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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18ネ2387不正競争行為差止等請求控訴事件 判例 商標
平成15ワ10016損害賠償等請求事件 判例 商標
平成20ワ19774商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
平成15ワ13639商標権侵害行為差止等請求事件 判例 商標
平成14ワ13569商標権侵害差止等請求事件 平成15ワ2226商標権侵害差止請求事件 判例 商標
関連ワード 識別機能 /  指定商品 /  普通に用いられる方法 /  著名な略称 /  周知性 /  不正競争の目的 /  顧客吸引力(グッドウィル) /  類似性(類否判断) /  不使用 /  損害額 /  使用料相当額 /  権利濫用(権利の濫用) /  先使用(32条) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  禁止権 /  差止 /  過失の推定 /  使用許諾 /  継続 / 
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事件 平成 17年 (・) 248号 損害賠償請求控訴事件
控訴人(1審被告) 株式会社クラウディア
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 福井 啓介
同 舩橋 恵子
同 上田 敦
被控訴人(1審原告) 株式会社カロッツェリアジヤパン
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 近藤 丸人
同 勝海 寿美子
同 西澤 滋史
同 飯尾 拓
同 津田 宏明
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2005/07/14
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原判決を次のとおり変更する。
2 控訴人は,被控訴人に対し,415万9498円及びこれに対する平成15年11月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じこれを10分し,その9を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
(以下,控訴人を「被告」,被控訴人を「原告」という。)
事案の概要
1 事案の要旨 本件は,商標権を有する原告が,被告が当該商標権に係る商標に類似する標章を使用してウエディングドレスの販売等の営業を行い,原告の商標権を侵害したとして,被告に対し,主位的に不法行為による損害賠償請求権,予備的に不当利得返還請求権に基づき,商標の使用料相当額ないし不当利得金の合計額3525万円のうち3500万円及びこれに対する平成15年11月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は,原告の請求を554万5997円及びこれに対する上記遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却したところ,被告がその敗訴部分を不服として本件控訴を提起した。
2 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は,当事者間に争いがない。) (1) 当事者 原告は,自動車用品,衣料品等の輸入,販売等を業とし,後記の商標権を有している株式会社である。
被告は,ウエディングドレスの製造販売及びリース等を業とする株式会社である。
(2) 原告商標 原告は,別紙商標目録記載の商標に係る商標権を有している(以下,同目録記載の商標を「本件商標」,本件商標に係る商標権を「本件商標権」という。)。
本件商標について,平成13年12月11日に商標登録出願がされ,平成14年9月13日に設定の登録がされ,同年10月15日に所定事項を掲載した商標公報が発行された。
本件商標は,「UNO PER UNO」の欧文字と「ウノパーウノ」のカタカナ文字とを二段に横書きしたものである。
