関連審決 |
取消2005-30682 不服2004-18276 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成20行ケ10217審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成19行ケ10172審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成20行ケ10089審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成20行ケ10042審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成20行ケ10100審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 識別機能 / 指定商品 / 4条1項11号 / 不使用 / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 取引の実情 / 不使用取消審判 / 外国 / 非類似 / ハウスマーク / 商号 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
19年
(行ケ)
10301号
審決取消請求事件
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原告本田技研工業株式会社 訴訟代理人弁理士松田雅章,松田治躬,近藤史代,松田真砂美 被告特許庁長官 肥塚雅博 指定代理人海老名友子,小林和男,森山啓,大場義則 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2008/01/24 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が不服2004-18276号事件について平成19年6月28日にした審決を取り消す。 第2事案の概要1特許庁における手続の経緯等本件は,商標登録出願をした原告が,拒絶査定を受けて,不服審判の請求をしたが,審判請求不成立の審決を受けたので,その審決の取消しを求めた事案である。 原告は,「PHOENIX」の欧文字を標準文字として書して成り,指定商品を第12類「二輪自動車・自転車並びにそれらの部品及び附属品」を指定商品として,平成15年10月24日に商標登録出願をしたが,平成16年8月6日に拒絶査定を受けたので,同年9月3日,これに対する不服の審判請求をした。特許庁は,上記請求を不服2004-18276号事件として審理をした上,平成19年6月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年7月23日原告に送達された。 2審決の理由( ) 審決は,以下のとおり,本願商標と登録第26109793号商標(以下「引用A商標」という。その構成は右のとおりである。)とは,その称呼及び観念において共通している上,外観においても,前者の「PHOENIX」と後者の「Phenix」の文字部分において近似した印象を生じさせるおそれがあるから,商標がその外観,称呼及び観念等によって取引者,需要者に与える印象,記憶及び連想等を総合して全体的に考察すると,本願商標と引用A商標は類似しており,また,本願商標の指定商品は引用A商標の指定商品に含まれるから,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした。 ( ) 審決の判断2ア引用B商標との類否について引用B商標は,商標権の一部取消審判により,その指定商品中の第12類「二輪自動車・自転車並びにそれらの部品及び附属品」について取り消された結果,本願商標の指定商品とは抵触しないものとなった。したがって,引用B商標をもって,本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定の拒絶の理由は解消した。 イ引用A商標との類否について本願商標は,「PHOENIX」の欧文字を横書きしてなるところ,これは「不死鳥」等を意味する英語として一般に知られているものであるから,その構成文字に相応して「フェニックス」の称呼及び「不死鳥」の観念を生ずるものである。