件合弁契約を締結したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一九、二〇号証によると本件合弁契約は、更に、原告はド社或いは【A】夫妻から提供を受けたオリジナルモデルが持つているスタイル、仕上、色等の特性を留めるよう努力すること(但し、日本市場に適合させるため若干の修正・変形は可能。)、原告はオリジナルモデルの再生産権に加えて「dor-oth●e bis」商標の付されたオリジナル商品の全製品を輸入する最優先権を持つこと、ド社或いは【A】夫妻は右契約存続中、日本市場において、他のいかなる会社とも直接・間接のいかんを問わず取引に従事しないことを保証するなどの合意内容を含んでいることが認められる。 (2) 前掲甲第一九、二〇号証、成立に争いのない甲第一八号証、乙第四号証、 原、被告各代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は本件合弁契約締結の前後頃、株式会社甲陽が本件商標を出願していることを知り、右契約に基き生産した商品につき、「doroth●e bis」商標を付して我国で販売できなくなることを慮り、【A】にその実情を訴えると共に、本件商標の買取方を求めたが、同人の拒否するところとなつたため、やむなく原告は同人の了解を得ることなく、独自に右会社から本件商標を金五〇〇万円で譲り受けたこと、原告が本件商標を譲り受けたのは、専ら本件合弁契約に基き「doroth●e bis」商標を国内で使用するにつき発生する虞れのある紛争を未然に防止することのみを目的としたものであり、従つて、原告は、本件商標が右商標と相異する点のあることすら認識せず、本件商標を自ら使用したこともなく(また、何人も使用したこともない。)、ド社から提供を受けたオリジナルモデルの再生産品(コピーないしはライセンス物)にはすべて「doroth●e bis」商標を表示して販売していたこと、右商標を付した商品は、【A】夫妻の創作したパリモードフアツシヨンとして我国市場においても好評を博し、原告は本件合弁契約の更新を希望していたが、双方の要求する諸条件が合意に達しないまま経過して昭和五三年三月三一日に本件合弁契約は期間満了により終了したこと、その後原告はそれまでに生産した在庫品を整理のため販売したのみで、間もなく同年六月には右商標に代えて「ヴイルビル」標章を使用することを取引先等に文書で伝えたり、その頃右標章を付した商品のコレクシヨン展示会を開催するなどして、右以降も本件商標を使用する意図は全くなかつたことがそれぞれ認められ、右認定に反する原告代表者本人の供述部分は措信し難く、これを左右する証拠はない。 (四) 被告のイ号標章(「doroth●e bis」商標)の使用状況等について 被告が本件合弁契約の終了を契機として、昭和五三年四月一日、ド社との間に、 同社の製造した本件商品を国内で独占的に輸入販売等するため、本件代理店契約を締結したことは当事者間に争いがなく、同年六月以降イ号標章を使用していることは前示のとおりである。 従つて、被告のイ号標章は、【A】がフランス共和国において商標登録し、ド社が使用権を有する世界的に著名な「doroth●e bis」商標に他ならず、 これと全く同一のものであることが明らかである。 3 右2で認定した各事実から以下検討する。 世界的に著名な「doroth●e bis」商標が、我国において登録されていないことを奇貨として、これを剽窃的に出願して登録された以上、その登録商標、即ち本件商標が権利として有効に存続すること自体は、前示の属地主義及び商標権独立の原則からしてやむを得ないところであるが、国際的な商標秩序維持の公正な理念からすると決して好ましいものではなく、就中、本件商標権者が、「doroth●e bis」商標の創作者で、フランス共和国等における登録商標権でもあり、かつ、これを世界的に著名なものとした【A】本人をはじめ同人から使用権の設定を受けたド社並びにこれらとの契約等により右商標を使用する正当な権利を有する者らとの関係で問題となるとき、その不当性は顕著なものになるものというべく、従つてかかる場合、本件商標権の成立の経緯やその後の事情等を斟酌して権利行使の社会的適合性を判断し、場合によつてはこれを制限することもなんら属地主義及び商標権独立の原則に反するものではないと解する。 ところで、原告は本件商標権を自ら出願したものではなく、本件合弁契約に基き、「doroth●e bis」商標を我国で使用するための障害を排除するため、株式会社甲陽から譲り受けたにすぎないものである。従つて、原告が本件合弁契約に基き、「doroth●e bis」商標を使用し、そのために本件商標を行使する限りにおいては、格別これを問題視することはできないけれども、しかしながら、一たん右合弁契約が期間満了により終了消滅した以上、最早原告にとつては、右契約上の権限(つまり、ド社らのオリジナルモデルの再生産ないしオリジナル商品の優先的輸入販売に関する諸権利や「doroth●e bis」商標の使用権等)が一切なくなるとともに、本件商標を譲受取得した当初の意図目的も一応果されたことになり、しかも、今後将来にわたつてもこれを自ら使用する意図もない本件商標権に基いて、右合弁契約の終了を機に被告がド社と新に締結した本件代理店契約により、同社からイ号標章を付したオリジナル商品を輸入販売する行為等を差し止めようとするのは、本件商標に関する前示の不当性が顕在化するのみならず、商標法53条の2(パリ条約の同盟国における代理人等の名による商標登録の規制)の立法趣旨からみても、社会的にたやすく容認し難いところといわなければならない。この点は、「doro-th●e bis」商標が【A】夫妻の創作するパリモードフアツシヨンを表象するものとして世界的に著名なものであり、我国内においても好評を博していたのであるからして、我国で広く認識されている「doroth●e bis」商標及びこれに類似する本件商標がもたらし、或いはもたらすであろう出所表示機能は、被告のイ号標章の使用によつて損われることもなく、一般大衆、需要者にイ号標章の出所表示機能について誤認を生じさせる虞れもないというべきである。まして、本件の場合、原告は本件商標をこれまで一度も使用せず、かつ、今後もこれを使用する意思がないのであるから、被告のイ号標章の使用により原告が被るであろう実質的な損害はほとんど考えられず、従つて、これら利害得失の点から比較考量しても、本件差止請求権の行使はこれを制限してしかるべきである。 4 なお、原告は、被告が不正手段を構じて原告と【A】夫妻の関係を疎外し、本件合弁契約の更新を不可能ならしめた上、ド社との間の本件代理店契約を締結したと主張するが、これを裏付ける的確な証拠はない。 5 以上検討した諸点及び本件に表れた諸事情を総合するならば、被告の使用するイ号標章は本件商標と類似し、外形的には本件商標権を侵害するといい得るものの、原告が被告に対し、本件商標権に基き、イ号標章の使用の差止、損害賠償及び謝罪広告を求める本訴請求は、権利の社会性に反する濫用行為というべきである。 五 以上の次第であるから、原告の本訴請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 永岡正毅 |
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裁判官 | 渡部雄策 |
裁判官 | 大西嘉彦 |