(3) 被告標章の使用 被告は,平成13年12月11日,タレントであるCがプロデュースし,ブランド名を「Uno PER Uno」(ウノペルウーノ)とするウエディングドレス(以下,Cがプロデュースしたウエディングドレスのことをブランド名にかかわらず「被告商品」という。)の発表会(以下,「本件第1回発表会」という。)を行い,以後,「Uno PER Uno」の欧文字で構成される標章(以下「被告標章」という。)を被告商品の販売,宣伝活動に使用していた(被告標章の称呼及び被告商品の販売,宣伝活動について甲4,乙3の1・2,乙6〜13,14の1・2,乙28,29,35,弁論の全趣旨。ただし,後記のとおり,被告のみならず,Cも被告標章の使用主体であるか否かについては争いがある。)。
ウエディングドレスは,本件商標の指定商品のうち,「洋服」に当たる。
(4) 本件商標と被告標章との類似性 本件商標と被告標章は,外観上は,欧文字が大文字のみによる表記(本件商標が「UNO PER UNO」)か,大文字と小文字の組合せによる表記(被告標章が「Uno PER Uno」)かの違いがあるだけで,それぞれの称呼は,本件商標の称呼が「ウノパーウノ」であるのに対し,被告標章の称呼が「ウノペルウーノ」であり,両者の欧文字の意味は,いずれもイタリア語で「1対1」であって,外観,称呼及び観念において両者が取引者ないし需要者に与える印象等は類似している(被告標章の称呼について前記(3)掲記の各証拠。両者の意味について甲18,乙35)。
(5) 被告新標章の使用 被告は,本件商標権の設定の登録がされていることから,被告標章の使用の中止を決定し,平成14年12月以降,被告商品のブランド名を「Scena D’uno」(シェーナドゥーノ。意味は「『C1』のシーン=『C 1』の場面」である。)に変更し,その新作発表会及び販売,宣伝活動に「Scena D’uno」の欧文字で構成される標章(以下「被告新標章」という。)を使用している(乙15の1・2,乙21,23〜26,35)。 (6) 登録異議の決定 被告は,平成14年12月12日,特許庁長官に,本件商標について,登録異議の申立てをした。
これに対し,特許庁は,平成15年6月30日,本件商標について,商標登録を維持する旨の決定をした(以下「本件登録異議の決定」という。)。
(7) 原告の本件訴訟提起 原告は,平成15年11月8日,京都地方裁判所に本件訴訟を提起し,その訴状は,同月25日,被告に送達された(記録上明らかな事実)。
3 争点 (1) 不法行為による損害賠償請求の可否 ア 商標権侵害に関する故意又は過失の有無 イ 損害発生の有無及び損害額 (2) 不当利得返還請求の可否 (3) 商標権の効力制限(商標法26条1項1号)の抗弁の成否 (4) 権利濫用の抗弁の成否 4 争点に対する当事者の主張 (1) 争点(1)ア(商標権侵害に関する故意又は過失の有無)について 【原告の主張】 被告は,原告が商標権を有する本件商標に類似する被告標章を使用して,被告商品を販売するなどした。 被告が平成15年2月28日に被告標章の使用を中止したとの被告の主張は否認する。
被告は,本件商標権の設定の登録がされている事実を知った後も被告標章の使用を継続していたのであり,故意又は過失により原告の商標権を侵害した。 商標法39条及び特許法103条により被告の過失が推定される期間の始期は,本件商標権の設定登録日である平成14年9月13日であると解すべきである。
【被告の主張】 被告は,偶然,本件商標に係る商標登録出願日(平成13年12月11日)に被告標章の使用を開始したものであり,使用開始時点ではもちろんのこと,その準備段階においても,本件商標の存在はもちろん,本件商標について商標登録出願がされた事実さえ把握することができなかった。そして,被告は,本件商標権の存在を知った後,遅くとも平成15年2月28日には被告標章の使用を中止した。 したがって,被告に原告の商標権を侵害する故意及び過失はなかった。
商標法39条及び特許法103条過失の推定に関する規定を設けた趣旨にかんがみれば,ここでいう過失の内容は,「登録商標の存在を調査することが可能であったにもかかわらず,その義務を怠り,使用行為を開始したこと」とされるべきである。そうだとすれば,被告は,被告標章の使用開始前に調査を行ったことによって,果たすべき注意義務を尽くしたにもかかわらず,本件商標の存在を確認することができなかったのであるから,被告には過失の推定に関する規定の適用はない。
