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関連審決 審判1982-21631
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 包装 /  指定商品 /  類似性(類否判断) /  商品の類似 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  離隔的 /  離隔的観察 /  存続期間 /  更新登録 /  外国 /  非類似 / 
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事件 平成 1年 (行ケ) 55号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1990/12/11
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告 「特許庁が昭和五七年審判第二一六三一号事件について昭和六三年一一月二四日にした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決二 被告 主文同旨の判決
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 訴外ユニオン カーバイト コーポレーションは、別紙一のとおり「VAXON」及び「バクソン」の文字を二段に横書きしてなり、第一類「製鉄用合金添加剤、その他本類に属する商品」を指定商品とする登録第一四〇一五四五号商標(以下「本件商標」という。)(昭和四八年一一月二一日登録出願 昭和五四年一二月二七日設定登録)の商標権者であったところ、被告は、昭和五六年八月一七日に同社から本件商標を譲り受け、昭和五八年七月二五日に移転登録をした。
原告は、昭和五七年一〇月二〇日ユニオン カーバイト コーポレーションを被請求人として本件商標登録の無効の審判を請求し、特許庁は、右の請求を昭和五七年審判第二一六三一号事件として審理した結果、昭和六三年一一月二四日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。
二 審決の理由の要点1 本件商標の構成、指定商品、商標登録出願日及び設定登録日は前項記載のとおりである。
2 請求人(原告)が、本件商標と類似するものとして引用した登録第四六七五七一号商標(以下「引用商標」という。)は、別紙二のとおり「バキソ」及び「BAXO」の文字を二段に横書きしてなり、昭和二八年六月六日登録出願、昭和三〇年六月三〇日設定登録され、その後昭和五〇年七月四日と昭和六〇年七月一六日の二回にわたり商標権存続期間更新登録がなされたものである。
3 請求人(原告)の主張(一) 本件商標は、上段のローマ字「VAXON」より「バクソン」又は「バキソン」の称呼が生じ、下段の片仮名文字「バクソン」より「バクソン」の称呼が生じるのを自然とするものである。一方、引用商標は、上段の片仮名文字「バキソ」より「バキソ」の称呼が生じ、下段のローマ字「BAXO」より「バキソ」又は「バクソ」の称呼が生じるのを自然とするものである。
(二) そこで、両商標の称呼を比較するに、本件商標「バクソン」又は「バキソン」と引用商標「バクソ」又は「バキソ」との差異は語尾音に位置する鼻音「ン」の有無にすぎないものである。この語尾音「ン」は、口を開かずに歯茎で発音される鼻音の弱音であって、母音を伴わないもので、前音に吸収される音であるから、
両商標をそれぞれ全体として「バクソン」「バクソ」又は「バキソン」「バキソ」と称呼したときは、「ン」が語尾音であることからも、「ン」の有無によって両商標を識別することはできず、両商標は語韻語感が近似し取引上彼此相紛れるおそれのある類似する商標であることが明らかである。
(三) 次に、本件商標より生じる「バクソン」の称呼と引用商標から生じる「バキソ」の称呼を比較しても、両者の差異は、第二音「ク」と「キ」の差異及び語尾音「ン」の有無に過ぎず、「ク」と「キ」は子音[K]を共通にする五〇音図中同行に属する近似音であり、かつ語尾音「ン」が歯茎で発音される鼻音の弱音であることから、両商標を全体として「バクソン」「バキソ」と称呼した場合においても語韻語感が近似し、称呼上彼此相紛れるおそれのある類似する商標である。
(四) また、本件商標のローマ字部分「VAXON」と引用商標のローマ字部分「BAXO」とは、ローマ字「V」と「B」を除けば「N」が在るかないかの相違のみである。特に、時と処を異にして離隔的観察をするときは、識別しがたいもので、両商標は称呼の類似もあるところから外観上も相紛れるおそれのある類似する商標である。
