運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 不服2007-14756
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10442審決取消請求事件 判例 商標
平成21行ケ10031審決取消請求事件 判例 商標
平成20行ケ10439審決取消請求事件 判例 商標
平成20行ケ10295審決取消請求事件 判例 商標
平成20行ケ10326審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  識別機能 /  指定商品 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項11号 /  類似性(類否判断) /  結合商標 /  分離観察 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  出所の混同 /  存続期間 /  更新登録 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 21年 (行ケ) 10021号 審決取消請求事件
原告株式会社ナチュラルプランツ
同訴訟代理人弁護士木村秀子
同訴訟代理人弁理士工藤一郎 中村賢一郎
被告特許庁長官
同 指定代理 人石田清安達輝幸
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/07/16
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2007-14756号事件について平成20年12月19日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの原告の本願商標に係る登録出願の拒絶査定に対する審判の請求について特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)出願手続(甲15の1)及び拒絶査定本願商標の構成:「ラブコスメティック」(標準文字)指定商品:商標法施行令別表第3類「化粧品」出願番号:商願2006-93942号登録出願日:平成18年10月10日(もとの商標登録出願(甲14)の登録出願日:平成18年3月13日)拒絶査定:平成19年4月20日付け(甲17)(2)審判請求手続及び本件審決審判請求日:平成19年5月23日(不服2007-14756号。甲18)本件審決日:平成20年12月19日本件審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成21年1月7日2本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,要するに,本願商標は,別紙引用商標目録記載1ないし5の各商標(甲13の1〜5の各1及び2並びに乙60。以下「引用商標1」ないし「引用商標5」といい,これらを併せて「各引用商標」という。)と類似し,本願商標の指定商品は,各引用商標の各指定商品に包含されるから,本願商標は,商標法4条1項11号に掲げる商標に該当する,というものである。
3取消事由本願商標と各引用商標との類否判断の誤り第3当事者の主張〔原告の主張〕1本願商標の一連一体性について本件審決(2頁22〜27行)は,本願商標について,「ラブコスメティック」との一連の称呼は冗長であり,構成全体として特定の熟語的意味合いを形成するものでなく,その他,これを常に一体のものとして把握しなければならないとする特段の事情は見出せない旨の判断をしたが,以下のとおり,この判断は誤りである。
(1)外観上の一連一体性片仮名表記の標準文字から成る本願商標は,同書体で同大の文字を等間隔に並べたものであって,その外観上の一連一体性は極めて強く,その他,本願商標を外観上「ラブ」と「コスメティック」とに分離して観察すべき事情は全く存在しない。
(2)称呼上の一連一体性「ラブコスメティック」との称呼は,音韻としては,促音を含め8音であって冗長ではなく,また,特に発音が困難な箇所もなく,よどみなく称呼し得るものであるから,本願商標の称呼上の一連一体性は強い。
