関連審決 | 無効2005-89138 |
---|
審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
---|---|---|
平成20行ケ10217審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成20行ケ10100審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成19行ケ10090審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成19行ケ10162審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成20行ケ10295審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 識別力 / 包装 / 出所表示機能 / 品質保証機能 / 質保証機能 / 識別機能 / 先願主義 / 指定商品 / 普通名称(3条1項1号) / 商品の同一性 / 周知性 / 混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) / 4条1項11号 / 顧客吸引力(グッドウィル) / 希釈化(ダイリュージョン) / 類似性(類否判断) / 権利濫用(権利の濫用) / 通常使用権 / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 取引の実情 / 国内 / 警告 / 専用権 / 禁止権 / 判定 / 差止 / 共有 / 信義則 / 類似範囲 / 使用許諾 / 無効審判 / 登録異議申立 / 類似商標 / 継続 / 商号 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
19年
(行ケ)
10291号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告ザ ポロ/ローレン カンパニー リミテッド パートナーシップ 訴訟代理人弁護 士松尾眞 同 兼松由理子 同 岩波修 同 杉本亘雄 訴訟代理人弁理 士曾我道治 同 岡田稔 被告ポロ・ビーシーエス株式会社 訴訟代理人弁護 士山本忠雄 同 中橋紅美 同 佐々木優雅 訴訟代理人弁理 士江原省吾 同 田中秀佳 同 川本真由美 |
|
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/12/27 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
---|---|
全容
第1請求特許庁が無効2005-89138号事件について平成19年3月27日にした審決を取り消す。 第2事案の概要1原告は,著名なデザイナーであるラルフ・ローレンが被服・眼鏡その他のファッション関連商品を関連会社等を通じて製造販売している会社であり,一方,被告は,公冠株式会社とその関連会社である公冠販売株式会社が「POLO」ブランドの管理会社として平成元年3月17日に設立した会社である。 2本件は,原告が有する後記商標(本件商標)登録のうち指定商品第9類「事故防護用手袋,防じんマスク,防毒マスク,溶接マスク,防火被服」・第16類「紙製幼児用おしめ」・第20類「クッション,座布団,まくら,マットレス」・第21類「家事用手袋」・第24類「布製身の回り品,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」・第25類「被服」について,商標法46条・4条1項11号に基づき被告が無効審判請求をしたところ,特許庁が指定商品中第25類「被服」についての登録を無効とする旨の審決をしたので,原告がその取消しを求めた事案である。 3争点は,原告の有する本件商標が被告の有する下記引用商標A及び引用商標Cと類似するかどうかである。 記?@ 引用商標A:登録第1434359号・商標・指定商品旧第17類(平成3年政令第299号による改正前の分類)「ネクタイ,その他本類に属する商品,但し,ポロシャツ及びその類似品ならびにコートを除く」・出願日 昭和47年6月13日・登録日 昭和55年9月29日?A 引用商標B:登録第1447449号・商標 ・指定商品登録時は旧第17類(平成3年政令第299号による改正前の分類)の「被服(運動用特殊被服を除く)布製見回品(他の類に属す・出願日昭和47年4月22日るものを除く)寝具類(寝台を除・登録日昭和55年12月25日く)」であったが,平成13年2月14日の書換登録により,次のとおりとなった。 第5類「失禁用おしめ」「事故防護用手袋,防火被 第9類服,防じんマスク,防毒マスク,溶接マスク」第10類「医療用手袋」第16類「紙製幼児用おしめ」第17類「絶縁手袋」第21類「家事用手袋」第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子」?B 引用商標C:登録第2721189号・商標 ・指定商品旧第17類(平成3年政令第299号による改正前の分類)・出願日昭和56年4月6日「被服(運動用特殊被服を除く)・登録日平成9年5月2日布製見回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」?C 引用商標D:登録第4015884号・商標 ・指定商品旧第17類(平成3年政令第299号による改正前の分類)・出願日昭和58年5月11日「被服(運動用特殊被服を・登録日平成9年6月20日除く)布製見回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」?D 引用商標E:登録第4041586号・商標 ・指定商品旧第17類(平成3年政令第299号による改正前の分類)・出願日昭和58年5月11日「被服(運動用特殊被服を除く)・登録日平成9年8月15日布製見回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯ア原告は,平成15年2月7日,下記商標(以下「本件商標」という。)について商標登録出願をしたところ,平成15年7月11日登録査定を受け,平成15年8月8日に設定登録がなされた(登録第4698704号。以下「本件商標登録」という。)。 記・商標(本件商標。黒色の横長四角形中に文字を白抜きしたもの)・指定商品別紙「本件指定商品目録」のとおり(下線は無効審判請求がなされた部分。二重下線はそのうち審決が認容した部分)。 イこれに対し被告は,本件商標は,第9類「事故防護用手袋,防じんマスク,防毒マスク,溶接マスク,防火被服」・第16類「紙製幼児用おしめ」・第20類「クッション,座布団,まくら,マットレス」・第21類「家事用手袋」・第24類「布製身の回り品,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」・第25類「被服」について,引用商標A〜Eに類似する商標であるとして,商標法46条・4条1項11号に基づき商標登録無効審判請求をしたので,特許庁は,同請求を無効2005-89138号事件として審理した上,平成19年3月27日,「登録第4698704号の指定商品中,25類「被服」についての登録を無効とする。審判費用は,被請求人の負担とする。」との審決を行い,その謄本は平成19年4月6日原告に送達された。 ウなお,特許庁は,平成19年6月7日,上記審決の「審判費用は,被請求人の負担とする。」を「審判費用は,その6分の1を被請求人の負担とする。」とする旨の更正決定をし,その謄本は平成19年6月12日原告に送達された。さらに,特許庁は,前記イの審決内容を追加するため,平成19年6月19日,「登録第4698704号の指定商品中,第9類『事故防護用手袋,防じんマスク,防毒マスク,溶接マスク,防火被服』・第16類『紙製幼児用おしめ』・第20類『クッション,座布団,まくら,マットレス』・第21類『家事用手袋』・第24類『布製身の回り品,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布』についての審判請求は成り立たない。審判費用は,その6分の5を請求人の負担とする。」旨の審決をし,その謄本は平成19年6月29日原告に送達された。 (2) 審決の内容審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件商標は,被告が有する前記引用商標A及び引用商標Cに類似し,本件商標の指定商品中25類「被服」は引用商標A及び引用商標Cの指定商品と同一又は類似であるから,本件商標登録は指定商品中25類「被服」については商標法4条1項11号に違反して登録された,というものである。 (3) 審決の取消事由しかしながら,審決の判断には,次のとおり誤りがあるから,審決は違法として取り消されるべきである。 ア取消事由1(本件商標において自他商品の識別機能を果たす要部は「POLO」の部分であると認定している誤り)(ア)審決は,本件商標中の「POLO」「JEANS」「CO.」の各文字部分が一文字弱分の間隔を置いて横書きされていること,本件商標中の「JEANS」の文字が,「ジーンズ」すなわち「丈夫な細綾織りの綿布又はそれで作った衣服等」を意味する普通名詞として,ファッション業界では当該商品の品質や材質を表示する慣用文字となっていること,また,本件商標中の「CO.」