仮に,被告の過失が認められるとしても,商標法39条及び特許法103条により被告の過失が推定される期間の始期は,商標公報の発行日である平成14年10月15日であると解すべきである。
(2) 争点(1)イ(損害発生の有無及び損害額)について 【原告の主張】 原告は,商標法38条3項により,被告に対し,本件商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭(以下「使用料相当額」という。)を,自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
本件商標について商標登録がされた月の翌月である平成14年10月から同年12月までの3か月間の被告商品の売上げ合計は,2億5178万9940円であり,月平均売上げは,8392万9980円であった。したがって,本件商標について商標登録がされてから本件訴状送達の日である平成15年11月25日までの約14か月間における売上げ総額は,11億7500万円を下らない。そして,本件における使用料相当額は,一般的な商標権の使用料が売上高の3ないし5パーセントであることにかんがみ,上記被告商品の売上げ総額の3パーセントとするのが相当である。
よって,原告は,被告に対し,本件商標権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき,使用料相当額3525万円を請求することができるところ,本訴においては,被告に対し,そのうち3500万円を請求する。
【被告の主張】 ア 登録商標に類似する標章を第三者がその製造販売する商品につき商標として使用した場合であっても,当該登録商標に商標権者の業務上の信用と結びついた顧客吸引力が全く認められず,登録商標に類似する標章を使用することが当該第三者の商品の売上げに全く寄与していないことが明らかな場合は,使用料相当額の損害は発生していないというべきである。
イ 本件においては,次の諸事情があるから,本件商標には商標権者である原告の業務上の信用と結びついた顧客吸引力が全く認められず,被告が被告標章を使用したことが被告の売上げに全く寄与していないことが明らかである。
・ 原告は,従前,本件商標について,商標権者である原告の信用が結合するに至るだけの実質的な使用をした事実がない。
・ 本件商標は,一般需要者の間において全く知名度がなく,業務上の信用が化体されておらず,顧客吸引力がない。
・ 被告標章は,本件第1回発表会(平成13年12月11日)以降,被告商品を示すものとして著名となり,遅くとも本件商標権の設定登録時までには被告自らの営業努力,宣伝活動によって被告の業務の信用及び顧客吸引力を獲得した。
・ 被告標章を使用した被告商品の売上げが伸びたのは,有名なタレントであるCがプロデュースした商品であったこと,本件商標権の設定の登録がされた時点で,被告独自の営業努力,宣伝活動により被告標章が周知性を獲得していたこと及び被告商品のデザインが斬新であったこと等が要因であって,本件商標に類似した被告標章を使用したことにより被告商品の売上げが増加したということは全くない。
ウ したがって,被告が本件商標に類似した被告標章を使用したとしても,原告には使用料相当額の損害は発生していない。 エ 仮に,原告に使用料相当額の損害が認められるとしても,本件商標には顧客吸引力が全くないこと,原告の具体的な業務内容に照らし,原告の顧客が被告商品を原告商品と誤認混同するおそれはほとんどないこと,被告標章は被告の売上高の増加に全く寄与していないこと,本件商標の使用許諾をした事例の存否が明らかでないこと等の諸事情にかんがみると,使用料相当額の基準に関する原告の主張は不当である。
【被告の主張に対する原告の反論】 ア 損害の発生の有無は,商標権者による商標の使用の有無,程度のみで判断すべきでなく,商標権者,侵害者,当該商標及び侵害標章の知名度並びに侵害標章が侵害者の事業に寄与する度合いなどを総合的に勘案して決すべきである。
また,損害発生の有無を検討するに当たっては,商標法が原則として登録主義を採用していることを重視すべきであり,侵害標章とされた標章が周知性を獲得しているなどの事情がないのに,商標権の設定登録以前に侵害標章の使用を開始したとの一事をもって商標権者に損害が発生していないということはできない。
さらに,当該商標が,商標権者の信用と結びついた高度の顧客吸引力を得るには至っていない場合でも,当該商標自体が顧客吸引力を持つ場合には,当該商標権が財産的価値を有する可能性があるというべきであり,第三者の使用により商標権者に損害が発生し得るというべきである。