(3)観念上の一連一体性本願商標は,英語の「love drug」との熟語をイメージした造語であるところ,「love drug」とは,株式会社研究社平成14年3月発行の「研究社新英和大辞典第6版」(甲7)によると,「媚薬,催淫剤」との意味を有し,「love」と「drug」の各語が結合することにより,各語が本来有する意味を超えた新たな意味を有する単一の熟語として成立しているものである。
そうすると,本願商標も,「ラブ」と「コスメティック」の各語を単純に足し合わせたものとは異なる新たな観念,すなわち,「愛,愛情」などの抽象的な意味合いを超えた「愛のための化粧品」などといった即物的な観念を生じさせるものであり,需要者にも,そのような観念を有するものとして受け取られるのであるから,本願商標は,観念上,「ラブ」と「コスメティック」とが密接に結び付いているものである。
(4)アンケート結果平成19年12月8日及び同月9日の2日にわたって行われた路上アンケート(甲21。以下「本件アンケート1」という。)によると,本願商標に接した需要者は,瞬時にこれを「ラブコスメティック」又は「ラブコスメ」と認識し,これを「ラブ」と認識することはほとんどなかったのであるから,需要者は,本願商標の要部が「ラブ」の部分であるとは認識しないといえる。
(5)小括以上のとおり,本願商標は,外観,称呼及び観念において,極めて強い一連一体性を有するものであるし,本件アンケート1の結果からも,需要者は,本願商標を一体のものとして極めて容易に把握することができるのであるから,本願商標は,需要者にとって分離観察をすることが不自然であるといえるほどの一連一体性を有しているというべきである。
2自他商品識別機能を有する部分について本件審決(2頁28行〜3頁3行)は,本願商標の「コスメティック」の部分が自他商品識別機能を果たし得ず,「ラブ」の部分が独立して自他商品識別機能を果たし得る旨の判断をしたが,以下のとおり,この判断は誤りである。
(1)結合商標における自他商品識別機能一般に,結合商標において,商標の一部のみからでは自他商品の区別ができない状況にある場合には,外観称呼の一連一体性と相まって,一連の商標としてのみ自他商品識別機能を発揮すると解するのが相当である。
これを本願商標についてみると,同商標の指定商品である化粧品の分野においては,「ラブ」,「Love」等の語及び他の語から成る商標が多数存在し,「ラブ」のみによっては,自他商品の区別ができない状況にあることから,本願商標は,取引上,「ラブ」とのみ簡略化されて称呼される可能性はない。しかも,本願商標は,同書体で同大の文字を等間隔に並べたものであり,「ラブ」と「コスメティック」との間に軽重の差はなく,冗長にわたることなく,ごく自然に「ラブコスメティック」と一連に称呼し得るものである。そうすると,本願商標は,「ラブコスメティック」との称呼のみを生じ,一体のものとして自他商品識別機能を発揮するものと認められる。
(2)「ラブ」の部分「ラブ」の語は,我が国において極めて周知度の高い英語である「love」を片仮名表記した外来語であり,「愛」,「恋愛」等の観念から肯定的に受容され,普遍的に好感を持たれるものといえるところ,化粧品を指定商品とするものに限ってみても,「Love」,「ラブ」等の語の次に他の語を結合させた登録商標は多数に上り(甲1(枝番を含む。),甲23),さらに,化粧品以外の商品・役務の分野において,これらの語を含む商品名,ブランド名等が多数存在することは公知の事実であるから,これらの語は,商標として用いるものとしてはやや陳腐であって,少なくとも,「Love」,「ラブ」等の語単独では,自他商品識別機能が弱く,他の語と結合されることにより,当該他の語と一体のものとして自他商品識別機能を果たす場合が多い。すなわち,化粧品の需要者は,「ラブ」及びこれに付加された語から成る商標を,一体のものとして,商品の出所識別表示と捉えるのが通常である。
なお,原告が平成19年5月にそのホームページ上で行ったアンケート(甲10,甲25の1及び2,甲26。以下「本件アンケート2」という。)によると,原告の商品を他社の商品と間違えて購入した需要者は皆無であった。
以上のとおり,化粧品の需要者が「ラブ」,「Love」等の語を特に印象深いものとして記憶する契機はなく,また,化粧品の取引者が本願商標を「ラブ」と称呼するとは考えられず,さらに,実際の取引においても,「ラブ」と「ラブコスメティック」との間に誤認混同が生じることはないのであるから,本願商標の「ラブ」の部分のみが自他商品識別機能を発揮することはないというべきである。