の文字が,「COMPANY」の略語として会社を意味する文字として周知であることの各事実を認定した上で,本件商標を「被服」に使用した場合,取引者及び需要者は,通常,「POLO」の文字部分を本件商標の識別機能を果たす要部として認識するものとみるのが相当であると認定している(18頁下14行〜19頁1行)。 (イ)しかし,本件商標は,黒色の横長四角形中に,白抜き文字で,「POLOJEANSCO.」の欧文字を同書・同大・等間隔に一体的に表示したものであり,かつ,構成文字中の「CO.」の部分が「仲間」又は「会社」を意味する英語の略称として周知されていることから,「ポロジーンズの仲間」又は「ポロジーンズの会社」の意味を連想させるロゴとして,一体不可分の構成からなる商標と認識されるべきである。 また,仮に上記「CO.」の部分が「会社」を意味するものとして,本件商標が商号商標として認識される場合,業態である「会社」を示す「CO.」の部分が省略されて「POLOJEANS」と略称されることはあっても,商品名や素材表示である「JEANS」部分まで省略されて「POLO」と略称されることはない(例えば,「株式会社ジーンズメイト」が「ジーンズメイト」と略称されることはあっても,「メイト」と略称されることはありえないなど多くの例がある)。甲8〜12の判決及び審決は,その各事案で問題となっている商号商標について,本件商標の「Co.」と同様,会社形態の日本語及び英語の略称である「Inc.」,「株式会社」及び「CO,LTD.」を除いた残りの全ての文字部分が一体として略称を構成する旨判断している。したがって,上記判決及び審決によれば,本件商標についても,「Co.」を除く残りの全ての文字部分である「POLOJEANS」が一体となって本件商標の略称となると判断すべきである。現に,Google検索によれば,「POLOJEANSCO.」のほかに,「POLOJEANS」や「ポロジーンズ」の略称が,多数のインターネット・サイトで使用されている(甲22)。 さらに,「ポロジーンズカンパニー」の称呼音は9音であって一気一連に称呼される音構成であるからその称呼が冗長とはいえず,かつ,11文字以上で構成される商標は登録例も含め枚挙にいとまがないほど存在するから,本件商標の称呼長及び構成文字数は,本件商標中の「POLO」の文字のみを要部として分断する理由となるものではない。仮に本件商標が「POLOJEANS」と略称される場合には,称呼音は5音となり,構成文字も6文字となるので,上記の内容がより顕著に当てはまる。 (ウ)本件商標は,ラルフ・ローレンのデザインに係るカジュアルウエアなどの商品ラインの一つとして,米国において1996年(平成8年)より使用が開始され,日本では,1997年(平成9年)後半から,本件商標を使用した商品の販売が展開された。そして,原告がその関連会社やサブライセンシーなどを通じて宣伝及び販売促進に努めた結果(甲15〜甲18の20),日本における「POLOJEANSCO.」ラインの商品の子供用を除く紳士・婦人用被服の売上げは,販売開始の1997年(平成9年)に4か月で約13億円(16万枚)であり,本件商標登録時の2003年(平成15年)には42億(64万枚)であり,1998年(平成10年)〜2003年(平成15年)の平均売上げは年33億円(51万枚)を達成している(甲14)。 実際に,インターネットの検索エンジン「Google」において,「POLOJEANSCO.」の用語で検索をかけてみても,「POLOJEANSCO.」の本件商標を使用して原告商品を紹介し販売する日本語のウェブサイトを数多く見つけることができる(甲22)。この点からも,本件商標が,ラルフ・ローレンのデザインに係る商品群の1ラインを示すものとして,多くの取引者及び需要者に認識されており,高い周知性を獲得していることが明らかである。 (エ)したがって,上記の各点を十分に考慮,検討することなく,本件商標において自他商品の識別機能を果たす要部として「POLO」の部分のみを抜き出した審決の認定には誤りがある。 イ取消事由2(本件商標と引用商標A及び引用商標Cの類似性を認定している誤り)(ア)仮に取引者及び需要者が「POLO」の部分を,本件商標による自他商品の識別機能を果たす要部と認識すると仮定したとしても,この「POLO」標章が,ラルフ・ローレンのデザインに係る被服等の商品を表示するものとして日本において昭和50年代半ば以降から著名性を獲得していること,本件商標が,このラルフ・ローレンのデザインに係る商品のうち,日本市場でも高い売上げを計上しているカジュアルウェアー等の商品ラインの一つとして,それ自体周知性を獲得していること,これに対し,被告の使用する引用商標A及び引用商標Cは,被告の商品を示す商標として周知性は獲得していないこと等に鑑みれば,本件商標中の「POLO」の語は,取引者及び需要者に「ラルフ・ローレンのデザインに係る商品」の観念を強く生じさせるものと見るのが自然である。 (イ)審決取消請求事件(平成17年(行ケ)第10018号事件及び同第10245号事件)における知的財産高等裁判所の各判決につきa審決は,登録商標「POLOJEANS」及び同「POLOGOLF」に関する審決取消請求事件(平成17年(行ケ)第10018号事件及び同第10245号事件)における知的財産高等裁判所の各判決理由に依拠して,原告の「POLO」標章が周知著名性を獲得していることを考慮に入れても,本件商標と引用商標A及び引用商標Cとは,「被服」に使用する場合には,「称呼,外観,観念において紛らわしい関係にあることは変わりはなく,その商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準としてみれば,取引者及び需要者が両者を見誤る可能性は否定できない」(19頁21行〜25行)として,本件商標と引用商標A及び引用商標Cとの類似性を認定している。 b上記の知的財産高等裁判所の2判決(甲23,24)は,「POLO」の商標は,「世界的に著名なラルフ・ローレンのデザインに係るファッション関連商品を表示するもの」として,「強い自他商品識別力及び顧客誘引力を獲得」しており,「その周知著名性は,その後,本件出願時を経て今日に至るまで継続している」旨の認定を行った上で,その商標の類比判断において「POLO」の部分を自他商品の識別機能を果たす要部であると判定している。 しかし,上記の知的財産高等裁判所の2判決は,他方で,「POLO」の用語は,「主として英国及び旧英国領の地域等において行われている馬上競技を示す普通名詞であること,襟付の半袖のカジュアル衣料を示すポロシャツの語が,本来ポロ競技の選手が着用したことにちなむもので,今日,広く各国において普通名詞として用いられることが,公知の事実である」と認定し,かつ,「称呼,外観において同一である一個の商標から二個以上の観念を生じることのあることは経験則に照らして明らか」であるとした上で,「少なくとも一部の取引者及び需要者」は,「本件商標の要部である『POLO』の文字からラルフ・ローレンのデザインに係る商品を想起するものと考えられる」が,「他の一部の取引者及び需要者」は,「『POLO』の語が本来有する意味合いから,ポロ競技やその略称であるポロを想起するものといわなければならない」と認定している。 このように,上記の知的財産高等裁判所の2判決は,一方で,「POLO」の表示は,原告商品を表示する「強い自他商品識別力及び顧客誘引力を獲得」し周知著名性を有することを強調して要部認定の根拠としつつ,誤認混同のおそれの有無の判断においては,一転,自ら認定した原告商品の商標としての「POLO」表示の周知著名性を不当に過小評価し,「少なくとも一部の」取引者及び需要者が「POLO」表示から原告商品を想起し,「他の一部の」取引者及び需要者は「POLO」表示からポロ競技やその略称のポロを想起すると認定している。このように同じ商標の類似性の判断において,同じ原告商品の商標としての「POLO」表示の自他商品識別力が全く異なって評価されており一貫性がない。 そもそも,上記の知的財産高等裁判所の2判決が引用する最高裁判決(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁)は,商標の類否判断における誤認混同のおそれの有無の判断について,「その商品についての取引の具体的な実情に照らし」,かつ,「その商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として」判断すべき旨判示しているが,そこでいう「普通に」の用語が示すように,その誤認混同のおそれの有無の判断は,いわゆる「通常の判断能力を有する平均的な人間」,すなわち,ある特定の社会的・経済的グループ(本件では,原告商品及び被告商品の取引者及び需要者により構成されるグループ)に所属する人間のうち過半数を構成する人間が「普通に」行うであろう認識及び判断を念頭に置いて行うべきことを想定している。しかし,上記の知的財産高等裁判所の2判決は,本件商標と引用商標との誤認混同のおそれの有無の判断において,「POLO」の表示は原告商品の商標として周知著名性を有し,したがって,この表示に接する取引者及び需要者のうちの「少なくとも過半数」の人間は,「普通に」,この表示から原告商品を想起することは明白であるにもかかわらず,これを「少なくとも一部の取引者及び需要者」のみが原告商品を想起するにすぎないと過小評価することにより,誤認混同の生じる可能性を不当に過大評価している。 このような少数者の取引者及び需要者の視点に立って行われる判断手法は,先の最高裁判決が要求する「その商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準」とした判断と矛盾抵触する。 