4 審決の判断(一) 本件商標は「VAXON」、引用商標は「BAXO」のそれぞれの欧文字に、片仮名文字で、前者は「バクソン」、後者は「バキソ」と書してなるものである。しかして、該構成文字中各片仮名文字は、各欧文字の読み方を特定したものと認められるから、それぞれ該片仮名文字に相応して、前者は「バクソン」、後者は「バキソ」の称呼のみ生ずるを自然とみるのが相当である。
(二) そこで、本件商標から生ずる「バクソン」と引用商標から生ずる「バキソ」の両称呼を比較するに、両者は四音と三音という比較的短い音よりなるうえ、
第二音において「ク」と「キ」は共に破裂音であって明確に発音され、聴取されるばかりでなく、語尾音「ン」の有無の差異を有するものであるから、それぞれを一連に称呼するも語感語調において明確な差異を生じ、彼此相紛れるおそれのないものと判断するのが相当である。
(三) 次に、両商標の外観について判断するに、両者の構成は叙上のとおりであり、それぞれ欧文字及び片仮名文字を上下二段に一体とした構成よりなるものであるから、それぞれ欧文字部分のみを抽出して外観上類似するというは当を得たものということはできない。そうとすれば、その構成に係る欧文字及び片仮名文字の各文字数並びに上下に配列されているところの各文字の位置、字形などが異なっている構成態様のものであるから、両者の外観は区別し得る差異を有するものと判断するのが相当である。
(四) また、両者はいずれも特定の意味を理解しがたい造語よりなるものとみられるから、観念については比較すべくもないものである。
(五) 以上のとおり、本件商標と引用商標とはその外観称呼観念のいずれについても相紛れることのない非類似の商標であるから、本件商標を商標法4条1項11号の規定に該当するものとして、同法46条1項1号の規定により登録を無効とすべき限りでない。
三 審決を取り消すべき事由 審決の理由の要点1、2は認める(引用商標の指定商品は、第一類「化学品、薬剤及び医療補助品」である。)。同3は認める。同4の判断は争う。審決は、本件商標と引用商標とがいずれも欧文字と片仮名文字とを二段併記してなる商標であることから、いずれも構成中の片仮名文字が欧文字の読み方を特定したものと認めたうえで、称呼の認定対比をなし、また、外観の認定対比においても上下二段の構成を一体としてみたうえで、外観上類似しないとの判断を示しているが、このような認定は、上下二段併記からなる登録商標の現実の使用態様に係る経験則に反するものであり、これに基づいて両商標が称呼上相紛れるおそれのないものとした判断も誤りである。これが、両商標が類似する商標ではないとの誤った判断を導いたものであるから、審決は違法として取り消されるべきである。
1 欧文字と片仮名文字とを二段併記してなる商標の称呼の認定について 本件商標と引用商標の構成は別紙一、二のとおり共に欧文字と片仮名文字とを二段併記してなる商標であるが、このような二段併記の商標に係る商標登録出願は普通に行われており、多くの商標登録例もみられる。このような二段併記してなる商標が登録された場合の実際の使用の態様をみると、二段併記のまま一体として使用されることはほとんど稀で、片仮名文字部分と欧文字部分とが、別個に、例えば商品包装容器の上下部分とか、表裏部分とに分離して使用されるのが通例である。そのため、特許庁における審査の実務においても、右のような片仮名文字部分と欧文字部分とを分離した使用態様は、上段と下段との併記からなる商標として登録された商標であっても、両者が別個の商標と認められるものでない限り二段併記の登録商標の使用態様の一種であるとして容認している。このことは、二段併記してなる登録商標について、上下いずれかの段のみからなる文字の使用であっても、社会通念上において同一性が認められるところから、商標権存続期間更新登録出願についての審査基準においても明らかに定められている。このことからして、本件商標の「VAXON」と「バクソン」と引用商標の「バキソ」「BAXO」とがそれぞれ独立して取引者又は需要者により認識対比される場合もあるのであって、審決のように本件商標と引用商標を二段併記してなる構成を一体的に観察して両者の類否を判断することは、登録商標の使用の実態に基づく経験則を無視したうえの判断といわなければならない。片仮名文字の部分をもって、欧文字の読み方を特定したものとみて、欧文字からも片仮名文字と同一の称呼が生じるものとした審決の認定は誤りというべきである。