(3)「コスメティック」の部分ア本件審決の論理について商標の類否判断においては,商標の構成全体を観察するのが原則であるから,本願商標からあえて「コスメティック」の部分を除いて観察するのであれば,合理的な理由を要すると解すべきところ,この点に関し,本件審決は,「コスメティック」の語が化粧品を表す外来語として化粧品の需要者に広く定着し使用されており,化粧品に付された本願商標に接した需要者はこれを「ラブという化粧品」を意味するものと認識し,「コスメティック」の部分(単なる商品名の部分)は特に需要者の注意をひくものでないから,当該部分を除いた「ラブ」の部分のみが独立して自他商品識別機能を果たすと判断したものと解される。
イ「コスメティック」の語について(ア)「コスメティック」の語は,化粧品を意味する英語である「cosmetic」を片仮名表記した外来語であって,需要者が即時に化粧品を意味するものと認識することができるほどに簡単な語ではなく,また,「化粧品」とは語感が異なるものであるから,「コスメティック」の語は,化粧品を表す外来語として化粧品の需要者に広く定着し使用されているものではないし,需要者がこれを単なる商品名を表示した語であると理解するものでもない。
(イ)また,「コスメティック」の前に他の語を冠した商標は,化粧品について一般に使用されていないから,本願商標の「コスメティック」の部分が需要者の注意をひくものでないとはいえない。特に,本願商標においては,「ラブ」の部分が2文字であるのに対し,「コスメティック」の部分は7文字であること,前記(2)のとおり「ラブ」の部分の自他商品識別機能が弱いことからすると,本願商標に接した取引者及び需要者において,「ラブ」の部分よりも「コスメティック」の部分の重要度が低いと認識する理由はない。
(ウ)したがって,本願商標の「コスメティック」の部分が自他商品識別機能を果たさないということはできない。
(4)小括以上からすると,本願商標は,その「ラブ」の部分が独立して自他商品識別機能を果たすのではなく,「コスメティック」の部分も合わせた一体のものとして,自他商品識別機能を果たすと認めるのが相当である。
なお,仮に,「コスメティック」の部分がそれ自体として自他商品識別機能を果たし得ないとしても,「ラブ」の部分の自他商品識別機能が弱いこと(前記(2))に照らせば,本願商標は,やはり,一体のものとして,自他商品識別機能を果たすというべきである。
3類否判断について本件審決(3頁18〜20行)は,本願商標及び各引用商標が,外観において相違するものの,「ラブ」との称呼及び「愛」等の観念を共通にする類似の商標であるとの判断をしたが,以下のとおり,この判断は,本願商標及び各引用商標が外観において相違するとの点を除き,誤りである。
(1)外観本願商標及び各引用商標の外観を対比すれば,これが相違する旨の本件審決の判断それ自体は相当である。
(2)称呼本願商標からは「ラブコスメティック」との称呼のみが生じるのに対し,各引用商標からは「ラブ」との称呼のみが生じる点で,本願商標及び各引用商標は類似しない。
(3)観念本願商標からは「愛のための化粧品」などといった即物的観念が生じるのに対し,各引用商標からは「愛」等の抽象的な観念が生じる点で,本願商標及び各引用商標は類似しない。
(4)以上からすると,本願商標及び各引用商標は,外観,称呼及び観念のいずれの点においても類似しないから,本願商標が各引用商標と類似する商標であるということはできない。
4過去の登録事例について特許庁は,過去,他人の先願商標の一部を含む多数の商標につき,当該商標が全体として不可分一体のものと認識されるとして,その商標登録を許しているところ,本願商標も,その構成態様等において,これら過去に商標登録が許された例と異なるものではないから,本件審決の判断は,これら過去の商標登録の例との整合性を欠く不合理なものである。
〔被告の主張〕1本願商標の一連一体性について(1)結合商標における類否判断一般に,結合商標類否判断に当たり,各構成部分がそれらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標については,1つの称呼及び観念が他の商標の称呼及び観念と類似するといえないとしても,他の称呼及び観念が他の商標の称呼及び観念と類似するときは,両商標はなお類似するものであり,したがって,当該結合商標が上記のように不可分的に結合しているものと認められない限り,当該商標については,分離観察をすることが必要となるものと解するのが相当である。