他方,引用A商標は,別掲(1)のとおり,上下の横線を平行に表した横長小判型図形の右側部分を,左斜め下に傾斜する直線で表した輪郭内に,下から3分の1程度の高さに横線を表してその下部を黒塗りとし,その内側上部に白抜きで小さく「IZUMIIND.CO.,LTD.」の文字を表し,その横長小判型輪郭内の上部3分の2ほどの空間に大きく太字のゴシック体風の字体で「Phenix」の欧文字を表してなるものであるところ,構成中の文字部分と図形部分とが常に一体としてのみ把握されるとする事情も見当たらないものであり,またその「Phenix」の文字部分が,太字で大きく表されていることも相俟って,ひときわ看者の注意を強く惹くものであるから,引用A商標に接する取引者,需要者は当該文字部分に着目し,これより生ずる称呼によって取引される場合もあるといい得るものである。そして,該「Phenix」の文字中の「P」の文字の円形部分が真円に描かれ,「h」の一部と重なっているとしても,これは一般に用いられる程度の表示方法であるといい得るものであって,「Phenix」の文字を表示したものであると容易に看取されるものである。かつ,該「Phenix」の文字は,英語の「phoenix」の米語表現であって,同義語と認められるから,引用A商標は,大きく顕著に書き表された該文字部分より,「フェニックス」の称呼及び「不死鳥」の観念を生ずるものである。 そうとすれば,本願商標と引用A商標は,「フェニックス」の称呼及び「不死鳥」の観念を共通にする,称呼及び観念上類似の商標であるといわざるを得ないものであり,かつ,本願商標の指定商品は引用A商標の指定商品に含まれるものである。 さらに,本願商標の「PHOENIX」の文字部分と引用A商標中の「Phenix」の文字部分は,大文字と小文字の違い,及び「O」の文字の有無の差異はあるとしても,いずれも欧文字であるから,該文字部分において外観上の近似した印象,連想を生じさせるおそれがあることも否定し得ない。 請求人は,商標の類否は称呼の面のみならず,外観及び観念上も含めて総合的に考察すべきであるとし,本願商標及び引用A商標が,文字部分において生ずる称呼及び観念において共通性を有するとしても商標全体として紛らわしいものではないこと,及び,引用A商標の構成中の「IZUMIIND.CO.,LTD.」の文字が本願商標との区別を極めて容易にする旨主張する。 しかしながら,図形の持つ情報伝達力を軽んずるべきではないとしても,情報媒体が多様化した現代社会においても,電話や電子メール等での取引確認など,未だ商標構成中の文字部分による情報伝達力は否定できないものであって,引用A商標についても,横長小判型輪郭の図形部分を含めた商標全体のみならず,当該商標中の文字部分より生ずる称呼によって取引される場合もあり得るというのが相当である。そして,引用A商標の構成中の「IZUMIIND.CO.,LTD.」の文字部分からは「イズミインドシーオーエルティディ」の称呼及び「イズミ工業株式会社」程の観念を生じ,これに接する取引者,需要者は,当該文字部分から,これを商標権者を表示するものであると認識することは窺えるとしても,「Phenix」の文字が大きく顕著に書き表され,またこれより生ずる「フェニックス」の称呼も促音を含めて4音と短く,良く知られ親しまれた語であって,称呼しやすいものであることからすると,引用A商標の構成中の「Phenix」と「IZUMIIND.CO.,LTD.」の二つの文字列を一体的にのみ把握して認識するとはいうことができず,該「Phenix」の文字部分から生ずる「フェニックス」の称呼をもって取引に資される場合も少なくないというのが相当である。したがって,請求人の上記主張は採用することができない。 してみれば,本願商標と引用A商標とは,その称呼及び観念において共通している上,外観においても,「PHOENIX」及び「Phenix」の文字部分において近似した印象を生じさせるおそれがあるから,商標がその外観,称呼及び観念等によって取引者,需要者に与える印象,記憶及び連想等を総合して全体的に考察すると,本願商標と引用A商標は類似しているということができる。 また,本願商標の指定商品は引用A商標の指定商品に含まれるものであるから,本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして,本願を拒絶した原査定は,妥当であって,取り消すことができない。 