関連審決 | 不服2007-10846 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成21行ケ10102審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成20行ケ10474審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成20行ケ10439審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成20行ケ10442審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成20行ケ10351審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 識別力 / 指定商品 / 3条1項6号 / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 警告 / |
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事件 |
平成
21年
(行ケ)
10034号
審決取消請求事件
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原告株 式 会社イン フ ォメーシ ョン ・ディベ ロ プメント 同訴訟代理人弁理士齋藤晴男 齋藤貴広 被告特許庁長官 同 指定代理 人榎本政実小林由美子 安達輝幸 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2009/09/08 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が不服2007-10846号事件について平成20年12月26日にした審決を取り消す。 第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において原告の本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1特許庁における手続の経緯(1)本件出願及び拒絶査定本願商標の構成:「アイディー」の片仮名文字を標準文字で書して成る。 指定商品:第9類「加工ガラス(建築用のものを除く。),自動販売機,ガソリンステーション用装置,駐車場用硬貨作動式ゲート,救命用具,消火器,消火栓,消火ホース用ノズル,スプリンクラー消火装置,保安用ヘルメット,鉄道用信号機,乗物の故障の警告用の三角標識,発光式又は機械式の道路標識,潜水用機械器具,業務用テレビゲーム機,乗物運転技能訓練用シミュレーター,運動技能訓練用シミュレーター,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,電気通信機械器具(『テレビジョン受信機・ラジオ受信機・音声周波機械器具・映像周波機械器具』を除く。),電子応用機械器具及びその部品,スロットマシン,レコード,メトロノーム,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD?ROM」原出願日:平成17年3月22日原出願番号:商願2005-24734号分割出願日:平成18年8月9日(甲1)分割出願番号:商願2006-74445号拒絶査定日:平成19年3月28日(甲4)(2)審判手続及び本件審決審判請求日:平成19年4月16日(甲5)審決日:平成20年12月26日本件審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成21年1月14日2本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,要するに,本願商標をその指定商品中の例えば「システム・情報等のセキュリティに関する商品を含む電子応用機械器具及びその部品並びに電気通信機械器具(「テレビジョン受信機・ラジオ受信機・音声周波機械器具・映像周波機械器具」を除く。)」に使用しても,これに接する取引者・需要者は,「識別子。ネットワークシステムなどの利用者を識別するための符号」を意味する語,さらには,「コンピュータ,情報セキュリティに関する一用語」である「ID」の表音と理解・認識するにとどまり,自他商品の識別標識として認識し得ないものであるから,本願商標は商標法3条1項6号所定の「需要者が何人かの業務に係る商品…であることを認識することができない商標」に該当する,というものである。 