(2)「コスメティック」の語「コスメティック」の語は,「化粧品」を意味する平易な英語を片仮名表記したものであり,古くからよく知られ,親しまれた外来語である(株式会社岩波書店昭和58年12月6日発行の「広辞苑第三版」等多数の辞典類(乙2〜16)参照)。
また,本願商標の指定商品である化粧品の分野においても,「コスメティック」の語は,「化粧品」を表すものとして広く使用されている(多数のウェブサイト上の情報(乙17〜58)及び新聞情報(乙61〜135)参照)。
(3)分離観察の必要性本願商標の「ラブ」の部分は,「愛」等の意味を有する英語「love」と同義の外来語(株式会社三省堂平成17年1月20日発行の「コンサイスカタカナ語辞典第3版」(乙1))として,我が国において一般に定着している語から成り,同商標の「コスメティック」の部分も,上記(2)のとおり,「化粧品」を意味する英語「cosmetic」と同義の外来語として,少なくとも化粧品の需要者に広く定着している語から成ることからすると,本願商標が「ラブ」と「コスメティック」の2語を結合させたものであることは,その外観上,容易に理解し得るものである。そして,「ラブコスメティック」との1つの語は存在しないから,本願商標は,観念上,「ラブ」の部分と「コスメティック」の部分とに分離して認識されるというべきである。本願商標を一体として称呼した場合,促音も含め8音と冗長であり,かつ,これらの各部分は,いずれもよく知られた語から成るものであり,それぞれ分離して発音されるものであるから,本願商標は,原告主張のように,常に一連のものとして称呼されるとはいえない。
そうすると,本願商標は,外観,称呼及び観念のいずれの点においても,「ラブ」の部分と「コスメティック」の部分とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められないから,本願商標については,「ラブ」の部分と「コスメティック」の部分とを分離して観察する必要があるというべきである。
(4)自他商品識別機能を有する部分本願商標を「ラブ」の部分と「コスメティック」の部分とを分離して観察すると,後者の「コスメティック」の部分は,指定商品である化粧品それ自体を指称する語から成り,「化粧品」との観念を生じさせるため,化粧品との関係で自他商品識別機能を有するものではない。他方,前者の「ラブ」の部分は,化粧品の分野において商品の品質等を表示する語から成るものではなく,化粧品それ自体を指す語から成る「コスメティック」の部分と比較して,圧倒的に高い自他商品識別機能を有するものである。したがって,本願商標については,「ラブ」の部分が独立して自他商品識別機能を果たし,同部分から生じる称呼(「ラブ」)及び観念(「愛」等)をもって取引に資する場合は決して少なくないというべきである。
(5)原告の主張に対する反論ア原告は,本願商標から「愛のための化粧品」などといった即物的な観念が生じる旨の主張をするが,そのような観念自体,一般的な言語表現によるものとはいえず,その具体的な意味すら明らかではないから,本願商標に接した需要者がそのような観念を直ちに想起することができるとはいえない。
イ原告は,本件アンケート1の結果を根拠に,需要者は本願商標の要部が「ラブ」の部分であると認識しない旨の主張をするが,同アンケートの結果は,その調査方法(単に記憶力を問うものであること)及び調査対象者(男性が含まれていないこと)に照らし,「ラブ」の部分が自他商品識別機能を有しないことの証左となるものではないし,本願商標が化粧品について使用された場合に常に一体のものとして認識され,本願商標と各引用商標との間に出所の混同が生じないことの根拠となるものでもない。
ウ原告は,「ラブ」等の語の次に他の語を結合させた登録商標(指定商品を化粧品とするもの)が多数に上ることを根拠に,化粧品の需要者は「ラブ」及びこれに付加された語から成る商標を一体として出所識別表示と認識するのが通常である旨の主張をするが,原告が挙げる各登録商標は,「ラブ」等以外の部分が化粧品の品質を表すのか用途を表すのか,商標全体の結合の態様はどのようなものかなど,各登録商標における個別具体的な事情を有するのであるから,原告が挙げる各登録商標の存在をもって,化粧品の需要者の上記認識の根拠となるものではない。