第3原告主張の取消事由審決は,本願商標と引用A商標とが類似していると誤認し,その結果,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとの誤った判断をしたものであって,違法であるから取り消されるべきである。 1引用A商標の観察( ) 審決は,「図形の持つ情報伝達力を軽んずるべきではないとしても,情報媒1体が多様化した現代社会においても,電話や電子メール等での取引確認など,未だ商標構成中の文字部分による情報伝達力は否定できないものであって,引用A商標についても,横長小判型輪郭の図形部分を含めた商標全体のみならず,当該商標中の文字部分より生ずる称呼によって取引される場合もあり得るというのが相当である。」(上記第2の2( )イ)と認定したが,誤りである。 2( ) 引用A商標の構成自体及び現実の使用態様をみる限り,当該構成中の図形あ 2るいはその全体が有する情報伝達力を軽んずることはできず,また,引用A商標の構成中の文字部分である「Phenix」のみにより取引がされているとの事実を確認することもできない。すなわち,引用A商標は,その商標権者のホームページ(甲3)において,ISO表示とともに小さく表示されているのみであり,また,同会社概要(甲4),同会社案内(甲5)においても,関連会社のリンク(甲6)においても,引用A商標とほぼ同程度の表示が認められるのみであり,「Phenix」の文字のみでの取引に資されているという実情を認めることはできない。 したがって,当該文字部分の情報伝達力を完全に否定し得ないとしても,当該「Phenix」の文字部分のみが独立して,自他商品の識別機能を発揮し得る状況にあるとは認め難く,引用A商標は,その構成全体をもって取引に資されているというべきである。 また,引用A商標に対しては,商標法50条1項の規定による不使用取消審判(取消2005-30682号)が請求され,後に審判請求の取り下げがされたという事実があり(甲7),引用A商標を使用しているという証拠が存在するようであるが,殊更に「Phenix」の欧文字のみで自他商品の識別機能を果たしているという証拠はない。 ( ) したがって,引用A商標に関し,図形部分を含めた商標全体のみならず,大3きく顕著に書き表された「Phenix」の文字部分によって取引される場合もあり得るとした審決の認定は,引用A商標が,現実の使用により,構成全体をもって自他商品の識別機能を果たしているものであることを認識せず,構成中の文字「IZUMIIND.CO.,LTD.」の存在を無視し,「Phenix」の欧文字部分のみがいかなる自他商品の識別機能を発揮しているかを詳細に考慮することなくなされたものであり,失当である。 2外観,称呼及び観念の非類似( ) 外観について1本願商標は,標準文字で構成されるから,基本的には概念としての文字列と認識されるものであり,特定の外観を有するとは認め難い。仮に標準文字として有する態様に応じて考察しても,英語の大文字により同書同大等間隔に構成された「PHOENIX」の英字として認識されるものである。 一方,引用A商標は,外観上,上下の横線を平行に表した横長小判型図形の右側部分を左斜め下に傾斜する直線で表した輪郭内に,下から3分の1程度の高さに横線を表してその下部を黒塗りとし,その内側上部に白抜きで小さく「IZUMIIND.CO.,LTD.」の文字を表し,その横長小判型輪郭内の上部3分の2ほどの空間に大きく太字のゴシック体風の自体で「Phenix」の欧文字を表してなるものである。 そうすると,本願商標と引用A商標は,外観上,上記横長小判型図形の有無で顕著に相違し,かつ,「IZUMIIND.CO.,LTD.」の英文字の有無でも顕著に相違することが明らかである。また,標準文字の本願商標「PHOENIX」と引用A商標の「Phenix」の英文字とを比較すると,単に本願商標の第3字目の英大文字「O」の有無で相違するのみならず,前者が英語の大文字で高さを全く同じくして構成されるのに対し,後者は頭文字が大文字で,それに続く英字が小文字であり,頭文字の大文字「P」は,上半分が同心円で構成され,かつ,他の後続の小文字に比較すれば,略2倍の高さ,これを面積比にすればその二乗の略4倍の面積をもって構成されるものであり,しかも,第2字の英小文字「h」が,頭文字の英大文字「P」の上半分の同心円の下部に重なるようにデザインされ構成されているのであって,極めて特徴的な態様を有するものと認められ,視覚上の印象は,極めて明瞭に異なっている。 ( ) 称呼について2本願商標が,その英字の構成に照らして「フェニックス」の自然的称呼が生じることは,原告もこれを認める。 一方,引用A商標は,その構成全体を考察するに,図形から特定の称呼が生じるとは認め難く,構成中の「Phenix」及び「IZUMIIND.CO.,LTD.」の英文字部分から,各々「フェニックス」及び「イズミインドシーオーエルティーディー」の自然的称呼が生じると認められる。 したがって,本願商標と引用A商標は,「フェニックス」の称呼部分において当該称呼を共通にするとはいっても,一方で「イズミインドシーオーエルティーディー」の称呼の有無において顕著に相違するものである。 ( ) 観念について3ア本願商標は,その英字の語義から,「不死鳥」等の観念が生じ得ることは,原告もこれを認める。 一方,引用A商標は,称呼と同様,図形から特定の観念が生じるとは認め難いことから,各々構成中に含まれる各英文字に照らして,各々特定の観念が生じるものと認められるところ,「IZUMIIND.CO.,LTD.」の英文字からは,当該商標権者の商号を考慮すれば,「イズミ工業株式会社」程の観念が生じ得るのであり,商標全体の構成を比較すると,本願商標と引用A商標は,「IZUMIIND.CO.,LTD.」から生じ得る「イズミ工業株式会社」程の観念の有無により顕著に相違する。 イ加えて,審決が認定するとおり,「Phenix」の文字が,英語の「phoenix」の米語表現であって同義語であることは,辞書上明らかであり,原告もこれを否定するものではない。しかし,商標の有する観念は,我が国の一般的な取引者,需要者の日常経験則に基づく認識・感覚をもって認定すべきところ,いかに英語教育が普及したとはいえ,また,我が国で「不死鳥」を意味する英語「phoenix」が慣れ親しまれているとはいえ,辞書上同義語の「Phenix」も同様に,その意味観念を理解できる程度に慣れ親しまれているとは認め難い。 この点について,我が国で英語「phoenix」と米語「phenix」が,世相を反映するであろうと推認できるインターネット上でどのように用いられているかを検討すると,英語「phoenix」は,全体で197万件の検索結果が得られ,似たページを排除した件数が855件である(甲1)。一方,米語「phenix」は,全体で61万6千件で,同様に似たページを排除した件数が452件となっているが,この452件の中で,同語を「不死鳥」と同義と記載しているのは全2件のみであり,その他,「phenix」を「鳳凰」と並記しているものが約5件,また,手塚治虫作の「火の鳥」の英字として使用しているものが同様に約5件にすぎず,その語義を明確に示しているものは見当たらない(甲2)。 したがって,米語である「phenix」が,我が国で明確に「不死鳥」の観念を有するものと理解されているか否かは疑問であり,この点を考察することなく,単に辞書上の語義により,同義語であり「不死鳥」の観念を有するとした審決の認定は誤りであり,両語は,必ずしもその観念を明確に共通にするものと断定することはできない。 3以上によれば,本願商標は,引用A商標の構成中「Phenix」の欧文字と称呼「フェニックス」を一部共通にするものではあるが,そこから生じる観念を必ずしも同一にすると即断することはできず,かつ,外観上明瞭な相違を有しており,さらには,「Phenix」の欧文字とのみ比較しても,その外観上の相違は明瞭であり,取引者,需要者に与える印象,記憶及び連想等を総合的に考察しても,自他商品の識別標識として相紛れることは考え難いから,非類似の商標である。 第4被告の反論審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 1引用A商標と取引の実情に対して( ) 引用A商標は,「Phenix」の欧文字と,「IZUMIIND.CO.,1LTD.」の欧文字を,それぞれ横長小判型輪郭の図形内の上下に,前者の文字は太字(ゴシック体風)で大きく顕著に,後者の文字は小さく表してなるものであるところ,構成中の図形部分は,単なる輪郭としか認識し得ないものであって,視覚的にも常に一体のものともいえず,当該部分の自他商品の識別標識としての機能は希薄というべきであり,また,当該部分からは特定の観念も生じ得ないから,構成中の文字部分と輪郭である図形部分との間には観念上の結び付きがなく,他に引用A商標全体を常に一体のものとしてのみ把握しなければならない特別の事情も存しない。