3取消事由本願商標が需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標に該当するとした本件審決の判断の誤り第3当事者の主張〔原告の主張〕本件審決は,本願商標の構成である「アイディー」の文字は,欧文字「ID」の表音の片仮名表記であることを前提として,「ID」の語が本願指定商品と関連する情報技術分野において,識別子等を表す用語として用いられており,「ID」の語は,インターネット検索や一般的な辞書において「アイディー」の読みで検索することが可能であることから,本願商標は,本願指定商品との関係において識別力がないと判断した。 しかしながら,情報技術分野において,識別子等を表す用語として用いられているのは,あくまでも大文字アルファベットの「ID」であって,片仮名表記の「アイディー」が識別子等を表す用語として用いられている例は皆無であるから,単に表音が一致することのみを理由として本願商標「アイディー」が識別子等を意味する「ID」を認識させると判断することはできない。 したがって,本件審決は,その判断の前提を誤ったものであるというべきであり,取り消されるべきである。 〔被告の主張〕片仮名文字「アイディー」は,一般的な辞書の記載,本願商標に係る指定商品と関連の深い情報通信関連の各種辞書類の記載並びに新聞記事及びウェブサイトにおいて,識別子等を意味する語として,単独又は「ID(アイディー)」,「アイディー(ID)」のように,欧文字「ID」と並記して使用されている実情があるから,「アイディー」からは識別子等を意味する欧文字「ID」が容易に想起されるものである。 また,「アイディー」から生ずる称呼は,欧文字「ID」から生ずる称呼と同一であり,かつ,本願商標に係る指定商品に関連の深い情報通信関連の分野において,「アイディー」を読みとする語は,識別子等を意味する欧文字「ID」以外にない。 そうすると,本願商標「アイディー」は,その構成文字から生ずる称呼及び観念が,識別子等を意味する語として,本願商標に係る指定商品の取引者,需要者に広く知られている欧文字「ID」から生ずるものと同一であり,その外観も極くありふれた片仮名表記に止まるものであるから,自他商品の識別力を有しないというべきであり,本願商標が商標法3条1項6号に該当するとした本件審決の判断に誤りはなく,取消事由は理由がない。 第4当裁判所の判断1本件審決は,本願商標に接する取引者・需要者は,「識別子。ネットワークシステムなどの利用者を識別するための符号」を意味する語,さらには,「コンピュータ,情報セキュリティに関する一用語」である「ID」の表音と理解・認識するにとどまり,自他商品の識別標識として認識し得ないと判断したところ,原告は,そのように理解・認識されるのは,あくまでも大文字アルファベットの「ID」であって,片仮名文字による本願商標からはそのように理解・認識されないと主張するので,以下,本願商標の取引者・需要者,「ID」の概念,片仮名表記の「アイディー」から想起される観念を踏まえ,この点について検討することとする。 2本願商標の取引者・需要者について本願商標の指定商品中には,「電気通信機械器具(「テレビジョン受信機・ラジオ受信機・音声周波機械器具・映像周波機械器具」を除く。),電子応用機械器具及びその部品」が含まれていることから,本願商標の取引者・需要者には,情報通信分野に関わる者が含まれるほか,電気通信機械器具等を利用する者が含まれるものと認められる。 そして,電気通信機械器具等には,インターネット接続機能を有するコンピュータも含まれるというべきであるから,本願商標の取引者・需要者には,インターネットユーザーが含まれており,その幅は広いものということができる。 3「ID」の概念について(1)国語辞書における記載ア平成7年(1995年)11月3日株式会社三省堂発行の「大辞林第二版」8頁には,「アイディーカード」の項に「〔IDは identity;identificationの略〕身分証明書。」との記載があるが,「アイディー」の独立の項は設けられていない。そして,平成18年(2006年)10月27日発行の同書「第三版」8頁には「アイディー」の項に「↑ID(ABC略語)」との記載があり,付録の「ABC略語」21頁の「ID」の項には「?@識別。身分証明。同定。一体化。?A識別子。コンピュータ・ネットワークなどで,ユーザーや機器を識別するための符号。通例,数字やアルファベットを組み合わせたものが用いられ,パスワードと組み合わせてログインする。」との記載がある。 イ平成10年(1998年)11月11日株式会社岩波書店発行の「広辞苑第五版」7頁には,「アイ・ディー・カード【ID-】」の項に「その人と識別するための情報を記録して所持するカード。身分証明書。」との記載があり,「アイ・ディー・ばんごう【ID番号】」の項に「複数の利用者を識別するための符号。 英数字の組合せを用いる場合が多い。アカウント番号。」