cまた,上記の知的財産高等裁判所の2判決は,誤認混同の可能性を不当に広く認定する根拠として,「これと異なる解釈を採れば,商標法が先願登録主義を採用し,先願に係る他人の登録商標と抵触する同一又は類似の商標の登録を認めないものとし,そのことによって,登録商標につき商標権者の専用権(商標法25条)及び禁止権(同法37条)を保障しているにもかかわらず,その権利性を希釈化ないし弱体化することになり,上記商標制度に沿わない結果を招来する」ことを挙げている。 しかし,そもそも商標法が先願登録主義を採用した趣旨は,「指定商品や役務が似通っている範囲内で互いに近似した商標の出願が競合した場合,双方ともに登録を許容し,登録商標の庇護の下で商標の使用を促してしまうと,需要者の間で混同が生じてしまう」(田村善之「商標法概説(第2版)」株式会社弘文堂[平成13年6月30日第2版第2刷発行]12頁及び13頁[甲25])不都合を避ける点にあり,それを超えて,出所を識別せず,したがって信用を化体しない商標までも保護することを目的とするものではない。この点,田村教授は,商標権行使の権利濫用の場面においてではあるが,商標法の登録主義の限界に関連して,「表示が商標権者以外の者の商品を識別するものとして国内の需要者にあまねく知られており,他の出所を識別する機能を果たしていない場合には,需要者に混乱を招来するだけの状態に至っている。この場合,表示が識別している出所から拡布される商品に表示を使用することを阻止する権能を商標権者に与える帰結は,かえって,商標の出所識別機能の発揮を妨げる帰結であり,商標法制の目的に照らして認めがたい。」旨主張している(同書90頁[甲25])。上記の田村教授の主張は,先願登録主義の限界に対する指摘としても当てはまるものである。そうであれば,仮に,「POLO」表示が,被告の引用商標の登録出願当時,海外においては既に原告商品の商標として周知著名であったにもかかわらず,日本国内においては未だ周知著名性を獲得していなかったとしても,その後の原告(原告の前身であるザ ポロ/ローレン カンパニーも含む),関連会社及びそのライセンシーらによる正当な営業努力の結果,被告の引用商標の登録出願後に原告商品を示す表示として周知著名性を獲得した場合に,原告が自身の商品の標章として「POLO」表示を含む商標の登録出願を行う際に,当該原告商標と被告の引用商標との誤認混同の可能性を不当に広く認定して,このような原告商標の登録の途を阻むことは,商標の出所識別機能の発揮を妨げる法解釈として商標法制の目的にそぐわないといえる。 dさらに,上記の知的財産高等裁判所の2判決は,登録商標「PALMSPRINGSPOLOCLUB」についての審決取消請求事件の最高裁判決(最高裁平成13年7月6日第二小法廷判決,甲21)の判断と,以下のとおり矛盾抵触する。 (a)上記最高裁判決は,原告商品の標章としての「POLO」表示を含む原告標章が,「ラルフ・ローレンのデザインに係る被服等の商品を示すものとして,我が国における取引者及び需要者の間に広く認識されているものであって,周知著名性の程度が高い表示である。もっとも,『POLO』,『ポロ』の語は,元来は乗馬した競技者により行われるスポーツ競技の名称であって,しかも,『ポロシャツ』の語は被服の種類を表す普通名詞であるから,引用商標(原告注:原告標章を指す。)の独創性の程度は,造語による商標に比して,低いといわざるを得ない。しかし,本願商標(原告注:登録商標「PALMSPRINGSPOLOCLUB」を指す。)の指定商品は洋服等であって,引用商標が現に使用されている商品と同一であるか又はこれとの関連性の程度が極めて強いものである。また,このことから,両者の商品の取引者及び需要者が共通することも明らかである。しかも,本願商標の指定商品が日常的に消費される性質の商品であることや,その需要者が特別な専門的知識経験を有しない一般大衆であることからすると,これを購入するに際して払われる注意力はさほど高いものでないと見なければならない。そうすると,本願商標の本号該当性の判断をする上で,引用商標の独創性の程度が低いことを重視するのは相当ではないというべきである。」旨判示することにより,「POLO」の語が,被服等の原告商品の標章として周知著名性が高いこと,したがって,元来,ポロ競技の名称を示す普通名称であるとしても,少なくともこれを被服等の標章として使用する場合,そのことを商標の類比の判断において重視することは相当ではないと判断している。 その上で,上記最高裁判決は,登録商標「PALMSPRINGSPOLOCLUB」からは「パームスプリングスにあるポロ競技のクラブ」という観念が生じ得ることを認めつつも,「しかし,1個の商標から複数の観念が生ずることはしばしばあり得るところ,引用商標の周知著名性の程度の高さや,本願商標と引用商標とにおける商品の同一性並びに取引者及び需要者の共通性に照らすと,本願商標がその指定商品に使用されたときは,その構成中の『POLO』,『ポロ』の部分がこれに接する取引者及び需要者の注意を特に強く引くであろうことは容易に予想できるのであって,本願商標からは,上記の観念とともに,ラルフ・ローレン若しくはその経営する会社又はこれらと密接な関係にある営業主の業務に係る商品であるとの観念も生ずることができる。」とした上で,「引用商標の周知著名性が高く,しかも,本願商標の指定商品と引用商標の使用されている商品とが重複し,両者の取引者及び需要者も共通している。これらの事情を総合的に判断すれば,本願商標は,これに接した取引者及び需要者に対し引用商標を連想させて商品の出所につき誤認を生じさせるもの」であると判断している。 (b)このように上記最高裁判決は,「POLO」という表示がポロ競技を示す普通名称であることは認めつつも,被服を指定商品とする場合には,原告商品の標章としての「POLO」表示の高い周知著名性を有していることを取引の実情として考慮に入れ,このような周知著名な標章を保護すべく商標の類似性判断を行っているのに対し,上記の知的財産高等裁判所の2判決は,逆に,「POLO」という表示が,原告商品の標章としての「POLO」表示の高い周知著名性を有しているという取引の実情を十分考慮せず,ポロ競技を示す普通名称であることを重視して,商標の類似性判断を行っている点で,上記最高裁判決の判断手法と矛盾抵触する判断を行っているといわざるを得ない。 (ウ)本件商標について「ラルフ・ローレン以外の商品の出所を強く連想させる」ような特段の取引の実情が存在しないことにつき仮に,周知著名な原告商品の標章としての「POLO」表示の自他識別力ないし出所表示力が否定されることがあるとすれば,上記(イ)dの最高裁判決の福田博裁判官の補足意見が述べるように,「ラルフ・ローレン以外の商品の出所を強く連想させる」ような特段の取引の実情が存在する場合であろうが,そのような場合はほとんど想定しにくいものである。 被告のウェブサイトを見ても,被告が永年引用商標を使用してきたという事実はうかがえないし,被告は,原告による本件商標の出願時から現在に至るまでの引用商標を付した被告商品の売上げを具体的に主張及び立証していない。また,原告が本件商標を付して販売している商品は,ジーンズを中心とするカジュアル・ウェアであるのに対し,被告は,「POLO」表示に「BritishCountrySpirit」の表示を加えた上で,下着・寝間着類を中心とした商品を販売していると思われること等の事情も考慮に入れれば,被服等の取引者及び需要者が「POLO」の表示に接したとき,同表示が,周知著名な原告商品の標章として原告商品の出所を打ち消す程度に,被告商品の出所を強く連想させることは考えられない。 (エ)本件ライセンス契約につきa原告の前身であるザ ポロ/ローレン カンパニーは,被告の前身である公冠販売株式会社(以下「公冠販売」という)との間で,引用商標A及び前記引用商標Bについて「LICENSE AGREEMENT」(甲26の1・2,以下「本件ライセンス契約」という。)を締結している。 b本件ライセンス契約は,以下に述べるとおり,いわゆる不争契約(non-assertionagreement)であって,通常の使用許諾契約のように,ライセンサーがライセンシーにノウハウを供与したり,ライセンシーが商標の出所識別力の恩恵に浴することを目的としたものではない。 (a)そもそも,原告の前身であるザ ポロ/ローレン カンパニーは,自己の商品を日本で展開しても引用商標A及び引用商標Bに対する商標権侵害になるとは考えていなかったし,昭和57年8月9日当時,被告の前身で公冠販売の旧商号である丸永衣料株式会社(以下「丸永衣料」という。)も,原告の商品と自己の商品は全く別物である(すなわち,原告は丸永衣料の商標を使用しているものではない)と考えていた(原告訴訟代理人の陳述書[甲27])。 すなわち,引用商標Bについては,当時丸永衣料はほとんど使用していなかったし,丸永衣料が当時実際に展開していた「POLOBritish Country Spirit」なる商品は,下着が中心であって,丸永衣料自身,「自分たちの商品と原告の商品は全く違うものであり,混同するとは考えていない」旨表明しており,当初の本件ライセンス契約の交渉は,無償による使用許諾をベースとしていた。また,引用商標Aについては,出願人であるKは同時に「ラルフローレン」を出願して拒絶されていることから,同人が原告の商標を剽窃せんとする悪意の目的で出願したことは明らかであり,さらに,引用商標Bについては,引用商標Aに対して類似かつ後願の関係にあったので,原告としてはこれを本来無効原因の存する商標と考えており,無効審判を請求していた。しかしながら,当時原告のライセンシーであった株式会社西武百貨店が,万一の紛争を強く危惧し,法的紛争は避けたいとの意向であったため,やむを得ず不争契約を結ぶため丸永衣料と交渉するに至ったにすぎない(原告訴訟代理人の陳述書[甲27])。 (b)本件ライセンス契約(甲26の2)は,被告の前身である公冠販売が原告の前身であるザ ポロ/ローレン カンパニー,そのライセンシー及びサブライセンシー等に対して商標権侵害の主張をしないことが定められている(第4条)ほか,公冠販売がPOLO商標を自己のブリティッシュ・カントリー・スピリットラインの商品について使用することについて原告の前身であるザ ポロ/ローレンカンパニーは異議を申し述べないが,同社のPOLO商標と不合理に混同するような態様でこれを使用した商品を販売してはならないことが定められている(第5条)。これらの規定から判断すると,本件ライセンス契約は,まさに不争契約の構成及び内容になっていることが明らかである。すなわち,本件ライセンス契約は,原告の前身であるザ ポロ/ローレン カンパニーが被告の前身である公冠販売から,商標に化体された信用やブランド力やノウハウを利用することを目的として締結されたものではなく,原告の前身であるザポロ/ローレン カンパニーはそれ自身のPOLO商標,被告の前身である公冠販売はそれ自身の商標をそれぞれ使用することを確認したものにすぎない。 c以上のとおり,本件ライセンス契約の締結前より原告商品の標章として既に周知著名性を獲得していた「POLO」商標は,引用商標A及び引用商標Bの自他商品識別機能,出所表示機能,品質保証機能に依拠するものではない。したがって,本件ライセンス契約締結の事実は,原告,その関連会社及びライセンシーらによる正当な営業努力の結果,原告商品の標章としての「POLO」商標が日本国内において周知著名性を獲得したことの正当性を何ら揺るがすものではない。 d仮に本件ライセンス契約が不争契約であるという前提に立たなかったとしても,ライセンシーが,商標権者とのライセンス契約に基づき正当な権利行使として当該商標を使用し,商標権者の当該商標を意図的に希釈化する等,悪意に基づく不正な手段を講じることなく自らの正当な営業努力の結果,許諾を受けた当該商標につきライセンシーの商品の商標として周知著名性を獲得した場合であっても,そのこと自体は法律に則った正当な権利行使とライセンシーの営業努力の結果によるものである以上,何らライセンシーが責められるべきものではない。 eそして,仮にこのようなラインセンシーが,商標権者から許諾を受けた当該商標の表示を含む新たな商標を,自らの商標として登録出願する場合,ライセンシーの商品の標章としての当該商標の周知著名性を根拠に誤認混同のおそれがなく当該商標との類似性が認められないとして,このようなライセンシーの商標登録を認めたとしても,?@商標権者は,当該登録商標のライセンス契約に基づき,ライセンシーによる当該商標の使用に伴う許諾料を受領しているのであり,そもそも,商標権者としても,自身の商標を第三者にライセンスすること自体,このような第三者の使用による当該商標の希釈化(一対一対応の希釈化)のリスクが伴うことを甘受すべき立場にあること,また,?A商標権者は,ライセンシーによる上記の新たな商標が登録されたとしても,従前から行っていた自らの登録商標の使用は引き続き可能であること等から,商標権者に不当な不利益を与えるものではない。逆に,ライセンシーによる新たな商標登録が認められないとすれば,既にライセンシーの商品の標章として周知著名性を獲得した当該商標の自他商品識別機能の発揮を妨げる帰結となり,商標法制の目的に照らして認めがたい結果を招来することになる。 (オ)以上述べてきたような点を十分に考慮,検討することなく,本件商標と引用商標A及び引用商標Cとの類似性の認定に当たり,「取引者及び需要者が両者を見誤る可能性は否定できない」として,本件商標と引用商標A及び引用商標Cとの類似性を認定し,本件商標と引用商標A及び引用商標Cとが類似する旨判断した審決には誤りがある。 2 請求原因に対する認否請求原因(1),(2)の各事実は認めるが,(3)は争う。 3被告の反論(1) 取消事由1に対しア本件商標は,黒色の横長四角形中に「POLOJEANSCO.」なる欧文字を白字で横書きしたものである。「POLO」の文字,「JEANS」の文字,「CO.」の文字が各々およそ一文字分弱の間隔をおいて表されているものの,外観及び観念上,各構成部分がこれを分離して観察することが取引上不自然と考えられるほど不可分一体に結合しているということはできない。その上,「POLOJEANSCO.」は全体として,11文字と文字数も多く,「ポロジーンズカンパニー」もしくは「ポロジーンズコンパニー」なる称呼も冗長であることから,簡易迅速を尊ぶ取引においては,「POLO」の文字部分のみが分離して認識されて自他商品の識別標識として機能することがあるのは経験則上明らかである。したがって,本件商標からは「ポロ」の称呼及び「POLO」の観念が生じる。 イ本件商標中「JEANS」の文字は,「ジーンズ」の称呼を生じ,丈夫な細綾織りの綿布又はそれで作った衣服等を意味する普通名詞であり(「広辞苑第三版」岩波書店[乙10]1018頁),被服はじめ繊維製品の品質や材質を表示するものとして,繊維業界で慣用される文字となっていることは,公知の事実であって,自他商品の識別標識として機能する文字部分ではない。 「CO.」なる文字も,通常「COMPANY」の略号として,「カンパニー」もしくは「コンパニー」と発音され,会社を意味する英語として日本で慣れ親しまれている語であり(「広辞苑第三版」岩波書店[乙10]550頁,921頁),自他商品の識別標識として機能する文字部分ではない。 したがって,本件商標を「被服」に使用した場合,これに接した取引者及び需要者は,通常,「JEANS」の文字部分はその商品の品質や材質等を表す普通名詞として,「CO.」の文字部分は「会社」の略称として認識し,「POLO」の文字部分のみを,自他商品の識別機能を果たすものとして認識するものとみるのが相当である。 ウ原告の商品を日本で製造,販売する株式会社インパクト21のウェブサイトに示されているとおり,原告が日本で展開するジーンズ・スタイルのカジュアルウェアの商品は,本件商標を使用した商品であるところ(乙45),登録商標「POLOJEANS」に関する審決取消請求事件(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10018号事件)では,原告自身が当該商品を「ポロジーンズと称呼されて取引されている」と主張していて(乙8の17頁ウ),本件における,本件商標が一体不可分であるとの原告の主張は,上記第10018号事件での主張と矛盾するものであって,広義における訴訟上の信義則や禁反言の原則に違反している。 エ本件商標中の「JEANSCO.」ないし「JEANSCOMPANY」の語は,ジーンズ・ブランド,ジーンズ・メーカー等を意味する語として,ジーンズ・カジュアルウェアに使用する商標に頻繁に使用されている取引の実情があり(乙46〜58[枝番を含む]),本件商標は,全体として,「ポロのジーンズ・カジュアルウェア」,「ポロのジーンズ・メーカー」の意味を取引者及び需要者に連想させるものである。 オ原告は,売上高,Google検索結果等を理由に,本件商標が,ラルフ・ローレンのデザインに係る商品群の1ラインを示すものとして高い周知性を獲得していると主張している。しかし,原告が主張する売上高はいずれも小売上代ベースであり,卸売りベースに換算すれば約半額の数字であって,通常,商標の周知性が認定される売上高ではないし,それでもなお,周知性が認められる程の宣伝広告活動が実施されたとも認められない。また,「POLOJEANSCO.」でGoogle検索をすれば,その語を含むサイトが多数検索されるのは当然であって,この検索結果も本件商標の周知性を示すものではない。 カよって,本件商標の要部は「POLO」の文字部分であって,その旨の審決の判断に誤りはない。 (2) 取消事由2に対しア引用商標A及び引用商標Cは,正に「POLO」の文字のみからなるものであり,本件商標の要部「POLO」と称呼,外観において同一である。 そして,「POLO」の語が,主として英国及び旧英国領の諸地域等において行われている馬上球技の普通名詞(乙10)としてわが国でも慣れ親しまれていること,襟付の半袖のカジュアル衣料を示すポロシャツの語が,本来ポロ競技の選手が着用したことにちなむもので,今日,広く一般に普通名詞として用いられていることから,本件商標の要部と引用商標A及び引用商標Cとは,いずれも,取引者及び需要者に,ポロ競技ないしその略称であるポロの観念を生じさせるものである。 したがって,本件商標と引用商標A及び引用商標Cは,称呼,外観及び観念において類似するのであり,その旨の審決の判断に誤りはない。 イ審決取消請求事件(平成17年(行ケ)第10018号事件及び同第10245号事件)における知的財産高等裁判所の各判決につきa原告は,登録商標「POLOJEANS」及び同「POLOGOLF」に関する審決取消請求事件(平成17年(行ケ)第10018号事件及び同第10245号事件)における知的財産高等裁判所の各判決において,同じ原告商品の商標としての「POLO」表示の自他商品識別力が全く異なって評価されており一貫性がないと主張している。 しかし,周知著名性と誤認混同のおそれの有無は,同一の基準で計られるものではなく,上記の知的財産高等裁判所の2判決は,周知著名性を認めたとしても,個々の事案に即して取引の実情を考慮して,誤認混同のおそれがあると判断したものであり,正当な判断である。 