また,構成中の「Phenix」の文字部分と「IZUMIIND.CO.,LTD」の文字部分とは,視覚上分離して認識されるばかりでなく,また,前者が「不死鳥」の意を,後者が原告も自認するとおり「イズミ工業株式会社」程の意を,それぞれ有することから,両文字部分は,それぞれが独立した意味を有している上に,その意味内容において相互に関連性を有していないから,観念上も分離して認識されるものである。さらに,引用A商標の文字部分を一体として発音した場合,極めて冗長であるから,称呼上も分離して認識され得るものである。 そうすると,引用A商標の構成中「Phenix」の文字と「IZUMIIND.CO.,LTD」の文字は,外観,観念,称呼のいずれの面においても,分離して把握され得るものである。 したがって,「Phenix」の文字部分と「IZUMIIND.CO.,LTD.」の文字部分は,それぞれが独立して自他商品の識別標識としての機能を果たすものといえる。 加えて,「Phenix」の文字は,大きく,かつ,黒色のゴシック体風の太字をもって,視覚上看者の注意を強く惹くような態様で表示しているのに対し,「IZUMIIND.CO.,LTD」の文字は,下端部に小さく白抜きで表示した態様からなるものであるから,引用A商標に接する取引者,需要者は,その構成全体のうち,視覚的に顕著に表された「Phenix」の文字部分に着目し,これより生ずる,「フェニックス」の称呼及び「不死鳥」の観念をもって,取引に当たる場合もあることは,取引の経験則に照らしてごく自然なことというべきである。 ( ) 原告は,引用A商標の「Phenix」の文字部分のみが独立して,自他商2品の識別機能を発揮し得る取引の実情にはなく,引用A商標は,その構成全体をもって取引に資されている旨主張する。 しかし,一般に商品の出所を表すハウスマーク及び企業名称等(引用A商標でいえば「IZUMIIND.CO.,LTD.」の文字。)と個別の商品を表す商標とを同時に使用することが取引上普通に行われていることからすると,引用A商標の「Phenix」の文字は,そのような個別の商品を表す商標として理解され,当該文字に着目して取引に資されるものというべきである。簡易,迅速を尊ぶ取引の実際においては,商標が構成部分全体の名称によって称呼,観念されずに,その一部だけによって簡略に称呼,観念されることがあり得るのである。一方,引用A商標を常に構成全体をもって認識されるというべき特別の事情はない。 また,視覚に訴える情報媒体は,取引社会において決して少ないものではないが,例えば,電話や店頭での商品取引など,一般取引社会においては,口頭で相手に商標を伝達する場合も多く,その場合,言葉で表現しにくい図形部分ではなく,まずは,称呼が容易な文字部分をもって取引に当たることは,当然のことである。 ( ) 原告は,引用A商標に対する不使用取消審判事件について言及し,「Phe3nix」の欧文字のみで自他商品の識別機能を果たしていると認めるに足る事実を認めることはできない旨主張する。 しかし,登録商標の不使用取消審判事件の対象となっているからといって,本件と一体的に把握しなければならないものとはいえない。 2外観,称呼及び観念の非類似に対して( ) 外観について1引用A商標の構成中「Phenix」の文字部分は,「P」の文字をやや図案化し,該文字の右下部分に「h」の文字を重ねるようにし,ややデザイン化したものであるが,独創的なデザインを有するとまではいえない。また,文字の一部を重ねて表すことは,広く一般に行われている(乙9の1〜7参照)。 本願商標は,「PHOENIX」の文字を標準文字で書してなるものであって,その態様に特別な特徴を有するものとはいえないから,本願商標「PHOENIX」と引用A商標の構成中「Phenix」の文字部分とは,その書体において,その態様が需要者に強く印象付けられるようなものではないというべきである。また,本願商標「PHOENIX」と引用A商標の構成中「Phenix」の文字部分は,「O」の文字の有無及び大文字と小文字の差異を有するが,「O」の文字は,7文字からなる中間に位置し,視覚に与える印象はそれほど強いものではなく,大文字と小文字の相違も構成上顕著な差異とまではいえないものである。 そうすると,本願商標と引用A商標の構成中「Phenix」の部分とは,外観上近似した印象を与えるというべきである。 ( ) 称呼について2本願商標は,「PHOENIX」の文字よりなるものであるから,これよりは原告自認のとおり,「フェニックス」の自然な称呼を生ずるものである。 