エさらに,原告は,本件アンケート2によると原告の商品を他社の商品と間違えて購入した需要者は皆無であったとして,実際の取引において,「ラブ」と「ラブコスメティック」との間に誤認混同が生じることはない旨の主張をするが,同アンケートは,対象とされた商品及び商標について,同アンケートに回答した者に限り,原告の商品を他社の商品と間違えて購入した需要者が皆無であったことを示すにすぎず,これにより,化粧品に係る取引者及び需要者にとって,「ラブ」と「ラブコスメティック」との間に誤認混同が生じないことの根拠となるものではない。
オ原告は,「コスメティック」の前に他の語を冠した商標が化粧品について一般に使用されていないから,本願商標の「コスメティック」の部分は需要者の注意をひくものでないとはいえないと主張するが,「コスメティック」の前に他の語を冠した語の使用事例が多数あることは,乙49等のウェブサイト上の情報及び乙75等の新聞情報のとおりである。
2類否判断について(1)称呼及び観念ア本願商標は,前記1のとおり,その構成全体が一体のものとしてのみ把握されるものではなく,「ラブ」の部分が独立して自他商品識別機能を果たし得るものであるから,同部分に相応して,本願商標からは,「ラブ」との称呼及び「愛」等の観念が生じるものである。
イ各引用商標からは,「LOVE」,「Love」又は「ラブ」の部分に相応して,「ラブ」との称呼及び「愛」等の観念が生じるものである。なお,引用商標3及び4については,文字を図形的に変形した部分を含むものの,その変形の程度は大きなものでないから,これにより独自の観念が生じるものではない。
(2)外観本願商標の「ラブ」の部分と,引用商標2,3及び5の各「ラブ」の部分とが,外観上近似した印象を与えるおそれがあることを否定することはできない。
(3)小括以上のとおり,本願商標及び各引用商標は,「ラブ」との称呼及び「愛」等の観念を共通にし,かつ,本願商標並びに引用商標2,3及び5は,外観においても,類似するとまではいえないものの,近似した印象を与えるものであるところ,本願商標及び各引用商標は,その称呼,観念及び外観によって需要者に与える印象,記憶,連想等を総合し全体的に観察すれば,指定商品である化粧品について使用された場合,出所の誤認混同を生じるおそれが十分にあるというべきであるから,本願商標は,各引用商標と類似する商標であるというべきである。
(4)原告の主張に対する反論原告は,本願商標及び各引用商標の外観の相違を正当に評価しなかった点において本件審決が誤りであると主張するが,本願商標及び各引用商標の指定商品である化粧品の分野において,商標の称呼及び観念よりも外観を重視して取引がされるとの特殊な事情があるとは認められないし,化粧品の中には比較的安価なものも含まれるから,商標の称呼及び観念のみによる取引(電話等による口頭の取引)がされることも否定することはできず,その他,そのような取引が全く行われていないなどの特殊な取引の実情があるものとも認められないから,称呼及び観念が共通することを理由に本願商標及び各引用商標が類似するものと判断することは,必ずしも不合理であるとはいえない。
3過去の登録事例について原告主張に係る特許庁が過去に商標登録を許した商標は,その構成等,それぞれ個別の事情を有するものであるから,本願商標と同一に論じることはできないものである。
第4当裁判所の判断1本願商標の一連一体性について商標は,その構成全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから,みだりに構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して類否判断をすることは許されないが,簡易,迅速を尊ぶ取引の実際において,各構成部分がそれらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は,常にその構成全体の名称によって称呼,観念されず,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,1個の商標から2個以上の称呼及び観念が生じることがあるのである(最高裁昭和37年(オ)第953号昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)から,以下,本願商標について,これを構成する「ラブ」の部分と「ラブコスメティック」の部分とが,それらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していない,と認められるか否か,すなわち,同商標の一連一体性について検討することとする。