また,上記の知的財産高等裁判所の2判決は,原告が使用する,「PoloRalphLauren」の文字からなる標章,「Polo」の文字を横長四角形中に記載してロゴ化したPolo と「byRALPHLAUREN」とを組み合わせた標章,ポロ競技者の図形とPolo及び「byRALPHLAUREN」(又は「byRalphLauren」)を組み合わせた標章が,「ポロ」,「POLO」等と略称されることがあり,本件ライセンス契約を経て,周知著名性を獲得したことを認定したにすぎない。「POLO」が馬上競技等を示す普通名詞である以上,仮に,上記の原告標章が,「ラルフ・ローレンのデザインに係るファッション関連商品を表示するもの」として「ポロ」,「POLO」等と略称されているとしても,それが直ちに,上記原告標章と異なる構成からなる「POLOJEANS」及び「POLOGOLF」中の「POLO」の文字部分を,需要者が,「ラルフ・ローレンのデザインに係るファッション関連商品を表示するもの」と認識しているとの結論に至らないことは当然である。 b原告は,上記の知的財産高等裁判所の2判決は,最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決(民集22巻2号399頁)の「その商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準」とした判断と矛盾抵触すると主張している。上記最高裁判決が,商標の類否は「誤認混同を生じるおそれがあるか否かにより決すべき」と判示している以上,一部の取引者及び需要者であっても,普通に払われる注意力をもってして誤認混同するおそれがあるのであれば,類似性が認定されるというのが,上記最高裁判決の素直な理解といえる。原告の主張は,後願に係る出願商標の要部と引用商標が,同一の外観,称呼,観念を生じ,およそ一般的・抽象的レベルで誤認混同が認められるにもかかわらず,これをさらに,「需要者が先願権利者,後願出願人,いずれの商品を表示するものと認識する蓋然性が高いか」を認定して類否を決すべきとするものであって,上記最高裁判決を曲解したものという外ない。商標法は,商標権の財産的活用として,使用許諾制度と商標権の自由移転を認めていることから,需要者が,登録商標を商標権者以外の者の業務に係る商品を表示するものと誤信することは多々ある。このような場合であっても,登録商標に係る無体財産権が,商標権者に帰属することには変わりがない。このような場合に,「需要者が先願権利者,後願出願人,いずれの商品を表示するものと認識する蓋然性が高いか」などといった視点で商標法4条1項11号を適用し,先願たる契約対象商標又は譲渡商標に類似する商標につき,使用権者や譲渡人に商標権を付与するとすれば,使用許諾や譲渡等の私的契約を無にし,先願権利者の商標権の禁止権(商標法37条)が後発者により狭められるとの不当な結果を招くこととなる。そのような本号の解釈適用を上記最高裁判決が予定するはずはないのであるから,原告の解釈は,同判決を正解しない不当なものと言わざるを得ない。 c原告が引用する田村教授の見解は,登録商標が「他の出所を識別する機能を果たしていない場合」の差止請求等の商標権の権利行使についての見解であって,被告及びその前身会社の永年の使用により信用が化体している引用商標との関係において,引用商標の使用権者である原告の後願商標の商標登録性を争う本件とは,全く事案が異なる。 d原告は,登録商標「PALMSPRINGSPOLOCLUB」についての審決取消請求事件の最高裁判決(最高裁平成13年7月6日第二小法廷判決,甲21)についても主張するが,同事件は,営業体としての実態のほとんどない商標権者の登録商標に係るものであって,永年商標権者により引用商標を使用が使用され,原被告間に使用許諾契約締結の事実がある本件とは,事案が全く異なるものである。 ウ 本件ライセンス契約につきa引用商標A及び引用商標Bは,その出願時たる昭和47年以前から被告の前身の会社(以下「公冠グループ」という)により使用されていた。公冠グループは,独自のブランド育成,販売促進戦略を実施し,昭和56年に株式会社西武百貨店からライセンス契約の申し出があった時には,すでに公冠グループの「POLO」ブランドとして一定の信用を被服業界で確立していた(乙61〜63[枝番を含む])。 本件ライセンス契約締結に当たっても,永年育んできた公冠グループの「POLO」ブランドを継続して展開することとし,その後現在に至るまで公冠グループ独自の企画による商品を展開している(乙63)。 我が国の「POLO」商標の商標権者たる公冠グループは,ポロ競技に由来する「POLO」ブランドを,「RALPHLAUREN」を付した原告の商品ラインと,「BRITISHCOUNTRYSPIRIT」を付した公冠グループの商品ラインという,ブランドコンセプトの異なる二つの商品ラインで展開する戦略を選択したものである。 なお,昭和54年,昭和55年の公冠グループの売上高は,各々8億6236万円,9億8000万円であった。これらの数字は,公冠グループが製造卸業者であることから卸売りベースであるところ,小売価格に対する卸値は取引先等により変動するが,概ね50%前後である。したがって,被告の小売りベースでの売上高の概算は,各々約17億円,約20億円となる。 b以下のとおり,原告の「POLO」表示は,本件ライセンス契約締結以前はもとより,それ以後についても,周知著名性を有しているとはいえない。 (a) 昭和47年以前昭和47年以前に「POLO」表示が原告商品を表示するものとして周知著名であったという事実はない。 (b) 本件ライセンス契約締結前審決取消請求事件(平成12年(行ケ)第41号)の東京高等裁判所の判決(乙44)は,昭和58年5月11日に,「POLO」,「ポロ」がラルフ・ローレンの被服等を表示するものとして周知であったと認められないこと,原告の商品は専ら「ポロ・バイ・ラルフ・ローレン」ないし「ポロ・ラルフローレン」という一連の標章によって識別されていたことを認定している。 確かに,「POLO」表示が原告の商品を表示するものとして周知著名であったことを理由に第三者の商標登録が取消し,無効等となった判決は多数存在する。しかし,上記審決取消請求事件(平成12年(行ケ)第41号)以外の判決は,いずれも昭和59年以降の出願等を対象とするものであり,真に昭和58年以前の周知著名性が争われたのは,上記審決取消請求事件(平成12年(行ケ)第41号)のみである。 したがって,本件ライセンス契約締結前に,「POLO」表示が原告の商品を示す表示として周知著名であったとは認められない。 (c) 本件ライセンス契約締結後本件ライセンス契約に関する交渉は,昭和56年2月24日付けの株式会社西武百貨店ブランド管理部部長から丸永衣料社長宛ての書簡(乙65)を端緒とする。この書簡は,引用商標Bに係る登録異議申立てについて理由がないとの決定が確定した後に送られたものである。 その後,丸永衣料と原告間の交渉は継続して行われ,昭和57年5月4日付けの丸永衣料の代理人より株式会社西武百貨店代表取締役宛ての書簡(乙66)においても,丸永衣料に満足のいく解決ができない場合には,商標権侵害訴訟を提起せざるを得ない旨述べられている。本件ライセンス契約は,原告及び西武百貨店が同契約締結以前の使用を商標権侵害であると認識した上で締結したことは明白であり,単なる不争契約ではない。そして,現に,原告は,今日に至るまで,本件ライセンス契約に基づき被告にロイヤリティーを支払い続けているものである。 原告の主力商品を取り扱っている株式会社インパクト21が展開する7ブランド中,「POLO」表示を含む商標は「POLORALPHLAUREN」と「POLOJEANSCO./RALPHLAUREN」2件しかない(乙67の2)。同社の第21期(平成15年3月1日から平成16年2月29日)の事業報告書(乙67の3)には,同社の当期売上高306億2900万円中,「POLO」標章を一切使用しない婦人服が145億8400万円を占めることが報告されている。また,紳士服の売上高115億7300万円(乙67の3)には,「ラルフローレン」及び「RLX」といった「POLO」表示を含まない商標を使用した商品の売上げも含まれている(乙67の2)。さらに,審決取消請求事件(平成15年(行ケ)第564号)の東京高等裁判所の判決書には,「RALPHLAUREN」標章しか使用されていないホーム・ファニシングの平成15年小売推定売上げはおよそ60億円であると原告が主張した旨記載されている。そして,「CHAPSRALPHLAUREN」(乙68[枝番を含む])も紳士服のブランドとして昭和50年代以降現在まで継続して広範囲の商品に展開されている(乙69の1・2)。このように,少なくとも,原告主張の売上高のうちかなりの割合を占める,「RALPHLAUREN」,「CHAPSRALPHLAUREN」等,「POLO」表示を含まない商標を使用したラルフ・ローレンの手がけるブランドは,過去から現在に至るまで「ラルフ」と略称されているのであり,「POLO」と略称されているものではない。 したがって,本件ライセンス契約締結後においても,いまだ「POLO」表示が原告商品の表示として周知著名性を得ているとはいえないものである。 c原告は,商標権者は,第三者にライセンスする事自体,当該商標の希釈化のリスクが伴うことを甘受すべき旨主張する。 しかし,商標に伴う名声等いわゆるグッドウィルはライセンシーによる商標の使用に伴い,当該商標自体のグッドウィルに化体され,使用許諾を行った商標権者もこれを共有することができることは,我が国商標法が採用し,世界的にも採用されている商標使用許諾制度の本質に照らし当然である。商標法50条において,商標権者だけでなく使用権者の使用でも足りるとしているのは,使用権者の使用による業務上の信用も究極的には商標権者の信用に帰するとの法律構成を商標法がとっていることにもよるものであり,この点からしても原告の主張は失当である。 