一方,引用A商標は,前記1( )のとおり,その構成中の「Phenix」の文2字自体が,独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものであるから,当該文字部分よりは,「フェニックス」の称呼を生ずるものである。 そうすると,本願商標と引用A商標とは,「フェニックス」の称呼を共通にするものということができる。 ( ) 観念について3ア本願商標は,「PHOENIX」の文字よりなるところ,「PHOENIX」の英語自体の意味により,又は,その称呼を片仮名表記した外来語「フェニックス」を想起することにより,「不死鳥」の観念が容易に生ずるものである。「PHOENIX」から生ずる称呼を片仮名表記した「フェニックス」が,「不死鳥」を意味する外来語として広く知られていることは,一般に用いられる複数の辞典等に普通に掲載されていることからも明らかというべきである(乙1〜4参照)。 一方,引用A商標の構成中「Phenix」及び「IZUMIIND.CO.,LTD.」の文字部分は,それぞれが独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るといえるから,「Phenix」の文字部分についてみると,「Phenix」の文字が,「phoenix」と同義語であって,「不死鳥」の意味を有する語であることは,一般に市販され,高校学習程度で使用される外国語辞典を始めとする各種辞典類に掲載されていることからも明らかであって(乙5〜8参照),本願商標及び引用A商標に係る指定商品の分野における取引者,需要者においても,引用A商標よりは「不死鳥」の観念を容易に看取し得るものである。 さらに,本願商標と同様に,英語自体の意味のみからだけではなく,「Phenix」を「フェニックス」と称呼した場合に,「フェニックス」が「不死鳥」を意味する外来語として広く一般に知られていることからして,外来語「フェニックス」を想起し,「不死鳥」の観念が容易に想起されるというべきである。 イ原告は,「Phenix」の文字が,辞書上,英語の「phoenix」の米語表現であって同義語と認められることを認めつつ,「phenix」が,我が国で明確に「不死鳥」の観念を有するものと理解されているとはいえず,単に辞書上の語義により,同義語であり『不死鳥』の観念を有するとした審決の認定は誤りである旨主張する。 しかし,引用A商標の構成中,「Phenix」の文字部分は,例えば造語のように,取引者,需要者が直ちにその読みや意味を想起することができないものではなく,英語の「Phoenix」の米語表現(Phenix)であって,同義語として,かつ,「不死鳥」の意味を有する語として,一般に市販され,高校学習程度で使用される外国語辞典を始めとする各種辞典類等にも掲載されていることからすれば,我が国の語学教育の現状からみて,これに接する本願商標及び引用A商標に係る取引者,需要者は,容易に「不死鳥」の観念を生ずるものと理解し,認識するというべきである。 また,原告は,インターネット検索結果についてるる述べるが,「phenix」の検索結果452件の件数は,「phoenix」の検索結果と比較すれば相対的に少ないとしても,現に相当数のインターネットホームページ上で,「phenix」の文字が使用されていることを示すものである。そして,当該ホームページ上において「phenix」の文字が「不死鳥」と同義である旨を記載したものが少ないからといって,インターネット辞書や用語解説等に係るホームページであれば格別,そうでない場合においてまで,使用する英語の語義を,逐一ホームページ上で明確に示すことが一般的であるなどということは,通常は考えられないことである。 ウそうすると,本願商標と引用A商標とは,「不死鳥」の観念において共通するものというべきである。 エなお,引用A商標の構成中「Phenix」の文字部分は,独立して自他商品の識別標識としての機能を果たすものであり,「不死鳥」の観念をもって取引に資されるものであって,構成中の文字部分全体を常に一体のものとしてのみ把握しなければならない特別の事情もないから,同構成中「IZUMIIND.CO.,LTD.」の文字部分から「イズミ工業株式会社」の観念が生ずるからといって,そのことが,本願商標と引用A商標が「不死鳥」の観念を共通にするものであることを否定することにはならない。 