(1)本願商標における自他商品識別力ア「コスメティック」の部分について本願商標の「コスメティック」の部分は,英語の「cosmetic」の発音に近い音を片仮名で表記した外来語である「コスメティック」の語から成るものである。
そして,証拠(乙2〜4,6〜13,15,16,55,123〜135)及び弁論の全趣旨によると,「コスメティック」の語は,化粧品の分野において,本件商標登録出願に係るもとの商標登録出願(以下「本件原出願」という。)の日である平成18年3月13日前から,化粧品を意味するものとして広く定着し,頻繁に使用されていることが認められる。
そうすると,そのような化粧品そのものを意味する「コスメティック」の語から成る部分(特段の図案化,記号化,着色等が施されていないもの)を含む商標が化粧品に使用された場合においては,取引者及び需要者にとって,「コスメティック」の部分のみから当該化粧品が何人の業務に係るものであるかを認識するのは不可能であるということができるから,本願商標の「コスメティック」の部分は,その指定商品との関係では,自他商品識別力を全く有しないものといわざるを得ない。
この点に関し,原告は,本願商標の「コスメティック」の部分が自他商品識別機能を果たさないとはいえないと主張するが,上記説示したとおりであって,その主張を採用することはできない。
イ「ラブ」の部分について原告は,本願商標の「ラブ」の部分につき,その自他商品識別機能は弱く,他の語と結合されることにより,これと一体のものとして自他商品識別機能を果たす場合が多いと主張する。
確かに,同部分は,英語の「love」の発音に近い音を片仮名で表記した外来語である「ラブ」の語から成るものであるところ,「ラブ」の語は,本件原出願日前から,我が国において,「愛」,「愛情」,「恋」,「恋愛」などを意味するもの(乙1参照)として一般に広く定着し,様々な分野で日常的に使用されてきた極めてありふれた外来語であることは,公知の事実である。
そうすると,そのような「ラブ」の語から成る部分(特段の図案化,記号化,着色等が施されていないもの)を含む商標が化粧品(本願商標及び各引用商標の指定商品)に使用された場合においても,取引者及び需要者にとって,「ラブ」の部分のみから当該化粧品が何人の業務に係るものであるかを認識するのは容易でないということができるから,本願商標の「ラブ」の部分が有する自他商品識別力は,それほど大きいものではないというべきである。
しかしながら,本願商標の「ラブ」の部分に自他商品識別力が全くないとまではいえないところ,そのような「ラブ」の語の次に,指定商品を化粧品とする限り,自他商品識別力が全くない「コスメティック」の語を結合させたにすぎない本願商標についてみれば,原告の主張するように本願商標が「ラブ」の部分と「コスメティック」の部分とを合わせた一体のものとして自他商品識別力が仮にあるとしても,それとは別に,少なくとも「ラブ」の部分のみが自他商品識別機能を発揮する場合があることを否定することはできないというべきである。
この点に関し,原告は,本件アンケート2の結果を援用して,原告の商品を他社の商品と間違えて購入した需要者は皆無であったと主張するが,甲10,甲25の1及び2並びに甲26に記載された同アンケートの内容及び結果は,本願商標について,少なくとも「ラブ」の部分が自他商品識別力を発揮する場合があるとの上記判断を左右するものではないというべきである。
(2)外観,称呼及び観念原告は,その外観,称呼及び観念のいずれの点からも,本願商標が一連一体のものであると主張するので,以下,原告主張の観点から重ねて検討する。
外観本願商標は,「ラブコスメティック」と片仮名表記した標準文字から成るもの,すなわち,同じ種類,書体,大きさ及び色の文字を同じ間隔で横一列に配して成るものであって,「ラブ」と「コスメティック」との間にスペースもなく,外観上まとまりよく構成されているものである。