イ 本件において,原告代表者は,被告が被告商品について宣伝活動を始めるより前の平成13年11月14日,有限会社ウノパーウノを設立し,同社をして,自動車等のパーツ,眼鏡及び衣料品等の売買並びに特に若者向けの洋服等の販売等の事業を行わせる予定をしていたのであり,本件商標を使用していた。 他方,本件商標権の設定の登録がされた平成14年9月13日までに被告標章が著名ないし周知となり,顧客吸引力を獲得していた事実はない。さらに,本件においては,被告商品をCがプロデュースした事実を前面に出すために,「C1」という音を含んだ商標を使用することが被告にとって重要であり,それが被告の事業及び売上げに寄与していたことは明らかである。
したがって,本件商標は,それ自体に顧客吸引力があるというべきであり,財産的価値があるから,被告標章を使用することが被告商品の売上げに寄与していることは明らかである。
上記の点を総合すれば,本件の場合は,「当該登録商標に顧客吸引力が全く認められず,登録商標に類似する標章を使用することが第三者の商品の売上げに全く寄与していないことが明らかなとき」に該当するとはいえないから,損害の発生があり得ないとはいえない。
(3) 争点(2)(不当利得返還請求の可否)について 【原告の主張】 原告は,商標法36条及び37条に基づき,被告に対し,本件商標に類似する被告標章の使用差止請求権を有していた。被告は,被告標章を使用するに当たって,その差止請求を回避しようとすれば,原告に対し使用料を支払って使用許諾を受ける必要がある。しかるに,被告は,上記使用許諾を受けず,原告に対し使用料を支払うことなく,被告標章を指定商品について使用し,これによって原告に使用料相当額の損失を与えつつ,同額の支出を免れて利得を得たものであり,原告の損失と被告の利得との因果関係が認められる。また,被告は,平成15年6月30日に,本件登録異議の決定がされたことにより,悪意の受益者となった。
よって,原告は,被告に対し,不当利得返還請求権に基づき,上記使用料相当額3525万円を請求することができるところ,本件においては,そのうち3500万円を請求する。
【被告の主張】 本件において,被告は,本件商標そのものではなく,その類似標章を使用したにすぎず,類似標章の使用に対しては商標権者の専有的使用権は及ばないから,類似標章を使用したことについては不当利得返還請求権は発生しない。そもそも,原告が援用する商標法36条及び37条は不法行為の特則であり,不当利得返還請求権の成否には影響しない。
また,本件商標は,一般需要者の間で知名度は全くなく,業務上の信用が化体されておらず,顧客吸引力が全くないので,被告標章の使用によって被告にもたらされた利益はない。そして,被告が被告標章を使用したことにより,原告の商品又は役務の売上げ並びに原告の本件商標について得べかりし利益の喪失による損害はいずれも発生していないので,原告に損失もない。
(4) 争点(3)(商標権の効力制限〈商標法26条1項1号〉の抗弁の成否)について 【被告の主張】 商標法26条1項1号は,自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号,芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称普通に用いられる方法で表示する商標には,登録商標の禁止的効力は及ばない旨を定めている。
被告標章は,著名タレントであるCの名の部分「C 1」を,ローマ字表記した「UNO」という文字で構成されており,まさに「芸名」を商標として使用しているものである。そして,商標法26条1項1号の趣旨は,事業者の氏名表示権の保護の観点にあることにかんがみれば,同号にいう「普通に用いられる方法」とは,事業者側(本件の場合,被告側)に立って,氏名・名称など表示として一般的か否かで判断すべきところ,本件のように,名をローマ字表記することは取引上一般に行われていることであるから,「普通に用いられる方法」であることは明らかである。
また,被告標章は,被告とCとの共同事業の中で,C自らが関与してこれを発案選定し,被告がこれを商標として使用することを認めたものであるから,当然,商標法26条1項1号の適用を受ける。