第5当裁判所の判断1引用A商標と取引の実情について( ) 引用A商標は,前記のとおり,上下の横線を平行に表した横長小判型図形の1右側部分を,左斜め下に傾斜する直線で表した輪郭内に,下から3分の1程度の高さに横線を表してその下部を黒塗りとし,上記輪郭内の上部3分の2ほどの空間に大きく太字のゴシック体風の字体で「Phenix」の欧文字を表し,上記輪郭内の下部に白抜きで小さく「IZUMIIND.CO.,LTD.」の文字を表して成るものである。 上記輪郭部分は,「Phenix」の欧文字及び「IZUMIIND.CO.,LTD.」の文字の飾り枠である以外には,格別の意味を有しておらず,観念上の結び付きもない。 また,構成中の「Phenix」の文字部分と「IZUMIIND.CO.,LTD」の文字部分は,前者が上記輪郭内の上部に太字(ゴシック体風)で著しく大きく,後者が上記輪郭内の下部に小さく表示されているから,それぞれ独立した文字部分ということができる。しかも,前者の「Phenix」の文字部分は,「不死鳥」の意味を有するのに対して,後者の「IZUMIIND.CO.,LTD」の文字部分は,「イズミ工業株式会社」という意味を有するものであるから,本件指定商品に係る取引者,需要者は,「IZUMIIND.CO.,LTD」の文字部分を会社の表示であると認識し,「Phenix」の文字部分が自他商品又は役務の識別機能を有するものと認識するのが通常である。そうすると,引用A商標の構成中「Phenix」の文字部分は,図形部分及び「IZUMIIND.CO.,LTD」の文字部分とは分離して把握され得るものであり,かつ,それが通常であるというべきである。 ( ) 原告は,引用A商標の商標権者が引用A商標そのものを使用しているのみで,2「Phenix」の文字部分のみを分離して使用していないことを理由に,引用A商標の「Phenix」の文字部分のみが独立して,自他商品の識別機能を発揮し得る取引の実情にはなく,引用A商標は,その構成全体をもって取引に資されている旨主張する。 しかし,仮に引用A商標の構成全体をもって取引に資されることがあるとしても,そのことから,引用A商標の「Phenix」の文字部分のみをもって取引に資されることを否定し得るものではない。上記のとおり,引用A商標の構成中「Phenix」の文字部分は,図形部分及び「IZUMIIND.CO.,LTD」の文字部分とは分離して把握されるのが通常であると認められるところ,弁論の全趣旨によっても,上記認定を否定するような事情を見いだすことはできない。 また,原告は,引用A商標の商標権者による引用A商標の使用の外観のみを取り上げて論じているが,商標は,称呼をもって取引に資されることも少なくないのであり,むしろ,簡易,迅速を尊ぶ取引の実際においては,引用A商標の「Phenix」の文字部分の称呼である「フェニックス」をもって取引に資されるのが普通であり,殊更,著しく冗長な「フェニックスイズミインドシーオーエルティディ」をもって取引に供されるとは考え難い。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 ( ) 原告は,引用A商標に対する不使用取消審判事件について言及し,殊更に3「Phenix」の欧文字のみで自他商品の識別機能を果たしているという証拠はない旨主張するが,この主張も採用できないことは,上記判示に照らし明らかである。 2外観,称呼,観念の類否について( ) 外観について1本願商標は,「PHOENIX」の文字を標準文字で書して成るものである。一方,引用A商標の構成中,自他商品又は役務の識別機能を果たす「Phenix」の文字部分は,「P」の文字をやや図案化し,該文字の右下部分に「h」の文字を重ねるようにし,かつ,文字部分の全体をやや図案化しているものである。 本願商標「PHOENIX」と引用A商標の「Phenix」の文字部分を対比すると,後者は,「Ph」と「enix」の間に「O」の文字が加わっており,冒頭の文字を大文字にするとともに,文字部分の全体をやや図案化している点で相違するが,視覚的に異なった印象を与えるものともいえないので,本願商標と引用A商標の構成中「Phenix」の部分とは,外観において類似しているものというべきである。 原告は,標準文字の本願商標「PHOENIX」と引用A商標の「Phenix」の英文字とを比較すると,単に本願商標の第3字目の英大文字「O」の有無で相違するのみならず,前者が英語の大文字で高さを全く同じくして構成されるのに対し,後者は極めて特徴的な態様を有するものであるから,視覚上の印象が極めて明瞭に異なる旨主張する。 