しかしながら,いずれも外来語である「ラブ」及び「コスメティック」の我が国における定着度等(上記(1)参照。以下同じ。)に照らすと,取引者及び需要者は,本願商標が「ラブ」の語と「コスメティック」の語とから成るものと容易に理解することができるということができ,加えて,本願商標において自他商品識別力を有する部分(上記(1)参照。以下同じ。)をも併せ考慮すると,「ラブ」と「コスメティック」との間にスペースがないとしても,取引者及び需要者は,本願商標を「ラブ」の部分と「コスメティック」の部分とに分けて看取する場合が一般的であると認められ,原告の主張するように本願商標を常に「ラブコスメティック」全体として看取するとまでいうことはできない。
称呼「ラブコスメティック」の語は,促音を含めて8音であり,これを冗長でないということはできない。加えて,上記アのとおり,取引者及び需要者は,本願商標が「ラブ」の語と「コスメティック」の語とから成るものと容易に理解することができ,また,本願商標において自他商品識別力を有する部分をも併せ考慮すると,「ラブ」と「コスメティック」との間にスペースがないからといって,取引者及び需要者が,本願商標を「ラブコスメティック」と一息によどみなく称呼するとまでいうことはできず,「ラブ」と「コスメティック」とを区別して称呼しているのが一般的であると認められ,さらに,「ラブ」の部分のみを称呼して,「コスメティック」の部分を称呼するのを省略する場合があることも否定することはできない。
観念取引者及び需要者は,上記アのとおり,本願商標がその外観において「ラブ」の語と「コスメティック」の語とから成るものと容易に理解することができるところ,これらの語の我が国における定着度等や本願商標において自他商品識別力を有する部分にかんがみると,本願商標からは,「ラブ」の語から生じる観念及び「コスメティック」の語から生じる観念を単純に足し合わせた観念が生ずるにすぎず,そして,「コスメティック」の語から生じる観念が本願商標の指定商品である化粧品をいうにすぎない以上,それは,結局,「ラブ」の部分のみから「愛」等の観念を抱くのが一般的であるというにすぎない。
この点に関し,原告は,本願商標の全体から,「ラブ」と「コスメティック」の各語を単純に足し合わせたものとは異なる別の観念,例えば,「愛のための化粧品」などといった即物的な観念が新たに生じると主張し,その根拠として「媚薬,催淫剤」の意味を有する「love drug」との英熟語を挙げるが,当該英熟語又はその発音に基づく「ラブドラッグ」などの外来語が本件原出願の日前から我が国において一般に又は化粧品の分野において「媚薬」等を意味するものとして広く定着し,頻繁に使用されているものと認めるに足りる証拠はないし,「ラブ」及び「コスメティック」の各語の定着度等に照らすと,化粧品の分野において,「love drug」に上記のような意味があるとしても,「ラブコスメティック」にもそのような意味付けが当然に類推され,一連一体となった「ラブコスメティック」の語から常に上記の「愛のための化粧品」などといった観念が生じ,かつ,その反面において,「ラブ」の部分のみから「愛」等の観念が生じることがないとまでいうことはできない。
(3)小括以上のとおり,本願商標は,少なくとも「ラブ」の部分が自他商品識別機能を発揮し得る商標であるから,本願商標に接した取引者及び需要者において,「ラブ」の部分と「コスメティック」の部分とに分けて看取し,「ラブ」の部分のみを称呼し,同部分のみから「愛」等の観念を抱くのが一般的であって,本願商標を構成する「ラブ」の部分と「コスメティック」の部分とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほどに,不可分的に結合しているものとまでいうことはできず,したがって,原告の主張するように本願商標が常に一連一体性を有する1つの外観,称呼及び観念を生ずる商標とみることはできない。
この点に関し,原告は,本件アンケート1を援用して,本願商標に接した需要者は瞬時にこれを「ラブコスメティック」又は「ラブコスメ」と認識し,「ラブ」と認識することはないと主張するが,甲21に記載されたような手法による同アンケートの結果では,上記判断が左右されるものではない。