2 本件商標と引用商標との称呼の認定対比の誤り 右のように使用の実態に則して、本件商標と引用商標とは共に片仮名文字部分とは別個に欧文字の部分から生じる別個の称呼をもって取引に資せられることが多いという経験則からみると、本件商標の上段部分「VAXON」と引用商標の下段の「BAXO」の部分は、英語の普及している我が国においてはいずれも英語読みされて、本件商標の「VAXON」部分からは「バクソン」又は「バキソン」との称呼が生じ、引用商標の「BAXO」部分からは「バクソ」又は「バキソ」の称呼が生じることは明らかである。そして、本件商標及び引用商標より生ずる称呼における「バクソン」と「バクソ」の称呼、「バキソン」と「バキソ」の称呼とをそれぞれ対比すると、両称呼は、いずれも印象の強い語頭音から第三音までの「バ」「ク」「ソ」又は「バ」「キ」「ソ」を共通にするものであり、異なるのは両音の語尾に位置する音「ン」の有無にすぎない。また、この語尾音「ン」は、口を開かずに歯茎で発音される鼻音の弱音で、母音を伴わず、その前者に吸収される音であるから、両商標より生ずる「バクソン」と「バクソ」又は「バキソン」「バキソ」の称呼は、語尾音の有無にかかわらず聴別が困難である。したがって、本件商標と引用商標とは、語感が著しく酷似する類似の商標であり、取引上彼此相紛れるおそれが充分ある商標である。このことは、語尾音「ン」の有無における称呼の類否の審査において、「バリアン」と「バリア」とか、「シアノン」と「シアノ」とか称呼上の音構成が極めて短い二音ないし四音であっても類似とされている審決例(甲第八号証ないし第二七号証参照)からも明らかである。したがって、本件商標と引用商標とが称呼上類似していないとした審決の認定判断は明らかに誤りといわざるを得ない。
3 被告は、引用商標のうち下段の「BAXO」を通常の読み方と異なる「バキソ」の片仮名文字を積極的に上段に配したのは、引用商標の商標権者である原告が、取引者、需要者に対し、引用商標を「バキソ」と読ませたいという意図のもとにそのような二段併記をしたものとみるのが相当であり、実際問題としても、一つの商標が相異なる称呼で取引に資することはない旨主張するが、商標法4条1項11号についての商標審査基準をみても、「紅梅」の文字商標について、「ベニウメ」との振り仮名を付しても、なお「コウバイ」の自然称呼が生ずるものとされ、
また「白梅」の文字商標について「ハクバイ」と「シラウメ」の複数の称呼が生ずるものとしているし(甲第三四号証)、また、片仮名文字と欧文字とからなる二段併記の商標を引用して、欧文字部分から片仮名文字とは異なる称呼を認定して商標出願を拒絶した審決例も少なくない(甲第三五号証及び第三六号証参照)のである。したがって、被告の主張するように一つの商標が相異なる称呼で取引に資することはないとはいえず、引用商標からは、「バキソ」の称呼のほかに、「バクソ」の称呼が生ずるものとみるべきである(被告も、「BAXO」の欧文字部分は通常の発音方法に従えば、「バクソ」と発音されるのが普通であると認めている。)。
なお、引用商標の指定商品のうちの「薬剤」を取扱う業界において、二段併記の商標はそれぞれ分離して使用される例が多い(甲第二九号証の一ないし三、第三〇号証及び第三一号証の各一、二参照)。また、引用商標及び原告のもつ登録商標(「アクレチン」と「ACHLETIN」などを上下に配した構成)の使用態様をみても、必ずしも、一体となった態様でのみ使用されていない(甲第三二号証の一ないし三、第三三号証の一ないし三参照)。
請求の原因に対する認否及び被告の主張
一 請求の原因の一、二の事実は、認める。同三の主張は、争う。審決の認定判断は正当であって、審決には原告主張のような違法の点はない。
二 被告の主張1 原告は、本件商標や引用商標のように二段併記してなる登録商標においては、
上下それぞれの部分が独立して取引者又は需要者により認識対比される場合があるから審決のように二段併記してなる構成を一体的に観察して両者の類否を判断することは、登録商標の使用の実態に基づく経験則を無視した認定である旨主張する。
しかしながら、商標法は一商標一出願の原則(同法6条)に立脚しているものであって、出願された商標が二段併記の構成であろうが、他の図形との結合よりなるものであろうが、一商標として出願され、一商標として登録されたものである以上、
もとより各構成部分毎に権利が付与されたものではなく、したがって、その登録された商標についての権利の行使の有無やその類否判断をするに当たっては、全体を一個の商標としてとらえ、一体として判断すべきが当然である。審決は、かかる観点から本件商標と引用商標とについて、それぞれを全体的に観察し、適正な称呼を認定したうえで、非類似の商標と認定したものであり、かかる観察方法に立脚してなされた審決の認定判断には何ら誤りはない。