結局のところ,原告の主張は,先願登録商標を要部とする類似商標を後発的に使用する場合,一旦,先願登録商標について通常使用権の設定を受け,ライセンス料を支払った後,宣伝広告を大々的に行って,上記類似商標を付した商品の売上高が多くなれば,先願登録商標の類似範囲の商標権が獲得できる,すなわち,後発的に上記類似商標を周知著名にする資金力・営業力さえあれば,先願主義も登録主義も,使用許諾制度上の秩序も無視することができるとの独自の見解を述べているにすぎず,認められるべきではない。 第4当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。 2取消事由1(本件商標において自他商品の識別機能を果たす要部は「POLO」の部分であると認定している誤り)について(1) 本件商標の要部ア本件商標は,前記のとおり,黒色の横長四角形中に白抜き文字で,「POLOJEANSCO.」の欧文字を同じ書体同じ大きさで表示したものであり,「POLO」と「JEANS」の間及び「JEANS」と「CO.」の間に,1文字分弱の間隔が存する。 本件商標の構成文字中の「JEANS」については,乙10(「広辞苑第三版」岩波書店)1018頁によると「丈夫な細綾織の綿布。また,それで作った衣服など」を意味する普通名詞であると認められるから,それを指定商品「被服」に使用した場合には,取引者及び需要者は,商品の品質や材質を表すものと理解すると認められる。 また,本件商標の構成文字中の「CO.」については,乙10(「広辞苑第三版」岩波書店)921頁によると「COMPANY」(会社)の略称であると認められるから,取引者及び需要者は,「会社」を意味するものと理解すると認められる。原告は,本件商標の構成文字中の「CO.」から「仲間」という意味が生ずるとも主張するが,日本の取引者及び需要者が,「CO.」から「仲間」意味するものと理解すると認めるに足りる証拠はない。 これに対し,本件商標の構成文字中の「POLO」の語は,弁論の全趣旨によれば,元来は乗馬した競技者により行われるスポーツ競技の名称であり,同競技に由来する「ポロシャツ」の語が衣料品の種類を示す普通名詞となっていると認められる。しかし,それ以上に,日本において本件商標を指定商品「被服」に使用した場合,本件商標の構成文字中の「POLO」が,「ポロシャツ」又はポロ競技に使用する衣服としか理解されないとまで認めることはできない。 イ(ア)一方,証拠(乙13,14の各1・2,46の1〜3)によれば,米国ノーテカ・アパレル・インクからライセンスを受けた日本の会社が,「NAUTICA」のサブブランドとして「NAUTICAJEANSCOMPANY」の名称でジーンズカジュアルウェアを販売していることが認められる。この事実によると,「JEANSCOMPANY」をブランド名に付してジーンズに関するブランド名として使用している例が存すると認められる。 (イ)また,ウェブページに,「…1975年にBIGSTARジーンズカンパニーを創設し,20年間彼らは世界でも有名なブランドの1つとなりました。」(乙47),「…PB(プライベートブランド)のオリジナル・アリゾナ・ジーンズ・カンパニー…。…アリゾナや…など,NC(ナショナルチェーン)のジーンズPBの台頭により…」(乙48の1),「ARIZONAジーンズカンパニー製造。白の短いジーンズです。」(乙48の2),「…大ブレイクした『ROCK&REPUBLIC』。2002年6月に創業されたばかりの新しいジーンズカンパニーです。」(乙56),「通称R&Rは,2002年6月に創業されたばかりの新しいジーンズカンパニーで,…」(乙57),「…earnestsewn。2004年にpaperdemin&clothからbranchした新しいジーンズカンパニー」(乙58)との記載があることが認められる。これらは,「ジーンズカンパニー」をジーンズブランド又はジーンズメーカーを意味する語として使用している例であると認められる。 (ウ)また,ある登録商標に「JEANS」を付加した登録商標を,同一の商標権者が有している,以下のような例が多数存在する(乙15〜24の各1・2,27〜42の各1・2)。 ?@(乙16の1・2)?A(乙18の1・2)?B(乙20の1・2)?C(乙22の1・2)?D(乙24の1・2)?E 「ANAPJEANS(標準文字)」(乙28の1・2)?F(乙30の1・2)?G「KANSAIJEANS(標準文字)」(乙32の1・2)?H(乙34の1・2)?I(乙36の1・2)?J(乙38の1・2)?K(乙40の1・2)?L(乙42の1・2)(エ)以上の認定事実によると,本件商標中の「JEANSCO.」は,取引者及び需要者には「POLO」のジーンズのブランド又はジーンズのメーカーを意味するものとして理解されるということができる。 ウそうすると,本件商標は,「POLO」の部分に識別力があるというべきである。 エこれに対し原告は,本件商標は,「ポロジーンズの仲間」又は「ポロジーンズの会社」の意味を連想させるロゴとして,一体不可分の構成からなる商標と認識されると主張する。 しかし,上記アのとおり本件商標は「POLO」と「JEANS」の間及び「JEANS」と「CO.」の間に1文字分弱の間隔が存することや「POLO」と「JEANS」と「CO.」が上記アのような別々の意味を有するものと理解されることからすると,本件商標が原告が主張するような意味を有するものとして一体不可分に理解されるとは考えられない。 オまた,原告は,仮に上記「CO.」の部分が「会社」を意味するものとして,本件商標が商号商標として認識される場合,業態である「会社」を示す「CO.」の部分が省略されて「POLOJEANS」と略称されることはあっても,商品名や素材表示である「JEANS」部分まで省略されて「POLO」と略称されることはないと主張する。 しかし,原告が主張するように,本件商標の「CO.」の部分が省略されて「POLOJEANS」と略称されることがあるとしても,上記アのとおり,「POLO」と「JEANS」の間に1文字分弱の間隔が存することや「JEANS」はそれを指定商品「被服」に使用した場合に取引者及び需要者は商品の品質や材質を表すものと理解することからすると,本件商標は「POLO」の部分に識別力があるというべきである。甲8〜12の判決及び審決は,いずれも本件とは異なる事案に関するものであって,上記認定を左右するものではない。 カさらに,原告は,「ポロジーンズカンパニー」の称呼音は9音であって一気一連に称呼される音構成であるからその称呼が冗長とはいえず,かつ,11文字以上で構成される商標は登録例も含め枚挙にいとまがないほど存在すること,仮に本件商標が「POLOJEANS」と略称される場合には,称呼音は5音となり,構成文字も6文字となることから,本件商標の称呼長及び構成文字数は,本件商標中の「POLO」の文字のみを要部として分断する理由となるものではない,と主張する。 しかし,本件商標の称呼音が9音であり,かつ,11文字以上で構成される商標が多く存在するとしても,上記イのとおり,本件商標は,原告が主張するような意味を有するものとして一体不可分に理解されるとは考えられない。また,本件商標が「POLOJEANS」と略称される場合には,称呼音は5音となり,構成文字も6文字となるとしても,上記ウのとおり,本件商標は「POLO」の部分に識別力があるというべきである。 (2) 本件商標の周知性ア証拠(甲14,15,16の1・2,17の1〜20,18の1〜20,22,27)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (ア)ポロファッションズインクは,アメリカ合衆国のデザイナーであるラルフ・ローレンのデザインしたファッション関連商品等を扱うアメリカ合衆国の会社であり,「polo」を含む商標を使用していた。 ポロファッションズインクは,昭和51年3月に,株式会社西武百貨店とネクタイを除くメンズウェア全般について商標に関するライセンス契約を締結し,日本においても,「polo」を含む商標を使用した商品が販売されるようになった。その後,ポロファッションズインクの事業は,ザポロローレンカンパニーに承継され,さらに原告へと承継されたが,売上げは順調に増え,「polo」を含む商標は,昭和50年代半ば以降,日本において周知著名になり,その後も原告において「polo」を含む商標を使用し続けたことにより,本件商標の登録査定時(平成15年7月11日)において「polo」を含む商標は周知著名であった。 (イ)原告は,平成9年9月から,「POLOJEANSCO.」の標章を使用した衣料品の販売を始め,その小売り販売の売上高及び数量(枚数)は,次のとおりである(甲14)。 売上高数量(枚数)平成9年13億8300万円16万5000枚平成10年37億0200万円49万枚平成11年27億0100万円41万8000枚平成12年29億0600万円46万4000枚平成13年33億4500万円59万7000枚平成14年38億1600万円59万7000枚平成15年上期18億2900万円31万5000枚(ウ)原告は,「POLOJEANSCO.」の標章を使用した衣料品について,次のとおり新聞及び雑誌において広告を行っている。これらの広告には,「POLOJEANSCO.」と左側又は右側の中程又は下部に記載し,その下にそれより小さい文字で「RALPHLAUREN」と記載し,反対側(右側又は左側)に衣料品を身に着けた人の写真を掲載しているもの,衣料品を身に着けた人の写真の下側の部ウなお,被告は,原告の主力商品を取り扱っている株式会社インパクト21が展開する7ブランド中「POLO」表示を含む商標は2件しかなく,「POLO」表示を含まない商標を付した商品の売上高が大きいなどと主張するが,そのような事実があるとしても,上記ア・イの認定を左右するものではない。 (3)したがって,「本件商標において自他商品の識別機能を果たす要部は,『POLO』の文字部分にある」(18頁下1行〜19頁1行)との審決の判断に誤りはない。 3取消事由2(本件商標と引用商標A及び引用商標Cの類似性を認定している誤り)について(1)前記2のとおり,本件商標において自他商品の識別機能を果たす要部は,「POLO」の文字部分にあるところ,引用商標A及び引用商標Cは,いずれも「POLO」の文字のみからなるものであるから,本件商標と引用商標A及び引用商標Cは類似するというべきである。 (2)ア原告は,「POLO」標章が,ラルフ・ローレンのデザインに係る被服等の商品を表示するものとして日本において昭和50年代半ば以降から著名性を獲得していること,本件商標が,このラルフ・ローレンのデザインに係る商品のうち,日本市場でも高い売上げを計上しているカジュアルウェアー等の商品ラインの一つとして,それ自体周知性を獲得していること,これに対し,被告の使用する引用商標A及び引用商標Cは,被告の商品を示す商標として周知性は獲得していないことなどからすると,本件商標中の「POLO」の語は,取引者及び需要者に「ラルフ・ローレンのデザインに係る商品」の観念を強く生じさせるものと見るのが自然であって,本件商標と引用商標A及び引用商標Cは類似しない旨主張する。 「polo」を含む商標が,昭和50年代半ば以降,日本において周知著名になり,本件商標の登録査定時(平成15年7月11日)においても周知著名であったこと,本件商標は,原告の「polo」商標の一連の商品の一つと理解されること,原告が販売している「POLOJEANSCO.」を使用した衣料品は本件商標の登録査定時(平成15年7月11日)において広く知られているものと認められることは,前記2(2)認定のとおりである。 しかし,上記のとおり,本件商標において自他商品の識別機能を果たす要部と引用商標A及び引用商標Cはいずれも「POLO」である上,仮に引用商標Aの登録人Kが原告の商標を剽窃せんとする悪意の目的を有しており被告がその譲受人であったとしても,原告と被告との間には次の(3)で述べるような通常使用権設定契約の締結の事実があり,このことを考慮すると,本件商標と引用商標A及び引用商標Cは類似すると認めるべきである。 イまた,原告は,「POLO」表示が,原告,関連会社及びそのライセンシーらによる正当な営業努力の結果,前記引用商標の登録出願後に原告商品を示す表示として周知著名性を獲得した場合に,原告が自身の商品の標章として「POLO」表示を含む商標の登録出願を行う際に当該原告商標と被告の引用商標との誤認混同の可能性を不当に広く認定して,このような原告商標の登録の途を阻むことは,商標の出所識別機能の発揮を妨げる法解釈として商標法制の目的にそぐわないと主張するが,本件商標において自他商品の識別機能を果たす要部と引用商標A及び引用商標Cがいずれも「POLO」であることや次の(3)で述べるような事実関係が存することから,本件商標と引用商標A及び引用商標Cは類似すると判断することは,原告商標と被告の各引用商標との誤認混同の可能性を不当に広く認定したことにはならず,商標法制の目的にそぐわないということはできない。 (3) 本件ライセンス契約に至る経緯ア証拠(甲2〜4の各1・2,7の1・2,26の1・2,27,28,乙65,66)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (ア)a引用商標Aは,昭和47年6月13日,京都市下京区富小路通6条下る本塩竈町524のKによって商標登録出願され,昭和55年9月29日に設定登録された(甲2の1)。Kは,同日「ラルフローレン」についても商標登録出願したが,同出願は昭和51年11月26日拒絶査定がされた(甲28)。 Kは,昭和58年7月14日,引用商標Aに係る商標権を丸永衣料に譲渡し,昭和58年10月6日その旨の登録がされた(甲2の1)。 丸永衣料は,昭和60年1月21日,公冠販売に商号変更し,その後,同社は,引用商標Aに係る商標権を原告に譲渡し,平成10年4月27日その旨の登録がされた(甲2の1)。 b引用商標Bは,昭和47年4月22日,丸永衣料によって商標登録出願され,昭和55年12月25日に設定登録された(甲3の1)。 丸永衣料は,上記のとおり公冠販売に商号変更し,その後,同社は,引用商標Bに係る商標権を原告に譲渡し,平成10年4月27日その旨の登録がされた(甲3の1)。 c引用商標Cは,昭和56年4月6日,丸永衣料によって商標登録出願され,平成9年5月2日に,丸永衣料から商号変更した公冠販売名義で設定登録された(甲4の1)。 公冠販売は,その後,引用商標Cに係る商標権を原告に譲渡し,平成10年4月27日その旨の登録がされた(甲4の1)。 (イ)ザポロローレンカンパニーと公冠販売との間には,引用商標A及び引用商標Bをめぐって商標の使用に関する紛争があったところ,ザポロローレンカンパニーと公冠販売は,昭和62年1月1日付けで,下記内容の契約(本件ライセンス契約)を締結し,ザポロローレンカンパニーと取引のあった株式会社西武百貨店がこれを了承した(甲26の1・2等)。 記a公冠販売は,ザポロローレンカンパニーに対し,ネクタイとマフラーを除く商標法施行令(判決注:平成3年政令第299号による改正前のもの)別表商品区分第17類の商品について,日本国内における引用商標A及び引用商標Bに関し通常使用権を設定する。(第2条)bザポロローレンカンパニーは,許諾された権利の対価として,各契約年度に年間ロイヤリティーを支払う。ロイヤリティーは,各契約年度の半年毎に,その半期の初日に支払う。(第3条)c公冠販売は,本契約の有効期間中,POLO及びラルフローレン表示を結合した他のPOLO商標の使用に関して生じた商標権侵害の可能性に関し,ザポロローレンカンパニーのライセンシー,そのサブライセンシー及びそれらの顧客に対して,公冠販売及びその関連会社が保有し又は使用権を獲得する商標権に基づく請求権を行使しない。(第4条)d公冠販売が,公冠販売のPOLO商標をブリティッシュ・カントリー・スピリットライン商品について使用することについて,ザポロローレンカンパニーは,異議を申し出ない。ただし,公冠販売は,ザポロローレンカンパニーのPOLO商標の使用態様と不合理に混同を生ぜしめるような方法では当該商標を使用しない。(第5条)eザポロローレンカンパニーは,引用商標A及び引用商標Bについて,公冠販売の保有権利を承認し,当該商標に関して害となるようないかなる行動,手続も採らない。ザポロローレンカンパニーは,引用商標Aの無効審判手続や現存する商標出願手続の進行については何ら制限されない。(第6条)f本契約は,本契約により定められた事由により解除されない限り,引用商標A及び引用商標Bの有効期間(更新された場合はその期間)中存続する。(第10条)g解除の理由いかんを問わず,契約が解除されて場合,ザポロローレンカンパニーは,引用商標A及び引用商標Bの使用を中止しなければならない。(第11条)(ウ)本件ライセンス契約の契約上の地位は,その後,原告と被告に承継されている(弁論の全趣旨)。 イ本件ライセンス契約は,前記契約内容からすると,被告の前身である公冠販売が原告の前身であるザポロローレンカンパニーに対し,引用商標A及び引用商標Bについて通常使用権を許諾し(上記ア(イ)a),ザポロローレンカンパニーがそのロイヤリティーを支払う(上記ア(イ)b)という内容の通常使用権設定契約であると認められる。本件ライセンス契約には,ザポロローレンカンパニーと公冠販売が互いに権利行使しない旨の条項(上記ア(イ)c及びd)があるが,上記のとおり,本件ライセンス契約には,通常使用権を許諾し,ロイヤリティーを支払うとの条項が存するから,本件ライセンス契約を,原告が主張するような単なる不争契約と認めることはできない。 原告は,本件ライセンス契約締結に至るまでの経緯について主張する(前記第3の1(3)イ(ウ)b(a))が,当該主張は,上記結論を左右するものではない。 ウ以上の認定事実によれば,前記2(2)のとおり原告が「Polo」商標を使用し続け本件商標の登録査定時(平成15年7月11日)においても周知著名であったことや前記2(2)のとおり原告が「POLOJEANSCO.」を使用した衣料品の販売しそれが広く知られるようになったのは,原告が引用商標A及び引用商標Bについて通常使用権を取得した後であるというべきである。この事実からすると,引用商標A及び同じく「POLO」を内容とする引用商標Cと本件商標とが類似するかどうかを判断するに当たっては,「Polo」商標が本件商標登録の査定時に周知著名であったことや「POLOJEANSCO.」を使用した衣料品が広く知られるようになったことを,取引の実情として重く見ることはできないというべきであり,前記(2)のとおり,このことをも考慮すると,本件商標と引用商標A及び引用商標Cは類似するというべきである。 この点について原告は,ラインセンシーが,商標権者から許諾を受けた当該商標の表示を含む新たな商標を,自らの商標として登録出願する場合,ライセンシーの商品の標章としての当該商標の周知著名性を根拠に誤認混同のおそれがなく当該商標との類似性が認められないとして,このようなライセンシーの商標登録を認めたとしても商標権者に不当な不利益を与えるものではなく,逆に,ライセンシーによる新たな商標登録が認められないとすれば,既にライセンシーの商品の標章として周知著名性を獲得した当該商標の自他商品識別機能の発揮を妨げる帰結となり,商標法制の目的に照らして認めがたい結果を招来することになると主張する。しかし,ラインセンシーに新たな商標登録を認めることは,ライセンサーである商標権者に不利益をもたらすものであることが明らかであるのに対し,ラインセンシーは,商標登録が認められなくとも当該商標を使用し続けることができるのであるから,あえて,出所の誤認混同を招くおそれのある新たな商標登録を認めなければならないというような事情はなく,原告の主張を採用することはできない。 (4)したがって,本件商標と引用商標A及び引用商標Cが類似するとした審決の判断に誤りはない。 4 結語以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 よって,原告の本訴請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