との記載があるものの,「アイ・ディー」の独立の項は設けられていないが,平成20年(2008年)1月11日発行の同書「第六版」8頁では,「アイ・ディー【ID】」の項が設けられ,「ID番号の略。」と記載されている。 (2)情報通信関連の各種辞典類における記載ア平成14年(2002年)10月7日日経BP社発行の「情報・通信新語辞典2 0 0 3 年 版 」 ( 甲 2 2 ) 4 0 2 頁 に は , 「 I D 〔 identificationnumber〕」の項に「オンライン・データベースやパソコン通信サービスなど,複数のユーザーが利用するコンピュータ・システムで用いているユーザー識別符号。企業内のコンピュータ・ネットワーク利用を管理するためにIDを設定することもある。一般的には,英数字の組み合わせからなる番号をサービス提供側から与えるが,システムによっては,他ユーザーと重複しなければ,自分で選べる場合もある。このID番号によって,コンピュータ・システムの利用回数や料金の計算を行うため,アカウント(課金符号)と呼ばれることもある。」と記載されている。 イ平成16年(2004年)10月11日日経BP社発行の「日経パソコン用語事典2005年版」(乙35)には,「IDアイディー;identification」の項に「LAN上のデータベースを利用したり,プロバイダーに接続するとき,ユーザーを特定するために使われる名称。パソコン上ではユーザー名と表記されることもある。英字や数字の組み合せをIDとして使っているシステムが多い。また,このIDに対してコンピューターの利用料金を請求することから,アカウント(課金番号= account number)と呼ぶこともある。ネットワークにつながっていないコンピューターでも,安全対策のためIDを設けて管理することもある。」と記載されている。 ウ平成16年(2004年)11月1日株式会社技術評論社発行の「2005-‘06年版最新パソコン用語事典」(乙37)には,「ID〔アイディー〕」の項に,「IDentification ↑ID番号」の記載があり,「ID番号〔アイディー〕IDentification number」の項に,「基礎複数ユーザーを持つコンピュータ・システムで用いるユーザー識別番号。これによってユーザーを区別し,利用料金などを計算する。このため,アカウント番号(accout number)ともいう。これには機密性がないため,パスワードを併用してユーザーであることを認証するシステムが多い。」と記載されている。 エ平成16年(2004年)1月6日株式会社エクスメディア発行の「超図解カナ引きパソコン用語事典2004-05年版」(乙38)には,「アイディ□ーID,IDentification」の項に,「システムの利用者を識別するための符号のこと。一般には英字や数字を組み合わせて使う。インターネットやサーバーにアクセスするときに,ユーザー名やパスワードを入力し,サーバーはこれによって正当な利用者であることを識別する。」と記載されている。 (3)ウェブサイト上の用語辞典における記載ア「Yahoo!」のウェブサイト(甲9)には,「IT用語辞典」の見出しのもと,「ID(identifier)/読み方『アイディー』/別名なし」の項に,「身分証明書という意味の英単語。ITの世界では,何らかの対象を集団の中で一意に識別するための識別符号のこと。コンピュータの利用者を識別するために一人一人に割り当てられたユーザ名などがこれに当たる。」の記載がある。 イBINARY のウェブサイト(甲10)には,「IT用語辞典」の見出しのもとの「IDフルスペル:identification /読み方:アイディー」の項に,「IDとは,システムの利用者を識別するために用いられる符号のことである。ネットワーク上においては,インターネットに接続する際のプロバイダとの接続や,LAN上のデータベースに接続する際などに,ユーザー認証を行うために使用される。ネットワークに接続していないコンピュータでも,セキュリティ対策のためにログインIDを設けることがある。IDは『ユーザ名』や『ユーザID』などと呼ばれることも多い。一般的にIDはパスワードとセットにして用いられる。多くのシステムでは,IDはアルファベットや数字を用いて設定することができる。」の記載がある。 ウRBBTODAY のウェブサイト(甲11)には,「IT辞典」の見出しのもとの「ID(アイ・ディー。Identifier)」の項に,「ユーザIDとは,ユーザーが誰であるかを証明するために数字や文字などを使用した識別子を指します(注.人の身元を確認したり,証明したりする場合のIDは Identification の略)。」の記載がある。 エ「ID|学習百科事典|学研キッズネット」のウェブサイト(乙12)には,「アイディー【ID】」の項に,「Identification の略。個人の識別の意味で使われる。身分証明。