2 原告は、本件商標のような二段併記の構成からなる商標は、欧文字と片仮名文字の部分が別個に分離されて使用されるのが通例であるとし、そのため、登録商標の更新出願についての審査の実務においても、右のような片仮名文字部分と欧文字部分とを分離した使用態様も二段併記の登録商標の使用態様の一種として容認している旨主張する。しかしながら、二段併記からなる商標について、上下段のそれぞれが分離して使用されるのが通例であることを被告は知らないし、また、原告が指摘する更新出願の審査基準における取り扱いも、例外的に登録商標の使用として認められる場合を例示したものである。すなわち、登録商標は一体として使用されるのが原則であるが、ともすれば上下段の一方のみを使用することがあり得るので、
これらのすべての場合について登録商標の使用でないとして画一的に処理して更新出願を拒絶することが実際上不都合を生じる場合があることに鑑みて二段併記のそれぞれから生ずる称呼観念が同一の場合に限り例外的に認められるのであり、原則と例外とを混同すべきではない。したがって、上下段それぞれの部分から生ずる称呼がそもそも特定しない場合には、原則として登録商標の使用とは認められないのである(昭和五三年九月弁理士会商標委員会作成の商標存続期間更新登録出願の実務に関する補足資料参照)。
右の趣旨は「商標の使用証明と業務記載」(甲第二八号証)と題する商標の使用に関する認定基準においても同様である。
3 本件商標からは「バクソン」の称呼のみが、引用商標からは「バキソ」の称呼のみが生ずるとみるべきであって、原告主張のように本件商標から「バクソン」又は「バキソン」との称呼が生じ、引用商標からは「バクソ」又は「バキソ」の称呼が生ずるものとはいえない。原告のもつ引用商標についてみても、引用商標のうちの下段の「BAXO」を通常の読み方(通常の発音方法に従えば「バクソ」と発音されるのは普通である。)と異なる「バキソ」の片仮名文字を積極的に上段に配したのは、引用商標の商標権者である原告が、取引者、需要者に対し、引用商標を「バキソ」と読ませたいという意図のもとにそのような二段併記をしたものとみるのが相当である。原告が、取引者、需要者に対し引用商標のうちの下段の欧文字の部分については「バクソ」と読ませ、上段の片仮名文字部分については「バキソ」と読ませ、引用商標から二つの異なった称呼をもって取引に当たらせようと意図したものとは到底考えられない(実際問題としても、一つの商標が相異なる称呼で取引に資することはない。)。本件商標や引用商標のように外国文字よりなり、何ら特定の意味、観念を有しない商標であって、しかもその読み方が難解な(「BAXO」の部分は、一見してどのように発音するのか容易にはわからない。)商標にあっては、これをどのように称呼すべきか(商標権者にとってはどのように称呼させたいか)が重要であるので、そこに片仮名文字を併記する重要な意味があるのである。特に引用商標が指定商品「薬剤」に付して使用される場合には、その使用に先立って、厚生省に対して製造承認の申請をするが、その際にその商品に付すべき名称を日本語で付さなければならないのであるから、承認を得た「バキソ」以外の称呼で取引に資することはあり得ない。
4 したがって、本件商標から生ずる「バクソン」と引用商標から生ずる「バキソ」の両称呼を比較したうえで、両者は語感語調において明確な差異を生じ、彼此相紛れるおそれのないものとした審決の判断は正当である。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一、二の事実(特許庁における手続の経緯及び審決の理由の要点)が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二 取消事由についての判断1 本件商標の構成、指定商品、登録出願日及び設定登録日並びに引用商標の構成、登録出願日、設定登録日及びその後の更新登録日が審決認定のとおりであり、
引用商標の指定商品が第一類「化学品、薬剤及び医療補助品」であることは、当事者間に争いがない。
2 原告は、本件商標と引用商標の称呼について、本件商標の上段の「VAXON」の部分からは「バクソン」又は「バキソン」との称呼が生じ、引用商標の下段の「BAXO」の部分からは「バクソ」又は「バキソ」の称呼が生じるから、本件商標からは「バクソン」の称呼のみが、引用商標からは「バキソ」の称呼のみが生ずるとの審決の認定が誤りである旨主張するので、まず、この点について検討する。