2本願商標と各引用商標との類否について本願商標については,原告の主張するようにその全体から「ラブコスメティック」の称呼及び「愛」等の観念と「化粧品」の観念とが結合した何らかの観念が仮に生じる余地があるとしても,少なくとも,上記1で説示したとおり,「ラブ」の部分のみに基づく「ラブ」の称呼及び「愛」等の観念が生じることは否定することができない。
そうすると,各引用商標のうち,片仮名で「ラブ」の語を表記した引用商標2についてみると,同商標と本願商標とは,称呼及び観念を同じくするものであるといわざるを得ないところ,両商標の外観の相違は,前者が,特段の図案化,記号化,着色等が施されていない一般的な字体で「ラブ」と片仮名表記するものであるのに対し,後者が,標準文字で「ラブコスメティック」と片仮名表記するものであるという程度にとどまるものであるから,そのような外観の相違を考慮してもなお,本願商標は,引用商標1及び3ないし5との類否について進んで検討するまでもなく,少なくとも引用商標2と類似する商標であると認めざるを得ない。
3本件審決の判断の当否上記2に加え,本願商標の指定商品が引用商標2のそれに包含されることからすると,結局,本願商標は,引用商標2と対比する限りにおいても,商標法4条1項11号に掲げる商標に該当するといえるから,これと同旨の本件審決の判断に誤りはないというべきである。
原告は,本願商標につき,外観,称呼及び観念において,「ラブ」の部分と「コスメティック」の部分とが一連一体のものとして結合していることを前提に,本件審決をるる非難するが,本願商標から「ラブ」の部分が「コスメティック」の部分から分離した称呼,観念が生ずることを否定し得ないことは既に説示したとおりである以上,本件審決に誤りがあるということはできない。けだし,本願商標を結合商標とみても,1個の結合商標から2個以上の称呼及び観念が生じる場合においては,当該結合商標の構成全体の名称によって生じる称呼及び観念が他人の商標のそれらと同一又は類似であるとはいえないとしても,当該名称の一部によって生じる称呼及び観念が他人の商標のそれらと類似するときは,両商標はなお類似するものと解するのが相当である(前掲最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決参照)からである。
なお,原告は,本願商標に係る商標登録出願を拒絶することは過去の商標登録の例との整合性を欠くとも主張するが,本願商標と異なる商標が過去に商標登録を受けた例があるとしても,これをもって本願商標につき商標登録をすべき理由とならないことはいうまでもないから,この点に関する原告の主張は失当といわざるを得ない。
4結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。
追加
(別紙)引用商標目録1登録番号:第2219231号商標権者:株式会社クラブコスメチツクス商標の構成:指定商品:平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表第4類「歯みがき,化粧品,香料類」登録出願日:昭和46年8月5日設定登録日:平成2年3月27日存続期間更新登録日:平成12年5月23日2登録番号:第2219232号商標権者:株式会社クラブコスメチツクス商標の構成:指定商品:同別表第4類「歯みがき,化粧品,香料類」登録出願日:昭和46年8月5日設定登録日:平成2年3月27日存続期間更新登録日:平成12年5月23日3登録番号:第2431617号商標権者:株式会社クラブコスメチツクス商標の構成:指定商品:同別表第4類「歯みがき,化粧品,香料類」登録出願日:昭和48年5月10日設定登録日:平成4年7月31日存続期間更新登録日:平成14年5月28日指定商品の書換登録日:平成16年3月3日書換登録後の指定商品:商標法施行令別表第3類「歯みがき,化粧品,香料類,薫料」,同別表第30類「食品香料(精油のものを除く。)」4登録番号:第4277280号商標権者:株式会社クラブコスメチックス商標の構成:指定商品:同別表第3類「歯みがき,化粧品,香料類」登録出願日:平成9年12月22日設定登録日:平成11年5月28日存続期間更新登録日:平成21年2月24日5登録番号:第4522976号商標権者:株式会社クラブコスメチックス商標の構成:指定商品:同別表第3類「歯みがき,化粧品,香料類」登録出願日:平成13年1月9日設定登録日:平成13年11月16日
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