しかし,原告の上記主張は,殊更,相違点を強調するものであるが,本件商標及び引用A商標に接する取引者,需要者は,まず,「PHOENIX」なり「Phenix」なりの文字そのものを把握するのが通常であって,「O」の有無,大文字か小文字か,先頭の文字に第2字が重なっているかなどは,細部にわたる些細な相違にすぎないものというべきであり,視覚的に異なった印象を与えるほどのものとはいい難い。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 ( ) 称呼について2本願商標は,「PHOENIX」の文字よりなるものであるから,これより「フェニックス」の称呼を生ずるものである。一方,引用A商標の「Phenix」の文字自体も,「フェニックス」の称呼を生ずるものである。したがって,本願商標と引用A商標とは,「フェニックス」の称呼を共通にするものということができる。 ( ) 観念について3ア本願商標は,「PHOENIX」の文字よりなる英語であるところ,その英語自体の意味により,又は,その称呼を片仮名表記した外来語「フェニックス」を想起することにより,「不死鳥」の観念が容易に生ずるものと認められる。一方,引用A商標の「Phenix」の文字部分についてみると,証拠(乙5〜8)によれば,「Phenix」の文字は,「phoenix」と同義語であって,「不死鳥」の意味を有する語であることが認められ,しかも,「Phenix」の文字のせよ「phoenix」の文字にせよ,「フェニックス」の称呼を生じるのであるから,本件指定商品の分野に係る取引者,需要者であれば,引用A商標からも「不死鳥」の観念を容易に生じるものというべきである。 イ原告は,「phenix」が,我が国で明確に「不死鳥」の観念を有するものと理解されているとはいえず,単に辞書上の語義によって同義語であり「不死鳥」の観念を有するとした審決の認定は誤りである旨主張する。 しかし,証拠(乙1,4〜8)によると,「不死鳥」を意味するラテン語「phoenix」を語源とするものであって,英語表記として「phoenix」と「phenix」の2種類があるが,いずれも発音まで共通しているものであることが認められ,したがって,「phoenix」の表記であれば「不死鳥」を意味する英語として我が国で慣れ親しまれているのに,「phenix」の表記であれば「不死鳥」を意味する英語として我が国で必ずしも慣れ親しまれていないなどということはあり得ないのである。上記証拠に,甲1及び2をも併せ考えると,必ずしもラテン語に慣れ親しんでいない我が国においては,「phoenix」と「phenix」とが特に区別されることなく「フェニックス」の称呼を生じ,「不死鳥」を意味する英語として理解され,慣れ親しまれているものと解するのが相当である。 したがって,原告の上記主張は,失当である。 ウ原告は,インターネットによる検索の結果を理由に,米語である「phenix」が,我が国で明確に「不死鳥」の観念を有するものと理解されているか否かは疑問であり,この点を考察することなく,単に辞書上の語義により,同義語であり「不死鳥」の観念を有するとした審決の認定は誤りである旨主張する。 確かに,「phoenix」と「phenix」とは,同義語といえるものであるが,証拠(乙1,4〜8)から明らかなとおり,発音,意味において全く共通し,スペルにおいてわずかに異なるというほどの同義語であるから,スペルのみを基準とするインターネット検索の結果は,「phoenix」と「phenix」との区別がついていない場合を包含するのであって,米語である「phenix」が「不死鳥」の観念を有するものと理解されていないという結論に結び付くものとはいえない。 上記のとおり,必ずしもラテン語に慣れ親しんでいない我が国においては,「phoenix」と「phenix」とが特に区別されることなく「フェニックス」の称呼を生じ,「不死鳥」を意味する英語として理解され,慣れ親しまれているものである。 したがって,原告の上記主張も,採用の限りでない。 3そうすると,審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がないから,原告の請求は棄却を免れない。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 宍戸充 |
裁判官 | 柴田義明 |