|
追加 | |
別紙本件指定商品目録「耳栓,加工ガラス(建築用のものを除く。),アーク溶接機,金属溶断第9類機,電気溶接装置,オゾン発生器,電解槽,検卵器,金銭登録機,硬貨の計数用又は選別用の機械,作業記録機,写真複写機,手動計算機,製図用又は図案用の機械器具,タイムスタンプ,タイムレコーダー,パンチカードシステム機械,票数計算機,ビリングマシン,郵便切手のはり付けチェック装置,自動販売機,ガソリンステーション用装置,駐車場用硬貨作動式ゲート,救命用具,消火器,消火栓,消火ホース用ノズル,スプリンクラー消火装置,火災報知機,ガス漏れ警報器,盗難警報器,保安用ヘルメット,鉄道用信号機,乗物の故障の警告用の三角標識,発光式又は機械式の道路標識,潜水用機械器具,業務用テレビゲーム機,電動式扉自動開閉装置,乗物運転技能訓練用シミュレーター,運動技能訓練用シミュレーター,理化学機械器具,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気ブザー,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,磁心,抵抗線,電極,消防艇,ロケット,消防車,自動車用シガーライター,事故防護用手袋,防じんマスク,防毒マスク,溶接マスク,防火被服,眼鏡,家庭用テレビゲームおもちゃ,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,スロットマシン,ウエイトベルト,ウエットスーツ,浮袋,運動用保護ヘルメット,エアタンク,水泳用浮き板,レギュレーター,レコード,メトロノーム,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,計算尺,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」「貴金属,キーホルダー,貴金属製食器類,貴金属製のくるみ割り器・第14類こしょう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホルダー・ナプキンリング・盆及びようじ入れ,貴金属製針箱,貴金属製のろうそく消し及びろうそく立て,貴金属製宝石箱,貴金属製の花瓶及び水盤,記念カップ,記念たて,身飾品,貴金属製のがま口及び財布,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,貴金属製コンパクト,貴金属製靴飾り,時計,貴金属製喫煙用具」「事務用又は家庭用ののり及び接着剤,封ろう,印刷用インテル,活第16類字,青写真複写機,あて名印刷機,印字用インクリポン,自動印紙はり付け機,事務用電動式ホッチキス,事務用封かん機,消印機,製図用具,タイプライター,チェックライター,謄写版,凸版複写機,文書細断機,郵便料金計器,輪転謄写機,マーキング用孔開型板,電気式鉛筆削り,装飾塗工用ブラシ,紙製幼児用おしめ,紙製包装用容器,家庭用食品包装フィルム,紙製ごみ収集用袋,プラスチック製ごみ収集用袋,型紙,裁縫用チャコ,紙製のぼり,紙製旗,観賞魚用水槽及びその附属品,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,荷札,印刷したくじ(おもちゃを除く。),紙製テーブルクロス,紙類,文房具類,印刷物,書画,写真,写真立て」「かばん金具,がま口口金,皮革製包装用容器,愛玩動物用被服類,か第18類ばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,乗馬用具,皮革」「海泡石,こはく,荷役用パレット(金属製のものを除く。),養蜂用第20類巣箱,美容院用いす,理髪店用いす,プラスチック製バルブ(機械要素に当たるものを除く。),貯蔵槽類(金属製又は石製のものを除く。),輸送用コンテナ(金属製のものを除く。),カーテン金具,金属代用のプラスチック製締め金具,くぎ・くさび・ナット・ねじくぎ・びょう・ボルト・リベット及びキャスター(金属製のものを除く。),座金及びワッシャー(金属製・ゴム製又はバルカンファイバー製のものを除く。),錠(電気式又は金属製のものを除く。),クッション,座布団,まくら,マットレス,麦わらさなだ,木製・竹製又はプラスチック製の包装用容器,ストロー,盆(金属製のものを除く。),ししゅう用枠,ネームプレート??及び標札(金属製のものを除く。),旗ざお,うちわ,せんす,植物の茎支持具,愛玩動物用ベッド,犬小屋,小鳥用巣箱,きゃたつ及びはしご(金属製のものを除く。),郵便受け(金属製又は石製のものを除く。),帽子掛けかぎ(金属製のものを除く。),買物かご,家庭用水槽(金属製又は石製のものを除く。),ハンガーポード,工具箱(金属製のものを除く。),タオル用ディスペンサー(金属製のものを除く。),家具,屋内用ブラインド,すだれ,装飾用ビーズカーテン,つい立て,びょうぶ,ベンチ,アドバルーン,木製又はプラスチック製の立て看板,食品見本模型,人工池,葬祭用具,揺りかご,幼児用歩行器,マネキン人形,洋服飾り型類,スリーピングバッグ,額縁,石こう製彫刻,プラスチック製彫刻,木製彫刻,きょう木,しだ,竹,竹皮,つる,とう,木皮,あし,い,おにがや,すげ,すさ,麦わら,わら,きば,鯨のひげ,甲殻,人工角,ぞうげ,角,歯,べっこう,骨,さんご」「デンタルフロス,ガラス基礎製品(建築用のものを除く。),かいば第21類おけ,家禽用リング,魚ぐし,おけ用ブラシ,金ブラシ,管用ブラシ,工業用はけ,船舶ブラシ,家事用手袋,ガラス製又は陶磁製の包装用容器,なべ類,コーヒー沸かし(電気式又は貴金属製のものを除く。),鉄瓶,やかん,食器類(貴金属製のものを除く。),携帯用アイスボックス,米びつ,食品保存用ガラス瓶,水筒,魔法瓶アイスペール,泡立て器,こし器,こしょう入れ・砂糖入れ及び塩振り出し容器(貴金属製のものを除く。),卵立て(貴金属製のものを除く。),ナプキンホルダー及びナプキンリング(貴金属製のものを除く。),盆(貴金属製のものを除く。),ようじ入れ(貴金属製のものを除く。),ざる,シェーカー,しゃもじ,手動式のコーヒー豆ひき器及びこしょうひき,じょうご,すりこぎ,すりばち,ぜん,栓抜,大根卸し,タルト取り分け用へら,なべ敷き,はし,はし箱,ひしゃく,ふるい,まな板,麺棒,焼き網,ようじ,レモン絞り器,ワッフル焼き型(電気式のものを除く。),清掃用具及び洗濯用具,アイロン台,霧吹き,こて台,へら台,湯かき棒,浴室用腰掛け,浴室用手おけ,ろうそく消し及びろうそく立て(貴金属製のものを除く。),家庭用燃え殻ふるい,石炭入れ,はえたたき,ねずみ取り器,植木鉢,家庭園芸用の水耕式植物栽培器,じょうろ,愛玩動物用食器,愛玩動物用ブラシ,犬のおしゃぶり,小鳥かご,小鳥用水盤,洋服ブラシ,寝室用簡易便器,トイレットペーパーホルダー,貯金箱(金属製のものを除く。),お守り,おみくじ,紙タオル取り出し用金属製箱,靴脱ぎ器,せっけん用ディスペンサー,花瓶及び水盤(貴金属製のものを除く。),風鈴,ガラス製又は磁器製の立て看板,香炉,化粧用具,靴ブラシ,靴べら,靴磨き布,軽便靴クリーナー,シューツリー,コッフェル,ブラシ用豚毛」「織物,メリヤス生地,フェルト及び不織布,オイルクロス,ゴム引防第24類水布,ビニルクロス,ラバークロス,レザークロス,ろ過布,布製身の回り品,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布,織物製テーブルナプキン,ふきん,シャワーカーテン,のぼり及び旗(紙製のものを除く。),織物製トイレットシートカバー,織物製いすカバー,織物製壁掛け,カーテン,テーブル掛け,どん帳,遺体覆い,経かたびら,黒白幕,紅白幕,ビリヤードクロス,布製ラベル」「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮第25類装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」「洗い場用マット,畳類,人工芝,敷物,壁掛け(織物製のものを除第27類く。),体操用マット,壁紙」「スキーワックス,遊園地用機械器具(業務用テレビゲーム機を除第28類く。),愛玩動物用おもちゃ,おもちゃ,人形,囲碁用具,歌がるた,将棋用具,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,トランプ,花札,マージャン用具,遊戯用器具,ビリヤード用具,運動用具,釣り具,昆虫採集用具」 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
---|---|
裁判官 | 森義之 |
裁判官 | 澁谷勝海 |