しかも,被告は,本件商標権の設定の登録がされる前から被告標章を使用しており,また,被告の不正競争の目的を基礎づける事実もないから,同条2項の場合(同条1項1号が適用されない場合)に該当しない。
したがって,本件商標権の効力は,商標法26条1項1号により,被告の使用する被告標章には及ばない。
【原告の主張】 本件商標は,「UNO PER UNO」の欧文字と「ウノパーウノ」のカタカナ文字とを二段に横書きしたものであり,被告標章は,「Uno PER Uno」の欧文字で構成されるものであり,いずれについても,Cが自己の氏名を普通に用いられる方法で表示したものとは,到底いえない。しかも,被告標章は,あくまでも被告が単独で使用したものであって,Cは,被告商品のデザインを担当したにすぎず,被告標章の使用主体であるとはいえない。
したがって,被告の使用する被告標章については,商標法26条1項1号は適用されない。
(5) 争点(4)(権利濫用の抗弁の成否)について 【被告の主張】 本件商標と被告標章は明らかに類似しているが,本件商標に係る商標登録出願日と被告が本件第1回発表会を行った日が一致するのは,原告において,被告が被告標章を使用して被告商品の販売を予定していることを事前に知り,また,被告商品がCがプロデュースした商品であって将来多額の売上げが予想されると見込み,被告標章について商標登録出願がされていないのを奇貨として,将来被告に対し損害賠償請求することを目論んで,本件商標について商標登録出願を行ったからである。しかも,原告は,本件商標について商標登録出願がされ,その設定の登録がされたことが被告に判明する時期を遅らせるために,上記商標登録出願日をあえて平成13年12月11日としたものである。 また,被告標章は,被告の商品表示として,本件商標権の設定の登録がされた時点で周知性を獲得しており,原告が本件商標を使用することは不正競争防止法に違反するのであって,原告は,本件商標を使用することはできず,かつ,そのことを知っていた。
以上の諸事情に照らすと,原告の本件商標権侵害を理由とする本訴請求に係る権利の行使は権利の濫用に当たる。
【原告の主張】 原告代表者は,平成13年11月14日に有限会社ウノパーウノを設立し,本件商標を使用した製品の販売を開始するため店舗の準備を開始し,既に本件商標を付した看板も店舗に設置していたのであって,原告には本件商標権の設定の登録をすることにより被告から損害賠償を得ようとする意思はなかった。
本件商標権の設定の登録がされた時点で被告標章に周知性があったとの主張は否認する。
当裁判所の判断
1 争点(1)ア(商標権侵害に関する故意又は過失の有無)について (1) 前記第2,2の前提事実(以下「前提事実」という。)によれば,@原告が,平成14年9月13日に設定の登録がされた本件商標権を有すること,A本件商標と被告標章が類似すること,B被告商品が本件商標の指定商品である「洋服」に含まれることは,いずれも当事者間に争いがない。
また,前提事実,証拠(甲7,乙3の1・2,乙4〜13,14の1・2,乙19,28,29,35)及び弁論の全趣旨によれば,C被告は,本件第1回発表会に先立ち,平成13年11月末ころから,報道各社に本件第1回発表会の案内状及び出欠確認のダイレクトメールを送付し,また,報道各社に情報を提供して,被告標章をブランド名とする被告商品について事前の宣伝活動を行ったこと,D被告は,本件第1回発表会(平成13年12月11日)から平成15年2月28日までの間,被告標章を被告商品の販売,宣伝活動に使用していたことが認められる。
以上の事実と,商標権は設定の登録により発生すること(商標法18条1項)によれば,被告による上記被告標章使用行為のうち,本件商標権の設定の登録がされた平成14年9月13日から平成15年2月28日までの間の行為は,本件商標権を侵害する行為(以下「本件侵害行為」という。)に該当する(同法37条1号)。
(2) そこで,本件侵害行為についての被告の故意又は過失の有無及び故意又は過失の成立時期について検討する。
この点について,原告は,本件商標権の設定の登録がされた平成14年9月13日以降は,商標法39条及び特許法103条により被告の過失が推定されると主張する。
しかしながら,商標法39条及び特許法103条により侵害者の過失が推定される根拠は,商標公報によって商標権が公示されることを前提に,商標の使用者に商標権の調査義務を課し得る点にあるものと解される。そうすると,商標公報が発行されるまでは,侵害者の過失が推定される根拠を欠くから,侵害者の過失は推定されないと解するのが相当である。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