たとえば,個人の資格や権利を識別するためのカードは,IDカードという。」の記載(振り仮名は省略)がある。 オ「情報通信白書 for kids」のウェブサイト(乙13)には,「インターネットの世界」の見出しのもとの「インターネットへのいろいろな接続方法」の項に,「プロバイダへの申し込みは,オンラインサインアップのCD-ROM(シーディー・ロム)を使う,または,電話,FAX,郵便等で申し込んで接続するためのID(アイディー)・パスワードをもらうなどの方法があるんだよ。」の記載(読み仮名は省略)がある。 カシャープ株式会社のウェブサイト(乙14)には,「Mebius 用語集-アルファベットH-P」の見出しのもとの「ID(アイディー)」の項に,「識別番号や識別子のこと。プロバイダなどに接続する際に,利用者を識別するために利用者一人ひとりに割り振られ使われる文字列のことで,パスワードと一緒に入力し,正規の利用者であることを識別するために使う。」の記載がある。 キキーマンズネットのウェブサイト(乙15)には,「IT単語帳」の見出しのもとの「ID(アイディー)」の項に,「身分証明書という意味の英単語。ITの世界では,何らかの対象を集団の中で一意に識別するための識別符号のこと。コンピュータの利用者を識別するために一人一人に割り当てられたユーザ名などがこれに当たる。」の記載がある。 (4)電子商取引等における認証としての使用以上の辞書・辞典等の記載のほか,証拠(乙22〜30)によると,近年,「ID」とパスワードによる認証を利用して企業や官公庁のウェブサイトにアクセスして情報をやり取りするシステムが運営されているほか,一般の消費者が,コンピュータや携帯電話等を介して,同様の方法により必要なウェブサイトにアクセスし,商品の購入・販売並びに列車,ホテル,レンタカー,自動車教習所,美容院,病院の診察及び図書館のおける本の貸出し等の予約を行うシステムが多数運営されていることが認められる。 (5)商品名の一部としての使用また,以上のような認証としての使用のほかにも,証拠(乙18,31〜33)によると,ID管理サーバー,IDカードリーダ,IDカード用プリンター及びIDカード発行ソフトウェアのように,「ID」の文字が商品名の一部として使用されている例が存在することが認められ,これらのネットワーク関連機器は,本願商標の指定商品に含まれる「電気通信機械器具」に該当するものということができる。 4片仮名表記の「アイディー」から想起される観念上記3(1)及び(2)で認定したところによると,「ID」の語は,本件商標登録出願の時点において,主としてユーザー等の個人を識別するための識別子を意味するパソコン用語として広く知られていたものであり,本件商標登録出願後,拒絶査定時又は本件審決時までの間に,インターネットの普及に伴って更に広く認知され,国語辞典に登載されるまでに一般化してきたものということができるところ,上記3(3)ないし(5)のとおり,「ID」の語はウェブサイト上でも広く紹介され,「ID」がユーザー等の個人を識別するための識別子であることを前提として,このような認識なくしては利用することができない各種サービスが広く一般に行われているほか,電気通信機械器具に属する機器の商品名には,上記のような識別子を意味するものとして「ID」の文字を使用してその機能を説明するものも存在し,反対に,「アイディー」と発音する「ID」の語に,上記で認定したものと異なる特定の語義が存在するとの事情は認めることができない。 そのような「ID」の語についての認識及び使用の状況にかんがみると,「ID」の語が,その読みである「アイディー」と切り離して,大文字のアルファベット「ID」としてのみ認識されているということはできないのであって,本願商標の指定商品の取引者・需要者にとってみれば,「ID」の表記と「アイディー」との読みは一体のものと認識・理解されているといわざるを得ない。 そうすると,本願商標の取引者・需要者は,「アイディー」と片仮名表記された本願商標から,個人を識別するための識別子を意味する語としてすでに一般的に認識されている大文字アルファベットの「ID」を想起するに至るものというべきであって,本願商標「アイディー」がそのような識別子を意味する「ID」を認識させるものではないとの原告の主張を採用することはできないというほかない。 したがって,本願商標は,需要者が何人かの業務に係る商品であること認識することができない商標であり,本願商標が商標法3条1項6号に該当するとした本件審決の判断に誤りはない。 5結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。 |
裁判長裁判官 | 滝澤孝臣 |
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裁判官 | 高部眞規子 |
裁判官 | 杜下弘記 |