(一) 本件商標が、別紙一に示すとおり「VAXON」及び「バクソン」の文字を二段に横書きしてなる構成であり、引用商標は、別紙二に示すとおり「バキソ」及び「BAXO」の文字を二段に横書きしてなるものであるところ、本件商標においては、上段の「VAXON」、引用商標においては下段の「BAXO」なる部分はいずれも単独ではどのように発音するか必ずしも明らかでないが、それぞれ「バクソン」及び「バキソ」の片仮名文字が、右各欧文字の下段又は上段に併記されていることからみて、これらの商標の出願人としても、取引者需要者に対し、本件商標においては、「バクソン」と称呼させることを意図し、他方、引用商標において、「バキソ」と読ませたいという意図のもとに片仮名文字を併記したものと推認されるのであり、そうであれば、両商標において併記された片仮名文字により、その上段又は下段の欧文字の読み方を特定させるものと認めるのが相当である。したがって、審決が、「該構成文字中各片仮名文字は、各欧文字の読み方を特定したものと認められるから、それぞれ該片仮名文字に相応して、前者は「バクソン」、後者は「バキソ」の称呼のみ生ずるを自然とみるのが相当である」とした認定は正当であって何ら誤りはない。
(二) 原告は、両商標のように二段併記の構成の文字よりなる商標は各部分(両商標についていえば、欧文字部分と片仮名文字部分)が別個に使用されるのが通例であるとして、二段併記の構成を一体的に観察して両者の類否判断をすべきでない旨主張する。しかし、先に登録された商標と類似することを理由とする商標登録の無効は、先後願の関係にある登録商標自体の対比により判断されるべきものであることは商標法46条1項1号4条1項11号の文理に照らし明らかである。
仮に商標の具体的使用態様をも考慮して類否判断をする必要がある場合があるとしても、原告が主張するように、二段併記の構成の商標が別個に独立に使用されることが取引界において通例であることを認めるに足る証拠はない。
更に、両商標の具体的使用態様についてみるに、商標登録の無効の審判請求は、
商標法所定の拒絶事由があって本来登録を拒絶すべきであった商標登録出願が過誤によって登録された場合に無効事由の存在を主張して、原則的にその登録がはじめから存在しなかったこととする審決を求めるものであるから、無効事由の存否は登録査定の時点において(4条1項8号、一〇号又は一五号の事由については出願時における存否をも判断する。)判断されるべきものであり、本件商標に係る登録出願が、その査定時以前においていかなる態様で使用されていたかを認めるに足る特段の証拠も見出せないから、結局本件商標については、その後の具体的態様いかんを問うまでもなく、二段併記の構成により対比するほかない。また、引用商標についてみても、その指定商品のうち「化学品」について「BAXO」の欧文字のみが付されて使用されている態様を認め得る証拠はなく、成立に争いのない甲第三二号証の三によれば、「バキソ」の片仮名文字と「BAXO」と欧文字とが包装容器の別の箇所に分離して表示されている使用の態様が認められるものの、これに接する取引者、需要者としては、包装容器の表に表示された「バキソ」の片仮名文字から同じ容器の別の箇所に表示された「BAXO」の欧文字についても、これを「バキソ」と発音するであろうことは容易に推測できることであるから、仮にその具体的使用態様を考慮するとしても、このような使用の形態から引用商標において「バキソ」とは違った称呼が生じるとみることはできない。
3 右のとおり本件商標と引用商標からは、それぞれ「バクソン」と「バキソ」の称呼のみが生ずるものとみるのが相当であるとすると、審決の認定したとおり、両者は一連に称呼しても語感語調に明確な差異があるので、相紛れるおそれはないものと判断されるから、称呼において類似するものとはいえず、また、外観上の類似していないことは明らかであるので、指定商品の類似性についての判断をなすまでもなく、本件商標が引用商標と類似する商標とは認められない。したがって、本件商標を商標法4条1項11号の規定に該当するものとして、同法46条1項1号の規定により登録を無効とすることはできない(原告指摘の商標審査基準及び審決例は本件に適切でない。)。
これと同旨の審決の認定判断は正当であって、審決には、これを取り消すべき違法の点はない。
三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤った違法があることを理由に、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条及び民事訴訟法89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 松野嘉貞
裁判官 舟橋定之
裁判官 小野洋一