これを本件についてみるに,前提事実によれば,本件商標の商標公報の発行日は平成14年10月15日であるから,その翌日である同月16日から平成15年2月28日までの間(以下「本件期間」という。)の本件侵害行為について,被告の過失が推定されると解すべきである。 これに対し,被告は,「被告は,偶然,本件商標に係る商標登録出願日(平成13年12月11日)に被告標章の使用を開始したものであり,使用開始時点ではもちろんのこと,その準備段階においても,本件商標の存在はもちろん,本件商標について商標登録出願がされた事実さえ把握することができなかった。そして,その後に本件商標権の設定の登録がされた。したがって,本件のように,被告が先行して被告標章を使用し,事業活動を行っていた場合には,上記過失の推定に関する規定の趣旨は妥当しない。また,同規定の趣旨にかんがみれば,ここでいう過失の内容は,『登録商標の存在を調査することが可能であったにもかかわらず,その義務を怠り,使用行為を開始したこと』とされるべきである。そうだとすれば,被告は,被告標章の使用開始前に調査を行ったことによって,果たすべき注意義務を尽くしたにもかかわらず,本件商標の存在を確認することができなかったのであるから,被告には上記過失の推定に関する規定の適用はない。」と主張する。
ところで,商標法は,商標権が設定の登録により発生するとの登録主義を採用し,設定の登録があったときは,所定事項を商標公報に掲載しなければならないとする(同法18条1項,3項)一方で,不使用による商標登録の取消しの審判(同法50条)や先使用による商標の使用をする権利(同法32条)等の使用主義(商標権は使用により発生するとの考え方)的要素を含む制度を設けている。これは,同法が,権利(商標権)の安定性や将来の使用に備えた権利の確保という面で,使用主義よりも優れているものの,権利の発生と使用とが必ずしも結びつかない登録主義の短所を除去しようとするものである。そして,ある標章を商標として使用しようとする者は,最初に調査した時点で,当該標章と同一又は類似の登録商標が存在しないことを確認していたとしても,その時点で当該標章について商標登録出願をしておかなければ,その後,他の者が当該標章と同一又は類似の標章について商標登録出願をし,その設定の登録がされた場合,前者による標章の使用は,原則として,後者による商標権の禁止権(禁止的効力)によって制限されることになる。すなわち,ある標章(商標)の使用を開始しようとする者が,使用開始に当たり,当該標章と同一又は類似の登録商標が存在しないことを確認したにすぎない場合,その後,上記登録商標が存在するに至ると,当該標章の使用は,上記使用主義的要素を含む商標法上の制度等によって保護されることは別論として,必ずしも将来的に継続することが許されるとはいえない。そうだとすれば,被告が被告標章の使用開始前に調査を行った際,本件商標の存在を確認することができる状況になかったことをもって,本件期間中の本件侵害行為について,被告に注意義務違反がなかったとはいえない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(3) そして,他に,前記(2)の推定を覆すに足りる事情や証拠はない。
また,本件期間の前(平成14年9月13日から同年10月15日までの間)における本件侵害行為について,被告に故意又は過失があったと認めるに足りる事情や証拠はない。
2 争点(1)イ(損害発生の有無及び損害額)について (1) 原告は,商標法38条3項により,被告に対し,損害賠償として使用料相当額を請求することができると主張し,これに対し,被告は,本件商標には原告の業務上の信用と結びついた顧客吸引力が全く認められず,被告が被告標章を使用したことが被告の売上げに全く寄与していないことが明らかであるから,原告において使用料相当額の損害は発生していないと主張する。
(2) そこで検討するに,確かに,本件全証拠によっても,原告が原告の商品の販売等に本件商標を使用した事実は認められず,本件商標に原告の業務上の信用と結びついた顧客吸引力があるとはいえない。
しかしながら,そもそも,商標法38条3項は,商標権者自身が登録商標を使用していることを前提としていない。また,商標権は,元来,商標の出所識別機能を通じて商標権者の業務上の信用を保護するとともに,商品の流通秩序を維持することにより一般需要者の保護を図ることにその本質があり,それ自体に特許権や実用新案権等が有するような財産的価値があるものではないが,当該商標に商標権者の業務上の信用と結びついた顧客吸引力がなくても,それ以外の理由で当該商標自体が顧客吸引力を有しているような場合には,これを潜在的な顧客吸引力という財産的価値として評価することもできるから,当該商標権に財産的価値が全くないとまではいえない。
これを本件についてみるに,前提事実,証拠(乙3の1・2,乙4〜13,14の1・2,乙19,28,29,35)及び弁論の全趣旨によれば,@被告が,被告商品を企画するに当たり,被告商品がCのプロデュースに係るものであることを前面に出すために,そのブランド名に「C1」との音を含ませることが必要であったこと,A被告標章は,イタリア語を語源とする単語を組み合わせたものであるが,そのうち,「Uno」の音は「ウノ」及び「ウーノ」であって,被告商品をプロデュースした有名タレントであるCの名前と同一ないしほぼ同一の音であり,これら二つの単語「Uno」の間に「対」を意味するイタリア語である「PER」(音はペル)との単語を挿入した形で用いることにより,被告標章がブランド名として使用された被告商品とCとの関連を強く想起させる特徴的な称呼となること,B平成13年11月末ころ,被告は,報道各社への案内状に本件第1回発表会の名称として被告標章を表示するなどして,被告標章を被告商品のブランド名として対外的に使用し始め,それ以降,業界紙及び情報誌等において被告標章が繰り返し掲載され始めたことが認められる。そして,原告が,本件商標について商標登録出願を行ったのとほぼ同時期に,被告が,被告標章を被告商品のブランド名として対外的に使用し始め,それ以降も継続的に,被告商品の販売,宣伝活動に被告標章を使用したことにより,本件商標と類似した被告標章自体が持つ斬新さや語感の良さと相まって,被告商品の購入を検討する取引者ないし需要者に対し,Cと被告商品との関連をより強く印象づけたことが認められる。そうすると,被告標章自体にも顧客吸引力があったといえるから,本件期間においては,被告が本件商標と類似した被告標章を被告商品の販売,宣伝活動に使用したことが被告商品の売上げに寄与していたというべきである。 したがって,被告の前記主張は採用することができず,原告は,被告に対し,本件商標の使用料相当額損害額として賠償請求することができる。
(3) 次に,本件商標の使用料相当額について検討するに,@前提事実,証拠(甲8,9,16,18)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件商標の商標登録出願の前後を通じて現在に至るまで,本件商標を使用したことがないものの,原告代表者を唯一の取締役とする有限会社ウノパーウノ(平成13年11月14日設立)によって,本件商標を使用した製品の販売をするための準備中であったことがうかがわれ(この点につき特段の反証はない。),A本件商標と類似した被告標章の使用状況及び被告標章が被告商品の売上げに寄与していたことは,前記(2)で認定したとおりであり,B前提事実及び証拠(乙19,21,35)によれば,被告が被告商品のブランド名を被告標章から被告新標章に変更した後も,被告商品の売上げはそれほど減少していないことが認められる。これらの事情を総合考慮すると,本件商標の使用料相当額は,本件期間の被告商品の売上げの1.5パーセントと認めるのが相当である。
そして,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば,被告の本件期間(平成14年10月16日から平成15年2月28日までの間)における被告商品の売上げは,次のとおり合計2億7729万9891円であることが認められる。
ア 平成14年10月 1393万6691円 (2700万2340円×16/31≒1393万6691円〈小数点以下切捨て〉。平成14年10月分は,上記のとおり,同月の売上額である2700万2340円を基準に,本件商標に係る商標公報発行の日の翌日である同月16日から同月31日までの16日間について日割計算をしたものである。) イ 平成14年11月 1億2452万6500円 ウ 平成14年12月 1億0024万9000円 エ 平成15年 1月 2986万6200円 オ 平成15年 2月 872万1500円 したがって,本件において,被告が原告に対して支払うべき使用料相当額は,415万9498円(2億7729万9891円×0.015≒415万9498円〈前同〉)であると認めるのが相当である。 (4) また,前提事実,前記(2),(3)掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告が被告標章を使用することにより原告の受けた損失は,前記(3)で認定した使用料相当額を超えることはなく,被告は,この使用料相当額の支出を免れて同額の利得を得たものとみることができるから,原告主張の不当利得返還請求の成否(争点(2))は,本件の結論に影響を及ぼさない。
3 争点(3)(商標権の効力制限〈商標法26条1項1号〉の抗弁の成否)について 被告は,本件商標権の効力は,商標法26条1項1号により,被告の使用する被告標章には及ばない旨主張する。
しかしながら,被告標章は,「Uno PER Uno」の欧文字で構成されるものであるから,Cが,自己の氏名若しくは芸名等を普通に用いられる方法で表示したものとは,到底いえない。しかも,前提事実及び証拠(乙3の1・2,乙4〜13,14の1・2,乙19,28,29,35)によれば,Cは,被告商品のデザインを担当したにすぎず,被告商品の販売主体(被告標章の使用主体)は,被告であって,Cではないことが認められる。そうすると,被告の使用する被告標章は,商標法26条1項1号所定の商標に該当するということはできない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
4 争点(4)(権利濫用の抗弁の成否)について 被告は,@原告において,被告が被告標章について商標登録出願をしていないのを奇貨として,将来被告に対し損害賠償請求することを目論んで本件商標について商標登録出願を行ったと主張し,Aまた,被告標章は,被告の商品表示として本件商標権の設定の登録がされた時点で周知性を獲得していたから,原告は不正競争防止法により本件商標を使用することができないと主張し,Bもって,原告の本件商標権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権の行使は権利の濫用に当たる旨主張する。
しかしながら,本件全証拠によっても,原告が本件商標について商標登録出願をした意図が,本件商標権の設定の登録後に被告に対し損害賠償請求することであったとは認められない。また,商標登録出願日から商標権の設定の登録日までは一定の期間を要するのが通常であり,本件商標権の設定の登録に際しても,平成13年12月11日から平成14年9月13日までの約9か月の期間を要しているところ,本件商標に係る商標登録出願日(平成13年12月11日)は,被告において被告標章を対外的に使用し始めて間もない時期に当たること,前記2(3)で認定したとおり,原告が,平成13年11月14日に有限会社ウノパーウノを設立するなど,本件商標に係る商標登録出願や被告による被告標章の対外的使用開始に先立って,本件商標の使用の準備を行っていたことに照らすと,仮に,被告標章が被告の商品表示として本件商標権の設定の登録がされた時点(平成14年9月13日)で周知性を獲得していたとしても,原告の被告に対する本件商標権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権の行使が権利の濫用に当たるとはいえない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
5 その他,原審及び当審における当事者提出の各準備書面等に記載の主張に照らし,原審及び当審で提出,援用された全証拠を改めて精査しても,前記認定判断を覆すほどのものはない。
6 結論 以上によれば,原告の本訴請求は,被告に対し,415万9498円及びこれに対する平成15年11月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度でこれを認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。
よって,被告の本件控訴により,これと一部結論を異にする原判決を変更することとし,主文のとおり判決する。
(当審口頭弁論終結日 平成17年4月28日)
裁判長裁判官 竹原俊一
裁判官 小野洋一
裁判官 長井浩一